「理不尽な…」

 思わず口をついたこの言葉に、反対の意見を述べるものがいるだろうか!?
 もしいるとしても、目の前の迷惑娘以外はいないと断言出来る。

 私は、当然のように差し出された『ソレ』を恨めしく睨みつけた。



サプライズプレゼント




「だ〜か〜ら!!私が渡しても疑われるんだってば〜!」

 年頃の娘が目の前であぐらをかいて座っている。
 もう少し慎ましやかに振舞えないものだろうか…。
 いや、無駄だな。
 私としたことが、望みの欠片もない願望を持ってしまった。
 とうの昔に希望など捨て去ってしまったと言うのに…。
 いや…それも違うな。
 捨てたはずの希望は、二年半前に再び胸に抱く事が出来たのだから。
 それゆえに…私は己の罪をほんの少しだけ贖う事が出来た。

 そう…ほんっとうに少しだけ……。

「ヴィンセント〜、聞いてる〜!?」

 黙り込んだ私に痺れを切らした彼女は、グイッと顔を近づけて睨みつけた。

 ……お願いだから、もうほんの少しだけで良いので世の女性のたしなみというものを身につけてもらいたい…。
 いや…それこそ無駄な望みと言うやつか…。

 私は深い深い溜め息を吐くと、差し出された『ソレ』を手に取った。
 決して重いはずはない『ソレ』が、妙に重く感じたのは……気のせいだろうか…?



「じゃ、よろしく〜♪」

 無責任にそう言い放ち、満面の笑みで嵐は去った。
 どうやら次の犠牲者を捜しに行くらしい。
 嵐が到達するまでに新たな犠牲者へ忠告しようか…?と、一瞬買ったばかりの携帯に手を伸ばす。
 が……。


 すまないナナキ。
 薄情な私を許してくれ…。


 心の中で赤い毛並みが美しい仲間に詫びながら、私はエッジへと足を向けた。
 もしもウータイ産のハチャメチャ娘に私が忠告した事がバレたら、今度はどんな無理難題を吹っかけてくるか分からない。
 彼女は……非常に優秀だ。
 私がどこにいても、絶対に追っかけてくる。
 それこそ『地獄の果てまでも』追いかけてくるのは明白だ。
 姿をくらます事に関して、それなりに自負していた私だが、ウータイの忍の優秀な事はもう既にイヤというほど経験済みだ。
 絶対に逃げられない…!!
 私は、この押し付けられた無理難題をサッサと済ませて、心静かに愛しい人の傍で時を過ごしたいのだ。


 太陽が妙に眩しく感じるのは……罪悪感からだろうか…?
 赤い尾を垂らして困り果てている仲間が脳裏をよぎった…。



「ヴィンセント!久しぶりね!!」

 店のドアを押し開けると、カウンターの中で開店準備をしていた仲間が満面の笑みで持って出迎えてくれた。
 突然の来訪に驚きながらも、純粋に喜んでくれているのが分かる。

 同じ満面の笑みでもどうしてこう……ここまで違うのだろう…。

 先刻のウータイ産の迷惑娘と比べて溜め息をこぼす。

「どうしたの…?何かあったの?」

 溜め息を吐いた私に、彼女は途端に心配そうに眉根を寄せた。
 ハッ!
 彼女にこんな顔をさせる為に来たわけではないのだ。
 今日は……任務を遂行させなくてはならないのだから。
 それも、可及的速やかに!!
 何故なら、一分一秒でも早く終わらせない事にはこの胸を押しつぶさんとしている罪悪感から開放される事もなく、遅くなればなるほど、ウータイ産のハチャメチャ娘が痺れを切らせてしまうからだ。

「クラウドは?」
「今日は帰って来れないの…。配達の仕事で今はアイシクルロッジにいるから…」

 ほんの少し寂しそうな顔をする彼女に、小さな罪悪感を覚えながらも、ウータイの忍の確かな情報に舌を巻く。

 なるほど…。
 確かに今日は帰宅出来ないらしい…。

「そうか……」
「どうしたの?」

 キョトンとする彼女に、少し目を伏せて悩んだ振りをする。
 案の定、『疑う』と言う事とは無縁の彼女は、心配そうに眉根を寄せて私の顔を覗き込んできた。

 全く…。
 どうして同じ『女性』でありながらこうもあの破天荒娘と違うのか…。
 人類の神秘とでも言うべきではなかろうか…?

「実は…少し気になったことがあったのでな。それで確かめに来てみたのだが、いないのなら仕方ない」

 そう言って背を向けた。
 予想通り、「待って!携帯に電話してみるから!」と、慌てて彼女は私を引き止めてくれた。
 携帯を操作するその手からそっと携帯を取り上げる。
 怪訝そうに見返す茶色の瞳に、
「いや…直接会って話をしたかったものだから…」
 そう言って、パカリと閉じて返した。
 彼女はさして疑問を持たず、「あ、そうね。電話で解決するならわざわざエッジまで来ないわよね…」と納得してくれた。

 本当に素直で良い女性(ひと)だ。
 罪悪感に胸がチリチリする…。
 が、その胸の痛みを必死に無視してあくまでいつもの表情を変えない。

「その……最近、クラウドは変わったことはないか?」
「???」

 キョトンと見上げてくる彼女に、益々罪悪感が込上げる。


『いつまでも進展しない二人の為じゃん!頑張って協力してよ!!』


 無責任な破天荒娘の声が聞える。

 …そうだ。
 二人の為だ。
 決して……決して、この『任務』が失敗した時の破天荒娘の報復を恐れているわけではない!


「実は……」

 言いにくそうに(実際かなり言いにくいのだ!)懐からユフィに押し付けられたものを取り出す。
 おずおずとそれを手に取ったティファは、困惑気味に私の表情を窺った。

 …頼むからそんな顔をして見ないでくれ…。

「開けて…良いの……?」
「……………あまりショックを受けないでもらいたい」

 心の底からの願いを込めてそう言うと、彼女は不安そうに『ソレ』の封を切った。

 中身を取り出し、確認した彼女の瞳が大きく見開かれる。


 ゴクリ…。


 思わず緊張から唾を飲み込む。
 彼女はどうするだろうか…?
 ユフィは、
『ティファの事だから、血相変えて飛び出すって!さもなくば、思いっきり凹んで『身を引くわ〜!!』とか言いかねないね』
 そう軽く言ってくれたものだ。

 どちらに転んでも、私にはありがたくない!
 だが…これも二人の為だ……!
 私は愛する人と強く結ばれる事が出来なかった。
 だから、大切な仲間である二人には私のような思いをして欲しくない。
 出来れば、今すぐにでも…確かな誓いを立てて幸せになって欲しい。
 本心からそう思っている。
 だが…。


 小刻みに震え、青ざめるティファを見て、後悔しないで済む方法があるなら教えて欲しいものだ。


 唇をグッと噛み締めているティファは、血の気を完全に失っている。
 そのまま失神しないのがいっそ不思議だ。


 ……ユフィ…。
 お前も私も、ちょっと……いや、かなり『結果を軽く見ていた』ようだぞ…?
 一体こういう時はどうしたら良いんだ…?
 そうだ。
 ここはもう、種明かしをするしかない。
 それも今すぐに!

「ティファ…すまない、実はな…」
「そんな……クラウドが……」

 真相を明らかにしようとした矢先、震える声で彼女が声を漏らした。
 フルフルと震えている彼女に、私の声が聞こえていないことは明らかだった。
「ティファ、落ち着いて聞いてくれ!違うんだ、これは…」
「最近ずっと…クラウド忙しくて…全然帰ってこないって思って…心配してたのに…。こんな…こんな……!」
「いや、これは違うから!良く見ろティファ、これは合成…」
「私!!全然……気付かなかっ……!!!」


 …………。
 …………………マズイ……。
 非常にマズイ。


 今更ながらに自分がいかにバカな作戦に乗ってしまったかを思い知る。
 私は自分でもかつてない程の焦燥感に駆られた。
 必死になってティファの手から『ソレ』を取り上げるが、ティファは目にした衝撃から立ち直れないようで、『ソレ』がなくなった手元をまだジッと見ている。

 これが世に言う『フリーズ状態』と言う奴か…。

 などと感心している場合ではない!
 硬直したままのティファの肩に手を伸ばした。
 と…。


「「ただいま〜♪」」

 遊びに行っていた子供達が帰ってきた。

 ギクリ…。

 身体が強張る。
 本当は、子供達が帰る前に『任務』を遂行していなくてはならなかったのだ。
 それなのに、予想以上のティファの反応を前にどうして良いか分からず、タイムリミットになってしまった。

「あれ…ヴィンセントの兄ちゃん!」
「あ〜!!本当だ!!いらっしゃ……ティファ?」


 あぁ……終った……。


 目の前が暗くなる。
 このまま星に還ってしまいたい。
 いや、せめて自分が蒔いてしまったタネを刈らなくては…。

 強張って微動だにしないティファに、子供達がみるみるうちに不安で顔を曇らせる。
 バレットの怒り狂う様が目に浮かぶ。
 アイツは娘を溺愛しているからな…。
 そして、そんな娘を可愛がっているデンゼルのことも非常に気に入っている。
 あぁ……本当に何故、こんなバカな計画に加担してしまったのだろう…。

「ねぇ、どうしたの?」
「なぁなぁ、一体なにがあったんだよ…?」

 マリンはティファに…。
 そしてデンゼルは私に訴えた。

 私は無言で彼女の手から取り返した『ソレ』を少年に見せた。
 大きな瞳がまん丸になる。
 横から覗き込んだ少女の目もまん丸になり、あんぐりと口を開けた。


 クラウド…。
 浅はかな私を許してくれ…。


 目を閉じて来るべき審判にグッと腹の底に力を込める。

「ティファ!なにしてるの!?」
「そうだよ!!ほら、早く、シドのおっさんに連絡してアイシクルエリアに行かなくっちゃ!!」


 ハッ!?

 子供達のその言葉に私は目を見開いた。
 呆気にとられている私を尻目に、少女が携帯を…そして、少年がティファを二階に押しやろうと奮闘している。
 彼女は漸く我に帰ったようだ。
 おどおどしながら……、躊躇いながらデンゼルとマリン、そして私を見る。

「躊躇ってる場合じゃないよ!クラウドが他の女の人に取られても良いのか!?」
「そうよ!ほらほら、もうシドのおじさん呼んだんだから、すぐにクラウドのところに迎えに行って!!」
「で……でも……」
「「でもじゃない!!」」

 呆気にとられる私の目の前で、一体どちらが大人で子供か分からないやり取りが繰り広げられている。

「俺、ティファ以外の女の人がクラウドと一緒にいるだなんてぜ〜〜ったいに許さないからな!」
「私も、ぜ〜〜〜ったいに許さないから!」

 キーーーッ…!!とムキになる…とはこういうことなのだろうか…。
 ギュッと眼をつむって『ぜ〜〜ったい!!』と言った子供達の表情に、そんなことをぼんやりと考える。
 ティファは子供達の剣幕を前に、それでもまだ躊躇っていた。

「ここでティファがクラウドのところに行かなかったら、俺、クラウドの事もティファの事も許さないからな!!」

 少年の言葉に、彼女の瞳がハッと見開かれる。
 グッと唇を噛み締め、眉根を寄せたその姿に
『あと一押しか…?』
 と確信する。

「ティファ」

 ビクリ。
 彼女の細い肩が振るえ、私を見る。

 ウッ…。
 頼むからそんな目で私を見ないでくれ……。

「ティファ、行け」

 口に出来たのはたった一言。
 彼女は必死に弱い自分と闘っているようだった。

「ティファ…、私はルクレツィアを救えなかった。『彼女が幸せならそれで良い』という『口実』に、逃げたんだ…」

 彼女の瞳が大きく見開かれる。

「その結果が…ティファも知っているだろう?私のような思いを味わわせたくない」


 ティファは瞳を揺らめかせ、大きく頷くと二階に飛んで行った。



「あの…本当に良いの?」
「ああ、気にするな。ここで吉報を待つことにする」

 エッジの外れでシエラ号に乗り込むティファを、私は子供達を両脇に見送った。
 ティファはシエラ号に乗り込む段になって、子供達を一緒に連れて行くかどうか迷った。
 当然だ。
 これからクラウドの『浮気現場』を押さえに行くのだから…。

「大丈夫だよ!ヴィンセントの兄ちゃんがいてくれるから!」
「そうよ!ほらほら、早く行って来て!!」

 追い立てる子供達に、ティファは申し訳なさそうな顔を私達に向け、シエラ号の中へと消えていった。

 急遽、招集をかけられたはずのシドが何も言わず、去り際に『ポン』と、私の肩に手を置いた。

 ………既に根回しは万端だったということだ。
 ウータイの忍。
 恐るべし!!


 見る見るうちに小さくなるシエラ号。
 それを見送りながら、子供達は「やれやれ」と言って笑い合った。
 そして、私の両手を取ると、
「お疲れ様!」
「どうせ、あれってユフィの姉ちゃんだろ?」
 ニッカリと笑って見せたのだ。

 ………何故分かった…!?

「だって〜、あの写真、思いっきり合成だったじゃん」
「うんうん、なんかすっごく不自然に輪郭とか出てたし」
「気付かないティファがどうかと思うよなぁ…」
「ティファはクラウドの事になるとあっという間に『盲目』になるから仕方ないよ」

 ……『盲目』という言葉を何故こんな小さな子供が知っている!?

「さ!それじゃあ帰ろっか」
「そうだな。あ!ヴィンセントの兄ちゃん、クラウドとティファが帰ってくるまで泊まってくれるんだろ?」

 無邪気に見上げてくる子供達に、首を横に振ることなど出来ない。
 元々、ユフィにこの『任務』を押し付けられた瞬間から、二人が帰ってくるまでセブンスヘブンで過ごすことは決定していたのだし…。

「ああ、そのつもりだ」
「やった〜!!」
「じゃあ、二年半前の旅のお話し、聞かせて〜!」
「クラウドとティファがどうだったかさ〜!」
「二人共照れちゃって、教えてくれないの!」
「ユフィの姉ちゃんは、話をでっかくしてしゃべるから、いまいち信憑性が無いんだよなぁ」

 ……何故『信憑性』という言葉を知っている!?
 しかも……大当たりだ……。

「そうだな……」
「「やった〜〜!!」」

 全身で喜びを表す二人に、自然に頬が緩む。
 こんなに…穏やかな心地を味わえるとは正直思っていなかった。
 なにしろ、ティファだけでなく子供達まで騙す計画だったのだから。
 それなのに、私以上に冷静で、且つ純粋にクラウドとティファを想い、そして私に心を開いてくれる。
 こんなぬくもりを…暫く忘れていた…。


 はしゃぎながら私の手を取って歩く子供達に引かれつつ、
『たまには…こんなサプライズも良いかもな』
 と思った…。



 一週間後。
 すっかりユフィの計画にはまり込んだクラウドとティファが、頬を染めながら私に恨み言をボソボソと言って来たが、それはそれで…心温まるものだった。



「クラウドもティファも、さっさと結婚しちゃえば良いのにね…」
「まぁ…デリケートな問題だから中々難しいんだろうな…」
「そうだろうけど…。でも、ちゃんと形にしたらこんな風にユフィお姉ちゃん達にからかわれることもないと思うんだけど…」
「いや、きっと形にしてもからかうと思うな…」
「あ〜…そうかも…」
「それにしても、どうやって仲直りしたのかなぁ〜?」
「ん〜………なんとなくクラウドの頬っぺたが腫れてる気がするから、一発くらい殴ったかもなぁ…」
「あ、本当だ。クラウド…ビックリしただろうね」
「失神したりしてな」
「アハ、それ言えてる〜」
「まぁ、いっつもちゃんと態度にしないからクラウドも仕方ないよな」
「でも、それってティファもだと思うけど?」
「ん〜…そっか。まぁでも、クラウドと比べたらティファはちゃんと態度にはしてるじゃん?言い寄ってくるお客さん達を片っ端から振ってるわけだし」
「うん…そっか…そうだね、うん!」
「これで少しは進展したかなぁ…」
「………それはあんまり期待出来ないね…」



 末恐ろしい会話を交わしている子供達に二人が気付いていないのが…せめてもの救いだ…。


 さぁ、帰ろう。
 任務は完了だ。

 ルクレツィア、ちょっと今回はキツイ任務だった。
 帰ったら聞いて欲しい…。


 愛する人の面影を胸に、私はエッジを後にした。
 もう暫くは破天荒娘の顔を見ないで済むよう祈りながら…。



 終っとけ!!




 あとがき


 すいません。
 もう、何にも言いません。
 突発的に思いついたんです!
 本当にすいません(土下座)