クラウドが気がついた時。 彼は真っ暗な暗闇の中に、一人、ポツンとそこにいた。 寒くて…寒くて……。 自分を取り巻く『負』の感情に対し、無防備にその魂を晒していた…。 生と死の狭間でいくら体力が人並み以上だと言っても…。 いくら精神力が人並み以上だと評されていても…。 そんなものが関係ない『場合』の方が世の中には意外と多いことを、人々は知っているだろうか? ― クラウドさんが… ― 突然の仲間からの電話に、ティファは意識を手放しそうになった。 なんで…? なんでお前だけが幸せな人生を謳歌している…? お前なんか、村一番の問題児って言われてたのに…。 『何で…だろうな…』 無意識という世界でクラウドはその声に応える。 いや、自問自答する。 クラウド自身、自分が特別なことをしたから今があるとは微塵も考えていない。 むしろ、友人と仲間の代償として、今、生かされていると思っている。 だから、なんの抵抗もなくその言葉を受け入れてしまう。 受け入れたら…ダメなのに…。 帰れなくなるのに…。 それでも、拒めない自分がいた。 それは、親友がくれた命だと言う自覚が痛いほどあったからこそ。 もっと、自分の功績だと思えたらこんなにも苦しまなくて済んだのに…。 『本当に…どうして、俺が生き残ったんだろう…』 自分など庇わなかったら生き残れたはずだ。 太陽のように笑い、晴れ渡った青空を悠然と流れる雲のような…親友。 さっさと見捨てれば良かったのに…。 そうしたら、きっと彼こそが、『ジェノバ戦役の英雄』として称えられていただろうに。 もしかしたら、エアリスをみすみす殺されることはなかったかもしれない…。 いや、そうなっていただろう。 エアリスだって、初恋の人が傍にいた方が幸せだったはずだ。 クラウドの魂が闇に落ちる。 取り巻く『負』の感情に飲み込まれる。 と、その時…。 ― バカだなぁ…クラウド ― ― 本当に大バカね ― 懐かしい声。 忘れられない…大切な友人と仲間の声。 寒くて仕方なかったクラウドの心に、ポッと温もりが宿った。 『だってさ…』 ― だってじゃ無いって… ― ― どうして、いっつも自分を過小評価するの? ― クスクス笑いながら…、呆れながらそう言ってくれる懐かしい声が聞える。 大切な…、本当に大切な人達の声が。 ― 確かに、俺が生き残ってたらエアリスは死ななかったかもしれない ― ― そうね。ザックスと一緒に旅をしていたら、もしかしたら私は死ななかったかもしれないし、第一、お母さんに私が失恋した〜!って誤解を生むこともなかったわね ― ― でもな… ― ― でもね… ― ― 逆に考えたことはないのか? ― ― クラウドだったから、今の平和を取り戻せた…とは考えないの? ― 呆れ返った二人の声にビックリする。 クラウドにとってはあり得ない考えでしかない。 自慢の友人以上に出来る事なんか何一つ無い。 星を救ったという事実を認めながらも、未だにそう思っているのだから。 そんなクラウドに、大切な友人達は語り続ける。 ― 俺がお前に託したものは…とても重いものだったよな… ― ― 私が貴方の目の前で星に還ってしまったのは、決して軽いものじゃなかったわよね ― その通りだった。 今でも思い出すと心が潰れそうなほど苦しい。 だから、生と死の狭間を漂う青年は、こう呟くことを止められない。 『ザックス…。エアリス…』 『俺よりも、うんと尊い魂を持っていたはずなのに、俺なんかを庇ったせいで…』 今にも泣き出しそうな…震える声で…。 その声に、親友達は悲しい声でもって応える。 ― クラウド…それは違う… ― ― クラウド…どうして自分をいつも否定するの…? ― クラウドは耳を塞いだ。 そんな悲しい声を出さないでくれ。 どうか、俺を詰って…。 憎んで…。 蔑んで…。 でないと、今、手にしている幸せが当たり前のものだと勘違いしてしまう…。 俺なんかが手にしてはいけないものなんだってこと、忘れてしまう…。 俺は…、俺は……。 ― クラウド ― ― クラウド ― ― お前がどうしても自分を認められないなら… ― ― クラウド自身が幸せになることを認められないなら… ― ― 俺は…犬死…ってことだな ― ― 私は…無駄な人生を歩んだことになるね ― 『 !? 』 いつの間にか強く瞑っていた目を見開く。 『どうして!?何故、そうなるんだ!?』 ― だってそうだろう?俺にとって、お前を生かすことがとても大事だったんだ。クラウドに生きて、幸せになってもらいたかったんだからさ ― ― 私も。クラウドを信じて一緒に旅をして…。結局、最後は一人別行動取っちゃったけど、でもね…、それでも一緒に旅を出来て本当に楽しかった。それなのに、私達のあの旅をクラウドは否定するのね? ― 二人の親友の言葉に、大きく頭を振る。 『否定してるわけじゃない!それに、ザックスの気持ちも…分かってる!!』 必死にそれだけは分かってもらいたくて、大きな声を上げる。 だが…。 ― 分かってないだろ? ― ― 否定してるって気付いてないの? ― 親友達はどこまでも悲しそうな声で応えるだけ。 クラウドの胸に焦燥感と喪失感が膨れ上がる。 このままでは二人に二度と会えない気がした。 勿論、二人は星に還っているので会えるはずはない。 そうではなくて、自分もいつか星に還ったその時、二人が笑って迎えてくれるどころか、ライフストリーム中を捜し回っても見つけられない…。 そんな気がした……。 だから、必死に否定の言葉を口にしようとするが…。 『 ……… 』 結局、何も言えない。 そう、否定しているのだ、自分は、『自分という存在』を。 村一番の捻くれ者で嫌われ者。 大見栄張って村を飛び出したくせに、ソルジャーになれなかった落ちこぼれ。 星を救った後でも、結局ウジウジと悩んで、勝手に落ち込んで…。 そんな時に星痕症候群に罹り、黙って家を出た。 本当に…どこまでも最低で愚か者。 ティファも子供達も笑って許してくれた。 そして、一緒に傍にいてくれている。 それが…幸せすぎて…。 自分には分不相応だと…ずっと心の片隅で思っていた……無意識に。 何も言えないクラウドに、親友達の気配がそっと寄り添う。 まるで…抱きしめられているような温もりを感じ、クラウドは俯き加減になっていた顔を上げた。 だが、何も見えない。 真っ暗で……一筋の光すら見えない。 ― ほんっとうにバカだな、お前は ― ― ふふ、本当にね ― 先ほどまでとは打って変わって優しく、暖かい声。 その声に涙がこぼれる。 しゃくり上げるのではなく……、声を漏らすのでもなく……。 ただただ、紺碧の瞳から涙が溢れてこぼれる。 ― クラウド ― ― クラウド ― 二人の声に涙が止まらない。 親友の存在をもっと感じたくて腕を上げる。 しかし、何も触れるものはなく、手は空を掴むばかり…。 ― クラウド、本当のお前はこんなに可愛いのになぁ ― ― 無愛想な顔の下はこんなに繊細なのにね ― ― だからさ… ― ― だからね… ― ― もっと自分に自信を持て ― ― もっと自分を大切にして ― ― 俺が魂を託した唯一の…自慢の友達…なんだからさ ― ― 私の人生の最期を託した、自慢の仲間、なんだから ― その言葉を合図にしたかのように、クラウドから二人の気配が徐々に遠ざかる。 クラウドは慌てて身を翻し、見えない暗闇に目をこらした。 『待ってくれ!ザックス、エアリス!!』 まるで子供が親を捜すように、必死に叫ぶ。 暗闇が急に怖く感じられる。 先ほどまで、全くなんとも無かったのに…。 しかし、返ってきたのはクラウドの望むものではなかった。 ― ほら、早く戻れ ― ― いつまでもここにいちゃダメ ― ― もう、戻れるだろ? ― ― 子供達を…、ティファをこれ以上泣かせちゃダメよ? ― 『 !? 』 ブワッ!! 突然、身体が浮き上がる感触。 温かな風に包み込まれ、あっという間に飲み込まれた…そんな感じ。 急速に二人の気配が消えていく。 それと同時に、暗闇の世界から光の世界へと周りが変化する。 ― クラウド。お前がちゃんと人生全うしてからこっちに来たら、今度はもっと沢山話そうぜ ― ― クラウド。ちゃんとティファと一緒に幸せになってね ― ― ずっと…友達だからな ― ― ずっと…仲間だからね ― ― 誰よりも幸せになれ ― ― 星の祝福を、クラウド…アナタに… ― これが、クラウドが聞いた二人の最後の言葉だった…。 「本当に申し訳ありません」 深々と頭を下げるリーブに、ティファは何も応えられなかった。 常の彼女なら、必死に作り笑いでも浮かべて仲間に労いの言葉等をかけるだろうに、そんな余裕は少しも無かった。 同じ部屋にいるバレット、シドにユフィ、そしてナナキが、逆にそんなリーブを慰めている。 ヴィンセントは黙ってベッドに横になっているクラウドを見つめていた。 その顔色は土気色。 とてもじゃないが、生気を感じられない。 ベッドに張り付くようにしてじっと立っている子供達とティファに、仲間達の胸が抉られる。 ― 重度の感染症です。助かる見込みは…なんとも… ― 医師の言葉が鋭くティファの心に突き刺さった瞬間から、ティファは息をする人形になった。 何も見ないし、何も食べない。 眠らない、話さない。 ただただ、ベッドに横たわっているクラウドをジッと見つめているだけ。 「まさか…ワクチンを運んでもらったクラウドさんが感染してしまうとは…!」 WRO局長、リーブからの依頼でクラウドがその村にワクチンを届けに行ったのは、たったの四日前。 村に無事ワクチンを届け、蚊を媒介として罹る病に苦しむ人々に笑顔を取り戻した矢先の出来事。 『ちょっと熱っぽいかもしれない…』 ワクチンを無事に届け終わった報告を受けた際、クラウドの体調を案じて訊ねたリーブに彼はそう答えた。 リーブは一抹の不安を胸に宿し、彼に訊ねた。 ちゃんと、自分自身にもワクチンを投与してから村に入ったか?…と。 答えは…Noだった…。 急いでワクチンを手に、その村に向かったリーブが目にしたのは、既に感染症状が末期になっているクラウドの姿。 潜伏期間が極端に短く、病状の進行が非常に早い病。 恐らく、クラウドは自分の体力に自信があったのだろう。 もしかしたら、自分に使うくらいなら…と、他の人に使うことを優先したのかもしれない。 あるいはその両方かも…。 今となっては分からない。 分からないが…。 「クラウドさん…。どうして貴方はいつも自分を疎かにするんですか……」 リーブの呟きに、仲間達がヒクッ、としゃくり上げた。 その時。 フッと…その部屋が温かくなった気がした。 誰かが優しく包み込んでくれるような…そんな感じ。 戸惑いながら部屋を見渡す。 何も…ない。 特に窓やドアが開いたわけでも、ヒーターが入ったわけでもない。 そう…なにもないのに…。 「「 クラウド!! 」」 突然の子供達の大声に、大人達はビクッと震えてベッドを見た。 クラウドの長い睫がかすかに震えている。 その閉じられた瞼からこぼれたのは……。 「クラウドが…」 「泣いてる……」 ツーッと流れる透明の雫。 悲しげに寄せられた眉。 決して、病に苦しんでいるわけではないと思わせるその表情。 一体、どんな夢を見ているのか…? 息を止めて食い入るように見つめる仲間と子供達の前で…。 奇跡が起こる。 微かに震えていた瞼が、ゆっくり……ゆっくりと開いた…。 ユフィが口を覆う。 バレットとシド、リーブが息を吸い込んで目を見張った。 ヴィンセントも僅かに目を見開いて驚いている。 「「 クラウド!! 」」 再度、子供達が大きな声で呼びかけ、顔を覗き込んだ。 だが、開かれた魔晄の瞳はどこか虚ろで、まだ夢を彷徨っているように紗がかかっている。 ゆっくりと持ち上げられた逞しい腕は、子供達の頭を撫でるために…ではなく、何かを掴もうとしている。 いや、縋ろうとしているのか…? だが、何も無い空間を掴めるはずもなく…。 また……、紺碧の瞳から雫がこぼれる。 胸が抉られるほどの悲しい表情に、子供達が耐え切れずに抱きついた。 まだ意識がはっきりしていないクラウドの胸で、わんわん泣きながら…。 「……デンゼル…?…マリン…?」 掠れた声。 魔晄の瞳が徐々に光を宿す。 ガッタン!! 大きな音の正体は、立ち上がったティファが倒した椅子の音。 それまで、何にも反応しなかったのに、クラウドの声に一気に現実に戻って来た。 紺碧の瞳と茶色の瞳がカチリ…と重なる。 重なった瞬間。 「 ……!! 」 声もなく、ティファは子供達ごとクラウドを抱きしめた。 すすり泣くティファと、大声を上げて泣く子供達に、仲間達がもらい泣きをする。 ユフィはナナキの体毛に顔を埋めて大声で…。 バレットとシドは男泣きで。 リーブとヴィンセントは全身から力が抜けて、安堵の溜め息を漏らした。 そんな仲間の前で家族を抱きしめるためにクラウドはゆっくりと腕を持ち上げた。 再び、クラウドの瞳から涙がこぼれた。 だが、今度は悲しみに溢れた涙ではなく、愛しくて仕方ない…、幸せで仕方ない…。 そんな風に感じていると分かる…『幸福の涙』。 泣く原因は辛いことだけじゃない。 そう身を持って知った『ジェノバ戦役の英雄』達だった。 ― 幸せになれ ― ― 誰よりも幸せになって… ― クラウドの耳に、親友と彼女の声が再び聞えた気がした。 あとがき 某ユーザー様が見た夢をネタに書かせて頂きました♪ その方の夢の内容からめっちゃずれてしまいましたが、こんな弱ったクラウドも…ありですよね?(自信なさげ) クラウドって、怪我には滅法強そうですが、病気にはとんと弱いイメージがあるんですよ。 やっぱり星痕症候群のイメージが強いからかしら…(苦笑) でも、そんな重病を患って、うっかり死にかけてもザクエアが助けてくれる!そんな妙な確信があるのは何故(笑) お付き合いくださいまして、ありがとうございました!! |