愛しい君のために世界に残り 愛しい人のために世界を去る 守り抜くためならば 『全て』を投げだそう 【輝く空の静寂には Cloud・side】 何度自分で命の灯を消そうと刃を持ち上げてみてもかすり傷一つ付けることを拒むこの身体が恨めしかった。 何度も何度も繰り返しつづける世界でただ一人生かされるだけで気が狂いそうで、ただ君がいる事だけが俺の救いだった。 今はきっと違うけど。 ティファが血に伏している。 これは何回目の光景なんだと俺は自分に問い掛け、俺の狂いもしない頭が『11回目』と数秒と経たない内に答えを出した。 目の前にいる愛しい彼女は血にまみれたまま、鈍く光る瞳をただ立ち尽くす俺へと向ける。 『ピンチの、ときは……助け……に、来て、くれ、るって』 ――ティファ 口から漏れた声は自分でも驚くくらいに掠れていて、震えていた。 仲間が倒れる様は何度も、嫌というほど見ていた。時に庇われ、時に離れている間に陣営が全滅していた事があった。宿敵に精神(ココロ)を操られて仲間を全員……ということもあった。だから、仲間が消えていく事に不安はなかった。『また繰り返すだけ』と半ば諦めに似た、感傷を受けただけ。 だけど、いつも。 君が赤に染まっていると不安なんだ。 彼女を抱える。頭を胸に寄せると彼女は宝石のような瞳から雫を零した。 『……クラ、ウドぉ……』 嗚咽混じりに非難の言葉を吐き出すティファを俺は抱きしめる事しか出来ない。 ああ。俺はいつも間に合わない。 宿敵の刃からから君を守ることも、冷えていく君を暖めることすら、できないんだ。 『ティファ……ティファ!!』 彼女の身体がうっすらと消えていく。まだ、消えてほしくない。 死なないでくれと願い手を伸ばしても、死の神は俺から愛しい君を奪い去ってしまうんだ。 『……遅い、よ…………クラウド』 彼女は光の塊となって消えた。 残ったのは君を抱きしめた時の感触と胸を鋭く突き刺す痛みと 狂ってしまいそうな位の悲しみ 『あ……ああ、あ』 痛イ、苦シイ 『ティファ……ティファティファティファ!!』 再び頭上を銀色の龍が飛び回り、時間を再び廻していく。 またティファに会えるのに。 君に会うだけでまた思ってしまうんだろう。 ――また俺は君が消える悪夢を見なければならないのか 『あああ、アアアアアアアアアアァァァァッ』 ********** 12回目の闘争。 クラウドは疲れ冷えた身体を暖めるべく焚火の前に座った。その瞳から、力は感じられない。 クラウドにとって、この瞬間が1番苦痛でしかなかった。 いつか、また凄惨な最期を見なければならないと考えるだけで精神が引き裂かれる痛みに襲われる。 自分が早くに倒れるか、陣営が勝つかのどちらかを選択すればいいのだが、前者はクラウドの特異体質の所為で全く死ぬことができないために不可能。 後者は絶望的だった。 彼の宿敵――セフィロスの様な強さの連中が多すぎる。セフィロス一人でも苦戦する相手なのに、それが複数となれば、例え宿敵を倒すと意気込む戦士を見ても気は沈む。 なによりも、ティファがこの戦場にいるのだ。彼女を失う回数が多すぎて、いつもあと僅かで助かった命が自らの腕の中で消えてしまう事がクラウドにとって恐怖として身体に染み込んでしまったのだから。 それでも、クラウドはティファの傍にいつもいた。ティファを守れるならと傍で戦い、彼女から離れない。それはセフィロスを倒す云々よりも、自らの精神を守るための言い訳でしかなかったのだけれど。 「隣、いいか?」 「あ……いいわ」 クラウドはティファの隣に座る。ティファは元いた世界で昔身につけていた姿でそこにいた。闘争を繰り返していて分かったことだが、奇数回のときのティファは共に暮らしていたころの彼女と似ていて、偶数回は昔のティファに似ている。 どちらも『セフィロスを追っている』という都合よい記憶に支配されているのだけれど。 クラウドは片膝を抱え込む。 いつも不安になると出る癖が出てしまう事に溜め息を零す。 「ねぇ、聞いても?」 彼女は他人行儀みたいに声を出す。彼女が問い掛けたのはほんの僅かの疑問が膨れ上がったものだろう。 「なんで、私を助けるの?貴方だって、セフィロスを追っているのに」 「…………」 クラウドは黙り込むしかなかった。 セフィロスを倒す、それにどれほどの意味があるか解らなくなってしまったのだから。神々が俺を生かす理由が解らないけど、折れている精神で戦い勝てるほどセフィロスは易しくない。 「なんで、だろうな…………俺も、よく、わからない」 「……そう」 弱気に聞こえてしまうことは始めからわかっていた。皆は戦っているというのに。 だから彼女が次に言う言葉は知っていたから身構えていたのに、精神がとても耐えられない事に気付いたのは、彼女が告げて去った後だった。 「私は、貴方に心配をかけているつもりは無いわ。私にはセフィロスを倒すという使命があるの。だから――」 ――何もしないというなら、関わらないで 冷たくて胸が痛い。でも、いつも傍にいた俺にはわかる。 彼女が凄く動揺していて、安堵する心より憎しみの感情を取るために言ったのだと。 それはぬるま湯でも、ティファの近くにいればいいと目を耳を閉ざしていた俺には十分過ぎるくらい衝撃だった。 ************ 彼女を救う手立てを得たのはそれから少ししてからだった。 異世界から召喚されたわけではないのにあちこちをふらつくウサギの様な耳を持った生き物。モーグリという種族。俺達の世界にはいない、隠れているだけかもしれないが。 彼らは迷い込むために神からその世界から抜け出す術を聞いていた。 話してはいけないと命令されている事はないと、勇敢なモーグリが話してくれた。 神は一度、世界を輪廻させるために記憶をリセットする。そのとき、衝撃さえあれば歪みが現れて元いた世界と繋ぐ道が生まれるそうだ。 都合の良いことに、輪廻の瞬間に経験したのだが元いた世界の記憶が戻って来ることがわかっていた。敵対する陣営が元いた世界の記憶を持つのはそんな仕組みからだった。その記憶も僅かしかないようだが。 クラウドはモーグリに感謝を述べると足は自然と駆け出していた。やっと。やっと帰れる。 ――一人だけなら ティファだけなら、この殺伐とした世界から救うことができる。 もうあの憎しみと悲しみの色に染まる瞳を見なくてすむのだ。 急速に折れた精神が力を取り戻しはじめていた。 現金だな、と一人呟く。 彼女だけは救いたいと望んで、自分はこの世界に残る気でいることを胸の奥で感じているのだから。 走り向かったのは秩序の聖域。 聖なる水が、風が今は足を止めるように絡み付き、邪魔で仕方ない。 振り払うように走っていれば、今度は懐かしい声が響いてきた。 『クラウド!! やっと見つけたぜ!』 ――……ザックス 『クラウド、いますぐティファちゃんと一緒に帰れるように……』 果たしてそれは、元いた世界で失った旧友の声。いなくなった自分とティファを助けに来たのだろうかと考え、思わず自嘲するように笑みが浮かんだ。 もしかしたら、この世界で戦う皆でちょうどバランスが取れる世界なのかもしれないな。檻の様な世界から、ティファだけ助けたなら自分にどれほどの代償がくるか。そして今からやることを決して親友は許さないだろうとわかっていた。それに対する恐れは既にどこかに置いてきてしまったのだけれど。 クラウドは返答しだいではザックスが激昂することは分かっていたが口を開いた。 案の定、彼は怒り叫んでいたが。 「ティファ!!」 クラウドは地に倒れているティファに近づくセフィロスに向かって闘気を纏わせた大剣を振るった。青白い刃が真っ直ぐセフィロスへと向かい、セフィロスは飛びのき離れた。 ティファの姿は嫌でも分かる。赤い血に染まっていたから。 急ぎ駆け付けて回復魔法を拙い詠唱をする。少なからず動揺は抑えられず、噛みながら彼女の怪我の場所に魔法の光で淡いグリーン色を纏った手をあてた。 奇しくも怪我をした場所はかつて燃える故郷でティファが負った傷と全く同じ。 また、泣きたくなる。 いつも彼女ばかりが傷ついているのに、自分は何もできないのだ。彼女が傷つく前に、その傷を代わりに受ける事ができない。 どうして、と呟くティファに首を振って手当てを進める。 セフィロスはその光景をただ見ていただけだった。 そして、傷が塞がった事を確認してクラウドは口を開いた。 「ティファ、……大丈夫か?」 彼女は痛みに顔を引き攣らせながら頷いた。肩を掴ませて立ち上がるとセフィロスは目を細め、旧友にあったかのような言葉を言った。実際は言葉ほど暖かいものではない。 そして口から意図せず出た言葉にセフィロスは明確な悪意を持って告げたのだった。 「嘘…………だって!」 ティファは悲鳴を上げていた。 クラウドはその事実を否定できなかった。嘘をつきたくないのも確かだが、嘘をついてどうなる。 ただ残るのは悲しい程に砕かれたプライドだけだ。 「何度も何度も、最後の一人でありつづけた。周りは次々に血の海に沈んで行くのに、な」 「…………」 「そこの味方を庇うところを見ると流石に疲れたようだな」 「…………嘘」 「前回の戦いで護れなかったから、か?」 クラウドは歯を噛み締める。 否定はしないが、ティファに聞かれたくはなかったから。何も護れずにただ参加していた自分をどう思うかが怖くなり、身体が震えた。 ティファが服を握り、クラウドはティファを見つめた。 そこには、これからする事に対する不安を抱えた自分が映っていた。 「ティファは死なせない」 そう宣言して。 クラウドはただ一つしかない選択肢に身を委ねた。 戦おうとするティファに向かい、その華奢な身体を突き飛ばす。幸いにもティファが消えたと思ったか神の計らいかティファが倒れたまさにその場所に歪みが出来ていた。奇しくもそこには先程闘気の塊をぶつけた場所だ。セフィロスは何もしてこない。クラウドはティファへと近づいた。彼女は記憶が戻りつつあるのか必死に歪みから現れた膜を叩く。その背後では泣きそうになりながらも、提案を受け入れた親友の姿があった。クラウドは彼女とセフィロスに聞こえる声で言った。「ティファは死なせない、彼女は元いた世界に帰す」セフィロスは関心しているような声を出した。「出来るのか? お前に」「やるさ、再び世界が輪廻を始めるこの時なら」クラウドはティファを抱きしめた。――後はザックスがティファを連れ帰ってくれる。彼女の温もりが暫くはなくなる事に寂しさを感じた。ティファは動揺した声のまま、叫んだ。『クラウド!!』懐かしい、怒る彼女はクラウドが良く知る彼女だ。「子供達を頼む。俺はまだ帰れないから」『クラウド…………どうして!? どうして私を助けるの!』 クラウドは微笑み、彼女の耳へそっと呟いた。 『ティファを……愛しているから、かな』 クラウドは抱きしめたまま、彼女に唇を寄せた。永久の別れではないけれど、無性に悲しくなって涙が溢れる。 そして彼女も唇を合わせ、二人は涙を流しながら、さよならを告げた。 感想。 もう…みなまで言うまい。 この素晴らしいお話し、読んで下さったらもう分かるでしょう!? なんかね、もう胸いっぱいだ!…。・゜゜ '゜(*/□\*) '゜゜゜・。 クラウドが切なすぎ!! ティファが切なすぎ!! きっと、ティファは元の世界に戻った途端、後悔して後悔して、ほんとに後悔してクラウドが戻ってくるのを一日千秋の想いで待つんでしょう。 そして、クラウドは果てが見えるようで見えない戦いを、ただひたすら望郷の念に駆られ、ティファへの想いに焦がれながら必死に足掻いて、もがいて、がんばるんでしょう!! あ、結局語っちゃったよ。 本当に素晴らしいお話しでした! 前作のティファ バージョンと並んで飾ると、より豪華さがアプします〜♪ 麗音様、本当に本当にありがとうございました〜!! |