「………」
「………」
「………」
「………やっぱ、あれってさぁ…」
「「「「クラウドだよなぁ……?」」」」

 興奮沸き立つWROの闘技場の観客席で、若い青年四人組が闘技場のど真ん中で大剣を地面に突き刺して凛と立つ金髪の青年に、驚きを露わに目を見開いた。



幼馴染の正体




 話は三日前に遡る。
 ニブルヘイム出身のこの四人組。
 とある居酒屋でその日の労働を労わりあっていた時に、その店の客達が興奮して話していた。

『ジェノバ戦役の英雄のリーダーが、WROの隊員と手合わせ試合をするらしいぜ!』
『え!?嘘だろ〜?』
『あ、それ、俺も聞いた!なんでもWROの隊員達がセブンスヘブンに乗り込んできて、英雄のリーダーに挑戦状を叩きつけたらしいぞ』
『ゲッ!!マジか!?死にたいんじゃないのか、その隊員達…』
『しかもそれだけじゃなくて、セブンスヘブンの美人店主を『試合の景品』に要求して、それをクラウド・ストライフが呑んだそうだ。『絶対に負けないから』とか言ってよぉ…』
『ほえぇ〜…、すげえ話しだな…』
『ああ!ま、あの英雄のリーダーが負けるはずないと思うけど、それにしても『自分の恋人』を『試合の景品』にするってのはちょっとなぁ……』

 四人の青年は、一斉にその客達の方へ振り向き、ギョッとしているその客達から更に詳しい話を聞きだした。
 そして。
 話しの一部始終を聞き終えた四人は、顔面を蒼白にして店を後にした。

「まさかな…」
「おお…そうだよ…」
「絶対…何かの間違いだっつうの…」
「そうそう!だってよぉ…」
「「「「あのクラウドが英雄達のリーダー…ってありえないから!!」」」」

 声を揃えて夜空に向かって吼えた四人の耳に、遠くから犬の遠吠えが小バカにしている様に聞えてきたのだった。

 そうして…。
 半信半疑、真相を確かめるべく闘技場に赴いた四人は…。
 あんぐりと口を開け、何度も目をこすり、頬を抓って夢ではないと身をもって確認し合い……。
 愕然としたのだった。

 つい数ヶ月前に幼少期に憧れていた幼馴染が無事である事を知った。
 そして、その幼馴染が一人の男と共に暮らしている事も知った。
 更にはその男がこれまた幼馴染で……おまけに……か〜な〜り!!いけ好かない野郎だった事実…。
 しかし、そのいけ好かない少年が実はとっても恥ずかしがり屋で……温かくて……優しい青年に成長していた現実を知る事が出来て、少なくとも四人の中では『憧れの少女』を取られた…という悔しさが慰められたのだ。

 ………ほんの少しだけ……ではあるが。

 それでも、四人にとってはとても大きな意味を持つ事実であり、少なくとも幼い頃に抱いていたわだかまりが解けて、その青年に対し、好感を持つことが出来たのだ。
 今では虚像でしかない故郷の出身である数少ない同胞。
 その稀少な同郷の仲間に対し、好感を持てるか否か…というのは非常に大きな問題になる。
 そして、その問題を四人の青年は数ヶ月前に乗り越える事ができたのだ。
 これを喜ばずして何としよう?
 しかしだ!
 まさか…。
 まさか、あの有名な『ジェノバ戦役の英雄』だとは!!
 いや、確かに四人とも英雄達の名前くらいは知っていた。
 しかし、フルネームで覚えていたわけではない。
 あくまで『クラウド』と『ティファ』という名前だけを知っていたわけで…。
 この星にどれ程の『クラウド』と『ティファ』という名前の人間が存在する?
 だから、四人はさして気にもしなかった。

『幼馴染と同じ名前を持つ英雄』

 その程度の認識しかなかったというのに、まさか『当の本人達』だったとは!!
 もう、驚き過ぎて言葉が無い。


「誰か…夢だと言ってくれ…」


 青年の一人がボソリと陰鬱に呟いた。
 そんな沈みきった空気を醸し出しているのは、観客席ではその四人だけ。
 周りは熱狂の渦だ。
 四人の沈んだ空気などどこ吹く風か。
 周りにいる観客達は、全く見向きもしないで闘技場に釘付けになっている。

 そうして。



うるっさい!!仕方ないじゃん、ここに名前が無いんだから!!!

 キーーーーーーン……。

 マイクで声量が倍以上になった怒声に、呆然としていた青年達は現実の世界に引き戻された。
 そして、思い切り顔を顰めて耳を押さえている大勢の客達に謝罪の言葉などないまま…。

「はいはい!時間もないし…。第一回戦、クラウド対シュリ、試合開始!!」

 カーン!!


 勝手に試合開始宣言を行い、手元にあったゴングがユフィの手によって鳴らされた。


「「「「「「おい!!」」」」」」


 何やら闘技場にいるクラウドと隊員達が引き攣った顔をして突っ込みを入れているらしかったが、ゴングがなると同時に先程よりも観客達の魂に火がついたらしく、クラウド達が何を言っているのか歓声に掻き消されて全く分からない。
 歓声が湧き立つ観客席に、どこか浮いた感じの四人だったが、クラウドが大剣を構えるのを見て沈んだ気持ちが少し浮上する。
 そして…。

 ガキーーン!!!

 剣と剣が交わる音に、息を飲んだ。
 そして、それを始まりの合図かのように二人の身体は、飛び退ったり、突進したり…。
 ある時は剣を突き出し、ある時は剣での攻撃を仕掛けると見せかけて反対の手で殴りつける。
 その戦いぶりは、もはや『試合』という生半可なものではなくて、実戦を経験した猛者同士の本気のぶつかり合い。
 当然の事ながら、そんな白熱した……『戦いに身を投じたもの同士』の戦闘など、見たことはない。
 四人の青年は呆然とした。
 周りの観客達も自分達と同じ様に、こんな猛者同士の戦いは見たことが無いはずなのに、これ以上ない程興奮し、声をからして声援を送っている。
 ならば一体、四人の青年と彼ら観客の違いはなんだろう…?
 それはたった一つ。
 青年達と戦っている『英雄』が幼馴染だという事。
 そして、青年達は『英雄』の幼少期を良く知っている事。
 更には、幼少期の『英雄』があまりにも青年達にとって『悪印象』であった事。
 最後の『悪印象』は、この前再会した時に払拭されたが、だからと言って過去の『英雄』の記憶が『塗り替えられた』わけではない。

 ― クラウドも成長したんだな… ―

 そう感動しただけ。
 だから…。
 こうして目の前で、凛と相手を見据え、決して侮る事無く次々と剣技を繰り出し、ある時は相手の剣によって傷つけられながらも決して怯む事無く立ち向かっていく…。
 そんな『男の姿』にただただ目を見開くばかりだ。

 一体、いけ好かない少年が村を出て行ってから彼の身に何があったんだろう……?
 あの戦闘技術、あの気迫。
 何よりも……あの『男らしさ』。
 自分達四人も、村を出てから今日までそれなりに辛い経験もしたし、苦い思いもした。
 それらを乗り越えて今日に至るというのに、目の前の幼馴染は明らかに自分達の辛さや苦さをはるかに上回る『何か』を乗り越えている。
 そうでないなら、こんなにも……同性であり、幼少期にこれっぽっちも良い思い出のない幼馴染に目を奪われる事があるはず無いではないか…。

 クラウドと対峙している青年は、自分達よりも年が下に見えるが、流石はWROの隊員と思えるほどの腕の持ち主だ。
 そんな彼とクラウドは対等に……いや、それ以上の技術と能力で押している。
 何戟も合わさる剣と剣。
 気迫と気迫。
 その凄まじい戦闘に、観客達はますます興奮し、青年達はますます夢を見ているような錯覚に陥った。

 だって、ありえないだろう……?
 姿かたちは、確かに数ヶ月前に再会した幼馴染の青年なのに、ここまであの『捻くれた少年』が大きく成長しているなど、信じろという方が難しい。
 例え、自分達の目で実際に見たとしても。

 しかしそれでも…。

「「うぉっ!!」」
「「危ねぇ!!」」

 いつしか、すっかり目の前の試合に青年達はのめりこんでいた。

 隊員の繰り出した一本の剣が、クラウドの首筋にヒットしそうになる。
 その瞬間、思わず青年達は総立ちになって真っ青になったのだが…。

 キーーーン!!!!

 甲高い金属の音と共に、クルクルと隊員の剣が陽光を受けて宙を舞う。
 そして、闘技場の壁に柄までめり込んで突き刺さった。

「「「「ゲッ!?!?!?」」」」

 ビーーン………。

 柄が僅かに震えてその衝撃の物凄さを物語る。
 青年達は別の意味で真っ青になった。

「何なんだ、あの力…」
「っていうか、あのタイミングでよくもまぁ…弾き飛ばしたよな…」
「いやいや、それよりも何よりも…」
「「「「マジでクラウドが英雄のリーダーなわけか!?!?」」」」

 湧き起こる観客達の声援と歓声に、青年達の叫びが虚しく掻き消された。



「………はぁ、参りました」

 闘技場で、隊員が降参を宣言する。
 観客達は総立ちになって心からの拍手を送り、二人の勇姿に感動した。
 青年達もその試合の一部始終を見ていた為、(途中で現実から意識が離れたものの)目の前の二人に心からの拍手を贈った。
 薄っすらと涙まで浮かべて…。

 そんな観客達の目の前で、クラウドはそっと漆黒の髪の隊員に手を差し出した。
 その手を青年がしっかりと握り締める。
 観客席はその感動的なシーンに更に興奮した。
 二人の戦士の健闘を心から祝す。

 四人の青年達もそれまでのショック状態からすっかり感動モードに移行しており、すん…と鼻を啜ったり、目を瞬かせたり、思い切り手を叩いたり……。
 周りの観客達と同じ様に興奮していた。

「まさかなぁ……あのクラウドが……」
「ああ…。ほんっとうに…」
「「「「大人になったなぁ……!」」」」

 声を揃えて遠い日を思い出す。
 思えば、自分達はあの金髪の少年に対して少し……いや、かなり意地悪をしすぎたのではないだろうか…。
 その為に、いたいけな少年の心が歪んでしまい、結果、自分達の同郷であるというのに良い思い出がこれっぽっちも……一つも……微塵も無いのだとしたら……!!

「俺達……悪い事したよなぁ……」
「ああ……」
「まぁ…お互い、ガキだったしなぁ…」
「そうだけどよぉ……」
「「「「…………」」」」

 もしも…。
 もしも、子供の頃…。
 ティファと同じくらい、クラウドとも良い思い出があったら……。
 そう思わずにはいられない。

「俺達…すっげぇ損してたんだなぁ…」

 一人がポツンと呟いた。
 その声は、観客達の興奮冷めやらぬ歓声で掻き消されそうだが、幼馴染の三人には聞えていたらしい。
「そうだな…」
「やっぱ…あいつってちょっと不器用なだけで、良い奴だったんだろうな…」
 青年の二人がしみじみとそう答える。
 しかし、残りの一人は顎に手をやり、何やら思案気な面持ちになっていた。
 そして、顔を上げると…。

「いや、やっぱりあの頃はあれで良かったんだ」

 キッパリと言い切った幼馴染に、残りの三人が「「「はぁ!?」」」と眉を顰める。
 青年は、人差し指を立ててビシッと突き刺すと、


「もしも、子供の頃から今みたいにカッコ良くて良い奴だったとしろよ…。絶対にあの頃からティファはクラウドが独り占めしてたぞ!?」
「「「あ……」」」
「ということはだ!俺達のティファとの甘美な思いでは、す〜べ〜て!!クラウドが独り占めしていたことになる!!」
 俺はそんな事には耐えられない……!!

 グッと拳を握り締め、斜めに顔を伏せる幼馴染に、三人は暫し想像の世界に飛び立った。

 もしも…。
 もしも、今、青年が言った通りにクラウドが良い少年で…。
 ティファの父親も彼の事を気に入っていて…。
 ティファもその頃からクラウドに惹かれていたとしたら……。

 ………。
 …………。

 どう想像しても、クラウドとティファは、幼い頃からの恋人として村人から祝福を受け、そんな幸せ一杯の二人を自分達は指をくわえてみているしかなかっただろう…。
 それが一体どういうことか……?

 ………。
 …………。

「「「ダメだーーー!!!!」」」

 三人は絶叫した。
「お、俺達の美しい思い出が!!」
「彼女の傍にいられたという幸福な日々が!!」
「ティファの隣に立てるかもしれない…と夢見て輝いていた思い出が!!」

「「「耐えられねぇ〜〜!!!」」」

 青年達の絶叫は、周りの一部の観客達を驚かせ、気味悪がらせたがそんな事に四人は全く気付いていない。
「そうだろう、そうだろう!?」
「ああ、その通りだ!!」
「俺達の美しい思い出の為にも、これで良かったんだ!!」
「ああ…!!って言うか……出来ればその思い出が今も可能性を帯びてたら言う事ないのにな……」

 バシッ!ベシッ!ゴスッ!!

 最後の余計な一言を口にした青年を、三人は容赦なく殴りつける。

「うう……すまん……つい本音が…」
「このバカ!折角諦めようとしてるのに!!」
「…って言うか、お前、まだ諦めてなかったのか……?」
「…………そんな簡単に諦められるかっつうの……」
「「…実は俺も…」」
「「………はぁ…」」

 四人の周りには、いつしかポッカリと空間が出来ていた。
 周りの観客達が四人をチラチラ見ながらヒソヒソと話している。
 完全に『変態』というレッテルを貼られてしまった事に、それでも四人は気付いていなかった。
 
 ……ある意味、すごくマイペースな人種といえよう……。



「「「「「おおお!!!!」」」」」

 ふと際立った歓声に、四人は闘技場に視線を戻した。
 闘技場ではいつの間にか第二回戦が始まっている。

「ゲッ!!」
「あいつ、一対二で試合してるのかよ!?」
「なんか、ずるくないか!?」
「おいおい、クラウド、大丈夫……って、危ねぇ!!」

 グリートの背に脚をかけ、上空高く飛んだプライアデスが猛然とクラウドに切りかかる。
 クラウドはそれをラグナロクで受け止めたが、その時肉薄していたグリートの攻撃に危うく胴体が切断されそうになった。
 幼馴染ばかりでなく、観客達も「ヒッ!」と息を呑んだが、クラウドはなんとその攻撃を蹴りで防いだ。
 そして、剣で受けとめているプライアデスの攻撃を、そのまま攻撃に転じて紫紺の瞳の青年を弾き飛ばした。
 
 クルクルと空中で身を縮めて回転させ、体重を感じさせない身軽さで着地した隊員に、幼馴染の青年達は目を剥いた。
 どう見てもその鮮やかな身のこなしをする隊員達を、クラウドが一人で相手にするのは無謀に思える。

 いつしか、クラウドにティファを取られた〜!!という悔しさから、クラウドを応援する気持ちで胸が一杯になっている。
 青年達は必死になってクラウドを応援した。
 そして…。



 クラウドの必殺技が二人に炸裂する。



「クラウドの勝利で〜っす!!」


 会場が再び沸いた。


 青年達は、クラウドの必殺技に度肝を抜かれたが、それでも闘技場で晴れ晴れとした顔をして、隊員二人に握手を求め、しっかりとその手を握って健闘を讃えている幼馴染に、感動せずにはいられない。

「ケッ!本当に……でかくなりやがって…」
「ああ……本当に…」
「俺、これからもっと、クラウドと仲良くなりてぇな…」
「ああ、俺も!」

 胸に込上げる熱い思いに、青年達は涙をこぼさないよう、しきりに頷いたり空を仰いだりしていた。



 が!!



「あ……ティファ…」
「「「なに!?!?」」」

 四人の内、一人が観客席の一角を見つめてボソリと呟いた。
 その青年の視線の先には、漆黒の髪を持つ美しい女性の姿。
 見間違いの無いその麗しい女性に、青年達の胸が高鳴る。

 ティファはこれまで見た事のない、笑顔を闘技場に向けていた。
 遠めでも分かる。
 彼女の瞳がキラキラと涙で輝き、頬に赤みが差していて…。
 彼女の周りの空気だけが非常に澄んでいるのだから。
 そして、そんな彼女の視線を独占しているのは……。


「「「「クラウド〜〜……」」」」


 ティファと同じ様に柔らかな笑顔を浮かべ、真っ直ぐ彼女を見つめる青年は、凛としていて本当に……カッコ良かった。
 だがしかし…!!



「「「「はぁ…………」」」」



 そこはかとなく、敗北感を感じてしまうのは何故だろう……?

 ガックリと肩を落とし、四人は最後まで試合を見ずに闘技場を後にした。
 まだ後一試合残っていたのだが、どう考えてもあの怯えきった三人の隊員がクラウドに勝てるはずが無い。
 と言う事は…。
 優勝したクラウドに、ティファが熱い……抱擁や……それ以上の事を……したりしちゃったりするんじゃないのか!?!?

 そんなラブシーンを目の前で見せ付けられたら、ガラスのハートが粉々に砕け散って再生不能になってしまう!


 四人は陰気な顔で黙々と居酒屋へ向かった。
 当然…。


「「「「今夜は自棄酒だー!!」」」」


 四人の虚しい叫びに、夕空からカラスが「アホーー、アホーー」としか聞えない鳴き声を上げなら飛んで行ったのだった。



 四人に新しい恋がやって来るのは…。
 まだまだ当分先の話のようだ……。



 お気の毒様…。



 あとがき

 T・J・シン様の94049番のリクエスト『ニブルヘイムの幼馴染四人集がクラウドの決闘や、それが終わった後の二人が見つめあうシーンを目撃してガックリくる所を面白可笑しく♪この四人はクラウド達が「ジェノバ戦役の英雄」とは知らないという設定でその驚きようも表して…(笑)』でした。
 お、面白おかしく……出来なかった〜〜(号泣)。
 本当にゴメンナサイ!!
 こんな駄文になっちゃいました(;;)。
 こんなお話しでもよろしければ、T・J・シン様にお捧げします…。
 本当に…。
 ご〜め〜ん〜な〜さ〜い!!(土下座)