SOSがあれば、何を差し置いても駆けつける。 それが仲間と言うものだろう…? SOS!!(前編)WRO局長、リーブ・トゥエスティ。 彼は非常に多忙な毎日を送っている。 世界中にあるWRO支部などから刻々と寄せられる膨大な情報と、隊員達の訓練。 星の移ろい行く変化に機敏に対応し、適切な処置を命令する。 勿論、それら全てを一人で行っているはずもなく、大将、中将、少将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉、少尉という階級クラスの人間にそれぞれの部署を管理、統率させて訓練や実戦へと幅広く執り行わせている。 しかし、小さな事件や事故とて、彼らに一任しっぱなし…と言うわけにはいかない。 全ての問題に目を通すことは不可能だが、日々あげられる報告書をリーブは側近である大将達と共同して、出来うる限り自身の目で確認するようにしている。 WROが出来た当初からは目を見張るような素晴らしい進歩をしているこの組織のトップに立つリーブとしては、隊員達一人一人の成長をじかに見てみたい、という気持ちが日々、強くなっていた。 そしてそれは同時に不可能であると言うことを感じさせるものでもあった。 一体、何千人の隊員がいるというのか…? 現時点で16,982人もの隊員が世界の各地で頑張っている。 そしてこの数字は毎日のように更新されていた。 新規隊員を随時募集していたためと、当たり前だが除隊する人間がいたからだ。 厳しい規律に最後まで慣れなかった者や、体を壊したもの、また、真(まこと)に残念だがWROの名前だけを欲しがり、悪用しようとした者。 そう言った者達はWROから速やかに消えていった。 体を壊した者は、『休暇届』を提出する事によって除隊は免れているが、当然のようにその休んだ分だけWROは進歩しており、復帰しても中々身体と頭がついていかない場合が多い。 そういう者達は、悔し涙を流しながら隊を後にした。 そして、そういう志半ばにして断念しなくてはならない者達を、在職中の隊員達も涙を堪えて敬礼して見送った。 「う〜ん…」 今回、リーブが悩んでいるのは、そういう者達の事だった。 彼らは本当にこの星を愛している。 だからこそ、危険を省みず、一般人の前に身を晒して盾となり、傷を受けて自身の夢を散らせる結果となったのだから。 そんな勇気ある者達をWROから脱退させるのは、なんとも心苦しく苦い思いがする。 仕方ない。 一言で片付けられることだが、それでもリーブとしては、可愛い自分の部下達が尊い犠牲を払って必死に守ったという功績を、証書や恩給で表す以外にも讃えてやりたい、と強く思わずにはいられなかった。 「彼らに何かしてやれないものか…」 「局長?」 広い広い会議室には、今、リーブと大将クラスの2人、計3人しかいない。 静まり返ったその部屋で、ずーっと黙って黙々とパソコンに向かっていたのだから、小さいリーブの呟きも大きく響いて聞こえたのだ。 リーブはちょっとバツの悪い思いをしながら顔を上げた。 屈強で精悍な顔立ちをした男が2人、少し心配そうに見つめていた。 恐らく、リーブの過労を心配しているのだ。 リーブは苦笑交じりに首を振った。 「いや、彼らのことなんだ…」 「「 彼ら? 」」 自身の前に置いてあるパソコンをコンコンと突くリーブに、大将クラスの2人はそれぞれ自分のパソコンに視線を落とした。 すぐにリーブから情報が送られ、新しい画面に切り替わる。 そこには、今月一杯で除隊することが決まっている隊員達のリストがあった。 彼らは3ヶ月の休養を経て復帰したが、日常生活に支障のないレベルまでの回復しか出来なかった。 とてもじゃないが、隊に復帰して最前線で働くことは不可能。 泣く泣く、除隊書にサインした。 彼らが戦闘以外にも得意分野があればその道で残ってもらうことも出来たのだが、彼らは『情報収集』や『特殊メイク技術』『コンピューター技術』等々の分野ではさして力を持っていなかった。 命令に忠実に動き、最先端の戦闘で活躍することを得意としていた。 まぁ、いわば『体力バカ』と言えないこともない。 だが、それは『愛すべき体力バカ』であり、彼らの人となりは隊員達の報告から鑑みると、とても温厚で素晴らしい人間だと言うことが容易に察することが出来た。 だからこそ、彼らには隊にいてもらいたかったし、他の隊員もそう望んだのだが、肝心の本人達は既にWROで働くことが出来ないと痛感し、この苦渋の決断を下したのだからこれ以上引き止めるのは逆に彼らを苦しめる。 それに、彼らだけではなく、むしろこれからも彼らのような人間は続出するだろう。 それがWROの辛い現実だ。 「そうですね…」 大将クラスである1人が、リーブの心情を察したようで、しみじみとした声をもらした。 彼もまた、自分の可愛い部下を除隊せざるを得ないことに痛みを感じているのだろう…。 「彼らは本当に優秀な隊員でした。一般人の身の安全を第一に考え、自らの身を省みることに少々疎かった…」 ですから、今回のようなことになってしまったのでしょうが…。 彼の言葉にリーブは重々しく頷いた。 本当になんと言う重い責務だろう。 ジェノバ戦役の英雄と言う肩書きだけでもイヤになることがあるのに、この上更にリーブには『局長』としての重責がある。 金髪の仲間が、 『本当にあんたは凄いな…。尊敬するよ』 そう言ってくれたことがあるが、しみじみと彼の言葉がありがたいと感じると共に、『まったくだ…』と思う自分がいる。 「彼らにとって、最後となるWRO隊員の日を、なにか特別なことをして送り出してやる…というのはいかがでしょうか…」 もう一人の大将クラスの男が、少しだけ明るい声でそう提案した。 「「 特別? 」」 リーブは、提案していない方の部下と顔を見合わせた。 * 「それで、何をするの?」 「えぇ…実はそれを皆さんに一緒に考えて頂ければ…と思いまして…」 ところ変わってここはセブンスヘブン。 突然のリーブの徴集に、仲間達は何も言わずにすっ飛んで集まった。 一重に、仲間内の中で一番苦労している大切な男のために!という熱い想いからだ。 久方ぶりにズラリ…と集まったそうそうたるメンバーを、デンゼルとマリンはウキウキ気分で眺めやった。 「本当に久しぶりだよねぇ、皆が揃うの」 「そうだよな!く〜、楽しみだ〜!」 大人達の邪魔にならないよう、小さな声でコソコソと囁きあう。 目はキラキラと輝き、子供特有の興味津々な様子は見ていて実に微笑ましい。 バレットがそんな我が子にデレ〜っとしたのも無理はない。 ついでに言うと、そんなデレデレ状態のところにユフィの小突きが脇腹にクリーンヒットしたのは黙っておいてやろう。 「除隊する隊員達への手向け…か…」 ヴィンセントの声が、苦悶するバレットのうめき声をかき消した。 いつもトラブルに周囲を巻き込む諸悪の根源である破天荒娘が、 「はいはい、は〜〜い!!」 と、我が意を得たり!!と言わんばかりに席を立って手を上げた。 そういう仕草は、これっぽっちも『英雄』らしくない。 そこらへんを歩いている同じ年頃の女性の方がよっぽどしっかりしてそうだ…。 そう思ったものの、クラウドとヴィンセントとシドとナナキとデンゼルとマリンは決して口にはしなかった。 そんなバカなことをするほど、彼らは愚かではない。 だが、彼女の『はいはい、は〜〜い!!』という言動に応えるだけの気もなかった。 これまでの付き合いで、彼女の案を取り入れたら、『火のないところにも大火が生じる』ということをイヤというほど思い知らされているからだ。 決して、度量が狭いとか、度胸がないとか、そういうレベルの話ではない。 「リーブ、なんでそう言う話をわざわざ俺達全員に?」 鮮やかに、華麗にユフィをスルーして、クラウドがリーブに問うた。 猛然と抗議するユフィを横目に、リーブは困ったように微笑んだ。 「えぇ、実はですねぇ…」 本日の昼間の大将2人とのやり取りを話す。 『WROに入隊した者の大半は、『ジェノバ戦役の英雄』の皆様に憧れ、英雄の皆様のようになるべくして日夜、邁進しています』 『ですから、英雄の皆様から何か一言なりとも頂けましたら、除隊した後でも彼らはその言葉を励みに、頑張っていけるでしょう』 『局長を始め、皆様がお忙しいのは重々承知しておりますので、無理にとは言いません』 『局長ともうお1人だけでも、英雄から一言いただけたら、これに勝るものはないと思われます』 「と言うわけなんです」 口を閉ざしたリーブに、仲間達はこそばゆい気持ちで一杯になりながら、チラチラと視線を交し合った。 そんなたいそうなことをしたつもりはなかったし、彼らの期待通りの『カッコいい英雄』なんかではないと本心から思っているからだ。 第三者が英雄達の心を正確に読み取ることが出来たら、きっと、 『なんて謙虚な!』 と思うか、 『…鈍いなぁ…』 と評するかのどちらかだろう。 彼らの長所でもあり短所でもあるのが、自分達の成し得た功績を『功績』として認めていないことだ。 幾億もの命が救われたのだが、それはそれ、犯した罪は罪、として、未だに贖罪の念を胸に抱いて生きている。 まぁ、だからこそ、ここまで世の人々にとって愛され、求められているのだろうが…。 「…何か一言…か…」 クラウドがポツリ…と呟いた。 言外に、『俺はパスだな』と匂わせている。 何しろ、この金髪・碧眼の色男はおおよそ、『愛想』とか『饒舌』とかいうものを母親の胎内に置き去りにして生まれてきたようなものなのだから…。 これまでの人生において、『無愛想』『寡黙』『口下手』という三要素を原因として無駄な争いや、ちょっとした勘違いから除け者にされる…という辛い経験を積んでいる。 こういう『人との付き合い苦手なのボク』という経験をイヤというほど積んでいるので、自分には除隊する隊員達への手向けの言葉などぜ〜〜ったいに思い浮かばないし、仲間達も誰も自分には期待していない、と踏んでいる。 事実、ティファ、ナナキ、シド、リーブ、それに事の成り行きを見守っている子供達もそう思っていた。 だが…。 「なんかそんな一言だけってさ〜、ショボくない?」 余計な一言を発言したのは、やはりと言うか…なんと言うか…。 「…じゃあ、何があるのか言ってみろ」 ヴィンセントが珍しくユフィの茶化した言葉に突っ込んだ。 そして、ほんっとうに珍しく、そんなことをしでかしたヴィンセントを、クラウドとナナキとシドとバレットが、 『『『『 !? 余計なことを!! 』』』』 と、心の中で突っ込んだ。 ヴィンセントに対して突っ込むなど、あの旅の最中でも1回あったかどうか…くらいしかない。 逆に、ユフィなど突っ込みどころ満載だ。 突っ込むネタがなければ自分で作り出すという恐ろしい生き物がいる。 英雄の皆は、あの旅を経てそれを思い知った。 そう、思い知ったはずなのに! 何故にヴィンセント、余計な突込みをユフィに入れる!? そんなことをしたら!! 「へっへっへ〜!実はもう考え付いちゃったんだよねぇ〜♪」 『『『『 それみろ!! 』』』』 クラウド達4人は内心でまたもや突っ込んだ。 ヴィンセントは4人の無言の突込みを感じ取ったらしい。 「………すまない…慣れないことはするものではないな……」 と、滅茶苦茶小声で謝罪した。 「ん?なになに?そんなに聞きたい〜?ん〜、どうしよっかなぁ〜♪」 何も気付いていないユフィは、持ち前の素晴らしいポジティブさでヴィンセントの呟きが、自分への賞賛の呟きと勘違いしたようだ。 もったいぶった様に体をくねくねとさせている。 「いや、別に聞きたくない」 誰かが一言、そう言ってすぐさま突っ込めば良かったのだろう。 だが、誰もそれを突っ込むまもなく、ユフィは、 「ふふふ、『ウータイの希望の星』であり、『ウータイのお祭り娘代表』であるこのユフィ様に任せなさ〜い!!」 と、さっさと宣言してしまった。 このとき、ユフィに突っ込めるだけの話術とタイミングを計れた人間は、リーブとティファだけだっただろう。 だが、ティファもリーブも、お互いに相手が突っ込みを入れて阻止してくれるもんだと思っていたものだから、ついつい出遅れてしまった…。 「え…え〜と……では、その……ユフィさんにお願いと言う形でも……?」 恐る恐る、リーブが皆を見渡した。 ノリノリになってはしゃいでいるユフィは、リーブの声など全く耳に入っていない。 一人で、 「あ〜、これして、あれして…あ!あれも良いなぁ、でもあれをすると、これが出来なくなるし…ん〜…どうしようかなぁ…、やっぱり両方して……む〜…」 と、もう既に除隊する隊員達への手向けの催し物で頭が一杯になっているようだ。 しかも、勝手に色々となにやら仕出かすらしい…。 ということは…。 「なんか、ユフィがすっかりやる気になってるもの。今更『やっぱりなし』とは言えないわ」 苦笑しながらティファが小声でそっと囁いた。 ヴィンセントは一番責任を感じているのだろう。 いつもよりもドス暗いオーラをドヨ〜ンと漂わせながら、 「本当にすまない…私としたことが…」 すっかり椅子の上で小さくなっている。 これまた寡黙で無表情が売りのヴィンセントにしては珍しい姿だ。 皆、ヴィンセントを責めるのはあまりにも酷過ぎるということくらいちゃんと分かっている。 それに、ユフィが一人で勝手に盛り上がっているのを押さえられなかった責任は、この場にいる全員が背負うべきものだろう。 「そうだな」 クラウドが一番最初に、ティファの言葉に頷いた。 一番にティファの言葉に頷いた辺り、彼女への強い愛を感じさせる。 ティファは嬉しそうにクラウドを見た。 クラウドも少しだけ目を細めて柔らかい視線を彼女に向ける。 「ま、まぁ、いくらなんでも『とんでもない』と思われることはしないだろう…」 シドもクラウドに続いて、ティファの意見に賛同した。 当然それからは、ナナキもバレットもリーブも皆、賛成の言葉と、「何とかなるさ〜!」という言葉を口にした。 一重に、この場で一番責任を感じているヴィンセントに一人で責任を負わせまいとして…。 ヴィンセントは思った。 仲間とは…かくも良いものか…と。 しかし、彼はクラウドに負けず劣らす口下手で寡黙、 感謝の意を表するに、言葉にするだけの力がない。 だから、彼はたった一言だけ。 「ありがとう…」 その一言に万感の想いを込めた。 仲間達には充分だった…。 そのなんと言うか、温かく、仲間の友情を確かめ合ったと言う感動的なシーン、厳かな雰囲気が店内に流れる。 だがまぁ、当然と言うか、何と言うか…。 「よっし!これに決まり!てか、これしかないっしょ!」 破天荒娘のこのガッツポーズ付きの台詞で、全てが壊れてしまった…。 「はれ?なに、どしたの…?」 ガクーッ…。 仲間全員がテーブルに突っ伏したり、両肘を立てて頭を抱え込んでいたりして、どう考えても自分が素晴らしい企画を考え付いたことに対する歓びではないその状態に、ユフィはただひたすら、 『???』 と首を捻るのだった。 そして、その一部始終を部屋の隅で見ていた子供達はと言うと。 『ブフッ!だ、ダメだ笑う』 『ウッ…ク!だ、ダメ、我慢して』 『でもだってよ、あの皆の顔…うぶふっ!!』 『ヒッ…クッ!ダメダメ、あっち見たら……プフ……絶対に笑っちゃうから…ダメ、見ちゃダメ!』 必死で笑いを堪えつつ、椅子の上に小さく丸く座り込んで、ひたすら笑い声が漏れないように奮闘しているのだった。 「よっし!じゃあさ、明日から早速準備にかかるよ!」 張り切って宣言するユフィに、仲間達はノロノロと顔を上げた。 明らかに『期待』の漢字2文字は浮かんでいない。 ユフィはその全く期待していない面々に、 「ちょっと〜、皆頑張ろうよ!WROを目指して頑張ってたのに、任務で大怪我した挙句、WROに残っても任務に就けるだけの回復が出来なかったから嫌々辞めなくちゃいけない隊員の皆を励まして、世に送り出さなくっちゃいけないんだよ?私達にしか出来ないことを精一杯頑張る!それが除隊する人達への手向けでしょう!?」 と、檄を飛ばした。 これは効いた。 仲間達は目から鱗が落ちた気分だ。 確かにそうだ。 星の為に、星に生きる命の為に精一杯戦った挙句、除隊せざるを得なかった人達。 その人達はWROとは全く違う生活へ…、WROとは違う社会世界へとこれから『闘って』勝ち得ていくしか他に道がないのだ。 新しい世界に踏み出す最初の一歩は、本当に難しい。 勇気がいる。 それも、全身を奮い立たせての勇気が。 その最初の一歩を踏み出したら、きっと、WROの隊員だった者達だ。 新しい世界でもきっとやっていける。 そう思うと、クラウド達は、自分達がユフィに対して非常に恥ずかしく感じられた。 彼女のほうがよほど、除隊する隊員達のことを考えている。 本当にたまに、こうやってユフィは皆の期待を良い意味で裏切ってくれる。 だからこそ、こうして彼女がこの場にいるのだ。 「では、皆さん。ユフィさんの提案を聞きましょう」 和やかな雰囲気になったのを見計らって、リーブが口を開いた。 あとがきは最後で☆ |