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幸せを感じる時は沢山ある。 沢山眠って清々しい朝を迎えたとき。 美味しいものを食べているとき。 綺麗な景色を眺めているとき。 そして、愛しい人が笑ってくれたとき…。 小さな幸せを積み重ねて…。「いつも楽しそうに仕事をしているね」 ティファがよくかけられる言葉の一つ。 それは、純粋に感じ入ってくれている言葉であったり、やっかみだったり。 だが、たとえやっかみの場合であっても、事実楽しくて仕方ないのだからさして気にならない。 お客さんの笑顔、美味しそうに食べてくれる姿、「美味しいよ」と言ってくれるその言葉。 数え上げたらきりが無いし、そしてそれらは本当に些細なこと。 ティファは些細なことでもすぐに己の中で喜びにしてしまう。 綺麗に食事を平らげてくれただけでも、やはり嬉しいのだ。 嬉しいというのは幸せということ。 そして、仕事をしていて一番嬉しいことは、客に容姿を褒められることでも、料理が美味しいと言ってくれることでも、笑顔で全部の料理を平らげてくれることじゃない。 子供達が生き生きと仕事をしている姿、その成長ぶりを傍らで見れること…。 これほど嬉しいことがあるだろうか? まだ幼い子供達が手伝うにはいささか問題があると、世間から見たら思われる店で、子供達が一人前に仕事をし、しかも仕事に責任感を持って当たっている。 表情は輝き、笑顔が絶えない。 極々たまに、イヤな客が来て子供達に危害を与えようとすることがある。 その時は、常連客達も一丸となって子供達を庇い、常連客の背の後ろから子供達はティファの勇姿を見ることになるのだ。 もっとも、最近では全くないのだが…。 自分は本当に幸せだ…と、ティファは思う。 過去に犯した罪を思うと、過ぎた幸福だと感じずにはいられない。 しかし、またこうも思う。 星に還った友人に会うその時、これほどの土産話は他にない……と。 彼女はきっと、両腕を広げて迎えてくれるだろう。 温かな深緑の瞳を悪戯っぽく光らせて、自分の話しに聞き入り、時には鋭く、時には笑いながら相槌を打つだろう。 そして、そんな彼女の傍らには『彼』の大切な親友がいるはずだ。 二人に会うのが楽しみになるように…。 沢山の自慢話を土産に持っていけるように…。 そうして、ふと思う。 自分はあとどれくらい、子供達の成長を見守ることが出来るのだろうか…と。 まだまだ身体は健康だし、近い将来どうにかなってしまうとは考えにくい。 しかし、『一寸先は闇』という言葉もあるように、本当にどうなるかは分からない。 WROの局長をしている仲間は、不慮の事故にて部下を亡くす…という経験を持っている。 そして、その経験は目下、更新中だ。 実に悲しむべき現実。 しかし、それを『現実』として自分は受け止められているのだろうか…? 『自分は大丈夫』『まだまだ元気』『モンスター類にやられるほど腕は落ちていない』 などと無意識に考えてはいないだろうか? いや…考えている。 無意識ではなく…そう自負している自分がいる。 認めるのは構わない。 しかし、それが『油断』に繋がったとしたら目も当てられない。 それこそ、星に還った友人が一体なんと言うだろう? こっぴどく怒られるのは目に見えている。 『あ~…きっと、すっごくすっごく怒るだろうなぁ…』 軽くウェーブのかかった茶色の髪を逆立てる親友を想像し、一人吹き出した。 そんなティファに常連客がおかしそうに声をかけた。 「なにさっきから百面相してるわけ?」 「あら、見られちゃいました?」 ちょっと照れながら、否定しないティファに客は笑う。 「ずーっと熱い視線を送ってたのに気づかないだなんて、なに考えてたの?」 ティファはイタズラっぽく肩を竦めて口を開いた。 が、それを遮るように常連客が手を軽く上げた。 『ストップ』のポーズだ。 「わ~ってるよ、どうせ旦那のことでしょう?」 苦笑する常連客に、ティファは微笑みながら首を横に振る。 客は目を丸くした。 「ふふ、違うんですよ」 「え、じゃあ何?」 「内緒です」 「え~…気になるじゃん」 「ふふ」 笑いながらその客に背を向ける。 「教えてくれよ~」という声にクスクス笑いつつカウンターに戻り、注文の品を作る。 笑顔で仕事をするティファに、カウンターのスツールに座ることが出来ていた幸運な客達が見惚れる。 ティファは実に手際良く仕事をする。 本当なら、こんなに注文が殺到し、作る人間が一人しかいない店ではもっと滞るはずなのに、それがない。 勿論、多少は他の店に比べて注文してから料理が客に運ばれるまでの時間は長くかかっている。 しかし、それでも調理する人間が一人であることを考えると、とても早い。 そして、美味しい。 決して手は抜かない。 それが客には分かる。 だから、リピーターが増えて常連客が出来ていく結果になっているのだから。 ティファは客達のそんな気持ちに応えるかのように、いつも愛想よく、温かい雰囲気で客を迎える。 心身ともに満足させるセブンスヘブンの店長は、人気が高い。 デンゼルとマリンの二人も客達にとってはポイントが高い。 まだ幼い子供が手伝っていることに、最初はほとんどの人間が抵抗を感じる。 やはりアルコールの出る店で子供が働いているのは悪印象だ。 だがしかし、それもすぐに払拭される。 子供達の明るい表情を前にすると、すぐに真実に気づけるのだから。 子供達はイヤイヤ仕事をしているのではない…ということに…。 「ティファちゃん、幸せそうだねぇ」 カウンターの客が声をかけた。 子供達が丁度カウンターに空いた皿を下げに戻ってきていた。 ティファが嬉しそうに子供達に礼を言っている姿に、つい声をかけずにはいられなかったのだろう…。 ティファは笑った。 「ええ、とっても幸せですよ」 二人の天使の頭に手を置いて微笑んだティファに、客は目を細めた。 自分のことではないのに、彼女の微笑を見たらついつい釣られて幸せな気分になってしまう。 この店長はそんな素晴らしい資質があることを、自分自身では気づいていない。 そして、それがまたティファという女性の魅力の一つ。 客達は口元を綻ばせた。 セブンスヘブンの常連客達は層が厚い。 ヒョロリとした体型の『頭脳派』タイプから、強面の『体力派』タイプ。 年齢の面でも、やっと酒が飲める歳になれた『初々しい青年』から、数年前に定年を迎えてしまった壮年まで。 更には男女関係なく客としてやって来ている。 どちらかと言うと、どうしても男性客の方が多いのだが…。 ティファはよく笑う。 子供達もよく笑う。 その笑顔に、一日の疲れを癒され、美味しい料理で空腹を満たされ、また明日、頑張る力をもらって客達は帰る。 実に小さな幸せ。 ひと時だけの、小さな小さな幸せだ。 その小さな幸せを胸に灯し、客達は帰る。 そして…。 ティファと子供達も、客達から小さな幸せをもらって生きている。 笑いかけて笑ってもらえると嬉しい。 料理を全部平らげてもらえると嬉しい。 『美味しい』と言われるともっと嬉しい。 『また来るね』と言われると、本当に嬉しい。 また明日、頑張って店をオープンさせよう! そう思える力を与えられて、一日を終えられるのが本当に幸せだと思う。 『エアリス…ザックス。私、今日も幸せだよ』 心の中で語りかけながらティファは働く。 なにがどう幸せ…とは言いにくいかもしれない。 具体的に『これが嬉しかった』『あの時、本当に幸せだった』と上げていくと、自身が今、感じている幸福感と比較して見ると意外に少ない。 しかし、その『具体的に上げると意外に少ない』幸せが、沢山積み重なって、今の大きな幸福になっている。 きっと、『彼女』と『彼』は分かってくれるだろう…。 あとは、星に還るその瞬間まで、胸を張って生きていくだけ。 そうしたら、きっと彼女達は諸手を広げて迎えてくれる。 満面の笑みで『頑張ったね』と褒めてくれるだろう。 その時を描き、ティファは口元を緩めた。 「ティファ、『あったか定食』追加な!」 「は~い、ちょっと待ってね!」 花が咲くような笑顔でティファは今夜も働く。 * 「本当にティファったら真面目なんだから」 「それが良いんでしょ?」 「ふふ、まぁね」 深い…深い命の流れにて、二人の魂が囁き合っている。 雄大な生命の流れ…ライフストリーム。 二人は、既に己の役目を終えた。 だから、いつでも星の流れに溶けてしまっても良かったのに、二人はそうしない。 いつか来る、『その時』を出迎えるために…。 「それにしても、クラウドはなにしてるのかしらねぇ。朴念仁にもほどがあると思うんだけど…」 「ま、アイツらしいっちゃあアイツらしいんだけどね」 「それにしても、今回は本当に酷くない?もう二週間なのよ?」 「本人が一番堪えてると思うから、そこはあえてそっとしてやって欲しい…と言うのが、友達である俺の意見なんだけどね」 二人の目の前には、セブンスヘブンで明るく働いているティファの姿と、この二週間、エッジからは遠く離れた場所で黙々と働いているクラウドの姿があった。 命の流れであるライフストリームからは、星のすべての大陸が見渡せる。 ティファと子供達が幸せそうなのに対し、クラウドは不幸せ真っ只中だった。 「本当にクラウドったら不器用なんだから…」 溜め息を吐くエアリスに、ザックスは苦笑しながら髪をかき上げた。 「ま、それがアイツの良い所でもあるんだし」 「そうかしら…。今回は『長所』とは言えないと思うわ」 口を尖らせるエアリスに、ザックスは軽く両手を上げた。 『降参』のポーズだ。 だがしかし、二人の瞳は温かい。 口ではちょっぴり冷たいことを言っていても、本心からではないし、何より愛情がこもっている。 「クラウド、あのお客さん、どうするのかしら」 金髪の青年が心底困った顔をして、十代後半と思しき少女に何やら言っている。 必死に説得している…ようにも見えないことはない。 「俺なら、紳士らしく『愛しい恋人がいるので、麗しいキミの相手は出来ない』って言うけどなぁ」 「ザックス…」 「おっと…冗談、冗談」 「…本当かしら…」 「本当だって。お、それよりも、クラウド、ピーンチ!」 「もう、すぐそうやってごまかそうとするんだから。でも、本当にピンチね」 積極的 且つ 自分に自信があるらしいその少女は、自室に招いたクラウドににじり寄るだけでは止まらず、自身の服に手をかけて脱ぎ始めている。 クラウドが青くなったり赤くなったりしながら、必死にやめさせようとしている。 「…クラウドったら…」 心底困りきった顔をしている青年に、エアリスは苦笑した。 「本当にアイツ、罪作りだよなぁ…」 ザックスも苦笑している。 「どうして今回の配達の依頼、終ってすぐに帰らなかったのかしらね」 「そりゃ、真夜中だった上に雨が降ってたからなぁ…」 「でも、たとえ雨が降ってても、真夜中になってても、振り切って帰るべきだったわよね」 「アイツもきっと、それを猛烈に後悔してるよ…」 苦笑する二人の前では、クラウドがとうとう泣き出してしまった少女をどう扱って良いのか分からず、顔面にびっしりと汗をかいていた。 少女を抱きしめて慰めるなど論外だが、だからと言って気の利いた台詞を言えるはずもなく、ただひたすらアワアワと立ち竦んでいる姿は、なんとなく……涙をそそる。 「ダメねぇ…やっぱりどこまでいってもクラウドはクラウドね」 「そりゃなぁ…、いきなり女性慣れしてても引くだろう…?」 「まぁ…そうなんだけど…」 この二週間。 この愛すべき朴念仁は、配達として訪れた邸宅の主人達に、次々に依頼をされていた。 チョコボファームで最近話題となっている『チョコボ饅頭』を買ってきてもらいたい、とか、コスタで有名な富豪に贈り物を届けて欲しい…など。 荷物の配達がクラウドの仕事。 という訳で、断る理由が無かったのだが、それにしても大変忙しい二週間だった。 クラウドが目の前の少女とその家族に散々振り回された姿を見ていた二人は、いい加減、腹が立つやら、呆れるやら…、友人として、少女とその家族に怒りも通り越してしまっている心境だった。 この邸宅の人間が、クラウドを帰したくないのはもう明らかだ。 クラウド自身、それを感じ取っているからこそ、必死になって脱出を試みて…。 今回のようなピンチに陥っている。 仕事で縛ることが出来ないなら、色仕掛けで!という発想は、なんとも陳腐だが、それなりに少女もその親も必死なんだろう…。 「もういっそのこと、殺気ガンガンに飛ばして振り切っちゃったら良いのにね」 「それはそれで、後々問題になるんじゃないか?」 「でも、今でも充分問題じゃない?何しろ、鍵のかかった部屋にうら若い女性が半裸で泣いてるんですもの」 「ま、そりゃそうだ」 「それに、もうそろそろティファも可哀想でしょ?いくらなんでも、クラウド一人が寂しいんじゃないんだから。電話だけでの交流なんて、寂しさを増徴させる頃じゃない?」 「…正論だな」 「ま、仕方ないか…。無下に断れないクラウドもクラウドなんだから」 「はは、確かにな」 クスッと笑い合って二人は手を伸ばす。 真っ直ぐ、クラウドの方へ…。 「こ~んなことで助けてあげるのは今回だけよ?」 「この二週間の穴埋め、しっかり頑張れよ?」 エメラルドグリーンの光が穏やかな川のように流れ出す。 それは、優しく優しく、クラウドと少女へと向かっていった…。 * クラウドは背後で『カチャリ』と鍵が開いた音を確かに聞いた。 思わず驚いて振り返る。 キーー…。 ドアが開いた。 信じられない思いでドアを見つめる。 少女は、ドアが開いたことにはまだ気づかない。 「隠しカメラで撮ってるんだから、クラウドさんは絶対に私から逃げられないのよ!」 泣きじゃくりながら必死にそう言い募る少女の声は、もうクラウドには届かない。 クラウドは少女へ視線を走らせると、 「悪いけど、もう限界だ。仕事も終ったし、帰らせてもらう」 必死に縋ろうとする少女をすり抜け、開いたドアから脱出した。 その直後、何やら『ボンッ!』という軽い爆発音が聞えた気がしたが、足を止めることは出来ない。 「なんでドアが開いてるの~!?」 「きゃ~!!隠しカメラが~!!」 「う、うぉおお!?今までの盗撮が~~!?!?」 「「「 クラウドさん、待ってー!! 」」」 少女の泣き叫ぶ声と、少女の両親の悲鳴を背に受けつつ、クラウドはあっという間にその邸宅を後にした。 * 「全く、世話が焼けるわね」 「ま、それがアイツの可愛い所なんだけどな」 「ふふ、ザックスったらお父さんみたいね」 「あんな大きな子はいないね」 「…小さい子ならいるわけ?」 「なんだってそこで揚げ足を取るかな…」 「ふぅん…否定しないんだ~」 「拗ねるなよ、いるわけ無いだろ?俺にはずっと好きな奴がいるんだから」 「…本当かしらね?」 「なんで信じてくれないかね」 「ふふ…冗談」 「はは…分かってる」 甘えるように寄り添う二人の目の前には、愛車を必死に走らせているクラウドの姿。 その顔は、必死…なのだが、目は輝き、口元には薄っすらと笑みが浮かんでいる。 ようやく家に帰れるのが嬉しくて仕方ないんだろう…。 「お~お~、嬉しそうにしちゃって」 「ふふ、クラウドったら、スピード出しすぎて操作誤りして『こっち』に来る事になったらどうするつもりかしら」 「ま、そん時はこの前みたいに追い返したら良いんじゃね?」 「まったく…やっぱり世話が焼けるわね」 そうしてエアリスとザックスは穏やかに抱き合いながら、そっとライフストリームの流れに身を委ねた。 少しずつ、二人はその形をなくし始める。 だが、完全に溶け込むわけではない。 大好きな親友達が、その命を全うした時、笑顔で出迎えたいのだから…。 「良かったな…」 「うん…ティファも幸せそうね…」 「アイツらが来た時、沢山『幸せ自慢』をしてもらわないとな」 「ふふ、私達も…ね」 「ん?あぁ…そうだな。『ずーっと見てたんだぜ?』ってな。クックック、ビックリするだろうなぁ…」 エアリスとザックスは微笑みながらスーッと目を閉じた。 二人が最後に見たのは、セブンスヘブンに汗まみれで帰り着いたクラウドが、ティファの泣き笑いに出迎えられて、幸せそうに口付けを贈っている姿…だった。 「幸せになれ」 「幸せになってね…」 「小さくても良いから、沢山幸せの話しを聞かせてくれ…な」 「楽しみにしてるから…ね…」 小さな幸せ。 沢山沢山あれば、それは大きな幸せに育ってくれるかもしれない。 そうであるよう願いつつ。 二人はゆるゆると眠りに身を委ねた。 あとがき なんとなくほのぼの路線を…。 とか思ってたんですけど、やっぱりありがちなネタになっちゃいましたね。 クラウド、本当にヘタレてる…(涙)。 カッコイイクラウドってどうやって書いたら良いのか分からない…(ドーン!!) こんな話しになりましたけど、少しでもお暇つぶしになれば嬉しいです♪ |