「では、ラナのWRO隊員正式採用を祝して!」
「「「乾杯!!」」」


My hero3


「ありがとう、皆」

 友人は嬉しそうに笑ってグラスに口をつけた。

 今日は、先日正式にWRO隊員に採用された親友のラナのお祝いを、エッジのセブンスヘブンで行っている。

『お祝い』と言っても、本当は親友と私だけのささやかなもののはずだったの。
 でも、セブンスヘブンに着いて、この店の女店主さんにその話をしたら、「そんなにおめでたい事なら、ぜひ私からもお祝いさせて!」と、目をキラキラさせてお祝いに参加してくれる事になった。
 
 もちろん、店主、ティファさんは仕事中だから、ずっと一緒にいることは出来ないけど、その代わり、何と私の初恋の人が同じテーブルに着いて、お祝いしてくれる事になったの!!

 想いを伝える事無く散ってしまった、私の甘酸っぱい初恋の人…、クラウド・ストライフさんは、突然のアクシデント、つまり私とラナのささやかなお祝いの場に、ティファさんに半ば強引に参加する様言われ、少々居心地が悪そうな表情をしている。

 彼の気持ちは当然よね…。

 だって、彼は私にとったら『特別な人』なんだけど、彼にしたら私とラナは『偶然助けた女の子とその友人』くらいしか認識してないに違いないんだから。

 クラウドさんの恋人は、もちろんここの女店主のティファさん。

 もう、そりゃ、すっごく良い人なの!
 おまけに物凄い美人で、料理も上手で、プロポーションも抜群で、人当たりがよくて…。
 同性の私でも思わず『ホレボレ』するくらい、素敵な女性。

 そんな女性(ひと)を恋人にもっているクラウドさんが、世の他の女性に目が行くはずもなく、(って言うか、他の女性に目がいく男性なら正直、最低!)故に、私の初恋は見事に完膚なきまでに夢の彼方へと飛んでいってしまった。

 でも、相手があのティファさんなら、まぁ良いか!と、今では思えるほど、私はティファさんの事が大好きになってしまってる。

 本当に、素敵な人だなぁ……。

「それにしても、すみません。お仕事折角お休みなのに、お付き合いして頂いて…」
 ラナが、居心地悪そうに黙ってグラスを傾けているクラウドさんに頭を下げた。

「いや、大した事じゃない」
 クラウドさんは、少し慌てたような顔でラナに軽く手を振って見せた。

「俺の方こそ、黙ったままで悪かった。人付き合いがどうも苦手でな」
 少しはにかみながらそう言うと、軽くグラスを掲げて「改めておめでとう」と祝福の言葉を口にした。

 ラナはにっこりと笑って、同じ動作をするとクイッと一息でグラスを空けてしまった。

 そんなラナに、クラウドさんは軽く目を見開いて「酒、強いんだな」と、驚いた。

 そう、ラナはお酒に強い。

 いわゆる『ザル』だ。

 いや、むしろ『ザル』を通り越して『ワク』だと思うのは、決して私だけではないハズ……。

「あんまり強そうに見えないのにな。それに、WRO隊員と言う事は、戦闘に関しても玄人と言う事だろう?」
 人は見かけによらないって本当だな…、そう言ってクラウドさんは優しい眼差しをしてラナを見た。

 ああ、何て優しい表情なのかしら……。

 叶わぬ想いだと分かってるのに、頭がクラクラしてしまう……。

 これが≪計算≫でなく≪自然≫だとわかってるから尚更、素敵なのよね……。

 などと、一人で夢の世界に入っていた私の耳に
「ラナの姉ちゃん、WROになったんだって!?すっげー!!!」
という、元気のいい声が響き、店の奥からフワフワした茶色い髪の男の子が駆け寄ってきた。

「今晩は。デンゼル君。そうなの!ラナってば凄いでしょ!?おまけにお兄さんも既に入隊してるのよ」 

 そう。ラナの二つ上のお兄さんも、ラナが正式に決まる1ヶ月前に入隊しているの!ラナに良く似て、容姿端麗で人の面倒見の良いお兄さんの顔を思い浮べる。
 ラナもそうだけど、他に仕事ならそれこそ別の物が沢山選択できる身なのに、本当に頭の下がる兄妹だわ。
 私の大好きな友人とお兄さんに、ちょっと誇らしい気持ちが湧いてくる。

「えー!?兄妹揃って入隊!?本当に凄いよな!俺も入りたかったのにさ〜、」
「こら、デンゼル。まずは挨拶とお祝いの言葉だろ?」

 一気に話し込もうとしたデンゼル君を、クラウドさんが軽くおでこをツン、と突いてたしなめる。

「あ、そっか。おめでとう!!」

 へへっ、と笑いながらペロッと舌を覗かせ、デンゼル君が笑顔でラナにお祝いを言う姿は何とも言えず微笑ましい。

 ああ、何か本当に素敵な親子振り……。
 血が繋がってないなんて、全然関係ないのよね……。

 ラナは、デンゼル君に「ありがとう」と笑顔を見せると、更に新しいグラスに口をつけた。

「なぁなぁ、ラナの姉ちゃんは何でWROに入ろうと思ったんだ?」

 いつの間にか、クラウドさんの隣の椅子に座り込んで、デンゼル君が興味津々・目をキラキラさせながらラナに尋ねる。

 ラナは、「う〜ん、別に大それた理由とかじゃないんだけどね」と、少し考える素振りをしてから、口を開いた。

「私の家って、『家名』・『家柄』・『血筋』そんなものを大切にする世界では、割と有名でね。本当は私の親戚の大部分がWROの入隊を反対したのよ。でも、『私』っていう人間は、そんな『家名』とかで決まるものじゃないでしょ?むしろ、『私』っていう人間を全うする為にWROに入隊したって言うのが本当のところかな…、って、デンゼル君にはちょっと難しいか」

 フフッ、と笑って再びグラスを開けてしまうラナを見て、デンゼル君もクラウドさんもキョトンとした顔をした。

 でも、私はラナの気持ちとラナの事情を良く知ってるから、何となくラナの言いたい事が分かる気がする。


「と、言う事は、ラナさんは世間で言う『お嬢様』?」

 色々頭の中で整理をしていたであろうクラウドさんが、漸くそう言った。

 その声色から、どうも『お嬢様』という人種が嫌いなんだろうなって察しがつく。

「ええ、まあ、そうなりますよね」
 ラナは、それに気付いているだろうに、サラッと肯定してみせた。そして、続けて口を開く。

「でも、だからと言って、『私』が『私』である事に変わりは無いんですよ?世間が言う『お嬢様』に例え当てはまるとしても、それが『私』を形作ってるんじゃないんです。だから、その事を証明したくてWROに入隊したんです。もちろんそれだけじゃないですけどね。『私』がWRO隊員として出来る『何か』がある、そう思ったから、一族の猛反対を無視して入隊したんです」
兄が入隊した理由も、それに近いんじゃないでしょうかね?

 凛とした声で迷い無く言い切った彼女を、クラウドさんはじっと見つめていた。

 ラナの言葉が真実かどうかを探っているように見える。

 何か……、こういう雰囲気、イヤだな……。

 少し悲しい気持ちになってきちゃった。

 でも、その時、クラウドさんがフッと笑みをこぼした。

 そして、デンゼル君に視線を移すと、「あの『お嬢様』とは全然違うな」と言った。
 デンゼル君も、その言葉に大きく何度も頷き、尊敬の眼差しでラナを見つめた。

「「?」」

 私とラナは、『あのお嬢様』というクラウドさんの発言が分からず、思わず二人して顔を見合わせた。

 私とラナのそんな様子がよっぽど可笑しかったのか、デンゼル君が笑いながら「実はこの前、『ルーン家』ってとこのお嬢様が押しかけて来た事があってさ〜。大変だったよなぁ?」とクラウドさんを見上げた。

 クラウドさんも、苦笑しながら頷いけど、ラナの顔を見てその苦笑いが怪訝そうな表情に早代わりした。

「?」

 クラウドさんの表情に私も不思議になって、ラナに目をやる……。そして、私は固まった。


「ラ、ラナ?」
「姉ちゃん?」
「……もしかして、『ルーン家』と知り合いか?」

 真っ赤な顔でわなないているラナが、クラウドさんの問いかけにピクッと頬を引き攣らせた。


『『『知り合いだ………!!!』』』


 ラナは何も語らない。でも、昔の人は上手く言ったものだ。

 ― 目は口ほどに物を言う ―

 何も語らないけど、ラナの目を見れば一目瞭然。
 しかも、きっと良い関係ではないのだろう、きっと悪い、そう、かなり、非常に、仲が悪い!


 確か、今日はラナのお祝いのはず…。

 それなのに、今や当の主役は真っ赤な顔の怒れる女性に変貌している。

 一体何があったのか、知りたい。けど、知りたくない!!

 きっと、私だけでなく、クラウドさんとデンゼル君も同じ心境だろうと思う。

 現に、デンゼル君は「お、俺、洗い物途中だったなぁ〜」とか言いながら、そそくさと店の奥に逃げてしまった。

 私とクラウドさんは、その後姿を恨めしげに見送るほか無かった。


 居心地の悪い沈黙が漂う。

 私達のテーブルだけ、賑やかな店内から隔絶された世界になっているのは、きっと私の気のせいではないと思う。

 ああ、何とかしなくては!!折角のお祝いなのに!ラナがWROの隊員として働き出したら、今度いつ会えるか分からないのに〜!!

 貴重の時間が空しく過ぎていく中、救いの女神がやってきた!!

「今晩は!ラナお姉ちゃん、リリーお姉ちゃん!」

 この店の看板娘のマリンちゃんだ!

 ああ、この重苦しい空気に屈する事無く見せてくれる笑顔が、天使のようよ!!

 そんなマリンちゃんに、クラウドさんがホッとした顔をしたのを、私は見逃さなかった。

「今晩は、マリンちゃん!お店、いつ来ても大繁盛ね」

 私が当たり障りの無い話題を振ると、マリンちゃんはにっこりと笑って「うん!だって、ここは『頑張って生きていく人達の憩いの場』だもん!」と、思わず涙が出そうな言葉を口にした。

 そして、いまだに暗い表情、というか怒りの形相のラナを見て、キョトンとしてトコトコとラナに近づき、その顔を覗き込んだ。

「ラナお姉ちゃん。どうしたの?今日はラナお姉ちゃんのWRO入隊祝いだ、ってティファが言ってたのに、何か嫌な事でもあったの?」
 と、心配そうな顔を見せた。

 マリンちゃんのその言葉に、ラナはようやく己を取り戻した。

 ハッとした顔をして、恐る恐る様子を窺っている私とクラウドさんを見て、バツの悪そうな顔をする。

 そして、まだ心配げな顔をして自分を見つめるマリンちゃんに、優しく微笑みかけると、
「ううん、ごめんね。嫌な事を思い出しちゃって。それだけだから気にしないで」
と、マリンちゃんの頭を撫でて、私達に視線を戻した。

「えっと、本当にごめんなさい。昔から『ルーン家』の人間と、我が家は相性が悪いの」
 そう言って、グラスに残っていたお酒を全て喉に流し込んだ。(かなりの量だ、しかもアルコール度数は結構高い!)

「ああっと、その。俺の方こそ悪かった。折角のお祝いなのに、不快な気分を味わわせてしまって」
 マリンちゃんの登場で、自分を取り戻したラナに、同じく自分のペースを取り戻したクラウドさんが軽く頭を下げた。

 でも、マリンちゃんは、『ルーン家』という言葉に敏感に反応し、驚いて目を大きく見開いた。
「ラナお姉ちゃんって、あの『イザベラ・ルーン』って人、知ってるの!?」

 ああ、お願い、マリンちゃん!!『寝た子を起こす』様な事は言わないで!!!

 再度、ダークモードに突入するかと思ったけど、そうはならず、苦虫を噛み潰したような顔をして、
「そ。知ってるも何も、『イザベラ・ルーン』は私の遠縁よ」
と、爆弾発言をした。

 クラウドさんはその言葉に椅子の上で大きくのけぞり、マリンちゃんは益々大きく目を見開いてラナをじっと見つめた。

 ラナは、ここまで話したらもうどうでも良いや…、と言う諦めの極致に立ったらしく、説明を始めた。

「私の母の兄、つまり、私にとって伯父の奥さんが『ルーン家』の血筋なの。だから、私には一滴も『ルーン家』の血は入ってないんだけど、やっぱりこういう社交界って、世界が広い様で狭いのよね。私と兄がWROに入るって言い出した時、真っ先に反対したのが『ルーン家』なの。そして、私が一番社交界で嫌ってる人間が」

「「「イザベラ・ルーン?」」」

「その通り」

 声を合わせた私達3人に、ブスッとした顔でラナが頷いた。


 ラナが『お嬢様』だって事は、私はもちろん知っていた。でも、ラナも、ラナのお兄さん、お姉さん、ご両親共にいわゆる『庶民』の人間と付き合うことに対して全く抵抗とかないみたいで、いつもラフな格好で気軽に私のお店とかに遊びに来てくれる。

 それに、ラナは本当に人望があって、あまり人の陰口を叩いたりしないので、ここまで嫌悪感を示す相手がいるなんて、正直目の当たりにしても信じられない。

 しかも、話をかいつまんでしか聞いていないから推測だけど、その『イザベラ』って人はクラウドさん達にかなり迷惑を掛けた人物らしい。それも、二度と顔も見たくないと、思われるほど…。(いや、ただの一言もそんな事言ってなかったけど、これは女の勘よ!)

 ラナは深い深い溜め息をつくと、形の良い顎を右手の甲に乗せて、テーブルに肘をついた。

「あの子はね、本当思い込みが激しくて自信過剰で、顔が良いのと同じ位、性格が綺麗に反比例した勘違い人間自己中心的人間なの。本当に、小さい頃から苦労させられたわ。やれ、あの服が可愛いからあれをくれ、だの、あそこに行け、だの、どこそこに行きたい、だの言いたい放題、し放題でね。正直、叔母上の血を少しでも引いてるのが信じられないわ。」叔母上は本当に出来た人なのにね…そうだわ、叔母上がそもそも『ルーン家』の血筋である事自体がおかしいのよね…あんなに素敵な方が、どうして『ルーン家』の血を引いているのか、そりゃもう、世界の七不思議に入ってしまうほどだものね…。

 すっかり遠い目をして一人で語るラナには、もう哀愁以外の何物もなかった。

 折角のお祝いムードが一気に転落してしまって、天使の登場で盛り上がったかと思ったら、やっぱり失墜で………。

 トホホ、って感じだわ。


 すると、そこへ仕事をひと段落させたティファさんがお盆一杯に料理を盛ってやって来た。

「どうしたの?暗い雰囲気漂ってるけど、今日はお祝いでしょ?ほら、笑って笑って!!はぁい、これ、私のおごり。お祝いスペシャルよ!」

 輝く笑顔の彼女を見て、私達は一気に気分が高揚するのを感じた。

 本当に、ティファさんの笑顔の力は凄い!

 確かに、『頑張って生きている人達の憩いの場』を守ってるだけの事はある!!

 ラナも、ティファさんの笑顔に毒気を抜かれたようで、ちょっと眩しいものを見るような表情をしたけど、すぐにいつもの彼女らしさを完全に取り戻した。

「うわ〜、これ本当全部おごってもらって良いんですか!?ラッキー!」

 茶目っ気たっぷりにラナが、運ばれた料理の品々を見て笑顔を見せる。


 その姿に、どれだけ私、クラウドさん、マリンちゃんがホッとしたのか……、きっと他の人には分からないに違いない。

 そして、ティファさんの登場から、クラウドさんが一層その優しい瞳を緩ませたのも…きっと気付いたのは私だけだと思う。
 クラウドさん本人は無意識だろうし、ティファさんはラナに意識をやってたもの。
 
 どうしても、クラウドさんの一つ一つに意識がいってしまうから、そういう小さな変化にも気付いちゃう私って、未練たらしいのかしら(苦笑)


 
 それからは、ティファさんも交えてあっという間に時間が過ぎ、楽しいお祝いの場となった。(もちろん、時折ティファさんは他のお客さんの為に席を外しがちだったけど)



 そして今、綺麗な星が夜空を彩る下、私とラナはエッジの宿屋に向かって歩いていた。

 セブンスヘブンを出る時、ティファさん、クラウドさん、デンゼル君、マリンちゃんが揃ってお見送りしてくれた。
「絶対また来てね!色々大変だと思うけど、きっとラナさんなら大丈夫よ」
「ありがとう。きっとまた来ますね」
「その時は、WROの話し、沢山聞かせてくれよな!」
「うん。期待しててね」
「リリーお姉ちゃんも、ラナお姉ちゃんに会いに来た時は、絶対に私達にも会いに来てね!」
「うん!ありがとう、約束するよ」
「今日は、その、折角のお祝いだったのに悪かった」
「え?そう言えば途中で暗かったわね。何があったの?」
「ああ、っと、その話は又あとで」
「?」
「「「「………『汗』」」」」
「じゃ、じゃあ、今夜はこれで」
「ええ。身体に気をつけてね。もちろん、お二人共よ!」


「楽しかったね」
「ええ。本当に有難う。途中ではごめんね」
「良いの!ラナの珍しい一面を見る貴重な経験が出来たもん」
「もう!」
「フフッ」
 
 私達は笑い合いながら、ゆっくりと楽しい時間を過ごした余韻を、思い切り満喫した。


あとがき

はい。My hero3でした。
ラナが実はお嬢様だったというのは、前々から設定していたので、
今回漸くお披露目と相成りました。
今後、ラナ・リリー(おおっと、こちらも名前は初披露!)関係で新しい
オリキャラが登場していくと思いますが、あくまでクラティなのでご安心を(笑)
最後までお付き合いくださり、有難うございました。