うっかり天気予報をチェックし忘れた。 だから、突然天気が崩れて大粒の雨が降り始めたとき、彼女には濡れるか、雨宿りをするかの二者択一しかなかった。 なら、たまには濡れても良いんじゃない?と、自分に問いかけ、頷いた心のまま、彼女は雨の中、急ぐわけでもなく歩調を変えずに歩き出した。 視界がかすむほどの大雨の中を…。 水も滴るイイ関係『ほら!すっごい雨〜!!』 言いながら実に楽しそうにかつて、彼女は土砂降りの雨なのかをまるで小さい子供のようにはしゃぎながら駆け回っていた。 その姿をティファは自身も雨に濡れながら思い出した。 突然降り始めた豪雨に、街行く人たちは一様に駆け出し、ある者は雨宿りをするため店の軒先を間借りし、またある者は手にしている荷物を頭上に掲げたまま目的地まで走る心積もりのようで、誰もティファのように悠々と雨の中を歩こうとする者はいなかった。 いつもなら、ティファも彼ら同様、店の軒先で雨をやり過ごそうとするだろうが、今日はなんとなく…、本当になんとなく、雨に濡れてみるのも悪くない、と思ったのだ。 恐らくその理由の1つには彼女が手ぶらであることがあげられるだろう。 いつも街を歩く彼女の手には、その日の店で並ぶはずの料理の材料等が抱えられているのだが、今日は前々から休みと決めていた。 特に理由はない。 強いてあげるなら、子供たちをゆっくりさせてやりたかったからだ。 まだまだ遊びたい盛りのデンゼルとマリン。 しかし、幼い2人は友達と最後まで遊ぶことより店の手伝いを選んでくれている。 毎日、友達との遊びを途中で切り上げて帰宅し、手伝ってくれる優しく、頼もしい2人。 その2人に、何の気兼ねもなくのんびりと、心行くまま遊べる日があってもバチは当たらない。 「あ、でも2人ともこの雨じゃあ、遊ぶどころじゃないかな…?」 そう思って少し歩調を速めようとした。 雨で自然と解散してしまったら、2人とも家に戻るべく足早に向かっているかもしれない。 だが、そう思ったのは一瞬で、すぐにティファはフッと微笑んだ。 大丈夫。 今日、一緒に遊ぶと言っていた友達の名前を思い返してそう胸中で呟いた。 2人と仲の良い友達の中に、両親がとても世話焼きな子がいることを思い出したのだ。 その子の家の近くに最近出来た真新しい公園が、今日の子供たちの遊び場だ。 ということは、恐らくその子の母親が子供たちを家に招きいれてくれているだろう。 いつもなら、『厚かましいかな…?』と思ってしまうことではあるが、ふと沸いた『雨に濡れてもイイんじゃない?』という気持ち同様、とても軽い気持ちで『甘えちゃおっかな?』と思えたティファは、そのままゆっくりと雨に濡れながらの散策を楽しむことにした。 少しして、ティファはブルリ…と身体を震わせた。 濡れると体温が奪われてしまうのは当然のことなのだが、それでもティファは少し肩をすぼめながらも楽しかった。 次々と2年前の旅の記憶が呼び起こされる。 旅の頃は、傘を差してゆっくり歩く余裕など微塵もなかった。 そのことを、こうして全身濡れねずみになることで体全部で思い出したのかもしれない。 『ティ〜ファ。濡れてるティファも素敵だけど、男性陣にはちょっと刺激が強すぎるかもよぉ?』 そう言って、あの旅の最中、初めて雨に濡れたときにエアリスは自分もずぶ濡れのクセして、そうからかった。 ティファはと言うと、雨で張り付いてしまったタンクトップにそのとき初めて自分の身体のラインがクッキリ浮き彫りになることに気づき、恥ずかしいやら慌てるやらで、エアリスをからかい返すどころではなかった。 耳まで真っ赤になって前屈みになり、胸の前で腕を交差させながらバレット、ナナキ、シド、ヴィンセント、そしてクラウドを睨みつけたことをハッキリ思い出す。 とりわけ、クラウドのことを。 あの時、クラウドはティファが睨みつけるまさにその一瞬前に慌てて横を向いた。 耳の端が赤くなっていたように見えたのは、気のせいだったかともその当時は思ったが、今になって思い返せば絶対にクラウドは照れていた。 しかも、エアリスがからかうその時まで絶対に見ていたはず。 放心状態でティファを見つめ、我に返って慌ててそっぽを向いたクラウド。 思い返せば、本当に笑えてくる。 なんと幼く、淡い想いだったのだろう、お互いに。 それが、たった2年で…。 そう思うと、どうしても顔がにやけてしまう。 イカンイカン、と顔を引き締めようとするが、どうにもこうにも、甘酸っぱいというかなんと言うか、気恥ずかしい気持ちで胸が締め付けられる。 土砂降りの雨の中、傘もささずに歩いているだけで十分『大丈夫?あの人……』と思われてしまうのに、その上ニヤニヤしていたら変態だ。 分かっているのだが…。 『ティファ。濡れると身体に良くないから…』 あの時。 2年前の旅の途中で、突然の豪雨に見舞われたあの時。 そっぽを向いてぶっきらぼうに、そう言って彼は仲間のニヤニヤ笑いを全身で受けながら腕を掴んできた。 ビックリしてきょとんとしたまま棒立ちになっている自分に、なんとなく焦れたのだろう、イラッとした口調で、 『ボケッとするな。ほら、走るぞ!』 そう言って、目の前の大樹目指して走り出した。 ちなみに、その時仲間たちは車の中。 自分たちがどうして車から出ていたかというと、モンスターと戦っていたから。 エアリスはと言うと、一緒になってはしゃいでいたはずなのにしっかり先に雨宿りしていた…。 「ふふ…ずるいんだからなぁ、エアリスは」 思い出して、やっぱりにやけてしまう顔を引き締められずにそうごちた。 イカンイカン、どうしてもにやけてしまう。 2年前の旅の結末はとても悲しいものがついて回るのに、思い出すのはこんなに楽しいことばかり。 それはきっと、エアリスが常に笑っていたからだろう。 笑って、辛いあの旅の中、自分たちを包み込んでくれていたからだろう。 「そう言ってしまえば、エアリスってとんでもない『聖女さま』になっちゃうなぁ〜」 そんなこともなかったはずなのになぁ。 などと口にしながら、ゆっくりゆっくりティファは歩く。 頭の中は、かつての旅のことばかりが廻ってくる。 初めて豪雨に見舞われてからも、度々突然の雨に悩まされたあの旅。 ユフィが突然の雨に悪態をつきながら猛然と雨宿り先を探して駆け出し、ぬかるみに足を取られて思いっきりすっ転んだことがあった、しかも前のめりに、手を突くヒマもなく。 当然、頭のてっぺんから足のつま先までまっ茶色の染まり、大笑いしたナナキを巨大手裏剣を振り回して追いかけ、ドロを落とすべく宿屋を急遽探し、大変な騒ぎとなった。 勿論、その騒ぎはセフィロスを倒す、という重苦しい旅の中では『珍騒動』。 ユフィには悪いが、随分笑わせてもらったし、心がほぐれた事件となってくれた。 その時も、エアリスはお腹を抱えて笑いながらも恥ずかしさと笑われた憤りに大興奮状態のユフィをお姉さんらしくあしらっていた。 『ほら、ユフィ。大丈夫、泥は洗ったら落ちるから。それよりも、折角大雨降ってるんだもん。宿屋に着くまでにその『面白いお化粧』を雨である程度洗った方がイイよ。でないと、村に入った途端、村の人たちに大注目されちゃうでしょ?』 言いながら、エアリスはユフィの顔に付いた泥を本当に雨で洗い始めた。 ちょっぴり強引に上を向かせて…。 その時、ティファはエアリスの『お姉さん』な姿にちょっぴりドキッとしていたりする。 普段、ユフィと一緒に大はしゃぎしたり、時には自分よりも子供っぽいところがあったりしたものだから、その自然な流れを作り上げたエアリスがちょっと知らない人のように感じてしまったりもした。 それが、なんとなく寂しくもあり頼もしくあり…。 「あ〜…そっか」 ふと、あることに気づいて足を止めた。 立ち止まったティファを車や雨宿り先を求める人たちが通り過ぎる。 彼らが走って出来た水跳ねで、ティファの足が泥に染まるが、ティファは気にしない。 もうここまで汚れているのだから、あとどれくらい汚れても意味はない。 それよりも、たった今、気づいたことの方がとても大きい。 それは、エアリスをライバル視したきっかけ。 勿論、一番最初にライバル!?と思ったのは、コルネオの元へ単身乗り込む際に乗り込んでいたチョコボ車から偶然目撃してしまった公園でのツーショット。 あれは……かなりショックだった。 落っこちてしまったクラウドのことを心配するあまり、夜もほとんど眠れなかったというのに、当の本人は見知らぬ美女といい感じに公園でおしゃべり……ときたら、腹も立つし、何より『理不尽』に感じてしまう。 それに、あの時ティファは、単身『スケベ』で名高いコルネオの元へ乗り込もうとしていたのだ。 とんでもないことを決心してしまったかも…と弱る自身の心を叱咤しつつチョコボ車に揺られていたというのに…。 それなのにクラウドは…!! と、思ってしまったりもして。 そのときの感情が『嫉妬』だと、後々になって、かなり、ず〜〜っと後になって気がついたのだが、その時はただただ理不尽に感じてイライラして、モヤモヤし過ぎてうっかり泣きそうになったものだ。 それが、女装までして助けに来てくれたあの瞬間。 ビックリしたし、笑いそうにも正直なったのだがそれを上回る喜びがあって…。 「あ〜、そうじゃなくて…」 脇道に逸れかけた思考を無理やり引き戻す。 エアリスをライバル視したきっかけ。 それは、お転婆娘として仲間の中でもまだまだ持て余していた最初の頃、エアリスが実に上手にあしらって見せたあの瞬間。 ちょっぴり強引に仰向かせ、何やら文句を言っているユフィを軽くあしらいながらも、優しい手つきで彼女の顔に付いた泥を洗い流したあの時…。 クラウドが軽く目を見開いてエアリスを見ていた。 …ほんのりと口元に笑みを浮かべて…。 「あ〜…そっか」 また同じ言葉を繰り返し、ティファはちょっぴり空を仰いだ。 垂れ込めている灰色の雲からは惜しみなく雨が降り注ぎ、まだまだ止みそうにない。 その濃色の灰色の空を見上げていると、フッと当時の旅の最中に舞い戻ったような錯覚を味わった。 空だけは、旅の頃と変わっていないことに今更ながらに気がつく。 上を向けば2年前と同じ空。 顔を戻せば、2年前にはなかった街並み。 なんとなく、『現在(いま)』に戻りたくない気分になる。 顔を戻して、目の前に彼女がいてくれる…、そんな気分を味わいたかったのかもしれない。 「……ガラにもなくセンチメンタルだな〜」 上を向いたまま苦笑して呟くと、ティファはゆっくり首を動かした。 ゆっくり顔を戻したのは、少しでも今、感じたものを引き伸ばしたかったからなのかも知れないし、ただ単に急に動かしたら首が痛い…という、色っぽさのかけらもない理由かもしれない。 とにもかくにも、ゆっくりゆっくり『現実』に戻ろうとしたティファの隣で急に車が止まった。 「彼女〜、大丈夫〜?」 「なんだったら乗ってく?送ってくよ〜?」 窓が開いて、お決まり過ぎる台詞がお決まり過ぎる軽そうな男たちによってかけられた。 ティファはげんなりした。 折角の素敵な気分が台無しだ。 身近に感じることが出来ていたエアリスが急速に消えていく…。 「………」 無言のまま睨みつけると、男たちは口笛を吹いた。 「へぇ!水も滴るいい女じゃん!」 うるさいな…。 「かっわいそう〜。こんなに雨が降ってるのに迎えに来てくれる男もいないわけ?」 クラウドは仕事中なの。アンタたちとは違うのよ! 「俺たちならキミの事そんな目に遭わせたりしないよぉ?」 アンタたちに構われることよりも、雨に降られてる方が何倍もマシ。 「ほらほら、風邪引くから早く乗りなよ」 風邪引いた方がマシだからほっといて! 言葉には出さないが、男たちのナンパというよりも冷やかしに取れる台詞の数々に心の中で応える。 当然だが、突っ立ったままでいたわけではない。 声をかけられた直後からかなり足早に歩いている…、が、まぁ車相手に人間が足早に歩いたとて、適う筈もない。 ニヤニヤ笑いながら男たちはしつこく車でついてくる。 普通の道路ならそういうノロノロ運転がいたりするとあっという間に渋滞になるのだが、ここは悲しいかな複車線ある道路。 ティファが歩いているのはその道路に沿っている歩道。 人ごみに紛れて逃げる、という手もあったがここまでびしょ濡れになっているのにそんな迷惑なことをするのは忍びない。 そもそも、復興途中というせいもあるかもしれないのだが、エッジの街中には道路というものがあってないような部分が多々ある。 ティファが歩いているのもその1つ。 複車線あるくせに、対向車線とかも混在していて、もうそろそろこの道路の区画整理を検討している…とは、この前のニュースで流れていた。 『あ〜、とっとと区画整理してくれてたら…!』 などと、政府の人間に八つ当たりな気分が頭をもたげた。 とか何とか色々思っている間に、ナンパ男たちが諦めて退散。 ……するはずもなく。 「彼女〜。つれないにもほどがあるって〜」 「テレ屋さんなところも良いけどさ〜」 後部座席に座っていた2人が痺れを切らしたのか車から降りてきた。 まさか降りてくるとは思っていなかった。 イライラが増したティファは、さてこの無頼漢どもをどうしてやろうか…と、やや危険なことを考えた。 まずは肘鉄? 続いて回し蹴り? 裏拳も捨てがたいし、なんなら車のボンネットを『軽く叩いて』みてもイイかもしれない。 いやいや、もしも『壊されたー!』『弁償だーー!!』などと騒がれたら厄介だ。 デンゼルとマリンを養っていくためにも、無駄な金は使えない。 …その論法だと、肘鉄云々を喰らわせて『慰謝料じゃーー!!』などと騒がれたらエライことになりはしまいか…? …む〜、だとすると、何も出来ないではないか!! 「だから〜、ちょっと待てって」 不毛すぎることをグルグルと考えているうちに、とうとう男の1人がティファの肘を掴んだ。 条件反射。 ティファの肘が炸裂する。 それと同時にティファを軽やかに打ち付けていた雨が止まり、雨音だけが耳を打った。 「悪いが間に合ってる」 そう言ったのはティファではない。 男に食らわせてしまったはずの肘を寸でで止めたのもティファではない。 男とティファの間に身体を割り込ませるようにしながら、器用にティファの頭上に傘を差しているのは、かつて、ピンチの時には助けに来てくれるように依頼した唯一の人…。 目を丸くしてその背中を見つめる。 男性にしては華奢な体躯。 しかし、やはりティファに比べたらうんと広く、頼もしい背中。 耳に心地良い彼の声も、発されている男たちへの怒りのオーラも、全てがティファを魅了して離さない。 「な、なんだよ。ヤロウ連れかよ」 肘鉄から守られた男が、そうとは知らずにアタフタと距離をとった。 もう1人は、いきなり現れたクラウドに『只者ではない!』と本能的に悟ったのだろう、 「あ〜っと、こりゃまたすいませんね、俺たち、かなり野暮?野暮〜?」 など、意味不明なことを口にして「あらら〜、ほんっとうにごめんなさいね、失礼なすって〜」と言い捨てて、仲間の首根っこを引っつかみ、車へと逃げ込んだ。 車に乗ったまま、一部始終を見ていた男も、 「あ〜、本当にごめんよぉ」 「彼女とお幸せに〜」 などなど、早口でまくし立てるとあっという間に小さくなって見えなくなった。 だが、ティファにとってはもうどうでもイイことだ。 先ほどまでの不快感は欠片もない。 まるで、雨が綺麗サッパリ流してくれたかのよう…。 振り返ったクラウドは片眉を器用にヒョイ、と持ち上げると呆れたように肩を竦めた。 「なんでそんなにびしょ濡れなんだ?」 怒っているわけではない彼の口調に、ティファは自然と口元をほころばせた。 「ふふ、たまにはイイかな〜?って思って」 笑ったティファに、クラウドも釣られたように苦笑した。 「それにしても、濡れ過ぎだろう?風邪引いたらどうするんだ?」 呆れたように言いながら、どこまでも優しい瞳にティファの心がどうしようもなく弾む。 嬉しくなると同時に、悪戯心もムクムク沸いてきた。 「もし風邪引いたらクラウド、看病してくれるでしょ?」 まさかの反撃。 クラウドの紺碧の瞳が丸くなる。 その顔にどうしようもなく嬉しくなって、思わず彼の腕に自分の腕を絡めそうになって…。 ティファはハタ…と思いとどまった。 両手がなんとも中途半端に宙で止まる。 こんなにびしょ濡れなのに、腕なんか組んだらクラウドが濡れてしまう…。 (あ〜…惜しいことしちゃったなぁ…) 素直にそう思ってしまったことはクラウドには内緒だ。 しかし、クラウドは中途半端に止まったティファに、ピン…ときたらしい。 やれやれと言わんばかりの仕草のクセにどこか妙に嬉しそうな雰囲気で首を振ると、 「ほら、寒いんだろ?」 ティファの肩をやや強引に抱き寄せた。 ダイレクトに伝わるクラウドの温もりに、ティファは自分が雨ですっかり冷え切っていたことを初めて知った。 「ご、ごめんね、クラウド。風邪引いちゃうから」 頭をもたげていた小さな悪戯心があっという間に小さくしぼむ。 距離をとろうとしたティファを無視し、クラウドは片手は傘、もう片手でティファの肩を抱き寄せて歩き出した。 「ダメだ。俺は丈夫だからこれくらい平気だけどティファは女だからな。家に帰り着くまでこうしてる」 それは、暗に『クラウドにくっつくことで暖を取れ』と言っているようなものだ。 嬉しさよりも恥ずかしさが勝ったティファは、 「いいから〜、大丈夫、私も丈夫だから!」 などなど必死に言い訳しつつ、クラウドの身体をグイグイ押しのけようと悪あがきを試みた。 しかしその悪あがきは、クラウドの前ではあってないようなもの。 聞き分けのないティファの耳に口を寄せ、一言囁くとティファはボンッ!と真っ赤になって硬直し、続いてがっくりと肩を落とすと無駄な抵抗を諦めた。 大人しくなったティファに、クラウドは今度こそ喉の奥で笑い声を洩らしつつ、ティファの肩を遠慮せずに抱き寄せながら雨の中の散策を楽しんだ。 濡れている美女と、彼女の肩を抱き寄せて傘を差して歩く美男子。 そんな2人を道行く人たちが振り返り振り返り見る。 彼らはうっとりしながらも首を傾げていた。 「どうしてあんなに彼女、濡れてるのかしら?」 「さぁ…」 「男が待ちぼうけ喰らわせたのか?」 「にしては、なんだか上機嫌じゃない?彼氏さん」 「くあ〜、良いなぁ、俺も、俺もあんな風に可憐な美女を守ってやりてぇ」 「……ちょっと、アタシというものがいながら……」 などなど。 勿論、2人はそんな風に言われていることなど気づかない。 テレながらもティファはクラウドに夢中だったし、最初からクラウドはティファしか興味がない。 真相を知るのは2人と灰色の雲と、そして星の恵みの聖なる雨だけ…。 もう少しだけ、2人の時間を2人に…。 * 「どうしてタイミング良く現れたわけ?」 「言っておくが、傍観してたわけじゃないぞ?たまたま、駆けつけたときがあのタイミングだっただけだ」 「本当かなぁ?」 「…あのな…」 「ふふ、ウソウソ。それにしても、言い忘れててごめんね?」 「ん?なにを?」 「へへ。『おかえり』クラウド」 「…あぁ、ただいま」 「ねぇ、それにしても予定は明日じゃなかったっけ?」 「仕事を早く片付けたんだ。今日の夕方から雨が降るって言ってたからな。予報よりも早く降り始めたけど」 「あ〜、そうなの?私、うっかり天気予報見忘れちゃって」 「へぇ、珍しいな。それで家にいなかったのか」 「うん、ごめんね。でも、教えてくれてたらちゃんと早く帰ったのに〜」 「すまない。ついついビックリさせようと思って」 「そっか」 「帰ったら誰もいないし、傘は置いてあるし。そうそう、デンゼルに電話したら友達の家で雨宿りしてから帰るって言ってたぞ。俺が帰ったって知った時には濡れて帰る!って言い張ってたが…」 「ふふ、そうなんだ。んで、やっぱりマリンに止められたの?」 「ご明察。後で車で迎えに行ってやろう。今日はこれからずっと雨だからな」 「うん」 「その前に、さっき言ったことを実践しても良いけどな」 「!バ、バカ!クラウドの変態!!」 「変態で結構」 「ちょ、ちょっと、絶対にダメだから!ちゃんと大人しくしてるでしょ!?!?」 「残念。ティファはそんなにイヤなのか、俺と一緒に風呂」「恥ずかしいからこんなところで言わないで!!」 雨もかすむほどの仲良しぶりに、きっと星の中で彼らの親友たちが苦笑しているだろう。 あとがき …クラウドの登場の仕方、『王道』というか『ありきたり』というか。 はい、ごめんなさい。 意表がつけない管理人です。 しかし! あの場面で登場するのがヴィンセントとか、シドとかだったらなんか違うくね!?とか思っちゃいません!?!?(必死) 良いの、クラティがラブラブになってくれたらそれで良いのー!!(キパッ) お付き合い、感謝感謝です〜♪ |