その日。
 娘を溺愛しているバレットに一本の電話が入ったことがことの始まりだった…。

『父ちゃん!クラウドとティファが!!!』

 愛娘の悲痛な叫び声に巨漢の英雄は、油田開発という苦難の日々を共にしている仲間を放り出し、血走った目でエッジへとすっ飛んだ。






向き不向き






 クラウドは思った。
 自分がこれまで犯してきた罪が、一気にこの身を滅ぼそうと襲ってきているのではないか…と。

 ティファもまた思った。
 二年半前、アバランチで犯してしまった罪が、とうとうその代償を求めて降りかかってきたのではないか…と。


「クラウド、ティファ!この俺が来たからにはもう安心だぜ!!」


 ズキーーーーンッ!!!


 ただでさえ、激しい頭痛がしているのに、バレットの野太い大声は二人に大ダメージを与えた。
 思いっきり顔を顰めながら、
「た……頼むから……静かに……」
「わ、私…達は……大丈夫だから……も、帰って……」
 クラウドとティファは、荒い息をしながら懸命に身体を起こし、この巨大な災厄を追い出そうと試みる。
 だが、そう簡単にことは運ばないのがこの二人に課せられている運命なのかもしれない。

「なに言ってやがんでぃ!ガタガタ震えて真っ赤な顔してる奴が!!おらおら、さっさと横になりやがれ!!」

 ぐわしっ!!!

 大きな手で、起き上がろうともがいている二人の頭部を掴み、枕へ押し戻した。
 普段のクラウドとティファなら簡単に振り払えるだろうその手も、高熱を出して意識が半分朦朧としている状態ではとてもじゃないが太刀打ち出来ない。
 あっさりと枕に押し戻され、ついでにビショビショに濡れたままのタオルを顔に押し付けられた。

「ぐふっ…!」
「ひっ!つ、冷た…!!」

 二人の悲鳴など気にもかけず、バレットは戸口で固まっている子供達に振り返った。

「おうよ!俺様がバッチリ看病してやる。デンゼルとマリンは風邪が伝染(うつる)と大変だから、この部屋には立ち入り禁止だからな」

 ニッカリと豪快に笑ったバレットに、デンゼルは引き攣ったままベッドに押し戻された二人の親代わりを見た。
 ビッショリと濡れたタオルを顔面に乗せられた親代わり二人が、苦しそうにタオルを額にズラしている。
 どうやら窒息死しそうだったようだ。

『二人共……こ、殺されるかもしれない…』

 デンゼルはバレットを見た。
 自分が危うく仲間殺しになるところだったなど、露ほども気づいていない巨漢の男は、
「マリン、おめぇが父ちゃんを呼んだのは大正解だ!任せとけ、責任もって看病してやるからな!」
 愛娘に頼られたのがよほど嬉しかったのか、顔がデレデレと緩みまくっている。
 美少女を食べようとしている野獣のような光景。
 デンゼルは引き攣った笑顔を見せているマリンに初めて、
『この……大バカ野郎…』
 怒り……というよりも、呆れを覚えた。

 何故、助けを求めたのがバレットなのかマリンの心境が分からない。
 いや、勿論、バレットはマリンにとって養父だ。
 マリンとて、今まで風邪を引いたことくらいあるだろう。
 その時、バレットが手厚い看病をしたに違いない。
 その記憶があるからこそ、マリンはこの非常事態にバレットへSOSをかけたのだ。

 だが!

 どう考えてもこのチョイスは……ミスチョイス。
 クラウドとティファが、熱に浮かされた苦しい息の下、必死になってこの目の前の災厄を追い払おうともがいているのが窺える。
 ビショビショのタオルをなんとか額にずり上げたクラウドとティファが、ベッチョリと前髪を濡らしているのがなんとも痛々しい…。
 せめて、しっかりとタオルを絞ってやろう。

 そう思って室内に一歩踏み出したが、
「こぉら、デンゼル!俺の言ったこと聞いてたか?風邪が伝染(うつる)かもしれないから、立ち入り禁止だって言っただろうが」
 ヒョイ、と首根っこを猫のように掴まれて、あっさりと部屋から出されてしまった。

「ちょ、ちょっと、バレットのおっちゃん!!せめてクラウドとティファのタオルを」
「わ〜ってる。ちゃんと定期的に換えてやるから」
「ちょ、そうじゃなくて!!」
「心配性だなぁ、おめぇは。ここは人生の大先輩に任せて、お前達はどっか遊びに行っとけ、良いな?」

 無情にも鼻先でドアが閉められる。
 デンゼルが伝えたかった『せめてタオルをしっかりと絞ってやってくれ!』という言葉は、結局最後までバレットに伝わることは無かった。
 ドアが閉まる直前に、ドアの隙間から見えたクラウドとティファの表情…。

 あれは……死を覚悟した者の目だった……。

「……」
「……」
「……マリン…」
 たっぷり一分も経った頃、ようやく口を開いたデンゼルは、
「……ごめんなさい、なにも言わないで…」
 どっぷりと後悔に浸っている少女にそれ以上何も言えなかった。


 *


 元々は、クラウドがなんとなく体調不良を訴えたのが始まりだった……ように思うのだが、バレットの騒ぎでデンゼルもマリンも細かいことはよく覚えていない。
 クラウドとティファは同じ部屋で寝ているので、どちらかが風邪を引くと移ってしまう可能性が高い。
 しかし、幸か不幸か、これまで二人同時に寝込むことはなかったし、ここまで高熱を出してしまうこともなかった。
 だからこそ、今朝、子供達が店内兼、家族の食堂へと降りた時、ティファがまだ起きていないことに首を傾げ、クラウドとティファの寝室を覗いて、二人がベッドの中でガタガタ震えている姿に仰天してしまった。
 昨日までは確かに二人共、本格的な風邪の症状は無かったのに…。

 小さな子供だけでは看病など出来るはずはない。

 二人は役割を分担した。
 誰かにSOSを呼びかける役と、クラウドとティファに置き薬を飲ませて頭部を冷やしてやる役に。
 その結果が……。

「何で…バレットなんだ……」

 店の端っこですっかりしょげ返っているマリンに聞かれないよう、デンゼルはボソリ…と呟いた。
 とてもじゃないが、バレットの言う通りに遊びになど行く気になれない。
 かと言って、バレットを追い返して自分達だけで看病するのは…不可能だ。
 あの巨漢が、自分達の願いを聞き入れて大人しく帰ってくれる可能性は万に一つも無いだろう。

「はぁ……どうしようかなぁ……」

 デンゼルはアドレス帳を見た。
 そこには、クラウドとティファの大切な仲間達の住所と携帯の番号が書いてある。
 無論、ヴィンセントは住所不定。

 バレットという巨大な壁が登場してしまっている現在、その壁を乗り越えてくれる大物(おおもの)がどうしても必要だ。
 そんな人間……いるのだろうか…?
 …。
 ……。
 …いないかもしれない…。

 デンゼルは達したその結論に、ブルブルッと頭を振った。
 先ほど見た、クラウドとティファの『表情』を思い出す。
 あんなにもやつれ果て、本気で『死』を覚悟したあの顔…。

 ここで終らせてなるものか!

 デンゼルは決意を新たに、アドレス帳を睨みつけた。

 まず、ヴィンセントは除外した。
 彼が一体どこにいるのか全く分からない上に、携帯の操作に未だに慣れていないことを良く知っていたからだ。
 かけても繋がらないことが目に見えている…。

 次に消えたのはユフィ。
 あのお騒がせ娘のことだ、弱りきっているクラウドとティファを見て、看病する傍らでちょっかいを出すことは目に見えている。
 いや…もしかしたら、それこそ親身になって真剣に看護してくれるかもしれない。
 だが…。

『ダメだ…、こんな危険な博打、俺には打てない!!』

 涙を飲んでデンゼルは次のターゲットを探した。

 次に消えたのはナナキ。
 理由は…本当に失礼で申し訳ないが、人間じゃないから看病は難しいだろう…という判断だった。
 本当なら、一番看病に適した『人柄(?)』をしているだけに、この選択は辛かった。

 その次はリーブ。
 だが勿論のこと、すぐに却下された。
 何故かって…?
 そんなこと…一々説明しなくても痛いくらいに分かって頂けるだろう。
 この星で最も多忙を極めている人間としてリーブを挙げたとしても、誰も反論しないはずだ。

 残りは……シド。
 デンゼルはシドの文字を睨みつけた。
 唸りながら悩む。
 一番の適任者かもしれない。
 シドが…じゃない。
 彼の『妻』が…だ。

 だが…。

「なぁ、マリン…」
「……なぁに…デンゼル…」
「シドのおっちゃんところのシエラさんだけどさぁ……」
「うん……なに…?」
「………『おめでた』だって…言ってたよなぁ…?」

 そうなのだ!!
 実はつい一週間ほど前、シドが顔を輝かせながらセブンスヘブンに突然現れた!
 しかも、なんともビックリするような大ニュースを携えて!!

「うん……すっごく喜んでたよね」
「…だよな…」
「うん…、だから私、シドのおじさんに連絡しないで父ちゃんに連絡したんだもん…」
「「 はぁ…… 」」

 デンゼルとマリンはガックリと肩を落とした。
 どう考えても、『おめでた』の女性に重症(?)の人間の看病などお願い出来ない。

「こうなるくらいなら、お医者様を呼べば良かったよな…」
「うん……」

 消え入りそうな声で呟く。

 ここで説明しよう。
 二人は決して、医者を呼ぼうとしなかったのではない。
 クラウドとティファに止められたから呼ばなかったのだ。

 曰く。

『俺達は…不本意だが有名だ』
『そんな私達が二人揃って倒れた、だなんてバレたら…』


『『 俺(私)達に恨みを持つ輩が襲ってくるかもしれない… 』』


 クラウドとティファの言い分はもっともだった。
 そして、二人が何よりも恐れているのは、デンゼルとマリンという幼い子供をその危険に巻き込まないため…ということも充分過ぎるほど二人には伝わった。
 だから、医師を呼ばなかった。
 その代わりに…。

「あ〜〜…なんでバレットのおっちゃんなんだよぉ…」

 思わずこぼれた本音。
 ガシガシと髪をグシャグシャに掻き乱したデンゼルに、マリンの小さな肩がビクリッ!と跳ねた。

「…っく……ごめん……なさい〜…」
 ふぃ〜〜…。

 デンゼルはギョッとした。
 すぐに自分が失言を吐いたことに気づく。
 マリンが今回の『人選』でミスをしたことを痛烈に感じ、責任を重く受け止めていることを分かっていたのに、八方塞りな状態でつい本音が隠しきれなかった。

「ご、ごめん、マリン。俺も悪かったんだ、一緒に『まともな人』を選ばなかったから!」

 しゃくり上げて泣いてるマリンに必死に謝る。
 いつもなら気丈な少女が、こんなにも弱々しく泣いている姿は、デンゼルをますますパニックに追いやった。
 アワアワしながら、必死になって小さい肩に手を置いたり、頭を下げてみたり…。
 だが、マリンの涙は中々止まらない。
 今回の『親代わり二人揃って風邪引きました事件』で、これまで堪えていた色々なものが一気にドッと押し寄せたのだろう。
 泣き止むどころか、段々と大きくなっていく…。
 デンゼルの頭は既にショート寸前。

 こうなったら自棄だ。
 近所のおばさんに泣きつくしかない!
 あのおばさん達は、それはそれは『井戸端会議』が大好きだから、本当ならこんな『美味しいネタ』を提供するなんてもってのほか。
 だがしかし!
 ことは急を要する。
 早くしないと、2階で臥せっているクラウドとティファの命が危ない!(← 大袈裟です)。
 そんな事になる前に、一刻も早くまともな人を!!!

「マリン、俺、隣のおばさん呼んで来る!」

 涙で濡れた大きな瞳が驚いてデンゼルを見た。
 頬を涙で濡らした少女に、デンゼルは固い決意を示すようにコックリと重く頷く。

「このままじゃあ、クラウドとティファが危ない。そんなことになるくらいなら、近所のおばさん達に色々言われた方がまだマシだ!」
「でも…」
「大丈夫、じゃあ俺、ちょっと行って来るから…」

 マリンが縋るような目でデンゼルを見つめ、デンゼルはもう一度頷いた。
 そして入り口のドアに向かおうとした時。


『うぉぉぉおお!?!?』
 ドンガラガッシャーンッ、ベシャッ、ドシャーーーッ!!!


 2階からバレットの素っ頓狂な声と、なにかとても『イヤな音』が響いてきた。
 バッ!と二人揃って顔を見合わせる。
 無言のまま、猛然と2階に駆け上がり、ドアをノックもしないで乱暴に押し開けた。
 そこには…。


「デ……ンゼル……」
「マリ……ン……」

「「 クラウド、ティファ!? 」」

 そこには、大量のお粥でべとべとになったベッドに、半分棺桶に足を突っ込んだような顔をしているクラウドとティファが、自由に動かない身体を必死になってベッドから這いずり出し、床にへばりついていた。
 二人の胸元の寝巻きには、べっとりとお粥が付着している。
 襟ぐりから見える素肌は、二人共真っ赤になっていた。
 どう考えても、『発熱のための赤さ』ではない。
 二人の傍らには、いつの間に用意したのか、真っ赤な巨大エプロンを身につけたバレットが、どんぶり片手にオロオロとしている。
 ベッドサイドのテーブルには、これまたいつの間に用意したのか、携帯コンロとレトルトのお粥の空きガラ。
 一目で何が起こったのかが分かった。
 子供達は、オロオロと突っ立って邪魔になる巨漢を押しのけるようにしてクラウドとティファに涙を浮かべながら駆け寄った。
 クラウドとティファがこんな目にあったのは、自分達が二人を介抱して上げられるだけの力がないが故(ゆえ)…だ。
 その罪がとてつもなく重く感じられる。
 駆け寄って涙目の子供達に、クラウドとティファが残っている力を振り絞って口を開いた。


「「 医者を呼んで(くれ) 」」


 *


「幸い、お二人共基礎体力がしっかりしておられるので、この薬を三日間飲んで安静にしていたら大丈夫でしょう」

 ちょっぴり白髪の細身の壮年紳士である医師が、温和な表情で心配そうな顔をしている子供達に微笑みかけた。
 二人の身体からドッと力が抜ける。
 医師は苦笑しながら、
「それにしても、あのベッドは換えないといけませんね。それに、お粥は自力でなんとか食べられるくらいの力はあるみたいなので、介助は必要ないですから」
 子供達の背後で小さくなっている巨漢の男にそう告げた。

 そうなのだ。
 よくよく考えたら、最初からこうしておけば良かったのだ。
 看病をお願いするのではなく、二人が元気になるまでセブンスヘブンでボディーガードをお願いしていたら済んだ話。
 なんともはや…。

「俺達…」
「バカみたいだね…」
「うん…」
「なんで、こういう風に考えられなかったのかなぁ…」
「やっぱり、こういう不測の事態には正しい判断は難しいよね…」

 子供達のそんなやり取りを聞きながら、バレットは終始小さくなって、黙々とベッドのカバーを片付け、床に散らばっているお粥の残骸を拭き取った。
 その間、クラウドとティファは、浴室で着替えを行った。
 クラウドはデンゼルが、ティファはマリンが手伝いながら…。
 バレットは、
『そんなことさせたら、二人に風邪が伝染(うつる)かもしれないだろう!?』
 とは、もう言わなかった。
 自分が関わっても、ろくなことが出来ない事が身に染みて思い知らされたのだから、言えるはずもない…。

 そうして、それから三日間、バレットはセブンスヘブンで特に何もする事無く甲斐甲斐しく看病している子供達を、どこかしょげ返りながら眺めて過ごした。
 幸いなことに、医師は個人情報保護法精神がしっかりしているようで、クラウドとティファが揃って風邪を引いていることは世間で知られることは無かった。

 そうして…。


「バレット、三日間もボディーガードしてもらってごめんね」

 医師の診断どおり、三日目には二人共すっかり元気になっていた。
 満面の笑みを浮かべて全回復した親代わり二人を見つめている子供達に、バレットの心に隙間風が吹く。

「それにしても……」

 ボソリ…。
 クラウドが何かを言いかけて…やめた。
 バレットはその言葉の先を聞きたくないと思ったし、聞かなくても充分仲間が言いたいことが分かっていたので、
「じゃ、じゃあ、俺様は帰るわ、またな!」
 と、逃げるようにして帰って行ってしまった。


 それから数日後。
 バレットの油田開発グループのメンバーから電話が入った。
 どうやら、エッジから戻ったバレットは、ずーっと塞ぎこんでいるらしい。
 クラウドとティファ、デンゼルとマリンはそれぞれなんとも言えない顔をして同時に溜め息を吐いた。

「ま、まぁ…人間『向き不向き』があるから…」

 ティファのフォローに、それ以上誰も何も言わなかった。
 今回の珍事件で教訓になったこと。

 バレットは看病には向いていない!
 だから、なにかあれば、『ボディーガード』としてクラウドとティファが元気になるまで店にいてもらう。
 それがバレットには『向いている』。

「そのことが分かっただけでも……まぁ、良しとしようか…」
「「「 ……さんせ〜い……… 」」」

 どこか遠い目をしながらティファ達は、クラウドの言葉に力なく頷いた。

 そして。
 クラウドとティファは密かに誓った。


『『 絶対に二人同時に二度と風邪引かない!! 』』


 さぁ。
 今日も頑張ろう。

 四人が見上げた空は、四人の心境とは裏腹に、真っ青な青天だった…。




 あとがき

 また…。
 ギャグを書いちゃいました…汗)。
 だって〜〜!!

 はい、アフォ話しですいません。
 お話しの途中で笑って頂けたら嬉しいです♪(根っからの関西人マナフィッシュ)。

 ここまでお付き合い下さりありがとうございました♪