Mission 番外編「良し!このまま急降下と共に、一斉射撃!!」 シドのがなるような声が操舵室に響き渡る。 シエラ号の眼下では、ディモン・ファミリエルの荘厳な屋敷がその敷地内にそびえ立っていた。 その屋敷を、ユフィから直接連絡を受けたリーブが、すぐにシドへ依頼をし、WRO隊員達を動員させて急襲したのだ。 ラミアの元に潜入させている部下からの報告では、現在ディモンの屋敷に主は不在のはず。 主が不在の所を狙っての急襲。 それは、徹底的に屋敷を壊滅させるという目的があった。 屋敷を壊滅させる時に、ディモンを巻き込んで死なせるわけにはいかなかった。 今回、彼が着手した『悪魔のような実験』を白日の下に晒す為には、どうしても彼と、彼の指示を受けて実験を続けていたデル・ピノスが健在でなくてはならない。 その為、満を持しての総攻撃…とはいかなかった今回の奇襲。 あまり弾薬も準備出来ず、WRO隊員達も満足のいく人数ではない。 しかし、それ以上にリーブには心強い仲間達がいた。 それだけで、充分だ……、とリーブは思っている。 そして、必ず今日この日をもって、ディモンの悪行を終わらせるのだ。 リーブの救援依頼に、シドはすぐさまWRO本部へシエラ号を飛ばして来てくれた。 途中、ユフィ、ティファ、バレット、それにエッジに向かっている途中のナナキを同乗させての救援だった。 ユフィは、クラウドとティファが『別れた』演技をしたその翌朝、陽が昇る前にエッジを後にした。 その足で、真っ直ぐシドの元へ行ったわけだが、シドの所に付くまでにヴィンセント以外の仲間全員とコンタクトを取る事に成功していた。 非常に迅速にユフィが『クラウドファミリー』と『リーブ』の架け橋になってくれたお陰で、リーブ自身が予想していたよりも早く、こうしてディモン邸を急襲する機会に恵まれた。 感慨深げに、すぐにでも突入出来る体勢に入っている仲間達を見渡し、リーブはふとここにいない仲間を思った。 彼は……今回の作戦で自分一人が参加出来なかった事を果たして何と思うだろう……? ユフィが何度電話をかけても、ヴィンセントは出なかった…。 携帯の電源が落ちていたのだ…。 「あいつ、絶対に充電忘れてるよ!!」 憤慨して喚くお元気娘に、仲間達は苦笑を浮かべるだけで誰も寡黙な仲間のフォローをしなかった……。 きっと、電源を『切って』いたのではないだろうと、仲間達も思っている。 何となく……あの寡黙な仲間なら充電をし忘れるという事をやりかねない…。 皆がそう思って笑っていると、シドの声がスピーカーから流れて来た。 『よー、野郎共!!準備は良いか!?』 「「おーーー!!!」」 隊員達とバレット、ナナキが勇ましく声を上げる中、 「レディーがいる事、忘れてんじゃないの!?」 と憤慨の声をあげ、ティファとリーブを苦笑させた。 そして…。 シエラ号のハッチが開く。 最初に躍り出たのは、やはりウータイ出身のお元気娘。 屋敷から泡を喰って飛び出してきたディモンお抱えの傭兵達を、得意の手裏剣で薙ぎ払っていく。 勿論、なるべく急所は外しているのだが…、中には不幸にもモロに直撃を受けてそのまま昏倒する者もいた。 「ありゃりゃ、自分から手裏剣の軌跡に入ってきてどうするのさ」 にやっと笑いながら、ユフィはシエラ号によって崩された屋敷の壁の穴に飛び込んだ。 それに倣って、バレット、ナナキ、ティファ、そして隊員達もリーブの指揮の下、屋敷の中になだれ込む。 リーブもその後に続こうとしたが、流石に総指揮官に何かあっては困る…との隊員達とシドの制止の声に、止む無くシエラ号のスクリーンで戦況を見守る事にした。 スクリーンで見える範囲は、あくまで屋敷の外観。 中で一体どの様な戦闘が繰り広げられているのかまでは当然分からない。 「こう……何だか歯痒いものですね…」 悔しそうに呟くリーブに、シドはタバコを咥えたまま煙を吐き出した。 「まぁな。俺も、先頭きって暴れてぇけど、この艇(ふね)を守らなきゃならねぇからな。仕方ねぇさ、お互いな」 そう言って、ニヤリと笑うシエラ号の艦長に、WROの局長も肩を竦めながら笑みを浮かべて見せるのだった。 屋敷の中は、外観とはほど遠い作りになっていた。 何がほど遠いのかと言うと……。 屋敷の中に細い『隠し通路』がエッジの路地裏のように延々と続いていたからだ。 屋敷の外からは到底想像も出来ないその『隠し通路』に、ティファとユフィ、それにバレットとナナキは薄気味悪さを感じて仕方なかった。 この『隠し通路』は、シエラ号の急襲によって穿たれた壁が崩れ、中の空洞が現れているのをナナキが発見した。 獣特有の嗅覚が、その『隠し通路』の奥から『イヤな匂い』が漂っているのを嗅ぎ取ったのだ。 WROの隊員達は、ディモンの傭兵達とまずは互角に戦っている。 今の所、隊員達だけでも何とかなりそうな戦局の為、『ジェノバ戦役の英雄達』は、その『隠し通路』へ足を踏み入れる事にした。 しかし、足を踏み入れる事既に数十分。 一体、何本の分かれ道があったことか……。 恐らく、間違えた道に進んだら、その先にはトラップが仕掛けられているのだろう…。 そう…シャレにならない様な……二度とお日様が拝めなくなるような……そんなヤバイトラップが…。 今の所無事に進めているのは、ナナキの嗅覚のお陰である。 ナナキ自身は非常にイヤそうにしながらも、『イヤな匂い』が強くなる方へと皆を導いて進んでいた。 その間、この隠し通路に入ってからずっと、ティファは携帯を使ってシエラ号と交信を行っていた。 『どうですか?何かありましたか?』 「ううん…今の所何も…」 『そうですか…。やはり、シュリの言った通り、危ない研究は妹の屋敷のみで行っているのかもしれませんね…』 リーブが電話の向こうで一人ごちている。 「シュリ?」 聞きなれない名前に、ティファが小首を傾げた時、ナナキが突然止まった。 そして、ナナキの後ろから付いて歩いていたユフィが思わず「うぇ!!!」と、声を上げる。 電話に少々気を取られていたティファは、ユフィとナナキの方を振り向き、そして固まった。 バレットも同じ様に既に硬直している。 『もしもし!どうしましたか!?』 電話の向こうで、リーブが焦っている。 それにすぐ応える余裕はティファにはなかった。 思わず口を手で押さえ、半歩後ずさる。 ナナキは尻尾をピンと立てて低い唸り声を上げた。 ユフィは、何度か深呼吸すると、自らの携帯を取り出し、写真を撮ってシエラ号に送信する。 スクリーンにユフィから送られた写真が映し出され、操舵室にいた全員が驚愕の声を上げて真っ青になった。 スクリーンに映し出されたもの…。 それは、腐乱した人間やモンスターの入ったカプセル。 そのカプセルが林立したおぞましい映像だった。 明らかに、それらは実験に失敗しており、そのまま放置されている。 恐らく、ディモンは自らの屋敷で実験はしていたものの、何らかの原因で失敗したのだ。 そして……。 妹の屋敷に実験する場を移した。 この失敗した実験室を彼が今後どうするつもりだったのかは分からないが、失敗したからにはその『原因』があるのだ。 恐らく、ラミアの屋敷での実験が同じ様に失敗思想になった時の為のデーターとして、このまま残しておいたのだろう…。 カプセルの中身が腐乱しているのに対して、実験室自体は清潔そのものだったからだ。 まだ、この実験室で何らかの研究は行われていると考えるのが妥当だ。 『ごめんなさい、リーブ。もう大丈夫よ』 操舵室のスピーカーからティファの声が流れて来た。 「無理しないで下さい。それに、まだその実験室が安全かどうか分かりませんから」 もう引き返して下さい……。 そう言うはずだったリーブの言葉は、突如響いてきた獣の咆哮に掻き消された。 スピーカーから、ティファが息を飲む音だけでなく『くっそ、何だこいつら!』というバレットの声、それに『うっわ!!危ない、ティファ!!!』『ユフィー、後ろ!!!』という仲間達の声がほぼ同時に入り乱れて操舵室に響き渡った。 ガツン…ザー……。 耳障りなノイズ音と共に、仲間達が何者かと闘っている音が聞える。 ティファはどうやら携帯を落としてしまったまま、戦闘に入るしかなかったようだ。 時折、彼女の気合が聞えたり、バレットのものと思われる銃声がしたり、ナナキの唸り声とユフィの手裏剣が空を切る音がスピーカーから流れてくる。 何がどうなったのか知りたいが、カメラを取り付けているわけでもないため、操舵室のスクリーンは相変わらず不気味なユフィからの写真が映し出されていた。 ヤキモキしながら待つ事数分。 ザザ……カツ……。 『ごめんなさい、びっくりしたでしょ?』 やや息を切らせたティファの声がスピーカーから流れてきた。 シドとリーブ、そして操舵室にいた全クルーが心から安堵の溜め息を吐く。 「寿命が十年は縮まりましたよ。それで、一体何があったんですか?」 リーブの質問に応える様に、すぐにユフィから写真がシエラ号に送られてきた。 そのスクリーンに映し出された映像に、再び操舵室は静寂に包まれる。 そこには、人間とファング系のモンスターを足した様な、見た事もない獣の亡骸が映し出されていたのだ。 『これがいきなりカプセルを突き破って襲い掛かってきたのよ』 どうやらディモンは、本当に『してはいけない実験』をとことんまでしていたようだ…。 シドは嫌悪感から低く舌打ちをし、他のクルー達も正視に堪えないのか視線を逸らしている。 リーブは、そんな面々の前で気丈に振舞い、ティファに声をかけた。 「皆さん、ご無事ですか?怪我は?」 心配するリーブを安心させるように、『大丈夫、誰も怪我はしてないわ』と言うティファの後ろから、『アタシがこんな気色の悪い奴にやられるわけないっしょ!?』『大丈夫だよ、それに、もう他には動ける奴はいないみたいだし』『ま、俺にかかればこんなもんだな!』と言った、仲間達の元気な声が聞えてきた。 その事で、漸く心からホッと一安心したリーブとシドは、微苦笑を浮かべた。 「それで……その研究室に何かデーターらしきものは残っていませんか?」 『うん、今皆で探してる。でも…』 「ないならそれでも構いません。どうせ、ラミア……ディモンの妹の屋敷にもあるでしょうから」 そう言って、すぐにシエラ号に戻るよう伝えようとしたリーブの言葉は、再び遮られた。 今度はティファによって……。 『そうじゃないの。何だか良く分からないけど…、多分、ここにある資料のほとんどがディモンの研究に参加してる財閥の連盟書……に近いものだと思う…』 「「え!?」」 ティファの言葉に、シドまで大声を上げて口を開ける。 もしも、ティファの言う通りなら、それを証拠として裏で暗躍している…もしくはディモンに取って代わろうと虎視眈々と狙っている輩を一掃出来るかもしれない…。 『とにかく、良く分からないから持てるだけの資料を持って出るわ。それに、何だかここの部屋に入ってから変な音がしてて気になるし…』 「変な音…?」 『うん……何だか……あまり口にしたくない類のものなんだけど……』 ティファの言葉に、シドは首を捻っていたが、リーブは真っ青になった。 「資料は良いから今すぐそこから出て下さい!!」 そう怒鳴ると、ティファの返事を待たずにシエラ号のスピーカーを外線に切り替え、隊員達へ伝達を飛ばした。 「今すぐ、シエラ号に撤退しなさい。もうすぐ屋敷が爆発します!!」 シドはリーブの言葉にポロリと咥えていたタバコを床に落とした。 そして、大慌てでクルー達にいつでも離陸出来るよう指示を出す。 一方、ティファ達は、電話から漏れ聞えたリーブの言葉に、顔を見合わせると、次の瞬間、手近にあった書類やらディスクやらを片っ端から両手に抱え、(ナナキは口一杯に咥えて)一目散に駆け出した。 「や、やっぱりあの『音』ってそういう奴だよね…!」 「いつからあの『音』鳴ってやがったか…分かるか?」 「あの化け物がカプセルを破って飛び出した時からよ」 「ふぇ〜、ふぃふぁっへふほいへ!(へ〜、ティファって凄いね!)」 「ナナキ、お前口に物咥えてるんだから無理して話さなくて良いぞ…」 などなど、無駄口とも思える会話を交わしながらも、四人は全速力で走った。 先頭を走るのは勿論ナナキだ。 ナナキの嗅覚を頼りに、迷路のような『隠し通路』を進んでいく。 程なくして一行は、無事に入ってきた壁の穴から屋敷内に戻る事が出来た。 そのまま、勢いを殺す事無く外へと突進する。 既に屋敷内には誰もいないようだった。 恐らく、ディモンは屋敷の腕の立つボディーガードをあらかた引き連れて、妹の屋敷に向かっていたのだろう。 それに、この屋敷にはメイドのような女性の姿が一人も見られなかった。 こういう『隠し通路』を持つような人種は、身の回りの世話をする人間を雇わないものなのだろうか……? 何となく疑問に思いながらも、ティファは屋敷内に目を走らせながら、逃げ遅れている人間がいないか探すのだった。 そんなティファに、ナナキが一生懸命、 「ふぁいふぉうふ!ふぁれふぉふぃふぁい!!(大丈夫!だれもいない!!)」 と、得意の嗅覚で誰もいない事を伝え、遅くなりがちなティファをせっつく。 シエラ号に乗り込んだのはティファが最後だった。 まだ完全にハッチが閉まり切っていない状態で、シエラ号は離陸した。 バランスを崩して転倒しそうになるティファを、バレットが太い腕を伸ばしてフォローする。 ホッとして「ありがとう」とティファが言った直後、屋敷が大爆発を起こした。 巻き起こる爆風に、シエラ号は煽られ、空中でバランスを崩す。 乗り込んでいた隊員達やクルー達、そしてディモンの部下達がシエラ号の床をもんどりうって転がりまわったが、何とかシドの運転で持ち直すと、そのままシエラ号はラミアの屋敷に向かって疾風のように空を駆けだした。 「危なかったですね…。本当に皆さん、無事で良かった…」 「本当に…。リーブがあそこで気付いてくれなかったら私達、今頃エアリスと再会して怒られてるわ」 微笑みながら手にしていた資料を手渡すティファ、そして、他の仲間達にリーブは心から感謝した。 「皆さんのお陰です。本当にありがとうございました」 頭を下げるWRO局長に、バレットがごつい腕を振り上げて、バンバン背を叩いた。 「な〜に言ってやがる!これからだろうが、これから!!」 そう言って、ガハハと豪快に笑う仲間に、リーブはバランスを崩しそうになりながらも背筋を伸ばしてゆっくり一つ頷いた。 そう…。 残るは『ラミア・パラス』の屋敷で行われている『命の理(ことわり)を冒涜した実験の阻止』。 そして、その実験に関与した研究者達を捕縛し、実験を指示した財閥達を追い詰める事。 このような行為は断じて認める事は出来ない。 命を誰よりも大切に想い…。 この星を愛して、最後まで闘い、そして散った仲間の為にも、断じてこのような行為は認められない。 リーブは、スクリーンに映し出されるシエラ号の外の景色を睨むように見つめる。 その周りには、埃やすすにまみれた仲間達の姿。 不適に笑っている顔もあれば、心配そうに眉を寄せている顔もあるし、これから起こる新たな戦いにやる気に満ちた顔もある。 そのどの顔にも、決然たる意志が力強くその瞳に宿っている。 『必ず…、この星の未来を守る』 やがて、シエラ号は大きな白い屋敷をスクリーンに映し出した。 リーブが胸ポケットに入れていた箱型の小さな機械が作動を始める。 『ガガ……ザザザ………『…前達……やはりリーブ…ザザー…ティの差し金だったんだな…』』 機械から漏れるその音声に、仲間達は一斉にリーブを見た。 リーブは胸ポケットを指差しながら、ニッコリ笑うと、 「私の部下は非常にコンピューターに強くてですね。こんなにも高性能の盗聴器を作ってくれたんですよ」 「じゃあ、それって…」 「ええ、今実際に屋敷の中で交わされている会話です。クラウドさんが私の差し金だと勘違いしてるみたいですね」 何とも複雑に笑うリーブに、シドが、 「ま、似たようなもんじゃねぇか、大して変わりねぇって」 と、突っ込む。 「それよりも…、第二戦闘開始の準備は良いか!?」 シドの気合の入った言葉に、仲間達はニッと笑って見せた。 リーブも自分の部下達を振り返り、大きく頷く。 「よ〜し!ハッチを開くぞ、全員ハッチ前に行きやがれ!!」 艦長の言葉に、隊員達は敬礼をしてから迅速に動き、仲間達は、 「んじゃ、もうひと暴れ、行きますか!」 「いよっしゃ〜!」 「それじゃ、行って来るからね」 「リーブ、シド、行って来ます」 それぞれがそれぞれらしい言葉を残して操舵室を後にした。 『クラウド……もうすぐ会えるからね』 漆黒の髪を風になぶらせながら、ゆっくりと開くハッチを前に、ティファはキュッとグローブを嵌め直した。 そして…。 『命の理』を冒涜した実験の終止符を打つ為、最後の戦いに赴くべく、ティファ達は開ききっていないハッチから飛び出した。 それは…。 クラウドとシュリが…。 ラミアの婚約者とシアスの弟の亡骸が崩れ去るその様を…。 目の当たりにしている時だった……。 あとがき はい。クラウドが頑張っている時に仲間達が何をしていたか…でした。 ティファ達の方が何だかえぐい経験をしている様な気がしないでもないですね…(苦笑)。 でも、こうして番外編を書くにあたり、本当にこのシリーズが大好きだったなぁ…としみじみ感じました。 菜奈美様。 改めて、素敵なリクを本当にありがとうございましたm(__)m |