え〜〜……皆さん、こんにちは、お久しぶりです。
 リリー・フローです。
 実は……現在……。

 生まれて初めて……。


 ナンパされてます!!!!



My hero 8




「えっと……その……困るんですけど……」
「え〜、いいじゃん!ちょっとだけさ、お茶してよ」
「いや……あの……本当に………」
「だ〜いじょうぶだって!変なこと絶対にしないしさ!ホントにちょこっとだけお話ししようよ!美味しいデザートの店、知ってるから」

 そう言って、執拗に言い寄ってくる目の前の男の人は、いくら私が鈍感人間だとしても、『絶対に変なことする気だ』って分かっちゃう軽率でヤラシイ笑い顔をしている。

 周りの人達は、私が困っているのを見ても全然気にしてないみたいで、誰も助けに入ってくれそうに無い。
 きっと、私見たいな目に合ってる子って、珍しくないんだわ……エッジでは。
 ここがカームなら、何かしらの反応があると思うの。
 でも…。
 エッジは世界でもトップクラスに入るほどの『復興の街』。
 沢山の人達が毎日のようにエッジに移り住んでるから、その勢いは止まる事を知らないみたい。
 という訳で。
 こういうナンパ男や、ナンパされる女の子って日常茶飯事なんだわ…。

 でも…。
 なんで私なんかをナンパするわけ!?!?
 だって、どう考えたって私よりも可愛い女の子が沢山いるじゃない…。
 …………ハッ!!
 分かった!!!
 私があんまりにも田舎者だから、簡単に引っかかると思ってるんだわ!!

 く、く、悔しい〜〜よぉ!!!

「えっと……どうしたの…?」
 私の怒った顔を見て、ナンパ男はたじろいだ。
 でも、怒り心頭の私にはそんなこと全くなんとも無いことで…。

「し、失礼すぎると思います!!」

 気が付いたら怒りのあまり、相手に向かって怒鳴り声を上げていた。
 視界が滲んでるのは……怒ってるからなんだから!!

「いくら私が田舎者で、ちょっと声をかけたくらいで付いてきちゃいそうな鈍い女の子に見えたとしても、ほんっとうにそれって失礼です!!」
「え……いや、なに言って…?」
「それに、私はちゃんと好きな人がいるんですから!!」
「あ〜…だから、別に俺はキミが軽そうだから…とかで誘ったわけじゃ…」

 何だか必死になって言い訳してる男の人に、私の怒りは段々エスカレートしてきた。

「そりゃ、私はこんなに地味でお洒落も出来なくて、可愛くなくて、田舎者で…」
「お、おい……キミ……?」
「それでも、ちゃんと好きな人がいて、その人だけ…って思ってるんです!」
「………あのさ…少し落ち着いて」
「だから、あなたが考えてるように、軽い女じゃないんですから!!!」

 言いたい事を言って、肩で息をしている私に、ナンパ男はポカンとしていた。
 その顔を見てると、何だか急に自分が口にしたことが鮮明に理解できてしまって……。
 同時にものっすごく恥ずかしい事を口にした事に気が付いた。
 もう……。
 これが『顔から火が出そう』ってやつじゃない!?!?(←いいえ、『顔から火が出る』です (笑))

 ハッと周りを見ると、道行く人達が足を止めてクスクスと笑っている。

 カッと頬が熱くなる。
 恥ずかし過ぎて居た堪れない。

 本当は、エッジで今夜は久しぶりにセブンスヘブンに友人のラナとそのお兄さん、そして二人の従兄弟と一緒に夕飯を食べる予定だった。
 だけど、とてもじゃないけど恥ずかし過ぎてこのままこの街にいるなんて事出来ない!!

「そ、それじゃ…」

 唖然とした顔で立ち竦んでいるナンパ男にそう一言投げつけると、私は逃げるように雑踏に紛れ込んだ。


 もう…。
 ほんとに最悪。
 何だってこんな目に合わなくちゃならないわけ…?
 そりゃ、いつもラナに『アンタは鈍いから本当に心配だわ…。いつかナンパにかこつけて詐欺に遭うんじゃないか…とか、本気で告白されてても冗談としか受け止められなくて次の恋を棒に振ることになるんじゃないか……って」なぁんてひどい事を言われている。
 でも、ね。
 ほら、私だってやる時はやれるのよ!
 今だって、ナンパ男に『一言もの申す』…って出来たんだし!!
 ……………。
 ………………。
 でも…。
 悔しい…。
 そんなに軽い女、田舎者で世間知らずなちょろいカモ……そう思われたことが…。

 最初は怒りに任せて勢い良く歩いてたけど、段々情けなさが込上げてきて、それに伴い足がスローになってきた。
 そして。
 とうとう立ち止まると、肩から思いっきり溜め息を吐く。

「あ〜あ……もう、サイアク……」

 そう呟いた途端、目から一粒涙がこぼれ落ちた。
「〜〜〜!」
 悔しくて情けなくて、それでもってこれ以上みっともない姿をこの街に見せたくなくて、グイッと手の甲で目元を拭う。
 目を上げると、エッジにいくつかある駐車場のうち、私が借りた駐車場が遠くに見えるくらいまでやって来ていた。

「……ラナにはメールしとこう…」

 とてもじゃないけど、こんな気分で久しぶりに会う人達に顔を見せられない。
 きっと、優しい人達だもん、変に気を使わせちゃう。
 メールには『ごめん、急に用事が入っちゃった!明日までに注文のケーキとシュークリーム作らないといけないの!今度、必ずこの埋め合わせはするから!!』とでも打っとけば大丈夫だよね。
 うちのケーキ屋は、最近結構人気が出てきて客足があるから、きっとこの内容だと疑われないはず。

 憂鬱な気分でポチポチと携帯を操作し、送信ボタンを押す……というまさにその直前に!!


「あ〜、やっと見つけた!」


 突然背中から男の人の声が聞えたかと思うと、びっくりして振り返った私の二の腕を骨ばった男の人の手が掴んできた。
 ギョッとする私の目に飛び込んできたのは……。


「さっきは本当にごめん。イヤな思いさせたのは悪かったよ」


 ゲゲッ!!
 なんとさっきのナンパ男。
 私が凹んでる元凶の人間。

「な、ななな、なんで…!?」
「ゼ〜、ゼ〜……ちょっと……待って……息が……整うまで……」

 肩で息をしながらも、汗ばんだその手はガッシリと私の腕を掴んで『絶対に離すもんか!』と言わんばかりにしっかり力が入ってる。
 かなり……痛いんですけど〜!!

「ちょ、ちょっと…あの……」
 痛いんで離して…。

 そう続くはずの私の言葉を遮って、ナンパ男はニッコリと笑いかけてきた。
 ……多分、自分では『かなりイケてる』と思ってるだろうその笑顔は、今の私にとっては……。

 気持ち悪い以外の何ものでもない……!

 思わず気持ち悪すぎて声が出なくなっちゃったじゃない…。
 お願いだから…離してよ〜〜!!

「本当にごめん。まさか、キミみたいに純情な女の子がこの世にいるとは思わなかったからさ。でも……」

 迷惑&混乱&嫌悪感一杯に歪められてるはずの私の顔を覗き込んで、ナンパ男は更に気味悪さを追加させた笑顔を満開にさせた。
「キミみたいに可愛い子でお高くとまってない子って初めてだよ!」
 そう言って、私を引き寄せようとする。


 ひぃ〜〜〜!!


 引き攣りながら、思い切り掴まれた腕を振りほどこうとする。
 でも、所詮男女の力の差を前に勝てるはずも無く、かろうじて一定の距離を保つので精一杯。

「そんなに嫌がらなくても良いじゃん!俺、キミみたいに可愛くて奥ゆかしい子にずっと巡り合いたいって思ってたんだ。すっごく一途だし…。キミみたいに一途で純粋な女の子って、中々世の中にいないよ」

 何だか砂を吐きそうなくっさい台詞をベラベラしゃべる目の前の男の人に、全身に鳥肌が立つ。
 本気で気持ち悪い!!
『あの人』とは大違い…。
 私が一方的に想ってる……『彼』。

 とても素敵な『恋人』を持つ『彼』は、本当に素敵な男性で、もう出会った瞬間に恋に落ちちゃった。
 それは私にとって『初恋』で、初めての『失恋』。
 出会った瞬間には既に『失恋』したなんて、まるで漫画やドラマみたいな話だけど、それでも私は『彼』に……クラウドさんに出会って本当に良かったって思ってる。
 クラウドさんの恋人のティファさんも、本当に素敵な人で、『彼女』にならクラウドさんの恋人でも認められるな……なんて偉そうなこと考えちゃったりして……。
 でも。
 それでもやっぱり今でもクラウドさんに私は恋をしてる。
 完全に『失恋』なんだけど、だからって簡単に捨てられる想いじゃないし…。
 だからこそ、どうしても他の男性をクラウドさんと見比べちゃうのよね。
 それでもって…。

 この目の前のナンパ男は、比べようが無いくらい………サイテイ!!
 自分に酔ってて、全然私がイヤそうにしてる気持ちにも気付かず、一方的に自分を押し付けようとしてくる。
 それに、ほんっとうに申し訳ないんだけど…。

 クラウドさんと比べるとクラウドさんに対して失礼なくらい……その……顔とか……体つきとか……声とかが……。
 ………あああ、もう!!
 とにかく、ダメなの、生理的に!!
 受け入れられないの〜!!
 そりゃ、私なんかがエラそうに容姿に関してどうこう言える人間じゃないとは思ってるけど…。
 でも、それでも!!
 しょうがないじゃない、生理的にどうしても受け付けられないんだもん!!
 無理なんだもん!!
 どうしても……どうしても……!!


 気持ち悪く感じるんだから〜〜!!!


 だ、誰か〜〜!!!

「おい……」
「「ふぇ…?」」

 突然かけられた低い声に、ナンパ男だけじゃなく私もビクッと身を竦める。
 首を回すと…。

「嫌がってるだろう……その手を離せ」

 私の初恋で今も恋焦がれている人の姿……。


 いやもう…。
 ありえないでしょう……!?
 このタイミングでこのシチュエーション!!
 普通の漫画やドラマなら『彼こそ私の運命の人vvv』ってトキメクところだけど…。
 残念ながら、彼の心は素敵な女性のものだから、ぜんっぜん、これっぽっちも甘い雰囲気にはならない。
 まぁ、私が一人でトキメクのは関係ないんだけどね…。
 て、いやいや、そんな事じゃなくて…。


「クラウドさん!?」
「ゲッ!!」


 驚く私達の間に、実に冷めた顔をしてクラウドさんが割り込んだ。
 それだけで…。


 心臓が爆発しそう!!


 もう、もう!!
 突然の展開に頭がクラクラ…身体がフワフワ…。
 こ、このまま死んでも悔いは無いよ!!


「彼女は俺の店の大切な常連客だ」


 クラウドさんの言葉に、ナンパ男の顔が引き攣る。
 私の顔も……引き攣る。

 こんなに特別なシチュエーションでほんっとうに贅沢だと思うけど…。
 でも…。
 出来ればもう少し違う表現で紹介して欲しかったな…。
 とか思っちゃった私の耳に…。


「そして、俺と家族にとって大切な人だ。これ以上、彼女に不快な思いをさせる言動はやめてもらおうか」


 ………。
 お父さん、お母さん。
 先立つ不幸をお許し下さい。

 もう、嬉しすぎて心臓が本当に口から出そうなくらいバクバクしてる。
 血圧上がりすぎて、頭の血管切れちゃうよ!
 うん、間違いなくこれまでの人生で一番血圧上がってるわ!
 脳卒中で死んじゃうわ!!
 もう、頭がクラクラ、足元はフワフワ。
 何だか生きたまま天国にいるみたい。

 真っ青な顔をして気持ちの悪いナンパ男がダッシュで逃げる姿も…。
 それを見て、ポカンとしてる周りの人達も…。
 そして、クラウドさんがゆっくりと私に向き直った姿も…。

 何もかもが夢みたいで…。



「…さん、リリーさん…?」
「………」
「リリーさん、大丈夫か…?」
「……ハッ!」

 軽く肩を揺すられて我に返ると、男性とは思えない程決め細やかな肌をした端整な美青年が私の顔を至近距離から覗き込んでいた。

 ほ、本当に……心臓に悪いんですけど……!!

「な、なんですか…!?」
「い、いや…。視点が合わなかったから大丈夫かと思って…」

 私がギョッとして身を引くと、クラウドさんもびっくりしてしどろもどろに口を開いた。
 ……よっぽど私の反応は予想外だったみたい……。
 いつもは切れ長で何もかもサラッと受け流す魔晄の瞳がまん丸になってる。

 …それでもやっぱりかっこいいのは……ご両親に感謝しなくちゃだめだよ、クラウドさん!


「ところで……俺は余計な事をしてしまったのか…な……?」

 恐る恐る訊ねてくる金髪の美男子さんの言葉に、私はきょとんとした。
 そして、すぐにあの『ナンパ男』の一件だと分かって大慌てで首を振る。
「とんでもない!!すっごく助かりました。本当にありがとうございました!」

 クラウドさんは、心からホッとした顔をして淡く微笑んだ。

「良かった…余計な事をした…なんて思われてたらどうしようかと思った…」


 そんなこと思うわけないじゃないですか!!


 目一杯心の中で叫んだけど、「本当に助かりました、ありがとうございました」が、私が口に出来た精一杯の言葉。
 どれ程、クラウドさんに感謝してるか伝えたかったけど、やっぱりティファさんの存在が脳裏をかすめてしまって、とてもじゃないけど口に出来ない。

 ……だって…。
 気まずくなってお店に遊びに行けなくなることを考えると……ね…。
 それに、ティファさんのことも大好きだもん。
 ティファさんにイヤな思いなんか絶対にさせられないし。
 なにより、クラウドさんが…困るでしょう……?


「ところで、ライから聞いてたんだけど、今夜はうちに来ることになってるんだよな?」
「え…!?そ、そうです」

 まさか、プライアデスさん経由でクラウドさんの耳に今夜の予定が伝わってるとは思わなかったからびっくりした。
 クラウドさんは嬉しそうに微笑むと、道の傍らに置いてある彼の大きな愛車に歩きながら、
「じゃあ、乗って。一緒に行こう」
「え!?」
「目的地が一緒なんだ、俺も今日は仕事が終って帰宅するだけだから一緒に店に行こう」
 などと、とんでもない事を言ってくれた。

 そ、そりゃ。
 憧れてる男性のバイクの後ろに乗るのは夢だけど…。
 それでもやっぱり……!
 ティファさんに悪いし……色んな人が今もあんぐり口を開けて見てるし……!!

「リリーさん…?」

 グルグル頭の中を色んな考えが渦巻いて混乱してる私に、クラウドさんはどこまでも不思議そうに首を傾げて見つめてきた。


 ……クラウドさん………にぶ過ぎです……。


 でも。

「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて…」

 きっと、一生のうちにこの瞬間以外にクラウドさんのバイクに乗る機会はないと思う…。
 心の中でティファさんにお詫びをしながらクラウドさんの手を借りてバイクの後ろに跨った。
 思ったよりも車高の高いバイクの後ろに、心臓がより一層ドキドキと高鳴る。
 バイクを支えながら、クラウドさんが慣れた動作で愛車に跨り、
「じゃ、なるべくゆっくり走るから、しっかり掴まって」
 そう言って、私の両手を自分の腰に絡ませ、お腹のところで握らせた。


 し、心臓が…。
 もちません!!


 などと甘い気持ちに浸っていられたのもそこまで…。

 勢い良くバイクがエンジンを吹かせたかと思うと…。

「……!?!?!?!?」

 私の周りの世界は一変した。
 もう……。
 なんて言えば良いのか……。
 全身の血が『サァーーーーッ…!!!』と音を立ててどこかに飛んで消えていく感じ…。
 つまり…。


「…うわっ!…リリーさん!?」


 クラウドさんの慌てたような声を最後に…。
 私の意識は霧のようにぼやけて……消えてしまった…。



「クラウド…もう少し気を使ってあげてよ…」
「すまない…まさか気を失うとは思いもしなかった…」
「リリーお姉ちゃん……大丈夫…かな……?」
「ん〜…さっきよりも顔色はいいけど…。それにしても、リリー姉ちゃんって、乗り物に弱いんだな。知らなかったよ」

 聞き慣れた声がすぐ近くで聞える。
 ゆっくりと瞼を開けると、見慣れない天井に、見慣れた人達の心配そうな顔…。

「リリー!気が付いた!?」
「お!?大丈夫か?」
「大変でしたね…」

 ダークグレーの瞳をした親友と、そのお兄さん。そして、その従兄弟のアメジストの温かな瞳が真っ先に目に飛び込んできた。
 そして…。

「リリーさん、大丈夫!?」

 茶色の瞳を揺らめかせた綺麗な女性。
 魔晄の瞳を心配そうに歪めた男性。
 クリクリっとした目を持つ子供達。

 ゆっくりと身体を起こすと、私が寝ていたところが子供部屋だと分かった。
 小さなベッドは私の身体にギリギリフィットするくらい。
 軽く頭を振ると、小さな眩暈がする。

「リリー…あんた…乗り物弱かったっけ…?」
「え…?」

 心配顔でそう聞いてきたラナに、私は首を捻る。
「覚えてないの?あんた、クラウドさんのバイクに乗せてもらってすぐに失神しちゃったんだよ…」
「……え……!?本当…!?!?」
「…ウソついてどうするのよ…」

 呆れ顔のラナにギョッとしてクラウドさん達を見る。
 私はラナの言葉がウソではない事をイヤでも悟らざるを得なかった…。

「ほ、本当にゴメンナサイ!!」
「いや、俺も悪かった。あまりスピードは出してないつもりだったんだけど…」

 ガバッと頭を下げるとまだ微かにダメージが残っていたらしい私の脳が、小さく悲鳴を上げた。
 クラリ…と視界が歪んだけど、それは無視!
 絶対に気付かれないようにするんだから!!
 そして、努力の甲斐あってか、誰も必要以上に心配そうな顔はしなかった。
 クラウドさんが心底申し訳なさそうに眉尻を下げている。

「本当にすまなかった。これからはもっと気をつける…」

 彼のその言葉に、ティファさんと子供達が「本当だよ!」「もう、リリーさんを危うく落っことしちゃうところだったんでしょう!?これからはもっと気をつけてよ!」「リリーさん、本当にゴメンナサイね」と、口々に言ってくれた。
 私は凄く嬉しかったけど、
「いえ、本当にご迷惑おかけしました。もう大丈夫です」
 慌てて三度頭を下げると、そそくさとベッドから抜け出した。
 ラナ達は心配そうにまだ横になってるように言ってくれたけど、もう本当に大丈夫だったし、これ以上、この件に関してクラウドさんに申し訳なさそうな顔をされたくなかったから、やや強引に子供部屋を後にした。

 一階のお店に降りると、既にお客さんで店内は一杯だった。
 こんなに繁盛してるのに、私一人の為にセブンスヘブンの働き手がこぞって業務放棄してくれたのかと思うと…身が縮む。

 まぁ、勿論、お酒は飲まなかったけど、それでもやっぱりセブンスヘブンで過ごした時間は凄く楽しかった。



「それじゃ、気をつけて…」
「はい、ありがとうございました!」
「姉ちゃん達、また来てくれよな!」
「うん、デンゼル君もマリンちゃんも元気でね」

 いつものように明るく笑ってお店を後にして…。
 私は宿泊する予定の宿屋に皆で向かった。

「ところで…どうだったの?」
「?何が?」

 宿屋に向かう途中、ラナが意味ありげに微笑みながら顔を覗き込んできた。
「だから!気を失うくらいドキドキしたんでしょう?クラウドさんの後ろに乗って!」

 ……ボンッ!!

「ラナ。お前はいつから『下世話なおばさん』になったんだ…」
「なによ、兄さん!私はリリーの親友だから気になるの!」
「…ラナ…。リトの感想に同感だよ…」
「ライまで!」

 赤くなった私を尻目に、あっという間に三人は漫才を始めた。
 それを見聞きしながら、改めてクラウドさんの後ろに乗った瞬間を思い出す。

 やっぱり…。
 私はクラウドさんが好き。
 だから、あの瞬間は本当に大切な思い出になったよ!
 でもね。

 クラウドさんの後ろに乗りたいとは思わないの…!
 だって……本当に怖かったんだもん!!!

「…ラナ…?」
「…私、やっぱり車が良いな…」
「「「………」」」

 ボソッと呟いた私に、三人は笑顔を引っ込めると黙って肩や背中や頭に手を置いてくれた。


 ……幸せだったのは……本当だけどね……。


 心の中でそっと呟きながら、私は三人に守られるようにして宿屋に足を運んだ。


 今夜も星が綺麗…。

 夜空を見上げてしみじみ今日を振り返り、私はそっと微笑んだ。

 今日は本当に色々あったけど…。
 クラウドさんが関わってくれると全てが良い事に変化する。


 ナンパ男に絡まれても…。
 ……バイクに酔ったとしても……ね。


 やっぱりクラウドさんが好きだな。


 改めて私はそう思ったのだった。

 出来れば、このまま彼と良い関係が保たれますように……!



 あとがき

 めっちゃ久しぶりにリリーを書きました!
 久しぶり過ぎてキャラが違う気が……!!(汗)。
 今まで、彼女がモテたお話は書きませんでしたが、実はモテます(笑)。
 ただ、リリーはめっちゃにぶキャラなので、彼女の言葉を使って話を進めるとこうなっちゃうんですよね…。
 何しろ、自分がモテるという意識が全くありませんから…(爆)。

 また書くと思われる拙宅のオリキャラ話し。
 これからもお付き合い頂けると嬉しいです♪