たった一人の貴女だから…




 広大なる宇宙に浮かぶ青い星。
 その大いなる大地には『人』という種族が集団で暮らしている街・町・村の集落がある。
 その数多ある集落の一つ、エッジと呼ばれる街はその星の中でも一・二を争う勢いで急速にその人口密度を増し、活気で溢れかえっていた。
 そうして。
 そのエッジの広い街の片隅では、絶大な人気を誇る一つの店が今夜も疲れた人々の心を癒し、飢えた身体を満たすべく明るく火を灯している。
 大いなる大地から見れば、ほんの針の先程にもならないようなその店に。
 今夜も多くの魂が惹き寄せられていた。



「ティファちゃん、メニューお願い!」
「はぁい、少々お待ち下さいね」
「あ、ティファちゃん!こっちに生ビールよろしく!!」
「はぁい!すぐにお持ちします!!」

 エッジにある『セブンスヘブン』。
 この店はいくつかの要素で有名だった。
 一つは、料金以上に美味しい料理と酒が出ること。
 そして、看板娘と看板息子が幼い子供であること。
 店主がむさくるしい男ではなく、一見華奢にすら見えるナイスバディーの女性であること。
 そして、その女性が『ジェノバ戦役の英雄』として有名な女性であること。
 そんな彼女が、『英雄』という肩書きをまったく鼻にかけるどころか、控えめで……むしろ『英雄』という肩書きをかなぐり捨てるような素振りすら見せ、『一人の人間』として『現在(いま)』を生きようとしていること。
 更には……。

「ティファちゃん、最近クラウドさんを見ないけど元気なのかい?」
「あ、ええ…。ちょっと仕事が忙しいですけど、体調も壊さないで元気ですよ」
「そうか…なら良いんだけどよ。ティファちゃんが悲しむような事になったら俺達も黙ってられないからさぁ」
「フフ…ありがとう…」

 美人で人気者の女店主の恋人が『ジェノバ戦役の英雄達のリーダー』を務め上げた男だということ…。

 これらの要素がない交ぜになり、今日の人気ぶりに反映していた…。
 そうして…。
 今夜もエッジの街に小さくとも、温かな明かりが灯る。



 しかし…。



 明かりに惹かれる魂達の全てが、『疲れた心』を癒す為でも『飢えた身体』を満たす為というわけではない。
 彼女の容姿と内面から溢れ出る輝きに惹かれ、店に集う『男』という生き物達。

 いかにして彼女の近くに……出来れば隣に立つ権利を得る事が出来るか…。
 その押さえようのない想いを胸に、毎夜集うその種族。
 そして、そんな『ヨコシマ』とも『イチズ』とも言える感情を抱いている人間に、彼女の家族が平気なわけもなく、日々ヤキモキしていたりするのだった。



「ティファちゃん、最近出来たジュエリーショップ、知ってるか?」
「ああ、記念碑の近くですよね。あそこ、凄く人気あるみたいですよねぇ。この前、女性のお客様から沢山お話しを聞きました。そのお客様、すっごく興奮されてて聞いてて楽しかったです」

 ふと話しかけられ、ティファはいつものように笑顔で答えた。
 それは本当にいつもと同じ光景。

 客に話しかけられてもかけられなくても、敏感にその客の状態を見極めて上手に接客をこなす。
 まだ幼い看板娘もこの技を習得しており、看板息子にそっとアドバイスをしていたりもする。
 この接客術は当然、この店の店主から学んだこと…。
 そして、ティファが客に…特に若い男性客に話しかけられたらその男性客を警戒し、いつでも『邪魔』が出来るように密かに身構える事は、店主の恋人から学んでいた。
 この事実に、自分の事にはとんと疎い子供達の母親代わりは未だに気づいていない…。

 ジュエリーショップの話題を持ち出した男性客に、子供達は見事に表情に出さず、そっと身構えた。
 流石としか言いようの無いその看板息子と看板娘に、誰も気付かないので賞賛の声は上がらないが、もし、この場にクラウドがいたら……もしかしたら気付いたかもしれない。

 ……限りなくその可能性は低いけど……。

「そうそう、その店!今日、丁度その店の前を仕事で通りかかったからちょっと覗いたんだけど……」
 そう言いながら、どことなく緊張気味に上着のポケットに手を突っ込む。
 ティファはキョトンと小首を傾げ、その男性客の次の言葉を待っていたが、周りの客達、更にはその男性客を警戒していた子供達はギョッとしたり殺気立った。

 決して少なくはない視線を集めつつ、男性が取り出したもの…。

 明らかに、意味深な物を髣髴とさせるそのジュエリーケースに…。
 流石のティファも固まった。

「あぁ、いや、そんな大したものじゃないんだ、ホラ」
 ティファが笑顔を強張らせたのを見て、男性客は慌ててケースを開けて中を見せた。
 中には、小さなエメラルドを輝かせたピアス。
 雫が二つ、重なるようなデザインのそれは、乙女心をくすぐるには充分な代物。
 男性客の差し出したアクセサリーがリングでなかったことに、ティファだけでなく子供達も内心で胸を撫で下ろした。
 勿論、そんな表情は微塵も出さない。
 その代わり、ティファは強張っていた表情を緩やかなものにする。

「まぁ、綺麗ですね」

 笑顔の戻った店主に、男性客はあからさまに安どの表情を浮かべ、一部始終を見ていた他の客達はガッカリしたり、苦笑したり、更には舌打ちをしたり……と様々な反応を示す。
 そんな他の客達の反応に店主であるティファが気づかないはずはなかったが、だからと言ってどうして良いのか分からず、ただ曖昧な笑みを浮かべて目の前の問題に集中する事にした。
 目の前の問題とは当然…。

「これ、ティファさんに似合うと思って……」
「えっと……」

 ティファにやや強引にケースを握らせようとするその男性。

 看板息子と看板娘から笑顔が消し飛び、店主目当ての他の客達から殺気が放たれる。
 その他、クラウドとティファの仲を応援している常連客達からは怒りが立ちこめ、残りの少数の客達は無責任な野次を飛ばした。
 勿論、あっという間に敵意に満ちた眼差しに曝され、シュンとうな垂れる事になったのだが……。



「お気持ちは嬉しいんですけど……ごめんなさい」



 シーン。
 セブンスヘブンの女店主が深く頭を下げる姿に、騒然としていた客達が口を閉ざした。
 静寂に包まれた店内に、時計の針がコチコチと響く。

 まぁ…。
 少し考えれば分かることだ。
 恋人を持つ女性にアクセサリーを贈るなど、常識からはまず考えられない行為であること。
 そして、恋人を持つ女性が他の男からの贈り物を受け取るはずなど無い…ということ。
 しかし。
 この場にいる男性達がこの事実に失念していた。
 その原因は、やはりティファが『酒を出す店の店主』であるという現実。
 いくらティファが『英雄という肩書きを鼻にかけない女性』であったとしても…、『明るくて心優しく、皆のアイドル的存在』だとしても…、更には『恋人がいる女性』だとしても…。
 それらの事実が『酒を出す店の女店主』という肩書きの前に、霞んでしまっていた。
 酒を出す店で働いている女性。
 しかもこの美貌。
 世間で言う『都合の良い女』『遊び女(め)』『娼婦』…等々。
 様々な言い回しがきくこれらの言葉に、無意識の内にティファを当てはめていたのだ。
 もしもセブンスヘブンが『酒を出さない』店だったら、こういう無意識の『誤解』は生じなかっただろう。
 しかし、セブンスヘブンは『料理』と『酒』を愉しんでもらえる『店』。
 その『店』の店主……しかもかなりなナイスバディー。
 少しずつ少しずつ…。
 何人かの『客』が、世間の『ものさし』で彼女を見るようになっていたとしても……仕方ないのかもしれない。
 勿論、常連になればなるほど、その逆の場合が多いのだが、この男性客の場合は残念ながら前者であったらしい。

 自分に深く頭を下げるティファに、理不尽な怒りが込上げる。

「ティファちゃん、ちょっと酷くない…?」
 笑おうとして失敗した男の顔が奇妙に歪んでいる。
 ティファは眉尻を下げて困ったような顔をした。
 その表情が、他の客達……とりわけティファに想いを寄せている男性客達の男心をくすぐる。
 当然、その心理はプレゼントを拒否された当人にも当てはまったのだが、それが逆効果として現れた。
「ティファちゃん、その顔反則…」
「え…?」
「こんなに沢山の人達の前で恥じかかされたのは俺なのに、そんな顔されたら俺が悪者じゃん?」
「え…と……」
「それにさぁ。こういう飲み屋を営んでるんだから、もっと…こう、断るにしても気の利いた言動を取ってくれても良いんじゃない?こういうのって俺が初めてじゃないだろう?」
「………」

 ティファは押し黙って俯いた。

 その男の言う通り、プレゼントを贈られた事は初めてではない。
 むしろ、クラウドが家出から帰って来たその前後に贈られた物は、受け取っていたくらいだ。
 それをここ二ヶ月ほど前からティファは全て断るようにした。
 きっかけは、クラウドが苦労して自分にバレない様にラブレターを荒野で捨てていた……という事実を知ってから。
 勿論、ティファもラブレターを何通も貰っており、それを互いにバレない様に隠していたのだ。
 そんな風に、お互いがお互いを大切に想っている事を再確認した時、ティファは『プレゼントは金輪際、個人的には受け取らない』と決めたのだ。
 そして、プレゼントを受け取った当初から決めていた通り、換金出来る物は換金し、出来ない物はそのままで孤児院にそっくりそのまま寄付をした。
 びた一文、自分の手元には残していない。

 それからと言うもの…。
 ティファはプレゼントを一切断っていた。
 勿論、自分の誕生日に贈られてきた花束類は、店を飾る為にありがたく受け取ったが…。
 彼女のファン達も、彼女が一切受け取らなくなってからと言うもの、無理に彼女に贈りつけるような無粋な真似はしなかった。

 彼女が、今夜のように相手の誠意に応えるよう、真摯な態度で深々と頭を下げたから…。

 彼らにはティファの心がちゃんと通じていたのだが、今夜のこの男性には通じなかったらしい。
 元々自尊心が高いのだろう…。
 ルックスも、着ている服も、これまでティファに贈り物を差し出した男性達よりも若干レベルが高く感じられる。
 しかし、ティファにとってはそれはどうでもいいこと。
 彼女にとって、プレゼントを贈られて断る理由が無く、むしろ心から嬉しくて……幸せになれる相手は友人と子供達、そして仲間達と…………大切な『彼』だけ。
 だから、今、目の前で己の自尊心を甚だしく傷つけられて逆キレしている男性客の心理がイマ一つ良く分からない。

「すいません。他の方々にもこれ以外で謝罪した事が無いものですから…」

 正直に事実を口にする。
 しかし、いくら正直に相手に伝えようとしても、相手が歪んでいたらいくら真っ直ぐな言葉でも通じない。
 男は唇の端を釣り上げると、
「ウソつけよ!」
 完全に居直って嘲笑する。
 周りで傍観していた他の常連客達が怒気に顔を朱に染めた。
 そんな事には全く気付かずに……あるいは気付いていた所でそれに気を使うほど余裕が無かったのか…?
 男はフラリと立ち上がると、困ったように眉を寄せている女店主を見下ろした。

「今までこんなに価値のある物を貰ったことなんか無いだろう!?もしもあったとして、尚且つそれを蹴っていたなら、俺はあんたの感性を疑うね」
「………」
「価値が分からないようだから言っとくけど、これは特注品なんだ。俺の給料の半年分はかかるんだよ!!」
 吐き出された言葉に、怒気を漲らせていた常連客達が、僅かにうろたえた。
 まさか、そこまで価値がある物だとは思ってなかったのだ。

 自分に対する敵視が緩んだのを感じた男は、勢いづいてティファに詰め寄った。

「これを買うのに…どれだけ苦労したか…。これまで貯めてた金、ほとんどつぎ込んだんだぜ!?それだけあんたを想ってるってのに…その気持ちに対する答えがこれか!?」
「………」
「まったく……。アルコールを出す店の店主ならそれなりに上手に客を喜ばせるのも仕事のうちだろう!?それを、こんなに沢山の人間の前で恥をかかせやがって…!!」

 男の言いたい事が漸く理解できたティファは、グッと腹に力を入れると再び頭を下げた。

 要するに、この男は自分のちっぽけな自尊心を傷つけられたのだ気に食わないのだ。
 一介の『酒を出す店の女』に袖にされて…。
 所詮、この目の前の男が見ていたのは、『愛想笑いを浮かべて酒を出す店の女』。
 それは、『ティファ自身』を見ていたことにはならない。
 まぁ、半年分の給料を差し出してプレゼントを買ったのだから、『酒を出す店の女』以上のものを感じていたのだろうが、彼が今、口にした言葉はティファと言う存在を無視して『酒を出すそこら辺の女』と型にはめているものだ。
 その男の考えに同調する客もいれば、憤慨する客もいる。
 店内が一気に騒然となった。



「そこら辺にしておけ」



 喧騒に包まれた店内でもはっきりと通る低い声。
 客達は一斉に口を噤むと、その声の持ち主をゆっくりと振り返った。
 ティファと子供達も驚いて顔を向け、視線の先にいた人物に目を丸くした。


「ヴィンセント!!!」
「「ヴィンセントさん!!!」」

 寡黙なジェノバ戦役の英雄が椅子横座りをし、背もたれに肘を置いて頬杖を付いていた。

『いつの間に…!?』

 周囲の空気を読み取り、気配を探る事に長けているティファですら、彼の来店には全く気付かなかった。
 一体、いつからそこにいたというのか…。

「あんまり盛り上がっているようなので暫く静観していたのだが…」
 ゆっくりと立ち上がりながら、喧騒の中心になっているティファと男に近付く…。

「あんた…本当にカッコウ悪いな」
「な…!!」
「口では何とでも言えるが、ティファを憎からず想っていたその気持ちはウソじゃないだろう…。それを一介の『酒を出す女如きが自分を馬鹿にした』と己に言い聞かせて、自分が傷つかないように保身に走ってる…。みっともない事、この上ない…」

 店内がシンと静まり返る。
 ヴィンセントの突然の登場に度肝を抜かれていたが、彼のこの台詞に止めを刺された……と言ったところだ。
 男は顔を真っ赤にしたり真っ青になったり……非常に忙しい。
 寡黙な英雄は、視線を下げると不安そうに自分を見上げている子供達に肩を竦めて見せた。
 そして、視線をゆるゆると穏やかな色に染めると、ゆっくり瞬きして『大丈夫』と伝える。
 デンゼルとマリンにはそれだけで充分。
 子供達は心から安心してニッコリと笑い返した。

「あ、あんたに何が分かる…」

 我に返ったらしい男が、俯いて声をわななかせる。
「あんたに何が分かる…。想いを寄せた相手には……初めて心惹かれた女性には既に他に男がいて……自分なんかが入り込める隙なんかこれっぽっちもなくて…。それでも、どうしてもその気持ちに歯止めが効かなくて……押さえられなくて、毎晩毎晩、馬鹿みたいに店に通って『客の一人』としてしか接してもらえないって分かってるのに、それでも通うのを止めれなくて…」
 己の気持ちを全て吐き出すように……震える声で言葉を紡ぐその男の姿に、客達もティファも…そして子供達も言葉を失った。

 そこまで彼がティファを想っていた事に初めて気付いたからだ。
 同時に、この目の前で肩を震わせ眉を寄せ、苦悶の表情を浮かべる男に同情の念すら沸いてくる。

「せめて、『客達の一人』ではなくて『客達の中でも特別な人間』になりたくて、必死に考えて、足掻いた俺の気持ち、あんたに分かんのか!?」

 興奮して怒鳴り声を上げるその男の言葉に、店にいた客達が胸を打たれた。
 それは、悪者扱いされてしまったティファですら罪悪感が頭をもたげるものだった…。
 しかし…。


「実に…くだらない」


 寡黙な英雄はバッサリ切り捨てた。


「なっ!!」
 男の顔が怒りに歪む。
 他の客達も同様だった。
 一様にヴィンセントを非難するような眼差しを突き刺し、何か言おうと口を開く。
 しかし、一瞬早く寡黙な英雄が言葉を紡いだ。

「私もかつて……一人の女性を愛した。その結果、彼女を見守る事が彼女のためになると自分に言い聞かせ……彼女を破滅させてしまった」

 激していた男はヴィンセントの言葉の中に隠れようも無い悲しみをイヤでも感じ取り、押し黙った。
 客達も顔を見合わせ、話の展開の移りように口を噤む。
 ティファは、仲間が何を話そうとしているのか察知し、止めようとした。
 ヴィンセントがこれから話すことが、彼の古傷を抉る行為だと分かったからだ。
 しかし、ヴィンセントはティファに視線を送ることで彼女を制すると、再び男に向き直る。

「私は何も彼女にしてやれなかった。見守る事が彼女の幸せだと信じていたから…。しかし、彼女の相手であるその男のことをよくよく考えてみたら、彼女に釣り合う様な男ではなかった。それなのに……私はその事実から目を背けた。丁度、今のお前のように保身に走ったからだ…」

 誰も何も言わない。
 誰も……何も言えない。

 ヴィンセントがこれ以上ない程、彼にとって大切で…侵しがたい『事実』を話しているのだと悟らざるを得なかったから…。
 いつしか、セブンスヘブンの雰囲気を左右する主導権は、イヤリングを贈った男からヴィンセントに移っていた。

「しかし…お前はどうだ?ティファの相手がクラウドでは不足だと考えているのか?」
「…そ、それは…」
「では、自分の押さえがたい気持ちをぶつけるために、今回の騒動を引き起こしたのか?ティファがどれほど迷惑を被るか……傷つくか考えもせず、ただ自分の気持ちだけを優先させたのか?」
「…い、いや…その」
「それとも何か?『酒場の女』という世の中の『考え』でティファを一くくりにして、『ティファ自身』を見ていなかったとでも言うつもりか?」
「…………」

 一体、この男に何が言えよう…?
 まさに図星。
 自分の気持ちを一方的に押し付け、拒絶される可能性がある事を充分に承知しながらも、いざ実際に拒絶されたらされたで、その現実を受け止めるだけの度量が無く、自尊心を守る行為に走った。

 そして…。

 いかにも自分は『悲劇のヒーロー』であるように演出し、店内の客達を味方につけてティファを追い込もうとしたのだ。

 男は俯き、黙って懐にジュエリーケースをしまうと、
「……ごめん、これ、お代ね」
 そう言い残してカウンターの上にギルを置き、声をかけられる前に店を後にした。





「ヴィンセント…」
 閉店した店内で、カウンターに腰掛けているヴィンセントにティファはそっとウイスキーの入ったグラスを差し出した。
 黙ってそれを受け取り、口に運ぶ寡黙な仲間に、
「本当に…今日はありがとう…」
 隣のスツールに腰掛け、軽く手を上げた。
 その手にはしっかりとカクテルの入ったグラスが握られている。

「構わない。実はクラウドから頼まれていてな」
「クラウドから!?」

 思いがけないその言葉に、危うく口に含んだカクテルを吹き出しそうになる。

「ああ。暫く帰宅出来ていないから、子供達とティファが心配だ……そう言っていた。それで、時間があるなら自分の代わりに様子を見てくれないか……とな…」
「………そうだったの…」
「ああ。最初は何の為の携帯電話なのかと思ったが、来てみて納得した。ティファは困っている時でも自分一人で何とかしようとする悪癖が改善されていない……とな。来て正解だった」
「…もう…!」

 口を尖らせて頬を染める仲間に、ヴィンセントはフッと笑みを漏らした。

「ティファ、たまにはクラウドに甘えてやれ。そうすればあいつも少しは安心するだろうし、子供達も喜ぶ。それに…」
「……『それに』…?」



「甘えられる相手がいるというのは……本当に幸せなことだ。その幸せは、失ってから気付いても…遅いんだから…」



 遠い眼差しをするヴィンセントの横顔に、ティファは身の引き締まる思いがした。

 どんな気持ちでこの言葉を自分に語ってくれているのか……。
 その事を思うと、切なくて……悲しくて……胸が一杯になる。

「うん……ありがとう……」



 真っ直ぐ見つめて応えたティファに、ヴィンセントは満足そうに目を閉じた。

 そんな仲間の姿にティファは願わずにはいられなかった。



 彼に、自分達のような幸福が訪れん事を…。



 そして、その願いがほんの少し叶えられたのは…。

 半年ほど経ってから…。



 あとがき

 なんとなく、あんまり書いたことの無いカップリングを書きたくなりました(笑)
 ヴィンセントはずっと、辛い思いをして過ごしてますよね。
 それが、ようやくDCで少し報われた…。
 あのエンディングには物凄く感動しました!!
 それに行き着くまでの彼の姿を少しだけ書いてみたくなったんですが…。
 見事の撃沈!!
 本当に………ヴィンセントファンの皆様、ゴメンナサイ!!(逃走)