その日、セブンスヘブンの看板息子と看板娘は、小さな額を寄せ合って深刻な相談をしていた。
 そう…。これはトップシークレットなのだ。
 決して二人の父親代わりである青年に知られてはいけない!!
 何を犠牲にしても!!!
 これは、セブンスヘブンの住人である子供達と二人の母親代わりの未来が掛かっていると言っても過言ではない。

『二人共……後の事はお願いね……』

 最後に見せたティファの苦しそうな笑顔…。
 まだ若く、色々と自分の事に時間を費やしても良い歳だと言うのに、全身全霊で愛してくれる母親代わりの日頃の恩に報いる為にも、今日は絶対にクラウドにバレてはいけない!!

 子供達は決意を胸に、力強く頷き合うと意を決して二階に向かった…。



特効薬




 クラウドは二階の自室のベッドの中で、グッタリと目を閉じていた。
 微かに上下するシーツに、子供達はホッと安堵の溜め息を吐く。

 本当なら、彼は今頃配達の仕事に出かけており、こんなにも子供達とティファがビクビク・オドオドする事はなかったのだ。いや、多少はクラウドに後ろめたくてギクシャクしてしまったかもしれないが、それでもここまでの居心地の悪さは感じずに済んだであろう。
 それなのに、何故今日に限って彼がここにいるのかと言うと、理由はいたってシンプルそのもの。
 体調不良なのだ。
 受けていた仕事の半分は何とか気力でこなしたものの、残り半分をこなす事がどうしても不可能になった為、急遽キャンセルとして引き上げてきた。

 今まで自分の体調不良を理由に途中で帰宅したことの無いクラウドを、子供達とティファは卒倒するのではないかというくらい心配して取り乱した。
 中でもティファの慌てぶりは凄かった。
 クラウドの為に温かな飲み物を作るにあたり、砂糖と塩を間違えたり、階段で蹴躓き危うく転落しかけたり、寝ているクラウドの顔面に温かな飲み物をぶちまけそうになったり……。
 普段の彼女からは、創造出来ないほどの取り乱しようだった。
 しかし、彼女の慌てぶりに子供達は呆れた顔をしたりしなかった。いや、むしろ心から同情したのもである…。
 彼女の気持ちは良く分かる。よりにもよって『今日』なのだから……。

『……私……日頃の行いが悪いのかしら……』

 冗談ではなく、本気で泣きそうな顔をしながら呟いた母親代わりに、子供達は必死になって「大丈夫だよ!」「そうそう!クラウド、具合悪いんだし絶対にバレないって!」と慰め、必死に励ました。

 そんな会話が密かに交わされている事など全く知らないクラウドは、ティファの慌てぶりが自分の体調不良の為だけであると思い込んでおり、非常に申し訳なさそうな顔をしながら、
『大丈夫だ…。すぐに良くなるから…。今日はこれから一日寝てることにするよ。だから、そんなに泣きそうな顔しないでくれないか…?』
 と、自己嫌悪の塊になっているティファをそっと抱きしめた。
 その優しさが、更にティファを自己嫌悪の沼に沈めている事など知らないクラウドは、宣言通り、すぐにベッドに倒れこむとそのまま泥のように眠ってしまった。

 クラウドがすっかり寝入ったのを確認したティファは、深い深い溜め息を吐き出すと、そっと身支度に取り掛かった。
 そして、心配する二人の子供達の前に再び姿を現した彼女は、普段では絶対に着ない服に身を包んでいた。

 それは…。

 淡いパープルのカクテルドレス…。

 膝上までのスカートにはウエスト部分から大きなプリーツが施されいる。また、背中は大きく開いており、綺麗な肌が空気にさらされているその姿は、男達の理性など宇宙の彼方に吹き飛ばしてしまう事は間違いない。
 そして更に、ティファの黒髪はアップにされ、普段は隠れて見えないうなじが露わになっていた。
 胸元には、クラウドから貰った雫を模った(かたどった)二重のリングのネックレス。
 普段は化粧をほとんどしない彼女の顔には、華やかで少々幼目に見えるような化粧が施されていた。

 ティファの正装に、子供達は目の前の危機を一瞬忘れて目を大きく見開いた。
「わ〜!すっごい綺麗!!」
「ティファ…お姫様みたいだ……」
 子供達の賞賛に、ティファははにかみながら「そ、そう…?」と、開き過ぎている背中を気にしつつ微笑んだ。
 そして、そっと二階を窺いクラウドの気配を探る。
 どうやら子供達の歓声は届かなかったらしい。
 物音がしない事に一先ず安堵の溜め息を吐くと、改めて子供達に向き直った。

「それじゃ、行って来るけど……」
「大丈夫だよ。きっと、クラウドは夜まで起きないよ」
「そうそう!本当に具合悪そうだからさ…。俺達も起こさないようにするし」
「もし起きて来ても、近所の奥さんに急に呼び出された〜…とか何とか言ってごまかしておくから」
「絶対にバレないって!」
 子供達の一生懸命な姿に、ティファはこっくりと頷くと、それぞれに『行って来ます』のキスを贈り、再び振り返って
「二人共……後の事はお願いね……」
 そう苦しそうに微笑み、ショールで肩を覆ってそっと店を出た。
 デンゼルとマリンは、声を殺して「「いってらっしゃーい」」と手を振り見送った。
 ティファの姿が、人目に付きにくい裏路地へと消えていく…。

 時刻はあと小一時間で夕暮れとなるだろう…。



「とにかく…」
「クラウドが起きなかったら良いんだよな…?」
「ティファが戻ってくるまでね…」
「…………」
「…………」
 デンゼルとマリンは、そっとクラウドの寝室の前に立っていた。
 先程、クラウドの様子を確認した時は良く眠っていた。
 しかし、あれから三十分以上が経っている。
 何か後ろめたい事があると、その三十分という時間が異様に長く感じられるものだ…。
 もしかしたら、目が覚めそうになっているかもしれない…。
 ドアを開けてクラウドの様子を確認したいのは山々だが、開けた時の物音で目が覚めてしまったら……、と思うと中々それも出来ない。
 まんじりともせず、デンゼルとマリンはドアの外で耳をそばだてているのだが…。

「こうしててもしょうがないよね…」
 溜め息を吐いて、マリンがそっと階段を下りる。
 デンゼルも、クラウドを気にしながらもそれに従った。
「本当は、ティファが帰ってくるまでに夕飯を作ってる予定だったのにね…」
「クラウドが起きたら困るからなぁ、それも出来ないな…」
「うん…。どうしようっか…」
 暇だしねぇ…。

 そう言って椅子に腰掛け、テーブルに頬杖を着く妹に、デンゼルも倣って椅子にドッカと座るとテーブルに突っ伏した。
「店の掃除をしたいって思ってたのに…それも出来ないよなぁ…」
「…うん。物音で起きたら困るもんね…」
「「…………」」

 それきり黙りこむと、ぼんやり窓の外を眺める。
 時計の音だけが、シンと静まり返った店内に陰気に響いている。

 物音を立てられない二人は、何も出来なかった。
 音を立てないように夕飯の準備を使用かとも思わないでもなかったが、今日は本当にバレるわけにはいかない。
 万が一、僅かな物音でクラウドが目を覚まし、ティファが不在な事を不審に思ったりしたら……。
 そう思うと恐ろしくて何も出来ない。
 家にいても何も出来ないのならいっその事、外に遊びに行ってしまえば……!!
 そう投げやりな考えも一瞬チラリと頭をよぎったものの、具合の悪いクラウドを置いて遊びに行くなど出来るはずも無いではないか…。
 というわけで、子供達は何をする事も出来ず、ただただ、母親代わりの美しい人の帰宅を、首を長くして待っているのだった…。

 しかし…。
 世の中というのは何故か、絶対に今は止めてくれ!!という時に限って何事かが起きるもので……。


 ドンドンドン!!!
 突然激しく叩かれるドアに、デンゼルとマリンは文字通り椅子から飛び上がった。
 バクバクと心臓が早鐘を打つ。
 びっくりし過ぎて固まっている間にも、ドアは激しく叩かれ続けていた。

「お〜い!ティファちゃん、助けてくれ〜!!」

 ドアの向こうから中年の男性と思しき悲痛な叫び声がする。
 デンゼルとマリンは、ハッと我に帰ると二階へ続く階段を振り返り、次いで大慌てでドアに飛びついた。
 そして、鍵を外すと勢い良く引き開けた。
 ドアが急に開いた事で、外で喚いていた男が一人、思い切り転がり込んでくる。
 その人物を見て、デンゼルとマリンは心の底から『『しまった〜!!』』と後悔した。
 そんな子供達を尻目に、男は強かに床で額を打ち付けたが、痛みを堪えて必死の形相で起き上がると、開けっ放しになっているドアに飛びついて思い切り閉め、震える手で施錠した。
 そのまま、ズルズルとドアに凭れ(もたれ)掛かるようにして床にへばり込んでしまう。
 肩でゼイゼイと荒い息を数回繰り返すと、目の前で固まっている子供達に「やぁ…」とニヘラ〜…としまりの無い笑顔を見せた。
「おっさん…また借金したのか…」
 デンゼルがガックリと肩を落とす。
 疑問系でないのは、彼が数回にわたって借金取りに追われている過去を持っている為仕方ないというものだ。
 現に、中年の男はデンゼルの発言を否定するどころか、苦笑いを浮かべつつ頭を掻いている。
 デンゼルがガックリと肩を落とす隣では、渋面のマリンがそっぽを向いていた。
 しっかり者の看板娘には、この中年男の借金生活が我慢出来ないのだ。
 勿論、借金の原因が「病気がちでどうしても働けない」とか「貧乏子沢山の為致し方ない」とかならまだ良い。
 しかし、この男の場合は純粋な「博打貧乏」なのだから始末が悪い。
 マリンでなくても嫌われる人種なのではないだろうか…。

「それで…ティファちゃんは……」
 恐る恐る訊ねる男に、デンゼルが溜め息を吐きながら「今は留守だよ…」と簡潔に答えた。
 マリンは完全に無視を決め込んでいる為、デンゼルが答える以外に無い…。
 男は、デンゼルの返答に心底情けない顔で「そうか〜、困ったなぁ…」と途方に暮れた。
「何でティファが必要なんだよ。まさか、ティファに借金取り達を追い払ってもらおうってわけじゃないよな…」
 呆れ切ったデンゼルに、男は「ん…いやぁ、その…エヘヘへ〜…」と何とも喜色の悪い笑いを浮かべると、マリンにも視線を流した。
 看板娘は完全にそっぽを向いている。
「あのなぁ。いくらティファが優しいからっておっさんの借金を肩代わりなんかしてくれないぜ?って言うよりもいい加減真っ当に働けよ…」
 脱力仕切った看板息子の言葉に、男は「それが出来ればなぁ…」と、どこか他人事のように投げやりな言葉を口にした。
 そして、そろそろとドアの近くにある窓に移動すると、そっと外を窺った。
 その男の頭がビクッと勢い良く下げられる。それとほぼ同時に窓の外から、いかにもその手の人間がヌッと顔を覗かせた。
 店の中にいる子供達と柄の悪い男の視線が一瞬バチッと合ってしまう。
 デンゼルとマリンは、引き攣った顔をしながらも視線を外す事が出来ず、どちらからともなく手を握り合った。
 そんな子供達を暫しの間観察していた男は、興味を失ったのか店の中をざっと見渡し、そのまま踵を返して窓から離れてくれた。

「「はぁ〜〜……」」
 ドッと汗が噴出し、一気に身体から力が抜ける。
「こ、怖かった…」
「俺も……」
 ヘナヘナと床に座り込んだデンゼルとマリンを見て、転がり込んできた借金男は、身に迫っていた危機が遠ざかった事を知った。
 そして、この機を逃してなるものか…!
 と言わんばかりに、「じゃ、すまなかったな、迷惑かけて!」と礼もそこそこに、大慌てで借金取りの男とは反対の路地へと消えて行った。
「何が『じゃ、すなまなかったな、迷惑かけて!』だよ…!」
「本当に……迷惑どころの騒ぎじゃなくなるところだったよ〜…」
「何が『迷惑どころの騒ぎじゃなくなるところ』だったんだ?」
「え…だから………って…!!」
「!!」

 聞き慣れたテノールの声に、子供達は恐る恐る振り返った。
 今は…。
 今だけは絶対に見たくなかった…。

 しんどそうな顔をしながら自分達の真後ろに立っている青年の姿に。
 デンゼルとマリンは、今度こそ本当に失神しそうになった。



「……で?」
「「…………」」
「何でティファがいないんだ…?」
「「………ごめんなさい」」
「………何か謝られるような事をされてるのか…俺は…?」
「「…………」」
 テーブルを挟んだ目の前のソファーに、すっかり縮こまって座っている子供達を見て、クラウドは深い溜め息を吐いた。
 具合が悪くて早く帰宅したと言うのに、いつもなら絶対にいるはずのティファの姿が見えない。
 おまけに、何やら物音がする為起きてみると、子供達が床にへたり込んでるではないか。
 驚いて近づいたら、何となく気になる会話までしているし…。
 声をかけるとまるで幽霊でも見るような顔をされてしまった…。
 
『一体、俺に隠れて何してるんだ……』

 憮然とした顔で、子供達を見る。
 子供達は、クラウドのそんな様子に顔すら上げられない状態だ。
 いつもなら、そんな子供達に負けてしまって苦笑するのだが、とてもじゃないが今はそれが出来るだけの余裕がない。

 機嫌が悪くなっても仕方ないではないか…。
 自分に隠れてコソコソとされているのだ。
 それでなくても、普段から配達の仕事で家族の中では一番接する時間が持ちにくいというのに、こんな風に隠し事をされたら不快どころか不安になってしまう…。


「なぁ…怒らないから説明してくれないか…?」
「「…………」」
「どうしても俺には言えないことなのか…?」
「「…………」」
「…………」
 頑なに口を閉ざしている子供達に、クラウドはそろそろ我慢の限界が来た…。
 いや、我慢と言うよりも、この疎外感に耐えられなくなったと言った方がいいだろう。
 徐に腰を上げると、ビクッとする子供達を見もせずに二階の自室へと引き上げた。
 荒々しく寝室のドアを閉めると、そのままドサッとベッドに身を投げ出す。
 体調が悪くて帰宅したのにこれでは逆効果だ。
 ベッドサイドのテーブルに置かれている常備薬をチラリと見てプイッと反対を向く。
 どうにも悔しい気持ちが抑えられない。
 一緒に過ごす時間が少なくても、子供達やティファの事を想う気持ちだけは、誰にも負けていないと自負している。
 それだけに、ティファと子供達も同じ様に想っていてくれている…そう信じていた。
 いや、そうでなくてはイヤなのだ…。
 でなければ、生きたまま屍になってしまう。
 ティファと子供達にとって、大切でない自分に価値などあるはずがないではないか…。
 それなのに…。

 元々体調の良くない身体は、今では更に重く苦しい物でしかなかった。
 どんなに優れた薬でも、この身体は絶対に治せないのではないかと思う。
 クラウドは深い深い溜め息を吐くと、そのまま再び眠りに誘われてしまった…。



「……ウド……クラウド……」
 クラウドは、額にひんやりとした手の感触と、自分を呼ぶ声に眠りの淵からゆっくりと覚醒した。
 重い瞼を開けると、心配そうな顔をしたティファの顔が間近に寄せられていた。
 その彼女の顔に、長年一緒にいるクラウドは心臓が飛び出るのではないかと言うほどの衝撃に襲われた。
 普段は最低限しか化粧をしないというのに、目の前のティファは何とも華やかで美しい化粧を施しているではないか!!
 びっくりして身体を起こすと、横になっていると見えない彼女の全身が視界に入ってきて、更なる衝撃が全身を駆け抜けた。
「ど、どうしたんだ!?」
 目を剥いてびっくりしている彼女の肩をやや乱暴に掴むと、ティファは困ったような申し訳ないような…そんな複雑な顔をして「ごめんね……」と瞳を伏せた。
 ティファのその表情がまた、何とも言えず……女性らしい。
 普段の活発な格好のティファを見慣れているクラウドは、目の前のティファに心底狼狽した。
 そして、
「い、いや……その、あ〜、俺こそすまない…。ティファだって女性なんだから、お洒落したいよな…。今までが質素すぎたんだ、うん。だから別に良いんだ、お洒落して!いや、これからどんどんお洒落してくれたら俺としても……って、何言ってんだ…俺は…?」
 などと必死になって彼女を慰める。
 そんなクラウドに、ティファはキョトンとしていたが、「プッ」と吹き出すとクスクスと笑い出した。
「クラウド……本当にクラウドって優しいんだから!」
 そう言って、嬉しそうにティファはクラウドの胸に顔を埋めた。
 クラウドは、突然の事で完全に頭はパニックになっていたが、彼女の温もりが徐々に身体の芯まで染み込む様な…そんな安心出来る温もりに、漸くホ〜ッと息を吐くと、そっと彼女を抱きしめる事が出来た。



「それでね…。今日はクラウドに内緒で頼まれごとをしていたの…」
「頼まれごと?」
「うん」
 クラウドをひとまずもう一度ベッドに横にし、ティファはベッド脇に椅子を引いてきた。
 そして、ゆっくりと事の経緯を話し始めた。
「最近ご近所に引っ越してきたばかりのご家族がいるでしょ?」
「ああ…確か、二十歳の息子と二十三歳の娘に両親の四人家族だってティファが言ってた…あの家族の事か?」
「うん……その奥さんがね……」


 数日前…。
『ティファちゃん、折り入って相談があるの!!』
『…どうしたんですか、そんなに血相変えて…』
『うちのバカ娘が…!!!』
『な、何かあったんですか!?』
『そうなんだよ…あのバカ娘!また大馬鹿野郎に引っ掛かっちまってさ〜!!結婚するって聞きゃしないんだよ!!』
『…あ、そうなんですか(てっきり強盗に入られたとか、事故にあったのかと思っちゃった…)』
『それでね…私と亭主は相談したんだよ。このままじゃ、バカ娘の将来は、つまらない男に散々遊ばれた挙句、孕まされて捨てられるしかない…ってね!!』
『…でも、もしかしたら素敵な人かもしれないじゃないですか…。一度、お会いしてみれば……』
『会いましたよ、勿論!!その時にも彼の事を彼の口から直接お聞きしました!!』
『………ああ、そうですか………』
『その男、言うに事欠いて『俺は今のところ金は無いけど、将来は絶対にお嬢さんを幸せに出来るだけの稼ぎを持って帰れる男になります!』って言うんだよ。んで、『それじゃ、あなたは今何をしているの?』って当然訊ねるでしょ?そしたら何て言ったと思います!?』
『さぁ……(思わしくない返答だって言うのはわかる。)』
『『今は何も考えてないんです。将来、何をすべきかじっくり腰を据えて考えなくては!だって、一生の事じゃないですか?』ってけろりとした顔で言うんですよ!!それじゃ、結婚した後、一体どうするのかって聞いたら、『ああ、それは、少々の蓄えがありますし…』
『私が働くから良いの!』
『って娘が話しの腰折っちまってねぇ。あんなに頼りない、しかも自分の恋人の稼ぎを当てにするようなそんな甘えた根性の男に可愛い娘を任せられると思います!?』
『……それは是非ともお断りしたいですね…』
『でしょう!?」

 ガシッ!!

『えっと……この手は一体…?』
『後生よ、ティファちゃん!!どうかお願い聞いて頂戴!!でないと、あの子は本当に一生バカな男に良い様にされて、ボロボロになって捨てられるような惨めな人生を送るしかないんだわ〜!!』
 自分の手をしっかと握り締められたティファは途方に暮れた。
 しかし、目の前で突っ伏して号泣するこの中年の女性を断る術を見つけられなかった。
 こうしてティファは、ご近所の奥さんのお願いを聞く嵌めになってしまったのだ。



「という訳で……行って来たの…」
「どこに…?」
「……彼女の娘さんとお見合いパーティーに…」

 ブハッ!!

 飲みかけていた薬を一気に吹き出し、激しくむせ返る。
「な、なななななんだって!?」
「だから…お見合いパーティーに…娘さんと一緒にね……行って来たの」
「どうして!?」
「その奥さんが言うには、結婚願望がある男の人でも、娘さんの理想に近い男性はいるはずだ!だから、その彼女の今の彼氏が本当の世間一般の目で見たら、どんなに時代に遅れていてしかも甘ちゃんなのか、納得するんじゃない…って」
「……お見合いパーティーは色々な人間がいるから、勧めたは良いがやはり不安で仕方ない…。娘が参加するコースに両親が参加できる年代ではないのは当然だ。そこで、ティファに一緒に参加して様子を見て欲しい……って言われたところか…」
 合ってるか?

 クラウドの溜め息混じりの正解に、ティファは首を竦めた。
「本当にごめんなさい……」
 しゅんとなって謝るティファに、クラウドは何度目かの溜め息を吐くと、そっとティファに手まねきをした。おずおずとその手招きに従順に従うティファに、クラウドは苦笑すると、そっと手を伸ばしてティファを抱き寄せ、そのまま自分の胸の上にもたれかけさせて抱きしめた。

「…………ああ、良かった……」
「え!?」
 暫くティファを抱きしめた後でのクラウドの感想。
 ティファ、驚いて顔を上げた。
 すると、目の前には紺碧の瞳が優しく微笑みを浮かべている。
 至近距離からのこの眼差しには、ティファはいつまで経っても慣れることが出来ない。
 ドキドキと胸が高鳴る。
 そんなティファに、クラウドは照れ臭そうに
 「俺だけが知らなかったから、俺の事なんかどうでも良くなってきたのかなぁってちょっと不安だった」
 と、少し俯いて微笑んだ。
 ティファは、その思いもがけない言葉に、胸がちくりと痛んだ。
「そんな…!だって、クラウド、私がお見合いパーティーに行くって言ったら反対したでしょ…?だから、……その……黙ってて……不安にさせてごめんね……クラウドに言えないなぁ、とは思ってたけど、でも、だからと言って、クラウドの事どうでも良いだなんて、私もマリンもデンゼルも思ってなんか…!!」
「うん…。ごめん、俺だけが話し知らなかったからちょっと拗ねたんだ…。俺こそ、子供だよな…」
 情けない奴……。
 
 そう言って、苦笑し、頭を掻く青年に、ティファは満面の笑みを浮かべ、本当に珍しい事なのだが……。
 お詫びの印をクラウドの唇にそっと贈った。
 そっと離れた二人の顔は、うっすらと紅く色づいた頬と、極上の笑みが飾られていた。



「あ、そう言えばクラウド、体調悪かったんだよね!?ああ、それなのに全然ゆっくりどころか不安にさせるようなことしちゃって…!!」
 急にクラウドの具合が悪いことを思い出したティファは、慌ただしく立ち上がってドアを出て行こうとしたのだ……。
「ティファ」
 クラウドに呼び止められ、ドアの前で立ち止まる。
「なに?」
 ベッドの中のクラウドは、具合が悪いのだろうが、眠っている頃よりは少々顔色が良く見えた。
 小首を傾げながら再びベッドの近づくと、完全に無防備だった手を取られ、あっさりとクラウドに抱き寄せられてしまう。
 そして、そのままティファの肩口に頭を乗せると、ゆっくりと目を閉じた。
「ティファが傍にいてくれた方が早く治る…」
「……クラウド、何言ってんの……?」
 口ではそう言いつつも、ティファにそう言ってくれたクラウドの言葉が嬉しくて仕方ない。
 そのまま、彼の腕の中で時を過ごしたいと言う誘惑に駆られる…。
 しかし…。
「デンゼルとマリンが物凄く心配してたから…」
 そう言うと、クラウドは呆気ないほどティファを離した。
「そ、そうか…。俺…随分子供っぽい拗ねかたしたから、心配してるだろうな…。うん、俺も一緒に起きて下で夕飯食べるよ。出来てるんだろ、夕飯?」
 先程から、階下より食欲をそそる匂いが漂ってきている。
 ティファは気遣わしそうな顔をしたが、それでもクラウドと子供達の気持ちを感がえると、彼の意思を尊重する方が良い、との結論に達した。

 クラウドとティファは、手を繋いで階下へ向かった。
 デンゼルとマリンは、不安そうな顔で並んでソファーに座ったままだった。
 その姿を見た時、クラウドは胸がちくりと痛む。
 自分の子供っぽい性格を情けなく思う。
 そのままそっと子供達に近づくと、ソワソワとしながらも黙ったままの可愛い息子と娘をそっと抱きしめた。
「ごめんな、二人共…。俺が子供みたいだから色々しんどかっただろ?これからはもっと頑張って大人になるから…」
 温かな声で言ってくれるクラウドに、子供達は目に涙を一杯溜ながらも輝くような笑顔になって、クラウドにしっかりとしがみついた。

 家族で夕飯を食べると言う至福の一時の後、一家は揃って川の字で寝た。
 クラウドの部屋からベッドを無理やり子供部屋に移し、高さを子供達のサイズに合わせて三台のベッドをくっ付けたのだ。
 ベッドに対して垂直に並んで寝転がる。
 セブンスヘブンの初の試みに、子供達は大はしゃぎだった。
 そして、そのまま家族四人は幸せのうちに眠りに着いた
 翌日の朝は、家族が揃って迎えられる…。
 その楽しみを胸に抱いて…。
 しかし、このとき皆忘れていた。
 クラウドの体調がすっかり良くなっていた事を…。クラウド本人ですら気づいたのは、翌日の朝。

 目の前で朝日を受けて輝く笑顔の家族を見て、クラウドは悟った。

 自分にとって、ティファと子供達があらゆる危機をも乗り越えさせてくれる存在で、あらゆる病気を治してくれる特効薬なのだと。



 でも…。
 今は恥ずかしいからこれは内緒。
 もう少し、自分だけの宝物として、胸一つに収めさせて…。



おまけ

「ティファ、昨日のお見合いパーティー、どうだったの?」
「あ、そう言えば俺も聞き忘れてた…。どうだった?」
「え…。ああ、その娘さんなんだけど……」
「だけど…なにかあったのか?」
「あったんだな…」
「あったのね…」
「……私のそばにベッタリでね。それは寧ろ(むしろ)守りやすくて良いんだけど、皆私に沢山話しかけてたから、その娘さんにはあんまりパーティー楽しめなかったんじゃないかって…心配してるところ」
『『『ま、確かにティファに群がるよな(ね)』』』

 バターン!!!

「ちょいと、ティファちゃん!!」
「「「「あ。噂のおばさん…」」」」
「?何か言ったかい?それよりも、ティファちゃん、本当にありがとう!娘があの男と別れたんだよ!!」
「「「「え!?」」」」
「それもこれも、アンタのお陰だよ!」
「…いえ、私は別に何も出来なかったですが…」
「いやねぇ。ティファちゃんの傍にいると、良い男の人が後から後から現れるんだってさ。その人達をじっくり観察して、本当にめぼしい人に声をかけて行けば、きっとこれから素敵な人と結ばれそうだって言ってるんだよ〜!」

「「「「え!?」」」」

「というわけで、今度のお見合いパーティーも娘と一緒に」
「行きません!!!」
「え……」
「私はもう行きません。一度だけってお約束だったじゃないですか。それに、私は結婚したいからパーティーに行っている人達とは違うんですよ?それなのに、もしも私を目当てで…っていう娘さんの言うことが本当だったらその人達に失礼じゃないですか!それに……」
「「「「それに……?」」」」
「私には…そのパーティーで結婚したい人に出会う事は絶対にないんですから…」
「「「「あ………」」」」

「クラウド…顔紅いよ」
「本当だ。クラウド、顔真っ赤。たこみたいだぞ」
「………うるさい…あ、そうだ、ティファ、俺もそのパーティーに出ようか?」
「「「「えーーー!!!!」」」」
「そしたら、ティファが変な男に言い寄られてもすぐに助け出せるし、それに………いや、いい…」
「いい……って、気になるじゃない!」
「いや……」
「ティファ、あのね、きっとクラウドはティファの昨日みたいな格好が見たいんだよ」
「マリン!!」
「……そうなの?(///)」
「いや〜、それじゃ、私にとっても娘にとっても願ったり叶ったりじゃないか!それじゃ、ティファちゃん、クラウドさん、今度のお見合いパーティー、よろしくお願いしますよ!」



 それから二週間後、お見合いパーティーに若者達の視線を釘付けにするカップルが現れたとかなんとか…。




 あとがき

 ティファの正装が書きたかったのです。
 そして、本当はクラウドも正装を出したかったのですが、今回は二部にする程でもないかなぁと思ったので、あえてクラの正装は外しました(涙)。
 またいつかの機会にでも書けたらなぁ、と思います。
 そして、またまたタイトル通りの話が書けてない…(汗)。
 皆様、本当にすみません。
 うう、今度こそ!!
 では、ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!!