セブンスヘブンのカウンターから、開店準備の為の慌ただしいパタパタ、カチャカチャという、足音やグラス・皿のこすれる音共に、鼻歌が聞こえてくる。 久しくその明るく、踊るような雰囲気は、この店にはなかった。デンゼルとマリンも、嬉しそうな顔をしながらティファの手伝いを買って出る。 そう、今日はクラウドが帰ってきてから、初めて店を開ける日。 カダージュ達との戦いの後、クラウドはきちんと自分の思いにけりをつけ、家族の元に帰って来た。 本当なら、その翌日にでも開店できたのだが、少し休養を取るべきだ、との仲間達の説得及び、クラウド本人にそうする様乞われた為、5日後の今日、漸く開店する事となった。 開店までの5日間は、特に何をするでもなく、どこへ行くでもなく、ただのんびりと家族の時間を過ごした。(もっとも、初日は仲間達と宴会、翌日は二日酔いの仲間達の介抱、3日目に漸くその仲間達も回復し、それぞれ帰って行ったので、実際のんびりしたのは3日足らず)クラウドは、勝手に出て行き、散々心配をかけ、辛い思いを味わわせてしまった事を、子供達とティファに何とか自分の納得する形で謝罪したかった様だが、「どこかに行く事も、何かをする事もこれからいくらでも出来るじゃない。折角お店をお休みして休養を取るんだから、今はのんびり、家族の時間を過ごそうよ」とのティファの一言で、特に何もせず、普通の生活をした。 朝は普通に起きて挨拶をし、皆で朝食を笑いながら味わい、食後は子供達と共に他愛ないおしゃべりをしたり、その日のおやつを作ったり…。 そうして、穏やかな時間を終えると、子供達それぞれにお休みの挨拶をして休む。そんな、どこの家庭にでも見られる、当たり前の日常を存分に味わった。 そして、昨夜の夕食後、そろそろ店を再開させたい、とのティファの言葉に、マリンは顔を輝かせ、デンゼルはクラウドをそっと窺い、クラウドは少し考える素振りを見せてから頷いた。 その時に、クラウドもそれに伴って、デリバリーサービスを再開させるつもりだ、と打ち明けた。 何しろ、予約を散々待たせてあり、仕事が山積みだ。 子供達は、クラウドがデリバリーサービスを再開させると言うと、途端に暗い顔をして見つめてきた。クラウドは苦笑しつつ「大丈夫だ。ちゃんと夕食は一緒に食べれるように帰って来る」と、しっかり指切りをして、子供達それぞれの頭を優しく撫でる事で、漸くお子様達からお許しを得る事が出来た。 そして今朝、家族みんなで食卓を囲んだが、一人早々に食べ終わると、愛車を駆って仕事に行ってしまった。 子供達は、クラウドの後ろ姿が見えなくなるまで手を振り、少々不安げにティファを仰ぎ見た。 ティファは、子供達に笑顔を見せると、小指を立て、「夕食に間に合わなかったら、今夜のクラウドの夕食は針千本ね」と、悪戯っぽくウィンクした。 そんなティファのさり気ない心遣いに、デンゼルとマリンは、一瞬にして憂い顔から笑顔に変わる。 「ハリセンボンなら、サボテンダーがクラウドの夕食なのね!」 「サボテンダーか!…でも誰がそいつ捕まえるわけ?」 「もし、クラウドが約束破って二人に悲しい顔させたら、私が意地でも捕まえて見せるわ」 「「わー!それ良いかも!!」」 そうして、笑いながら店に戻り、二人は中断していた朝食を元気良く食べ始めた。 朝食後から、ティファは精力的に働き出した。 まず、残っている食材等のチェックを行い、足りない物を確認する。 久しぶりの再開なので、ちょっと工夫の凝らした物を、お客様にお出ししたいな、とメニューを考えたり、帳簿とにらめっこしながら可能な出費額を計算し、その額で何がどれだけ納入出来るか問い合わせの電話を、取引先にかけたり…。 とにかく、やらねばならない事が沢山あったが、ティファは楽しかった。 そんなティファを見て、子供達も自分達の出番までは邪魔をしないよう、近所で遊んだり、遊んでいる途中で時折出合う馴染み客に、しっかり今夜の再会を宣伝して、陰ながら店の為に貢献した。 そして、セブンスヘブンは開店前から馴染み客が列を作って、その扉が開かれるのを待つに至っている。 ティファはもちろん、デンゼルとマリンも、その光景に少々驚きつつ、顔を綻ばせた。 「じゃ、ちょっぴり早いけど、お客様をこれ以上お待たせするのは悪いから…」 「「セブンスヘブンのオープン!!」」 子供たちの元気な声と共に、待ち焦がれていた店が再びその扉を開き、馴染み客の歓声でセブンスヘブンは再開した。 店はもちろん大繁盛。 テーブルに着く事が出来ない客が、急ごしらえで作られた待合椅子に腰掛け、テーブルが空くのを待っている。 また、店の外には、待合椅子に座る事すら出来ない客達が、首を長くして、店内に入れるのを待っていた。 エッジは復興街として、世界の中でも群を抜いている。 その為、いくらセブンスヘブンが良い店だとしても、そこまでして待たずとも、他にも似たような店はいくらでもあるのだ。 それでも、彼らがセブンスヘブンにこだわるのには理由がある。 言わずと知れた美人店長の存在だ。 容姿端麗、料理上手、性格も明るく優しい、と、トントン拍子で揃っていたら、誰だってお近づきになりたい、出来ればもっと仲良く、あわよくばその伴侶に!!と思ってしまうもの…。 そう思ってしまうのは決して罪ではないハズだ! しかし、彼女を狙っている男全員が、クラウドの存在を知っている。 それ故、話し相手程度に仲良くなれても、あわよくば…!という希望は皆無だった。 しかし、彼らにとって、幸運な出来事が起こった! クラウドがティファから(子供達の事はフェードアウト)離れて暮らすようになってしまったのだ。 これは、神様が与えてくださったチャンス!とばかりに、男性客たちは足しげく店に通った。 が、当の女店長は自分を捨てた(男性客視点)男をまだ想っており、なかなかお近づきになる事が出来なかった。 それどころか、何の慰めすら出来ず、不甲斐無い事この上なく、歯噛みしつつも『憂い顔も可憐だ』といささか歪んだ感想を抱きながら、ただ見守るしか出来ずにいた。(もちろん、下心の無い客は、純粋に彼女を心配して、下手な慰めの言葉はかけず、陽気に笑いかけたり、ちょっとした気心の物、対外は子供達の為のお菓子等を彼女に差し入れした。世の中、卑猥な男だけではないのだ) そして、時間だけが空しく過ぎていく中、あの突然の混乱。 モンスターとウェポンの襲来があり、セブンスヘブンは休業してしまったのだ。 その日数が僅か5日であろうが、関係ない。 『時は金なり』、との格言もあるように、時間というのは貴重なのだ。もしかしたら、他の奴に出し抜かれるかも…!と下心のある男性客の大半が焦っていた。 しかし、彼らは知らなかった。 クラウドが家族の元に、ティファの元に戻った事を。 もし、知っていたらこんなに長時間待ってまで店に入ろうとは、しなかったかもしれない…。 セブンスヘブンが再会して約2時間後、クラウドが愛車と共に帰宅した。 時間は丁度、夕食の時間として最適の19時過ぎだった。 フェンリルのエンジン音を耳ざとく聞きつけたデンゼルが、洗い物を放り出して店の扉へと駆けつける。 客の注文を聞いていたマリンも、メニューを手早く作っていたティファも、パッと顔を扉に向け、フェンリルのエンジン音が止まるのをじっと待った。 エンジン音が止まらないうちに、デンゼルは店の扉を開けると「おかえり、クラウド!!」と明るい声を上げながら出て行き、思い出したように、ひょこっと扉から顔だけ戻すと、店内のティファとマリンにニカっと笑って見せた。 マリンもティファの顔を見ると、にっこり笑い、軽く頷いてくれたティファに顔を輝かせ、店から飛び出す。 店内の客達は、その光景にあっけに撮られ、扉と嬉しそうに頬を緩めいている女店主を代わる代わる見つめた。 そして、この時点で女店主をひそかに狙っていた男性客の半分が、事情を悟り、肩を落とす。 そして、もう半分は、嬉しそうな子供達に両腕を引っ張られる格好で、店内に入ってきた人物に目を見開いた。 『ああ、そっか。戻ってきちまったってわけね…』と、ほとんどがガクッと首を垂らす。 そんな客達の反応に、ティファはもちろん、クラウドも子供たちも全く気が付かなかった。 何故なら、家族の空気が4人を温かく包んでいたのだから。 セブンスヘブンの再出発は、こうして大半の下心を持つ男性客をノックアウト状態にし、残りの少数派は心からその再出発を歓迎して、穏やかなうちに店の明かりを消す事が出来たという。 おまけ 「ティファ」 「何、クラウド?」 「今日久しぶりに店を開けたわけだけど、何か、その、特に変な事とか、えっと、なかったか?」 「……何もないけど、どうしたの?」 「そっか、なら良いんだ」 「?変なクラウド。それよりも、クラウドこそしばらく振りのお仕事はどうだったの?」 「俺か?俺は問題ない。いや、むしろ…」 「なぁに?」 「いや、別に…」 「何よ、気になるじゃない」 「大した事じゃない。気にするな」 「そんなの無理!そこまで思わせ振りな事言われて、気にするなって方が無茶なんだから!!」 「ウッ!首を絞めるな首を!!」 「じゃあ白状しなさい!」 「……だ」 「え?何、聞こえないよ」 「だから!俺がここに帰ってから初めての開店だから、その、……だ」 「?」 「変な、男とか、から、だな…」 「……」 「ティ、ティファ…、怒ったのか?」 「プッ、バカね。そんな事気にしてたの?」 「…悪かったな」 「そういう誘惑めいた事一切無かったし、されたって、私には問題ないんだから」 「問題ないって言ってもな、俺が気にする」 「どうして?」 「どうしてって!」 「私にはクラウドしかいないのに?」 「……ティファ……」 「本当だよ。って、もう、何恥ずかしい事言わせるわけ!」 「…ありがとう」 「ん、どういたしまして」 「俺も、だから」 「え?」 「俺も、ティファだけ、だから」 「……クラウド……」 「な、泣かなくても良いだろ…」 「バカ」 そんな会話のやり取りの後、そっと寄り添う二人の影が仲良く寝室へと消え、店の明かりも完全に消えたとか何とか…。