好きだからこそ突き放し
好きだからこそ君を救う
この囚われた世界から
愛しい君を






【輝く空の静寂には Tifa・side】






二つの神が互いに争う。
そのために召喚された戦士が私達だった。
神が直接戦うことがない代わりに呼び出された私達はまるでチェスの駒。だけど呼び出された人達は何となく理解していても戦いに身を投じない人はいなかった。

皆同じ。
対する敵側には倒さなければならない敵がいるから。

それは私にも当てはまる。
私の敵は――



――私の故郷を焼き払った人。



ううん、人なんかじゃない。
まさにそれは造られた『化け物』、セフィロス。
心なんてないみたいに私の全てを奪っていった彼を私は忘れたことがなかった。


忘れない代わりに、私は別の『何か』を忘れていることに

気づく余裕すらなかった。


**********


私と同じ敵を追う人もいた。
それは仲間内でもあまり話をしない男の人。
なめらかなブロンドと、目の覚めるような蒼い瞳。

彼は私と『初めて』会ったとき、少しだけ、驚き目を見開いていた。そして、少しだけ悲しそうに目を伏せたのだった。


神々の闘争に身を投じてかなりの時間が過ぎていた。
戦いの間にも次々に仲間は倒れていく。敵も同じ数だけ倒れているのだが、ティファ達が助力する調和と秩序の神コスモスは劣勢だった。

無限に集まる虚構の軍勢――イミテーション。
その数は互いの軍勢の元々の軍勢より遥かに増加し、仲間を傷つけていく。
イミテーションの与えた傷は名前の通りなのか致命傷は与えない。けれど、その弱った時を見計らって、駒同士でしか致命傷を与えられないというルールの名のもとに敵が刃を振るっていくために、多くの仲間が命を散らしていった。
コスモス陣営の統率をしていたウォーリアという人物はティファ達含め残りの20人前後を集めて行動している。

同じ目的、と語る蒼い瞳の男は決まってティファにたいして優しく接する。
決して嫌いなわけじゃない、しかし憎しみに身を焦がすティファには優しい行動一つ一つが彼女のカンに障るのだ。
決して嫌いなわけじゃない、そう胸に言い聞かせながらティファは決まって男――クラウド・ストライフにこう言う。


『私は、貴方に心配かけているつもりは無いわ。私にはセフィロスを倒すという使命があるの。だから――』


放っておいて。


卑怯なのはいつも自分だった。
クラウドの優しさに自分が安心している事にずっと前から気づいていたのに、ティファは偽った心を吐き出す。
いつか、なんて来るわけないから今伝えてしまえば楽になるはずなのに。
その安心という名のぬるま湯に浸かってしまったら、二度と宿敵を追い掛けるための憎しみが戻って来ない気がしたから。

だから彼女は吐き出す。

自分とクラウドを引きはがすために黒い言葉を。

もう戻れない安らかな時を投げ捨てながら。


だけどいつも、決まって彼は深く傷ついたような、悲しげな瞳を向けているのだった。



そして運命の邂逅。


既にティファを含めて味方陣営は二人っきりになっていた。
クラウド・ストライフと自分だけが生きている。
その事実に悲しみは覚えたが敵に対する怒りは無かった。
ただ、セフィロスに対する憎しみが膨れ上がる。そして、彼女は止まらない憎しみの衝動のままに宿敵を目指していた。

ティファが立っていたのは秩序の聖域と呼ばれていた世界。
敵が勝利をその手中に納めつつあるからだろうか、白い雲は薄暗くなり徐々に暗さを増している。

もう世界は終わりだろう。

しかしティファには世界が消える前に倒さなければならない敵がいる。


果たして、彼は底にいた。
秩序の聖域の中枢にあたる礎の場所。清らかな空気を周囲に放ち、透き通っている聖水が満ちているその世界。
その世界は一人の『化け物』に蹂躙されていた。『化け物』は既に姿無く、かわりに陣営を統率していた戦士は地に伏している。

――違う、ただ倒れているわけじゃない。

切り離された二つのものが、彼の躯であったと気付いたときには、胃から迫り上がるものを止めることはできなかった。
ゴホリ。
体を折り曲げて口から流れ出すそれを急いで吐き出す。
今は目の前の事に集中していてはいけないのだ。早く、早く彼を……!


「随分と動揺しているではないか」


不意に背後から聞こえた声にティファは振り返る。
しかし振り返る前に彼女は気付いていた。声の人物こそ自分が追い求めていた宿敵であり、その実力を知っているからこそ。

振り向いた瞬間に悟っていた。
『彼』の攻撃に間に合うわけがないと。

瞬時に空間を引き裂く白銀の刃を幾重にも奮う男。ティファにとっては『英雄』であり『化け物』であるその人物の名は――


「……セ、フィロ、ス……!」

「ほう、まだ動くか……」

胸に鋭い衝撃を感じ、突き飛ばされる。胸が熱くなり、瞬時にティファは斬られたと理解した。腕を胸元へ向け上げると痺れるような痛みが身体中を走り抜けた。

――どこかで知っているような

ティファは歪みつつある視界の中でその記憶を思い出そうとして、気付いた。
いや、正確には思い知らされたというべきなのかもしれない。ティファは今、目の前で自分を斬りつけた男に対しての憎しみはあれどそれがどこから来ていたものなのかまったくわからなかった。
家族を、故郷の人々を殺された。それが憎しみに繋がるのだとしてもそれは遥か昔の記憶のように感じる。まるで、一度この燃え上がるような憎しみはなくなっていたかのように。


「ティファ!!」


ティファはハッと意識を引き上げる。同時に彼女に近づいていたセフィロスが飛びのき、その後を遅れて青白い刃が飛んできた。
闘気によって作られた刃の持ち主に心当たりのあるセフィロスは口角を上げる。

誰かがティファに駆け寄り手を翳す。
霞んでいた視界が淡いグリーン色の光りに照らされて晴れて、そこには端整な顔が不安と悲しげな顔を浮かべていた。
どうしてと口を開いたティファは彼が首を振り、飛びのいたセフィロスを警戒しながらティファに手当していく。
細く白い手がティファの手をとり握りクラウドが口を開いたとき、掠れ震える言葉に痛みが引いてきたティファは自然と零れる涙にを押さえなかった。


「ティファ、大丈夫……か?」


呟かれた言葉にティファは頷く。引き攣る痛みはまだ胸元にある。きっとまだ完治しているわけではないのだろう。

セフィロスは二人が立ち上がるのを待っていたらしい。冷酷な笑みを顔に張り付け、猫の様に細い瞳孔をもつ目を細めた。


「久しぶりだな、クラウド」


彼は旧友にでも会うような感覚で口を開いた。しかしそれは決して友達感覚で呼んだわけではないために、鋭く冷たい。
クラウドはティファを後ろへと庇いながらセフィロスを睨みつけた。そして怒気を含んだ声を上げた。その声はティファと会うときに発する優しい口調とは逆に聞こえる。


「お前の相手は俺のはずだ。何故他の皆を傷つける!!」
「フッ……お前自身がよく解っているくせに、それを私に問うか」
「どういう……意味なの?」


二人の会話に違和感を感じて、ティファは疑問を口にしていた。クラウドがティファの助けに入り二対一の形にはなっているが実力はセフィロスが上。二人なんていとも簡単に薙ぎ払えるのに、クラウドの発する気がその場の時を止めているような、そんな静けさを感じる。

クラウドはティファをちらりと見て、悲しげに目を伏せた。いつもティファに向けていた視線を。
何も答えないクラウドを見て、セフィロスは口を開いた。

明確な悪意をその瞳に宿しながら。


「この闘争に敗北条件がある事を知らんようだな、お前は」

「いや、知らん筈が無い。この長い戦いはチェスと同じだ。我々が駒となり盤上を駆け巡る……人形のように」

「…………」

「だが、この盤上には勝敗を決するキングが存在せん。……つまり」



「相手陣営が最後の一人になった時点で……敗北となる」



セフィロスの言葉を引き継ぎ、クラウドは呟いた。ティファはその言葉の意味を理解するのに暫くかかり、血の気がザァッと引いていくのを感じた。
確か、今残っている仲間はクラウドだけ。
彼へと目を向けると歯を食いしばる彼の身体は震えている。

「そして、だ。敗北した最後の一人はその戦いを目に焼き付けたまま――次の闘争に身を投じる役割がある。他の連中は記憶をリセットして、な」


「嘘……だって!!」


ティファの言葉を否定したのはセフィロスではなかった。
手でその先を制したのは最後に残った唯一の味方。大剣を構えもせずにセフィロスを真っ向から見た――クラウド。

何回も行われていた。
その言葉をクラウドは静かに告げる。
記憶が何回もリセットされているという事実を、彼は否定しない。
それはつまり、

「何度も何度も、最後の一人でありつづけた。周りは次々に血の海へと沈んでいくのに、な」

「…………」

「そこの味方を庇うところを見ると流石に疲れたようだな」

「…………嘘」

「前回の戦いで護れなかったから、か?」

ティファは目の前で立つクラウドが、ただ震えていたわけではないことに気付いた。
彼は『ティファ』を一回失っているから、それを思いだしているからではないのだろうか。

ティファは彼の服を握る。
クラウドは彼女を見る。


「彼女は殺させない」


クラウドは睨みつける。
セフィロスはだからなんだとばかりにクックックと笑う。


「お前が死ねば記憶を継承するのはティファ・ロックハートだが?」

そういいながら彼は愛刀――身の丈より長い刀・正宗を構える。
ティファはグローブを握りしめた。
ここで負けが決するならせめてセフィロスを倒すべく、彼女は臨戦体制をとろうとした。

勿論二人はそのつもりだったし、セフィロスを一人で対峙したときより、クラウドがいるだけで自然と安心感が、彼なら背中を任せられるような信頼が沸き上がってくる。




だから、



彼がしたことに対応できなかった。






クラウドはティファを後ろへと突き飛ばした。唐突の行動にティファは地面に倒れ込む――と思いきや、黒い膜に包まれた。どういうこと、と呟けば彼は顔を後ろへと向けた。そこにあったのは悲しげな、しかし愛おしいものを見る紺碧の瞳。彼は瞠目するセフィロスと膜を叩いているティファに告げた。『ティファは死なせない、彼女は元いた世界に帰す』セフィロスは構えていた刀を消した。『出来るのか? お前に』『やるさ、再び世界が輪廻を始めるこの時なら』クラウドはティファに駆け寄り、その身体を抱きしめた。フワリと暖かく優しい温もりに、無くしたものがティファの中へと帰ってくる。「クラウド!!」クラウドは彼女を抱きしめたまま言った。『子供達を頼む、俺はまだ帰れないから』ティファは頬を伝わるものを感じながら言った。「クラウド……どうして!? どうして私を助けるの!」




クラウドは彼女の耳にそっと呟いた。





『ティファを……愛しているから、かな』





彼は唇を寄せる。
既にクラウドの姿はセフィロスとともに消え掛かっている。
だからこそティファはそっと唇を合わせた。涙を流したまま。



 感想

 いやいやいや、なんなんでしょう、このクオリティの高さは!!
 最初、これを読ませて頂くにあたり、ページのところにマナフィッシュの名前があって「はて?」と思ったんです。
 そしたら!!
 某素敵サイト様のチャットに参加された方のみお持ち帰りオッケー、というとんでもなく太っ腹な文字がー!!ヾ(≧∇≦*)〃ヾ(*≧∇≦)〃
 マナフィッシュ、サクッと頂戴しました(← 躊躇いナッシング)
 いやん、もうこの切なさ、なんなのさ〜!!…。・゜゜ '゜(*/□\*) '゜゜゜・。
 本当に本当にクラウドが『漢』だ!
 マジで素敵過ぎ!!
 ティファが真実を知ったときの衝撃具合とか、もう絶妙に描かれていると思いません!?
 あぁ、ほんとにこんな素敵なお話し、頂戴しても良かったのかしら…ドキドキ(← あっさりお言葉に甘えてゲットした奴が何を言う!)
 麗音様、本当にありがとうございました!

 皆様、麗音様の素敵サイトはこちらです♪
 どうぞ遊びにいらしてくださいませ〜vv