例えば。

 自分が生まれた所が故郷とかけ離れた所だとして…。
 彼女と幼馴染ではなかったら…?

 彼女と自分の関係はもっと違ったものだっただろう。


 それが果たして、今よりも幸せかどうか考えてみて…。



 即行で否定した俺を、彼女は笑うだろうか?





My life is Beautiful






 バカみたいなことを考えている。
 仲間達に知られたら絶対にそう突っ込まれるだろうことを考えてしまうのは、一重に現在(いま)が幸せだからだ。

 いつも俺よりも早く起きてしまう彼女の寝顔を、早朝に見られるという幸運を手にした今、彼女の寝顔を見つめているとなんとなくそう思った。

 ティファは本当に綺麗だ。

 外見だけじゃない。
 その中身も本当に綺麗で…温かくて…。

 そして強い。

 はっきり言おう。
 俺よりも彼女の方がうんと強い。
 確かに戦闘関係は俺の方が若干上かもしれない。
 だけど、人間の強さは腕力だけじゃないから…。
 そのことに気づけたのも、彼女のお蔭…なんだけど…。

 言ってしまえば、俺は心底彼女に依存している。
 生活もそうだが、それだけじゃなくて。

 人生全部…と言っても過言じゃない。

 元々、ヘタレている性格の俺を彼女は時に厳しく、そして優しく叱咤激励して…支えてくれた。
 それは今も続いている。
 仕事などで避けられない『ストレス』を、口にしなくても彼女はいつも察してくれる。
 そして、黙って微笑み、そっと抱き寄せてくれるんだ。

『お疲れ様』

 彼女がそう言って微笑んでくれるだけで、現金な俺は一気に疲れが吹っ飛ぶ。
 そんなことを言ったら、絶対に彼女は照れるだろうな。
 照れた彼女も可愛いから見てみたいけど、それ以前に俺が照れてしまって口に出来ない。
 ……本当にヘタレてる…。
 こんな俺のどこが良いんだろう?
 幼馴染の特権だろうか…?
 ……もしもそれだけだとしたら、かなり凹む。
 いや、勿論それだけじゃないんだろうけど、さっぱり分からない。
 彼女が俺の傍にいてくれる理由が。
 いやいや、勿論彼女の気持ちを疑っているんじゃない。
 ただ純粋に俺のどこに惹かれてくれてるんだろう…と思うんだ。
 はっきり言って、俺は弱い。
 戦闘関係以外のことはからっきしだ。
 デンゼルとマリンの方がよほどしっかりしている。
 …。
 …なんだか凹んできた。

 それにしても、こんなにジーッと見つめているのに、気配に敏感な彼女が起きないのは珍しい。
 そして…かなり嬉しい。
 俺の事を信頼してくれている証みたいに感じられるから…さ。
 あぁ…本当に綺麗だな。
 シルクのような肌。
 顎のライン、鼻筋、眉、瞼…どれも全部完璧に整っている。
 しみじみと彼女の美しさに見惚れてしまって、時間がどんだけあっても足りない気がする…。
 いつもは俺を見つめてくれる茶色の温かい眼差しは、今は瞼の奥に隠されていて、それがまたなんとも……色っぽい。
 長い睫だなぁ…。
 ふっくらとした唇は少しだけ開いていて、規則正しい寝息が洩れている。

 ……かなり……色っぽくてゾクゾクする。

 こうして彼女の寝顔を独占出来る男が、俺だというこの現実。
 これを『幸せ』と言わずになんと言えば?

 そっと彼女の唇に触れる。
 温かい…。
 そのまま頬に指を這わせると、ティファは少しだけ瞼を振るわせた。

 あ…起きるかも。

 そう思ったけど、少し身じろぎしただけでまた規則正しい寝息が唇から洩れた。
 そっと少しだけ身体を起こして、彼女の頬に自分の頬を寄せてみる。

 …柔らかくて温かい。

 胸がジン…とする。
 そのままの体制はやっぱりしんどいから、ちょっぴり名残惜しく感じながら、また枕に頭を埋める。
 顔はティファから逸らさない。
 その時、俺の腕を枕にして眠っているティファが、ブルッ…と震えた。
 俺がちょっと動いたからその瞬間に隙間が出来て、乾いた空気が入り込んだんだろう。
 そのせいで寒くなったみたいだ。

 そのまま、今度こそ起きるかも…、って思ったんだけど…。


 スリ…。


 ティファは目を覚まさず、眠ったまま俺に身体を摺り寄せてきた。
 一気に鼓動が早くなる。
 彼女は完全に無意識だ。
 無意識でこうして擦り寄ってくれるのが……たまらなく嬉しい。
 嬉しくて…愛しくて…。

 あ、ヤバイ。
 顔がにやける。
 まぁ、今は誰も俺のにやけた顔なんか見てないから構わないんだけど…さ。

 それにしても。

 ピットリと俺にくっ付いて、すやすやと眠るティファの可愛いこと!
 ダメだ…これはヤバイ!
 世界中で俺は一番の幸せ者だ…って大声で叫びたくなる。
 はあ…本当に幸せだな…。
 このまま時間が止まったら良いのに、ってバカみたいなことを願ってしまう。

 願う……か。

 そう言えば、今朝、初めに思ったこと。
 俺とティファが幼馴染じゃなかったら…ってことだけど…。
 ティファは…どうしただろう?
 俺とは違う男とこうして朝を迎えるようになっていたのだろうか…?
 …。
 ……。

 ダメだ…耐えられん。

 俺は絶対にティファ以外の女性は対象外だって分かってるんだけど、ティファは違う。
 こんなに素敵な女性、世の中の男が放っておくはずが無い。
 実際、俺が家を出ている間、彼女に言い寄っていた男達は両手の指じゃ足りない……らしい。
 デンゼルとマリンが言ってたんだけどな。

 ……本当にティファは俺のどこが良いんだろう…?
 彼女は優しい。
 優しいから俺に同情して一緒にいてくれている。
 そう考えることも出来る。
 だが、彼女の優しさはそういうもんじゃないんだ。
 簡単に『同情』とか『憐れみ』とか、そういうもので、一人の男を待ち続けることは……しない。
 むしろ、尻を蹴飛ばして『頑張れ!』って言うだろう。
 そうして、その男が頑張っている姿を傍で懸命に応援して…。
 目標が達成されたら一緒に大喜びして。
 …それで終わりだろう。
 こんな風に、一緒のベッドで朝を迎えるとか…、家族になるとか…、そういうことまではしない。
 ただの『同情』『憐れみ』で家族になるのはちょっと違うって彼女は考えていると俺は思う。
 家族になるのに絶対に不可欠なものは。

 ……キザったらしいんだけど、やっぱり『愛情』なんだよな。
 同情とかにあるのは『情け』であって『愛情』じゃないから…。
 ま、それに気づいたのも最近だし、気づけたきっかけもティファだから、俺は彼女には頭が上がらない、これからずっと。

 本当にティファは…綺麗だ。
 綺麗で…強くて…優しい…。
 澄み渡った青空に輝く太陽みたいな存在、って言ったら、どういう顔をするだろう?
 真っ赤になって、『バカみたいなこと言わないで!』って怒るだろうか?
 いや…きっと、テレまくってあたふたあたふたするんだろうな。

 そんな彼女を見てみたいけど、やっぱり無理だ。
 口に出して言えるわけない。
 それに、よしんば口に出来たとしても、俺がそう言った、ってことが仲間達にバレたら?
 あのウータイのお元気娘なんか、喜び勇んでからかいに飛んでくるに決まってる。
 乗り物酔いが酷かろうが、なんだろうが、そんなものお構いなしにすっ飛んでくるだろう…。
 ついでに、シドやバレット、ナナキを巻き込んでハリケーンみたいにセブンスヘブンを急襲するはずだ…。

 ………恐ろしい。

 口が裂けても絶対に言えん!
 デンゼルとマリンは喜ぶかもしれない。
 二人が、いつも俺とティファのことを気にかけてくれていることはとっくに知ってる。
 だから、俺がこんなキザったらしい台詞をティファに告げたと知ったら、二人はどんなに安堵するだろう。
 だが!
 やはり無理だ!!
 ユフィ云々以前に、俺の羞恥心が猛然と抗議してくるのを無視出来ない。
 百歩譲って口に出来たとしても、顔から火が出る程恥ずかしくなって、その後、滅茶苦茶ぎこちなくなるのは目に見えている………お互いに。

 絶対にティファだって恥ずかしがって、俺とまともに話しが出来無くなるだろうことは確実だ。

 ……でも照れたティファも可愛いんだよな…。

 あぁ…俺って本当に相当やられてる。
 でも、それも仕方ない。
 ニブルヘイム始まって以来の美少女だったティファ。
 いつも村の人気者だったティファ。
 捻くれたガキを気遣ってくれた優しい女の子。
 その憧れだった女の子が見せてくれる表情がどれも愛しく感じられるのは当然だろ?

 モゾ。

 腕の中でティファが動いた。
 それだけで心臓がその鼓動のスピードを早める。

 モゾモゾ。

 …起きるか?
 もうそろそろ起きる時間か?

 チラリ…と時計を見ると、まだ朝の5時。
 まだ早いんじゃないのか?
 それとも、いっつもこんな時間に起きてるのか?
 そう言えば、ティファがいつも何時に起きてるのか知らないな……。

 モゾ………スー…スー…。

 少しだけ身を捩って寝やすい体勢をとったティファがまた規則正しい寝息をたてはじめた。

 …本当に可愛いなぁ。
 本当に…なんでこんなに柔らかいんだろう…。
 男と女の体の違いだ、って言われたらそれまでなんだが、なんだか不思議だな…。
 並みの男よりも腕っ節が強くて、いつも真っ直ぐ前を見据えて歩く彼女。
 内側から溢れ出る力で、彼女はしなやかさの中に一本の太い芯を持っている。
 だから、『柔らかい』って印象が見た目じゃああんまりないんだ。
 でも、こうして実際に触れてみると、それはもう……。
 …。
 はあ…ホントに俺って幸せだな。
 本当にこんなに幸せで良いんだろうか…?
 俺なんかがこんなに過ぎた幸せを手に入れて…本当に良いんだろうか?
 そうっと腕枕をしていない方の腕で彼女の身体を抱きしめる。
 スッポリと腕の中に収まってしまうくらい、華奢な彼女になんだか感動する。

 こんなに華奢な身体のどこにあんなパワーが出るんだろう…。

 一対一で対決したら、俺と良い勝負だと思う。
 まぁ、俺はティファ相手に本気になんか絶対になれないから、確実に負けるんだろうけど、それにしても本当にティファは腕っ節が強い。
 …ザンガン流って…奥が深い…。
 俺もティファにお願いしてザンガン流を指南してもらったら、今よりももっと家族を守れるだろうか…?
 ……無理だろうなぁ…。
 俺は不器用だから、いっぺんに二つの事をするのは無理だ。
 今は家族を養うために、仕事をこなしていくので精一杯だから…な。
 それに、
『クラウド…それ以上強くなる必要ってあるの?』
 って言われそうだ。
 実際、今のところは今ある力で充分事足りてるし。
 …なんて言ったら、ちょっと自惚れてるか…?
 でも、本当に今は困ってない。
 性質の悪い客や闇組織に出くわしたことも実は1回、2回じゃないし…。
 ティファと子供達には言ってないだけで、かなりな高確率でエライ騒ぎに巻き込まれてる。
 言うと三人は心配するからな。
 余計な心配はかけたくないし、それに言うほどでもないことの方が多いし…。
 何より、そんな話をして三人を心配させる時間があるなら、もっと楽しい時間を一緒に過ごしたい。
 今は本当に時間がいくらあっても足りないと感じるんだ。
 それくらい、充実した幸せな時間を過ごせてる…ってことなんだろうな。

 村一番の問題児だった俺。
 誰も友達がいなかった俺。
 母さんに心配ばかりかけていた俺。
 そんな俺が、こんな風に感じられるのは…全部。

 これまで俺に関わってくれた人達とティファのお蔭だ。

 初めての親友…ザックス。
 魔晄中毒で一人ではどうしようもなかった俺を庇い、最期の最後まで守ってくれた黒髪のソルジャー。
 俺の…初めての親友で…憧れだった男。

 アイツがいなかったら、今、俺はこうして幸せに浸ることは出来なかった。

 今でも思う。
 俺なんか見捨てて、一人で逃げてればザックスは死ななかった。
 きっと、エアリスも死ななかっただろう。
 アイツが目の前で殺されかけているエアリスを守れないはずがない。
 それが例え、不意打ちみたいな攻撃だったとしても……だ。
 アイツは俺なんかと違って本当に優秀だった。
 優秀で…強くて…明るくて…気さくで。
 底なしに良い奴だった。
 そんなアイツに『友達だろ?』って言ってもらえた俺は本当に幸せ者だ。
 仲間や友達が少ない俺だけど、別にそれが他の人達と比べて『劣っている』とは思わない。
 言葉は悪いけど、『量より質』だ…って思ってる。
 間違いなく、俺は恵まれている。

 なぁ…ザックス。
 お前は今、幸せか?
 あの時、奇跡の雨が降ったあの後…教会で、お前は俺に笑ってくれただろ?
 今もライフストリームで…笑ってるか?
 隣にはエアリスがいて…。
 一緒に笑ってくれているのか?
 もしもそうでなかったら、俺は今すぐにでもライフストリームに行って、二人を笑わせてやらなくてはならない。
 本気でそう思う。
 でも、そうすると、ティファと子供達が泣くから、出来るなら行かなくても済むように笑ってて欲しい。

 …。
 ……なんて勝手な言い分だろうな。
 ハハ…、本当に俺はバカみたいだ。
 バカみたいにおかしなことを考えて、一人でにやけてるなんて…な。
 でも…。

 本当に幸せなんだ。
 ニブルヘイムの事件があって、実験サンプルにされている間、ずっと思ってた。


 死なせてくれ。


 ってさ。
 でも、今は違う。
 生きてて良かった。
 生まれてきて良かった。
 出会えて良かった。
 本当に…死ななくて良かった。

 そう思ってるんだ。
 本当だぜ?
 だから…さ、ザックス。
 エアリスと一緒に見守っててくれよ。
 俺、頑張るから。
 精一杯頑張るから。
 頑張って、ティファと一緒に幸せになって、いつか寿命を全うしてそっちに行った時、沢山の幸せ自慢をしてやるから。
 お前が『もう良い、腹いっぱいだ!』って呆れるくらい、沢山…沢山…。


 ― へぇ、言うじゃん? ―

 ― ふふ、楽しみにしてるよ ―


 ハッ…!と顔を上げる。
 窓の外からカーテン越しに朝の光が差し込んできていた。
 部屋が随分明るくなっている。

 なんとなく。
 声が聞えた気がしたんだけどな。
 ……気のせい……だな…。

 でも…。

「見守ってくれてる…んだよな…」

 思わず声に出してしまう。

 モゾモゾ…。

 腕の中でティファが身動きする。
 長い睫が何度か小さく動き、今度こそ本当に起きる気配がする。

 残念。
 ティファの可愛い寝顔鑑賞会はこれで終わり…だな。

 さて。
 じゃあ、次はティファの寝起きを観察するとしようか。
 きっと、あと数秒で目を開ける。
 茶色の瞳が、段々と焦点を俺に合わせて…。
 俺がジッと見ていることに気づいたときのティファの反応が楽しみだ。
 きっと、最初は寝ぼけた顔して、ボーッとしてるだろう。
 俺が起きて見つめていることに気づくのに時間がかかるはずだ。
 でも、それもそんなに長い時間じゃない。
 寝ぼけた頭があっという間に覚醒して、慌てふためくだろうな。
 真っ赤になって、
『お、おはよう…』
 って、照れ臭そうに微笑みながら目を伏せて、そわそわしてくれるに違いない。

 薄っすらと愛しい彼女の茶色の瞳が長い睫の間から覗き始める。

 さぁ。
 ティファは俺の想像通りの反応をしてくれるだろうか?


 ここから先は、悪いが内緒だ。
 なんと言っても、ティファと俺だけの秘密だからな。


 あぁ…。
 本当に…俺は幸せだ。



 あとがき

 なんだか滅茶苦茶甘いクラウドになっちゃいました。
 たまには、こんな風にデレデレのクラウドを書きたくなりまして〜♪

 ティファに心底惚れまくっていると良いよ、クラウド!!
 親友、ザックスのためにも幸せになれ!