TO Great Mother!
セブンスヘブンの看板娘と看板息子は、現在深刻な顔をして相談中。
一体何をかと言うと、自分達の母親代わりの人の事について、である。
いくら復興が進んでいるとは言え、この劣悪な世界情勢の中で、女だてらに居酒屋の店主として店を切り盛りし、血の繋がりのない自分達を『我が子』として、日々、愛情一杯に包んでくれる『母親』に何か出来る事はないのか…と。
何故、こんな事を考えたかと言うと、特別なきっかけがあったわけではない。
ただ何となく、日々感じていた事が少しずつ積もり、結果、自然と子供達同士で相談する流れとなっただけの話であった。
まず最初の出だしは、『自分達は幼いが、それでも自分達にしか出来ない事が何かある』はず…。
そして、『それは一体何』なのか…?であった。
まず、自分達に出来る事で、一番最初に思い浮かぶのは、店の手伝い。
これは、今までもしてきている事で、これから新たに出来る事ではない…気がする。
二番目に、家事の手伝い。
これも、やはり今まで出来る事はしてきているし、新たに出来る事の項目としては少々力不足に思われる。
何より、『母親』が非常に楽しそうに家事をこなしているので、それを横から手を出すのも少々はばかれる。
そして何よりも、『母親』以上に上手くこなす事など不可能だ…。
と、言う訳でこれも却下。
三番目には、いつも感謝の気持ちを伝える事。
何でも良い。例えば「今日のご飯美味しいね」とか「いつでも上手に、何でもしちゃうよな」などの言葉だったり、食事の後片付けを買って出たりして、行動で示す等など…。
しかし、言うまでも無くこれも今まで自然としてきた事なのだ。新たに自分達に出来る事の項目として挙げる事は出来ない。
四番目に……。
そう、ここから先がつまづいてしまうのだ。
二人は互いの顔を見つめて、相手が何か妙案を出してくれないか探りを入れる。
そして、互いに同じ期待を込めて見つめている事に気づき、同時に溜め息をついた。
お互い、ここでネタ切れなのだ…。
「なぁ、マリン」
「…なぁに、デンゼル?」
「…俺達って、あんまり出来る事、ないな…」
「……そうだね」
「でも、何かあるはずだよな!?」
「うん!そうだよね!!」
こうして、二人は友人達に話を聞くことにした。
友人A「え?お母さんに私がしてあげている事?う~ん。何だろう…。特には何もしてないかなぁ。だって、お母さんって自分の思い通りに何でもしたがる人だから。下手に私がするよりも、お母さんがした方が断然早いしね。この前も、お父さんが珍しく夕食後に片づけしようとしたら、お母さんが物凄い剣幕で怒ったの。『あなたったら、どうしてこんなに雑にしてしまうの!?ほら~、ここも油が取れてないじゃない!やだ!?ここもギトギトよ!!見たら分かるでしょ!?って、きゃー!何このお皿、ヒビ入ってるじゃない!?私のお気に入りなのに……。もう、良いわ。私がするからあなたはソファーでコーヒーでも飲んでて頂戴。』だって。確かに、私がしても同じ事言って怒って、最後は半分泣きそうになるのよね。だから、私がお母さんの為に出来る事は、せいぜいおとなしくしてる事かな?」
カラカラ笑ってみせる友人Aに、二人は心から友人Aの母親に同情した…。
二人は、『親の心子知らず』な友人Aと別れ、次のターゲットに話を聞いた。
友人B「母さんに俺がしてあげている事?それだったら、『日々の生活全般』だな。俺の母さん、体弱いからさ。俺と弟が家事を分担してるんだ。今週は俺が食事と後片付けの当番で、弟が掃除と洗濯当番なんだよ。そうそう!最近出来た市場に、すごく安い八百屋が出来たんだ!確かもうすぐタイムアウトセールだ!!悪いな、そういうわけだから話はまた今度な!!」
あっという間に市場へと駆け出してしまった友人Bの後姿は、同年代とは思えない力強さがあり、デンゼルとマリンはどこか感動するものを覚え、その後姿を見送った。
二人は、『世にも稀な親孝行』な友人Bと分かれると、ほどなくして次のターゲットを発見した。
友人C「お母さんにしてあげてる事?何か特別な事を言ってるの??う~ん、そうね…。お母さんが誕生日の日とかは、お母さんが丸々一日ゆっくり出来る様に、妹とお兄ちゃんで家事を分担するくらいかな?あと、お母さん、結構肩凝りだから、『肩叩き券』をあげるの。一枚で30分肩叩きするのよ。割と簡単なプレゼントだけど、お母さん喜んで使ってくれるから、私達もプレゼントし甲斐があるわね。でもティファさんにプレゼントでしょ?肩叩きが必要な人じゃない気がするから、あんまり参考にはならないかもね…」ごめんね、と言う友人Cに、二人に内心では少々ガッカリしつつも礼を言う。すると、
友人C「ああ、でもティファさんへのプレゼントなら、クラウドさんにも相談したら?クラウドさんなら何か心当たりがあるだろうし、力を貸してくれるかもしれないでしょ?案外、その方がティファさんも喜ぶかもしれないよ?」
と、実に的確なアドバイスをしてくれた。
ここで、二人は初めて『クラウドに相談する』という選択肢が残っている事に気がついた。
何故、今までその事に気付かなかったのだろう!!
二人は目を輝かせて友人Cに再度礼を述べ、猛然と家へ駆け出した。
「「ただいま!!」」
勢い良く駆け込んだ二人に、カウンターでティファの煎れたコーヒーを飲んでいたクラウドと、クラウドに軽食を作っていたティファは目を丸くした。
「おかえりなさい。どうしたの二人共、そんなに慌てて?」
ティファが心配そうに声をかけると、二人はハッとして気まずそうな顔を見せた。
そう、ティファに聞かれてはいけないのだ!
「う、ううん!クラウドがもう帰ってる時間だと思って、急いで帰ってきちゃった!」
「そ、そうなんだ!うん!クラウド!おかえり!!」
「あ、ああ。ただいま…」
咄嗟に上手な口実を思いついたマリンに、デンゼルは心の中で『でかした、マリン!』と賞賛しつつ、怪訝そうに自分達を見ている親代わりの二人ににっこり笑って見せる。
クラウドは、まだ不思議そうな顔をしていたが、ティファはマリンとデンゼルの言葉に納得した様で、にこにこと笑って「そうなの?フフ、今帰ったところなのよ、ね?」とクラウドに視線を移した。
クラウドは、ティファのその笑顔に対して、実に素直に「ああ」とこっくりと頷いてみせ、フッと笑みをこぼした。
かつての旅の仲間が見たら、それこそお元気娘辺りが大騒ぎしそうなほどの素直さと、優しい笑顔だった。
デンゼルとマリンは、ティファとクラウドが自分達の言葉を信じてくれた事に、ホッとすると、クラウドの両脇にそれぞれ腰を掛けた。
ティファは、子供達の為にミックスジュースをいれてやり、中断していたクラウドの軽食作りを始めた。
クラウドと楽しく会話をしつつも、デンゼルとマリンの頭の中は、『いつクラウドに質問しよう…?』とチャンスを掴む事で一杯だった。
クラウドは、そんな二人に気付かず、ティファの作ってくれた軽食に舌鼓を打っている。
ティファは、自分達とクラウドの会話をにこにこ見守りながら、片づけをしたり、今夜の店のメニューの下ごしらえをしたりと、カウンターの中でクルクル働いていた。
このままでは、今日中にクラウドに質問するチャンスはやってこないのでは!?
二人はそんなイヤな予感がした。
まあ別に、今日中でなければならない事でもないが、早いに越した事はない。
カウンターの中にいるティファをチラッと見て、ティファが背を向けている一瞬の隙に、マリンはクラウドの耳元で囁いた。
「ちょっとお話があるの」
クラウドは、マリンの真剣な顔を見て目を丸くし、次いで同じ様に真剣な面持ちで自分を見つめているデンゼルに気付くと、少し考える素振りをした後、カウンターのティファに「ちょっとフェンリルをいじってくる」と声をかけて店から出て行った。
二人はパッと顔を輝かせると、「私も見に行ってくる!」「俺も!!」と店を飛び出した。
そんな二人を、ティファはやはりにこにこしながら「行ってらっしゃい」と明るく送り出した。
「それで、一体何があったんだ?」
フェンリルの傍らに立って、自分達を穏やかな眼差しで見つめてくるクラウドに、マリンとデンゼルは今日一日友人達から聞いた話と、自分達の意見を聞かせ、クラウドに『ティファの為に自分達の出来る事』とは一体何があるだろうかと質問した。
その質問に、クラウドは目を丸くして、自分達をまじまじと見つめる。
そんなクラウドの表情が、あまりにも驚いている様子であった為、デンゼルとマリンは顔を見合わせると、キョトンとしてクラウドを見上げた。
「なぁ、やっぱり俺達に出来る事ってないのかな…?」
いささかシュンとした表情でデンゼルがおずおず問いかける。
その隣にいるマリンも同様に、ションボリとした顔でクラウドを見つめていた。
クラウドは、二人の様子に苦笑すると、しゃがみこんで二人の頭軽くポンポン叩いてやった。
「なぁ、デンゼルとマリンは、どうして急にそんな事を思ったんだ?」
「…だって…」
「うん?」
「だって、ティファは私達やクラウドの事を沢山してくれてるのに、自分の事はあまりしないんだもん」
「ティファって、自分の事よりもまず俺やマリンやクラウドの事を優先させるだろ?だから、もっとティファに楽をしてもらおうって思ったんだ」
「うん、ティファも自分の時間がもっと欲しいと思ってるんじゃないかって…」
もじもじしながらも一生懸命話しをすると、クラウドはキョトンとした顔をした。次いで、デンゼルとマリンの大好きな笑顔を見せると、嬉しくて堪らないかのようにギュッと二人を抱きしめた。
デンゼルとマリンはびっくりしたが、クラウドはすぐ二人を放すと、悪戯っぽく紺碧の瞳を輝かせながら、
「じゃあ、今からティファにプレゼントの相談をしようか」
と、デンゼルとマリンの顔を覗き込んだ。
デンゼルとマリンは、パッと顔を輝かせ、クラウドの提案に大きく頷いた。
そんな事を全く知らないティファは、いつものように開店準備を着々と進めていたが、帰って来たクラウドに突然、
「開店準備をしてるとこ悪いけど、今夜は店を休んでくれないか?」
と言われてしまった。
驚いている自分に全くお構いなく、店のノブに臨時休業の看板が吊るされてしまう。
そして、引っ張られるようにして、カウンターから店内の椅子に腰掛けさせられる。
「ちょっと、どうしたの?何なのよ!?」
「フフ…、まあ良いから良いから」
「???」
頭の中が疑問符で一杯な自分を、これ以上はない程キラキラと悪戯っぽく輝かせて見つめるクラウドに、ティファはとうとう観念した。
そんなティファを見て、クラウドは満足そうに頷くと、
「今日からしばらく、ティファはお客さんだ」
そう言って、チラリとカウンターの方を見やった。
ティファが視線を移すと、そこにはいつの間にか子供達が帰ってきており、いそいそと何やら作業をしている。
子供達が何をしているのか覗こうとして立ち上がりかけたティファを、クラウドが椅子に押し戻した。
「駄目駄目。ティファはお客さんなんだから、ここで用意が済むまで座っててくれ」
「用意?」
「ああ。子供達の作業が終わるまで退屈だろうから、俺と話でもして時間を潰してくれ」
「???」
「あ~、まあ、俺は話が上手じゃないから…。そうだな。何か雑誌とか読んでる方が時間潰しには良いか…」
「え…?ええ!?そ、そんな事ないよ!!クラウドと話をするの、私は、その、え~と」
「…無理しなくて良いぞ」
「無理じゃないの!もう、本当に分からないの!?……だから、その、クラウドと話をするのは…とても、好き…」
「………あ、ありがとう……」
「……ううん…」
などと、親代わりの二人が何故か顔を赤らめて椅子に座っている間、子供達は一生懸命野菜を洗ったり、鍋に水を張ったり、などの作業をこなしていった。
そして…。
「お待たせしました~!」
「ごめん、時間かかっちゃってさ」
「!?」
子供達が運んで来た料理を見て、ティファは驚いて目を見開いた。
子供達が作ってくれた物。それはごくごく平凡なカレー。
でも、そのカレーのライスはハートの形、そして、そのカレーの皿には、
【いつも有難う!大好きなティファへ!!】
とのメッセージカードが添えられていた。
驚いた顔をして自分達を見つめるティファに、デンゼルとマリンは恥ずかしそうにもじもじしながら互いに目配せし合った
「えっとね。いっつもティファ、私達やお店の事を優先させちゃうでしょ?だから、少しでも楽をしてもらおうって思ったんだけど…」
「でもさ。俺もマリンも、ティファよりも上手くなんて絶対に出来ないし、俺達が出来る事ってそんなにないだろ?」
「そんな!二人にはいつも助けてもらってて、本当に感謝してるのよ?」
「ううん。それは分かってるの。でもね、ティファはもっともっと自分の為に時間を使っても良いと思うの」
「うん。それで、今日一日、俺達に出来る事ってなんだろうって、二人で相談したり、友達の話を聞いたりしたんだ」
「でも、結局良い案が浮かばなくて…」
「それで、クラウドにさっき相談したんだ」
ティファは驚いてクラウドを見る。
クラウドは、穏やかな笑みを浮かべて自分を見つめていた。
「クラウドが、『今まで以上に何か手伝いをしたりするよりも、直接言葉にした方が絶対にティファは喜ぶ』って言ったの」
「それで、今日はティファに『お客さん』になってもらって、夕飯だけでも楽してもらおうって事になったんだ」
照れたように笑う二人の子供達の思わぬ言葉の数々に、ティファは言葉を無くしてしまった。
「と、言うわけだ。さ、ティファ、折角だから冷めないうちに食べてやってくれ」
クラウドに促され、感激のあまり少々震える手で口に運ぶ。
その様子を、デンゼルとマリンは固唾を呑んで見守った。
ゆっくりと咀嚼し、子供達の愛情を味わったティファは、自分を心配そうな瞳で見つめてる子供達に最大級の笑顔を見せ、
「ありがとう。本当に美味しいわ」
そう言って、もう一口口に運んだ。
デンゼルとマリンは、くすぐったそうに身を捩じらせながら微笑み、クラウドも温かい眼差しでそんな三人を見つめていた。
その後、四人で温かな一家団欒の時を過ごし、デンゼルとマリンはベッドの中で今日一日を振り返った。
「結局、ティファにこれといって出来る事、見つからなかったね」
「うん」
「でも、ティファが嬉しそうに笑ってくれて、本当に良かったよね」
「うん!物凄く嬉しそうに笑ってくれたよな」
「うん、本当に!私、何だか泣いちゃいそうだったもん」
「へへ、実は俺、あと少しで本当に泣くとこだった」
「え~、本当に?」
「う~、悪いかよ…?」
「ううん!全然!!何か、デンゼルがそんな事言うなんて意外なんだもん。でも、何かとっても嬉しい!!」
「え…、そ、そうなのか?」
「うん!だって『家族』って思えるもん!!」
「へへ、そうだよな。俺達、『家族』だもんな」
「うん。フフ」
「へへ…」
やがて、今日一日頑張った子供達は、ゆっくりと夢の世界の住人となっていった。
「それにしてもさ…」
「うん?」
「ティファって『愛されてる』よな」
「うん!本当に今日は嬉しかった!」
「ああ、俺も。でもさ…、ちょっと妬けたな」
「え…?」
「あんなに子供達に『愛されてる』ティファが」
「クラウドだって、子供達に『愛されてる』じゃない」
「そうだけど、子供達に相談された時、何だかちょっぴり妬けたんだ」
「そうなの?」
「ああ」
「フフ…」
「何で笑うんだ?」
「だって、クラウド、今すごく可愛かったんだもの」
「な…!?か、可愛い…!?」
「うん。可愛い」
「……あまり嬉しくないんだが…」
「褒め言葉よ?」
「…分かってるけどさ」
「フフ…、やっぱり可愛いわ」
「…ティファ……」
「うん?何?」
「だから!……、の……が……」
「???」
「だ~か~ら、今日のティファの方が可愛いって言ったんだよ」
「……!!!……あ、ありがとう」
「………どう致しまして」
親代わりの二人が、こんな会話をしていた事は、本人達意外誰も知らない。
あとがき
はい。いかがでしたでしょうか?何だか『母の日』に似合いそうな小説になってしまいましたが、
その頃は当サイトは存在しませんでしたので、全くイベントに関係なくUPするに至りました(苦笑)。
そう言えば、『父の日』もありましたが、全然関係のない小説UPしましたしね(汗)。
イベントとか、決まった内容の事を書くのはまだまだマナフィッシュには難しく、いつも突発的に思いついたものを書いてます(^^;)。今回は『子供達に愛されているティファ』を無性に書きたくなりまして…(えへへ~)。
こんな風に思われる『お母さん』って、幸せですよね?ティファはきっと、こんな風に思われる
『お母さん』だと思います。
最後までお付き合い下さり、有難うございました!

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