My hero5 後編


 ティファさんの手料理はやっぱりとても美味しかった。
 それに、グリートさんもラナがいる為か、あれから羽目を外す事は無かったので、デンゼル君とマリンちゃんもすぐに打ち解けてくれた。
 私達はそんな温かい雰囲気に包まれて、デンゼル君やマリンちゃん、時にはティファさんを交えて談笑しつつ、楽しく食事をする事が出来た。
 残念だけど、クラウドさんはまだお仕事から戻らないんだって。
 ああ、ちょこっとガッカリ…。
 だって、クラウドさんって本当に素敵なんだもの!
 私の初恋の人…。
 クラウドさんが一番素敵に見えるのは、ティファさんと並んでる時。
 だから、今夜、セブンスヘブンに来た一番の楽しみは、ティファさんと一緒に水色のエプロンを着けているクラウドさんだったりしたんだけど…。
 まぁ、仕方ないよね。
 
 それにしてもいつ来ても、ティファさんは本当に素敵だ。
 ニコニコと朗らかな笑顔。
 クルクルと働く姿。
 明るく良く通る声。
 そして、優しいけど、凛とした眼差し…。
 とてもじゃないけど、同年代の女性とは思えないな。
 ティファさんをうっとりと見つめるグリートさんの気持ちが良く分かる。
 私もそうだもんね。
 それに、他の男のお客さん達も、グリートさん同様、しまりのない目をしてティファさんを見つめている人がとても多い。
 ああ、その気持ち、本当に良く分かるわ!
 そう、目の保養よね!?

 などなど、いつもの様に本当に楽しい一時を過ごす事が出来た私は今、とっても満足した心地で食後の珈琲を啜っている。

 うん。
 ジョニーさんには悪いけど、ティファさんの煎れてくれた珈琲の方が美味しいわ。
「ああ、本当に美味しかったな。ラナが褒めちぎってたのが良く分かる」
「でしょ?」
「ああ本当に美味しかった!」
「何だよ、ライは一回食べたんだろ?」
 ニコニコと満足そうに笑っているプライアデスさんに、グリートさんが少し絡む口調で話しかけた。
「何言ってんの。この前はそれどころじゃなかったんだから。誰かさんのお陰で」
「む……。何だか物凄くカチンときたぞ!可愛げのない事を言う口はこの口か!」
「いひゃいいひゃい(痛い痛い)!!」
 プライアデスさんの両頬をギュッと抓るグリートさんに、ラナが徐に(おもむろに)懐から取り出したものをこめかみに当てた。
 それを見て、私は勿論、何気なくそのやり取りを見ていた他のお客さん達もギョッとして椅子の上で大きく仰け反る。

 カチリ…。

 乾いた音がそれの安全装置が外れた事を知らせた。

「ラ、ラナ…」
「いい加減にしてね、お兄様」
「………それ、冗談だよな?」
「あら、何年私の兄を務めてらっしゃるの?」
「…ラナ、いくらなんでもそれはやりすぎでは…?」
「ライは黙っててね?」
「はい…」
 何だか変に目の据わったラナに一睨みされ、グリートさんの助け舟を出そうとしたプライアデスさんは、あっさりと撃沈してしまう。
 そんな二人の短いやり取りの後、グリートさんは端正な顔を引き攣らせながらぎこちなくゆっくりと口を開いた。
「……俺が悪かった、だからそれをしまってくれ」
「あら、本当に分かったのかしらね?」
「「「…………」」」
 どこか荒野を思わせるような殺伐とした眼差しのラナが握っているもの、それは…。

「あ!すっげ〜、本物の拳銃!?」
 デンゼル君がこの場の雰囲気を全く読んでいない、無邪気な明るい声を出して駆け寄った。
 そしてラナが握っている手の平サイズの小さな拳銃をしげしげと見つめる。
「そ!本物よ。女性でもラクラク扱えるように改良された新型!」
 ニコニコと説明するラナを、デンゼル君がキラキラした眼差しで見上げる。
「わー!すっげ〜な!俺も使えるかな?」
「そうね。きっと使えるわよ」
「「コラコラコラ!!」」
 実にあっさりとデンゼル君の期待通りの返事をしたラナに、グリートさんとプライアデスさんが堪らず声を上げた。
「ラナ!お前、もしかして酔ってるな!?」
「あ〜ら、酔ってなんか」
「酔ってるだろ!?一体何飲んだの!?」
 冷や汗を浮かべる二人を見て、私は漸くラナがいつもよりもちょっぴりズレている事に気がついた。

 だって…、全然顔が赤くないし、呂律もしっかりしてるんだもん!
 酔っ払ってたなんて気付かないって!!

「あ…、これ、この前クラウドが持って帰ってきたウータイの地酒だ…」
 デンゼル君がラナのグラスを手にとってポツリとこぼす。
「何!?いつの間にそんなアルコール度の高い酒を頼んだんだ!!」
「そう言えばさっき、リトがお手洗いに行ってる間にティファさんがラナに何か渡してたな…」
「あ…そう言えばそうだったわね…」
 確か、ティファさんは『お酒の強い人だけにオススメの新作があるの』って言ってたっけ…?
 私はお酒に強くないからパスしちゃったんだけど、ラナは結構強いから嬉しそうにもらってた…わね。
 しかも、よくよく思い返せば、『あ〜!これ本当に美味しいわ!!』とか言いながら、結構な数のグラスを空けていた気がする。
「あ〜、ティファ…人選ミス」
 デンゼル君が実に的確なコメントを述べてくれる。
 そして、そろそろと私たちのテーブルから離れようと後ずさる。
 そのデンゼル君の首根っこをグリートさんがむんずと掴み、ガバッと引き寄せ、自分の前で羽交い絞めにした。
「は、離してくれよ…!」
「自分一人だけ逃げようだなんて汚いぞ!男だろ、友人の為に体を張ってみろ」
「子供を盾にする様な大人に言われたくない!」

 じゃれているのか、それとも真剣なのか分からない二人を無視して、
「あ〜、ウータイの地酒を差し入れてくれたティファさんはどこに行ったのかな…」
 プライアデスさんが、チラチラと店内に視線を走らせながらポツリと呟く。
 その声に、ティファさんがこの場を何とかしてくれるのではないか?という期待が込められているのに容易に想像出来たし、私もそう思った。
 でも、何故かティファさんとマリンちゃんの姿が見えない。
「ティファとマリンなら、ついさっき店の奥に食材と新しい皿を取りに行っちゃったよ…」
 デンゼル君の一言に、私達はガックリと肩を落とし、今では完全にお酒に酔ってしまったラナを、ビクビクしながら見守るしかなかった。

 そんな私たちの目の前では、いつになく上機嫌なラナがクルクルと手の平サイズの拳銃を指で回している。
 何だか、子供帰りしたみたい…。

 いっつも冷静な彼女からは、ちょっと想像出来ない無邪気な表情に、彼女が持っている拳銃がおもちゃの拳銃ではないかと錯覚してしまいそう…。

「ラナ、それ、僕にくれない?」
 恐る恐るプライアデスさんがラナに手を差し伸べる。
「ん〜?どうしようかな」
 クスクスと笑いながら、クルクルと実に上手に拳銃を操るラナを、グリートさんとデンゼル君、それに、周りにいた他のお客さん達が固唾を呑んで見守っている。
 気がつけば、他のお客さんの大半が私達のテーブルを凝視しているじゃない!
 ああ、何でこんな事になったのかしら!?

「フフ、はい、あ〜げた!」
 プライアデスさんを悪戯っぽく笑いながら見ていたラナが、急に拳銃を天井のファン近くまで、ポ〜ン、と放り投げた。
 店内全員の視線が拳銃を追う。
 大半の人達が口を開けてその行方を見つめる。
 そして…。

「はい、上げたでしょ?」
 その拳銃は、持ち主の所へジャストミートで戻ってしまった。

「「「…………」」」

 駄目じゃない!!

 あまりにも子供染みた事をするラナに、本当なら微笑んで『駄目じゃない、もう、おちゃめなんだから』って言ってあげたら良いんだろうけど、持ってる物が持ってる物だけに、全然笑えないわ!!
「ラ、ラナ?私にも見せて欲しいな〜」
 恐々手を出してみる私に、ラナはトロンとした眼差しを向けた。

 う…。
 普段の凛とした目じゃないラナって…。
 可愛い!!
 ハッ!
 ダメダメ、ここで負けたら誰か怪我人が出ちゃうかも!?

 などなど、バカな事を考えてる私の前で、ラナは「リリーが?これ見たいの?」と、不思議そうに小首を傾げている。
「駄目よ、だってリリーってちょこっとドジなんだもの。間違って暴発したら大変じゃない」

 至極ごもっともなお言葉に、私は差し出した手のやり場に困って「あ〜、そうよね?あはは〜」とか言いながら頬を掻いてみたりした。


 ダメダメじゃん!!


 店の人達の心の声が聞こえた気がしたんだけど、気のせいかしら……。


「あ〜、ラナ?兄さんのお願いを一つ聞いてくれないか?」
「いやよ」
「「「はや!!」」」
 間髪いれずにぴしゃりと返したラナに、プライアデスさんとデンゼル君、グリートさんが顔を引き攣らせた。
「あ、あのな…」
「い・や・よ!」
 気を取り直して口を開くグリートさんに対し、ラナは最後まで言わせる事無く力を込めて言い切った。
「兄さんっていっつも私と姉さんに恥ずかしい思いさせてるんだもの。たまには逆の立場を味わえば良いんだわ」
「……おい…、そんな人聞きの悪いことを…」
「あら!違うとでも!?」
「……ごめんなさい…」
 いつにない迫力のラナに勝てる人なんかこの店内にいるのかしら…。
 きっと、ティファさんやクラウドさんでも無理な気がする。
 だって、二人共本当に優しいから、こんなラナも受入れちゃいそう……。

 店内がシンと静まり返り、事の成り行きを固唾を呑んで見守っているその時。

 突然店のドアが荒々しく押し開けられ、六人の屈強な男の人達が押し入ってきた。
「おい!ここにティファ・ロックハートとクラウド・ストライフがいるだろう!」
「出てきやがれ!!」
「俺達と潔く勝負しろ!!」


「「「「は!?」」」」


 あまりにも場違いな台詞に、店内全員が目を丸くする。
 店の奥からティファさんが驚いて駆け込むのが見えた。
「なんですか?急にこんな風に押しかけるだなんて、非常識ね」
 凛と澄んだ瞳に僅かな怒りを滲ませ、微塵も怯む事無く男達の前に立つティファさんは、本当にカッコイイ!!
 ラナと私達のやり取りに気を取られていたお客さん達が、今度は闖入者とティファさんに釘付けになる。
 グリートさんとプライアデスさんも、ラナの事を忘れてティファさん達を見つめている。
 ラナは、特に気分を害したようでもなく、相変わらずトロンとした目でティファさん達を眺めていた。

「へぇ〜!ジェノバ戦役の英雄だから、どんなゴリラ女かと思っていたら、美人じゃねぇか!」
「お〜!俺達ってラッキー!!」
 下卑た笑いを浮かべる男達に、ティファさんは全く臆することも無く目を細めて見据える。
 それは、初めて見る彼女の戦闘態勢の姿だった。
 以前、セブンスヘブンで酔っ払いに絡まれた事があったけど、あれは一瞬で勝負がついちゃったから、こんな風にピリピリした雰囲気を醸し出しているティファさんは見た事が無い。

 これが…。
 ジェノバ戦役の英雄の姿…。

 何だか全身にビリビリとしたものが走る感じ。
 うん。『総毛立つ』って、この事を言うんだわ。

「女だから手加減してやりたいところだけど、悪いが俺達の将来の為に尊い犠牲になってくれ」
「大丈夫、殺したりしないからよ」
「そうそう。俺達の輝かしい将来の為だからな。安心して『のされて』くれ!」
「あ〜、クラウド・ストライフは留守か〜?女一人を店に置いておくなんて、何て緊張感の無いやつだ」
「俺達にとってはラッキーだけど、あんたにとってはアンラッキーだな〜。ま、運が悪かったと思って諦めてくれ」
「クラウド・ストライフと一緒なら、まだ望みがあったんだろうけどな〜」
 闖入者達は、実にいやらしい笑みを顔面に張り付かせて、好き放題言っている。

 意味が分かんない…。
 それに、『潔く勝負!』とか言っておきながら、完全に人数で潔くないじゃない!?
 グリートさんとプライアデスさんは、顔にサッと緊張が走り、いつでも加勢出来るような体勢になっている。
 でも…。
 何故か、私達以外のお客さん達は全然焦ってもいない…というか、『あ〜、バカが来たよ』『まぁ、ティファちゃんのあの容姿じゃあ、どれだけの力量を持ってるかって分からないよな…』『俺、全員が片付くまでに二分以内に五百ギル』『じゃあ、俺は全員が片付くのに一分と二分の間に七百ギル』などなど、到底信じられないような囁き声が交わされ、おまけに賭け事まで始まっている。

 え〜……。
 良いの…そんなんで…。

 チラリとマリンちゃんとデンゼル君を見てみたけど、二人共少々緊張はしていたけど、その輝く瞳はティファさんの勝利を信じ、微塵も疑っていなかった。
 その事にグリートさんとプライアデスさんも気付いたようで、戸惑いながら顔を見合わせている。

 その時。
「うおら〜!!!」
「覚悟ー!!」
「ラクになってくれー!!」
 などなど、奇声を上げながら闖入者達が一斉にティファさんに飛び掛ってきた。

 その刹那!
 ティファさんがクルリと優雅に弧を描きながら後方へ宙返りをし、真正面にいた男の一人の顎に蹴りを入れた。
 そして、そのまま腕の力だけで後方へ飛び退ると、今度は思い切り反動をつけて前方へと飛び出し、バランスを崩しておたおたしている闖入者二人の足を払って、転倒させる。
 続いて、間髪いれずに右側から狙っていた闖入者の後頭部に踵落としをすると、そのまま勢いを殺さずに背後に迫っていた闖入者の側頭部に回し蹴りを喰らわせた。
 更に、その勢いを殺す事無く、最後の闖入者の顔面に裏拳をめり込ませてぶっ飛ばしてしまった。

 トータル、僅か三十秒…!!
 実に鮮やかな格闘で、大柄の男六人をあっという間にのしてしまった!
 店内が歓声に湧き立つ。
 デンゼル君とマリンちゃんが、大喜びでティファさんに抱きつき、ティファさんも笑顔で二人をふんわりと抱きしめた。
 そんな光景を目の前に。
 私はあまりの強さと華麗な格闘術の数々に、思わず目をまん丸にし、ポカンと口を開けて惚けていた。
 ああ、何てカッコいいのかしら!!
 気付くとグリートさんとプライアデスさんも同様に、目を見開いている。
 ラナは……。
 この騒ぎの中、何とテーブルに突っ伏して眠ってるじゃない!?
 ああ、勿体無い事を…。

 などと私がのんびりズレた感想を抱いた時、最初に蹴りを入れられた闖入者が、あろう事か寝ているラナを背後から羽交い絞めにし、ギラギラと怒りと屈辱に彩られた毒々しい眼差しでティファさんを睨みつけた。
「ふざけんなよ!ちょっとでも動いてみろ、この女、ぶっ殺すぞ!!」
 闖入者達が店に踏み込んだ時にはなかった、張り詰めた空気が駆け抜けた。
 ティファさんの顔にも、サッと緊張が走る。
 闖入者の手には、隠し持っていたと思われる小さなナイフが握られ、ラナの首筋に押し付けられた。

「そんな事して恥ずかしいと思わないの!?」

 怒りを孕んだティファさんの言葉に、闖入者は切れた唇から血を流しながら、ニヤッと笑う。
「ケッ!なに綺麗ごと言ってんだ!?どうせこの世は汚い事をしてのし上がったとしても、人の上に立てた者こそが正義になるんだよ!それまでの経過は関係ねぇんだ!」

 胸の悪くなる台詞を吐き出すこの闖入者に、怒りで目の前がクラクラする。
 ラナは、全く起きる気配を見せない。
 ああ、こんな事になるなら、もっとラナの飲むペースとか把握して、ストップをかければ良かった!!
 そうしたら、こんな大馬鹿者の人質になる事もなかったのに!!

 そうこうするうちに、ティファさんにのされていた闖入者達がよろけながら身を起こし始めた。
 そして、毒々しい眼差しに醜い喜びを混ぜ合わせた瞳で、ティファさんを見やる。
 
 どうしよう!!
 このままじゃ、いくらティファさんでも手が出ないんじゃ…!!
 
 焦燥感で一杯になる。
 でも、どうしたら良いって言うの!?
 闖入者達が余裕たっぷりの表情で、ティファさんににじり寄る。
 そのティファさんを庇うように、デンゼル君とマリンちゃんが、震えながらもしっかりとしがみついて離れようとしない健気な姿が見える。

「さぁ、分かったら両手を後ろに回してもらおうか?おっと、他の奴らも動くなよ。でないと、この綺麗な姉ちゃんが…」
 一気に緊張が高まったその瞬間!


「どうするだって?」


 いつの間にか…。
 本当にいつの間にか、闖入者の背後に回りこんでいたグリートさんが怒りを露わに、ラナの首筋にナイフを当てている闖入者の手首を捻り上げた。
 苦痛に悲鳴を上げる闖入者に、手加減などするはずもない。

「俺の…」
 側頭部に肘鉄をめり込ませる。

「嫁入り前の可愛い妹に…」
 バランスを崩した闖入者の後頭部に、両手で拳を叩き込む。

「汚い手で…」
 床に倒れこむ寸前でその顔面を蹴り上げられた闖入者が、テーブルよりも高く体を浮かせる。

「触んじゃねーー!!!」
 そして、落ちて来た闖入者の横っ面を思いっきり殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた闖入者は、あっさりと店のドアを突き破って漆黒の闇の中へと消えて行った。

 その光景に、他の闖入者達は一瞬気圧された様だったけど、我に返ってグリートさんに飛びかかろうとする。
 が、そこでティファさんとプライアデスさんが素早く動き、あっという間にその他の闖入者達を同じ様に、夜の暗闇へと放り出してしまった。



「すっげ〜!!」
「おお!兄ちゃん達、見かけによらず強いじゃねぇか!」
「ティファちゃんも相変わらずカッコ良かったよ!!」
「いやいや、見事だったねぇ!」

 その後、店内はお祭り騒ぎだった。
 グリートさんとプライアデスさんは、お客さん達にもみくちゃにされながらも温かい祝福を受け、どこか照れ臭そうだったり、はにかんだ笑みをもってそれに応えていた。
 ティファさんも、「お二人共、とっても腕が良いのね!びっくりしたわ!!」と、目を輝かせていた。
 この時、チラッとグリートさんが羽目を外すんじゃないかと心配しちゃったけど、意外と彼は照れ臭そうに笑って、ラナをそっと抱きかかえただけだった。
 
 その照れ臭そうな、優しい姿がグリートさんの本当の姿じゃないかな…?って思っちゃった。
 うん。
 きっと、お調子者な顔は、照れ臭ささの裏返しなんだよね?
 そういうところ、ラナと良く似てる。
 自分に不器用なところがそっくり!

 その肝心のラナは、グリートさんに抱っこされたまま、気持ち良さそうに眠っている。
 よっぽど強いお酒なのね…。

「あ、ごめんなさい、あんまり褒めてくれるから嬉しくてついつい沢山お出ししちゃった…」
 バツが悪そうに謝るティファさんを、グリートさんとプライアデスさんが交互に慰めの言葉をかけていた。


 そして。


「それじゃ、失礼します」
「今夜は本当にご馳走様でした!また来ますね」
「いや〜、本当に美味しかった!また来るから、その時も宜しく!」
 壊れた店のドアを他のお客さん達と協力してあっという間に修繕した後、いつもより早い時間だったけど、私達はセブンスヘブンを後にした。
「また絶対に来てくれよ!」
「今度来る時は、前もって教えてね!そしたら、クラウドにも教えてあげられるから!」
「本当に今夜はありがとう!とっても助かったわ。ラナさん、本当にごめんなさいね」
 可愛い子供達とティファさんに見送られ、私達は弾むような足取りでエッジの街を歩いている。
「また来たいよね」
「はい!次も御一緒出来ると良いですね!」
「本当にな。今夜はラナがこのザマだし〜。きっと、明日の朝は二日酔いでベッドで過ごす事に決定だな」
 背中のラナを揺すり上げながら、グリートさんがそうぼやく。
 でも、その言葉の中にはラナをとても大切に想っているグリートさんの気持ちが溢れ出ているようで、私は本当に羨ましい。
 あ〜あ、私にもこんな素敵なお兄さんがいたらなぁ。
 きっと、そんな事をラナに言ったら、ムキになって突っかかって来るんだろうけど…。

 そんな私達の頭の遥か上空では、夜空一杯の星達が輝いている。
 明日も良い天気になりそうだ!
 私達は、次に会える日を楽しみにしつつ、エッジの安宿へと向かってゆっくりと歩いて行った。



あとがき

何だか、予定していたよりも随分と長々と続いてしまって…(汗)。
本当なら、グリートとクラウドが初めてまともに出会う話になる予定だったのですが、
書いている間に『あれ?』『あれれ?』……気付けばクラウド出番なし(ダク汗)。
え、えっと。はい、次には必ず初対面という事で!(グリートが、ですが 笑)

最後までお付い合い下さるのは大変だったと思います。
 本当に有難うございました!