珍客来店・珍騒動!いつもワイワイと賑やかで楽しい『セブンスヘブン』。 俺は今夜、彼女と一緒にこの店にやって来ていた。 エッジの街で彼女と出会って、付き合うようになってからよく来るようになったお店。 あんまり金もないし、女連れで気軽に飲みに来れるような店って、実はエッジにあんまりないんだよな。 だから、この『セブンスヘブン』という店は、まさに俺と彼女の為にあるようなもんだ。 安い料金で物凄く美味い料理と酒を出してくれるこの店は、言わばエッジにいる人間の心のオアシスのような存在だな、うん。 彼女もかなりこの店が気に入ってて、大概夜に会う時はこの店で会う様になっている。 とにかく、この『セブンスヘブン』って店は良い! 看板娘は可愛いし、看板息子は小生意気だけどそれでもやっぱり良い子だし、それになにより女だてらに店を切り盛りする女店長が…これまた稀に見る美人ときてる。 もう……俺の彼女もかなり可愛い方だと思うけど、その彼女自身が『ティファさんって本当に美人よねぇ』とうっとり見つめるくらいなんだ。 同性にここまで羨望の眼差しで見つめられるくらいなんだぞ? 男の俺がそんな女店長に憧れないはずがないよな!? え? オマエには彼女がいるだろうって? 分かってるよ、そんな事は!! アレだ、『恋愛』と『憧れ』は別もんなんだよ。 俺の愛情は今の彼女に注がれてるんだから、問題ないんだ!! それに、言っとくけど俺だけじゃないんだからな! 彼女だって、『憧れの人』が俺以外にいるんだ!! あ、ほら。 彼女が頬を染めて、潤んだ瞳をジッと向けてるだろ!? 彼女の視線の先には、水色のエプロンを身に着けたすっげー色男。 癖のある金髪、切れ長の碧眼、すっと通った鼻筋を中心に完璧に整った顔のパーツ、おまけに引き締まった体躯…。 同性の俺でも、あの瞳で見つめられたらちょっと危ない気持ちになっちゃうよな……。 彼…クラウド・ストライフは、この店の女店長の恋人であり戦友。 もう……これ以上ベストカップルはないだろうな……俺と彼女を除外して。 「こんばんわ、いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」 何となくぎこちない台詞を口にして、クラウドさんが俺達のテーブルに注文を取りに来た。 普段は荷物の配達を生業としているクラウドさん。 この店を手伝う事が出来るのは、一ヶ月に数日あるかないかだ。 そのせいだろう、子供達の方がかなり接客業が身に付いてる。 ま、きっと元々人付き合いが苦手なんだろうなぁ…。 未だに、顔馴染になった俺達二人を前に、少し緊張してるし。 そんなクラウドさんに、俺と言う彼氏がいるにも関わらず、俺の彼女はうっとりした目を向けて、「あ、はい。それじゃあ…」な〜んて可愛い声を出してやがる…。 たまには俺にもそんな甘えた声で話しかけてくれても良いんじゃないか!? ………ま、気持ちは痛いほど良く分かるんだけどさ…。 そんなこんなで、俺達二人はいつものようにセブンスヘブンで美味しい夕食を食べ、話に花を咲かせ、時折女店長とその恋人にうっとりとしながら楽しい一時を満喫していた。 いつもなら、もうそろそろ帰える時間になった頃。 俺達がこの店に来てから何度目かのドアベルが鳴った。 人気店だからな。 色んな客が来て当たり前さ。 俺も彼女も、この店に通うようになってから本当に色んな客を見てきたよ。 強面のおっさんとか…。 ちょっとヤバそうな笑みを浮かべたヒョロヒョロした男とか…。 そうそう!物凄く高級なスーツを着て、手に抱えきれない程のバラの花束を持ってきたバカ男もいたな…。 ご丁寧にボディーガード付きでさ〜。 あれにはビビッたけど、その日は運悪くクラウドさんが早く帰宅した日でさ。 そりゃあもう……筆舌し難いな……あの時の状況は……うん。 でもさ〜。 今夜来た客二人は、その『珍客達』の中でもトップを競うんじゃないか…? 一人は真っ赤な髪をしてて髪の襟足部分を一つに括ったひょろっとした感じの男。 もう一人は見事なまでの……つるっぱげ…。 おまけに、もう夜なのにグラサンかけてるんだぞ? 絶対にどっか変だっつーの!! 更には、二人共揃いのスーツ着てるんだ。 まぁ、赤毛の方はスーツを着崩してて、何だか妙にそれが似合ってたりするんだけどさぁ、つるっぱげの方がなぁ…。 きちっと最後までカッターシャツのボタンを留めてネクタイ締めてるから、何かもう……かなりヤバイ奴!!って感じがするんだよな。 俺も彼女も、その二人が店の戸口に現れた瞬間、口に含んでた食べ物を危うく拭き出すところだったぜ…。 危うく、勿体無い事をするところだった……良かった……。 じゃな〜い!!! そんな事は良いんだよ!! 問題は、その『珍客』二人が店に入って来た途端、クラウドさんがビシッと固まって信じられない者を見た〜〜…と言わんばかりの顔をしてさ。 その表情…今まで見た事なかったから『あ〜、こんな顔もするんだ……』って妙に感動したりして…。 いやいや、話がまた逸れた。 クラウドさんは思い切り動揺してるのに対して、女店長と看板娘、おまけに看板息子は陽気に 「あら?久しぶりね!」 「あ〜!久しぶりです!」 「あ!!久しぶりじゃんか!元気してた?」 と、実に気さくに声をかけている。 「よ〜!久しぶりだなっと!!元気そうで何よりだぞっと!!」 「…………」 「お〜、それにクラウド、お前も中々似合うじゃないか〜エプロン姿。こりゃ、写メールしとかなきゃなっと!」 「…………」 なんなんだ…? この二人組み。 一人は話しの語尾に『〜だぞっと』とかわけの分からない言葉をつけてるし、つるっぱげの方は何にも言わないし…。 あ…。 クラウドさんがすっげー怖い顔して赤い髪の男の携帯取り上げた…。 うっわ〜〜。 さっきまで固まってた人間の動きじゃねぇな……。 流石『ジェノバ戦役の英雄』…。 ただ者じゃないぜ。 って言うか、あんなに睨みつけられても飄々としてるあの二人組みもすげ〜。 赤い髪の男なんか、 「そんなに怒るなよ〜、ホンノ冗談だったんだぞっと!」 とか言いながら、笑ってクラウドさんに飛びつくようにして携帯を取り返そうとしてるし…。 つるっぱげはさっきから何にも言わないけど、ひたすら目の前にやって来た女店長の方を向いてて、連れの赤い髪の男が騒いでることなんか我関せず……だし…。 いやいや……。 それよりも何よりも、店中の視線を一身に集めてるって自覚が全くないのが凄い! 俺なら、恥ずかしくて即行出て行くね…彼女連れて…。 「何しに来たんだ…」 クラウドさんが低い声で二人を睨みつけた。 「そりゃ〜、この店に来たって事は食事に来たに決まってるんだぞっと!」 「…………」 ヘラヘラ笑いながら赤い髪の男が応え、つるっぱげはやっぱり無言。 クラウドさんは何故かかなり警戒している。 ビリビリした空気をイヤってほど感じるんだけど……。 「もう、クラウド。ダメよ、お仕事中にそんな喧嘩腰になって…」 ティファさんがやんわりとそんなクラウドさんを窘め、『珍客』二人にニッコリ笑いかけた。 「どうぞ、生憎カウンター席しか空いてないけど」 「おお〜!それは願ったり叶ったりだぞっと!なぁ、ルード?」 ニヤ〜ッと笑って、赤い髪の男がつるっぱげ……ルード…?…の肩に肘を乗せた。 ルードと呼ばれた男は、相変わらず何にも言わないけど、猛烈に首を縦に振っている。 ………よっぽどカウンター席が嬉しいんだな……。 って言うか、カウンター席って俺達のテーブルの目と鼻の先じゃんか!! そんなヤバそうな二人が俺達のテーブルの近く…。 すっげ〜面白そう!! ふと彼女を見ると、彼女の目も輝いてる。 黙って頷き合って……。 観察開始!! ちなみにカウンター席に案内されて嬉しそうな二人に、クラウドさんがもう…これ以上はないくらい顔を歪めてイヤそうにしてる…。 へぇ……そんなにあの二人がイヤなんだ…。 っていうかさ。 そんなにイヤそうに顔を歪めても、それでも男前だなんて、何か世の中不公平じゃないか? 「もう…クラウドったら。ルードもレノも、今夜はお客様なんだからダメだよ?」 「そうそう!ホラ、頑張れクラウド!あの二人はそこらへんに転がってるジャガイモと思ったら接客も出来るよ!」 背中に物凄く不機嫌オーラを背負っているクラウドさんに、子供達が一生懸命慰めたり励ましたりしてるけど…、何かデンゼル君……君の例えは間違えてないかい!? 『ジャガイモ』相手に接客業なんかしないだろう…普通…。 「そうだな……あの二人はジャガイモだ…。そう…ジャガイモ……」 ブツブツ呟いて自分に言い聞かせてるよ、クラウドさん……。 ってかアンタ、気付けよ!! 『ジャガイモ』相手に接客業っておかしいじゃんか!!!! 「何か……今夜のクラウドさんって本当に可愛いわよね」 心の中で一人突っ込んでる俺の目の前で、彼女が頬を染めながらクラウドさんをうっとりと見つめてる。 アホか…お前……。 いや、マジでおかしいだろ!?!? そこ、うっとりするところじゃないだろ!?!? なにか!? 俺の感覚がおかしいのか!?!? 「ほら、クラウドお願い、手伝って!」 カウンターの中からティファさんがブツブツ呟いてるクラウドさんに声をかけた。 店の中は、いつの間にか結構忙しくなっていた。 こんな短時間の間に注文が殺到してる…。 ハハ…、店の連中の魂胆は分かってるんだ。 あの女店長が、『珍客』二人に対して、特別親しくしたのが気に入らないんだ。 だから、極力彼女と『珍客』が接する時間を減らそうって画策してるんだよ…。 それも、無意識に連係プレーとってやがる……。 恐るべし…男の嫉妬…。 クラウドさんは、ティファさんの声に我に返ったらしい。 慌ててカウンターへ戻る途中で、慌て過ぎてテーブルの角で足をぶつけてよろめいた。 そのテーブルに着いてるお客さん達に頭を下げてるクラウドさんを、ティファさんがカウンターの中で苦笑しながら見つめてる。 そのテーブルのお客さん達も、笑いながら「大丈夫」と手を振ってる。 全然迷惑そうでも、イヤそうでもない。 むしろ嬉しそうだ。 そのテーブルのお客達は全員若い女性だから…。 滅多に接する事が出来ないクラウドさんの方からぶつかって来たんだから、喜びもするだろうな…うん。 「お〜、相変わらずお前はどこでもモテモテだな〜っと」 そんな様子を一部始終見ていた赤毛の男が、カウンターのスツールの背もたれに顎を乗せてニヤニヤ笑っている。 隣では、ルードとか呼ばれていた男が、きっちり前を見て…正確にはカウンターの中で忙しく働いている女店長の方を向いて座っていた。 少々顔を赤くしながら、ムスッとした顔でクラウドさんがカウンターへ戻って行った。 あの赤い髪の男にからかわれたのが癪に障ったんだろうけど、たった今、子供達にも注意された手前、文句を言えないジレンマに陥ってるんだ。 うん。俺には良く分かるよ…。 ティファさんは相変わらず手際良く次々と料理を仕上げ、それを看板娘とクラウドさんに渡していく。 マリンちゃんとクラウドさんは、それを各テーブルに運びながら、カウンターへ戻る途中でお客さんに引き止められて新たな注文を受けたり、空いた皿を下げたり…と、仕事は尽きる事がない。 看板息子は店の奥で洗い物をせっせと片付けてるんだろう……。 ホントに、この店の住人達の働きっぷりには感服するよ。 俺も頑張らないとなぁ…!!ってマジで思う。 いつもなら、そんな満ち足りた気持ちになって、彼女と一緒に店を後にするんだけど……。 例の『珍客』の来店のお陰で、もう少し長居したくなってきた。 無言で彼女を見ると、何か言いたそうな彼女の視線と俺の視線がバッチリ合った。 観察続行決定!! という訳で、早速新しい注文を頼む事にした俺達は、忙しそうにしているクラウドさんを呼び止める事に成功する。 彼女と俺は、食後と言う事もあってデザートを頼む事にした。 「ミックスジュースをお二つですね?」 確認をするクラウドさんに、コックリ頷き、俺達はカウンターへ戻っていくクラウドさんの後姿を見送った。 このご時勢で甘いものってあんまりないんだよな。 でも、セブンスヘブンには店長オリジナルのミックスジュースがあってさ。 これがまぁ、いわゆる食後のデザートになるわけだ。 カウンターに戻ったクラウドさんに、既にお酒がいくらかはいったらしい赤い髪の男が「おお!お前、本当にちゃんと接客業が出来るんだなぁっと。お兄さんは感動したんだぞ〜っと!」と、絡んでいる。 おいおいおい!!! 兄ちゃん、お前命知らずだな!! いやいや、ティファさんも笑って見てないで引き剥がした方が良いんじゃないのか!?!? ほら、クラウドさんの顔…モンスターも青くなって逃げ出すぞ……。 ハラハラしながら見守っていると、彼女がそっと顔を寄せてきた。 「何か……良く分からないけど、あの『二人』ってクラウドさん達の……友達…?」 「いや、あり得ないだろ…?あんなに嫌がってるじゃん、クラウドさん…」 「うん…でも、嫌がってるのって……クラウドさんだけだよね…?」 「…そうみたいだな…」 うん。 少なくとも、赤い髪の男に対して、デンゼル君は好意的だな。 さっきから何かとちょろちょろ周りをうろついてるし…。 マリンちゃんも、何だかんだ言いながらも、話しかけたり空いた皿をすぐに下げたり甲斐甲斐しく接してるし…。 何より、ティファさんが穏やかな顔をして二人を見ている。 俺達常連客達に見せる『顔』とは明らかに違う『顔』は、クラウドさんや子供達に見せる『顔』とも違うんだけど、それでもとてもゆったりとした表情。 丁度、家族に見せる『顔』と常連客に見せる『顔』の中間みたいな感じかな……? いや、良く分かんないんだけどさ…。 「それにしても、今夜は本当に珍しいわね。お仕事、お休みなの?」 ティファさんが『珍客』二人に声をかけている。 店中の客が一斉に聞き耳を立てた気配がする…。 「いや〜、俺達はこれでも仕事帰りだぞ〜っと。んでもって、明日が休みだから、こうして遅くまで飲んでても大丈夫なのだな〜っと」 「…………」 グラサンの男は、一言もしゃべらないけど、赤い髪の男の言葉にコックリと一つ頷いた。 「それにしても……まさかこんな日が来るなんてね」 どこか懐かしそうな顔をして、ティファさんがちょっと遠い目をした。 「何がだぞっと?」 「ん?」 口許に優しい笑みを湛え、ティファさんがそっと店内の一角に目をやる。 そこには、彼女の恋人が懸命に接客業をしている姿。 「ああ…、あの無愛想人間が接客業をこなせるようになった事かっと」 妙に訳知り顔で赤い髪の男がウンウンと頷く。 その隣で、やっぱり一言もしゃべらないでルードって奴が一つ大きく頷いた。 何故かその瞬間、クラウドさんがギンッ!とカウンターを睨んだ気がしたんだけど……。 こんなに騒がしい店内でまさか今の会話が聞えてた……なんてあり得ないよな…!? 「違うわよ。こうして『何でもない風にお店に二人が来て、それを私とクラウドがもてなしてる』ことよ」 ティファさんの温かな声音がやんわりと赤い髪の男の発言を否定した。 「あ〜、そりゃまぁ、確かにそうだなっと。あの頃は、お互い『敵同士』だったわけだし」 …………。 ……………。 ……………はい!? 今、赤い髪の男がさらりと爆弾発言投下したんだけど!?!? 目の間の彼女に目をやると、彼女もぎょっとした顔をしてる。 おまけに何人か聞き耳立てていて、盗み聞きに成功した客達も同様に顔を見合わせたり、固まったりしてるし。 って事は、俺の聞き違いじゃないんだ…!! おいおい、これっぽっちも穏やかじゃねえよ、話の内容が!! 「それにしても、ティファはあの頃と現在の気持ちの切り替えがちゃんと出来てるって言うのに、あんたの旦那は未だに俺達を敵視してるってのがな〜。全く成長しない男だぞっと」 「放っといてくれ」 「うお!いつの間に背後に!!」 上機嫌でぺらぺら話してる男に、クラウドさんが氷点下の声でグサリと突き刺した。 流石にびっくりしたのか、赤い髪の男がスツールから転げ落ちそうになる。 隣のつるっぱげは……相変わらずグラサンかけたまま女店長の方を向いてて全く動揺してない。 って言うか、もしかしてさ〜。 あのグラサン男、ティファさんのこと……。 でも、昔は敵同士だったんだよな。 て事は、その頃から想ってたりして……。 そうだとしたら……なんて一途な片想いだ!! ……全く外見と似合ってない所が何故か笑いを誘うんだが……。 「もう、クラウドったら」 穏やかな微笑を湛えてクラウドさんを労わるように…それでいて小さな子供を窘める様に声をかけるティファさんに、それでもやっぱりクラウドさんはブスッとした表情を崩さなかった。 ま、いつもポーカーフェイスだからあんまり変わんないんだけどね。 あ……でも、グラサン男が何か言いたそうにクラウドさんを見てる。 うん。ありゃ、嫉妬だな。 それと羨望。 グラサンかけてるからどんな目をしてるのか分かんないけど、全身から滲み出てる悲しみのオーラで良く分かるよ。 おっさん、アンタも辛い片恋してるんだな…。 「もう俺達は敵じゃないんだから、仲良くやろうぜっと」 「……俺は仲良くしたくない」 「…お前、ほんっとうに可愛げないぞっと」 「それこそほっといてくれ」 「ティファ〜、こんな無愛想男のどこが良いんだぞっと。世の中広い!もっといい男がホレ、ここにも、そこにも、あそこにも〜…いるんだぞっと」 さり気なく隣に座ってるつるっぱげをアピールしてやってるよ、赤毛の兄ちゃん。 つるっぱげも、何だか急に姿勢を正してるし…。 あ〜、でもなぁ……。 「もう、いやね、そんな事言っちゃって」 ほんのりと顔を染めながらちょっぴり膨れた顔をしてチラリとクラウドさんを見る。 クラウドさんのムッとした横顔を見て、そして更に頬を染めた女店長に…。 グラサン男がガックリと肩を落とした。 …赤毛の兄ちゃん。 お前、相棒をわざわざ崖から突き落とさなくても良いじゃねえか…。 「これ以上余計な事言うなら営業妨害でたたき出すぞ…」 不機嫌極まりない口調でクラウドさんが睨みつけた。 うん。 これはマジでやる気だね。 「ほら、クラウド。冗談は良いからあちらのテーブルにこれ、持って行って」 ティファさんが湯気の立つ料理の乗った皿をクラウドさんに手渡した。 クラウドさんがそれに逆らえるはずもない。 おっかなびっくり、急に差し出された料理を落とさないように持つと、カウンターを去って行った。 「もう、レノ。ダメだよ、ティファとクラウドこれ以上からかったら。本当にお店、追い出されちゃうよ」 いつの間にか『珍客』二人の間にやって来たマリンちゃんが、腰に手を当てて顰め面をしてる。 その仕草は、まるで小さなティファさんを見てるようだ。 ……子供は親の背中を見て育つ…って本当だなぁ…。 「おお…そうだなっと。これ以上は命の危険を感じるから止めとくぞっと」 「…………」 ヘラヘラ笑いながら、マリンちゃんの頭をポンポンと赤毛の兄ちゃん…レノ?…がそう言った。 ルードとか言う奴は相変わらずだんまりのまま、小さく頷いてる。 ………って言うか無口にも程があるだろ…!? 「それにしても、仕事帰りで明日お休みなら、イリーナさんも連れて来れば良かったのに」 ニコニコと微笑み、先程の話の続きを口にした女店長に、赤い髪の男はギョッとしたように仰け反った。 「ティファ〜、頼むからそんな怖いことは言わないで欲しいんだぞっと。明日は休みだけど、明後日はバッチリ仕事が入ってるんだからさ〜!」 赤い髪の男の言葉に、ティファさんがキョトンとして首を傾げる。 店中の客達も首を傾げている。 ………いや、皆……盗み聞きし過ぎだから……。 ま、俺もそうなんだけど…。 「イリーナは酒豪だ…。彼女に付き合って酒を飲むなら、二連休の前夜にしないと体がもたない…」 ここで初めてつるっぱげが口を開いた。 おお!! しゃべれるんじゃねえか!! でも、ナンデそんなに片言みたいな話し方なんだよ……。 「二連休の前夜…?どうして?」 手際良く刻んだ食材をフライパンに放り込みながら、ティファさんが質問をした。 話している間も、口と手が実に効率よく動いている。 流石……エッジの街にこの店有り!と呼ばれている『セブンスヘブン』の店長さんだ! 「だ〜か〜ら!二連休の最初の一日は二日酔いで潰れちまうンだぞっと…」 「後半の一日で、体調を整える。でないと仕事に支障をきたす…」 赤い髪の男とルードって男がそう説明したのを聞いて、ティファさんは「ああ……なるほどね」と苦笑いを浮かべた。 っていうかさ。 その『イリーナ』って名前からして『女』だよな? それなのに、大の男が二人とも酔いつぶれるくらいまで飲んで、翌日の丸一日は二日酔いで終わるって……どんな酒豪だよ。 俗に言う『ざる』ってやつか!? 「へぇ。何か逆に見て見たいよな。そんなに強い人って、俺、まだ見た事ないし」 いつの間にか『珍客』二人の間にやって来たデンゼル君が、頭の後ろで手を組んでのほほんと話しに割り込んだ。 すると、ルードって奴の頬がピクリと引き攣り、赤い髪の男が片眉をピクピクさせながら、デンゼルを振り返った。 「絶対に止めといた方が良いぞっと」 「この店を守りたいなら、彼女を店に入れないことを勧める」 ひどく神妙なその口調に、デンゼル君はキョトンとしたかと思うと、ニヤッと笑った。 もうその表情は、まさに悪戯を思いついた子供の顔だ。 「なぁなぁ、ティファ!」 「なぁに、デンゼル。あ、そのお皿とって」 ティファさんにデンゼル君が満面の笑みで声をかけ、それに応えながらもティファさんは仕事を怠らない。 ティファさんに言われた皿を手渡しながら、デンゼル君は『珍客』二人を意味ありげに見つめて、 「イリーナの姉ちゃんの携帯番号、知ってる?」 デンゼル君の質問に、ティファさんが応えるよりも早く、『珍客』二人は猛烈な勢いで席を立つと、 「「絶対に却下だ!!」」 見事に声をハモラセてデンゼル君に食って掛かった。 おお……。 その見事に息のピッタリ合った二人に、店の客達から感嘆の声が上がる。 それに全く気付いていない『珍客』二人は、今では必死な顔をしてティファさんに懇願していた。 「頼むから、イリーナを呼ぶなら俺達がいない時にして欲しいんだぞっと!!」 「………頼む…。今夜も断るのに苦労した……」 あまりにも切迫した面持ちの二人に、デンゼル君は悪戯が大成功した時に見せる子供の笑顔で、満足そうにカウンターを後にして、サッサと自分の持ち場に帰っていった。 残されたティファさんは、「うん、分かったから、取り合えず二人共、落ち着いて……ね?」と苦笑を浮かべて二人にお酒を手際良く作ってやった。 「はいこれ。デンゼルが二人をからかったお詫びに私からの奢り」 『珍客』二人は、そのティファさんの優しい声音に、漸く落ち着きを取り戻して、大人しくスツールに腰を下ろした。 その様子を、店の端から見ていたクラウドさんが、何故か一点を見つめてニッと笑っている。 クラウドさんの視線の先には、店の奥からひょこっと顔を出しているデンゼル君の姿。 本当に……仲の良い親子だよなぁ。 うん、血は繋がっていないけど、魂が繋がってる良い家族だよな。 良いなぁ、理想だなぁ…。 その後は、これと言ってハプニングもなく穏やかに過ぎていった。 時々、赤い髪の男がお酒のせいなのか、それとも『酔った振り』をしているのか分からないけど、ティファさんにちょっかいを出そうとしては、クラウドさんに殺意の篭った視線を突き刺されていた。 そして、信じられない事に、どうもそれを楽しんでいるようなのだ。 本当……世の中って広いよな。 わざわざ殺されようとしてる人がいるんだから…しかも面白半分で。 ルードって呼ばれてた男は、酒が回るにつれてつるっぱげな頭までほのかにピンク色になってきた。 それが何故か無性に笑いを誘われちゃって、俺と彼女は笑いを堪えるのに必死だった。 他のテーブルの客達も、肩を震わせていたり、時折堪えきれずに『ブフッ!』とか吹き出す変な声が響いてきたりしたもんだった。(それって更に笑いを誘われるんだよなぁ) 勿論、当の本人は全く気付いていないみたいだったけど。 やがて、時刻は閉店を迎えてしまった。 この時間まで残った事はなかった俺達だけど、今夜は妙に得した気分だった。 帰り際、ルードとか言う奴が、真っ赤な顔をしてティファさんに「あ、あの……」と何やら話しかけようとしてたけど、結局何も言わず、首を傾げる女店長に一礼して帰って行った。 そんな相棒に、赤い髪の男が「クラウドも少しくらい彼女を貸してやっても良いんじゃないのかなぁ…。あんまりがんじがらめにしてると、逆に嫌われるぞ〜っと!」と、馬鹿な事を口走ったお陰で、極寒の視線の餌食になってしまったりしていた。 そんな『珍客』二人の後姿を何となく見送りながら、俺達も家路に着いた。 「今夜のあの二人…何か不思議なコンビだったね」 「そうだなぁ」 「クラウドさん達と特別親しい間柄って感じでもないのに、妙に馴れ馴れしいって言うか、何て言うか…ん〜」 「ありゃ、一方的に例の二人がクラウドさん達に懐いてるって感じだったな」 「うん、そうそれそれ!そうなのよね。クラウドさんは最後までイヤそうだったけど」 クスクス笑みをこぼす彼女に、釣られて俺も笑う。 「ま、たまにはああいう『珍客』も良い刺激になるよな」 「そうね。でも、本当にたまには…だけど」 「そうだな」 ん〜、それにしても本当に今夜は珍しいものを沢山見たな。 それだけで、また明日から頑張れるよ! また、今夜みたいに楽しい一時があの店で過ごせると信じて、俺はう〜んと伸びをした。 いつもよりも遅くなった帰り道…。 手を繋いで帰る俺達二人の頭上では、満点の星達が瞬いていた。 きっと、明日も良い天気だ!! あとがき VXZ様からの47777番キリリクでした。 リク内容は【拙宅のお話し『意義ある休暇を過ごす術』のようにタークスが再びセブンスヘブンに今度は営業中に訪れる話を常連客視点で…】との事でした♪ うわ〜、改めて『意義ある〜』を読み返したのですが……前の作品って何だかこっぱずかしいですね(///)。 はい…何とかこのような形になりました…。 VXZ様にお捧げします。 リクエスト、本当にありがとうございましたm(__)m |