「来ちゃダメ!!」

 女性の鋭い声とモンスターの咆哮、そして、人々の甲高い悲鳴が重なった……。



モンスターパニック




 その事件が起こったのは、うららかな午後。
 ティファが店のソファーでうたた寝をしているクラウドを店に残し、買い物に出掛けた時だった…。


 今日は配達の仕事が休みの日。
 いつもなら、休みの日には子供達と一緒に過ごすのがクラウドの日課であるのだが、デンゼルとマリンは気を利かせたのか友達と一緒に遊びに行ってしまった。

「「行って来ま〜す!!」」

 満面の笑みで手を振る子供達に、いささか拍子抜けした顔をしながらクラウドが見送ったのは小一時間ほど前になる。
 子供達と遊ぶつもりでいたので、何だか肩透かしを喰らった気分がしたのだ。
 クスリ…と笑うティファを軽く睨むと、照れ隠しにさっさと店に入る。
 そして、ティファに「コーヒー飲みたい」と一言だけ言うと、ソファーにゴロン…と寝転がった。
 目の上に腕を置く彼の姿が、どこかふて腐れている小さい子供みたいで余計に可笑しくなってくる。
 クスクス笑いを止められないまま、「はいはい、ちょっと待っててね」と軽く返事をし、こうしてコーヒーを煎れていたのだが…。
 ほんの少しの時間しか経っていないのに、愛しい彼はあっという間に眠りに入ってしまったようだ。
 よほど、疲れていたのだろう…。

 眠るクラウドの傍らにそっと近付くと、その端整な寝顔を見つめる。
 顔の上に置かれた腕の隙間から見える彼の長い睫、少し開いた口元、規則正しく上下する胸。
 あどけない顔をして眠るクラウドに、ティファは笑みを深くした。
 彼がこうして心を許し、うたた寝してくれる相手が自分であるのが、本当に嬉しい。
 いつまでもこうして、彼のあどけない寝顔を見て過ごしたい。
 穏やかな……ふんわりと甘い雰囲気に包まれて、ティファは幸せをかみ締めた。
 そっとクラウドにブランケットをかけ、店の椅子をソファーの傍に運んで腰掛ける。
 飽きる事無くクラウドの寝顔を見つめ、胸に灯る温かな明かりを抱いてティファは幸せだった。

『こんなに……静かな時間を持つことが出来るなんてね…』

 身に過ぎた幸福ではないだろうか…?
 今にもこの幸せな時間が壊れてしまうのではないか…?
 そんな言いようの無い不安が一瞬よぎる。
 自嘲気味に笑みを浮かべると、ティファはゆっくり頭を振った。
 どうも、こういう『ささやかな幸せ』という時間を持つことがなかったせいか、疑心暗鬼な考えに囚われてしまう。

『ダメダメ!そんな暗い考えしてたら、幸せが逃げちゃうんだから!!』

 軽く自分の頭を叩いて、苦笑する。

『しっかりしろ、ティファ・ロックハート!』

 自分に叱咤激励すると、ティファはそっと眠る愛しい人の頬にキスを贈った。
 そして、ソファーの傍にあるテーブルにメモを残し、買い物に出掛けたのだった…。



 いい天気のせいか、街にはいつも以上に人が溢れているように感じられた。
 街行く人達の表情は様々だ。
 嬉しそうな人、困った顔をしている人、切羽詰った表情で急ぎ足に歩く人、どこか夢見がちな表情でゆっくり歩く人。
 そんな人達に紛れて市場に向かう。
 その途中で子供達が遊んでいる公園を通りかかった。
 何やら楽しそうにサッカーをしているデンゼルと、それを応援しているマリンが見える。

 声をかけようか…?

 一瞬だけ迷ったが、ゲームに夢中になっている子供達になんだか悪い気がして、そのままそっと公園を後にした。

 公園から少し歩くと、エッジの中心になる。
 バハムート・シンが大暴れした記念碑は、きちんと修復されておりその前で旅行に来ているらしい集団が記念写真を撮っていた。
 ピースをして楽しそうに写真を撮っているその集団に、不快感が込上げる。
 記念碑は……Vサインをして撮るような軽々しいものではない。
 星を救った『彼女』を象徴しているものだ。
 ティファはそう思っている。
 そして、本来記念碑とは自分達が人間が星に対して犯した過ちを決して忘れないように創られたもの。
 その記念碑の前でVサインとは…。

「なんて非常識なのかしら…」

 思わず苦々しい言葉が口から漏れる。
 そう思っていたのはティファだけではないようだ。
 記念碑の前の集団に、エッジの住人達が幾人も足を止め、渋面を作っている。
 しかし、だからと言って誰も何も言わない。
 ただその非常識振りに憤りを感じ、不快な光景に背を向けて再び歩き出す。
 ティファは何やら情けない気持ちになったが、さりとてわざわざその非常識な集団に注意をする気にもなれず、幾人もの人達と同じ様にその集団に背を向けて市場へ歩き出した。

 その時。
 幾つもの出来事が同時に起こった。

 記念碑の前を通り過ぎようとしたトラックが、飛び出してきた子供に驚いて急ハンドルを切った。
 タイヤが悲鳴を上げる甲高く耳障りな音と共に、対向車が慌てて急ブレーキを踏む音が重なる。
 人々の悲鳴と……。
 トラックが横転する音が混ざり合う。

 記念碑前はあっという間に喧騒に包まれた。
 しかし、その喧騒がただの『喧騒』でなくなったのはその直後。
 横転したトラックから運転手がなんとか自力で這い出し、集まった人々に支えられる。
 思わずティファもその現場に駆けつけた。


「ああ!!!か、鍵が!!!!」


 横転したトラックのトレーラが奇妙にへしゃげており、バー状の鍵が歪んで浮いている。
 運転手は蒼白になって叫んだ。

 なにかそんなに大事なものが入っていたのだろうか?

「大丈夫だって、誰もこんな大観衆の前で火事場ドロボーなんかしやしないさ」
「そうそう。アンタ、命があって良かったよ、ほんと「それどころじゃない!!

 運転手を支えていた人と、その周りにいた人達が苦笑しつつそう慰める。
 その言葉を運転手は声まで蒼白にして遮ると、訝しそうな顔をしてワラワラと集まってくる人達…そして、自分を支えてくれている人達に向かって…。


「今すぐ……今すぐ逃げろーー!!!」


 運転手の悲鳴とも言えるその大声に、「へ?」「なに?」とわけの分からない野次馬達と運転手を支えていた人達がポカンとする。
 しかし、それも僅か数秒後には、驚愕と恐怖に彩られた。



 メキッ!
 ガンッ、ガンッ!!
 グルルル……!!!



 横転したトラックから恐ろしい物音が響く。
 気付かないわけにはいかなかった。
 あのトレーラの中に『いる物』に…。
 ティファの中でサイレンが鳴る。
 そして、それは周りにいる街の人達も同様だった。
 あっという間に記念碑前はパニックに陥った。
 運転手を支えていた人達が、そのまま運転手を抱えるようにしてその場を逃げ出す。
 ティファはモンスターが街の人達に危害を加える前に退治するべくトレーラに駆け寄ったが…。


 バキッ!!!


キャーーー!!!」「う、うわーー!!!

 あと少し…という所でモンスターが飛び出してしまった。
 ティファの背丈を軽々飛び越え、逃げ惑う人々に襲い掛かる。
 急停止して反転し、モンスターを追ったティファの耳に危険な唸り声が響いた。
 ギョッとして振り返り、身を伏せる。
 間一髪でモンスターの爪をかわし、ティファはそのまま地面をゴロゴロと転がりながら次の攻撃を避けた。
 そして、両足を揃え、反動をつけて起き上がると同時に自分に向かって肉薄していたモンスターの眉間に踵落としを喰らわせる。
 そのままモンスターの眉間を踏み台にして、もう一頭のビースト型モンスターへ向かって跳躍した。
 紫色の体毛をしたモンスターが逃げ惑う人々に爪を振り上げる。
 それを後ろから回し蹴りで蹴り飛ばすと、
「早く逃げて!!」
 恐怖で腰の抜けた女性を助け起こしてその背を押し、ティファは再びモンスターに向き合った。
 最初に踵落としを喰らわせたモンスターは既に立ち上がって怒り狂って突進してきている。
 身の丈はバレットを軽く越え、その体重は恐らくティファの十倍は軽くあるだろう…。
 そんなモンスターの攻撃をひらりとかわし、身を深く沈めて渾身の力で鳩尾に拳をめり込ませる。
 人間相手ならこの一撃で悶絶死するだろうが、赤毛のモンスターには軽いダメージしか与えられなかったらしい。
 怒気を孕んだ咆哮と共に、ティファに向かって野太い腕を振り落とそうとする。
 サッと頭を引っ込めてその一撃をかわしたティファに、新たなサイレンが鳴る。
 直感だけで後ろに跳躍したティファが目にしたのは、たった今まで立っていた地面にめり込むようにして蹴りの攻撃をしていた紫色の体毛をしたモンスター。
 ありえないその攻撃力に、ティファの全身が総毛立つ。

 ズキズキと手が痛む。
 買い物に出ただけなので、グローブを持ってきていないのだ。
 グローブを装着していないと、モンスターへの攻撃の付加がそのまま自分へダメージとして帰ってきてしまう。
 必然的に、蹴り技が主体となった攻撃になるが、それだけではどうもこの二体のモンスターは退治出来そうにない。
 どうしても…。
 どうしても『ファイナルヘブン』を繰り出さなくては勝ち目はない。

『あ〜、私ったら抜けてるんだから!』

 用意の悪い自分に腹が立つ。
 クラウドが家出をした頃にはちゃんとグローブを持って出歩くという習慣があったのに…。

『平和ボケしちゃったのかな…』

 溜め息を吐いた時、二体のモンスターが突進してきた。
 ギュッと手を握ってパッと開く。
 ズキズキと鈍い痛みが走ったが、それを『気のせい気のせい!まだまだ!!』と自分に言い聞かせ、ティファは大きく息を吸い込んだ。





「おいおい…」
「やっぱ流石の英雄でも…」
「やばいよな…」

 既にモンスターとの死闘を開始して十分以上が経過している。
 その間、逃げ惑う人々が何もしなかったわけではない。
 運転手の話により、モンスターを運ぶ予定だったのがWROの研究室である事がわかったので、即に通達してある。
 あと数分でWROの精鋭部隊が到着するだろう。
 しかし、その数分間が問題だ。
 明らかにティファの息が上がっている。
 遠巻きで見守っている街の人達にモンスターが気をとられたりしないよう、自分に意識を向けさせつつ二体同時に神経を尖らせているわけで、その消耗はかなり激しい。

「やっぱり…はぁ…きつい…なぁ…はぁ…」

 これがあの旅の頃ならば、仲間達がいてくれたので安心して目の前の敵だけに集中していれば良かった。
 しかし、周りにいる人達は戦闘からはほど遠い生活をしている一般人。
 助けになるとはとても思えない。
 そればかりか、命の危険があるにも関わらず、遠巻きで見守っているので気が散って仕方ない。
 いつ、モンスターが街の人達に意識を移してしまうか分からないのだから…。

「お願いだから…とっとと…遠い所に…逃げて…頂戴よね…!」

 大声でそう叫びたいのだが、そうするともしかしたらモンスターがそっちに興味を持ってしまうかもしれない。
 二頭同時に、バラバラの方向に街の人達へ襲い掛かったらとてもじゃないが助けられない。
 大惨事になることはまず間違いないだろう…。
 絶対にそんな事態は避けなくては!!


 ビュンッ!
「「「ヒッ!!!」」」

 モンスターの腕が唸りをあげてティファの頭部を掠める。
 遠巻きに見守っていた人々から声にならない悲鳴が上がる。
 紙一重でそれをかわしたティファを、もう一頭のモンスターがすかさず襲い掛かる。
 攻撃をかわした体勢から再び新たな攻撃を受けたティファの華奢な身体が宙を舞う。

「「「キャッ!」」」「「「ティファちゃん!?」」」

 短い悲鳴とティファを知る人々の叫び声が上がり、幾つもの目が零れんばかりに見開かれる。
 しかし、ティファは多くのギャラリーの前でスタン…と地面に降り立つと、襲い掛かってくる二頭のモンスターにこれまでと変わりなく応戦した。
 殴り飛ばされたわけではないことにホッと安堵の溜め息が漏れる。
 しかし、状況は甚だ宜しくない。
 WROの精鋭部隊をヤキモキしながら待つ人々が、焦燥感いっぱいにティファを見守る。
「おい、どうするよ…」
「どうするって言ったって…」
「これ以上近付いたら、絶対にティファちゃんの足を引っ張るって…!」
「そうは言うけどよぉ…!」
「キャッ!あんな所に子供が!!」
「「「「え!?」」」」
 一人の女性の甲高い声に、言い合いになりそうだった街の人達が一斉に指差す方を見る。
 そこには、茶色いフワフワした髪を持つ少年と、お下げの少女が手に手に石を持って駆けつける姿があった。

「「「「ゲッ!?デンゼルとマリン!?!?」」」」

 傍にいた大人達の制止を振り切り、真っ直ぐティファの元へ駆けて行く。
 女性達が口元を覆って悲鳴を上げる。
 男性達が慌てて子供達を呼び戻そうと物陰から身を乗り出し、駆けつけようとする。
 そして…。

「来ちゃダメ!!」

 ティファの茶色の瞳が可愛い子供達を捉えて驚愕のあまり、見開かれる。
 自分の危機に思わず駆けつけてしまった二人の子供達。
 意識がモンスターから子供達に反れてしまったその一瞬を、二頭は見逃さなかった。

「「ティファ!!!」」
「!?」

 子供達の悲鳴にハッと振り向いたティファの視界一杯に、モンスターの狂気に満ちたどす赤黒い目が広がる。
 突き出した口元は大きく開かれ、ギラギラとした牙を唾液が伝っている。
 幾度となくかわしてきた野太い腕が、今度こそかわしきれない距離まで迫っている…。


『やられる』とも『まずい』とも思う余裕など微塵もなかった。


 ティファの頭部が吹き飛ばされる。






 …かのように見えた。






「「グワアアァァァァアア!!!!」」

 二頭の獣から苦痛に満ちた咆哮が上がる。
 真っ赤な鮮血が噴き出し、地面を赤く染め上げる。
 苦悶にのた打ち回る巨体に呆然と視線を落としていたティファだったが、少し離れた地面に突き刺さっているバスターソードに気付き、パッと顔を輝かせた。

「「「クラウド!!!」」」
「「「「「え!?!?」」」」」」

 ティファとデンゼルとマリンの歓喜の声に、ギャラリーから驚きの声が上がる。
 三人が見つめる視線の先へ目をやると…。

「「「「おお!!!」」」」

 大きなバイクに跨ったジェノバ戦役の英雄が猛烈な勢いでやって来るのが見えた。
 エンジンを最大限に吹かせ、眦をキッと上げた英雄達のリーダーの姿が、輝いて見えたのは目の錯覚だろうか…?

 歓声を受けて記念碑の前に到着したクラウドは、まずティファが無事かどうか素早く確認した。
「大丈夫か!?」
「うん、大丈夫!」
 急ブレーキをかけて危うく転倒しかけそうになりながらも、軽々と大きな車体を操ってそれを避けたクラウドに、自然とティファの表情が緩む。
 言いようの無い安堵感が胸に広がり、『もう大丈夫!』と心の底から確信する。
 先程までとは全然違う。
 命がけの死闘が、ただの『モンスター退治』になってしまった。

「「クラウド〜!!」」
「もう大丈夫だ。危ないから下がってろ」
「「うん!」」

 半泣きになっている子供達に穏やかに微笑んで見せると、二人は満面の笑みで頷き、物陰へ走っていった。
 そこにいた街の人達が子供達を庇うように慌てて引き寄せるのを見て、クラウドはホッと息を吐き出した。

「遅くなってすまない…」
「ううん!大丈夫!」

 並んで立つ二人の目の前で、二頭のモンスターが怒り狂って起き上がった。
 それぞれ右腕と左腕が深く傷つけられている。

「クラウド、よくあんなに離れたところから武器を投げて当てられたわねぇ…」
「………俺自身、驚いてる……」
 夢中だったからな…。

 ボソッと呟かれたその言葉に、どうしようもなく嬉しくなる。
 まだまだ戦いは終わっていないのに、気が緩んでしまうのは彼の存在が自分の中で『絶対』だからだろう…。

「来るぞ!」
「はい!!」

 余裕を取り戻した英雄と、愛しい人を傷付けられそうになったことから怒り心頭の英雄に、モンスター一頭ずつが襲い掛かる。
 自然に出来た一体一の勝負は、それまで戦っていなかったクラウドの方が先に片付けてしまった。
 いつの間にか黄色い声援が二人に向けられている。

『おいおいおい…こんなに残ってたのか!?』
 それまで、これだけのギャラリーの命を必死に守ろうと頑張っていた彼女に、胸が苦しくなる。
 ティファは、紫色の体毛をしたモンスターを相手に、足技のみで戦っていた。
 クラウドは漸く彼女がグローブも無しで闘っていたことに気づいた。
 胸の苦しみが……大きくなる。

 彼女が最も助けを必要としている時に…俺は……!!

「「「「あ!!」」」」」「「「「「キャーー!!」」」」」

 ティファがモンスターの攻撃をかわした際、バランスを崩して立ち上がりに失敗した。
 その一瞬にモンスターから強烈な一撃がティファの眉間を狙って……。


 メキッ!!


 何かが折れる音と…。

ウグワアアアァァァァァァアアア!!!!!

 苦痛に喘ぐ咆哮。


「いい加減に……」
 底冷えするような冷たい声音と怒りに満ちた魔晄の瞳。
 クラウドに『みねうち』とは言え、思い切り打ち込まれた腕が奇妙な形に屈折している。
 モンスターのどす赤黒い目がクラウドを標的に細められた。
 しかし…。

「大人しく眠ってろ!!」

 ガゴッ!!

 強烈な回し蹴りがモンスターの顎にクリティカルヒット。
 更に、ティファを傷つけられて頭にきていたクラウドは、宙に浮いたその巨体に自身の最強技をクリティカルヒットさせた。
 容赦のないその攻撃に、苦悶の呻き声も上げる事無くモンスターは地面に倒れ伏した。

 ワッと歓声が上がり、子供達が駆け寄る。
 街の人達も興奮気味に英雄達に駆け寄ると、口々に賞賛の言葉を並べ、惜しみない拍手を送った。
 そして。
 そんな中、WROの精鋭部隊が到着したのだった。



『いやぁ…本当に申し訳ない』
「いや、誰も被害を被らなかったからな。運が良かった」
『それにしても、やはりクラウドさんとティファさんはお強いですね!あなた方がいるところでこういう事故が起こったのは、ある意味『不幸中の幸い』だと思いますよ』
「まったくだ。これが他の町ならとんでもない大惨事だぞ…」
『本当に、ありがとうございました。ティファさんにもお礼を言っておいて下さいネ』
「ああ。それにしても、リーブから電話があった時はびっくりした」
『すいません。うちの隊員が着くよりもクラウドさんのほうが早いと思ったんです。…ま、自宅に居てくれれば…ですが、ね。運良くお休みだったとの事で助かりました』
「フッ。本当にな。これが仕事先からだったらヤキモキして仕事どころじゃない」
『本当ですね。はぁ…。本当に感謝です。では…』
「ああ。それじゃ、頑張れよ」
『ええ、ありがとうございます』

 リーブとの通話を終え、クラウドは改めて深い溜め息を吐いた。
 そして…。

 気が進まないまま店内に戻る。
 何故、無事にモンスターを退治し、WROに引き渡すことが出来た英雄がこんなに重い足を引きずるようして店内にイヤそうに戻るのかと言えば…。


「「「キャー!!」」」
「「「おおお!!!」」」

「「「「英雄にかんぱーい♪」」」」

 モンスター退治の一部始終を見ていたギャラリーのほとんどがひっきりなしに店にやって来ているのだ。
 本当は、あんなことがあったので店を休み、ティファをゆっくりとさせてやりたかった。
 だから……。
『悪いが、今夜、店は休みだ。ティファをゆっくりさせてやりたいし…』
 と言ったのに…。
『大丈夫!!俺達が全部するから〜!!』
『そうそう!英雄にそんなことさせるだなんて恐れ多い!!』
『『だから〜、ほら!!』』
 嬉しそうに見せられたものは、酒と食材の山・山・山!!
『!?』
 目を剥いて驚くクラウドを玄関先に置き去りにし、ギャラリー達はカウンターの中で家族の夕飯を作ってたティファをカウンターから追い出して…。
 呆気に取られるセブンスヘブンの住民を尻目にさっさと準備していた料理や酒、グラスを取り出して…。

 宴会が始まったのだった。

 確かに…彼女は仕事をしていない。
 しかし……ゆっくり出来ないではないか!?
 ずーっと誰かに囲まれてるし!!
 それに、その囲んでいるのはどうみても下心がありそうな野郎ばかりだし!!
 クラウドはめまいを覚えた。
 そこにリーブからの電話がかかってきたのだ。
 事務所から聞えてくる電話の音に、渋面をする。
 子供達がそっと気遣わしげにクラウドの傍に行くと、「大丈夫だよ」「うん、ティファの事はちゃんと見てるから」と背中をそっと押してくれた。

『…できた子供達だ…』

 感動しつつ、クラウドは二階の事務所にやってきて、そうしてリーブから感謝の言葉を受けたのだった。


「それにしても、クラウドさんってホンットウにカッコイイっすね〜!!」
 いささか酔いの回った若者が、ニヘラニヘラ笑いながらフラフラと近付いてきた。
 正直、酔っ払いの相手はしたくない。
 これまで配達先で宿屋兼酒場というところに泊まったこともあったが、酔っ払いに話しかけられて穏当に終った記憶はない。
『勘弁してくれ』
 うんざりしながら若者が隣に座るのを結局許してしまう。
「あ〜、俺、今日のお二人の戦いぶりを見て感動したッス!めちゃ、信頼してるんだなぁ…って思って!!」
「え……?」
 若者の意外な言葉に、クラウドは目を丸くした。
 若者はすっかり酔っていて、驚いてるクラウドに気付いていないらしい。
 あっちにフラフラ、こっちにフラフラと座ったまま上体をフラフラさせていて、見ていて実に危なっかしい。
『そのうち、どこかで頭とかぶつけるんじゃないか!?』
 ハラハラしながら若者の身体の動きを目で追うクラウドに、
「やっぱ…クラウドさんとティファさんは『英雄』って肩書きに相応しいッス!勿論、そんなものがなくても十分魅力的なカップルだなぁ…とか思ってたんスけど、やっぱなぁ…こう……凄い!もうあの紫のモンスターにかましてくれた必殺技、あ〜、なんていうンスか?あの…滅多切りの奴」
「『超究武神覇斬』……」
「ふぇ〜…カッコイイっすねぇ…。おれ、益々憧れました〜!」
「そうでしょう!?」
「クラウドってメッチャカッコ良いよな!!」
 いつの間にかティファを引っ張ってクラウドの傍にやって来ていた子供達が、その若者の言葉に嬉しそうに目を輝かせて話しに加わった。
「うんうん!デンゼル君とマリンちゃんが自慢したくなる気持ちが良く分かった〜」
「だろう!?」「でしょう!?」
 声を揃えて嬉しそうに笑う子供達に、ティファと目を合わせて苦笑する。

 一体…どんな話を普段しているのやら…。

 だがしかし。
 こうして手放しに褒めてくれるのが可愛い子供達だと思うと、不快に思うどころか逆にくすぐったい。

「俺、おっきくなったら絶対にクラウドみたいになるんだ!」
「私は……ティファみたいになりたいけど……」
 無理かな…?

 ちょっぴり困ったような顔をしてチラッと見てくるマリンが可愛くて…。
 クラウドはフッと笑みをこぼした。

「大丈夫さ。まぁ、ティファくらいまで強くなれるかはちょっと分からないけど、それでも近付くことは出来る。マリンはしっかりしてるから、内面がティファに似てて、素質は十分だ」
 お下げ頭を優しく撫でると、愛娘は心から嬉しそうにコロコロと笑った。
「あ〜!俺は、俺は!?」
「フフ…。デンゼルも大丈夫!だって、クラウドみたいに優しくて真っ直ぐだもん。デンゼルもクラウドみたいに芯の強い部分が似てるから大丈夫よ」
「へへ…サンキュ!」
「おいおい、俺は芯が強くなんか…」
「強いわよ。でなきゃ、こうして一緒にいることは出来なかったわ。あの旅の途中で死んでるもの」
「ティファ…」

 極々自然に見つめ合う。
 穏やかに笑みをかわして二人の世界に突入!!という時、英雄達はハッと気付いた。

 …自分達に突き刺さる好奇の視線の数々に。

 ギョッとして周りを見渡すと、いつの間にやらお祭り騒ぎをしていた街の人達が固唾を呑んで見守っているではないか!
 中には携帯の写メールを撮ろうと待ち構えている者もいる。

「な!?」「ちょ!?」

 真っ赤になって我に返った二人に、
「なぁんだ、残念!」
「このままラブシーン突入かと思ったのに〜!」
「いやいや、今のでも十分貴重なシーンだった…」
「こう、二人の世界〜vvvって感じだったなぁ〜」
「いやぁ、いいもん見せてもらった〜!!」
「「「「ごちそーさーん!!」」」」

 声をはもらせて笑う街の人達に、クラウドとティファは真っ赤になって、
「も、もう皆、とっとと帰れ!」
「きょ、今日は本当にありがと!もう休むから、ま、また明日お店に来て」
 どもりながら捲くし立てた。

 子供達が嬉しそうに笑い声を上げる。
 街の…常連客達も…嬉しそうに笑う。
 中にはガックリと肩を落としてトボトボ店を後にする哀れな姿もチラホラ。

 そんなセブンスヘブンを満天の星空が静かに見守っていた。




 あとがき

 るらん様、お待たせしました〜!!
 99599番リクエスト『エッジに強いモンスターが現われて、町の人の声援のなかクラウドとティファが闘って退治する‥闘ってる姿を子供達が見て、ますます憧れる‥♪』です。

 ……。
 ………。
 …………す、…すいません!!(激しく土下座)。

 いや、なんかもう…。これしか思い浮かばなくて(滝汗)。
 頑張ったんですけどね…本当にゴメンナサイ。
 良かったら貰ってやって下さい。(勿論、返品可です 汗)

 リクエスト、ありがとうございました!!(脱兎!)