その日。 WRO支部であるエッジに、ある男が入隊希望の列に並んだ。 守りたいものがあるから「局長」 「……なんでしょう」 「俺が何を言いたいのかお分かりですよね?」 WROの局長という肩書きを持つリーブ・トゥエスティは、現在あるはずのない立場に追いやられ、冷や汗を流していた。 部下、年下という相手に対し、自分は上司で(しかもかなり上のランクに位置づけられる)しかも年上! 『まだまだひな鳥』的な存在でしかない相手に、こうも気まず〜い立場に追いやられるなど『あるはずのない立場』と言わずしてなんとする? だが、こうなってしまうだろうなぁ、という予測も実はちゃんとしていたりして、そうなってしまった場合の対応を1つ2つくらいは考えていて、しかもその1つ2つの対応に対し、青年がどういう風に返してくるか、そういうことまで先を読んでいたのだ。 そして、その先を読んだ結論はどのパターンを考えても結局1つしか結果として浮かび上がってこなくて、もうどうしようもなくなってしまったので、仕方なく『当たって砕けろ』的な投げやり感を抱いて当たってみたのだ。 だっていくら頭の中だけで先を読んでも、その結果、目の前で裏切って欲しかった予測が裏切られることなく、むしろ寸分違わずそっくりそのまま現実のものとなってしまったとしたとしても、もう何がどうしても彼にお願いするしかなかったんだからしょうがないではないか…。 気まずい沈黙が室内に緊張を孕んで横たわる。 その間も、目の前でぶら下がっている問題は微塵も良い方向へ転がってはいない。 むしろ、青年が納得する説明をまだ出来ていないため、険悪なムードはより濃密になっている。 まだ彼の年を半分しか生きていない青年が、漆黒の瞳に静かな怒りを込めて真っ直ぐに見つめてくる。 ゴクリ。 異様な緊張感がそんな青年からヒシヒシと目に見えない重圧を込めて自分に迫ってきている。 もう、明らかに『怒ってるんですよね、俺』と言われている。 リーブは(あ〜、やっぱり!)と自身の予測が裏切られなかったことにガッカリすると共に冷や汗をかきかき、と生唾を飲み込んだ。 (ここで睨みあっていても仕方ないですよねぇ…) 内心でそう自分に言い聞かせて気合を入れようとする。 だが、本当は『にらみ合い』にすらなっていないという事実に気づいていないということが、リーブの余裕の無さを証明しているのだが、本人は気づいていない。 リーブは一方的に睨みつけられているだけで、シュリを睨み返すことはおろか、視線を合わせることもママならない状態なのだ。 だが、その部分を認めてしまったら、何故か大切なものを失ってしまうような気がして、無理矢理『睨みあっている』=『まだかろうじて対等に張り合っている』と思い込もうとしている。 もうその部分でダメダメなのだが、幸か不幸か、彼とシュリ以外この部屋にはいないので、無様とも言えるリーブの冷や汗満載、完全に主導権をシュリに握られている姿は誰にも見られていないのだが…。 「シュリ、あのですね…」 「局長」 なんとか青年に『命令』すべくカラカラに乾いた舌に青年の名を乗せ、次の言葉を…と萎える心に気合を入れてみたのだが、やはりと言うべきかなんと言うべきか。 いつもなら敬意を持って自らの肩書きを呼ばれるのに、全くそのカケラほどもない冷たい声音に、折角用意した言葉がひゅ〜〜…とどこへやら飛んでいってしまった…。 そんなリーブにシュリは全く攻撃の手を緩めない。 漆黒の瞳を不遜に細め、上司としても年上としても相応しくない『不機嫌』オーラを満載にその端整な顔(かんばせ)に貼り付かせている。 「局長。俺は星の移ろい行く正確な姿をいち早く手にするためにWROへ入隊しました」 「え、えぇ…そうでしたね、ですが…」 「入隊したからには、自分の持っている全ての力を賭けて任務に当たるつもりです」 「えぇ…そりゃ勿論、キミの働きには大いに満足しているんだよ、でもね…」 「ですが、明らかに私情を挟まれたことには応対しかねます」 「いえ、ですがね…」 「今回の『任務』は明らかにWROの中佐という任務とは言いがたいですよね?」 「いえ、それがですね」 「言いがたいですよね」 「う…」 さして強い口調ではないが、ダメ出しのように繰り返されて返答に窮する。 ダメだ。 この青年に口先だけで渡り合おうなどと無謀なことだった。 そもそも、今回シュリがここまで意固地に(とリーブは思っている)拒否するにはそれなりに彼の言い分もまた分かるから分が悪い。 出来れば自分だってこんなことを青年に命じたくは無かった。 だが、今回の件ではどうしてもシュリ以外に適任がいなかったのだ。 いや、勿論WRO隊員は沢山いる。 シュリほど出世頭ではないにしても、それなりに優秀な隊員は粒ぞろいに揃っている。 だが、では何故シュリでないとダメなのか。 その理由は至って簡単。 他の適任と思われる隊員が全て現在別の任務に着いているからだ。 わざわざ星の各地で必死になって働き、あるいは闘っている彼らを呼び戻してまで今回の一件をシュリ以外の人間に当てようとは思わなかった。 というよりも思えなかった。 そんなことをしたら、それこそ『私情だ!!』となるではないか。 ならばどうする? 答えはどう考えても1つだけ。 強く拒否しようがどうしようが、シュリにお願いするしかないではないか。 リーブは不機嫌そのものの体(てい)で睨みつけるようにしてヒタ、と見つめる青年からウロウロと視線を彷徨わせた。 彷徨わせつつも、この不毛な会話にピリオドを打たないといけないことは分かっている。 シュリに打たせるわけにはいかない、自分こそがこの会話の主導権を取り戻し、ピリオドを打たなければならないのだ。 その確固たる信念がほんの少し、もうほとんど差が無いくらいの微妙な差で、リーブの信念がシュリの『不機嫌』を上回った。 「局長命令です、これはねシュリ」 最初に言っておくけど。 そう後付されるようにして一番最初に『局長命令』と釘を刺した。 眉根をギュッと寄せ、凄みをうんと利かせたシュリに、リーブは早口で一番最初に命じた命令内容を繰り返した。 「今回の一件ばかりは『私情だ』『人間が甘すぎる云々』などなど、なんと言われようが却下出来ません。キミがこの命令に応じてくれなければ、本部にいる女性隊員をこの任務に当てなくてはならない。もしくは、星の各地に散っている任務を遂行中の隊員を呼び戻すか…だ。今回の件に関して、適任者はシュリ、君を含めても極々少数なんだよ。頼むから聞き入れて欲しい」 最初は文字通り、虚勢を張りながらの命令口調だったが、最後にはいつものリーブの口調に戻っていた。 シュリはと言うと、女性隊員を今回の任務に当てるか、それとも各地で任務に着いている者を呼び戻すしかない、というその言葉を言われた時点で観念したらしい…。 ピクリ、と寄せた眉をひくつかせ、後は徐々にむっつりした表情となった。 邪険そのものだった雰囲気を和らげたのだ。 リーブは彼の心の機微を肌で感じ取った。 そして、こんな無茶な要求を引き受けてくれたシュリに心から感謝した。 そもそも、なにゆえシュリに応じてもらわなくてはならないのか理由は2つある。 それは、1つはリーブが多忙だということ。 何しろ巨大組織をまとめ上げ、星に敵する全てのものから守るために日々隊員達を練達しなくてはならないのだ。 そのためにはとにかく時間が要る。 ちなみに当然のことながら人も物も金も要る。 手ぶらでは何も出来ない。 幸いなことに、WRO組織は巨大大財閥がバックについている。 正確には財閥の御曹司が隊員にいるだけなのだが、実は財閥は投資もしてくれているのだ。 世間にも、そして隊員としてその命を預けている息子達にも内緒でのその行為は、子供達の自立の妨げになることを恐れるという親心からでもあり、世間に隠しているのは投資することが『売名行為』だと後ろ指されないためでもあり、世間の偏見から子供達を守りたいという親心であり、自分達も何か星のためにしたい、という純粋な人間としての気持ちからでもあった。 それらの複雑に絡み合った気持ちや状況をリーブは良く分かっていた。 だから、あえて公表しないし、ノーブル兄妹やバルト家の次男坊には教えていない。 とまぁ、話は逸れたがそういった裏事情があったりする。 そしてのもう1つの理由こそが、リーブがシュリに頼んでしまうしか方法がなかったと言うことに繋がるのだが…。 「本当なら俺じゃなくてノーブル軍曹が相応しいんでしょうね」 「ですから、今回はそういうわけにもいかないでしょう?」 「まぁ、そうですけど」 「大体、ラナ・ノーブル軍曹も現在他の任務に着いていますから。こんなことでわざわざアイシクルエリアから呼び戻すのは…ねぇ…」 「……はぁ」 「う…溜め息つかないで下さい」 「………了解しました」 (今の間がイヤだなぁ…) かくして、シュリの運命はこうして決まった。 * 「それで、キミは一体なにを目的としてWROへの入隊を希望しているんだ?」 「だから、言ってるだろ?俺みたいに優秀な男は世界広といえどそうはいないぜ」 先ほどから繰り返されるその押し問答に、シュリは隠すことなく盛大な溜め息を吐いた。 傍らではクラウドとティファが苦笑しつつ、青年隊員と『入隊希望の男』を見守っている。 口を差し挟む隙がない…というわけではない。 既にクラウドとティファが何度も入隊は無理だ、と諭してきた結果、何を言っても無駄だとさじを投げたからだ。 シュリと入隊希望者を代わる代わる視線を向けて、クラウドとティファはシュリがこの場を上手く取り繕ってくれるのを期待半分、もしかしたらダメかもしれないという不安半分で見つめていた。 対して、クラウドとティファの傍にはセブンスヘブンのマスコット的存在であるデンゼルとマリンが不機嫌そのものの表情で椅子に座っている。 こちらは完全に怒っていた。 クラウドとティファのこれまでの『説得』を入隊希望の男が居丈高な態度であしらってきたのを間近で見ていたので純粋に嫌っているのだ。 『『 シュリ(お)兄ちゃん、もっとキツク言ってやれば良いのに!! 』』 シュリの表情はいつもと変わらず冷たいのだが、口調が彼には似つかわしくなく……大人しい…。 デンゼルとマリンにはそれが歯がゆいし、入隊希望の男に対して余計腹が立つ。 『『 ダメなものはダメって諦めたら良いのに…!! 』』 イライライライラ。 苛立ちは募る一方だ。 本当なら、『『 いい加減にしろ!! 』』と怒鳴ってやりたい。 だが、そうしないのは一重にクラウドとティファの顔を潰さないためだ。 この傲岸不遜な男はジェノバ戦役の英雄と一目置かれているクラウドとティファの説得に対し、いや、実際はクラウドのみに対して真っ向から拒否をした。 いや、そんな可愛いものじゃない。 ―『WRO入隊の件はおたくらに関係ないだろ!?部外者は引っ込んでろ!』― ムッカ〜〜〜〜!! 思い出しただけで腸がグラグラと煮えたぎる。 ティファの説得にはデレデレした顔をしながら、のらりくらりとはぐらかして、結局結果は同じこと、『断固拒否』を貫き通したその態度! クラウドのこともティファと同じくらい大好きな子供達にとって、クラウドへの態度とティファへの態度が雲泥の差を見せ付けたこの入隊希望者は憎しみの対象以外の何ものでもない。 だが、必死に『『 我慢我慢 』』と自身に言い聞かせ、口を挟むことだけはしまい!と懸命に自身に言い聞かせている幼い子供達は、恐らくこの場にいる誰よりも忍耐力と分別があるだろう…。 「だ〜か〜ら!俺が入隊したらWROはもっとすんげ〜良い組織になるって言ってんだろ!?」 「…確かにキミの筆記試験の成績は素晴らしかった」 「だろ!」 「だけど、それだけでは入隊は許可出来ない。それは説明」 「あ〜、聞いたっつうの!くどいんだよ!」 言葉の最後を掻っ攫われてシュリは黙り込んだ。 対して目の前の男はその傲岸不遜な態度を強めていっている。 「だーっ!もう、ほんっとうにおたくら頭固いなぁ。そんなガチガチの考え方で本当にこの星に敵するあらゆる者達と闘えるわけ!?物事には柔軟性が必要なんだよ、柔軟性が!」 クラウドとティファがチラリ…と視線を交わした。 確かにあらゆる局面に遭遇する可能性のあるWROは柔軟性を欠いてはいけない。 入隊希望者の言うことも一理ある。 だが、だからと言ってこの男の入隊に賛成と言うわけではない。 むしろ、ここで折れてしまって入隊許可などということになれば、世の人達に示しがつかないだろう。 気遣わしげにシュリを見て、クラウドとティファはこっそり溜め息を吐いた。 まったく。 リーブもシュリに酷な命令を出したものだ、と思う。 そう思うと同時に、やはりシュリ以外にこの男の相手は出来ないだろうなぁ…とも思っていた。 いや、心当たりはもう少しいる。 まだ会ったことはないが素晴らしい頭脳の持ち主と謳われているシャルア・ルーイ女史。 彼女はその素晴らしい頭脳でもって、WROの科学班を力強く導いている。 リーブが彼女のことを話す時の様子から、本当に素晴らしい人物なのだと容易に想像できた。 だから、別にシュリでなくとも彼女に今回の任務を命じても良かったのでは?とも思うのだが、やはりそれはそれ、リーブもちゃんとそこら辺のことを考えた上でシュリを選んだのだろうと思う。 となると、クラウドとティファに出来ることは一つ。 見守ることだ…。 「キミにいくら柔軟性がない等々言われようが、キミの入隊は許可しない」 「だーーー!!この分からんちんが!!」 スパーッ!と切り捨てたシュリに、男がヒステリックに髪を掻き毟った。 そして、椅子の上で行儀悪く胡坐をかくと、(マリンとデンゼルは不快感も露に眉間にシワを寄せた)ふてぶてしい顔でセブンスヘブンに来た時から直立姿勢を保持しているシュリを見上げた。 「あのなぁ、俺様のどこがそんなに気に入らないわけ?俺様だからこそ出来る仕事が沢山あるだろうが!そこんところをもっと考えてみろよ。確かに俺は普通で考えたら入隊出来ないだろうさ。だけどな、常識だけで物事を測れないことがあるってアンタ、仮にも中佐って肩書き持ってんならそれくらい分かるだろ?あ、もしかしてそんなことも分かんないのか?かーっ!これだからWROはダメだっつってんだよ。やっぱ、俺様が入隊してやらないと近い将来、WROはダメになるな、こりゃ」 途中まではシュリへの侮蔑。 途中からはWRO全体への侮蔑と自分の過大評価。 デンゼルとマリンが思わず椅子から立ち上がりそうになったが、ぐっと堪えたのはシュリの表情が全く、微塵も揺らいでいなかったからだ。 むしろ、いつもセブンスヘブンに来てくれる時のような穏やかな雰囲気は微塵もなく、今もツンドラ地帯も真っ青の冷たいオーラを醸し出している。 子供達の沸騰しようとする頭が、シュリの発散するオーラによって冷却されているということに、皆は後で気がつくことになるのだが、もっぱら今は目の前のこのにくったらしい男へ意識が向かっている。 クラウドとティファは、勿論子供達の様子に気づいていたが、諌めたり宥めたりということは今のところ一切していない。 理由は、デンゼルとマリンに対して『諌(いさ)める』『宥(なだ)める』言葉をかけたりすると、今はシュリを標的としているが子供達へ移ってしまうかもしれないという危惧と、ただ単に入隊希望の男のあまりの態度に完全に呆気に取られていたということもある。 いやはやまったく、世の中広い。 まさかここまで自分のことを『すばらしい人間だ!』と堂々と胸を張って公言出来るとは…。 しかも、この歳で。 そう、彼が入隊するのに問題となっていることとは年齢なのだ。 「WROには18歳以上からの入隊しか認められない。もしくは、その年齢に達していなくともある分野で抜きん出ている者ならば入隊は可能だ」 「だろ!だからこそこの俺様が」 「キミの科学への知識は13歳という年齢から考えると非常に優れている。だが」 「ほらミロ!ちゃんとそこのところ分かってんなら、俺の入隊に一体なんの問題が」 鬼の首を取ったかのように勝利の笑みを浮かべた青年、いや、少年をシュリは冷たい眼差しのまま…。 「キミの科学の知識はWROのレベルには全く達していない。よって、WROへの入隊は許可しない」 ビシーッ!! まさに空気が音を立てて石化したような衝撃が走る。 その衝撃がこれっぽっちも冷めない僅かなタイムラグすら与えず、 「今のところ、WROでは高等レベルの知識を持たない人間を入隊させて教育しつつ、一人前の隊員に育てる方針もない。ゆえに、キミが入隊出来る可能性は現段階ではゼロだ」 ズバーーーンッ!!!! 少年は勿論だが、苦笑を浮かべて見守っていたクラウドとティファ、イライラしながらやきもきしていた子供達にまで雷に打たれたような衝撃に襲われた。 容赦の無い言葉の奔流。 だが、シュリはまだまだ終わらない。 ガビーンッ!という表情が最も相応しい表情で固まっている少年に、言葉の攻撃を続ける。 「キミの入隊動機にも問題がある。『守りたいものがある』から入隊するとのことだったが、キミの『守りたいもの』は『故郷を守るために少しでも役に立ちたい』という殊勝な文面だった。だが、あれは真っ赤なウソだってことくらいとっくに分かっている」 ピッツァアアアン!! 言い切られて少年はまたもや固まった。 もう石化を通り越してダイヤモンド並みの硬度を持っているのではないだろうか…。 「ウソだと言いたい気持ちは分かるが、大抵のことはすぐに分かる。キミが同じ村の女の子達の関心を集めるために壊れた村のトラックを皆の前で修理しようとしてうっかりガソリンに火がつきそうになったこととか、そのせいで母親に1週間おやつ抜きを言い渡されたこととかね。まだあるな。1週間おやつ抜きにされたことが悔しくて仕方なかったキミは、同じ村の子供達と『知識比べ』をしてその子達からカステラ、アイス、チョコレート、ガムに飴にグミをせしめた。どう考えてもキミに敵うはずない相手を挑発してね」 「そして、それがまた母親と父親にバレて、今度はお尻百叩きの刑にあって今でもお尻に『しこり』が残ってる」 少年は真っ赤になって、次いで真っ青になった。 真っ赤になったのは羞恥心のため。 真っ青になったのは誰にも言っていないのにシュリが言い当てたため。 どう考えても、『お尻にしこり』が残っていることなど、両親でさえも知らないのだから他人が知るはずが無い。 だから、シュリが故郷の人達から聞きだすことなど不可能だ。 真っ青になってガチガチに固まった少年にシュリは絶対零度の視線をスーッと細めた。 まるで獲物に止めを刺そうとしている獣のようだ…。 「そして『この力』が俺が年齢に満たないのに入隊出来た理由だ」 「WROへの入隊理由は自分を認めてくれない周りの人間への存在誇示。そんな者を入隊させてみろ、WROをかさに着て我が物顔で世の人達に振舞うとんでもない隊員になりかねない」 「真剣に取り組んでいるほかの隊員達にとっても、星に生きる人達にとっても甚だ迷惑」 「よって、その可能性の高い者を入隊させるわけにはいかない」 「むしろキミの場合、学力はあるのだから将来学校を作ればいい」 「ワンマンな性格だからな、経営者には向いていても、雇われ人には向いていないだろう」 「キミの『守りたいもの』とはキミの自尊心だけだ」 ズバズバズバズバッ!! 言葉の刃でズタボロにする。 イライラしていた子供達でさえ、そのあまりの攻撃には少年に少し同情してしまったほどだ。 少年は椅子の上で胡坐をかいたまま固まって動かない。 もしかしたら目を開けたまま失神しているのかもしれない…。 (シュリ…)(クラ) (いくらなんでも…)(ティ) (( 言い過ぎなんじゃ… ))(デンマリ) セブンスヘブンの住人は、こうして青年の新たな一面を垣間見てしまい、暫く悶々と悩むこととなったのだった。 * 「いやぁ…本当にシュリ、申し訳ありませんでした」 「そう思うなら、暫く俺にはまっとうな任務だけを回してください。今回のような件は金輪際ごめんこうむります」 隊に戻ったシュリをリーブは申し訳なさそうにしながらも上機嫌で出迎えた。 「それにしても、あの坊やを大人しく村に帰すことが出来るとは、流石シュリですね。クラウドさんとティファさんがびっくりしていましたよ」 …そりゃあ、びっくりもするだろう…。 シュリはそう思ったが、結局黙ったまま差し出されたコーヒーカップを無言で受け取り、口をつけた。 妙にいつも以上に苦い気がした。 「はぁ、本当にそれにしても坊やにも困ったものです。少し頭が良いからといって村の子供達を見下した態度ばかり取るから今じゃあすっかり四面楚歌ですよ。私の遠縁だからと言って『俺はWROの科学班に入隊するんだ!』とか『俺のばあちゃんがWROの局長の子供時代、育てたんだ』とか『だからWROの局長は俺の言うことなら大概なんでも聞いてくれるんだ』とかとか、言いたい放題に言い放ってエッジに単身やって来たと聞いた時は失神しそうでしたよ」 やれやれ。 そう言って溜め息をつきながらリーブも一口コーヒーを啜る。 シュリは無言のままコーヒーを飲み続けた。 「それにしても…」 リーブがまだ何か言い足りないのか、黙々とコーヒーを啜っているシュリに向けてなのか、それとも独り言なのか判別出来ない口調で言葉を続ける。 「入隊を拒否した時の坊やの行動にはびっくりしましたね。まさか三日三晩、座り込んで飲まず食わずを貫くとは…。そんな根性があったんだなぁ、と妙に感心しちゃいましたよ。いやいや、話が逸れましたけどたまたまやって来たクラウドさんがびっくりしてセブンスヘブンで介抱してくれたのは良かったのですが、本当にねぇ、あれじゃあ『WROは小さな子供を虐待するのか!』って世間で騒がれてしまうところでしたねぇ」 なら、とっとと強制的に村に送り帰したら良かったのに…。 そう思ったがシュリは口にしない。 きっと、それくらいはリーブも考えたはずなのだから。 シュリの心の声が聞こえたのではないだろうが、リーブは苦笑しつつ黙ったままむっつり顔のシュリを見た。 「あの子、本当にキカン坊でねぇ。完膚なきまでに思い知らないと強制送還したところでまた家出するのは目に見えていましたからね」 …だからって俺に少年の弱点を星に聞いて高くなっている鼻っ柱を折ってしまえと命令するってどうなわけ? 俺のこと、局長は一体どういう風に見てるんだか…。 まぁ、局長の『完膚なきまでに思い知らせることが出来る』人間だと評している部分はあながち外れてもいないけど…。 心の中でそっと嘆息する。 リーブはとにかく、なんとか問題が丸く(?)収まったので晴れ晴れとした表情でコーヒーを飲みきった。 「なにはともあれ本当に安心しました。これで暫くは大人しくしているでしょう。それにしても、本当にどうして従兄弟の従兄弟の子供というだけの親族でここまで苦労しなくてはならないのでしょうねぇ…」 はっはっは。 笑いながらリーブはシュリの肩をポン、と叩いて食堂から出て行った。 取り残された感のあるまま、シュリはとっくに飲み終わっていたコーヒーをゴミ箱に放り込むと、食堂を後にした。 なんとなく、気分が冴えないのは気のせいだろうか…? 「…あれくらい良しとするか……」 呟いて気持ちを切り替える。 思えば今回自分はただ悪役になっただけ。 それだけで無事に任務が済んだ。 13歳にして既に女タラシという少年。 その少年から女性隊員達の盾となるべく交渉(?)に当たり、命の危険など全くなく、怪我すら負っていない。 まぁ、多少は心が痛まないでも……ないかもしれないが…。 「さて…仕事だ」 自分自身に向けて呟くと、若き中佐は凛と目を前へと向けて歩き出した。 あとがき お久しぶりのシュリでした。 はい、なんとなく命のやり取りの無い話しを彼で書いてみたかったんです(笑) |