「今夜もやけに女性客が多いな…?何かこんなに女性客が多い日が続くって、珍しい事じゃないか?」
クラウドはそう言うと、不思議そうにセブンスヘブンの店内を見渡して首を傾げた。
子供達はその姿に、「「ハァ〜…」」と溜め息をつき、気遣わしげに女店主をそっと窺った…。
ティファは、子供達のそんな様子を知ってか知らずか、一見いつもと特に変わりない様子でカウンターの中で、注文の品を作ったり、常連客と楽しげに話をしている。
しかし、子供達にはお見通しだった。
女店主の機嫌がすこぶる悪いという事が…。
原因は他でもなく、先程からしきりに首を傾げて店内を見渡しているクラウド、その人にある。
いや、厳密に言うと、クラウド本人よりも、『クラウドを目当てとした客人が店内に溢れている』状況が、女店主の機嫌を著しく損ねているのだ。
その事に、当のクラウドは全く気付いていない。
それどころか、ティファの不機嫌にすら気付いていないのでは…?と子供達は案じていた。
そう。クラウドは、ティファの不機嫌には気付いていなかった…。
と、言うよりも、今夜の彼には気付く余裕がなかったのだ。
その原因は……。
「クラウドさ〜ん!料理を注文しても良いですか〜?」
「あ〜、クラウドさ〜ん。こっちもお願いしま〜す♪」
「クラウドさ〜ん!こっちも良いですか☆」
「クラウドさ〜ん!」
「クラウドさ〜ん!」
と言う具合に直接の御指名を受け、あちらのテーブルへ、こちらのテーブルへと駆け回っていたのだ。
何故、彼がこの様な状況に置かれているかと言うと、話は三日前に遡る。
その日、クラウドはいつもよりも早い時間にエッジに帰って来る事が出来た。
モンスターとの遭遇も少なく、配達周りも近隣のみだった為、珍しくお昼時の帰宅であった。
いつもの道を、いつも通りフェンリルで我が家へと急ぐ彼の前方で、突然、建設中のビルから鉄骨が落下したのだ。
そして、まさにその真下を若い女性が歩いていた。
女性が落下する鉄骨に気付いた時には、既に走って逃げるには遅すぎた。
女性は眼前に迫る死に、体が硬直し、声も出ないで立ち尽くす。
周囲から悲鳴が上がる。
誰もが、鉄骨の下敷きになる女性を想像した。
そして―…。
周囲から歓声が上がった。
落下した鉄骨の下敷きになる、まさにその刹那、クラウドが鉄骨の下を滑り込むようにフェンリルを傾け、女性の身体を横様に攫いあげたのだ。
奇跡のような神業で、クラウドは尊い命を多くの人々の目の前で救った。
クラウドの腕の中で硬く瞑られていた目を開き、自分の命が目の前にいる男性に救ってもらった事を知った女性は、周囲の目も気にせず、クラウドにしがみついて大声で泣き始めた。
そして、何度も何度も感謝の言葉を口にする彼女に、クラウドは困った顔をしながら「いや、あんたが無事で何よりだった」「そんなに大した事じゃない。たまたま通りかかっただけだ。だから気にされるとこっちが困る」等々しどろもどろになりながら、興奮しきった女性の扱いに途方にくれてしまう有様だった。
その彼の姿と、彼の胸にしがみついてしゃくりあげる女性は、まるで映画のワンシーンのように周囲の人の目には映り、非常に感動的であった…、とは、その日の当日にセブンスヘブンに来た常連客の独りの証言である。
そしてその後、クラウドは自分にしがみついている女性を家まで送り届けたのだった。彼女は興奮しきってて、どうも家に直接送った方が自分も彼女も早く帰宅できると思った…と帰宅したクラウドはティファにそう説明をしている。
きっとそれは、彼の紛れもない本心だったのだろう。
だが、彼の本心とは裏腹に、女性のクラウドへの印象は『命の恩人ばかりでなく、心が優しく、素敵な男性』となっていた。
彼女が帰宅した際、家は無人だったが、それから間もなくすると彼女の家族が帰ってきた。その頃には当然、クラウドはいなかったのだが、彼女は帰宅した自分の家族に、興奮しきりに彼の救出と、彼の印象を熱く語った。そして、彼女は更に電話で友人達に自分の経験と、熱く印象に残った彼の素晴らしさを強調して話して聞かせた。
しかし、本当にこれだけなら、今夜のセブンスヘブンがこれほどまでに『クラウドコール』をする女性客で賑わう事などなかっただろう。
だが現実はクラウドを初め、クラウドに命を救ってもらった女性すら知らなかったのだが、大事件になるところを、実に鮮やかに、奇跡のような神業で間一髪で救う、という場面に出くわし、その後の、クラウドとその女性のやり取りを一部始終見ていたギャラリーが、実は驚くほど多かったのだ。
おまけに、その目撃者の大部分が女性達だった。
その原因は、クラウドが女性を救出した場所が、割とエッジの中でも復興が良く進んでいる地帯の一角で、ちょっとした喫茶店やレストランが存在する。そして、救出したのは、まさにそのレストランや喫茶店目当てで訪れる人が多くなる時間、丁度お昼時であったのだ。そんな彼らが、目の前で見たクラウドは『≪ジェノバ戦役の英雄≫というのに、全くその事で尊大なるどころか、謙虚で、決して自分の功績を自慢せず、おまけに救った女性を家まで送る心優しい寡黙な英雄』との印象を受けるものだった。
クラウドの救出劇は、その日の内にエッジに広まった。
もちろん、自分達の受けた印象に加えて、話に尾ひれ、背びれ等を沢山つけて…。
その為、その夜セブンスヘブンでは常連客達から、散々その事件の詳しい話をねだられ、クラウドは無愛想な彼の顔を更に無愛想にさせてしまう結果となった。
ティファはその事もあり、常連客達に「クラウドの件で話をしに来たのなら、今夜はお帰りになって」と、笑顔を見せた。
しかし、常連客達はティファの笑顔の裏にある『クラウドにこれ以上負担になるようなお客様は、許さないわよ♪』という、本音=本気で店からたたき出す、という固い意志をひしひしと感じ、それ以降、セブンスヘブンで例の事件話をクラウドがねだれらることはなくなった。
これで、いつもどおりの営業が出来るだろう…。そう、安心したのもつかの間。
ティファもクラウドも予想だにしない事が起きたのだ。
そう、この現在の状況である。
ティファが、店内での例の事件の話をクラウドから聞きたがると、店から出されてしまう、と言う事を知った女性客は、別の手段でクラウドに接する機会を得る方法を思いつたのだ。
それが………。
『クラウドさんをご指名します』である。
その為、クラウドは久しぶりの『配達オフ時のセブンスヘブンのお手伝い』で、この様な目に合っているのだった。
クラウドは自分にばかり御指名がかかるのが、いかにも解せない、と言わんばかりの表情ではあるものの、それでも、声がかかればそのテーブルへ注文を聞きに行ったり、空いた皿を下げたり、時には少し会話らしきものまで行う、という、彼にしては非常に珍しいサービスまで頑張らねばならない状況であった。
そして、その様子をカウンターの中から、一見普段通りのティファがチラチラと盗み見ているのだった。
そう、ティファは子供達の想像通り不機嫌だった。
子供達はそんなティファに、何もかける言葉が見つからず、おまけに名指しでのご指名の為、クラウドの代わりに注文を聞きに行ったり、話し相手になる事も出来ず、今はただ自分達の出来る仕事に専念するしかなかった。すなわち、洗い物と、出来上がった料理を運ぶ事。
時には、料理を運ぶのも図々しく『ご指名』がある場合があり、その時には顔をしかめつつも、何故自分を指名するのか全く理解出来ていないクラウドへと、その料理を託すのであった。
何といっても、セブンスヘブンは接客業なのだ。
ある程度は、客のニーズに応えなければならない。
そう…、ある程度は………。
正直、ティファはとっくに限界を超えていた。
いつも、彼は配達の仕事がない今日のような日はセブンスヘブンの手伝いをしてくれる。
しかし、いつも彼が手伝ってくれる仕事量を、今夜は遥かに越えている。
こんな風に彼に負担をかけるなど、もっての他だ…。と、イライラしながら思っていた。
しかし、本当は彼が店の手伝いがいつもよりも多くなっていて、彼への負担が増えている事に対してイライラしているのではないと、ティファは気付いていた。
気付いていながらも、気付かない振りを必死にしていたのだ。
気付いてしまったら、仕事に私情を挟んでしまう……、と言い訳をしてみる。
だが、本当は………。
「キャッ!」
「あ、すまない、じゃない、すみません。お怪我は?」
突然、店の一角で若い女性の声と、皿が割れる音が上がった。
ティファや、子供達、店内の他の客が一斉にそちらを見る。
すると、クラウドが持っていたと思われる空の皿が床に割れて飛散していた。
すぐに子供達は箒とちりとりを持ってそのテーブルへと駆けつける。
クラウドはと言うと、額に汗を浮かべてひたすらその女性に頭を下げていた。
その光景に、ティファは胸が痛むのを感じた。
彼は今夜はもう休んでもらおう……。
慣れていない店の手伝いを、いつも以上にしてくれて疲れているんだ…。
ティファが「クラウド」と声をかけようとしたその矢先、クラウドの割れた皿で危うく怪我をしそうになった女性の声が重なった。
「クラウドさん。あまり慣れていないのに、お店の手伝いまでして凄いですね〜!私、クラウドさんみたいに、自分の仕事以外でも一生懸命手伝ってくれる男性って、本当に尊敬します〜♪」
と、うっとりとした瞳でクラウドを見上げた。
この女性の、うっとりとした表情、甘ったるい言葉遣いに、ティファは堪忍袋の緒が切れかけた。
そんなティファを救ったのは……。
「いや、俺なんかは大した事ない。本当に凄いのは、この店を切り盛りしつつ、家事全般を一手に引き受けてこなしてくれるティファの方だ。本当に彼女にはいつも感謝してるし、頭が上がらない」
と言う、クラウドの一言だった。
ティファはクラウドのその一言で、それまで抱えていた『嫉妬』が綺麗に消えていくのを感じた。そして、その代わりにどうしようもない喜びで胸が熱くなる。
クラウドと子供達は、カウンターへ割れた皿と、ついでに他のテーブルの空いた皿を下げてカウンターに戻って来た。
するとそこには、にこやかな笑顔でティファが上機嫌に鼻歌を歌いつつ、注文の品を作る姿があった。
子供達は、その姿にホッとすると、にっこりと笑い合う。
そんな、子供達とティファの姿に、クラウドは「どうしたんだ?三人共、何か良い事があったのか?」と首を傾げた。
三人は、そんなクラウドに「別に、何でもないわよ」「うん、何でもないよ」「うん、て言うか、気付かないクラウドってある意味本当に貴重な存在だよな」
「おい、一体どういう意味だよ」
デンゼルとマリンは、顔を見合わせてまたクスクス笑いながら、カウンター奥に洗い物をしに行き、ティファは上機嫌で料理を次々仕上げていくのみだった。
やがて、子供達の就寝時間が近づいた。
今ではすっかり恒例になった、ティファの『お休みのキス』とクラウドの『お休みの頭を撫でる』を子供達は受けてから、部屋へと上がっていった。
そして、ベッドに潜り込んでから眠るまでの短い時間に、二人は話をした。
「なぁ、クラウドってさ。ティファ並みに自分がモテモテだって分かってないよな」
「うん、分かってないよね。だから、昨日も今日も女の人のお客さんが多い原因に気付けないのよね」
「ハッキリ言った方が良いのかな?」
「ううん。きっと、そのうちティファが上手にクラウドに言ってくれると思う」
「そうだな。ティファもクラウドと同じで、自分の事にはものすごく鈍いのに、クラウドの事になるとびっくりするくらい鋭いんだもんな」
「本当に。クラウドも自分の事もっと自覚してくれたら、ティファの苦労が少しは減るのにね」
「でも、何だか自分の魅力に自覚してるクラウドって、俺、少しいやかも…」
「どうして?」
「え〜、だってさ〜。自分の事には鈍いくせに、俺達や、ティファの事になると以上に鋭くなるってのがクラウドだろ?それなのに、『クラウド自身にクラウドが自信』を持っちゃうって、何だかイヤ…、っていうよりも気持ち悪いよ。やっぱり、クラウドは自分の事には鈍感で、それでも俺達やティファの事をしっかり見ててくれる…、そんな今のクラウドが一番だって思うな」
「……そうか、そうだよね!うん。やっぱりクラウドは自分に関しては鈍感で、私達、ティファの事をとても大事にしてくれる…、それがクラウドだよね!」
「ああ。だから、今までのままが良いよな?」
「うん。そうだよね」
子供達がこの様な会話の後、やっと夢の世界へと旅立った事など知らない、クラウドとティファは、その後もセブンスヘブンを二人で切り盛りし、やっと最後の客を送り出して店の扉にclocedの看板を下げた。
「それにしても、本当に昨日、今日と女性客が多かったし、やたらと俺ばかり指名されるのは何でだろう?やはり、三日前の件があったからかな?」
「……まぁ、きっとそれも原因の一つだとは思うわ。でも、本当は……」
「本当は?」
「………」
「ティファ?」
「本当に分からないの?」
「ああ」
『本当にこの人は…。でもこれでこそクラウドよね…』
「何だよ、急に笑ったりして」
「フフ、内緒!」
「あ、何故!?」
「だって、悔しいんだもん!」
「悔しいって、何が?」
「…………」
「ティファ〜」
「フフ。内緒ったら内緒なの♪」
その後、しばらくこの様なじゃれあいが続いたのは言うまでもない。
しかし、四人は気付いていなかった。
当分、今夜のような状況がセブンスヘブンで続くであろう事に。
その事に気付いたのは、翌日の営業中…。
四人四様の悩みは当分の間続きそうだった……。
あとがき
「Our father is…」でした。いかがだったでしょうか?
クラウドは絶対モテルと思うんです。でも、本人は自分の事には鈍いキャラではないかと勝手に思ってます。
(いや、むしろマナフィッシュの願望!?)。と言うわけで、今回のような作品となりました。
そして、もう一つ上げたかったのが、ヤキモチを妬くティファなんですが、こちらは
上手く書けなかった…って感じが物凄くします。
今回の作風にはあまり似合わないかと思って止めちゃいました。
そのうち、ヤキモチティファを書くと思います(笑)
さてさて、どうなることでしょうか?
最後までお付き合い下さり、有難うございました。