「は!?!?」

 クラウドは携帯を握り締め、たった今聞かされた話に耳を疑った。



無自覚な二人はバカップル




 携帯を乱暴に折り畳み、愛車に跨って思い切りエンジンを噴かす。
 タイヤが悲鳴を上げるのを完全に無視をして猛然とクラウドは荒野を駆け出した。
 走りながら、ひたすら今日の配達のキャンセルを依頼人に入れまくる。
 クラウドの切羽詰った声音に、渋る依頼人は一人もいなかった。


 そりゃそうだろう……。
 一体この星のどこに『ジェノバ戦役のリーダー』が鬼気迫る勢いでキャンセルを告げてくるのに対し、不満を口に出来ようか…。


 子供達がその話を聞いてそっと呟くことになるのだが、それはまだまだ先の話。
 クラウドは猛然と荒野を駆けながら、心の中でただひたすら、願っていた。


 子供達の身の安全を…。

『もしもデンゼルとマリンに傷一つでもつけてみろ…。あいつ等全員、殺してやる!』
 身の毛もよだつ恐ろしい誓いを心に立てて、クラウドは目的地の建物を睨み付けた。
 そして、愛車から武器を取り出すと、腰のホルスターにセットする。
 完全に戦闘モードに入っているクラウドは、殺気を隠そうともせず、乱暴にそのドアを開けた。

 ドアを押し開け、クラウドが目にした光景は……。



「…………なんだ……これは…?」
「あ!クラウド、!?」
「クラウド、仕事はどうしたの?」
「よぉ、久しぶりだぞっと」
「…………元気そうだな……」
「まったく慌ただしい…。まぁ、それがキミらしい…というものなのだろうが…」
「あ〜、クラウドさん!お久しぶりです!ヴィンセントさんにお会いする事が会ったら、助けて下さったことをどうしてもお礼が言いたいのでお伝えして頂けませんか?」

 和気藹々(あいあい)とタークスと談笑している子供達の姿。
 あまりにもその和みに和みきった雰囲気に、意気込んできたクラウドは呆然と入り口で立ち尽くした。

「デンゼル…マリン……あのさ……」
「うん?なに?」
「どうしたんだ、クラウド?」
 無邪気に駆け寄り、ニコニコと見上げてくる子供達の姿に、自分の聞いた話がとんだ見当違いであったこと気付かざるを得ない。
 しかし、だからと言って……そうすんなり納得出来るものではなく、むしろ疑問が頭を一杯に埋め尽くす。

「何故デンゼルとマリンはここにいるんだ?いや……それよりも何よりも……一体何をしてるんだ……?」

 頭痛がする…。
 この和みきった雰囲気からはどう考えても『誘拐』ではないだろう…。

 先程、かかってきた電話を思い出し、クラウドは額に手をやった。
 ティファの泣き出しそうな声が脳裏に甦る。


『マリンとデンゼルが…ヒーリンにいるルーファウスに攫われたの!今からすぐに私も向かうけど、クラウド……お願い、力を貸して!!』


「あ、それ?外で遊んでたらたまたまルードのオッサンとレノのオッサンに会ったんだ!」
「それで、久しぶりだしたまにはゆっくりおしゃべりしようって事になって」
「それに、色々面白いものがあるって言うしさ!」
「うんうん!本当に面白いの!これ見てクラウド!この宝石、光を当てると色が変わるんだよ!世界でも貴重な宝石なんだって〜!綺麗だよねぇ!!」
 すっかり寛いで……楽しんでいる子供達にクラウドは何とも言えない空虚感を覚えた。
 なにしろこっちは、誘拐された子供達を救出するつもりで乗り込んできたのだ……。
 それなのに、事実は全く正反対。
 誘拐どころか……。

「久しぶりに二人でのんびりしたら良いと思ったんだぞっと…」
「そうですよ。ですから子供達を預かったって言うのに」
「迎えに来るとは…。よほど私達が信用ならないとみえる…」
「……………心外だ」

 不思議そうに首を傾げるイリーナとレノ、面白くなさそうな顔をするルードとツォン。
 そして…。

「折角、あの時の……カダージュの一件の借りを返そうと思ったのだが気に入らなかったか?」
「ルーファウス……」

 白いスーツに身を包んだ金髪の青年。
 タークス達の主でこの建物の持ち主が、フフン…と鼻先で笑いながら椅子にふんぞり返って座っている。
 小バカにした態度はいつものことながら、その表情が面白そうに笑みを湛えているのを見てクラウドは今回の『誘拐云々』がルーファウスの軽い悪戯だったとピンときた…。
 というか……分からない方がどうかしていると言うほどの……満面の……嫌味な笑み。

「…………ルーファウス…」
「フッ、どうしたクラウド?そんなに喜んでもらえるとは、色々台詞を用意した甲斐があったというものだ」
「一体ティファに何を言ったんだ!?」

 今にも噛み付かんばかりに声を荒げるクラウドに、子供達はびっくりして目を丸くした。
 タークスの面々はと言うと…。
「社長……」
「……やっぱり俺達がティファに話したほうが良かったんだぞっと…」
「………後悔先に立たずだな」
「本当にもう……しょうがない人ですねぇ…」
 口でそう言いながらも、何故かツォン、レノ、イリーナは満足そうだ。
 そして、部下達にこう評されたルーファウスは、全く悪びれもせずにシレッとした態度で足を組みなおす。
 その空気に、クラウドの神経は逆撫でされたが、子供達の目の前で怒声を上げる事も出来ず、怒りを堪えてフルフルと拳を振るわせた。
 そんなクラウドの様子が、ルーファウスにとっては非常に心楽しいものであるらしい。
 実に嬉しそうな(一般的な目で見たら嫌味満載で)笑みを深めた。

「なに、事実を言ったまでだ。『前回のカダージュの一件では大変世話になった。その礼として子供達は我々が面倒を見るので、せいぜいその間、クラウドと楽しい一時を過ごすんだな』とな」

「「「「「………」」」」」

 大人達はその言葉に絶句した。
 その台詞はどう考えても……。

「それってさぁ…」
「悪役そのもの〜…って台詞だよね」

 デンゼルとマリンが呆れたような顔をして、金髪の青年を見やった。

「と、とにかく…」
 コホン…と、凍りついた場の雰囲気を少しでも変えようと、ツォンが咳払いをして口を開く。
「…クラウド、ティファに電話をした方が良いだろう…。今頃、心配のあまり気が気でないだろうから……」
「!?そ、そうだな」

 ツォンに言われて、クラウドは慌てて胸ポケットから携帯を取り出した。
 そして慣れた手つきで操作し、通話ボタンを押す……とまさにその時。


 キキキーーーーッ!!!!
 バタンッ!!!!


「「「「「…………」」」」」

 明らかに急ブレーキをかけて止まった車の音と共に、これ以上無いくらい乱暴に閉められたドアの音が外から聞えてきた。
 そして、荒々しく駆けて来る足音……。

「あ〜…」
「遅かったみたいだね…」

 デンゼルとマリンが引き攣った笑いを浮かべて大人達を見やる。
 社長以外の大人達全員が、強張った顔をしてドアを凝視している。
 これから巻き起こるであろう『超ど級の嵐』に全身が硬直している様だ。
 そして、大人達の予想は間違いではなかった。


 ドゴッバキッブンッメコッ!!!!


 異音が室内に鳴り響いたかと思うと、レノとルードの顔面すれすれを、ヘシャげたドアが高速で飛んで行き、壁にめり込んだ。
 タークスとクラウドの全身から汗が噴き出す。
 子供達はあまりの光景に驚き過ぎてポカンと口を開けた。
 ポーカーフェイスの青年も、目を丸くしてドアのあった場所を凝視する。
 タークス四人とクラウドの耳にこびりついた先程聞いた音に、身体が金縛りにあったように動かない。

 ドゴッ(ドアが変形した音)バキッ(ドアが外れた音)ブンッ(ヘシャげたドアが高速で飛んで行った音)メコッ(ドアが壁にめり込んだ音)

 今までこんな異音を聞いたことがあっただろうか?いや、ない!!
 そして、そのドアがあったはずの場所には……。


ルーファウス……子供達はどこ!?


 ヒィッ!!!!
 ルーファウスとツォン以外の全員が息を飲んだ。

 既に硬直していた大人達だけではなく、子供達も真っ青になるほどの形相をした……母親代わりの姿。
 全身から殺気が放出されており、近寄っただけで星に還ってしまいそうだ。
 デンゼルとマリンは、自分達を救出に来てくれたはずのティファから思わず身を隠した。

 すなわち…。

 父親代わりの足にしっかとしがみついた。

「ティファ……落ち着け…」
「クラウド!?それに…デンゼル、マリン!!」

 顔面にびっしりと汗を浮かべたクラウドに声をかけられたティファが、その足にしっかりとしがみついている子供達に気付く。
 そして、歓喜の表情で駆け寄ると、ひしっと子供達を抱きしめた。
 デンゼルとマリンは、たった今、ティファの起こした『現象』に真っ青になっていたが、きつく抱きしめられたことにより、自分達をいかに心配してくれたのかが心に染み渡り、ジーンとなる。

「ごめんね…心配かけて」
 涙声で言ったマリンに、ティファが「良いの、無事だったんだもの!」と言葉を詰まらせた。
 デンゼルは涙をこぼさないよう、目を瞬かせてグッと唇をかみ締めている。
 その光景は、本来ならば心打たれる感動のシーンであると言うのに……。

「ドアを蹴破った事実と……」
「この光景って……」
「…………ギャップが激しいぞっと…」
「「…………」」

 ツォンとイリーナ、そしてレノの呟きにクラウドとルードが反対できるはずが無い。
 頬を引き攣らせながら二人は沈黙を守った。
 そんな異様な光景の中。
 ルーファウスだけがニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべてゆったりと腰をかけていたのだった…。



「それで、一体何の嫌がらせなわけ!?」

 人心地着いたティファが眦をあげて社長たる青年を睨む。
 ルーファウスはシレッとした顔のまま、
「普通に声をかけただけでは招待に応じてくれないと思ったので、少々趣向を凝らしてみたまでだ」
 と言った。
 その表情がいかにも悪戯が成功した子供のようで、タークス達は額に手を当てたり、憮然としたり……。
 今更ながら、自分達の雇い主の性格に疑問を抱いたのだった。

 その気持ちは当然クラウドも同様で…。

「何考えてるんだ…アンタ達の雇い主は…?」
「……聞かないでくれるとありがたい」

 すぐ傍に立っているツォンに囁きかけ、彼の疲れ切った声音に心から同情したのだった。
「それにしても…人が悪過ぎない…?」
 ホッと一息ついたティファは、タークスと子供達の説明を受けてジト〜ッとルーファウスを見やった。
 肝心の社長は、悪戯が成功したので至極ご機嫌だ。
「フン、別に嘘は言ってない。カダージュの一件で世話になったのは本当だからな。その借りを返す為に子供達を二日間引き取って二人仲良く甘い一時を過ごしてもらおう……という私の提案は、中々良いものだと思うのだが…?」
「………アナタの性格の悪さは死んでもなおらないわね」
 冷たい一言に全くめげる事無く、神羅の社長は楽しそうな笑い声を上げた。
 その間、タークスとクラウドは終始、無言だ。
 子供達は大人達の複雑なのか単純なのか良く分からないなりにも、黙って顔を見合わせ肩を竦め、ルーファウスが見せてくれていた宝石類をまじまじと見つめるのだった。

「それにしても……」
 ティファが子供達の方へ顔を向ける。
 デンゼルとマリンは、咄嗟に身体を強張らせたが、ティファの関心が手元にある宝石の類である事に気付き、顔を綻ばせた。

「これ…本当に凄いよな!!」
「光で色が変わる宝石があるなんて、全然知らなかった〜!!」
「なぁなぁ!!これってどこで掘った宝石?」
「すっごく高いんでしょう!?」
「ふっ…まぁな。採掘された場所は眠りの森……とか言っていたか…」
「「へぇ〜〜!!」」
 子供達が無邪気な笑顔で椅子にふんぞり返っているルーファウスにキラキラした目を向ける。
 そんな子供達に自尊心の高い社長が喜ばないはずが無い。
 益々ニヤニヤと得意げな笑顔を浮かべている。
「神羅って二年前からあんまり目立ってないけど、やっぱり社長は社長なんだな〜」
 感心しきりにうんうん、と頷くデンゼルに、ルーファウスは頬をピクリと引き攣らせたが、それでもデンゼルとマリンが心から『社長って凄い!!』と思っていると感じ、すぐに満足げな笑みに戻った。
「ふぅん…。社長さんかぁ…。WROで言ったら、リーブのオジサンみたいなものだよね?」
「うんうん、そうだよな?社長???」
「ああ、まぁな」

 かつての部下の名前に、ルーファウスのこめかみがピクピク痙攣したが、それでもやはり……。

「社長か〜!」
「社長って凄いんだねぇ!」

 そうニコニコと満面の笑みで自分の周りをちょろちょろ、ピョンピョン、興味津々に、無邪気に跳ね回る子供達を可愛く思わずにいられようか…!?
 いや、無理だ!!
 ニヤニヤ笑いが止まらない金髪の青年は、完全に子供達の手の平に乗せられているようなものだ。

「……恐るべし……無垢な子供……」

 ツォンが、「社長さん!」「社長さ〜ん!」とすっかり打ち解けてじゃれる子供達を見てボソリと呟いた。



「なぁなぁ、ティファ!この宝石って見たことある?」
「私、初めて見たし、聞いたこともなかった〜!」
「すっごく綺麗だよな!」
「これ、ネックレスにしたらすごく豪華だよね〜!」
「ティファだったら、こっちのルビーとかが似合うだろうなぁ」
「ん〜……でも、こっちのダイヤも捨てがたいよね!すっごく大きいし!!」
「「ティファはどれが良い?」」
「………誰もやるとは言ってないぞ……」

 子供達の無邪気な言葉に、ルーファウスが苦笑した。
 ティファは子供達の言葉に、改めてまじまじと宝石類を見つめ、ほう…と溜め息を吐いた。

「本当に綺麗よねぇ…」

 吐息のようにそう囁くティファは、うっとりと茶色い瞳を細めてどこかしら潤んで見える。
 その彼女の表情に……。

 大人達(イリーナ含む)が大なり小なり胸をときめかせた。
 勿論、露骨に表情に出したのは同性のイリーナと、いつもひょうきんなレノだけ。
 ツォン、ルーファウスは自尊心に欠ける行為と思っているのか、僅かに目を見開き、視線をそらせる。
 ルードに至っては、サングラスで表情が隠れている事を幸いにほんのりと頬を赤らめてそっぽを向いて終った。
 しかし、当然彼女の恋人たるクラウドは堂々と…………。



 していなかった。



 視線を反らせたグループよろしく、同じ様に頬をほんのりと染めて顔を背ける。
 その仕草を視界の端に映したイリーナは、ちょっぴりからかいたくなったものの、折角ジェノバ戦役の英雄が怒りを忘れてくれているという幸運を手放す愚行に走る事無く、そっと笑いをかみ殺した。

「ま、なにはともあれ、子供達は今夜くらい面倒見るんだぞっと」
「そうですよ。その為に私達、今日から二日間は仕事を入れないようにしたんですから。ゆっくりなさって下さい」

 レノとイリーナがのほほんと声を掛ける。
 クラウドとティファは顔を見合わせると困ったような表情を浮かべた。
 そんな親代わりを尻目に、
「あのさぁ、俺達そんなに面倒かけてないだろう?」
「そうだよ、さっきから酷いなぁ」
 と、デンゼルとマリンが少々頬を膨らませる。
 クラウドとティファが子供達に「勿論その通り」と言うより早く、イリーナとレノが子供達の目線に合わせてしゃがみ込んだ。
 そして、クシャクシャと子供達の髪をそれぞれ撫でる。
「勿論、二人が良い子だって知ってるよ」
「でも、時には二人っきりになりたいと思うこともあるんだぞっと」
「それが大人の事情ってやつなんだよ」
「そうそう。デンゼルとマリンも大人になったら分かるんだぞっと」

 レノとイリーナの言葉に子供達は小首を傾げながらも「そんなもん?」「あ〜、でも確かに私達がいたら二人きりでゆっくりは出来ないね」などと納得している。
 慌てたのはクラウドとティファ。

 そして…何故か……ルード。

 三人が真っ赤な顔をして口をパクパクさせているのを、ツォンは気の毒そうに、ルーファウスはニヒルな笑みで見やった。

 レノは相棒が茹蛸のようになって反対しようとすることくらい想像していたが、そこは親友として……仕事のパートナーとして……。
 心を鬼にする事に固く己に誓っていた。
 即ち…。


「相棒…。もうそろそろ新しい春を探すんだぞっと…」
「!?!?」


 肩をポンと叩き、耳元でそっと呟いて悟りを開かせようとする。
 当然のことながら、その言葉をすんなり受け入れられるなら、とっくの昔にティファへの淡い恋心を断ち切れているはずで…。

「…………」
「な?ホラ見てみろ。あの二人…」
「…………」
「一緒に住んでもうかれこれ二年以上経つっていうのに、未だに初々しさが抜けてないんだぞっと」
「…………」
「倦怠期というものを全く感じさせない二人に、付け入る隙があるはずないんだぞ……と…」
「…………」
「これ以上、淡い想いを捨てきれなかったら、お前はこれから先の人生、寂しく終ってしまうんだぞ……と」
「…………」
「という訳で、今日を限りに綺麗に、スッパリと、諦めて………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……はぁ…、無理なのかなっと…」
「…………」

 レノは、相棒の視線が目の前の想い人にのみ注がれており、自分の忠告が右から左に流されている事をイヤでも知った。
 溜め息を吐いて首を振るレノに、イリーナがそっと近寄って囁く。

「やっぱり…難しいですね…」
「ああ…。相当重症だなっと…」
「ルード先輩、一途ですからねぇ…」
「やれやれ…。人生、諦めも肝心なんだぞっと…」
「レノ先輩だって諦めよくないじゃないですか…」
「そうかなっと…?」
「そうですよ。それにしても…」
「……やれやれ、折角『社長の案』に便乗して作戦を立てたのに、無理だったか…」
「そうみたいですね、ツォンさん…」
「「「はぁ……」」」

 今回の作戦。
 それは、プライドの高いルーファウスが、クラウドに借りを残したままでいる事に耐えかねて、急遽思い立った『子守り案』に『ルードの淡い恋心を昇華させよう』という案を便乗させた作戦。
 ルーファウスが、ただ単純にクラウドへの借りを返すはずが無い。
 絶対に『ドッキリ作戦』的な効果を狙うであろうことは、容易に想像出来た。
 そして、社長は部下の期待通り、ワザと『子供達を誘拐した』ような台詞でティファに『子供達を預かる』旨を伝えてくれたのだ。
 子供達が誘拐されたらクラウドとティファが一体どういう行動に出るか…?
 それも簡単に予想がつく。


 ― 何としても救出してみせる!! ―


 そして、脇目も振らずにその意志を決行するだろう。
 そうして、クラウドとティファもまさに三人の期待通りにやって来た。

 これまで、二人のラブラブな姿をまともに見た事が無いルードが、そのラブラブなところを目撃したら!
 クラウドとティファの仲の良い姿を目の当たりにする事で、ルードの恋心が『過去』のものになるきっかけになるんじゃないのか!?
 いや、そうなる!!
 絶対にそうなるはずだ〜!!

 という作戦だったのだが…。


「どうやら、私達の期待通りに『ことが運ぶ』と言う幸運はここまでのようだな…」
「そうみたいですね…」
「はぁ……俺は悲しいぞっと…」

 三人の仲間が自分を哀れみに満ちた目で見つめている事に気付かず、ルードはティファの真っ赤になった表情に見惚れていた。
 そして…。

「もう!クラウドも何とか言ってよ!」
「え……いや…何を言えば良いんだ…?」
「そ、そんなこと私に言わせるつもり!?」
「そんなことって言っても……」
「もう!!クラウドのバカ!」
「バカって…。ティファ、とにかくちょっと落ち着け…」
「落ち着いてるもん!」
「いや、そんな真っ赤な顔されて言われても、全然説得力ないぞ…?」
「うぅ…。どうしてクラウドはそんなに落ち着いてるのよ!」
「いや…。別に俺だって落ち着いてなんか…」
「落ち着いてるようにしか見えない!」
「いや……そんな事言われても…」
「私一人、恥ずかしがってるみたいでバカみたいじゃない!」
「………本当に…そんな事言われても…困るんだが……」
「クラウドなんかもう知らない!」
「おい…なんでそうなるんだよ…」
「知らないったら知らない!」
「…ティファ、なんか良く分からないが俺が悪かった…」
「なによ、それ〜!」
「いや…本当に悪かった。謝るから機嫌直してくれ…」
「…バカ!」
「…だから、ごめんって…って痛いから、ティファ…」
「バカ、バカ、バカー!!」

 恥ずかしさのあまり、目に薄っすら涙を浮かべながら、半ば八つ当たりのようにクラウドの胸や腕をポカポカ叩く彼女の可愛すぎる仕草と…。
 そんな彼女を困った顔をして受け止めている幸せそうな青年の姿は…。

 一途な想いを抱き続けている男にとって、目の毒にしかならず…。

 ルードはガックリと肩を落とした。
 まる坊主にサングラスでしっかりとした体躯の男が肩を落とす姿…。
 それがどれほど哀愁漂うものであるのか、筆舌し難い。
 赤い髪と黒髪、そして金髪のタークスはそっと心の中で涙した。
 全く気付かず、ご機嫌なのは社長だけ…。

「本当に二人共、いつまで経っても子供みたいだよな」
「そうだよね。恋愛とかに関したら、私達と変わらないよね」

 いつの間にか、タークス達の足元にやって来ていた子供達が、呆れたように親代わりの二人を評している。
 坊主頭以外のタークス達が、コックリと無言で頷いた。


 結局。
 タークス達の仲間を思った作戦は失敗に終わり…。
 子供達も親代わりの二人に引き取られ…。
 思わず砂を吐きそうな初々しい二人を散々見せ付けられて………終った。



「ルード先輩、元気出してください」
「そうだぞっと。女はティファ以外にも沢山いるんだぞっと」
「……まぁ、飲め」



 その日の晩。
 ご満悦な社長を除いて神羅の少ないメンバーが、ヒーリンの近くにある酒場で目撃されたとかなんとか…。



 ああ…
 哀れな男に誰か『愛の手』を…!



 あとがき

 由宇様リクエストです♪
『何故かヒーリン(社長&タークス)の所にいるデンゼルとマリンを迎に来たクラウドとティファがレノたちの前で無意識にイチャつき初め、そんな二人を見て落ち込むルード(笑)』というやつでした〜(^^)。
 落ち込むのをどうして表現したら良いのか凄く迷ったのですよね。
 う〜ん…本当に難しいリクでした…(^^;)。
 でも、書いててかなり楽しかったです♪

 本当にいつも報われない彼…。
 いつか報われる時は来るのでしょうか…?(← こない気が…強制終了(笑))

 リクエスト、本当にありがとうございました!!