「う~み~!!」
「うわ~!!すっご~い!!」
 白い砂浜に、子供達の歓声が上がった。



女神とナイトと群がる虫と




「ほら、あんまり遠くへ行くな。迷子になるぞ」
「「は~い!!」」
 クラウドが苦笑交じりに呼びかけると、子供達はくるりと踊る様な足取りで振り向いた。
 その姿に、ティファはニコニコと微笑み、クラウドも頬を緩ませた。

 今、四人は南国のコスタに来ている。
 いや、性格には四人+三人+一頭だ。

「お~、さっすがに常夏の島だねぇ!お日様の高いことったら!!」
「うぇ~、オイラ、やっぱり駄目かも…」
「ナナキ、お前やっぱきついんじゃねぇのか…」
「ユフィも相変わらず強引ったらありゃしねぇよな…」
「あ~ん?何か言った?この中年コンビ!!」
「「誰が中年だ!!」」

 可愛い子供達の姿とは打って変わって、何とも心が荒んでしまう様なやりとりに、クラウドとティファは同時に溜め息を吐いた。

 ウータイのお元気娘が突如、嵐の如くにセブンスヘブンを訪れたのは、今から約四時間前…。
 いつもの様に、ヘトヘトのナナキを足元に従え、元気一杯にセブンスヘブンのドアをノックもなく押し開けると、挨拶もそこそこに唖然とするクラウド達へ「今からコスタに行くよ!!」と、指を立てて宣言した。

『今からコスタに行こう!!』
 ではなく、
『今からコスタに行くよ!!』
 なのだから、いつもながらの突拍子も無い彼女の言動に慣れているとは言え、流石のクラウドとティファも動揺しきりだった。
 しかし、そんな二人に全く構う事無く、デンゼルとマリンに散々楽しいプランを語り、子供達をすっかりその気にさせてしまったのだから、今更「考えさせてくれ」とも言えなかった。
 更には、クラウドの仕事が三日間程入っていなかったという事もあり、急遽、このドタバタツアーに参加する羽目になったのだった。
 最も、クラウドとティファは、この三日間をどうやって子供達と過ごすか検討中であったので、この話しは『渡りに船』の様なものだったのだが、それをこのお元気娘に一言でも言えば、後々厄介になる事が目に見えている為、黙ってこのツアーに参加するのであった。

「ティ~ファ~!マリンも~!ホラ、早く着替えに行こうよ!!」
 ブンブンと大きく手を振るユフィは、マリンよりも幼く見える。
 ティファは苦笑しつつ、クラウドに微笑みかけるとマリンの手を取り、宿へ向かって走って行った。
 クラウドは、ビーチパラソルをバレットと一緒に組み立てながら、三人の後姿を見送り溜め息を吐いた。
「どうしたのさ、クラウド?」
 既に水着に着替えているデンゼルが不思議そうに覗き込む。
「あ、ああ、いや。相変わらず元気だな…と思ってな…」
「ああ、全くだ。あいつが俺様の所に来たのがまた五時ジャストなんだぜ!?全くたまんねぇよな…」
「……という事は、ナナキの所にはいつ行ったんだ…?」
「………ま、あんまり考えたくねぇな…」
「…同感だ…」

「「「はぁ…」」」
 同時に溜め息を吐く大人三人に、デンゼルはただキョトンとするだけだった。

「なぁなぁ、クラウド!俺、泳ぎに行っても良い?」
 打ち寄せる波にすっかり魅了されたデンゼルが、ウズウズとクラウドに声をかける。
「ああ、少し待て。ティファとマリンがもうすぐ来るだろうから一緒に行った方が良い。これだけ人がいるからな。はぐれたりしたら本当に迷子になるぞ」
「え?でも、ティファとマリンならあそこにいるけど…」
「え?」

 デンゼルの指差す方へ視線を移すと、そこにはワインレッドのワンピースの水着を着たティファと、肩から胸元にかけてフリルの着いたピンクのワンピースの水着を着たマリンが立っていた。
 そして、その周りには……。

「おい、あれって親子連れじゃねえのかよ…」
「うおー!?俺の可愛いマリンが!!」
「………」
 何と、マリンくらいの男の子を連れた男性が、ニヤニヤしながらティファに話しかけている。
 そして、男の子の方は、父親と同じ様な顔でマリンに話しかけていた。

「「「…………」」」

 ありえない!!
 親子揃って、同じく子供連れの女性をナンパするだなんてありえない!!!

「……あれってありなわけか…?」
「……普通ならなしだろうなぁ…」
「お前ら!可愛いマリンの大ピンチなんだぞ!!そんなに落ち着いてるんじゃねぇよ!!」
 げんなりするクラウドと、同じく呆れかえるシドに対し、バレットが興奮しきりに怒鳴り散らした。
 そして、声をかける間もなく、猛然と可愛いわが子のところへ駆け出した。

「……気の毒にな…」
「…まぁ、自業自得だと思ぜ…」
 二人の視線の先では、バレットに殴り飛ばされそうになってティファとマリンが慌てて止めに入ってくれている隙に、腰を抜かしながらも転がるように逃げ出した親子の哀れな姿があった。
「なぁ。何でバレットってあんなに怒ってるんだ?道とか聞いてるだけじゃなかったの?」
「ああ、デンゼル。お前はそのままでいろよ?頼むから、親子連れをナンパする様な非常識な大人にはならないでくれ…」
「え!?あれってナンパしてたの!?」
 びっくりして目を丸くするデンゼルを、クラウドは苦笑しながら頭を撫でた。

「もう、父ちゃんッたら!あんな事したら駄目でしょ!?」
「うう、そう言うがなマリン…」
「まぁまぁ、マリン。バレットが来てくれたから助かった様なものだし…」
 プンプン怒るマリンに、すっかりしょげ返ったバレット、その二人に苦笑を浮かべるティファがクラウド達のところまでやって来た。
「なぁ、マリン?あいつらって、本当にナンパだったの?」
 デンゼルが心配そうに訊ねる。
 マリンは、プンプン怒った顔からちょっと困った表情になると、「う~ん、どうなんだろうね、ティファ?」と、ティファを見上げた。
 ティファも困ったような顔をしたが、チラッとクラウドを窺い見ると、苦笑した。
「ナンパ…かな?『僕達と一緒に食事に行きませんか?』って言われたから…。でも、親子連れのナンパだなんて、私初めてだわ」
「……俺も今まで聞いた事無いな…」
 呆れきった顔をするクラウドに、ティファは意外そうな顔をした。
「ん?なんだ?」
「え!?う、ううん、別に…」
「バッカだなぁ、クラウド!クラウドが妬いてないのが、ティファには不満なんだよ!!」
「ユ、ユフィ!?」
 いつの間にやら、カキ氷と焼きとうもろこしと焼きそばを持ったユフィが呆れた顔をしてパラソルの影でへたり込んでいるナナキの傍に立っていた。

「大体さ、アンタ何でナンパされてる時に助けに行かなかったのさ!?」
「あ…それは…」
 焼きとうもろこしにかぶりつきながら冷たい視線を投げつけるユフィに、クラウドは初めてハッと気付いたらしい。
 やや慌ててティファに向き直る。
「す、すまない。あんまりにも非常識なナンパだったから、呆れてしまって…」
 クラウドの慌てぶりに、それまでちょっぴり傷ついた様な顔をしていたティファは、たちまち笑顔を取り戻した。
「ううん、良いの!気にしないで」
「それにしても、本当に似た者親子だったな…。って言うかユフィ!お前、自分ばっか食ってんじゃねぇよ!俺たちの分はどうしたんだ!?」
「ん?これ?これは私の戦利品なんだよ~」
「戦利品?」
 不思議そうに繰り返すデンゼルに、ユフィはニッと笑うと胸を反らした。
「そ!そこらへんのバカ共が、私に奢ってくれたってわけ!」
「………あ~、要するにナンパされて奢らせるだけ奢らせておいて、トンズラしたんだね、ユフィ…」
「ご名答!やるじゃん、ナナキ!正解したから、カキ氷あげるよ」
 グッタリしながら答えたナナキに、ユフィは元気一杯ガッツポーズをして見せた。
 そして、ナナキの目の前にカキ氷のカップを置いてやる。
 暑さにやられていたナナキは、隻眼をパッチリと開け、「ありがとう!」と素直に喜んだ。

 そんなユフィとナナキに、デンゼルとマリンは尊敬の眼差し、大人達は揃って苦笑した。
「流石ウータイ出身の忍びね。姿をくらますのは得意中の得意ってわけ…」
「奢らせるだけ奢らせておいて…って言うのがまた何ともユフィらしい…」
「けっ!ちゃっかりしてやがる」
「かー!こんなチンクシャをナンパするバカがいるって言う事実に、俺様は開いた口が塞がらねぇよ!!」
「そこ、うるさいよ!それに何なのさ、中年オヤジコンビ!!この色っぽい水着姿の乙女に向かってなんて言い草なのさ!!」
「「誰が中年オヤジだ!!」」

 確かに、ティファやマリンの水着姿が視線を釘付けにするのは当然なのだが、ユフィもユフィで、体にフィットしたワンピースのひまわりの水着は大変良く似合う。
 これで、口さえ開かなければ…と言ったところか…。
 しかし、元気一杯に笑い、クルクルと良く変わる表情、そして溢れるパワーを持つユフィは、白い砂浜を獲物を求めて彷徨っているナンパ野郎共には魅力的だろう…。

 まぁ、狙った獲物が悪かった…って奴だな…。

 クラウドはそっと胸の中で呟いた。
 そして、改めてティファを見つめる。
 ユフィにはない、大人の魅力に溢れた彼女の水着姿は、何とも言えず、心臓に悪い。
 シンプルなワンピース姿だが、当然背中はかなり開いており、胸元もV字にカットされていて、彼女の抜群のプロポーションを惜しみなく表している。
 そんな彼女に、クラウドはほんのりと頬を染めると、泳ぎに行きたいとせがむデンゼルとマリンを連れ、海へと向かった。
「あ、クラウド待って!私も行くわ!」
 海へと向かうクラウド達に、ティファが慌てて声をかけた。
 振り返ると、一生懸命日焼け止めを塗っている彼女が見える。
「海に入ったら日焼け止め、流れるんじゃないのか?」
 日焼け止めを塗っている彼女の姿も、また何とも言えず艶やかで……。
 クラウドは更に顔を赤らめながら、それとバレない様にそっと顔を逸らす。
「うん、でも大丈夫。これってあんまり水に溶けないんだって。それにこまめに塗るようにするから…。はい、お待たせ!ユフィはどうす…て、もういないわ…」
 パラソルの中には、真昼間だと言うのに既に宴会モードの中年オヤジと、暑さの為、グッタリしているナナキしかいなかった。
 ナナキの前には、既に空になったカキ氷のカップが転がっている。
「全く、あいつは落ち着きと言うものがないな…」
「でもさ、クラウド。しおらしいユフィって、気持ち悪くない?」
 デンゼルの一言で、クラウドとティファは爆笑した。
 マリンもくすくすと笑い、嬉しそうにティファと手を繋ぐ。
「デンゼルの言う通りだな。さ、折角海に来たんだ。目一杯楽しまないとな!」
「「うん!」」
 声を合わせて顔を輝かせる子供達に、クラウドとティファはニッコリと微笑み合った。



「あれ?クラウド、ティファは?」
 しばらく海に入って楽しく過ごしていたデンゼルが、ふと顔を上げてクラウドに声を掛けた。
 クラウドは、デンゼルとマリンの摑まっている浮き輪を両手に持って、少し沖の方まで泳いでいた。子供達に、波の動きを楽しませてやる為だ。
「ん?あれ、そう言えば…」
 さっきまで、自分と一緒にマリンの浮き輪を持って沖の方まで泳いでいた彼女の姿が見えない。
 そう言えば、さっき彼女の「キャッ!」という声を聞いた気がする。

 もしかして…!!

 クラウドとデンゼル、マリンはサーッと青ざめた。
 既に海の底には足が届かない所まで来ている。
 もし足が攣っておぼれでもしていたら…!?

 クラウドは危うく子供達の浮き輪を手放して探しに行ってしまいそうになった。
 しかし…。

「あ!ティファ発見!!」
「なに!?」
「あー!本当だ!!」
 デンゼルの指差す方を見ると、そこには確かに愛しい彼女の姿があった。
 ホッとしたのも束の間。
 彼女の周りには……。

「あれって、ゴムボート…?」
「…そうだね」
「…………」

 何と、二隻のゴムボートが彼女の周りを旋回しており、そのいずれにも若い男性が数人ずつ乗っているではないか!?
 どの顔も、デレデレとしまりがなく、しきりに何かを言っている。

 ……どうせ、ろくでもない事だろう…。

 クラウドはその光景にムスッとしながら、デンゼルとマリンの浮き輪を持って、彼女の元へと泳ぎだした。

「あ!クラウド!!」
「どこに行ったのかと思って心配したぞ…」
 クラウドの姿に、ホッとした顔をする彼女に、クラウドはぶっきらぼうに答えた。
「本当だよ、すっごく心配したんだぞ!」
「ごめんなさいね、デンゼル、マリンも」
「どうしたの、ティファ?」
 周囲を取り囲むようにして旋回するゴムボートを警戒しつつ、子供達が声をかける。
「あ、うん…それがね…」

 言い淀むティファに、ボートの男達が口を挟んだ。
「おー!そこの女の子も可愛いじゃん!」
「どう?俺達のボートに一緒に乗らない?浮き輪よりも楽しいよ!」
「そっちの男の子も良かったら是非!」
「あ~、でもそっちの彼氏は浮き輪で十分かな?」
 ケラケラと、馬鹿にしたように笑う男達に、子供達はキッと睨みつけ、ティファは顔をしかめた。
 そして、クラウドは…。

「「「「「ヒッ!!」」」」」

 ボートの男達が息を飲む。
 クラウドは無言でただ、紺碧の双眸に殺気を宿し、睨みつけた。
 その突き刺さる殺意を宿した視線に、並みの男が平常心を保てるはずもなく……。

 ボッチャーーン!!!

 蛇ににらまれた蛙よろしく、体が硬直した男達は、哀れにもゴムボートから海へとダイブした。

「行くぞ…」
 海に落ちた男達を助けるなどという偽善的な行為など当然するはずもなく、そのままクラウドはデンゼルとマリンの摑まっている浮き輪を持って浜へ向けて泳ぎだした。
 ティファも、デンゼルとマリンも、落ちた男達の事など微塵も心配せず、にっこりと微笑んでそれに従うのであった。



「お!帰って来た、帰って来た!!」
「おう、帰ったか~」
「おお、マリン!水着姿も可愛いぞ~!」

 パラソルに戻ると、そこにはすっかりできあがったバレットと、シド、そして、元気一杯のユフィが缶ビールを片手にご満悦で待っていた。
「うわ!どんだけ飲んだんだよ~!」
「父ちゃん!体に悪いでしょ!?」
「もう、折角海に来たのにこれじゃあ、いつもと変わらないじゃない!」
「……相変わらずだな……」
 ビニールシートの上には、缶ビールの空き缶と、焼きそばやお好み焼き、カキ氷のカップ等が、ゴミの山として積み上げられていた。
 ナナキは、カキ氷のお陰で来た時よりも若干元気なようだ。
 隻眼をうっすら開いて、クラウド達に微笑んでいる。

「これ、ビール以外は全部ユフィの戦利品なんだよ、すごいでしょ!?」
「「「「え!?」」」」
 ナナキの言葉にクラウドとティファはギョッとしてゴミの山を見た。
 デンゼルとマリンは、キラキラと目を輝かせる。
「これって、焼きそばとか、お好み焼きとか、カキ氷とか、とうもろこしとか食べ物全部の事!?」
「その通り!どう?凄いでしょ!?」
「「凄い、凄い!!」」
 子供達は大はしゃぎで、ユフィの差し出したとうもろこしの戦利品を齧る。
「美味しい~!」
「ユフィって凄いじゃん!!」
「ふふん、まぁね~!私にかかれば、これくらいちょろいもんよ!」

 胸を反らすユフィに、クラウドとティファはただひたすら目を瞠る。
「どうやってこれだけ貢がせたんだ…?」
 呆れながらビニールシートの上に座るクラウドに、ユフィはお好み焼きを手渡すと、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ…少しは見直した?ティファだけが女じゃないんだよ!ただ、黙って浜辺を歩いてたら向こうから寄ってくるんだ~!」
「……それで、奢ってもらって逃げて来たの?」
 呆然としながらクラウドの隣に腰を下ろすティファに、焼きそばを差し出して親指を立てる。
「もち!当然っしょ!」
「「……………」」
「ま。ユフィのお陰でこっちはつまみを買わずに済んだんだけどな」
 呆れかえるクラウドとティファを尻目に、シドが「カカカ…!!」と笑った。

「それにしてもさ~…」
「?」
 ユフィが酒の為か、少々顔を赤らめてティファに耳打ちをする。
「ティファがいたら、絶対にもっと良い物を奢ってもらえるのに、金髪の番犬君がいるからそれが出来ないんだよね~。もう、物凄く勿体無い!!」
「え!?」
 顔を真っ赤にさせるティファに、ユフィはニヤニヤと笑って見せた。
「だってさ~。さっきから隣のパラソルの男共がジーっとティファの事、見てるんだ~。金持ってそうなのになぁ。勿体な~い!」
「も、もう、ユフィ!!」
 顔を赤らめてもじもじするティファを、ユフィはからかいながらも嬉しそうに目を細めた。
 そして、「うんうん!」と頷くと、立ち上がり、う~ん!、と伸びをした。
「ユフィ、どうした?」
 クラウドが不思議そうな顔をする。
 ユフィは、満足そうな笑みを浮かべると、「べっつに~!」と踊るような足取りで海に向かって走り出した。
「お、おい!お前、酒飲んだんだから、海に入るのはマズイぞ!」
 慌てるクラウドに、ユフィはくるりと振り返ると、「チッチッチッ」と指を立てて振って見せる。
 そして、そのまま波打ち際に沿って歩き出した。

「なぁ、ユフィ、どこに行くの?」
 泳ぎに行くなら俺も行く~!
 そう言うデンゼルに、ティファが「泳ぎに行くんじゃないみたいだけど…」と、心配そうな声を出した。
 ユフィの後姿を見て、ナナキが顔を上げた。
 そして、再び前足に顔を埋めると「ああ、大丈夫だよ」と呟くように言った。
「「「「?」」」」
 首を傾げる四人に、バレットがウトウトしながら大欠伸をする。
「あ~、あいつまた獲物を探しに行ったのか…」
「え!?」
「ああやって、バカな男共にナンパされて、奢らせるんだ。あ~、俺様は今度はイカ焼きが食いてぇな」
「「「「……………」」」」

 天晴れとしか言いようの無いユフィの行動に、クラウドとティファは顔を見合わせて苦笑した。

 そして、戻ったユフィの手には、お好み焼き、イカ焼き、焼きとうもろこしにカキ氷が抱えられていたのだった。



 その日の晩。
 一行はコスタの宿に泊まった。
 ティファ、マリン、ユフィの三人と、クラウド、デンゼル、ナナキの二人と一頭、そしてバレット、シドの二人組みという部屋割りだった。
 就寝前、昼間の遊び疲れで早々に眠りに落ちたデンゼルをベッドに運ぶクラウドに、ナナキが嬉しそうに言った。

「クラウド、もう本当に大丈夫みたいだね…」
「ん?」
 デンゼルにシーツをかけてやりながら、クラウドが不思議そうな顔をする。
 そんなクラウドに、ナナキは更に嬉しそうに鼻をヒクヒクさせながら、口を開いた。
「本当はユフィと心配してたんだ。クラウドは幸せになる事に臆病だからって…。でも、今日、ティファ達と幸せそうに笑うクラウドを見て、ユフィもすっごく嬉しそうだったんだよ」
「………そうか」
 そっとナナキのそばに行き、椅子に腰を下ろす。
「皆には心配かけたな…。本当にすまなかったと思ってる」
「良いんだよ、今が幸せそうだからさ」
 ナナキの毛並みを撫でながら、微笑むクラウドに、ナナキは嬉しそうに目を閉じた。
 そしてそのまま、眠りに落ちていった。


「それにしても、今日のユフィは凄かったわね」
 マリンをベッドに寝かしつけたティファが、ユフィに向かい合って腰を下ろした。
「へへ~。少しは女の子だって認めてくれる~?」
 嬉しそうに笑うユフィに、ティファはニッコリと微笑んだ。
「私はいつだって、ユフィは心の優しい女の子だって思ってるわよ?」
「お!?本当に!?」
「勿論。今日だって、クラウドの様子を心配してくれてたんでしょ?」
 目を丸くするユフィに、ティファが優しい声音で言う。
 ユフィは、ほんのりと顔を赤らめると、フイッと顔をそらしながら「まぁ、仲間だもんね。それに、アイツったら、良い大人の癖して妙に子供っぽいからさ~」と、ボソボソこぼした。
「うん。ありがとう。本当に嬉しいよ」
 嬉しそうに目を細めるティファに、ユフィはチラリと視線を戻し、照れたように笑った。
「あ~あ、それにしても本当に勿体無いよね~!」
「何が?」
 キョトンとするティファに、ユフィはいつもの悪戯っぽい眼差しで笑うと、テーブルに頬杖を着いて身を乗り出した。
「だ~か~ら!海でのティファ!金髪の番犬君がいなかったら、もっと美味しい思いが出来たのにさ~!」
「もう!ユフィ!!」
「はいはい」
 からかうように手を振ると、ユフィは更にニヤッと笑う。
「知ってた?ティファに声を掛けようと男共が近づこうとする度に、クラウドがティファの事呼んでたって!」
「え!?」
 声を上げるティファに、ユフィは面白そうに笑った。
「本当だよ?まぁ、クラウドも多分そんなに意識して呼んでたわけじゃないみたいだけどさ。絶対にアイツったら、ティファが片時でも傍にいないと不安なんだよ」
「…………」
 顔を真っ赤に染め上げて俯くティファに、ユフィは「お~お~、熱いねぇ!さ!もう遅いから寝ようっと!」と言うと、本当にサッサとベッドに潜り込んだ。

 ティファは、そんなお元気娘を優しい目で見つめると、「ありがとう、ユフィ」と一言呟き、自分もベッドに潜り込んだ。


 きっと、明日もコスタは良い天気。
 明日も、子供達と大切な仲間、そして愛しい人と共に過ごせる幸福を思いながら、ティファはゆっくりと眠りに身を委ねたのだった。





あとがき

題名とズレた気がしますが、まぁ気にしないで…(おい!)
はい、実はユフィはもてるのでは!?という思いから出来た作品です。
だって、ユフィも案だけ可愛いんですよ!?もてるでしょう!?
そして、ちゃっかり奢ってもらって逃げるんです(笑)
そんなちゃっかり者のユフィが大好きです!!

お付き合い下さり、有難うございました!!