「この……浮気者ーー!!」 バッチーーンッ! 自分が引っ叩かれたわけではないのに、ティファは思わずギュッと目を瞑った。 ぅわ〜お!ティファ・ロックハートは飲み屋を営んでいる。 ファミリー向けでもあるセブンスヘブンではあるが、酒を出す店なのでどうしてもミッドガルの頃に営んでいた『セブンスヘブン』に似たような客層になっている。 だが、それでも世界屈指の復興の街、エッジでは毎日溢れるばかりの情報と人々が行き交う活気ある街だ、客層はミッドガルの頃よりもうんと『上品』といえるのではないだろうか? だが、だからと言って酔っ払いに絡まれることがないとか、子供達が心から安全に仕事を出来る環境に充分あるかというとそうではない。 (やっぱり…もうそろそろお店のメニューからお酒を外してみようかしら…) そう考えたことは1度や2度じゃないし相談も何度か行った。 だが、相談するたび、反対される。 誰に? クラウド…ではない。 子供達にだ。 「「 ティファ、お酒がメニューから無くなったら、きっとお客さん達がっかりするよ 」」 声を揃えてそう言うデンゼルとマリンを前に、ティファはどうしてメニューから酒を外そうかと思っているか、未だにちゃんと話していない。 子供達のために酒をなくそうと思っている…などと言ってみろ、尚ムキになって反対するに決まっているし、子供達の力を信じていない、と勘違いされる可能性が高い。 いくら子供達に『感謝している』『十分過ぎるほどやってもらっている』と言ったとしても、所詮とってつけた言い訳にしか聞こえないだろう…。 幼いなりに誇りを持って仕事を手伝ってくれていると感じるからこそ、ティファは絶対にその言葉を言えない。 だから、結局は酒がメニューから外れることは無いのだ。 勿論、子供達の反対だけが理由でメニューから無くならないのではなく、ティファ自身、この店から酒が無くなったら間違いなくブーイングがくると分かっているからだ。 店のことを考えると酒は欠かせない。 だが、その酒のせいで子供達に何かしらの危害が及ぶことになったら本末転倒だ。 この店は、家族を守るためのものなのだから…。 今のところ、ヒヤッとしたことはあるが大きな事故につながりそうなことはない。 ティファがいつもそう言ったことが起きないか、神経を張り巡らせていることと、ティファとクラウドの持つ『ジェノバ戦役の英雄』という肩書きを客自身が意識して、あまり羽目を外さないように気をつけているからだ。 だがまぁ、当然だが羽目を外さないように気をつけていても、酒に飲まれてしまう人間は世の中、珍しくもなんとも無い。 好まし客が好ましくない客へと変貌してしまった場合、ティファは可及的速やかにお引取り願っていた。 今のところ、彼女に敵う客はいない。 だから、ここ最近では子供達に絡んで困らせるような悪質な客はなりを潜めてくれているのだが…。 「うわ〜……」 「これが修羅場…ってやつだよねぇ…」 「「 初めて見たー…… 」」 口と目をポカーンと開けた子供達に、ティファは(しまった!)と思った。 まさか、こんな大人の事情をまざまざと見せ付けるような場面に遭遇させてしまうとは!! ティファのせいではないのに彼女は子供達への教育上、このような雰囲気になりそうだった際、適切な行動に移れなかった自身の失態だと、深い後悔に見舞われた。 しかし、ティファが騒ぎの元凶となっている客の異常な行動に予測出来なくても当然だ。 何しろ、まだこの元凶となっている『愛人』とその男は酒を口にしていないのだから。 そんな当たり前なことに気づかず、自分の意識の低さだと思ってしまう当たり、ティファの人の良さが表れている。 だが当然、ティファが色々と後悔していても修羅場が治まるわけではない。 むしろ…。 「何よ、この女!」「そっちこそ何よ!!」 1人の男性を挟んで熾烈な争いが勃発・継続し、ますますエスカレートする気配を急速に高めている。 この店の店主として、ティファは表情を厳しくした。 ―『他のお客様のご迷惑になりますから、お引取り下さい』― この一言を騒いでいる女性2人に言うために。 だが争っている二人の女性の間に割って入ろうとしたその瞬間…。 「私はこの人の婚約者なのよ!?」 「それがなによ!まだちゃんと結婚してないんだったら私にだってこの人の妻になる権利があるじゃない!」 はいっ!?!? 婚約者がいるのに、まだ自分にも結婚のチャンスがある!?!? 常識には無いやり取りにティファは出鼻を挫かれた。 そのせいで、割って入るタイミングを失ってしまう。 一方、無責任に高みの見物を決め込んでいる酒の回った客から口笛や囃し立てるような声が上がった。 素面に近い客は顔をしかめてそろそろと騒ぎの中心から離れようと席を移動している。 (もう…無責任なんだから) はやしたてる客に若干苛立ちを感じながらティファは再度口を開こうとしてハタ…と止まった。 言い争っている女性2人の間に立っているこの騒ぎの元凶中の元凶である青年に神経が向いたのだ。 元はと言えば、この青年が二股など卑劣なことをするから悪いのではないか。 それなのに、なんとも困り果てた顔をしながら頬から口元を片手で覆っているだけで女性2人をなんとかしようという気配がない。 口元を覆っているのは、先ほど『婚約者』だと言った女性に引っ叩かれたからだということは分かるのだが、その弱々しい姿が苛立たしく見える。 浮気をするにしてもちょっと酷すぎない? 結婚を約束している女性がいるのに…! これがもしもクラウドだったら…? …。 ……。 ティファはハッと我に返ると、不毛な想像を強制的に打ち切った。 この軽薄男と重ねるなど、クラウドに対する冒涜だ。 (ごめんなさい、クラウド) ティファは一瞬でもバカな想像をしてしまったことを、心の中で深く詫びた。 もしかしたらクラウドは荒野でくしゃみをしたかもしれない…。 と、そんなことはこの際どうでも良い。 とりあえず、このバカバカしい争いを何とかする方が先決だ。 「お客様、申し訳ありませんが他のお客様のご迷惑になりますので」 凛とした声で掴みかかろうとした2人の女性の間に無理矢理入る。 こういう時、ティファはザンガン流を習得していて良かった、と心から思った。 何しろ、一般の女性ではまずティファには敵わない。 この女性達も同様だった。 片手ずつでティファに動きを封じられ、ギラギラ光る目でティファを睨みつけるだけで手も足も出なくなった。 傍観していた客達がティファの鮮やかな手さばきにパチパチと軽い拍手と「お〜…」と感嘆の声を洩らした。 「ちょっと、痛いじゃないの!」 「そうよ、早く離してよ!!」 手と足が出せなくても口は出せるのか…。 ティファは一瞬とは言え、大人しくなった2人に、もしかしたらこのまま大人しく出て行ってくれるかと淡い期待を抱いていたのだが、見事に粉砕されてしまった。 なんとなくやるせない気持ちになりながらティファは手を離す。 すると女性達は一部始終をただ黙って見ていた『婚約者』『恋人』に我先に争うようにしてその腕にしがみついた。 「ねぇ、ちょっと酷いと思わない?こんなに跡が残るくらい掴まれたのよぉ」 「ねぇ、私もこんなに跡が…。酷いわこんなの…」 いきなり始まった『猫かぶり』。 ティファと客達はその移り身の速さに呆然とした。 一方、先ほどから黙って傍観者の1人になっていた男はと言うと…。 「「え…?」」 両腕にしなだれかかるような女性を邪険に振り払うと、真っ直ぐティファに顔を向けた。 振り払われるとは思っていなかったのだろう、呆気に取られる2人を尻目に、青年はひた…と、ティファだけを見た。 真摯なその瞳に、ティファは不覚にもドキッとする。 そこで、ようやくティファは青年が『浮気をしても仕方ない』と思われるくらいに整った容姿をしていたことに気がついた。 男はそのままゆっくりとティファに近寄った。 そして、ティファが何も言えないまま、突っ立っているとおもむろに手をそっと取り、まるで貴族が令嬢にするかのように優雅な身のこなしで片膝を就いた。 自然、自分を見上げる形になった青年の真摯な瞳に見つめられてティファは混乱した。 混乱しながらも、何故か胸がドキドキする。 手はまだ男に軽く添えられたままだ。 急激なその場の空気の変化に、客達もポカーンとしている。 男にしなだれかかっていた女2人も同感だ。 皆の注目を集めていることなど、全く気にしないのか、男はティファを見つめたまま…。 「本当に申し訳ありません。ボクの不注意でアナタにご迷惑を…」 落ち着いた声音。 真摯な態度。 そして、何よりもこの男が醸し出す高貴な雰囲気。 これはまさに、貴族がご令嬢をエスコートとかする時の状態では? とティファはオロオロしながらそう思った。 いや、もしかしたら本当にどこかの御曹司かもしれない。 彼が着ている服はかなり高級品だ。 とまぁ、そんなことをこの一瞬で想像させてしまうだけの存在感が彼にはあった。 (…女性2人が言い争うのもなんとなく分かるかも…) だが、勿論この青年に心惹かれるか?と問われると答えは簡単、『ノー』だ。 ティファはちょっぴりどぎまぎしながら青年の手から己の手を引っこ抜いた。 そしてあくまで店長としての威厳を保ちながらも客として失礼の無いようにそつなく出て行くように伝える。 青年は憂い顔で僅かに顔を俯けながら頷いた。 「確かに…。あなたの仰るとおりです」 殊勝なその態度にティファの胸がチクリ…と痛む。 だが、だからと言って『いえ、もう少し穏便に話しが進むのでしたらこのままここにいて頂いても…』とは言えない。 「ちょっと、その態度はないんじゃないの!?」 「サイテー!私達は客よ!?ちょっと騒いじゃったけど、お皿を割るとかそういうことしてないじゃない!」 などと、のたもう女性が2人、青年の後方に控えている。 デンゼルとマリンがますます呆気に取られて口をポカーン…と開けているのが視界の端に映り、『絶対に出て行ってもらう!』というティファの決意は固まる一方だった。 (こんなところをこれ以上子供達に見せたら、教育上良くないわ!) 女性客2人に、店長としてはっきりと『こんなに騒ぐ礼節の無い人は客じゃない』そう言おうとしたティファは、結局その言葉を口にすることはなかった。 優雅に片膝状態から立ち上がった青年が、いきり立つ女性2人に改めて向き直って外に出るよう強い口調で言いつけたからだ。 ピタリ。 喧々諤々(けんけんがくがく)状態だった2人がピタッ!と口を噤む。 客達から「「お〜…」」という感嘆の声が洩れた。 青年はまるで舞台の上の役者のように優雅すぎる身のこなしでティファを再度振り返って一礼した。 そうして、硬直した女性2人を置き去りにするように店から出て行った。 ドアノブに手をかけてほんの少しだけ立ち止まったのは引き止めて欲しかったからかもしれない。 だが、当たり前のように誰も引き止めず、青年は不自然とは言いがたいギリギリのタイミングでドアの向こうへと消えた。 ドアベルの音が店内に寒々しく響いた時、呪縛がとかれたかのように女性2人も慌てて青年の後を追って駆け出した。 騒々しいドアベルの音が店内にこだまして…消える。 「…なんか…」 「すごい人達だったね…」 いつの間にか両サイドにやって来ていたデンゼルとマリンに、ティファはまだなんとなく呆然としながら「そうね…」と短く応えただけだった。 それだけでその日は事なきを得た。 そう。 もう二度とこの人達はこないし、こういうことは起きないだろう、と思ってそれを疑わなかった。 これだけ派手にやらかしたのだから、恥ずかしくて二度と来店出来ないに違いない。 すっかり過去のこととしてこの日の出来事がティファと子供達の中で消えてしまうのに時間はかからなかった。 だが…。 * 「ティファ…」 マリンがなんとも言えない呆けた顔をしてティファに新聞を広げて見せたのは丁度3日後のことだった。 日頃からマリンは文字の読み書きと世情を知りたいと言う好奇心から新聞を読んでいる。 それはそれは、大人顔負けの博学振り。 デンゼルはそんなマリンから色々と小ネタを仕入れては友達と笑い合っているわけだが、今回のマリンと全く同じ顔をしてティファを見上げていた。 丁度、クラウドが夕方帰宅するということもあり、夕食に向けて朝から仕込みを…と忙しくもウキウキしながらキッチンに立っていたティファは、2人のその様子に眉を顰めながら紙面に目を走らせた。 「……え……?」 思わず洩れた疑問の声はいつものティファからは想像も出来ないほど低かった。 寄せられた眉間のしわが更に深みを増した。 思いっきり顔をしかめたティファに、デンゼルとマリンは笑わなかった。 同じように神妙とも言える顔つきでこっくりと頷く。 「「 なんか…信じられないんだけど… 」」 顔を顰めたまま動かなくなったティファにデンゼルとマリンはジッと見つめる。 「「 これ、本当じゃ……ないよね? 」」 だが、ティファは答えない。 そして、それこそがティファの答えだった。 デンゼルとマリンはチラリ、とアイコンタクトを取ると盛大な溜め息をついた。 同時に息を吹き返したようにティファの石化が解ける。 「な、なによこれーー!」 怒りに震える声が客のいない店内に響き渡った。 そうして、丁度ティファが叫び声を上げたその時。 別の大陸にいたクラウドも同じように「なんだこれ!」と目をむいていた。 手にしているのは朝刊。 クラウドが釘付けになっているのは三面記事の見出し。 【○○財閥御曹司、淡い恋破れる!?】 ○○財閥の御曹司は、かねてより意中の女性がいると社交界でひそかに囁かれていたが、その女性が誰なのか、知る者はいなかった。 だがこの日、当記者が偶然かねてより通っている店にて青年が愛を告げてる瞬間を激写した。 女性は誰もが知っている英雄であり、同じく英雄と恋仲にあることが既に公の事実となっている。 御曹司を親しく知っている友人は、 『あぁ、だから彼は今まで誰にも言えなかったんでしょうね。かなわぬ恋だと最初から分かっていたから…』 そう言って、辛そうに目を伏せた。 等々、色々と面白おかしく書いてある。 その記事の下には写真が載っていた。 セブンスヘブンの窓の外から撮影されたそれには、容姿端麗な青年がひざまずき、セブンスヘブンの店長の手を取っている姿があった。 戸惑ったような…、それでいてどこか怒ったような顔をしているティファと、対照的に悲しそうに…だがそれでも真っ直ぐ見つめている青年はたいそう絵になった…。 「………」 無言のままクラウドはマズイ朝食をほとんど手付かず状態で放り出すようにして宿を出た。 手にはクシャクシャになった新聞。 宿から拝借したそれをうっかり返却を忘れていることに気づかず、愛車に跨る。 バシッ! 小気味の良い音を立てて、新聞が荷台の中に叩きつけられた。 「……ぶっ潰す」 もしも聞く者がいたら卒倒しただろう殺気が満載に込められた声で呻いた。 が…。 ピリリリ…ピリリリ。 クラウドはイライラしながら携帯を取った。 * 「それで、ティファさんの方は彼のことを全く意識していなかったと?」 先ほどから言葉を変えながら同じ質問を繰り返してくる記者に、ティファは額に手を当てた。 うっかり殴ってしまいそうだ。 本当に殴ってしまったらこのひ弱そうな記者はミンチ肉になってしまうだろう…。 (我慢…、我慢よティファ!) 心の中で怒れる自分に言い聞かせる。 一方で、バカみたいな質問をバカ面で繰り返す記者1人くらい、完全犯罪でこの世から抹殺出来るではないか、と囁く悪魔な自分もいた。 何故こんな目に? そう思わずにはいられない。 お世辞にも『整った容姿』とは言いがたいこのひ弱な記者がカメラマンを連れていきなりやって来てからかれこれ15分。 15分くらい、と仰る方もおられるだろう。 だが、くだらない…、とりわけ不本意で腹立たしい質問を15分も繰り返されたら人間だれだって殺意の1つや2つは抱くのではないだろうか…? ティファが怒鳴らず、さりとて邪険に追い払ったりしないのは一重に子供達の存在ゆえだ。 『『 ティファ、頑張って! 』』 いきなり記者がやって来た時、子供達は何故か口を揃えてそう言った。 真剣な眼差しで真っ直ぐ見つめてくる愛しい子供達の願い。 一体、誰が無視できようか? いや、出来はしまい!! というわけで、ティファはかれこれバカみたいな質問に耐え続けている。 だが、それももう限界だ。 キッチンの中で中断されているクラウドのための夕食も再開したい。 というか、もうこの痩せっぽっちで陰湿な笑みを浮かべてへらへらしている男と、遠慮なくバシャバシャシャッターを切るカメラマンを蹴り飛ばしてしまいたい! 「何度も何度も…」 低い声音で震えながらティファはこぶしを握り締めた。 我慢の限界だ。 両脇でティファにしがみつくようにしていたデンゼルとマリンが身体を強張らせるのがダイレクトに伝わる。 だがティファの神経は焼ききれそうだった。 と…。 「ティファは俺以外の男に興味が無いから、その御曹司とやらの気持ちに気づかなくて当然だ」 聞きなれたテノールの声。 いつもとは違い、どこか芝居がかったその台詞。 ティファは怒りの捌け口が見事の逸れ、意識の全部が彼に向かうのを止められなかった。 「「「 クラウド! 」」」 勝手口から帰宅したのだろうクラウドが、斜に構えてカウンターの入り口に立っていた。 何故か片腕を不自然に背後に回している。 デンゼルとマリンが嬉しそうに立ち上がったが、何を思ったのかまたソファーに座りなおした。 視線はクラウドに向いたままだ。 キラキラと輝くその瞳には何か『力』を感じる。 ティファの気のせいだろうか? 「おお!あなたがクラウドさん!ジェノバ戦役の英雄のリーダーであられる!?」 記者が興奮気味に身を乗り出す。 カメラマンがせわしなくシャッターを切る。 その中、クラウドはなんとなくぎこちない動作でゆっくりとソファーに歩み寄った。 ティファはバクバクと心臓が激しく鼓動するのを意識しながら必死になって考えていた。 記者がここにいる理由をどう言ったら良いのだろう? もしかしたら、彼は誤解しているのでは? いやいや、でも…なんだかたった今、信じられないようなことを言わなかっただろうか? 空耳のような台詞を。 「ただいま、ティファ」 クラウドが言った言葉を正確に思い出そうとグルグル頭の中が回っていたティファに、クラウドが淡い笑みを浮かべて屈みこんだ。 視線が合う。 いつもなら…子供達に『ただいまのキス』をするのに…。 どこかでいつもらしくない彼を不思議に思いながら、その熱いまなざしに鼓動が跳ね上がる。 まるで蜂を胸で飼っているかのようだ。 鼓動の早さと大きさがクラウドにバレてしまわないだろうか? そんなバカみたいなことを考え、赤面する。 「ティファ、いつも一緒にいられなくてすまない…」 「え…?」 信じられない台詞をまたもや囁かれ、挙句の果てには後ろ手に隠していた花束を差し出され、ティファの目はまん丸になった。 記者がなにやら興奮しつつ「いつもこんな風にされているんですか!?」と言っているのがビックリして真っ白になっているティファの耳に異次元からの囁きのように聞こえた。 シャッターを切る音も、フラッシュもなにやら夢の中の世界のようだ。 そして、その夢の中の世界にいるかのようなティファの目には、目の前にいるクラウドも夢の中の住人のようだった。 淡く微笑む瞳に口元。 花束をそっと腕の中に抱かせてくれて、そのまますっぽりと包み込んでくれた馴染みのある温かい彼の腕。 「ティファ、いつも俺はティファのことを思ってる。ティファは?」 「え…?」 不意打ち過ぎるその問いかけ。 ビックリしてクラウドを見る。 至近距離で瞬く魔晄の瞳には、憂いが含まれていた。 整った顔(かんばせ)は、僅かにピンク色に染まっていて猛烈な色気を放っていた。 ティファの鼓動が二倍に跳ね上がる。 「ティファは…俺のことを想ってくれている?」 もう1度問われる。 甘いその声音。 ティファは言葉をなくしたまま、ただただクラウドを見つめるだけだった。 想っているに決まっている。 むしろ、自分の方こそが想っているのではないか? クラウドはいつも言葉少ない人だから、ヤキモチ1つ、焼いてくれたことがあるのかどうか…。 そう思っていたのに、まるでこれではクラウドの方こそが不安で不安で仕方なかった、と言うかのようではないか。 不安と憂いが混じったその表情に、ティファは胸が締め付けられるほどの歓喜と申し訳なさを感じた。 クラウドに不安を与えていただなんて…。 「あ……私は…」 必死になって口を開く。 だが何を言って良いのか分からない。 勿論、いつも想っている。 大好き。 アイシテル…。 どれも本当で、どれも物足りない言葉。 この気持ちをどう言葉で表したら? どの言葉も満足出来ない。 そう結論が出たティファは…。 「「「「 ぅわ〜お! 」」」」 ガッシャーン。 カメラマンがカメラを落とした音が響き、ティファは自分が人前で何をしてしまったのかようやく気づき、悲鳴を上げた。 * 『あのお金持ちの兄ちゃん、婚約者がいるのにアイジンと浮気した、って婚約者の人に引っ叩かれてたんだ』(デン) 『だから、あのお兄ちゃんがティファのことが好きってウソだと思うの』(マリ) 『え!?そうなの!?』(記者) 『『 うん 』』(デン・マリ) 『あ〜…そっかぁ…やっぱりなぁ…』(記者) 『『 ? 』』(デン・マリ) 『実はこのお坊ちゃま、ちょっと最近社交界で浮いててねぇ、多分売名行為だろうなぁ、って社の中でも噂になってたんだよ』(記者) 『『 そうなの? 』』(デン・マリ) 『あ〜、でも良いもの見せてもらったから来て良かったよ。もっとも、クラウドさんとティファさんには嫌われちゃっただろうけど』(記者) 『『 (本当はいい人なのかなぁ…、この記者さん) 』』(デン・マリ) 『でも、2人のラブシーン撮れなかったのは残念だった。また来たら撮れるかな?』(記者) 『『 (やっぱりダメだ、この人) 』』(デン・マリ) * 「ティファ…」 「……」 「その…俺は気にしないから」 「……」 「いや、ごめん言い方が悪かった…その……嬉しかったから…」 「………?」 「…だから…その……嬉しかったから…」 「…!……本当に…?」 「…本当だ」 「……でも…人前で……私ったら…」 「それを言うなら俺の方こそ…」 「あ……あの、そう言えばどうして花束?いつもは買ってこないじゃない…」 「いや…その…」 「…私には言えないこと?」 「っ!?いや、そんなことない、そんなことないから泣くな、泣かないでくれ!デンゼルとマリンに言われたんだ!」 「ヒック……へ?2人から?」 「そう!…その……俺も朝刊見て知ったんだ。それで……その……、新聞社に殴り込みしようかと……思って…」 「え!?殴り込みって」 「いや、だから!殴り込みしようと思ったんだけど丁度デンゼルとマリンから電話があったんだ。『これからきっと、マスコミが色々来るだろうからそのマスコミの前で誰も入る隙が無いってことを世間に広めるためにもティファに『メロメロ』なところを見せろ!って」 「///……メロメロって……///」 「う……、俺だって恥ずかしかったんだ。でも、『ここできっちりしておかないと、これから先ティファを利用しようとするバカがどんどん出てくるからビシーッとしておけ』って…」 「デンゼルとマリンが…?」 「そう!」 「…本当にあの子達ったら…」 「……はぁ…」 「そ、そうだったの…ごめんなさい、恥ずかしいことさせて…」 「…いや、そんなことは良いんだ。それに、嬉しいことをしてもらったし」 「///……」 「あ…そう言えば」 「…なに?」 「まだ言われてない」 「 ? 」 「ティファ」 「うん?」 「ただいま」 「あ!」 「…言ってくれないのか?」 「…えへへ…おかえりなさい」 「うん、ただいま」 チュ。 「も、もう!」 「誰もいないからな」 「う…そうだけど…」 「イヤだったか?」 「う……、意地悪」 「ハハ、いつものティファだ」 「クラウドもいつもの意地悪クラウドなんだから」 「そうだな、ティファ限定で…な」 「///……バカ」 「で結構」 『『 良かった、めでたしめでたしvv 』』(デン・マリ) 初めて「ぅわ〜お!」と口にしたデンゼルとマリンは、幸せそうに微笑みあう親代わりを影からコソッと見守り、ホッと胸を撫で下ろしたのでした。 ちゃんちゃん。 あとがき でたー!(何が?) はい、毎度毎度、アフォネタマナフィッシュ妄想劇場でした。 なんかね、こういうのを書くのが一番楽しいかも…゜+。(*´ ▽`)。+゜ バトルものも大好きですけど、なんにも心配なくてツラツラ〜ッと書けるバカ話し。 あ〜、楽しかった(うぉい!) こんな駄文でごめんなさい(脱兎) |