その日の早朝、事件は起きた…。

難波のお元気娘

 ずらりと目の前に並ぶ面々に、クラウドは普段以上の渋面・ティファは苦笑・マリンは興味津々・デンゼルは寝ぼけ眼で出迎えた。

「おっはよう!!元気してた〜?」
「何が『元気してた?』だ。今何時だと思ってるんだ…」
 苦虫を思いっきり噛み潰した声でクラウドが唸る。現時刻、朝の6:55だった。
 ティファは、「まぁまぁ」と宥めつつ、ユフィ以外の疲れ切った顔を労わりの眼差しで見つめた。
「皆、大変だったみたいね?まぁ、ここじゃ何だし、中に入って?」
「おっじゃまっしまーす!!」

 いの一番にユフィが中へと入っていき、次いで、まだ寝ぼけている様子のナナキとデンゼル、不機嫌極まりないシド、最愛の愛娘を久しぶりに肩に乗せて少し機嫌の良くなったバレット、いつもは無表情なのに今朝はどこか疲れた様子のヴィンセントが続いた。

「なぁ、ティファ」
「何、クラウド?」
「今日、皆何しに来たんだ?」
「さぁ…」
「知らないのか?」
「知ってたら、もっと早起きして皆の分の朝食も作ってたわ」
「そうだな…。と、言う事はやっぱり突発的な考えだったんだろうな、アイツの」
ティファとクラウドが玄関でボソボソと、たった今起こった事件の事を話していると、今回の事件の張本人であろう元気な声が響いてきた。
「ティファ〜!お腹空いた〜!!ご飯作って〜!!!」

 クラウドとティファは溜め息をついた。

 ありあわせの物で、手早く大人数の朝食を作ったティファの手際の良さは感歎の溜め息が出る程の出来映えだった。
「ああ、何か、こう、昔を思い出すよねぇ。毎朝ティファがパパパッと皆の食事を作っちゃってさ〜。んでもってそれが美味しいのよねぇ」
 ユフィがうっとりとした声で遠い眼をする。

「それで、一体何しにこんな朝早くに来たんだよ?」

 あっという間にティファの作った朝食を平らげ、めいめいがやっと人心地ついたのを見計らってクラウドが当然の質問をする。
 いくら生死をかけた戦いを、背中を預けられる仲間として乗り越えた間柄であったとしても!何の連絡もせずに突然早朝に来訪する非常識さには、腹立ちを通り越して呆れを感じてしまう。

「おう、俺も聞きてぇな!ユフィ、おめぇ、俺んちに押しかけて来た時間分ってんのか!あ!?」
 シドが、途端に腹立たしげにユフィに絡む。

 そんなシドの怒りなどなんのその。
 シレっとした口調で「何?忘れちゃったの?やだねぇ、これだから年寄りは」などと軽く受け流す。

 言い争いの予感がしたティファが慌てて間に入り、何時にシドの元を訪れたのか再度尋ねると、「5時ジャスト!!」と、どこか得意げな表情でニッと笑うユフィに、一同はガックリと肩を落とした。

「何でそんな早朝に…」
 流石のティファの呆れてまじまじと得意げなユフィを見る。

 そんなティファに、「チッチッチ」と、人差し指を振りながら満面笑顔でユフィは説明をし始めた。

「だって、今日はクラウドがこの家に戻って丁度1ヶ月じゃん?だから、ちゃ〜んとこの家に定着したかどうかの視察兼お祝いをしようと思ってさ!」

 その言葉に、クラウドは驚いて思わずユフィをまじまじと見つめてしまった。
 ティファも同じように驚いている。
 他の面子は、それ以上にびっくりした表情だ。(ヴィンセントですら、いつもの冷静な顔をかなぐり捨てている)

「あ〜!もしかして、私が何の目的もなく騒ぎに来ただけだと思ったわけ!?」

少しむくれた顔の忍者娘に、一同は素直にこっくりと頷いて見せた。

「あー!!何さ!本当に失礼しちゃうよね〜!!」
「あ、ご、ごめんねユフィ?ありがとう、気を使ってくれて、本当に嬉しいよ!」

 いち早くティファがショックから立ち直って、むくれるユフィを宥める。

 クラウドは、そんな2人のやり取りを見ながら『もう、そんなに経つのか』と、戻って来た頃を思い出しつつ独り、感慨にふけっていた。

 思えば、家に戻ってからあっという間に時間が過ぎている。
 家出をしている時は時間の感覚がなく、いつまで経っても時間が過ぎないような気がしていた…。
 それでも、不定期に訪れる病の激痛に、目前まで自分の死が迫っている事だけは感じる事が出来た。
 もう、自分には時間が残されていないのだ…という、死へのカウントダウンを…。

「だから、一番にシドの所に行って、飛空挺で皆を回収したってわけ!この乗り物酔いの酷いアタシが!!」
ありがたく思えよ〜、と悪戯っぽく笑う彼女の笑顔に、不機嫌だった面子はたちまちのうちに彼女への評価が180度変化した。

「本当に有難う、ユフィ」

 感慨ひとしおな顔をしてティファが嬉しそうに礼を言う。

 ユフィは、鷹揚に「うんうん」と頷いて見せたが、呆然と自分を見つめているクラウドに視線を投げると、
「あんたが一番にアタシに礼を言うべき立場じゃないわけ?な〜んでティファなのさ!」
 と、唇を尖らせて詰め寄った。

 いつもなら、軽く受け流すクラウドだが、思いもかけない心配りに驚き、嬉しくも思っていた為、やや気圧されつつも
「あ、ああ、そうだな。」
と、頷いて見せた。

「『そうだな』じゃないでしょ。はい、ちゃんと言葉にして!」
 人差し指を目の前でビシッと立て、ユフィが迫る。

 クラウドは仰け反りつつ、無意識にティファに視線をやる。
 すると、ティファは可笑しくて仕方ないのだろう、肩を震わせて声に出さないように笑っていた。。
 その様子は本当に幸せで仕方ない、と言わんばかりにクラウドには見えた。

「うん。ありがとう、ユフィ」
 ティファの姿に胸を温かくさせたクラウドは、自身でも驚くほど素直な感謝の言葉を口にした。

 その言葉に、クラウドに詰め寄っていたユフィは「いっ!?」と仰け反り、そんなユフィを見てデンゼルとマリンはキョトンとする。
 しかし、他のメンバーは、クラウドの素直な感謝の言葉に、ユフィに負けず劣らず、大きく反応した。ナナキは完全に目が覚め、シドはくわえていたタバコをポロリと落とし、バレットは驚いて椅子の上で大きく仰け反り、ヴィンセントは珍しいものを見たような目でまじまじとクラウドを見つめる。
 そして、ティファは…。
 心からの笑顔でクラウドを見つめていた。

「何だよ、ちゃんと言葉にして感謝しただろ?」
それなのに、その反応は何だ?と、少々不快気に眉を寄せるクラウドに、ユフィ他、旅の仲間は同様に「い、いや、別に…」と、言葉を濁してあらぬ方向に視線を逸らす。

 そんな仲間の様子に、クラウドは少々不機嫌な顔で、デンゼル、マリンはキョトンとしてその光景を眺める中、ただ一人、ティファだけが声に出さないよう、肩を震わせて笑いを堪えていた。


 そんなこんなで時間は過ぎ、朝食の後片付けを終えてた頃、ユフィが復興中のエッジを見学したい!と言い出した。
 宴会は夜にする予定である為、その提案に異存があるはずもなく、皆で宴会の買出しがてらエッジ見学をする事になった。

「ほら、あれがこの前出来たばっかりの雑貨屋さんだよ」
「へぇ、何か面白そうじゃん!こりゃ、行くっきゃないでしょ!!」
 キャアキャアはしゃぎながら、マリンとユフィが雑貨屋目掛けて走り出す。
 次いで、デンゼルも遅れないよう、小走りで追いかける。
「へぇ、何か洒落た雑貨屋だな。シエラに何か土産でも買うか」
「うん。なかなか感じの良いお店だしきっと良い物が見つかるわ。面白い物も沢山置いてるのよ」
「しばらく見ねぇうちに、あんな店が出来たのかよ」
 シドとバレットも興味をそそられた様だ。のんびりと歩きながら雑貨屋に入って行った。
 ナナキは、クンクンと匂いを嗅ぐと、「何か変な匂いがするからおいらここで待ってるよ」と、店から離れた通りの端にちょこんと座り込んだ。
 ヴィンセントは「興味がない」と、ナナキの隣に壁にもたれて立つと、皆が出てくるのをじっと待っているつもりのようだった。
「ああ、きっとアロマオイルの匂いね。ナナキにはちょっときついかしら」
 ティファがう〜ん、と少し考えながらこぼす。
 クラウドもヴィンセント同様に、特にその店に興味はあまり沸かなかったが、ティファがニコニコしながら自分を見ているのに気付いて「?」と小首を傾げて見せた。

「ここのお店で買ったのよ。例のクリスタルガラス」
「!ここか…」
「どうする?」
「え?どうするって?」
「折角だから、覗いていかない?」
 満面の笑みの彼女の言葉に、クラウドが断るはずもなく、二人はナナキに声を掛けてから店内へと入っていった。

 相変わらず、店内は可愛い小物や摩訶不思議なお面、その他の物で溢れており、客入りもなかなかのものだった。

 デンゼルは、以前気に入っていた気味の悪いお面類を夢中で眺め、マリンは可愛いアクセサリー類のケースにぴったりとくっつくようにして見入っている。
 シドもアクセサリー類のケースを眺めているのが、何とも言えず、アンバランスな光景だった。
 バレットは、マリンが欲しがる物を買ってやるつもりなのだろう。マリンの後ろからケースを覗き込んでいるが、『こんなもののどこがいいんだ?』と思っているのは明白だった。

 そして、ユフィはと言うと…。

「あー!これすっごく美味しそう!!」
 声のする方を見ると、駄菓子の陳列棚を嬉しそうな顔で物色している。

「なぁ、マリンですらアクセサリーに興味があるのに、あの歳でアクセサリーよりも駄菓子に興味をそそられるアイツって、精神年齢かなり低いんじゃないか?」
 クラウドが隣で苦笑しているティファに囁いた。
「うん、まぁ、そうかもね。でも…」
言葉を切ってクラウドを見やる。「今日の事を考えたら、一番仲間思いの素敵な女の子だと思わない?」
 否定する言葉など、口に出来るはずもないクラウドは、ただ微笑んでティファの言葉に肯定した。


 大人数ではしゃぎながらエッジ見学をあらかたし終え、皆はセブンスヘブンに帰宅した。もちろん、宴の為の買出しも忘れず、山のようにめいめいが買い物袋を抱えている。
「あ〜、楽しかった」
「本当、久しぶりに沢山お店回ったね」
「本当だよ、もう俺、足がパンパン」
「いやぁ、俺様も疲れたぜ」
「でも、これからが本番なんだろ!久振りのティファの手料理か。く〜楽しみだぜ!」
「そうそう、この為にオイラなんかおやつも食べずに我慢したんだから」

 賑やかに帰宅し、ティファを筆頭に手際良く買い物を片付けたり、料理を始める女性陣(主にティファとマリン)と、グラスや食器を並べ、思い思いにくつろぐ男性陣。その中でも、デンゼルとクラウドは何かとティファの手伝いを行い、急なお客様の為の準備に勤しんだ。

 その光景を、店の椅子に座ってタバコをふかしながら、シドがしみじみとした声で、隣に座っている寡黙な仲間に話しかけた。

「何か、あの野郎、本当にもう大丈夫みたいだなぁ」
「そうだな」
「ったく、ユフィの野郎が早朝に来た時は、正直参ったけど、アイツのああいう顔が見れたのは、ユフィのおかげだな」
ま、二度とこんな突発的で衝動的な事に巻き込まれるのはごめんだけどよ…と、笑って見せる。
 ヴィンセントは淡く微笑むと、シドの言葉に肯定した。

 その2人の会話の中心人物は、ティファの手伝いをしているのか、つまみ食いを担当しているのか良く分らないが、実に楽しそうにティファの手元を覗き込んだり、クラウドにちょっかい出してしかめっ面をさせたり、この中でも一番明るく、嬉しそうだった。

 それやこれやで、いつの間にやら大宴会が始まり、やや遅れてリーブがやって来た。

「いやぁ、遅れてしまって申し訳ありません。仕事の方がなかなか終わらなくてね」
「リーブ!あんたも来てくれたのか!?」
「当然ですよ。仲間のお祝いじゃないですか」
 急いできたのであろう。額に汗を浮かべて少々疲れた様子のリーブに、クラウドとティファは驚いて出迎えた。

「それにしても、今朝急にユフィさんからお電話を頂いた時は、何事かと思いましたよ」
「やっぱりあんたにも突然話が来たんだな…」
「ええ、と言うことは、皆さんも?」
 リーブの言葉に、それまでティファの手料理を堪能していた一同が、揃って首を立てに振った。

 あまりに揃いすぎている光景に、リーブは苦笑するしかなかった。

「あ!やっと来た!!もう来ないかと思ったじゃん!?」
 
 丁度その時、お手洗いに行っていたユフィが戻ってきて、リーブを見つけると開口一番そう唇を尖らせた。

「いやぁ、なかなか仕事が厄介でしてね。それにしても、これからは出来れば数週間前にご連絡頂けると助かるのですが」
「そんな何週間も前から計画立てて行動するなんて、私に出来ると思う?」
「「…無理だな…」」
「あーー!!そこのムッツリスケベの二人組み!こういう事で意見揃えなくていいの!!」
「誰がムッツリスケベだ!?」
「あんたとヴィンセントに決まってるじゃん!?それとも、あからさまにスケベだとでも言うの!?」
「…お前な」
「‥‥‥」
「あーん、ティファ〜!クラウドとヴィンセントがイジメル〜」
「はいはい、ユフィ、あなたも言い過ぎよ。ほら、クラウドもヴィンセントも機嫌直して、これ、食べてみて!私の新作!もしも美味しかったら今度、お店のほうでも出そうかと思ってるの」

 実に鮮やかに寡黙な二人の機嫌をあしらい、さばいてしまうティファの手並みに、それまで口を食べ物で動かす事に必死だったデンゼルとナナキが、感心したような溜め息を漏らす。
「なぁ、例の旅の間もこんな風だったの?」
「うん、こんな風だった。いつも手際よくティファがまとめてたよ」
「ふーん。だからクラウドは今でもティファに頭が上がらないんだ」
「ティファにかかったら、誰でも頭が上がらないよ」
「俺、何か凄く良く分るよ、それ」
「でしょ?」
「うん」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。

 翌日も仕事であるリーブは、夜半を過ぎる前に帰っていった。(子供達はとっくにお休みの挨拶を済ませて就寝している)
 リーブが帰った後、クラウドとティファ、ヴィンセントは、店のテーブルや椅子を店の端に移動させ、用意したマットを敷いて酔いの回ったシドとバレットを横にし、毛布を掛けた。ナナキは店の隅で既にまどろんでいる。
 
 一人、ユフィだけが怪しげな目つきで「まだ飲む〜」と騒いでいたが、ティファの付き添われて、ティファの寝室へと上がっていった。

「ふーっ!何とか片付いたな」
「ああ、そうだな」
「それにしても、あんたまでユフィに捕まるとは以外だったな」
「私も驚いている」
「どこで捕まったんだ?」
「…ルクレツィアの洞窟を出た直後だ」
「……災難だったな」
「あの時はな。今はそんな気分でもない」
「そうか」
「フフ、二人して何話してるの?」

 寡黙な二人の話に、漸くユフィをベッドへと寝かしつけたティファが帰ってきた。
 二人は顔を見合わせると「「別に」」と声をそろえ、ヴィンセントは以前と同じように、店の隅で寝袋に包まってしまった。

 クラウドとティファは、ヴィンセントにお休みの挨拶をすると、二人して寝室へと上がって行き、賑やかだったセブンスヘブンは漸く静けさを取り戻した。


 そして翌朝、目が覚めた一同が目にしたものは、ティファがいつもよりも早く起きて、丹精込めて作った朝食の姿だった。

 朝食を食べて満足した一行は、来た時と同じようにあっという間に帰っていった。
 
 実に慌ただしい一泊二日であったが、それぞれの胸には温かなものが溢れ、お元気娘のおかげで仲間との貴重な時間を再び持てた事に、皆が満足していた。

 その事は決して本人には言わなかったが……。


 おまけ
「いやぁ、やっぱ、皆と騒ぐのって楽しかったわ〜!」
「まぁな」
「でしょでしょ!?だから、今度から月に一回はやろうよ!」
「いや、そりゃ無理だ。俺には油田開発と言うものがあるんだよ!」
「大体、お前それじゃ、クラウドとティファ達にも迷惑がかかるだろうが」
「だってさ〜、今回見られなかったじゃん!」
「「「何が?」」」「‥‥‥?」
「何〜?四人ともわかんないわけ?」
「皆でクラウドのお祝いするのが目的だったんでしょ?」
「ばっかだな〜もう!それは目的のほんの一部分!本当の目的は」
「目的は?」
「クラウドとティファのラブラブ振りチェックに決まってるっしょ!?」
「「「「‥‥‥」」」」
「乗り物酔いにも負けずに頑張ったのに、今回は収穫なかったからねぇ、次こそは!‥‥うっぷ、もう乗り物酔いが来ちゃったよ…、次こそは〜…!」
「…ほんのちびっとでもこいつを見直した俺様がバカだったぜ」
「俺も」
「オイラも」
「‥‥私もだな」

おわり(笑)


あとがき

はい、お元気娘はいかがでしたでしょうか?
時期的にクラウドが戻って1ヶ月、という設定は深く考えずに作ったので、さらっと読み流してください(汗)
ユフィは、はちゃけたキャラの割りに、仲間の事を良く見ていて、心配りの出来る女の子だと思ってます
今回は、少しでもそういう部分を出したかったのですが…何となく不完全燃焼(滝汗)
最後までお付き合いくださり、有難うございました!!