物語の王道




 その日、マリンは不機嫌な顔をして帰宅した。
 母親代わりのティファは、そんな娘の様子にすぐ気付いたが、あえて何も聞かずにそっとしておく事にした。
 一応、「おかえりなさい」と声はかけたが、「ただいま…」と素っ気無く返される。
 それ以上声をかけるべき時なのか…はたまたそっとしておくべき時なのか…。
 子供心は難しい…。
 そして、今回は『そっとしておくべき時』であると判断したのだ。
 根拠?
 そんなものは、『母親の勘』だ。

『マリンだってたまにはそう言う時もあるわよね…』

 不機嫌そうに二階に消えた小さな背中を視界の端で見送りながら、ティファは苦笑を口元に湛えた。


 一方、マリンは自室に戻ると自分のベッドに思い切りダイブし、枕に顔を押し付けていた。
 そのまま枕をギューッと胸に抱きしめながら、ゴロリと仰向けに寝転がる。
 見慣れた天井のシミ一つさえも、今は憎たらしく見える。
「…もう……なによ…!!」
 不機嫌以外の何ものでもないその苛立った口調に、答えるものは誰もいない。
 その状況が果たして良いのか悪いのか…。
 今のマリンにはどちらとも言い難かった。
 傍にティファやデンゼル、そしてクラウドがいたとしたら、この様に悪態を吐く事もままならないのでそう考えると一人のこの状況が良いのだろうが、しかし『どうしたの?』と心配そうに自分を見てくれる眼差しが欲しいような気もするのだ…。
 何とも矛盾した気持ちが、小さな胸の中で不快にグルグルと渦巻いていた。
「大体、『女の子らしい』っていう基準ってなによ……!」
 再び苛立たしげに呟くと、ゴロリと寝返りをうって隣のベッドへ身体を転がした。
 そこのベッドの持ち主に対しても、今は腹立たしい感情しか湧いてこない。
「デンゼルもデンゼルよ。なによ、あんな風に言わなくても良いじゃない!」
 ぶすっとしながら義兄への文句を口にすると、プイッと反対へ顔を背けた。

 と…。

 階下から慌ただしく店のドアが開く音がしたかと思うと、これまた騒々しく階段を駆け上ってくる足音が聞えてきた。
 マリンはガバッと跳ね起きると、そのままシーツの中に大急ぎで潜り込んだ。
 それとほぼ同時に、バタン!!と乱暴に子供部屋のドアが開く。

 駆け込んで来たのは、この部屋のもう一人の住人。
 ベッドの膨らみに恐る恐る近寄ると、荒い息使いのまま「マリン、…さっきは……ごめん……」と、切れ切れに謝罪の言葉を口にした。
「…………」
 シーツに包まったマリンは勿論その言葉を聞いていたのだが、今回限りはそうそう簡単に許してやるつもりは無い。
「本当に……悪かったよ……」
「…………」
 なおも謝ってくる義兄に、マリンは無言のままシーツから顔を出すどころかピクリとも動かなかった。

 シーツにすっぽり包まっていても、デンゼルがどれ程必死に謝っているのか雰囲気で良く分かる。
 しかし…。

『いくら謝っても、絶対に今日は許してやらないんだから!!』

 マリンは心底腹を立てていた。
 途方に暮れているデンゼルに、やはり心配になって様子を見に来たティファがそっと近寄った気配がする。

「マリン……」
「…………」
「ねぇ、何があったのか知らないけど、許してあげたら?」
「…………」
「本当にデンゼル、後悔してるみたいだし…」
「…………」
「ね?少しお話だけでも聞いてあげて欲しいな…」
「…………」

 いつもなら、ティファがこうして間に入ったら渋々でも承諾するマリンだが、今日に限って全く応える気配が無い。
 ティファは眉を寄せると困ったような顔をしてデンゼルを見た。
 息子は今にも泣き出しそうな顔をして、シーツの膨らみをジッと見ている。
 ティファが溜め息を吐き、デンゼルを促してそっと子供部屋から出て行った後も、マリンはシーツから顔を出す事無くジッと息をひそめるように微動だにしなかった。
 脳裏に先程の友達とのやり取りが甦る。


『もういい加減にしてよ!本当にマリンって夢が無い!』


 そう言って、可愛く結った髪を揺らし、可愛いフリルの着いたスカートの裾を翻して駆けていった同性の友達。
 その友達を追いかけて去って行く他の同性の友達も皆、貧しいながらに精一杯の女の子らしいお洒落をしている。
 そして…。
 皆が去って行く間際に自分を見たシラッとした眼差しに…。
 マリンの小さな胸がズキンと痛んだ。
『またやっちゃった……』
 後悔の思いに囚われる。
 しかし、それでもその女友達を追いかけて謝る事は出来なかった。
 何故なら今回の件に限り、謝るという行為は自分を否定する以外の何ものでもなかったからだ。

 ただ……。
 周りにいた友達と自分の価値観が違っただけ…。
 ただそれだけなのだ…。
 怒って去ってしまった友人達は、自分とは違う価値観を持っており、それをマリンに受容されなかった事に対して腹を立てた。
 一方マリンは、友人達の考えにこそ同意出来なかったものの、だからと言って自分の価値観を押し付けるつもりは毛頭無かった。

『自分の考えと私の考えが違うからって……あんなに怒る事ないじゃない……』
 マリンは溜め息を吐いた。

 別に自分が現実主義者である自覚が無いという訳ではないし、今回はただ質問されたから正直に答えただけ…。
 それなのに、同性の友達は腹を立てて去ってしまった。
 そして、その友達に付き従うかのように他の子達も軽蔑の視線を投げかけて無言でその友達を追いかけたのだ。
 取り残されてなんとも理不尽な思いに囚われているマリンに…。


『マリン……今みたいな時はウソでもいいから話しを合わせろよ……』


 呆れたような義兄の言葉。
 マリンは信頼していた兄に裏切られた気分がした。
 それと同時に、『質問に答えただけなのに…』という理不尽な思いが急速に大きくなった。
 腹立たしい気持ちと悲しい気持ち。
 それらが小さな胸を支配し、涙腺を刺激して危うく涙が零れそうになった時…。


『そんなの今更じゃん』
『そうそう。マリンは現実主義者だからな。女の子みたいな発想は持ってないって』
『それに、馬鹿が付くほど正直者だからさぁ、そんな話を合わせるなんて芸当、絶対に無理だって』
『そんな事ないって。マリンは女の子だよ。ただ、ちょっと大人びてるだけだってば!』


 その場にいたデンゼルと特に仲の良い男の子達が可笑しそうに笑った。
 マリンは新たなショックを受けた。
 同性の友達だけでなく、異性の友達たちまでそう自分を評価している。
 自分の味方をしてくれたのは、自分とも特に仲の良いたった一人の男の子だけ…。
 しかし、その衝撃も次のデンゼルの言葉には到底敵わなかった。


『まぁ…そうだよなぁ。女の子みたいな発想を持ってるマリンって……なんか想像出来ないし……むしろ気色悪い』


 マリンはデンゼルを思い切り突き飛ばし、公園から全速力で逃げ出した。
 背後から、唯一マリンの味方をしてくれた男の子が『マリン!』と慌てて叫ぶ声がしたが、それでもマリンは足を止める事も振り返る事も無く、無我夢中で走り続けたのだった…。




 シーツにすっぽり包まってその時の事を思い出したマリンは、ジワジワと胸に苦いものが込上げて堪らなくなった。

「なによ……デンゼルのバカ!!」
 自分の味方に真っ先についてくれるはずの兄が、ああもあっさりと心無い友人達側についてしまった事が悔しくてたまらない。

「分かってるもん…私の考えが可愛くない事くらい……」

 女の子の友達が、ウットリとしながら『物語の中のお姫様』に憧れ、話に花を咲かせていた時も、自分はどうしてもその輪の中に入れないのだから…。

「でも……仕方ないじゃない……。どうしても皆と同じ様に思えないんだもん…」

 マリンはそう呟いて、シーツの中でギュッと枕を抱きしめ、丸くなった。


 その時…。
 何やら階下が再びけたたましい音を立てた。
 誰かが勢い良く店に入って来たらしい…。
 マリンはその入ってきた人物にすぐ思い至ると、すぐにベッドから飛び起きるとその人物が部屋に入って来られないよう、ドアに鍵をかけてしまった。

 案の定…。

 ガチャガチャ…。
 ドンドンドン!!

 子供部屋のドアが強くノックされ、ドアの外から、
「マリン!ねぇ……マリンってば!!さっきの事は気にするなよ…!皆、本当にそう思ってるわけじゃないんだからさ…。ちょっとからかっただけだよ……。だから……マリン、ここから出てきて一緒に遊びに行こうよ…!」
 先程、公園で唯一マリンの味方をしてくれた仲の良い男の子の一生懸命な声が響いてきた。


 マリンは再びベッドに潜り込むと、耳を塞いでギュッと眼を瞑った。

 どうしても…。
 どうしても今日は許せなかった。
 自分の味方をしてくれなかったデンゼルも…。
 唯一自分の味方をしてくれた男の子も…。
 そして、自分を馬鹿にしたような目で見て去って行った女の子達も…。
 全部が疎ましかった…。
 そっとしておいて欲しかった…。


 暫くドアの外から男の子の呼び声がしていたが、やがて諦めたのか静かになった。

『なによ……。皆…大嫌い!!』

 マリンはジッとシーツに包まったまま、いつの間にか眠ってしまった…。




 ふと気付くと、部屋の中は真っ暗になっていた。
 かなりの時間、眠ってしまったらしい…。
 階下の気配を窺うが、シンと静まり返っており、とても店を営んでいるようには感じられない…。

『まさか……、ティファ、お店を休んじゃったのかな……』

 一眠りしたお陰が、頭がスッキリとして物事を冷静に考えられるようになっている。
 その為、昼間、自分がしてしまった数々の情けない姿に、羞恥心が湧いてきた。
 その上、どう考えても店を休んでいるらしい事から、マリンは昼間の自分を呪いながら慌てて部屋のドアを開けようとした。

 ノブがガチャガチャと引っかかって開かない。
 そこでようやく自分が部屋に鍵までかけてしまった事を思い出し、何とも情けない気持ちで一杯になる。
 急いで鍵を開け、ドアをそっと開く。
 一階はシンと静まり返っているが、明かりが漏れている。
 誰かが店内にいるようだ。

 子供部屋に鍵をかけてしまったのだから、部屋に入れなかったデンゼルがティファと共に店内にいるのだろう…。

 マリンは気まずさを両手一杯に抱えながら、そっと階段を下りて行った。


「……でも、俺はマリンは凄く女の子らしいと思うな…」
 ふいに耳を突いたその言葉に、階段の途中で足を止める。
 声の主は、先程自分に部屋の外から必死に呼びかけてくれた男の子。
 息を飲むと、そのまま聞き耳を立てる。
 一方、店内にいる男の子達はマリンが聞き耳を立てている事に気付いていないようだ。
「俺だって…別にマリンが女の子じゃないって言ってるわけじゃないって……」
 デンゼルの拗ねたような声が聞えてきた。
「じゃあ、なんであの時、マリンの味方をしてやらなかったんだよ…」
 呆れたような男の子に、
「そうよ、デンゼル…。きっと、マリンはデンゼルが自分の味方をしてくれなかった事が一番ショックだったんじゃない…?」
 ティファが溜め息を吐きながら同意した。
「う……だってさぁ……」
「……まぁ…デンゼルの言いたい事も分かるけどさ…」
 言葉に詰まったデンゼルに、男の子が苦笑交じりにそういうのが聞えてきた。

『なんでデンゼルの言いたい事も分かる…なんて言うわけ……』

 マリンは男の子に対してムッとしながらも、同時にチクリと胸が痛むのを感じた。
 自分には分からない、男の子同士で通じるものがあるのだろう…。

「ねぇ…キッド君?デンゼルの言いたい事って…?」
 マリンの気持ちを代弁したかのように、ティファが尋ねてくれた。
 思わず身を乗り出して階下を窺うマリンに、キッドの良く通る声が聞えてきた。

「あぁ…えっと…。悪い意味じゃないんですけど……マリンとデンゼルが凄く仲が良いのをからかう奴もいて…。昼間、その子達がマリンをからかったんです。それで、その時にもしもデンゼルがマリンを庇ったら、ますます調子に乗っちゃうから…。だからあの時、デンゼルはマリンをはっきり庇えなかったんだと…」
 だろ?デンゼル…。

 キッドの言葉に、マリンは目を丸くした。
 マリンのいる場所からは階下にいるティファ達の顔は全く見えないが、それでもデンゼルが顔を赤くしてそっぽを向いたのが良く分かった…。

「まぁ…それでもあんな言い方は良くなかったと思うけど……」
「…分かってるよ……うるさいな…。俺だって言い方悪かったって思ってるんだから……」

 膨れっ面になっているだろう義兄に、友人とティファが苦笑を漏らしている気配がする。
 マリンは胸が一杯になり、一気に階段を駆け下りた。


「「「マリン!?」」」


 びっくりした三人が、店内へ飛び込んできたマリンを凝視する。
 マリンはそのままデンゼル達の前まで走って行くと、
「ごめんなさい!!」
 ガバリと頭を下げた。

「う……?」
「え……?」
 戸惑う男の子達と違い、ティファは嬉しそうに目を細めるとマリンをギュッと抱きしめた。




「それで…マリンは何の話をしてたの…?」

 子供達に特製ココアを入れ、自分はコーヒーを手にしてティファが尋ねた。
 マリンはカップを手に、キョトンとしてティファを見上げる。
「ああ…、詳しい話は俺達も知らないからティファさんには話せてないんだ」
「そうそう。俺達が知ってるのは、『マリンが王子様とお姫様が幸せになるお話を馬鹿にした!』って女の子達が怒ってた事だけだし…」
 キッドとデンゼルの説明に、マリンは「あ、そうなんだ」と納得すると、一口ココアを啜ってから話しだした。


「えっとね。友達の一人が『シンデレラ』になりたい…って言ったの」
「「「シンデレラ?」」」
「うん」
 首を傾げる三人に、マリンはコックリと頷いた。

「シンデレラって、あの『継母と義理のお姉さん達に苛められてたけど、魔法使いのおばあさんにお姫様にしてもらって、お城に忍び込んで王子様と出会って……そんで、王子様と一緒にいられるのが夜中の十二時までだったから、さっさと逃げ出した時にガラスの靴を落っことした』ってドジな女の子の話しだろ…?」
「………なんか…デンゼルの説明って微妙におかしい気がするけど……」
「大まかに言ったら……そうなるのかしらね……」

 キッドとティファが苦笑いを浮かべながらそう評する。
 デンゼルはキョトンとしていた。
 マリンは、そんな三人に吹き出しそうになりながら「うん、まぁ…そのお話なんだけど…」と、話を続ける。

「それで、最後に王子様と結ばれてシンデレラは本物のお姫様になるでしょう?そうやって、いつか王子様が自分を探しに来て、幸せにしてくれたら良いな……って友達達が言ってたの」
「ふぅん…。そうなの…」
「それで…何で喧嘩になったんだ?」
 不思議そうな顔をする三人に、マリンはココアをもう一口啜って溜め息を吐いた。
「うん……だからね…。その……」
「「「?」」」

 モジモジと言い難そうにするマリンにますます首を捻る。
 マリンは意を決して口を開いた。


「その…『シンデレラ』になりたいって言った友達に…『シンデレラが美人だったから王子様も探したのよ。それって、本当にシンデレラの事を好きになったんじゃないんだから、結婚して幸せになれるかどうか分からないよ』って言っちゃったの……」

「「「………………………………」」」

「わ、私も言いすぎたな……って思ったんだけど……。あんまりにもその子が『シンデレラが羨ましい!』ってうるさいから…。それに、私に『マリンもそう思うでしょう!?』って当たり前みたいに聞いてきたから、つい本音が出ちゃって…」

「「「………………………………」」」
「………………………やっぱり…私が悪かった……かな……?」

 マリンがリアリストなのは十分分かっていた三人も、この話には開いた口が塞がらなかった。
 しかし…。
「…マリンの言う通りだよ……」
 キッドが感心したように呟いた。
 マリンを初め、デンゼルとティファもびっくりしてキッドを見た。
 キッドは、何度もうんうんと頷きながら、マリンにニッコリ笑って見せた。

「俺もマリンの言う通りだと思うな。もしも『シンデレラ』が普通の女の子だったら、いくら魔法使いのおばあさんの力を借りてお城の舞踏会に紛れ込んだとしても、きっと王子様の目には止まらなかったよ。普通の貴族の坊ちゃんとかならシンデレラに惹かれたかもしれないけど…。王子さまだもんなぁ…。綺麗なお姫様を沢山見てきたような王子様を一目惚れさせたんだから、やっぱりシンデレラは美人だったんだよ。うん、マリンは本当に凄いな」

 感心しきりにマリンを褒めるキッドに、マリンはポッと赤くなった。
 デンゼルとティファが呆気にとられて見守っている。

 そして…。

「なんか……キッドが言うとめちゃくちゃ説得力あるよな…」
「そうね…。キッド君って…マリンと考え方が似てるのね…知らなかったわ」
「俺も知らなかった…」

 キッドに賛成されて上機嫌になったマリンは、嬉しそうにキッドと話しこんでいる。

「やっぱりそうよね。もしも王子様が『普段から苛められても負けないで頑張ってるシンデレラを見てて、惹かれた』んだったらそれは本当にシンデレラの事が好きなんだと思うの」
「うんうん。そうだよな。見た目で惹かれるのがまぁ、一番多いと思うけど、案外『見た目と中身は大違い』って多いしな…」
「そうよね!」
「そうだよ!」
「ああ、良かった。私だけ考えがおかしいのかと思っちゃった」
「そんな事ないって。少なくとも、俺はマリンの考え方に賛成だな」

 異様な盛り上がりを見せる二人に、全くついていけないデンゼルとティファは、顔を見合わせて苦笑した。
 なにはともあれ、マリンの機嫌が良くなったのだ。
 こんなに喜ばしいことは無い。

 ティファは、マリンの機嫌を良くしてくれたキッドへ、お礼に夕食をご馳走する事にした。
 その案に、デンゼルとマリンは諸手を挙げて賛成した。
 勿論、キッドは最初は遠慮したのだが、三人に押し切られるかたちになり、結局ご馳走になることにした。

 カウンターの中でティファと一緒に夕食の手伝いをしているマリンは、さして広くもない店内を貸切にしてはしゃいでいるデンゼルとキッドの姿に、満面の笑みを浮かべた。
「ねぇ…ティファ…」
「ん?」
「ごめんね…」
「何が?」
「えっと…。お店をお休みしてもらった事とか…。昼間、心配してくれたのに拗ねちゃった事とか……」

 恥ずかしそうにそう言うマリンに、ティファは口元を綻ばせた。
「マリン。良いのよ、たまにはああやって癇癪起こしても」
「…うん…でも…」
「マリンは普段、我慢しすぎ。だから、腹が立ったら怒ったら良いし、悲しかったら素直に泣けば良いのよ?」
 ティファの温かな言葉に、マリンははにかむように笑って見せた。


 やがて、キッドを交えて夕食の席に着いた。
 子供達は良くしゃべり、良く食べた。
 そして、食後のデザートにミックスジュースを出した時、店のドアベルがチリンチリン…と可愛い音を立てて開かれた。
 現れたのは、セブンスヘブンの住人の一人。

「「クラウド!!」」

 マリンとデンゼルが飛びついて「「おかえり!」」と嬉しそうに言う。
 クラウドも笑顔で子供達をヒョイと抱え上げた。

「ただいま、デンゼル、マリン」
「おかえりなさい、クラウド」
「ああ、ただいま、ティファ」

 柔らかな笑みを浮かべてティファに向き直ったクラウドに視界に、デンゼルとマリンの友人が映った。
「来てたのか、キッド」
「こんばんわ、クラウドさん」
 子供達をそっと下ろすと、ニッコリと笑って自分を見上げてくる少年の頭を、クラウドはクシャリと撫でた。
 くすぐったそうに肩を竦めるキッドに、ティファが嬉しそうな顔をした。

 こんな風に、家族以外に接するクラウドの姿が本当に嬉しい。

 クラウドは店が臨時休業だった事を不思議に思っていたのだが、その理由をティファとデンゼル、そしてキッドから聞きながら夕食を摂った。
 初めは、マリンがいつもに比べて口数の少ない事を気にしたものの、話の内容からその理由を知り苦笑した。

『相変わらずだな……』

 わが娘のリアリスト振りが健在な事に、苦笑するほか無い。
 しかし…。

『まさかマリンと同じような価値観を持つ子供がいるとは……』

 目の前でデンゼルと楽しそうに話をしている少年に、クラウドは何だかホッとするものを感じた。
 少なくとも、マリンが『リアリスト』という性格で一人苦しまなくてはならない状況にならないで済むようだ…。


「それじゃ、また明日ね!」
「うん、またな!」
「明日はフリスビーで遊ぼうぜ!」
「うん、良いなそれ!」
「それじゃ、明日いつもの時間にフリスビー持って集合だぞ!」
「了解!じゃ、またな!」


 キッドを乗せたフェンリルがあっという間に遠ざかる。
 遅くなった為、クラウドがキッドを送る事にしたのだ。

 夕食の方付けをしながら、マリンはティファと話に花を咲かせていた。
 意外にもその内容は…。

「あのね、ティファ…」
「うん?」
「私、『シンデレラ』のお話をあんな風に言っちゃったけど、本当は『物語』って好きなのよ」
「…そうなの?」
「うん。だって、最後は幸せになれるお話が多いでしょう?」
「……そうね…。うん、幸せになれないお話もあるけど、大体はハッピーエンドね」
「でしょう?だから、私、本当は『物語』大好きなの。ただ……」
「ただ…?」
「その、『主人公があんまり努力しないで、周りの人が一生懸命になってくれたから幸せになれました…。』って言うのは好きじゃないんだ…」
「ふふ…。本当にマリンらしいわね」
「…変かな…」
「そうでもないと思うわ。少なくとも、マリンのその部分は私も同意見だし…」
「本当!?」
「うん。まぁ、マリンくらいの年齢の頃は、そんな風に考えた事なかったわね…。単純に『白雪姫』とか『眠りの森の美女』とかに憧れてたわ…」
「……王子様が助けに来てくれる…ってやつ?」
「うん。だって、自分の為に王子様が必死になって助けに来てくれるなんて…。素敵じゃない?」
「うぅん……私はどっちかと言うと、一緒に頑張りたいけどな…」
「プッククク…。本当にマリンらしいわね。まぁ、今の私はマリンと同じだけど…。少なくともマリンの年頃は、純粋に『自分の為の王子様』ってやつに憧れてたわ」
「ふぅん…」
「マリンは『自分の王子様』とかには憧れないの?」
「……うぅん……何か良く分からないけど……でも……」
「でも…?」
「……………ちょっと憧れてる事はあるかな……」
「……?」
「えっとね……。その………」
「うん…」
「……デンゼルには言わないでね?」
「……?」
「あのね、その…。『物語の最後』って、王子様がお姫様を『抱っこ』するでしょう?」
「……『お姫様抱っこ』のこと?」
「…うん。あれに……ちょっと憧れてるんだ……」
「そうなの!?」
「ティ、ティファ!声が大きいよ!!」
「あ、ごめんごめん…。でも……そうなんだぁ……マリンも『お姫様抱っこ』に憧れてるんだぁ!」
「…ティファも?」
「え…エヘヘ…。実は……ね…」
「今も!?」
「…………少し……」
「クラウドがいるのに!?」
「……クラウドにこんな事言わないでよ!?」
「………………」
「マリン!!」
「クラウドにしてもらったら良いのに…」
「だ、だめよ!絶対にダメ!!」
「なんで?」
「な、ななななんでも!!」
「………恥ずかしいの…?」
「……………………………」
「ティファって本当に恥ずかしがりやだねぇ…」
「……………………………」
「まぁ…クラウドも恥ずかしがりやだから、『ティファをお姫様抱っこしてあげて』って言っても、してくれない気がするけど…」
「……………………………」
「でも…。クラウドが家出から戻ってきてくれた時点で、これから先、何があってもクラウドとティファの物語は『ハッピーエンド』って決まってるから、あとは『お姫様抱っこ』で完璧なのに…。勿体無いなぁ…」
「……………………………」




 キッドを家に送り届けたクラウドが目にしたものは、真っ赤な顔をしているティファと、何やらしきりに頭を捻って考え事をしている娘の姿だった。

「……どうしたんだ…二人共……」
「さぁ…。俺、風呂に入ってたから分からないんだけど……」
「聞いても教えてくれそうに無いな」
「だね…」

 セブンスヘブンの男性陣は苦笑し合って肩を竦めた。


 その日の晩。
 子供部屋では、遅くまでデンゼルとマリンが一生懸命頭をつき合わせてうんうん唸っていた。
 その悩みに悩んだ作戦が上手くいくのかどうかは……また別のお話し。



 だが…。



 数日後に、子供達の部屋とクラウドとティファの寝室に…。
 クラウドにお姫様抱っこされたティファと、そんな二人を満足そうに見上げている子供達の写真が飾られることになった。
 それは…。
 セブンスヘブンの住人と、デンゼルとマリンの友人の男の子だけの知る秘密…。




 あとがき

 はい。何だか良く分からないお話しになっちゃいましたが…。
 実はこのお話しは、素敵イラストサイト様『BLUE BELL』様の1818キリ番イラストから萌え〜♪になってしまって突発的に思いついたお話です。
 とっても素敵なイラストなのに……出来たお話が…これ……(ダク汗)。
 おおう、本当に申し訳ないです、TAMA様(土下座)。
 こんなお話しでも宜しければ…TAMA様にお捧げします〜〜(平身低頭)
 皆様にも少しでも楽しんで頂ければ……幸せです(^^)。