そう、それは運命の出会い…。
「本当だってば!もう、凄かったんだから!!」
「はいはい、分かったわよ、あっという間にファングの群れやっつけちゃったんでしょ?もう耳タコよ」
「もう!ちゃんと聞いてよ!!ラナは誠意ってもんが足りないわ!!」
「はぁ」
私の抗議の言葉を溜め息で返す親友を睨みつけ、私はレモンスカッシュを一気に飲み干した。
そう、何を隠そう、今、私は生まれて初めての恋をしているの!
相手は名前も知らない行きずりの人なんだけど、本当に素敵な男性だった…。
それは、二週間前に遡る。
私はパパの仕事の手伝いの為、コスタ・デル・ソルまで果物を仕入れに行っていた。私のパパは最近カームでケーキ屋を営み始めた。
南国の果物はケーキのトッピングや、パウンドケーキに欠かせない。また、南国の果物をメインとしたオリジナルジャムも現在考案していて、急遽果物が足りなくなってしまったの。
そこで、コスタまで買出しに行く事になって、無事仕入れる事に成功した帰り、運悪く私の運転するトラックがファングの群れに囲まれてしまったのよ。ハッキリ言って、絶体絶命、大ピンチってやつで、正直このまま死んじゃうんじゃないかって、生きた心地がしなかったわ。その時、≪彼≫が来てくれたの!
見た事もない大きなバイクに乗って、物凄い速さで私のトラックまで追いついたと思ったら、私のトラックに群がっていたファングの群れを、これまた見た事ない大きな剣であっという間にやっつけちゃったの。もう、本当に凄すぎて、夢を見てるんじゃないかって思っちゃった。
命の恩人は、ファングをやっつけると、呆然としている私にたった一言「大丈夫そうだな。この辺はファングの縄張りだからこれからは気をつけろ」って言って、颯爽と走り去ってしまった…。
もう、その低い声、しなやかな体つき、ちょっと癖のある眩しい金髪、瞳の色…はゴーグルをつけてたらか良く分からなかったけど、そのゴーグル奥の眼差しはとても優しくて…。
その瞬間、私は『この男性(ひと)が私の運命の人なんだ!』ってピンときたの。そう、これはいわゆる女の勘よ!ああ、あの時、どうしてもっと引き止めてお礼をしなかったのかしら。せめて名前だけでも聞いておくべきだったわ。一生の不覚よ!でも、絶対私は彼と再び出会うはずよ。だって、これは『運命の出会い』なんだから!!
それから私は私なりに、彼の手がかりを探している。彼の去って行った方角が私と同じだったから、もしかしたらカームに住んでるのか、もしくはカームに関係のある仕事に就いてるのか…。
どちらにしても、カームとは無関係じゃなさそうだもの。きっとそのうち手がかりが見つかるわ。
そう息巻き、手がかりを求めて二週間。
思ったよりも難航していて、最近は親友のラナを相手に愚痴をこぼす事が多くなった。
「はぁ、どこにいるのかしら。あれからもう二週間なのに何の手がかりもないなんて」
そう溜め息をつく私に、ラナはオレンジスカッシュを一口啜りながら、半分呆れ顔で私を見やった。
「大体ねぇ、あんたの情報だけじゃ難しいのよ。【大きなバイク】【大きな剣】が扱えて【癖のある金髪】の人間が世の中にどれだけいると思ってるの?」
そう、二年前のメテオの襲撃以来、乗り物は不安定な道や荒野を走る為に大きく、壊れにくい物が普及し、モンスターも活発化している為、武器を所持している人は数知れず…。
うな垂れてしまった私を、半分同情、半分呆れながら親友は「ま、あんたの言う通り運命の人なら、焦らなくてもそのうちひょっこり出会うんじゃない?」と、実に簡単に言ってくれた。
どうせ、ラナにとっては他人事よね、フンだ。
不貞腐れてふと窓の外に目をやった、その時だった。
目の前の八百屋の前に、大きなバイク音を立てながら、忘れるはずもない、あの彼のバイクが止まったのだ!
大きく目を見開き、血相を変えてカフェを飛び出した私に、親友の慌てた声が投げかけられたけど、そんなの気になんかしてられない。
夢にまで見たあの人が、今、目の前に現れたんだから!!
高鳴る胸を抑えながら、彼の傍へと駆け寄る。彼は、八百屋の親父さんと何か話をして、メモのような物を手渡している。
「あ、あの…」
思い切って彼の声をかける。変に上ずった声になっちゃって、何か私の声じゃない。
でもでも、今はそんな事を気にしてる場合じゃないわ!だって、彼が怪訝そうな顔で、初めて私の顔を真っ直ぐに見てくれているんだもの!
「こ、この前、えと、二週間前にファングの群れに襲われて、それで、えと…」
言葉が上手く出てこない。つっかえつっかえ漸くそれだけ彼に伝えると、彼が思い出してくれたようで、「ああ、あの時の」と言ってくれた。もう、それだけで私の心は天にも昇る気持ちになっちゃった。
「あ、あの時は、その、お礼もろくに言えなくて、本当に、えと」
ええい、頑張れ私!しっかりするのよ!!
「本当にありがとうございました!」
やっと彼にその一言を言い終えると、勢い良く頭を下げた。
そんな私に「いや、大した事じゃないし、そんな感謝されるとちょっと…」と照れ臭そうに返事をしてくれた。
キャー!!彼ってとってもシャイなのね!何て私の理想のタイプなのかしら!!
強くて、謙虚で、優しくて、それでいて照れ屋だなんて!!それに、あの時はゴーグルで見えなかったけど、彼の瞳ってとっても澄んだ紺碧なのね。
顔もすっごくハンサムだし!もう、どうしよう……。
その時、八百屋の親父さんが店の奥から、野菜が入っていると思われる段ボール箱を肩に担いで戻って来た。
「はいよ、これが奥さんからの注文の品。間違っちゃいないと思うけど、一応確認しといてくんな」
………え?……今、何て?
頭が真っ白になって固まってる私に、八百屋の親父さんが気付いて軽く挨拶をしてきたけど、親父さんの言葉の衝撃が強くて挨拶を返せない。
「奥さんじゃないっていつも言ってるだろ」
照れて顔を赤くしながら、彼が親父さんにそう言っているのが遠くから聞こえる。
でも、彼のその照れた赤い顔、奥さんって言われた瞬間に一瞬見せた優しい目、それだけ見せられたら、彼にはもう、心に誰か大切な人がいるんだって分かってしまった。
そうだよね。こんなに素敵な男性(ひと)だもの。素敵な女性(ひと)がいて、当然よね。
「んで、どうしたんだい、あんたも何か買ってくかい?」
景気のよい声で親父さんが私に声をかける。
うっすらぼやける視界に、どうしても適当な言葉が出てこない、そんな私の肩にいつの間にか後ろに来ていたラナがそっと手を置いて「ううん、これから一緒に食事に行くからまた今度ね」
と、代わって返事をしてくれた。
「あなたが私の友人を助けてくれた命の恩人さんですね?本当にありがとうございました。今度、この子と一緒にぜひお礼させて下さい」
「いや、本当にたまたま通りかかっただけだから、あまり気にしないでくれ」
「いやぁ、ほんとに謙虚だね、クラウドさんは。あの≪ジェノバ戦役≫の英雄っていうのにさ。だからこそ、おれもセブンスヘブンと取引する気になったんだけどね。英雄気取りの奴だったら、メテオが振ってきたって取引なんかするもんかってんだ!」
息巻く親父さんに、クラウドさんが苦笑した時、クラウドさんの胸ポケットから携帯電話の着信音が流れてきた。
「ああ、俺だ。丁度カームで仕入れたところだ。ああ、大丈夫だ、問題ない。もちろん夕飯は皆で食べられるさ、今日の仕事は終わりだからな。マリンとデンゼルにもそう伝えておいてくれ。じゃあ、あとでな」
短い会話の端々に、相手の人への優しさが溢れ出ている。
私はもちろん、他の誰も入り込む隙間がないのが痛いほど良く分かる。
現実に打ちのめされる私の前で、クラウドさんはダンボールをバイクに括り付けて、私達に向き直った。
「また良かったら、エッジにあるセブンスヘブンに寄ってくれ。あそこで店をしてるから」
頷く私達に軽く会釈をして、クラウドさんはバイク音を響かせ、あっという間に去って行った。
「はぁ、初恋は実らないって本当なんだなぁ」
「そうだねぇ」
あの後、本当にラナは私に付き合って食事をしてくれて、今は失恋パーティーで二人してやけ酒をあおっている。
「セブンスヘブンかぁ」
「どうしたの?」
「うん〜、クラウドさんが言ってたでしょ、セブンスヘブンて店してるって」
「あ〜、そんな事言ってたね」
「行ってみようかなぁ」
「何で!?」
驚く友人に、私は軽く肩を竦めて見せ「何となく」とだけ言った。
本当は、クラウドさんの素敵な女性(ひと)がどんな人か気になったから、何て事言ったら、きっとこの友人は変な勘繰りを入れてくるだろう。
まぁ、どうせそんな事既にばれてるんだろうけど。
「全くあんたって…」
呆れたように、でも笑顔で私の頭を軽く小突くと
「心配しなくても、私も一緒に行ってあげるわよ」
と、言ってくれた。
初恋は見事に散ってしまったけど、友人の有難さが身に染みるた一日だった。
でも、次の恋をするまで、彼はやっぱり私にとって≪ヒーロー≫だと思う。
でもまさか、流石に本当の≪英雄≫だったとは思わなかったわ。
あとがき
彼女達の設定は、実は前々からありました。
これから、クラティファミリーにおいて、温かい存在になってもらう予定です。
それにしても『初恋』。
マナフィッシュは恋心を忘れて久しい年月が流れ、非常にヤバイ状況にあります(苦笑)
せめて、彼女達が素敵な人と出会えるよう、頑張って生きたいと思います。