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「ヤダ…なんか変な天気…」 朝はあんなに快晴だったのに…。 そう呟きながら、その店の女店主はベランダに干していた洗濯物を急いで取り入れた。 追って来る過去ゆえに…。彼女はとても忙しい。 何しろ、小さな子供を二人と大きな子供一人を抱えているのだから。 三人とも血の繋がりはない。 しかし、魂の奥深くで強く結びついた大切な家族だ。 その家族を守るために彼女は骨身を惜しまず毎日クルクルとよく働いた。 ティファ・ロックハート22歳。 誰もが振り返る美女。 それもただの美女ではない。 内面から溢れ出る輝きで際立って美しい容姿が更に光っている。 当然、彼女に恋焦がれる男達が後を絶たない状態で、彼女の恋人という座を手にしている『大きな子供』であるクラウド・ストライフ23歳は、ヤキモキさせられることがしばしばだった…。 そんな彼、クラウド・ストライフを想い、ティファは「はぁ……」と溜め息をついた。 決して『愛しい人を想い、恋焦がれている甘い吐息』ではない。 不安満載の重苦しい溜め息は、彼女の美しさを何故か『儚げ』に美しく彩るばかりで、決して色褪せさせなかった。 逆にいつもと違う彼女のその様子は、彼女に、思慕の念を募らせている男達の情念を駆り立てるばかりだった…。 店やビル、横断歩道の途中にある数人の男達が、二階のベランダで空一面に広がる黒雲を見つめて鬱々としている彼女の姿に思わず見惚れて口を開ける。 それはそれは、奇異な光景であった……。 格闘家でもある彼女は、人の気配…、とりわけ『敵意』には敏感だ。 だが、どうしたことか、自分に向けられる『憧憬』の眼差しにはとんと無頓着……というか、気付かない。 という訳で、彼女はいつも『無邪気』で『無防備』。 仕事で家を空けがちなクラウドに代わり、看板息子と看板娘が日々、彼女の周りに見えない壁を張り巡らせるべく格闘していた…。 ……という事実に、ティファ・ロックハートが気付く日が来るかどうか…それは非常に微妙な…、と言うよりも気づかないという可能性が非常に高く、それはそれで…『罪作り』な女性である。 「クラウド…大丈夫かな…」 彼女は自分に向けられる憧憬の眼差しに気付く事無く、胸に巣食っている大きな不安に、また一つ、深く重い溜め息を吐いた…。 その彼女の不安の原因であるクラウド・ストライフは、その日、朝から非常に行きたくない場所へ赴いていた。 ほんっとうに! 心の底から!! その場所には行きたくなかった! いや、その場所…と言うか、依頼主に会いたくなかったのだ。 ― 『俺…、腹が痛いって言っても…ダメだろうな……』 ― 滅多に口にしない弱気で情けないその台詞に、ティファは元気付けるように彼の身体をそっと抱きしめ、送り出した…。 「あんなに嫌がってたのに…、やっぱり取り次がなかったら良かったなぁ…」 深い後悔の念が押し寄せる。 しかし、相手が誰であろうと『依頼』されたら取り次がないわけにはいかない。 仕事なのだから。 相手がイヤな人間でも…、たとえ、二度と会いたくない!と思う人物であっても!! それが『仕事』となると、私情を挟むわけにはいかない。 子供達の手前、父親代わりとしてはそんな身勝手な大人の姿を見せるわけにはいかったし、それ以上に……。 ―『恐らく、私の依頼を受けてくれた方がクラウド、お前のためだ』― という、実に不気味な宣告があったのが大きかった。 クラウドは渋りに渋りまくりながら、愛車を走らせた。 それからもう二時間ほどが経つ。 そろそろその依頼人のところに着いてもおかしくない頃だ。 ティファは腕一杯の洗濯物を器用に抱えながら室内に引っ込んだ。 それと同時に路上では、落胆の溜め息が同時に吐き出されたのだった……。 そしてその頃…。 「断る!!!」 形の良い眉を危険な角度に吊り上げているクラウド・ストライフがヒーリンにいた。 目の前には、憎らしいほど余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)に座っている若き社長。 その両脇には、紺のスーツをピシッと着こなしているオールバックのハンサムな男性、金髪の美女、赤い髪すそを一つに括り、カッターシャツをラフに着崩している男、それにムッツリと押し黙ったサングラスでスキンヘッドの男が控えていた。 彼らはクラウドが怒り狂うことをしっかり予想していたのだろう。 クラウドの怒鳴り声にも、背筋の凍りつくようなアイスブルーにも、心臓が止まりそうなほどの殺気にも耐え、表情を崩さなかった。 流石に笑みを浮かべるような余裕はなかったのだが、打って変わってその余裕を持ちえていたのは…。 「タダとは言わない。お前の言い値を出す」 自分の言動が怒りを買っていると充分認識しているくせに、全く改める気持ちがない金髪の青年。 クラウドは一瞬、その眼光を強め、今にも飛び掛りそうな殺気を放った。 タークスの面々が緊張で強張り、咄嗟に身動きする。 無論、自分達の上司を守るためだ。 しかし、結局その必要は無かった。 暴走を抑える事にギリギリの状態で成功したクラウドが、クルリ、と背を向けたのだ。 そのまま、怒りを露わにしながら大股でドアに向かう。 ほんの数歩でドアに辿り着くしか距離はない。 タークスの面々が、どうするのか…?と社長を見た。 「クラウド、そう急ぐな。お前の『言い値』プラス、特典を用意している」 ピタリ。 タークス達は目を見張った。 怒り狂っているクラウドが、まさかその一言で足を止めるとは思わなかったからだ。 意外そうな顔を隠しもしないレノが、「あ……」と、何かを思いついたかのような声を上げる。 そうして…。 「社長…?もしかして……?」 ピクッ! クラウドの頬が僅かに引き攣った。 ゆっくりと振り返ったクラウドは、ドアへ向かった時とは打って変わって、何故か慎重な足取りで元の場所に戻って来た。 ツォン、イリーナ、ルードは首を傾げたりキョトンとしている。 しかし、レノは…。 「社長。俺、ちょっと旅に出てくるんだぞっと」 「あぁ、それが良いかも知れないな」 額にびっしりと汗を浮かべ、ソロソロとドアに向かって体を滑らせながらふざけたことを言うレノに、なんとルーファウスは引き止めたり、咎めることを言うどころか、賛同した。 と……。 ガシッ!! ミシミシ…と音がしそうなほどの力を込めて腕をつかまれ、心臓が凍りつくほどの殺気が篭った鋭い視線に射抜かれる。 レノは逃亡を断念した。 「それで……『特典』とは……?」 一言、一言を区切りながら、地の底を這う亡者のような低い声を押し出すクラウドに、イリーナがゴクリ…と唾を飲み込んだ。 腕を掴まれたままのレノなどは失神寸前だ。 真っ青な顔にはびっしりと汗が浮き出ている。 ルーファウスは実に楽しそうな余裕の表情で、ピッ…、と人差し指、中指に『ある物』を挟んで掲げて見せた。 途端。 ピッツァーーンッ!!!!! クラウドが声もなく石化した。 レノの顔面に浮かんでいた玉のような汗が、滝のように流れ落ちる…。 腕をつかまれているレノ以外のタークス達には『ソレ』が見えない。 覗き見たい気持ちがあるものの、覗き見た直後に星に還るような結末は迎えたくない……。 ただただ、真っ青になっているレノとクラウド、そして余裕な態度を崩さない社長の横顔を横目で見るだけだった…。 「WROでは『この格好』で素晴らしい働きをした、と耳にしたが?」 「な、なんでアンタがソレを知っている!?」 狼狽し、激昂するクラウドに、ルーファウスは、 「簡単だ。その手の噂は広まるのが早い。もっとも、正体がお前だとは当事者達以外は知らないようだが、私には『コレ』があったからな。すぐに分かった」 そう言って、ピラピラと薄っぺらい『ソレ』を揺らした。 クラウドの顔色がスーッと引いて行く。 長い…、本当に長い沈黙の後…。 「……少し……考えさせてくれ……」 怒りと殺意を必死に理性で押さえ込み、震える声でクラウドがそう申し出た。 ルーファウスは唇の片側をクイッ、と持ち上げて笑い、その申し出を了承したのだった…。 「悪夢だ…」 帰宅したクラウドのあまりの顔色の悪さに、ティファはギョッとして駆け寄り、彼の為に温かいカフェオレを煎れた。 一口啜ったあと、呟かれたその一言にギョッとする。 「何があったの!?」 肩に手を置き、愛しい人の顔を覗き込む。 クラウドは片手で顔を覆うようにし、苦悶の表情を浮かべていた。 深い眉間のシワにティファの不安が色濃くなる。 同時に、ルーファウスへ激しい怒りが湧きあがってきた。 『クラウドに一体何を!?場合によっては……!!』 メラメラと憎悪が胸を焦がし、彼を守るのは自分だ!という強い想いで身体が熱くなる。 対照的に、クラウドの身体はショックのためか冷たくなっていた。 肩に置いた手の平から、彼の身体が冷え切っているのが伝わってくる。 ティファはカフェオレのカップをひっくり返さないように、慎重にクラウドを抱きしめた。 カウンターのスツールに腰掛けているクラウドは、胸に頬を埋める形で黙ったまま身動き一つしない。 ティファは驚いた。 彼がこうして抱きしめられると、いつも恥ずかしがるのに! ティファの怒りが最高潮に達した。 「クラウド、私……出かけてくる」 「………え!?」 突然身体を離された、と思ったら、決然とした口調で口を開いたティファに、クラウドは一瞬呆け、次の瞬間顔を引き攣らせた。 猛然とした勢いでドアに向かう彼女を慌てて追いかける。 「ちょ、ちょっと待ってくれ、ティファ!」 「すぐに戻るわ、大丈夫、心配しないで!」 「いや、そうじゃないから、そうじゃないからちょっと待ってくれ!!」 「離して、クラウド!!」 必死に食い止めようとするクラウドの腕を強く振り払うと、ティファは仁王立ちで向かい合った。 「クラウドをこんな目に合わせたのは取り次いだ私の責任だもの!私が行ってくるわ!!」 怒りに燃える彼女の瞳に薄っすらと浮かんでいる涙に、クラウドは戸惑い、そうしてついに……。 「違うんだ!!!ティファのせいじゃない!!!!」 強くティファを抱きしめ、そのままの格好でボソボソと真相を話しだした。 ルーファウスに見せられた『例のもの』について…を…。 「……というわけで……今回、アイツの警護を頼まれた……」 「………」 「その……『例のもの』と同じ格好で…って……」 「………」 「でも!俺は…決して『そんな趣味』があるわけじゃないんだ!!だから……」 しどろもどろ、彼女を抱きしめたまま苦しい胸のうちを吐露する。 クラウドはジットリと背中が汗ばんでくるのを感じた。 今、告白した話しが、もしかしたらティファにとって『嫌悪感以外の何者でもない』ものだったら!? そういう恐怖が込上げてきたのだ。 彼女に嫌われたら!? 彼女が愛想を尽かしたら!? 『そんな趣味』のある男はサイテーだ!と思われたら!? そんなことになったら、冗談抜きで生きてはいけない!! それになにより、自分には『そういう趣味』など微塵もないし、屈辱以外の何者でもないのだ!! それなのに、勘違いで彼女に嫌われる、蔑まれる結果になったとしたら!? クラウドの脳内はグルグルと袋小路にはまり込んだように、同じ事が駆け巡り、大混乱になっていた。 言い知れない恐怖で心臓はバクバク。 腕の中でピクリとも動かない彼女に、不安がピークに達する。 と……。 「クラウド!!」 ビクッ!! 突然、大声を上げて身体を離したティファに、クラウドは怯えたような目を向けた。 彼女から三行半(みくだりはん)を突きつけられる!! そう…思った次の瞬間。 「その依頼、請けるべきよ!!!!」 「……え……?」 自分の両肩をガッシリと掴み、キラキラと輝く目で見つめてくる彼女に面喰う。 まさに、鳩が豆鉄砲を喰らう…とは、このことだろう…。 クラウドは自分の耳にした言葉を疑った。 彼女に嫌われる恐怖からの幻聴か?…と思ったほどだ。 だが、大いに戸惑うクラウドとは対照的に、ティファは輝く笑顔でクラウドを見つめていた。 その瞳は熱に浮かされたようにうっとりしている。 「クラウド、絶対、絶対に断っちゃダメ!!」 「え………いや、だが…」 「だって、『そんなもの』出回ったら大変でしょう!?」 「いや……そうなんだが……」 「それに、クラウドなら大丈夫よ!絶対に『バレない』から!!」 「あ~……いや、だがちょっと無理があると…」 「ううん!!絶対に大丈夫!!だって、『コルネオの館』で、私を助け出すことに成功してくれたじゃない!!」 「……だが……」 「クラウド、大丈夫!あなたなら出来るわ!!私、協力するから!!」 大混乱するクラウドを尻目に、ティファは先ほどとは打って変わって生き生きと、そしてキビキビと行動に移した。 まずは、クラウドの代わりにルーファウスに『了承』の電話をかけた。 次いで、呆けているクラウドに留守番を頼むと街に飛び出し、30分という驚異的なスピードで買い物を済ませて帰って来た。 当然、大ショックを受け、混乱真っ只中にあるクラウドは落ち着きを取り戻せてなどいない。 ボーっとしたまま、現実を受け入れられていないクラウドを、コレ幸い!と言わんばかりにティファは『作業』に取り掛かった。 「はい、クラウド。コレに着替えて!」 「え……、こ、これ!?!?」 「そうよ、早く早く!時間がないんだから!!」 「い、いや…でも……ティファ、俺は請けるとは…」 「あ、そっか。着方が分からないよね。じゃあ手伝うわ」 頭が真っ白になっているクラウドの言葉を丸々無視し、ティファがクラウドの着ている服に手をかけた。 クラウドの脳が急速に起動し始める。 「じ、自分でやるから!!!」 半分肌蹴られた服を慌てて合わせると、クラウドは彼女の手から『ソレ』を奪い取った……。 それから約3時間後。 「「 ただいま~!! 」」 遊びに行っていた子供達が元気に帰って来た。 外はパラパラと小雨が降り始めている。 二人共、小雨が降り始める手前に帰り始めた様で、さほど濡れてはいなかった。 「お帰り、二人共!」 「「 ??? 」」 妙に上機嫌な母親代わりに、二人は顔を見合わせる。 「なにかあったの、ティファ?」 「今日は店が休みだからじゃないか、マリン」 「あ、そっか」 ニコニコと笑う子供達にティファが満面の笑みで『おかえり』のキスをする。 そうして、二人をギューッと抱きしめたままクルクルと店内を回った。 二人とも、ここまで上機嫌なティファを知らない。 知らないが、ティファが嬉しいと自分達も嬉しい。 笑い声を上げながら、何があったのか聞かせて、とせがむ。 「ふふ、実はね~」 二人をストン、と下ろし、目線を合わせて中腰になったティファの背に、 「ま、待て、言うな!頼むから!!」 「「 クラウド? 」」 二階に続くドアの向こうから父親代わりの慌てまくった大声がかけられた。 「どうして?とっても素敵なのに」 「頼むから、ティファ!ほんっとうに頼むから!!」 「「 ??? 」」 ダメ…、と言われると知りたくなる。 二人は顔を見合わせ、実に嬉しそうなティファを見上げて…。 ニ~~ッ、とイタズラ一杯に笑った。 ソロソロと足音を立てないようにドアに近付く。 ティファはニコニコ笑うだけで止めようとしない。 むしろ、子供達の反応を楽しみにしているようだ。 その間も、ドアの向こうからはしきりにクラウドが『こちら』に来ないよう、頼んでいる。 当然、好奇心旺盛な子供達を止められるはずもなく…。 バンッ!! 「 !? 」 「「 えっ!?!? 」」 三人はギョッと目を見開いて固まり、見つめ合った。 見る見るうちに、クラウドの顔が真っ赤になる。 子供達は呆けたような顔をしていたが、クラウドが逃げるように店内へ足を踏み出し、ドアへと向かうその背中に向かって…。 「「 すっごーーーーい!! 」」 バタバタバタ…、ガシーーーッ!!!! クラウドの腰辺りに勢いよく抱きついた。 履き慣れていないハイヒールに、クラウドが思い切り転倒しそうになる。 それをサッとティファが支え、四人はもつれ合うようにして抱き合う形になった。 「すっごい、すっごい!!」 「クラウド、そこら辺の女の人よりうんと美人だー!!」 「どこ行くの?ねね、どこ行くの!?」 「どっかパーティーに行くんだろ!?」 「「 すっごーーーーい!! 」」 称賛の言葉を口々に述べる子供達。 満足げに「そうでしょう!?もう、渾身のできでしょう!?」と大絶賛のティファ。 クラウドは……失神しそうだった。 上質の紫のドレス。 逞しい肩や腕を隠すため、ハイネックに長袖のドレスは幾つものキリ返し縫いがされており、もともと細い彼のウエストを更に細く見せる素晴らしい出来だった。 そして、彼の頭にはブロンドのロングヘアーのウィッグ。 顔の施された化粧は、ティファの渾身の出来栄え! 薄い唇に上品に施された口紅は、淡いピンク色。 グロスが店内の照明にキラキラと光って色気たっぷり。 足元は辛うじてハイヒールのつま先と踵(かかと)が見えるだけだが、つま先部分に施されているスパンコールは蝶をモチーフとしており、女性ならそのデザインに心動かされること必至だろう。 これだけの代物をたった15分で揃えたティファの凄腕には驚かされる。 三人に高評価を得ている自分の姿を、窓ガラスでチラリ…と盗み見たクラウドは、死にたくなった……。 情けなさ過ぎて涙も出ない。 『ザックス……エアリス……、頼むから今すぐ迎えに来てくれ……』 内心で切にそう願いつつ、クラウドは丁度迎えに来たルーファウスの車に苦虫を100匹噛み潰したような顔で乗り込んだ。 「クラウド、折角のドレスと化粧が台無しだ。もう少し朗らかに、柔和に笑って見せてくれ」 そう言いながら腕を差し出したルーファウスを、呪い殺してやりたい気持ちで一杯にしながら、クラウドは去って行った。 どこに? パーティー会場に! 今回、ルーファウスの依頼は『パーティーへの同伴』。 各地の富豪達が集まるそのパーティーへ顔を出し、神羅の再興の第一歩を、というのが目的だった。 だが当然、神羅は快く思われていない。 のこのこ丸腰でパーティーへ行っては命が危険だ。 だが当然、武器は持っていけない。 となると、素手で社長を守れる凄腕のボディーガードが必要だ。 タークスであるイリーナは少々護衛としては心許無い。 彼女の武器を扱う腕は一流だが、素手では恐らく警護は難しいだろう…。 そこで思い立った人物が……。 『ジェノバ戦役』の英雄。 最初、その案を出したツォンは、ティファ・ロックハートを推した。 元々彼女が格闘家で、武器を使わずに戦えることが理由だった。 しかし、彼女をボディーガードにするのは至難の業だ、とすぐに行き詰った。 なにしろ、彼女にはこの星一番の猛者である、クラウド・ストライフがいる。 絶対にボディーガードの件を阻止してくるはずだ。 となると…。 ウータイ産の忍者娘…、ということになり、ルーファウスとタークスは即行で却下した。 このパーティーには、あのように『はじけたキャラ』は浮いてしまう。 それに、彼女の場合、一体何を要求されるか分からない、という不安要素が満載だ。 人選に行き詰まり、頭を悩ませている時…。 「お、そう言えば、2年前に~~…」 赤い髪のタークスが何を思いついたのか、部屋を出て行き、戻った時には一冊の本、いや、アルバムを持っていた。 そこに写っている『彼』に、その場にいた全員が満場一致で賛成したのだった…。 「…分かってると思うが……」 まるで汚いものでも吐き出すかのように、後部座席に身体を埋めているクラウドが呻く。 ルーファウスはニヤッと笑いながら、内ポケットに入っている白い封筒をチラリ…と見せた。 「今夜、無事に乗り切ったらネガと金を渡そう」 クラウドは奥歯を噛み締めて……。 ガックリと肩を落とし、諦めた……。 鬱々と、どうしてこんなことになったのか…と、情けなさで一杯になっているクラウドは気付かなかった。 助手席に座っているレノの胸ポケットの携帯のバイブ音に。 携帯のメールに、彼が目を丸くしたことに。 そして、チラッと後ろを見て、ニヤ~ッと笑ったことに……。 その日の晩。 パーティー会場は異様な盛り上がりを見せた。 それは、金髪で洗練された身のこなしのルーファウスと、彼が連れている絶世の美女のため。 そして、僅かな隙を突いて若き社長を狙った過激派の男達をその美女があっさりと片付けたことで…。 更には、彼女が若き社長からほんの僅かに離れた隙に、男共が群がって求婚し、 「………殺すぞ」 世にも恐ろしいアイスブルーで睨み上げられ、地の底の亡者のような声で脅されて凍りついたことによって…。 クラウドは、己の寿命が10年は軽く縮んだ思いを味わいながら、その依頼を無事に全うし、『ネガ』と『依頼料』を得たのだった…。 だが。 後日、セブンスヘブンに一つの小包が届けられた。 届けたのはクラウドではなく、クラウドのように『デリバリーサービス』を最近始めた若者だった。 彼は、ティファの美しさに目を奪われ、小包を開けて嬉しそうに微笑んだ彼女に一発でノックアウトされた。 そんな若者には当然のように気付かず、ティファは簡単なお礼を口にしてあっさりとドアを閉めた。 青年は、呆けたようにそのドアの前で暫く佇み、やがて名残惜しそうに何度も振り返り、窓の中を覗き込みながら次の配達先へと赴いたのだった…。 そうとは知らないクラウドは、数日前の悪夢はすっかり片がついたと信じ、今日も配達に精を出している。 「…ありがとうございました」 無愛想な顔のまま、依頼先の人間に軽く頭を下げる。 そうして、逸る心で胸を弾ませながら、家路に着いた。 今日の配達はこれで終わりだ。 早く帰って、愛しい家族に会いたい。 会って、抱きしめたい。 だが。 彼は知らない。 まさに、彼が焦がれているセブンスヘブンで、愛しい彼女が満面の笑みで子供達に『写真』を見せていることを。 子供達が「すっごーい!」「素敵~♪」と、大絶賛しながら、一枚、一枚、丁寧にアルバムにその『写真』を閉じていることを。 「流石、レノよね~。まさか、2年前にコルネオの館に行く途中のエアリスとクラウドの写真を撮って、残しているだなんて~」 上機嫌で、新しい写真をうっとり見つめているティファ・ロックハートがいることを…、彼は知らない。 「凄いよなぁ!クラウドに気付かれないようにここまで撮ってるだなんてさ~!」 「ホント!でも、勿体無いよね。クラウド、美人なのにすっごく無愛想…。一枚も笑った写真がないんだもん」 「あ~、そりゃそうだよな。クラウド、すっごく嫌がってたから」 「似合うのに~」 その頃、2年前にエアリスを見張っていたが故に、『激写』に成功したレノがくしゃみをしたのかは…不明。 そうして、クラウドは知ることとなる。 自分がまたもや、同じ条件で『依頼』を請けなくてはならない日が来ることを。 その日まで…あと……。 愛しい彼女を救うためにとった過去の大胆な行動により、これからもクラウドは苦労する。 あとがき はい。234234番キリリク小説です。 リク内容は。 『前回WROの極秘任務でクラウドが女装姿で潜入捜査をして見事解決させたという噂を聞き付けたルーファウスがクラウドに護衛を依頼する。当然の如く女装姿で。依頼内容を聞いたクラウドは激しく殺意丸出しで猛反発する。しかしルーファウスはある一枚の写真を取り出し、「依頼を受けてくれれば報酬と一緒にこれを渡してやってもいい」とクラウドに見せたそれはなんと二年前の女装写真だった。どこで手に入れたのかと問い質すと、それはクラウドとエアリスを追っていたレノが偶然撮影したものだという。その後帰宅したクラウドはティファにルーファウスからの依頼を嫌々ながら話すと猛然とした勢いでティファに詰め寄られ「その写真が世間に出回ると大変だから絶対に受けた方がいい!!!」と潤んだ瞳で懇願されあっさり白旗を上げる。』 でした! ケイ様、こんな感じですが……どうでしょうか…(ビクビク)。 本当にリクエスト、ありがとうございました~♪ |