― 死が 二人を 別ったとしても 生涯 自分だけを ―

 そんなことを言った人がいるの。
 私、その言葉が…どうにも納得出来ないのよね…。
 だって、結婚式の誓いの言葉でもあるように『死が 二人を 別つまで』 でしょ?
 それなのに…。

 ― それでも 彼には アタシだけ… 生涯 アタシだけが… 彼の伴侶 ―

 フフ、可笑しいと思わない?
 そんなのはただの願望でしかないわ。
 でも…。
 そう思ってしまうのは、私がおかしいのかしら…?






唯一人の人に





「ねぇ、ティファさんはどう思う?」

 頬を薄っすらと染め上げたほろ酔いの女性客が、なんとも艶のある仕草でセブンスヘブンの店長に話しかける。
 カウンター席に一人で飲みに来たこの女性に、他の男性客達がチラチラ…と視線を向けていた。
 なんとも色っぽい女性。
 ふっくらとした唇は深紅の口紅が塗られており、店内の照明の下で魅惑的な放物線を描いていた。
 背中が大きく開いた服装は、胸元も広く口を開けており、少し前かがみになっただけでその豊かなふくらみがこぼれてしまいそうだ。
 異性を誘うような脚は、短いワンピースの裾から惜しげもなく晒され、スツールの上で優雅に組まれている。

 新顔の客だった。

 ティファは注文の品を作るべくカウンターの中で忙しく手を動かしていたが、その耳はしっかりと彼女の言葉を拾っていた。

「え…と……」

 少し手を止めて困ったように笑って見せる。

「どうでしょうか……、私は…あんまり考えたことが無いので…」
「そうなの…?じゃあ、今、考えてみて?」

 両目を細めて笑う彼女に、ティファは心底困ってしまった。
 正直、この手の女性は苦手だ。
 笑っているのに『笑っていない』。
 表情だけ笑っていても、内心で自分を品定めしているのが彼女の態度からありありと浮かんでいる。
 彼女が求めている答えを返すのが本当なら無難なのだろう。
 しかし、当然だがティファの客は彼女だけではない。
 他にも沢山の客達が彼女の手料理を食べにきてくれている。
 今も、その客達の為に料理をしている最中だ。
 そんな忙しい中、『重い話し』を真剣に考えられるような余裕は、残念ながら無い。
 だが、だからと言って適当にあしらうわけにも……いかないような気がした。
 下手な言い分は、女性客を不快にさせるか、もしかしたら憤激させるかもしれない。
 いくら苦手な客だからと言って、適当にあしらうのも店長たるもの、取るべき姿ではない。

「難しいですね」

 正直にそう答える。
 その間も、ティファの手は止まっていない。
 スピードは格段に落ちたが、カウンターのシンクの中では実に手際良く野菜が洗われ、まな板の上に乗るのを待っていた。

「そう?じゃあ、あなたが死んで、クラウドさんが生涯たった独りでいることを貫けるか…、それを想像してみたら良いわ」

 ピタ…。

 ティファの手が止まる。
 女性客の隣に座って鼻の下を伸ばしていた男性客が、ギョッとして上半身を仰け反らせるのが見えた。
 しかし、その滑稽な客など気にもならない。
 彼女が今、口にした言葉の方が何倍も引力を持っていた。

「 …… 」
「ね?どう?」

 無邪気…と、取られるような微笑みを浮かべながら、女性はカウンターの上に少しだけ身を乗り出した。
 豊満な胸が強調される。
 頬杖をついて、実に愉しそうにティファを見る彼女の目を黙って見つめ返す。

「 …… 」

 考えた。
 そう…例えば。

 例えば、『あの時』死んだのが『彼女』ではなく『自分』だったら?
 彼はどうしただろう?
『彼女』と、今ここで笑っているのだろうか?

 子供達が店の各所から心配そうに見つめてくるのを感じる。
 ティファは…考えた。
 考えて…想像して……。

「…やっぱり分かりませんね」

 出した結論。
 女性客は少し失望したような…、少し嘲ったような息を吐き出した。
 まるで、
『アナタも凡人ね』
 と、言わんばかりだ。
 だが、それは予想の範疇だった。
 ティファは別に顔色も変えずに「すいません」と一言詫びをして軽く頭を下げた。

 再度、料理にとりかかる。
 女性客は不満そうだった。
 ないがしろにされた…と、思っているのかもしれない。
 しかし、短時間であれ、ティファが貴重な時間を割いて一人の女性客に真摯に向き合ったのは事実だ。
 女性客はあからさまではないにしろ、白けたようにシャンパンを口に運んだ。


 優雅な身のこなしだ…と、ティファは思った。

 新顔の客は別に珍しくない。
 常連客になってくれる人と、一度限りで来ない客とを比べると、やはり圧倒的に一度限りの客の方が多いのだから。
 それはどこの店でもそうだろう。
 だが、それでも毎日この店が繁盛しているのは、常連客が多いから…ということも勿論あるが、新顔の客が日々、入れ替わり、立ち替わりでやって来るからだ。
 新顔の多くは、『ジェノバ戦役の英雄』という肩書きに吸い寄せられてくる。
 そうして、クラウドとティファを散々観賞し、満足し、帰って行くのだ。

 正直、ティファは良い気持ちはしていなかった。
 自分が見世物になってしまうのは仕方ないが、子供達までもその『対象』となってしまうのが、どうにもイヤだった。
 だが、子供達は結構根がしっかりしているようで、『おのぼりさん』のような客達を実に上手にあしらっていた。
 不器用なのは、むしろクラウドだろう。
 そうでなくても不機嫌そうな顔をしているのに、ジロジロ眺め回された日には…。

 愛しい人の仏頂面を思い浮かべ、ティファは知らず知らずのうちに微笑んでいたらしい。
「ティファ、大丈夫だよね?」
 いつの間にかカウンターの中に戻り、注文の品をそっと取り上げたデンゼルがコソッと囁いた。
 ティファは目元を和らげると、フワフワのその髪先に軽くキスを落とし、
「ふふ、ありがとう」
 そっと囁き返した。
 息子の顔が真っ赤になる。

「もう、いつまでもガキ扱いするなよな」

 プンッ!とむくれたフリをして大股でカウンターを出て行く息子に、ティファは軽く笑い声を上げた。
 と……。
 視線を感じてそっとその先へと目をやると…。

「ふぅん…本当に可愛がってるのね」
「えぇ…勿論です」

 先程よりも頬の赤みが増している…女性。
 今度は小バカにしている印象は無い。
 純粋にティファが血のつながりの無い子供達を本当に慈しんでいることを不思議がっている…そんな感じだった。

「ねぇ、どうして?」
「え…?どうして…って…そりゃ、とっても可愛い私の大事な家族ですから」
「『家族』?」
「はい」

 キッパリとそう言い切り、微笑んで会釈をする。
 それでこの話題は終了だ、と暗に匂わせたつもりだった。
 だが、
「どうしてそこまで『他人』を一番に考えられるの?」
 女性客には通用しなかったらしい。
 心底不思議そうに、若干酒が回ったトロンとした目を向ける。
 隣の客が、デレデレした顔から一変し、先ほどからコソコソと席替えをしているのが見える。
 ティファは苦笑した。

「どうして…って訊ねられてもちょっと困っちゃうんですよね」
「どうして?どうして困るの?」

 女性はまるで小さい子供のようにティファに『どうして?』と繰り返した。
 酔っているからだろうか…、若干呂律も回っていない。
 ティファはカウンターから他の客の注文の品を数品取り出し、戻って来たマリンにそれの一つを渡した。
 もう一つは自ら運ぶべくカウンターから出る。
 その出る前に、
「やっぱり…上手く言葉にならないんですよね」
 そう言って、不思議そうな顔をする女性に苦笑して見せた。

 それからは、ティファ自身がいよいよ本格的に忙しくなってきたこともあり、女性客から不思議な質問を受けることは無かった。

 店内は忙しく、客達の飲食も進む。
 当然、ティファの仕事が減るはずなどない。
 そろそろ、いつものピーク時になってきた。
 女性客は、女主人の忙しそうな姿を肴に、一口、一口、シャンパンを運ぶ。
 実に…官能的な仕草。
 色っぽさが滲み出るどころか、溢れ出て周囲の男性客達の視線を引き寄せている。
 しかし、ティファとは違い、同姓には嫌われるタイプのようだ。
 あからさまに蔑んだ顔をして女性客達がヒソヒソと囁いている姿がある。
 彼女はそれに気づいていた。
 女性客達をゆっくり見つめ返し、ギョッとする彼女達に妖艶に微笑んで見せたのだ。
 ティファは内心、舌を巻いた。

 ここまで度胸の据わっている人間はいない。
 ましてや、敵意を持たれている相手の神経を逆撫でするようなことを堂々とやってのけるとは。

 女性客達が般若のような形相で睨みつけているのを、実に小気味良さそうに鼻先で笑う彼女に、ティファは感心した。

 いかようであれ、ここまで肝が据わり、且つ、自分に自信があるといっそ気持ちが良い。
 確かに彼女は美しかった。
 その美しさの種類がティファとは違い、『女性』を存分に引き出し、活かしているものだとは、残念ながらティファにはそこまで分からない。


『それにしても…』
 と、ティファは考える。
 女性の先ほどの質問を。

 仮に、自分を置いてクラウドが先に星に還ったとしよう。
 クラウド以外の男性に惹かれることがあるだろうか?

 答えは簡単。


『ノー』だ。


 だが、逆なら?
 自分がクラウドを置いて先に星に還ったとしよう。
 クラウドは自分以外の女性を傍に置かず、残された生涯を独りで生きていく…?
 …。
 ……。

 暗い店内で独り、寂しく座っている背を想像し、ティファの胸がギュッと苦しくなった。

 ダメだ。
 とてもじゃないが、自分が死んだ後も自分だけを想って生きて欲しい、などとは言えない。
 勿論、クラウドは独りきりで生涯を終えることは無いだろう。
 仲間達がいる。
 子供達がいる。
 何より、あんなに素敵な人がモテないはずがない。
 こんなに愛されていると実感出来る幸せな毎日を送っているのに、時々、不安になるのだから。
 今夜、この店に来ている女性客達のように、クラウドを慕っている女性が、クラウドの紺碧の瞳に映ったらどうしよう……と。
 自分が生きている間は、やはり自分以外の女性を見て欲しくはない。
 だが、死んでしまった後までも、彼を縛っておきたいと思うのは傲慢だろう。

 例え、自分を置いて彼が先に星に還ったとしても、生涯彼一人を想って生きていくと決意していても、それを彼に要求は…出来ない。


 そこまで考えながら、ティファは新たに三つの注文の品を作った。
 手際良く仕事を片付けながら、ティファはフ……と女性の視線に気付いた。
 彼女と目が合う。
 妖艶な笑みを浮かべて軽く首を傾け、笑う女性にティファは引きつった笑いしか返せなかった。
 たった今まで、彼女の質問を悶々と自問していたと見透かされた気がしたからだ。

『彼女は彼女。私は私よ…ね…』

 軽く息を吐き出して頭を切り替える。
 いよいよ、包丁を持つ手が危なくなってきたからだ。
 ティファは女店長としての顔に戻った…。


 やがて、時間は着実に進み、そろそろ子供達が休む時間が近付いてきた。
 客達もガラリ…と、入れ替わっている。
 替わっていないのは……やはり『彼女』だけ。
 どうやら、ティファの手が空くのを待っているようだ。
 焦りもせず、まったりと彼女はスツールの腰を下ろし、時々一品料理を追加注文しながら優雅にそこにいた。


「ティファ、俺達…」
「あの…大丈夫?私達、もう少し大丈夫だよ?」


 心配げに眉を寄せている二人にティファは笑って見せた。
「ふふ、大丈夫。それに、今夜はクラウドが帰って来る予定だもの。明日はお休みだから、家族でピクニックに行くんでしょう?ちゃんと今夜、しっかり寝てないと明日はしんどいわよ」
 ティファの微笑みに元気付けられたかのように、二人はニッコリと笑った。

「「 おやすみ、ティファ 」」

 それぞれティファにおやすみのキスを贈り、客達にも一通りの挨拶をして二人は二階へと消えていった。
 それを合図に幾人かの客達が腰を上げる。
 彼等も自分達の家に帰るのだ。
 子供達が子供部屋に引っ込むのが彼等にとっての帰宅時間だった。

「ティファちゃん、じゃあね」
「美味しかったよ」
「また今度な」

 それぞれがそれぞれの言葉でティファに労いの言葉を贈る。
 それを女店長がにこやかに受け止め、ホワッと包み込んで返すのを彼女は見ていた。
 その目の奥に輝くのは、純粋な好奇心だ…と、ティファは思った。
 彼女は派手な装いからは少し考えにくいのだが、非常に好奇心旺盛で、まるで子供のようだ…と思えた。
 子供達と自分の関係、更にはクラウドとの関係を興味津々に、好奇心を隠そうともしないで無邪気に尋ねる姿は…本物の子供。
 しかし、先ほどまで店にいた他の女性客達を小バカにし、煽って鼻先で笑う姿は……悪女そのもの。


『不思議なひと…』


 ティファがそう思っているのを知ってか知らずか、女性客はティファを観賞し続けた。

 店の客達がそろそろまばらになり、いよいよ閉店時間が迫ってきた。
 しかし、今夜は何となく閉店宣言をしづらい。
 ティファは困ったように時計をチラリ…と見た。
 時刻は23時。
 もうそろそろクラウドが帰って来るはずだ。
 疲れて帰って来る彼の為にも、もう一刻も早く店を閉め、彼の為の夕食作りにとりかかりたい。
 下ごしらえは出来ているので、簡単なのだが、店の片付け…、テーブルを拭いたり、食器を洗って片付けたりといったものが意外と時間がかかる。


「じゃあな、ティファちゃん、ご馳走さん」
「ありがとうございました。気をつけて帰って下さいね」


 とうとう、最後の一人も帰ってしまった。
 彼女以外は。

 ティファはドアベルの音を頭上に聞きながら、意を決して振り向いた。
 やはり、もう彼女にも帰ってもらわなくては。
 だが…。

「 ! 」
「ふふ、やっと二人きりになれた」

 いつの間にか、女性が真後ろに…自分の目の前に立っていた。
 ごちゃごちゃと色々考え事をしていたせいで、彼女が近寄っていたことに全く気づかなかったようだ。
 完全に出鼻を挫かれた形になってしまっている。

「あの…」
「ね?さっきの続き」

 おどおどとするティファにはおかまいなく、彼女は長い指をスッと伸ばして自分の頬に当てた。
 所謂『おねだりポーズ』なるものなのだが、残念ながらティファには通じない。
 これが異性であれば鼻の下を伸ばすのだろうが…。

「さっき…って、『死んだ後も自分だけが特別の人…』ってやつですか?」

 視線をやや斜め上に向け、彼女の瞳の奥に宿っている強い光から目を逸らす。
「そう。そのお話し。ティファさんは良く分からない…って言ってたけど、あれから考えてくれたんでしょう?結論はどうですか?」

 やはり…バレていた。
 ティファは「ん〜〜……」と、唸りながら前で手を組むと、クルクルと指遊びをし始めた。

「やっぱり…分かりません。でも…」
「でも?」

 半歩、近付いた女性に、ティファは一歩後ずさった。

「私が置いていかれた場合なら、クラウド以外は考えられません……」

 言ってから、ティファは真っ赤になった。
 半分勢いのようなもので本音を他人に明かしてしまった。
 彼女は真っ赤になったティファを見て、キョトンとしたがすぐに妖艶な笑みを浮かべて斜に構えた。

「ふぅん。やっぱりアナタ…噂通りの女性(ひと)なのね」
「『噂』?」
「そう、『噂』」

 たっぷりと間を置いて、彼女は繰り返した。
 ティファの胸にイヤなものが広がっていく。
 きっと、今から聞かされるのは良い話ではないだろう…。
 出来れば、聞きたくない様な内容のはずだ。
 彼女の目がそうであることを語っている。
 そして、ティファの勘は間違えていなかった。


「他人を一番大切にしているつもりでいる偽善者」


 魅惑的なふっくらした唇から紡がれたその言葉。
 だがしかし、それはティファの気持ちを挫けさせるのはおろか、揺るがせる事も出来なかった。
 ただ黙ってティファは彼女を見つめ返した。
 ここまではっきりと言ってくれるといっそ清々しい。
 自分が聖者だとは毛頭思っていない。
 それに、恐らくそのように受け止められていても仕方ないと思っている。
 だから、それを直に聞くことが出来て逆に嬉しくさえ思った。

 ― 私の犯した罪は 簡単に 償えない ―

 その思いが確固たるものとして心に巣食う。

 女性はティファが微塵も動揺を見せなかったことに、軽く戸惑ったようだった。
 だが、すぐに余裕の表情を取り戻す。

「その顔は、『分かってた』ってことね?」
「ええ」
「そう。じゃあ、アナタが幸せになるのは『おこがましいこと』だということも分かってる?」

 挑むようなその問いかけ。
 ティファは微笑んだ。

「いいえ。そうは思いません」

 キッパリ言い切ったティファに、女性は目を丸くした。
 彼女の素顔がその時初めて見えた気がした。
 ティファは言葉を続けた。

「私の犯した罪は簡単に償えるものでも無いことは分かってます。生きている間に償えるかどうかも分からないほど…私の……私達の罪は軽く無い。でも…」

 真っ直ぐに女性を見つめる。

「私達を愛してくれている人達のためにも、私達は誰より幸せにならなくてはならないとも思っています」

 女性の瞳が揺らぐ。


「それが…星に還った私を世に送り出してくれた両親や仲間、友人達へ、私達が出来る唯一の手向けです」




「そう。だから、俺達は生きてるんだ」
「「 !! 」」

 聞き慣れた声が耳に飛び込んできて、ティファはビックリして目を上げた。
 女性客も驚いて振り返っている。
 その彼女の向こうには、金髪・碧眼の青年が二階に続くドアに凭れるようにして立っているのが見えた。

「クラウド」
「ただいま、ティファ」

 同性でもうっとりするような微笑みをティファに向けながら、クラウドがゆっくりと近付いてくる。
 女性の事は全く目に入っていないかのようだ。
 そのまま、女性を素通りし、ティファの額に軽く『ただいま』のキスを贈る。
 真っ赤になるティファにクスッと笑うと、クラウドはようやく女性に向き直った。

「もう閉店だ。悪いが帰ってくれないか」
「 …… 」

 女性はクラウドを睨みつけるように見やったが、結局無言のままスツールに戻り、勘定をテーブルに置いてそのまま黙って店を後にした。
 女性の真っ赤なドレッシーなワンピースが見えなくなるまでティファは見送った。
 宵闇に溶けるようにして消えた後、ティファは躊躇いがちにクラウドを見上げた。

「彼女と……知り合い?」

 なんとなく…そう感じたのだ。
 クラウドと彼女の一瞬だけの触れ合いが、今日初めてのものではない。
 そう…思えた。
 クラウドは悪びれる事無く軽く頷いた。

「あぁ。配達先の顧客の一人だった」
「そうなの…」
「……何か言われたのか?」

 心配そうに顔を寄せるクラウドに、ティファは一瞬考えた。
 余計なことを話して煩わせるのがイヤだった。
 だが、きっと話さなかったらそれはそれで、クラウドを悩ませるだろう。
 ティファは…話した。


「そうか…」

 ティファが用意してくれた夕食を食べながら、クラウドは頷いた。

「ティファも気づいたと思うけど、彼女には好きな男がいるんだ」
「うん」
「でも、そいつには奥さんがいる」
「うん」
「それで、ちょっとした修羅場になった」
「どうして?」
「男が彼女にも手を出したから」
「サイテー」
「あぁ、サイテーだ。それで、奥さんと別れろ!って修羅場になった」
「そうなの…」
「奥さんと別れるつもりがサラサラ無かった男は、彼女と縁を切った」
「でも、彼女は拒否したのね?」
「あぁ。ほんっとうに…あの時、なんで居合わせたのかと思うね…」

 そう言って遠い目をするクラウドに、ティファは労わるような微笑みを向けた。
 軽く肩を竦めて見せると、クラウドは苦笑した。

「ま、そういうわけで、奥さんが言ったんだ。『たとえ、ここでアンタに私が殺されても、夫はアンタとは結婚しない。生涯、誰とも私以外の女と結婚はしない』ってさ」
 いやぁ…本当に凄まじかった…。


 クラウドのぼやきにティファはクスッと笑った。
 だがしかし、笑ってから笑顔を引っ込めて、思案顔になり、
「でも、浮気した男性だったら、奥さんが死んじゃったりしたら平気で他の人と再婚するんじゃないかしら…?」
「まぁな。そこがその男の変な所なんだよなぁ…」
 小首を傾げるティファに、紺碧の瞳をグルリと回して呆れた顔をする。
「『恋愛』と『結婚』は違うから、俺の妻はただ一人。っていうのが、その男の信条なんだそうだ」
「なにそれ…」

 ティファも呆れて椅子の背もたれに背を預けた。

「まぁ、だけど…」
「うん?」


「俺もティファ以外は考えられないな」


 息が止まる。
 男なのに色気たっぷりに微笑む愛しい人に、ティファの視線が釘付けになる。

「な、な…」
「それは覚えておいてくれ」
「な…!」

 真っ赤になって言葉が出ない。
 口をパクパクさせるティファを可笑しそうに、愛しそうに見つめながら、クラウドは食事の続きに移った。

「……酔ってる…?」
「ん…まぁ、ちょっとな」

 軽く頬を染めながら、グラスを掲げてみせる。

「バカ…」
「バカで結構」
「もう…」
「ハハ」
「…………も」
「ん?」
「……〜…私も…だから…覚えておいて!」

 紺碧の瞳と茶色の瞳が、カチリと合って…。

「「 …… 」」

 同時に逸らされた。

「参った…」
「もう、私の方こそ…」
「ティファにはいっつもやられっぱなしだから、今日くらいって思ったんだけどな」
「ウソ。いっつも私の方がやられっぱなしじゃない…」
「そんなことない」
「ある」
「ない」
「あるもん!」


 また同時に視線が合って。


 一緒に吹き出す。

「じゃあまぁ、…とりあえず…お互いにとって『唯一人の人』ということで…良いか?」


 ガシガシ、と後頭部を掻きながら照れるクラウドに、ティファは満面の笑みで頷いた。



 願わくば、出来うる限り同じ時間をアナタと共に。



 あとがき

 もうちょこっとややこしい設定に…とか思っていましたが、結局このようなお話しになりました(汗)。
 はい、二人にはラブラブバカップルになってもらいたいです。