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「聞いて!アタシ、信じられないくらい素敵な出会いをしたの~!今度こそ…、今度こそアタシの運命の人なのよぉ!!」

 呼んでもいないのに舞い込んできた迷惑な台風に、私の平穏な休日は朝食の準備を終えただけで終わりを告げた。






身近にある運命







「もうね、もうね~!すっごくすっごく素敵なの~~!」

 勧めてもいないのに1人暮らしの私の朝食を口いっぱいに頬張りながら身悶える親友に、諦めのため息をつく。
 あ、こんにちは、初めまして。
 私はエッジに住む独身、彼氏ナシ、真っ黒い髪を一本にくくった黒縁めがねを愛用する23歳の地味な女。
 名前は……。
 …。
 まぁ、私のことはどうでもいいわね。
 問題はこの目の前で『運命の人に出会った』とほざく私の親友。
 …あら、私としたことが汚い言葉を…。
 これでも、WRO科学班に身を置く者。
 ゆえに、仕事ではないオフの時間であろうと気を抜くことは許されないわ。
 え?
 WROの規律がそんなに厳しいのかと?
 いいえ、断じて違います、そうじゃありませんから。
 この私のプライドが許さないの。
 WROは私が敬愛して止まないリーブ局長が率いておられる世界一の素晴らしい組織。
 その組織の人間としてあるまじき言動はWROを、ひいてはリーブ局長を汚してしまう結果になってしまう。
 そのような隊員もちらほらと目立つ昨今、私までもがそのような嘆かわしい人間になるなど言語道断!
 ですから常に己を律し、WROの人間として相応しい行動と生活を…。

「ちょっと、アンタ聞いてるの!?」
「……ごめんなさい、ちょっと任務のことを考えてた」

 うっかりトリップしてしまったわ。
 本当にダメね、ちょっと考え事をしただけで親友の言葉が聞こえなくなるだなんて。
 あのシャルア博士のようにいつかはWROの科学班の一翼としてリーブ局長のお役に立たなくてはならないのに、こんなことではまだまだ全然だわ。
 親友は、
「は~~、まぁアンタが人の話の途中で違う星に旅立つなんて珍しくないけどさ~、それにしても酷いんじゃない!?親友が待ちに待った、憧れて恋焦がれてようやっと廻ってきた運命の人との出会いという感動秘話を右から左にストレートに聞き流すなんて~!」
 と、言葉の羅列だけ立派で意味は絶対に分かってないと証明することをそれこそ『立て板に水』の勢いで口にし、わざとらしくため息をついて嘆いて見せた。
 なにが感動秘話なわけ?
 思いっきりだだ漏れに話してるじゃない…。
 そのまま秘密のお話しにしててもらって全然構わない…、いいえ、むしろ自分の胸に秘めたまま墓場まで持って行って頂戴。
 それに何よりも、厚かましくもようやっとやって来た休日の朝7時に押しかけてきて、貴重な食材で作った朝食を断りも無く当然のように頬張るアンタにそこまで言われる筋合いも、嘆かれるいわれもないんですけど?

 実に腹立たしい…。

「それで、その運命の人とやらとの出会いはなに?」

 このまま拗ねられても後が面倒。
 どうせ出会いとやらはたいした事はないのでしょうけど…。
 仕方ないから話の水を向けてみると、身を乗り出して目を輝かせた。
 う…、ちょっとそんなに顔つき出さないで、気持ち悪いから。

「もうね、もうね~!それこそ、映画やドラマに登場するヒーローだったわ~!!」

 目の中に星を輝かせながらうっとりとする親友に、私は半目を向けながらかろうじて残っていた朝食のベーコンエッグ半分を引き寄せた。

「アタシがね、仕事で湿地帯をトラックで走ってたら、ミッドガル……なんだったかしら、バカでかい蛇に襲われたのよぉ!もう絶対に死んだ!って思ったわ~」

 ミドガルズオルムのことね。
 相変わらず自分の興味がないことには適当なんだから…。
 それにしても、この親友の探究心にだけは感心してしまう。
 ミドガルズオルムが生息している湿地帯に危険を冒してまでトラックで出向いた、ということは、親友が経営しているアクセサリーショップ関係のはず。
 親友はちょっと無鉄砲で周りの空気が読めなくて困った人種なんだけど、ことファッション、とりわけアクセサリーに関しては並々ならぬ熱意を持っている。
 その熱意は欠点だらけのはずなのに親友として認めてしまう強力な魅力を放っていた。

 …とまぁ、そんなこともどうでもいいわね。

「それで、その絶体絶命のピンチに駆けつけてくれたヒーローはどこの人?」

 半分以上減ってしまっているコーヒーを口に運びながら訊ねると、親友はギンッ!と私を睨み……、いいえ、違うわね、目力をめいっぱい込めて私を見た。

「このエッジの人なの!もう、まさに運命としか言えないわ~!!」

 両手を握りしめて天井を仰ぐ親友に私は「そう」と口の中で小さく返した。
 きっと聞こえていない。
 1人感極まっている親友を半目で見ながらテーブルの上に置いていた朝刊を手に取った。

 ま、そういうことだと思ったわ。

 チョコボファーム近郊での事件なのだから、その近辺に住む人だと考えるのが妥当だし。
 私の関心は、親友の『エッジの人』という言葉で完全に失せてしまった。
 失せた…というか、むしろ親友を体よく追い払いたくなった。
 この後に続く言葉、別に頭が悪くても容易に想像が出来てしまう…。
 そんな面倒なことに巻き込まれるのはごめんだわ。

「ね、だから」
「お断りだわ」

 全部を聞かないでバッサリ切って捨てる。
 目は完全に朝刊の文字を追う。
 グレーの紙面に踊るニュースの方が私にとっては必要なことよ。

「ちょっと、それが親友に対する態度なわけ!?」

 バサッ!!

 苛立った親友が新聞を取り上げる。
 …なんて乱暴な。

「アンタ!親友の恋路を応援するって言う人として高尚な行為に興味は無いわけ!?」
「そういうアナタは親友が世情に置いてかれてもかまわないと?」
「当然よ!そんなもんよりもアタシの恋路を応援する方が重要でしょ!?」


「アタシの人生がかかってるのよぉ~~!!」


 十中八九、そう答えると思ったわ。
 流石、私の親友の中でも一番のKY(空気読めない人間)。
 見事に自分中心、世界は自分を軸に回っているって信じて疑わない自己中人間ね。
 拳を握り締め、思いっきりそう言い切った親友に私はため息を吐いた。
 分かってたわよ、アナタが1人暮らしの女の家に朝から押しかけ、作ったばかりの朝食を勝手に食べて熱く語りだした時からこうなるだろうってことは。
 ついでに逃げられないことも分かってたわ…認めるのは本当にイヤだけど…。

「それで、その意中の人はどこにいるの?」

 貴重な休日を諦め、食後のデザートに…と用意していたヨーグルトを口に運びながら訊ねる。
 親友はパッと顔を輝かせると、
「恩に着るわ~!流石はアタシの一番の親友よぉ~!!」
 テーブルの向こうから身を乗り出して思いっきりハグをしてきた。
 そのせいでヨーグルトが親友のシャツにベッタリ付いてしまったけど、それは私のせいじゃないわよね?

「あーーーー!!アタシのお気に入りのカットソーが~!!¥3000ギルもしたのに~!!」(*ポーション1個50ギル、エーテル1個1500ギル)

 親友の叫び声を聞きながら私は腰を上げた。
 何故にシャツごときに¥3000ギルも使うのか…。
 きっと親友とは一生かかっても分かり合えないことの1つでしょうね。
 私は諦めのため息を吐くと気持ちを入れ替えた。

 そうして。

「…なにここ?」

 お気に入りとかいうカットソー(『シャツ』で充分だと思うけど、ちゃんと言わないと拗ねるからね)を汚してしまった!と1度親友宅に寄ってから連れて来られた一軒のお店。
 どう見ても……居酒屋っていうか、お酒も出る飲食店。

 なぁに?運命の人とやらは飲食関係の人?

 てっきり、その運命の人とやらの自宅前とかに連れて来られるんだと思ってたから少し驚いたけど、さして興味も湧いてこないその佇まいを前に少し戸惑う。
 親友は私の様子になんか完全に『アウトオブ眼中』。
 胸に両手を押し当て、大きな息を繰り返している。
 完全に『恋する乙女』。
 私はそんな親友をチラッとだけ流し見ると一歩踏み出した。

「ぐえっ!!」

 思いっきり襟首を引っ掴まれて喉が絞まる。
 一瞬、お花畑が見えた気がしたんだけど!?
 去年死んだおばあちゃんが大きな川の向こうで手を振ってたわよ!?!?

「おバカ!このお店は夜からなのよ!」

 私をあと少しで三途の川の向こうに渡そうとした恐ろしい奴が『信じられない!』と言わんばかりの非難の眼差しで顔をズズイッ!と寄せてきた。
 なら最初からそう言ってよね!?
 て言うか、そんな時間からの営業ならどうして朝一番に私を強襲するのよ!!

「今日、ダーリンはお仕事がお休みなの!」

 親友の目の中に無数の星がきらめいているのを私は見た。
 一体どうやってそんなことを調べたわけ!?
 と言うよりも…。
 あぁ…どこまでこの悪友は私を巻き込むのかしら。


 *


「どう、どう!?アタシの運命の人は!!」
「……」

 物陰に隠れ、前をゆったりとした足取りで歩く金髪の男の人。
 両手にぶら下がるようにして小さい男の子と女の子がその人にじゃれている。
 パッと見たら、その姿は仲の良い親子以外の何者でもない。
 勿論、父親はちょっと若すぎるけど。

「…アナタね、好きになる範囲が広いのは知ってたけど、妻子持ちはいくらなんでも無節操すぎるわよ」
「おバカ!違うわよ、ダーリンの子どもじゃないわよ!!」

 親友として一応諌めようと思ったんだけど、途端に頭をはたかれた。
 痛いでしょう!?
 アンタ、本当にいい加減にしなさいよ!?!?
 通り過ぎる人たちが怪しいものを見る目でチラチラ通り過ぎていく。
 うぅ…ほんっとうに私、友達選ばないとダメよね…。

 私が不幸な目にあっている間も、そんなことお構いナシに親友の言う『運命のダーリン』は幸せ家族大計画のような姿を見せてくれていた。
 子供たちが立ち並ぶ店の軒下に走り出すとその後をのんびりした歩調でついていく。
 ふわふわな髪をした男の子が嬉しそうにショーウィンドウを指差すと、それを覗き込みながら顎に指を添えて考える素振りをする。
 かと思うと女の子に服の裾を引っ張られてそっちを見ると、大きなバスケットに色とりどりの花を詰めた花売りが明るい呼び声を上げていたり…。
 うん、本当にイイ感じの親子だわ。
 嬉しくてたまらないと言わんばかりの子供たちに合わせた歩調。
 優しい面差し。
 ニコニコ笑っているわけではないんだけど、彼の醸し出している雰囲気がとても温かい。
 ふと気づくと、そんな彼に見惚れているのは親友だけではなく、道行く女性たちの中にもいた。
 チラチラ視線を送っている人や、ともすれば彼と一定の距離を保ちながら歩いている人、中にはわざわざもと来た道を戻っている人までいる。
 …うん、確かに素敵だと思うわ。
 これは親友が惚れてしまうのも無理は無いかもしれない。
 見た目カッコ良くて、自分がピンチの時に助けてもらったら、そりゃあ『惚れて下さい』って言われているようなもんだもの。
 でも、残念ながら恋のために盲目となっている親友とは違って、私には『カッコイイ人』と認めても『惹かれる』とは違うからこそ見えるものがあった。

 どう考えてもこの人、恋人がいるわ。

 ん?なんでそんなことが分かるのかって?
 だって、さっきから子供たちに引っ張られて立ち寄るお店の中で、若い女性が好みそうな物を取り扱っている店舗とそうでない店舗では、興味の示し方が違うんだから。
 あれは、絶対に想い人への贈り物を考えている目だわ。
 それに、ただ見ているだけじゃなくて実際に何品か購入までしている。
 さっきのバスケットの花売りさんからもしっかりバラとカスミソウの花束とか買ってたし。
 それだけじゃなくてジュエリーショップの前に差し掛かったとき、それまでは子供たちが手を引いて止まるお店にしか足を止めなかったのに、その店だけは自分から進んで寄って行って、食い入るように見つめていたしね。

 …それなのに、どうして親友はそのことに気づかないのかしら…。

 ある意味、幸せな思考を持ち、素敵な観察眼を持っている親友にこっそりため息を吐いた。
 これは確実に『失恋自棄酒コース』に引きずり込まれるパターンだわ……。
 ヤダなぁ…。

 と、内心で嘆いている間も親友のストーカー行為につき合わされ、、気がついたら私たちは先ほどの店、セブンスヘブンの前に戻っていた。
 そして夜。

 私と悪友はセブンスヘブンの店舗内にいた。
 いつもよりも早めに開店することにした、という店主のお陰で外で立ちっぱなし状態から覚悟していたよりもうんと早く開放されて本当に御の字だわ。
 私は初めてこの店に着たんだけど、同僚からは何度か聞いたことがあったことを席に着いてから思い出した。
 店主が若い女性でとても美味しいお料理をリーズナブルに提供してくれる素敵なお店だって話だった。
 話の通り、この店の女店主はとても若くて明るくて美人でナイスバディーな人だった。
 うわ~…なんか同性として羨むべきなんだろうけど、なんかあまりにも違いすぎて感嘆のため息しか出てこないわ。
 でも、まぁなんというか悪友にとっては恋敵なわけで…、羨望とか賞賛とかそういう気分にはこれっぽっちもなれないのも無理からぬことかもね。
 でも…。

「あの…お客様、ご注文ですか?」
「あ~ら、このお店ではいちいち呼ばないと来てくれないのかしら」
「申し訳ございません。お決まりでしたらお願いします」

 値踏みするほどジロジロ見たかと思うと、次は穴が開きそうなほどジーッと見る。
 たまりかねて店主が声をかけると途端に嫌味を口にして…。
 本当にいい加減にしなさいよ!?

「本当にごめんなさい。この子は気にしないで下さい、ちょっとおかしいんですよ頭が。残念な子なんです」
「ちょーーっとーー!!アンタ、それでも親友!?」
「本当にすいません、放っといて平気ですから」

 猛然と抗議する悪友の頭を思いっきり叩くと、目を見開いて硬直している店主さんにカシスソーダと生ビール、それとおススメを注文した。
 引き攣った笑いを浮かべてそそくさとカウンターに戻る店主さんの背中を見送る私に、親友が地の底から這い出る亡者のような声でなにやらぶつぶつ言っていた。
 けど、もういい加減、今日1日のストレスが我慢の臨界点に達そうとしている私にとって、それは全く、なんの効力も持たないただの『雑音』。

「アンタ…わけの分からないことをするのもいい加減にしなさいよ?」

 目に殺気を込めて睨みつけると悪友はグッと言葉を飲み込んでシュン…と小さくなった。

 ったく!
 そのままずっと小さくなってなさい!

 そうこうしている間に、お店にはどんどんお客さんがやって来た。
 それに伴い、店が忙しくなる。
 店主さん1人で仕事はちょっと無理じゃないかしら?と他人事ながら心配になってきた頃、カウンターの隣にあったドアから子供たちがひょっこり顔を出した。
 そして、慣れた動作でエプロンを身に着けるとニコニコしながら接客を始めてしまった。
 …え?……えぇええ!?
 いいの、あんな小さい子供たちを働かせて!?
 そ、そりゃあ、『家族営業』だなんて珍しくとも何とも無いけど、お酒も出るし夜の仕事だし、他のお客さんから苦情とかあるんじゃないの?
 などなどビックリしたけど、子供たちが働くことはこの店では普通のことだとすぐに分かった。

「まったく…あんな小さい子供たちを働かせるだなんて、あの女、人畜無害な顔をしてやることは非人間よ、悪魔よ、情婦よ!」

 …本当にいい加減、この馬鹿者をなんとかしないと…と思ったけど、何故か親友のギリギリと悔しそうな顔が一変した。
 目をキラキラさせ、恋する乙女モードにあっという間に入った悪友に、まさか…と振り返る。
 …まさか…だった。

 水色のエプロンを身に着けているのは、親友自称の運命の人。

 へぇ、親友からの情報だと荷物の配達が仕事ってことだったけど、配達のお仕事が無い日はこうしてお手伝いするのね。
 中々素敵じゃない。
 周りのテーブルの客たちも、彼のエプロン姿に色めき立つ人たちが結構いた。
 悪友だけじゃない…か、彼を狙っているのは。

 決して愛想は良くないけど一生懸命接客している姿は子どもたちよりもうんと初々しい。
 いい大人が初々しいってどう?とか思うかもしれないけど、何故か彼の場合は初々しいって言葉がバッチリ合う。
 なんかこう、母性本能がくすぐられる…とでもいうのかしらね。
 女性客のみならず、男性客からも温かい目で見守られている。

「クラウド、あちらのテーブルにこれ、お願いできる?」
「あぁ、分かった」
「それから、帰って来るときに向こうのテーブルのお客様に新しいお飲み物のご注文はどうされるか聞いてくれる?」
「あぁ…あっちだな?」
「うん、そう。ごめんね?」
「謝るなよ。それよりもデンゼルやマリンみたいに動けなくて悪い…」
「もう、クラウドこそ謝らないでよ。こうして手伝ってくれるだけで本当に助かってるんだから」
「…もう少し動けたらそうかもしれないけどな」
「ふふ、バカね、謙虚なんだから」
「ティファが持ち上げすぎなだけだって」

 …わ~、ストロベリータイムだ~。しかも生放送。
 途端、親友の夢見がちな表情が一変、恐ろしいまでの形相になる。

 その後も、ダーリンと恋敵が無自覚に淡いピンクオーラを発するたびに悪友は視線だけで呪い殺せそうな目で睨みつけていた。
 同じテーブルに座っている私はと言うと、もう何を言っても無駄なので黙って女店長さんの手作り料理にひたすら舌鼓を打っていた。
 いえね、これがまた美味しいの。
 クラウド…だっけ?彼が羨ましいわね。
 こんな美味しい料理を作れる美人で性格良し!な女性が恋人で。
 あ、もしかしたらフィアンセくらいにはなってるかもしれないけど。

 そうして…。

「あ~、お腹いっぱい、ご馳走様でした」

 私の前には綺麗に食べつくした皿とグラス。
 満足満足、大満足!今日の不幸が報われたわね。

「なぁにがお腹いっぱい…よ」

 恨めしげにお箸の先をガジガジ噛みながら悪友が唸った。
 ふん、バカね。
 恋敵が作ったものなんか食べれるか~!って食べなかったアンタが悪いのよ。
 こんなに美味しいのに勿体無い意地の張り方しちゃって。

「それにね、あの女の作ったものよりもアンタが作ったご飯の方がうんと美味しいわよ」
「は?」

 …なんか微かに褒められた気がしたけど気のせいね。
 全く、ドッキリさせないでよ。

「まぁなんだって良いわ。もう帰るわよ、私。明日からまた仕事で次の休みがいつなのか分からないんだから今夜はしっかり休んでおきたいの」
 席を立つ私に「うわっ!この薄情者!!」と悪友が詰ったけど、貴重な休日を丸々1日、潰してまで付き合ったこの私に向かってなんてことを言うのかしらね、恩を仇で返す言葉じゃない?
 思わずムッとして文句が出そうになったけど頭を1つ振ってレジに向かった。
 もう何を言っても無駄だわ、こいつには。

「ありがとうございました。お口に合いましたか?」

 勘定をお願いするとティファさんが小首を傾げながら綺麗な笑顔を向けてくれた。
 おお~、ビューティフル♪
 同性だけど、これだけ綺麗だと目の保養だわ。

 ギルを手渡して振り返ると、真後ろにいた誰かにぶつかった。
 とか思ったら、悪友が仏頂面で私を見下ろしてる。

「アンタ、本当に薄情ね!奢らせなさいよ、ここの食事代くらい!」

 なんでアンタ切れてるわけ?
 はぁ、もう良いわ。こういう奴なのよ、わけの分からない思考の持ち主なのよね、アンタは。
 とか思いつつ、とりあえずこれ以上他のお客さんの見世物になるのは御免だから…と、店を出ようと悪友の背中に軽く手を添えた。

 と…。

「ちょっと良いか」

 ドアを一歩出たところでふいに響いたテノールの声。
 ビックリして振り返ると悪友のハートを一目で奪った男が店から洩れる明かりを背景に立っていた。
 親友がそれこそ音を立てて身体ごと振り返る。
 ゆっくりと近寄られて、クラウドさんの眉間にシワが寄っているのが初めて分かった。
 あ~、機嫌悪そう…。
 対して親友はもう、生きたまま天国の階段を登っている真っ最中。
 対照的だわね…本当に。
 それにしても引き止めてまでなんの用かしら?
 あ…もしかして感じの悪い客だったから『2度と来るな』って言われるわけ?
 あ~…ほんっとうにもう、このトラブルメーカーめ!

 クラウドさんは私をチラっと見ると、悪友をひた…と見た。

「アンタには悪いけどもう2度と隙は作らないつもりだから」

 …はい?
 隙は作らない…ってなに?

「アンタたち今日ずっと俺の後を尾けてただろ」

 あら、バレてた。
 悪友は…と…。
 あは~、ビックリしてるわ、まぁ当然か…。

 クラウドさんは小さくため息をつくとしっかり悪友を見つめて口を開いた。

「2度とティファを悲しませたりしない」

 ……え…?

「だから、もう『彼女連れ』で様子を見に来るのはやめてくれ。純粋な客として来てくれるなら歓迎するが、俺を牽制したりするヒマがあるなら『自分の彼女』を大事にしてやることに時間を使った方がいい」

 …あの~…。

「『彼女』も、悪かったな、今日はずっとイヤな思いしてたんだろ?でも、『アンタの彼氏』がティファと上手くいくことは無いから安心してくれ」
 それじゃ、引き止めて悪かったな。

 クラウドさんはそう言うと、呆然とする親友と私に背を向けて店に入っていった。
 チリンチリン…というドアベルの音がドア向こうから微かに聞こえてくる。
 それが妙に虚しく聞こえた気がして、気のせいか夜風までもが薄ら寒い。

「あ~…と。まぁ、とりあえず帰ろうか」

 私は魂が半分抜けたようになっている親友の背をポンポンと叩いた。
 ノロノロと親友が私を見る。
 焦点の合っていない虚ろな瞳が、徐々に私の顔にピンを合わせていった。

「ねぇ…もしかしなくても…」
「あ~…、うん、まぁしょうがないよね。普通はそうとられても」
「そ、そ…」
 そんなーっ!という親友の野太い声が夜気を響き渡る。
 私は苦笑交じりに聞くしかない。

「ねぇ、ねぇ!?どうしてクラウド様は、このアタシが女店主なんかを狙ってるって思っちゃったわけ~!?」
「そりゃ、一般的に見たら『男』が恋するのは『女』だからでしょ?」
「そんなの差別よ!性差別よー!!」
「だから、仕方ないでしょ?世間の目っていうのはそういうもんだから」

 散々喚く親友を引っ張るようにして夜の街を、少しは私の気持ちにもなって欲しいと思いながら歩く。
 ま~ったく私ったら、なにが悲しくてこんな『心は女、身体は男』に惚れちゃったんだろう…。

「今度こそ私の運命の相手だと思ったのに~!」
「はいはい。次は叶うといいわねぇ」
「キーッ!この薄情者ー!運命の相手と簡単にめぐり合えるわけ無いでしょー!?」

 半分涙目になって私を詰るバカな男に、
「そうねぇ、でももしかしたらもっと身近に『運命』があるかもよ~?」
 と茶化しつつ、いつになったら『女』にも興味を持ってくれるんだろう…とか思ったのは今のところ内緒。

「そんな身近にあるはずないでしょー!」

 親友のそんな声を聞きながら、とりあえず彼の今回の恋が実らなくてホッとしたのだった…。


 あとがき

 はい、なんとなくモワ~ッと浮かんだお話しでした。
 別視点でのクラティをね、一発かいてみたかったんだ!
 そしたらどうしてもオリキャラ語りしか思い浮かばなかったんだ!
 これ以上、オリキャラが登場するのはどうよ!?とか思ったから、名無しにしたんだ!!(笑)

 はい、お粗末さまでした!!