何かが激しく衝突する音と、何か重い物が壊れる破壊音が響く。 同時に、獣の断末魔が耳障りにあがり、その場にいた人達がビクッ…!と身を寄せ合って縮こまった。 タタタタタンッ! 機関銃の軽やかな音。 何かが何かを切り裂く音。 大地に『液体』が大量に落ちる音。 そしてまた上がる獣の断末魔。 風向きが変わり、縮こまっている人達へ血と獣の匂いが流れ、数人が思わず口元を抑えた。 ビリビリとその場を支配している緊張感が、彼らをがんじがらめに拘束する。 だが、それもようやく終わりを告げた。 「よしっ!これでラストだぜ!!」 「あぁ」 頼もしい野太い声と、淡々とした声が彼らの耳に届く。 恐る恐る、岩陰から覗き見ると、金髪の青年が最後のビーストタイプのモンスターへ自身の最終奥義を喰らわせていた。 「よっし!でかしたクラウド!」 巨漢の男の喜色に満ちた声に、その場がワッ!と喜びに湧いた。 友ゆえに「クラウド、ほんっとうに恩にきるぜ!」 バカデカイ身体を思いっきり折り曲げて、バレットはクラウドに感謝の意を表した。 クラウドは、 「よせ…仲間の窮地を助けるのが仲間の醍醐味…だろ?」 少し困ったような顔をして頭を上げるように促した。 バレットはすぐに頭を上げると、ニカッ!と嬉しそうに笑った。 「おう、そうだな…そうだよな。仲間を助けることが出来るってぇのは、仲間にしか出来ねぇことだし、手助けが出来たときは、『よっしゃ!!』って思うもんなぁ」 大口を開けて笑うバレットに、油田開発の仲間達が嬉しそうに釣られて笑った。 「せめてもの礼だ。今夜はここでゆっくりしてくれ。もうすぐ豪勢な…とは言えねぇけどよ、心のこもった料理が届くことになってっから」 いつもならクラウドはそのようなもてなしを受けず、真っ直ぐ家路を急いでいただろう。 だが、バレットの本当に嬉しそうな顔と、油田開発のメンバー達の顔を見ていると、 『まぁ…たまには御言葉に甘えるのも良いか』 と、いう気持ちになってきた。 彼にしては実に珍しい。 本当なら今日の夜遅くに帰宅するつもりでいた。 家族にもそのように伝えていたため、クラウドは油田開発本部…とは名ばかりのその小さな掘っ立て小屋から出て、外で携帯を取り出した。 今、部屋の中は宴会の準備で大騒ぎだ。 文字通り、本当にうるさい。 油田開発のメンバー達のあの喜びようは、デンゼルとマリンがはしゃいでクラウドにまとわりつくレベルをはるかに超えているし……暑苦しい……。 数回のコール音が途切れ、クラウドはティファに帰宅予定が遅れてしまう連絡を無事に果たした。 電話の向こうで、ティファがクスクスと笑いながら、 『ふふ、楽しんで来てね?私の分まで沢山お話聞いてきてあげて。マリンがとっても喜ぶわ』 優しい言葉をかけてくれたのがとても嬉しく感じられる。 『クラウド、ありがとう』 「ん?」 突然の感謝の言葉に首を傾げる。 携帯の向こうから、彼女が微笑んでいるのが伝わってきた。 『バレットの気持ちを汲んでくれて』 「あぁ…」 そのことか。 クラウドは納得しつつ、この細やかな心配りが自然と出来るティファを改めて『すごい女性だ』と思った。 あたかも自分が嬉しいことをしてもらったかのように、クラウドの心遣いを喜ぶ彼女は本当に素晴らしい人だと思う。 そして、そんな彼女の傍にいることを許されている幸福を思い、じんわりと胸が温かくなった。 『でも、飲みすぎには気をつけてね?』 笑いを含んだその言葉に、クラウドは「あぁ、じゃあな」と、素っ気無い一言で電話を切った。 その素っ気無い一言にどれほどの思いを込めているのか、彼女には十分伝わっているはずだ。 「クラウド、終わったか〜?」 野太い声がドアの内側から投げかけられる。 丁度携帯を切った後で良かった…。 クラウドは内心でそう思いながら、ゆっくりと木戸を開けた。 中には、クラウドの予想をはるかに超えた『マシ』な食べ物がところ狭しと並べられていた。 ここ油田開発の土地は非常に物資に乏しい。 正直、バレット達の栄養状態が心配されるほど、食材には限りがあった。 だから、クラウドが紺碧の瞳を軽く見開いて驚いたのは、精一杯のもてなしをすべく奔走した油田開発メンバー達にとって実に喜ばしいことだった。 「へへ、まぁ座れよ」 デカイ身体を落ち着きなく椅子の中でモゾモゾさせながら椅子を勧める。 いつもはほとんど反応のない無愛想な仲間が、僅かとは言え驚いてくれたのが妙にむず痒くて嬉しいらしい。 油田開発メンバー達も、めいめい好きな席に腰を下ろし、それぞれビールが注がれているジョッキを手に取った。 クラウドもゆっくりと腰を下ろす。 「ん〜、では!!」 コホン。 わざとらしい咳払いをして、バレットが野太い腕を掲げた。 ビールの泡が揺れてツツーッ…とこぼれる。 「無事にモンスター駆除を終えたってぇことで、また明日から頑張るぜ!!」 「「「「「 おおーーー!!! 」」」」」 ガション! 景気の良い音と共に、男達の明るい声が上がる。 クラウドも軽くジョッキを掲げて乾杯に応えると、一気に半分ほど呷った。 「クハ〜〜ッ!美味い!!」 バレットは一息で飲み干すと、ジョッキをテーブルに勢い良く置きながら口元をグイッと拭った。 そそくさと油田開発のメンバー一人が、バレットの空いたジョッキを下げる。 そして、代わりの持ってきたのは樽。 それを何の違和感もなく、 「お、いつもすまねぇなぁ」 そう言って笑いながら受け取ったバレットに、クラウドは呆れたような顔をした。 油田開発のメンバーが誰もそれに対して突っ込まないところを見ると、どうやらいつものことらしい…。 マリンが知ったら真っ赤になって怒り出すこと間違いない。 クラウドは、マリンに言って良いものかどうなのか、チラリ…と考えながら宴会の料理を口に運んだ。 とにかく、油田開発のメンバーは陽気だ。 しゃべる。 笑う。 飲む。 踊る…。 バレットの周りには、真っ黒に日に焼けた男達が真っ白な歯をむき出して笑っていた。 クラウドも、何人かに話しかけられたり、酒を注がれたり…。 適当に相手をしつつ、相手をされつつ過ごしていたが、とにかく元気で陽気、そしてとても気の良い連中だ、と感心していた。 正直、油田開発はまだまだこれからの事業。 困難なことが多い。 土が崩れ、天候にも左右され、当然のことだが何かをするためには金が必要だ。 その限られた金の中から最大限の利益を生み出さなくてはならないこの『油田開発』は、荒海にわざわざ航海に出る船乗りのような危険さを伴う。 今回、クラウドがバレットからのSOSを受けてモンスター駆除に尽力したのもそのせいだ。 バレットの武器は当然のことだが弾薬を使用する。 弾薬だってタダではないのだ。 それに、バレット一人でモンスター駆除をするにはいささか大群過ぎた。 油田開発メンバーの中に、負傷者が出てからでは遅い…。 そこで、急遽、クラウドにSOSが入ったのだ。 武器はバスターソード。 どこぞの忍びのように『それ相応のギルをよこしな』などと言われる心配もない。 もっとも、ユフィとて仲間のSOSに対して『対価をよこせ』など言わないだろうが、『ウータイの忍』に正式な要請を行うとなると、やはり金が動く。 ユフィにその気がなくても、ウータイという『ブランド』の力を借りるなら、その辺のこともわきまえておかなくてはならない。 そうしないと、今度はユフィ自身がウータイにおいて居心地が悪くなる。 ― 『その……悪いな…』 ― バレットからSOSを受けたクラウドは、即答で了承を伝えた。 その時のバレットのホッとした声音。 ちょっぴり織り交ぜられた『申し訳ない』という気持ち。 水臭い。 クラウドはそう思った。 配達の仕事は難なく調整出来た。 急ぎの配達のみを行い、配達が終わった足でバレットの元へ駆けつけた。 そんなクラウドをティファと子供達は尊敬と信頼の眼差しで送り出してくれた。 ― 『クラウド、無茶しないでね?』 ― 温かな茶色の瞳を揺らめかせた彼女の姿が、まぶたの裏にくっきりと浮かべることが出来る。 声を、あたかも耳元で聞いているかのように思い出すことが出来る。 「おい…なぁに考えてやがんだ〜?」 クラウドの意識が、夢想から現実に引き戻される。 目を向けると、巨漢の仲間がニヤニヤしながら赤い顔をして人の悪い笑みを浮かべていた。 「別に」 ふい…、と視線を逸らす。 バレットは大口を開けて笑いながら、また樽からビールを直接呷った。 クラウドはマリンに報告することに決めた。 「ま〜ったくおめぇはよぉ…」 ビールと、本日の成功にすっかり酔っ払ったバレットが、座っている椅子ごとガタゴトと移動する。 クラウドの隣にピッタリくっつくように座りなおすと、持っていた樽の中身を彼のジョッキに景気良く注いだ。 数滴ジョッキからはね、ティファが丹精込めて手入れしてくれている服に飛ぶ。 クラウドの眉間に少ししわが寄った。 「おめぇはほんっとうに見てて歯痒いんだ〜!」 ガバッ! クラウドの肩を片腕で抱き寄せながら、酒臭い息を吐き出しつつ大声を上げる。 泥酔の一歩手前だ。 クラウドは油田開発メンバーの心からのもてなしに甘えたことを後悔した。 「ほんっとうに、男ならな〜!決めなきゃならん時はビシ〜〜ッ!!と決めるもんだぜ〜!?」 分かってんのか〜?? 思い切り不快に顔を背け、野太い腕から脱出を図るクラウドにかまわず、バレットの演説は続く。 油田開発メンバーは、ある者はバレットと同じようにニヤニヤしながら…。 またある者…、特に素面に近い者ほど、バレットの絡み具合に顔を引きつらせていた。 だが、共通しているのは誰も止めようとしないことだ。 止めても無駄だということが彼らには痛いくらい分かっているのだろう。 ついでに、下手に止めたら自分達にとばっちりが来ることも鋭く察知しているに違いない。 クラウドは今すぐにでも帰りたい気持ちになった。 『だが…』 と、自身を引き止める気持ちも何故か心の片隅で頭をもたげている。 逃げ出したい気持ちと、止まって仲間の言葉を聞くべきだ、という相反する気持ち。 結局、バレットの野太い腕と、クラウドの中に僅かに宿った『止まる』気持ちが、クラウドをその場に留める結果となった。 クラウドは溜め息を吐きながら、 「暑苦しい、放せ」 不快感丸出しにバレットの腕を払いのけ、観念したことを伝えるかのように頬杖を着いた。 そんなクラウドにバレットは無意識に安堵したのかもしれない。 真っ赤な顔をしてゲラゲラ笑っていたのに、 「俺はよぉ…」 一瞬にして物悲しい表情に変わった。 ポーカーフェイスを崩すほどではなかったが、それでもその変化に内心でクラウドは非常に驚いた。 チラリ…と油田開発メンバーを流し見る。 誰も彼も、特に慌てていない。 なるほど。 いつものことか…。 そう判断し、クラウドはバレットを見た。 彼の大きな顔はクシャクシャになっており、今にも泣き出しそうだった。 勘弁してくれ…。 絡み酒の次は『泣き上戸』か…? バレットの仲間。 その一種の『義務感』で、クラウドはバレットに目を向けたままジョッキに手を伸ばし、一口呷った。 バレットはグシッ…、と鼻を啜りながら、ガバガバと樽からビールを喉に流し込んだ。 あっという間に樽が空になる。 空になった樽を床にドシン…、と放り投げるようにして置くと、 「俺はよ。ティファにもおめぇにも、ちゃぁんと幸せになってもらいてぇんだ」 酔っ払いのはずなのに、真摯な瞳。 真剣な口調。 クラウドは軽く息を止めると、そっと持っていたジョッキをテーブルに置いた。 黙ってバレットを見る。 巨漢の男は、でっかく息を吐き出しながら、どこか遠い目をして口を開いた。 「おめぇもティファも、本当に似たもん同士でよぉ…。俺も勿論そうだが、デンゼルやマリンもかなり心配してんだぜ?」 形の良い眉を軽くひそめ、黙ったまま先を促すクラウドに、バレットはちょっぴり泣きそうな顔をしながら、軽く頭を振った。 「おめぇもティファも、とことん『甘え下手』なんだよなぁ…。だから、いまだに『自分達は人並みの幸せを手にしてはいけない』って思ってんだろ?」 今度こそクラウドは驚いた。 目を見開いて食い入るように巨漢の男を見る。 バレットはグシッ…と鼻をこすると、 「本当におめぇとティファはバカだ…。大バカだ!」 最後は大きな声でそう言って、バシバシとクラウドの肩を叩いた。 そして、そのままガシッ!とクラウドを抱きすくめる。 巨漢のバレットからすれば、クラウドなど普通の男性が女性を抱きしめるくらいにしかならない。 思わず鳩尾に一発こぶしを叩き込みそうになった。 そんなクラウドを押し留めたのは、 「おめぇもティファもよ、おめぇらを大切に思ってる人間のために幸せにならねぇといけねぇってこと、いつになったら気づくんだ?」 頭を鈍器で殴られたような衝撃。 クラウドはバレットの肩越しに天井を見つめ、そこにいるはずのないかつての『親友』と『仲間である彼女』の姿を確かに見た気がした。 声は聞こえないが、二人の唇が何かを言っているのが分かった。 …なにを言ってくれたのか……分かった。 ― 『バレットの言う通りよ』 ― ― 『俺達のためにも…幸せになれ』 ― あぁ…そうだ。 クラウドはようやっと、それまで目を背けていたことにようやく気がついた。 人並みの幸せを手にしてはいけない。 そう思い、普通ならとっくに行っているはずの儀式を挙げる資格はないと思っていた。 そんなものをしなくても、ちゃんとつながっているから。 それだけで充分だから……と。 だが、それは間違いだった。 自分達を愛してくれている人達の前で正式な『誓いの儀式』を行う。 それがいかに必要としていたことなのかを、今、思い知った気がした。 きっと、バレットだけではなく、ユフィもシドもヴィンセントもナナキもリーブも! ずっと待っていてくれていたのだろう。 いつその大切なことに気づくのか……を。 ズシ…。 ふいに、クラウドにのしかかるバレットの体重が増えた気がした。 かと思った次の瞬間には、バレットはそのままクラウド諸共、床に倒れこんだ。 どうやら寝てしまったらしい。 油田開発メンバーに手伝ってもらって、大いびきのバレットを部屋に運ぶ……のは諦めて、毛布をかけ、それを機に自然解散となった。 今、クラウドは暗くなったその部屋でバレットのいびきを聞きながら、今後の自分達のことを思い巡らせていた。 きっと、最初は彼女も渋るだろう。 自分達にはその資格がない…と。 今のままで幸せだ…と。 だが。 友の心を知ったとしたら、恐らく彼女は賛成する。 歓喜の涙をこぼしながら…。 「早く……見たいな……」 暗闇で一人呟き、クラウドは口元に笑みを湛えた。 まずは指輪を買わなくては。 そして、彼女にありったけの想いを、ありったけの勇気を振り絞って伝えなくてはならない。 「……そうしたら……喜んでくれるんだろ?お前達は…」 ― 『そうそう!』 ― ― 『ハハ、気づくのが遅いんだよ、お前はさ…』 ― ゴロリ。 バレットが転がっている床にそっと身を横たえ、毛布を手繰り寄せる。 早く朝日が昇って欲しい。 そう願いながら、ドキドキと緊張と期待で高鳴る胸を持て余しつつ、クラウドは窓を見つめた。 星が美しく夜空を彩っている。 明日も晴れるだろう。 明日晴れたら、きっとなけなしの勇気も新たに力を得ることが出来るはず。 クラウドは目を閉じ、愛しい人を想いながら眠りについた。 『友ゆえに』心配し、『友ゆえに』心からの言葉をくれた全ての『友』に感謝しつつ…。 あとがき 中途半端に『プロポーズするかも!?』という、言わば寸止めで終わりました(笑) こういういきさつがあったのよ〜、という感じで『隠し』を読んで下さっている方にも楽しんで頂けると嬉しいですvv というわけで、これはDC後のお話という感じですね。 クラウドもティファも、本当に甘え下手だと思うんですよね。 そうじゃなくて、本当はもっともっと、幸せになってくれたら、二人を大切に思っている仲間達も幸せになれるのに、それに気づけない…。 二人は愛すべき鈍感ちゃんだと思います。 そして、そんな二人が大好きですo(*^▽^*)o |