*このお話は、ACとDCのお話をかなり捏造しております。 Mission エピローグストライフファミリーを巻き込んだ大事件はその後、世界中を震撼させた。 勿論、公に名前は出されていないが、数ある大財閥がその『命の理(ことわり)』に反する行為に着手していたという事実に、人々は大いに揺れた。 そして、今回の事件を無事に未遂で終わらせたその働きに、WROと共に『ジェノバ戦役の英雄』が絡んでいる事もマスコミは大々的に取り上げた。 そのお陰で、クラウドはご近所と常連客達から散々『水臭い!』と責められたのだが、それはとても温かな心のこもった言葉だった。 そんなストライフファミリーの元へ、二週間後にリーブとシュリがやって来た。 挨拶と今回の礼に来たのだ。 その時、シュリは既に新たな任務に就いていると告げて、そのままクラウド達の元を去った。 そして更にその二ヵ月後。 突然一本の電話がクラウドにかかって来た。 相手は、WRO局長のリーブ。 クラウドは、突然のリーブからの電話に戸惑ったが、その電話の内容にはもっと驚いた。 それは……。 その日の夕刻。 臨時休業の看板を掲げたセブンスヘブンのドアをくぐる一人の男性。 その男性を、クラウド自身が出迎えた。 「すいません、無理を言いまして…」 「良いのよ、これくらい」 頭を下げて恐縮仕切りのリーブに、ティファは微笑みながら料理と酒を出した。 そして、同じテーブルに着いているクラウドにも同じ様に、料理と彼の好みの酒を置いた。 「それじゃ…」 そう言ってクラウドと二人きりにしてあげようとするティファに、リーブが声をかけた。 「申し訳ありませんが…、差し支えなければティファさんにも同席してもらいたいのです」 「え……?」 「…………」 リーブの真剣な眼差しに、ティファはチラリと二階を窺った。 子供達は既に気を利かせて子供部屋に引っ込んでいる。 ティファは、コックリと頷くと、 「子供達に食事を届けたらすぐに戻るわね」 と言って、軽やかに階段を上って行った。 ティファが戻るまで、クラウドもリーブも黙ったまま料理に箸もつけないで待っていた。 何となく、そんな軽い気分になれなかったのは、深刻な顔をしたリーブのせい。 ティファが戻るほんの数分の間に、クラウドは不穏な気配を感じていた。 言った通り、すぐに戻って来たティファは、自分の分のグラスと料理を運んでくると、改めてリーブを見る。 「それじゃ、取り合えず…乾杯でもしましょ?」 ニッコリと笑う彼女に釣られ、男性二人も笑みを浮かべるとそれぞれのグラスを軽く掲げてカチン…、と軽くグラスを合わせた。 「それで…話って言うのは?」 「はい…」 暫く他愛もない話をしていたが、料理がなくなった頃合を見計らってクラウドが本題を切り出そうと話を促した。 リーブは手にしていたスプーンを置くと、真剣な表情を浮かべて口を開いた。 「二ヶ月前ですか…、シュリと一緒にお邪魔させて頂いた時に、彼が既に別に任務に就いている…そう言った事を覚えておられますか?」 「え?ああ、そう言えばそう言ってたわね」 「……それが何か問題ある任務なのか?」 「ええ……。これは、本当は彼のような階級の人間がする任務じゃないんですが…」 「階級…?WROにも階級があるのか?」 クラウドの質問に、リーブは苦笑した。 「そりゃありますよ。彼も言ってたでしょう?『部下がナンパされた』って」 「あ、そうだった…」 「ラナさんだったのには驚いたわよねぇ」 クスクスと笑うティファに、クラウドも苦笑して当時の事を思い出した。 「それで……悪い、話が逸れたけど…」 「ええ。それで、彼の階級は今の所、『小隊長』なんです。これは、あまり階級的には高くありません。そして、今回の任務は今も言いましたが彼の階級からは考えると、少々荷が勝ち過ぎている任務なんです」 「それって…具体的にはどういう?」 身を乗り出すティファに、リーブは一つ溜め息をこぼした。 そして、グッとテーブルの上に置いていた手に力を入れる。 「今……これはWROの中でもシークレットになっている極秘情報があります」 「極秘…」 「はい。それは、もしかしたら二年半前の『ジェノバ戦役』に並ぶ可能性が高い非常に危険な事態が迫ってる可能性があるのです」 クラウドとティファは息を呑んだ。 「……一体…そんな情報…どこから入手したんだ…?」 「シュリ君……なの……?」 自然と低められたクラウドの声音、そして呆然とするティファに、リーブはゆっくりと頭を振った。 それは…肯定のしるし。 「彼は……ミッドガルのストリートチルドレンの一人でした」 「「え…?」」 突然話しの流れが変わったことに、クラウドとティファは面食らう。 そんな二人を無視してリーブは話を続けた。 「彼は…自分の過去をあまり話そうとはしませんし、こちらからもそんなに問い詰めたりしません。ただ、二年半前、WROを発足してすぐに彼が入隊希望で面接に来たので、ある程度の質問はさせてもらいましたが…。その時から今でも、彼は他人に対して心を開く事をしません」 言葉を切って、リーブはその当時を振り返った…。 「キミは…えっと…?」 「シュリです」 「苗字は?」 「ストリートチャイルドに、苗字はありません」 「あ……そうだったのかい……。それで、入隊希望の理由なんだけど…」 「WROを発足したのが貴方だったから」 「え…私だったから?」 「はい。貴方なら、世界中の情報が集められるでしょう」 「いや、まぁ、それは……。いや、そんな理由で入隊を希望されても…」 「勿論、情報収集が俺の一番の入隊理由ですが、俺自身も情報収集は得意なので、そちらで入手しづらい情報は提供出来ます」 「……キミ…いくつだっけ…?」 「16歳です。あと三ヶ月で17歳になります」 「こちらで情報が入手困難な分野…って意味がキミには分かってるのか?」 「裏の情報」 「…………」 「それに、コンピューターも割りと得意ですし、一応自分の身を守る戦闘くらいは出来ます」 「………キミのその『欲しがっている情報』とは一体なんだい?」 「……『星の移ろいゆく正確な姿』」 「え…?何だって?」 「…この星の変わっていく姿を正確かつ迅速に知りたいんです」 「…………」 「それは理由としては不適切でしょうか?」 「…いや……しかし……」 「それから、危険な任務もやらせてもらいたいと思ってます」 「…どうして?」 「その方が、勘が鈍らなくて良いからです」 「……勘って……」 「何より、俺には家族や友人といった関係の人間がいませんから、俺がいなくなっても差し障りはありません」 「…………」 「勿論、俺には『目的』があるのでその『目的』を実現させるまで、絶対に死ぬつもりはありません。ですから、命を無駄にするかもしれないという懸念は無用です」 「……キミの言いたいことは分かったが……。キミのその『目的』とは何か聞いても良いかい?」 「…それはお応えいたしかねます」 「……そうか…」 「それで、入隊許可は頂けますか?」 「…………」 「…………」 リーブの話を聞いた二人は、黙って顔を見合わせた。 二人共、戸惑いを隠せないでいる。 確かに、シュリには何か陰の様な部分を感じてはいたが……。 「それで、結局入隊を許可して現在に至るわけです」 「…そうだろうな…」 「それで……、私達に話したい事って…?」 今までの話からは、まだリーブが二人に何を話したいのか…何をお願いに来たのかが曖昧で良く分からない。 ティファの質問に、リーブは深く息を吐き出した。 「その…シュリのことですが……」 「…シュリが…どうかしたのか…?」 「…彼はどうも…こう……。他人を信用しない。頼らない傾向にあることは話しましたよね。今回の任務は、元々情報部の大佐自らが行っていました。ところが、彼が任務中に重傷を負ってしまったのです。その為、相手にもかなり警戒心を与えてしまい、動くに動けなくなってしまいました」 「まぁ、確かに…そうなるだろうな…」 暗い顔をするリーブに半ば同情の眼差しを向けてクラウドが頷く。 「それで、それまでは大佐の指揮の下、数名で動いていた潜入捜査を、シュリ独りに就いてもらうようにしたんです…」 「え!?それって物凄く危険じゃないの!?」 思わず非難するような声を上げるティファに、クラウドは止める事が出来なかった。 クラウド自身もそう感じたからだ。 そんな二人に、リーブは溜め息を吐いた。 「『独りの方が身軽に捜査出来る。今回大佐が重傷を負ったのは、負傷した部下を庇ったからだ。自分はそんな足手まといは必要ない』と言いましてね…」 クラウドは、リーブの言葉に『アイツなら言いかねないな…』と妙に納得した。 ティファは、シュリとはそんなに接していないので、未だに納得しかねる顔をしている。 リーブは更に話を続けた。 「先ほども言いましたが彼は他人を信用しません。それが以前にも増して……この任務に就いてからどうもその傾向が強くなったようなんです」 「…情報全てを報告していない…という事か?」 クラウドが眉間にシワを寄せる。 リーブはそれに対して否定の意味で首を振った。 「いえ、そうではなく…。彼の今までもたらしてくれた情報があまりにも……」 ここで一旦言葉を切り、グラスを一口口につけて口の中を湿らせる。 「先ほども言いましたが、本当に彼の情報が確かなら、彼一人ではとてもじゃありませんが対処出来る問題ではありません。しかも、それどころか世界中を巻き込む大惨事になる可能性があります」 「………まさか」 クラウドが驚愕に目を見開いた。 ティファはまだ良く分かっていないようだが、それでも険しい表情をしてリーブを見ている。 リーブはクラウドに向かって重々しく頷いた。 「シュリは……これ以上単独で情報収集するのは無理だという私や、彼の上司達の意見を聞き入れずに、未だに単独で探りを入れているようなんです」 「止めさせることは出来ないのか?」 クラウドの言葉に、リーブは溜め息を吐いた。 「出来るなら…こんなに悩んでいませんし、それに…彼の情報収集の方法というのが…少し…いや、本来なら認めたくない方法なんで、是が非でも止めさせたいんですよ…」 「「……?」」 首を傾げる二人に、リーブは話すべきか話さざるべきか悩んでいたが、結局口を開いた。 「彼は……その……。やばい情報を持っているとされる人間に近付く事にかけては右に出る者がいないほど、そっち方面に対して達者なんです…」 「……良く分からないんだが…」 「うん」 「……要するに…、『同性にしか興味を示さない』人間に取り入るのが得意なんですよ…。あ、勿論彼がそういう趣味なわけではないですし、直前になって上手く逃げ出すらしいんですが……」 「「……!?」」 ギョッとしてティファが目を見開く。 クラウドは、ラミアの屋敷内でのデル・ピノスとのやり取りを思い出して鳥肌が立った。 「あいつ……今までそんなやり方で情報を入手してたのか?そんな事してたら、あっという間にそっち方面ではブラックリストに上がってしまうだろう!?」 クラウドのもっともな意見に、リーブは苦笑した。 「勿論、素顔を晒しているとそうなるでしょうが……彼はメイクの達人でもありましてね。変装が得意なんですよ。今回ディモンのプロジェクトに潜入した時は素顔でしたが、あれは、ラミアのボディーガードのシアスの弟と自分の顔がそっくりだった為、潜入しやすいと判断したからなんです」 いつもは変装してるんですよ。 苦笑するリーブの言葉に、二人は再び言葉を失った…。 暫しの沈黙の末、再びリーブが話を続けた。 「それで、今回彼が潜入捜査をしているのは……神羅ビルの地下なんです…」 「「神羅ビルの地下!?」」 二人は声を揃えて身を乗り出した。 その表情は、先ほどまでとは比べ物にならない程驚愕と嫌悪感に溢れている。 リーブは眉尻を下げるとほとほと困り果てた顔をした。 「かつての神羅グループにはいくつもの闇が存在していました。ですが、二年半前に崩壊した際、その闇も共に滅んだと思われていたのですが……どうも一部……中でも最悪な部分が現在も進行中のようで……」 「そんな大変な所に一人で潜入捜査だなんて……死ぬ気か!?」 クラウドが怒ったように声を荒げる。 それをティファが「シーッ!子供達に聞かれちゃうわよ…」と諌め、クラウドはバツが悪そうに「ごめん」と口を押さえた。 「それで、お二人にお願いがあるんです」 「「…………」」 二人は顔を見合わせた。 何となく、リーブの目論見が読めてきた…。 しかも……、それは二人には困難な話なような気がする…。 顔を見合わせた二人に、リーブは頭を下げた。 「シュリを…止めて頂きたい」 「…………」 「やっぱりね…。でも、上司のリーブの言う事を聞かないんでしょ?それなのに…」 言外に、自分たちの意見を聞き入れるとは思えない…そうニュアンスを込めて呟くティファに、リーブも頷いた。 「ええ、クラウドさん達のおっしゃりたい事は分かってます。しかし、シュリは『自分には自分を大切に思っている人間がいないから、多少の無理をしても許される』と、思っている節があるんです。ですから……」 「ああ……それで、俺達がシュリの事を大切に思っている人間だと伝えれば良いんだな?」 「ええ…」 「分かった」 至極あっさりと返答したクラウドに、リーブとティファは少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔を見せた。 「ありがとうございます」 「いや、あいつには確かに恩があるからな。あいつがいなかったら多分、俺はかなりやばい事になっていただろうし、こうして元の生活には戻れていなかったと思うから…」 そう言いながら、少々照れたような顔をして視線を逸らす。 そんなクラウドに、ティファもリーブも益々笑みを深くした。 まぁ、クラウドの言う通りなのだが…。 今回、クラウドがもしも本当に単独でラミアの所へ『スタールビー』を盗り戻しに行っていたとしても、シュリのフォローがなければ絶対に成功していなかっただろうし、よしんば成功したとしても、セブンスヘブンで元の生活に戻る事は出来なかった筈だ……ティファと子供達のファン達のせいで……。 それを、今回シュリが実に都合の良い様に『噂』を流してくれたお陰で、元の生活に難なく戻れたし、近所の顔馴染や常連客達からは再び英雄扱いだ…。(まぁ、それはあまりいただけないのだが…) 「では、そういう事でまた機会を作って彼と共にこちらへお邪魔させて頂きますので、その時にでも…」 リーブがそう言って話を終えようとした時、彼の携帯が着信を告げた。 すぐに携帯を取り出したリーブは、驚いたように目を丸くして意味ありげに二人を見て苦笑した。 「…まさか」 「…シュリ君?」 顔を見合わせた二人に、リーブがコクッと頷きながら電話に出る。 何と、話題の中心人物からの電話とは…。 クラウドとティファは笑みを浮かべながら顔を見合わせると、電話をしているリーブの顔をじっと見つめた。 最初は砕けた感じで話していた局長の顔が、段々険しくなっていく。 その様子に、クラウドとティファは、ザワザワと胸が不安でざわめいた。 「何ですって!?」 突然上げられた大声に、二人はビクッと体を震わせると、食い入るようにリーブを見つめた。 「ええ……はい……それで?……ああ、そんな事は良いんです!シュリ、キミは無事なんでしょうね?……そうですか…。ですからあれほど無茶は……。そんな事を言ってるんじゃありません!!」 一際大声を上げたリーブの手から、クラウドは無言で携帯を取り上げた。 リーブが眉間にシワを寄せてクラウドに何か言おうとするのを、ティファがやんわりと止める。 「もしもし、クラウドだけど」 『…どうしてクラウドさんが局長と一緒に?』 「今、セブンスヘブンで話しをしてたんだ。今後の事についてな」 『…そうですか…』 「ところでお前、今どこにいるんだ?」 『エッジの記念碑の近くですが…』 「じゃあ、あまり離れてないな。すぐにこっちに来い」 『いえ、俺はこれから…』 「ダメだ。すぐに来ないとお前の上司のお願いを聞いてやらない事にする」 『……脅迫ですか?』 「そうだな」 『それに俺が従うと?』 「どうだろうな。案外お前はリーブの事は気に入ってると思ってたんだが…違うのか?」 『……はぁ……』 「良し。じゃ、待ってるからな」 シュリの溜め息を肯定と受け取り、クラウドはそう言って返事を待たずに電話を切った。 「来るって言ってたの?」 ティファが少々心配そうな顔をする。 「いや、ハッキリとは言ってないけど、来るだろ…多分」 「そうでしょうか…。彼はこういう脅迫とか取引といった事はあまり好きではないのですよ…」 どことなくクラウドの交渉は失敗だと匂わせるリーブに、クラウドは唇の端を上げて笑った。 「ああ…そうかもしれないけど……案外そうでもないみたいだな。ほら…」 「「え!?」」 クラウドが指を差した方をリーブとティファが振り返ると、そこには息せき切って走って来たシュリが、何故か全身濡れ鼠で立っていた。 その彼の背後で、ドアが漸くドアベルを軽く鳴らしながら閉まった。 「シュリ…」 どこか感動した面持ちで立ち上がったリーブに、シュリはどこまでも生真面目に敬礼すると、クラウドに向き直って溜め息を吐いた。 「アンタ…本当に人が悪いよな…」 「それはお互い様だ」 ニヤッと笑って、クラウドが自分の隣の椅子を引いてやる。 シュリは自分の全身を眺めて両腕を軽く開き、『こんな状態なんだけど?』と、無言でアピールした。 ティファが慌ててタオルを取りに二階へ走っていく。 が…。 すぐに引返して来ると、 「そんなに濡れてるんだったら、タオルで拭いたって無意味よね。シャワー浴びて、クラウドの服着たら良いわ!」 そう言って、目を丸くして「いや、俺は別にこのままで…」と言いかけるシュリを強引に引っ張って行ってしまった。 その二人の後姿に、リーブとクラウドは同時に吹き出した。 全く……やっぱり彼女には敵わない。 暫くして、タオルで髪を拭きながらシュリが二階から下りてきた。 服は、クラウドの普段着の服を着ている。 体型が似ているので、シュリが着ても何の違和感もなかった。 「お前、何であんなにずぶ濡れになってたんだ?」 席に着いたシュリに、クラウドが訊ねる。 シュリは、ティファが酒を持ってこようとしたのを見て「あ、俺は出来ればお茶を…」と言うと、クラウド向き直った。 「侵入しているのがバレてしまって、至近距離で打ち合いになったんだ。俺には怪我はないけど、相手の返り血が凄くてな。潜入先のユニフォームをとりあえず脱ぎ捨てたんだけど、すぐに獣タイプの追っ手がかかったから、仕方なく排水溝に飛び込んで匂いを消したんだ」 「……相変わらずハードな生活だな…」 「まぁな。それで、あまりにも気持ち悪いから、エッジに着いてすぐに公園のところで水を浴びた」 「なるほど…」 シュリの話しを聞いていたティファとリーブは、黙ったまま顔を見合わせた。 その表情は曇っている。 その事に…彼は…シュリは気付いているのか、それとも気付かない振りをしているのか分からないが、淡々とした表情を崩さなかった。 「それで…?」 「『それで』って?」 シュリが無表情でクラウドに質問し、クラウドが質問で返す。 「局長のお願いってなんだったんだ…?」 チラリとリーブを見ながら、投げやりな口調で問いただす。 「ああ…それはな…」 クラウドもチラリとリーブを見ると、WROの局長は、何とも複雑で居心地の悪そうな顔をしていた。 そんなリーブに、クラウドは頬が緩みそうになるのを引き締め、真面目な顔をしてシュリを見た。 「お前が今潜入捜査している件に、俺が補佐をする事になった」 クラウドの言葉に、ティファとリーブは思わず声を上げそうになったが、それを何とか喉の奥で飲み込む事に成功する。 シュリは、僅かに目を細めたが自分の前に出されていた温かなお茶に手を伸ばすと、 「………嘘だね」 あっさり言い切ってお茶を口に含んだ。 「お前…相変わらず可愛げがないな」 呆れたような顔をしてそう言うクラウドに、どこまでも無表情な青年は、 「可愛げを俺に求めても無駄だと分かってるでしょう?」 などと、再び可愛げのない事をさらりと口にする。 それに対して、クラウドも 「まぁな」 と、あっさり認めると、ニッと笑って見せた。 「それでも、俺はお前が気に入ってる」 クラウドの言葉に、シュリは湯飲みに視線を落としたまま黙り込んだ。 その表情のない顔からは何も読み取れない。 しかし、それでもクラウドは構わず言葉を続けた。 「お前が何を一人で背負い込んでいるのか知らないが、それでも構わないと俺は思ってる。お前の問題だからな。でも、いつかそれを話して一緒に背負わせてくれたら……そう思ってる奴が最低でもこの星に三人はいる事を知っていて欲しい」 「……三人?」 相変わらず視線を湯飲みに注いだまま、青年が聞き返した。 その声が、僅かに揺らいでいるのをリーブもティファも感じ取った。 「そうだ。俺とリーブ、そして…」 「私に決まってるでしょ?」 ニッコリと笑ってティファが言葉を繋ぐ。 それからほんの少しの間、沈黙が流れた。 相変わらずシュリは無言、無表情のまま視線を誰にも合わせようとしない。 それでも…、その空気を破ったのも彼だった…。 「局長。貴方はお人好し過ぎる…」 「そうですかね……そうかもしれませんが、これが私ですから」 苦笑するリーブに、シュリが視線を上げた。 そして、ポケットに手を入れると、一枚のディスクをテーブルの上に置いた。 「これは?」 「先ほど電話で話した今回の入手した情報です。もう、これ以上は無理でしょう……」 リーブの手がそのディスクに伸ばされた時、それよりも早くシュリがそのディスクに手を置いた。 リーブは勿論、クラウドとティファも怪訝そうにシュリを見る。 黒髪の青年は、漆黒の瞳に真剣で深刻な色を浮かべ、ジッと三人を見つめた。 「貴方達は本当に人が良すぎる。そんな人がこれを見たら…絶対に何とかしようとするだろう…。その結果、自分達の生活を壊す事になるかもしれない…、自分達を想ってくれている人を悲しませる事になるかもしれない、そんな危険な環境に身を投じる結果になる……。これにはそれが詰まってる」 そう言って、シュリはリーブを見た。 「局長。WROとしては、絶対にこれを見過ごす事は出来ません。おまけに、絶対に失敗は許されません。すぐにでも大軍を編成して育成しないと、間に合わないでしょう。ですが……」 言葉を切ってクラウドとティファを見る。 「彼らはもう既に、平和な生活を手に入れている。その仲間を再び戦場に引き戻す覚悟がおありですか?」 そのシュリの質問は、 「当たり前だろ?」 「仮にリーブが止めたって私達が無理やりにでも首を突っ込むわよ!」 クラウドとティファだった。 そんな二人に、リーブも力強く頷くと、鋭い眼差しをシュリに向けた。 「今、キミにしてもらっている潜入捜査は、WROの一般兵ではとてもじゃないが対処出来ないだろう…?」 「……そうですね」 「なら、答えはもう決まっている。」 そのリーブの応えに、シュリはフッとこの時初めて微笑んだ。 そして、立ち上がると再び敬礼し、リーブにディスクを手渡した。 「ところで、さっきリーブは何を怒ってたの?」 場が和やかになったところで、ティファがリーブに問いかけた。 「あ、ああ……あれはですね…。彼が『潜入捜査に気付かれたので撤退しました』『もっと深くまで探ろうと思ったのですが申し訳ありません』『追っ手も撒いて来たので平気です』って淡々と言うもんですから、ついカッとなってしまって…」 照れ臭そうに言うリーブに、シュリが口に運んでいたポテトサラダを置くと、 「本当に申し訳ありませんでした。本当なら…」 と、言葉を続けようとするのを、クラウドが軽く頭を小突いた。 「バカだな、お前は。リーブが怒ったのは、『潜入捜査が失敗』した事じゃなくて『独りで危ない目に合って、それを何とも思ってないお前に』怒ってるんだよ」 クラウドの言葉に、シュリは言葉に詰まると、そっとリーブを見た。 満足そうな顔をしているリーブに、クラウドの説明が正しかったのだと理解せざるを得ない。 「俺は……そういうのには慣れてないので……」 「これからは慣れて下さい」 「……努力します」 「それで、怪我とかはないんですか?」 「ありません」 「本当でしょうね?」 疑いの眼差しを向けるリーブに、シュリはどこまでも無表情、生真面目に頷いた。 「はい。全く俺には全く問題ありません…。ですが、先程も言いましたように…潜入捜査の方は……」 「良いんですよ。それに、これ以上の潜入捜査は無理だとシャルア博士も案じていましたし、もう充分です」 「恐縮です」 そんな会話を聞きながら、ティファとクラウドは笑みを交わすのだった。 「ところで……お前、入隊した時からコンピューター関係に強かったんだな。リーブに聞いたんだが…」 「え…ああ…。まぁ、スラムで子供が生き残ろうと思ったら、何でも『盗む』しかないからな。結構、俺は『その道の変態』達から気に入られていたから、隙を見てはその知識を『盗んで』いったんだ」 「……本当に……お前って…」 「入隊してからも、シャルア博士が直々に教えて下さったし…。コンピューター関係なら、不自由はしないな」 「へぇ…。でも、本当に凄いのね。そこまで努力出来る人ってそんなにいないわよ?」 驚嘆の声を上げるティファに、シュリはポツリと呟いた。 「まぁ…。どうしても『欲しい』ものがあるから」 「欲しいものって?」 興味津々に訊ねるティファに、シュリは困ったように笑うだけで応えようとしなかった。 「また…もし、それを『見つけられたら』教えます」 そう言った青年は、どこか遠くを見ているような眼差しをするのだった。 その眼差しを持った青年は…。 この場にいる誰よりも強い信念を持っているのと同時に……。 とても儚い存在見えた…。 そして、まさにこの四ヵ月後…。 悲劇がカームから始まる。 あとがき はい。捏造のお話でした(苦笑)。 実は、マナフィッシュの脳内では、シュリがDCで結構活躍とかしたりしてます。 いつか、そのお話も書きたい…とか思いつつ…、あまり捏造もどうかと……(う〜〜ん) ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございましたm(__)m |