proof of the love

               

               

               

               その日は仕事が休みの休日だった。

               と言っても、世の人々にとって今日は平日だ。

               共に生活を営む二人の子どもは学校へ行っており、

               仕事が休みの日はもっぱら子ども達の相手をしているクラウドは暇を持て余していた。

               何もすることが無いのならどこかへ出かけようかと昼食の後ティファを誘ったのだが、

               どうやらティファはやる事があるらしく、

               結局クラウドは一人で自室に篭り伝票の整理をすることになった。

               クラウドは伝票の散乱するデスクに向かい溜息を吐く。

               よくもここまで溜め込んだものだ、と自分に悪態を吐きつつものろのろと作業を進めた。

               ふと窓の外に目をやれば、空が青く澄み渡っていてとてもいい天気だ。

               こんな天気のいい日に暗い部屋に一人で、

               一体自分は何をやっているのだろうと少し可笑しくなる。

               「ちょっと前までは一人で暮らしてたんだけどな・・・・・・」

               クラウドはそう呟き、さらに可笑しい気分になった。

               ちょっと前の自分は独りであることを望んでいたのに、

               今は一人で居ると何だか寂しく感じる。

               自分は贅沢者だ。

               クラウドはそんな風に思い、意識を一階の方へと向けた。

               今、一階のセブンスヘブンにはティファが居るはずだ。

               もっとも大事に思っている人が傍に居てくれる、それは一見当たり前のことの様で、

               実はとても尊いことだとクラウドは思う。

               そう思うと、やはり自分は贅沢者だと感じずにはいられない。

               「ティファ・・・・・・」

               クラウドが何となくそう呟いた時、ふと甘ったるい香りが鼻についた。

               いったい何の匂いかとその出処をたどってみれば、

               どうやら一階のセブンスヘブンから匂ってくるようだ。

               「何してるんだ?」

               今日、店は定休日だ。

               なので開店準備等をする必要は無く、ティファが店に篭って仕事をする理由は無い。

               なのにティファは昼食をとってから後、店から出てこない。

               実はクラウドもティファが店に篭って何をしているのか気になるのだが、

               ティファはやる事があると言うだけで何をするのかは頑として教えなかった。

               それどころか自分が出てくるまで店には入るなと言う始末だ。

               結局ティファからそれ以上のことを聞くことはできず、

               クラウドは店から追い出される形になった。

               自室に追いやられた今でも何をしているのか気になるのだが、

               この甘い匂いから察するに何か甘いものを作っている様だ。

               「この匂い・・・・・・」

               クラウドは最大限に想像力を働かせる。

               どこかで嗅いだ事のある甘い匂いにいくつもの甘ったるい菓子が浮かんでは消えた。

               クラウドはお手上げとでも言うように溜息を吐く。

               そうして何となく視線を彷徨わせると、不意にカレンダーが目に付いた。

               今日の日付は二月十四日。

               「あ・・・・・・」

               クラウドはその日付に目を留める。

               思い当たることがあった。

               二月十四日という日付と甘ったるい香り。

               この二つにクラウドはとある思い出があるのだ。

                

                

               これはねぇ、一年に一度の思いの証なんだよ。

                

               ほら、あんたにも分るだろ?

                

               分んないのかい?やっぱりまだまだ子どもだねぇ。

                

               これはね・・・・・・。

                

                

               頭の中に懐かしい母の声が響いた。

               それはいつの話だったか、まだ十歳にも満たない頃だったと思う。

               クラウドがニブルヘイムにいた頃の話だ。

               まだ子どもだった頃、クラウドは二月十四日になると不思議に思うことがあった。

               それは毎年この日になると母がチョコレートケーキを焼くことだ。

               クラウドはなぜ母が毎年二月十四日にチョコレートケーキを焼くのか分らなかった。

               それで、ある時思い切って聞いたのだ、なんで二月十四日にチョコレートケーキを焼くのかと。

               その時母が言ったことがクラウドにはよく分らなかった。

               「今なら分る気がするな・・・・・・」

               クラウドは胸にこみ上げる温かい気持ちに思わず微笑む。

               そこに籠められていた意味に郷愁の思いを感じた。

               そしてまたティファに思いを巡らす。

               「ティファも同じなのか・・・・・・」

               そう思うと、クラウドはいてもたってもいられず、デスクから立ち上がると部屋を後にする。

               階段を下りてティファの居るセブンスヘブンを目指した。

                

                

               セブンスヘブンに続く扉を開けると、カウンターの中で何やら作業をするティファが目に入った。

               クラウドはそんなティファに思わず声を掛ける。

               「ティファ・・・・・・」

               「!?」

               ティファは声を掛けられて初めてクラウドが入ってきたことに気づいたらしく、

               クラウドを見てびっくりしている。

               「クラウド!もう、私がいいって言うまで入らないでって言ったのに・・・・・・」

               「悪い」

               悪びれも無くそう言うクラウドにティファは呆れた風だ。

               クラウドはそんなティファの様子を気にすることなくカウンターの方に近づく。

               「チョコレートケーキ、だよな」

               「えっ!?」

               クラウドがそう言うとティファは慌てたように手元を隠した。

               その手元を覗き込めば、やはりそこにあるのは作りかけのチョコレートケーキ。

               「何で分ったの・・・・・・?」

               ティファを見れば心底驚いたようだ。

               「なあ、何か意味があるのか?」

               「え?」

               「そのチョコレートケーキ」

               クラウドは悪戯な笑みを浮かべてそう訊いた。

               ティファはそんなクラウドにきょとんとした顔をして言う。

               「もしかして、知ってるの?」

               「いや、知らない」

               確かにクラウドはチョコレートケーキの意味を知っていたが、知らない振りをする。

               ティファの口から聞きたい、そう思った。

               「もう・・・・・・」

               ティファは悪戯に笑うクラウドに溜息を吐くと、

               作業で汚れた手を洗ってタオルで拭き、カウンターから出てくる。

               「あのね、昔、母さんが教えてくれたの」

               ティファは少し目線を下げてそう言った。

               「二月十四日にはチョコレートケーキを焼くんだって」

               「何で?」

               少し照れたように話すティファに、クラウドはなおも訊く。

               「えっと、チョコレートケーキには意味があって・・・・・・」

               「どんな?」

               「・・・・・・これはね・・・・・・」

                

                

               これはね、愛の証さ。

                

               母さんから、あんたへのね。

                

                

               母は昔クラウドにそう言った。

               母が作ってくれたチョコレートケーキには母の愛が詰まっていた。

               じゃあ、とクラウドは思う。

               カウンターの方を見れば、そこにはティファの作っていたチョコレートケーキがある。

               「これには、どんな意味があるんだ?」

               クラウドはティファの近くに歩み寄ると、その髪に手を伸ばす。

               右手でティファの黒いつやつやとした髪を優しく撫でつつ、左手をその後頭部に伸ばした。

               そして、そのままティファを己の胸の中に包み込む。

               「なあ、教えてくれ」

               ティファは大人しくクラウドの背中に手を回した。

               「だから・・・・・・、えっと・・・・・・」

               「ん?」

               クラウドはティファの様子に笑いを堪えつつもその髪を優しく撫で続ける。

               そうするとティファは観念したのか、顔を上げクラウドの瞳を見つめてきた。

               そうして口を開く。

               「このチョコレートケーキには、愛が、詰まってるの」

               ティファは頬を紅く染めつつ、しどろもどろに続けた。

               「私の」

               「うん」

               「クラウドに対する」

               「うん」

               「愛が」

               「うん」

               「詰まってるの・・・・・・」

               言葉の最後は恥ずかしさゆえか掠れてしまった。

               ティファは耐え切れないという様にそのまま顔を伏せてしまう。

               クラウドはそんなティファに微笑むとその頬を両手で包み込む。

               そうして顔を近づけると、ティファの唇に口付けを落とした。

                

                

               毎年、二月十四日に焼くチョコレートケーキ。

               それは、

               甘い、

               甘い、

               愛の証。

               

               

               

               

               

               

               あとがき

               

               やっと書き終わりました〜。

               時間掛かった・・・・・・。

               えっと、バレンタイン記念小説です。

               てな訳で、チョコレートを絡ませた話。

               母親の話云々は贈呈です。

               きっとティファの作ったチョコレートケーキはクラウドがおいしく平らげてくれたことでしょう。

               いや、子ども達にも分けてやれ。

               てことでですね、どうしようか迷ったんですけど、

               バレンタイン記念なのでこの小説はフリーにします。

               こんな小説でよろしければご自由にお持ち帰りください。

               配布期間は二月いっぱいです。

               我がサイトに足を運んでくださる皆様に感謝の気持ちを込めて。

               FF関連の同人サイトをお持ちの方は転載OKです。

               しかしフリー配布って勇気いるな・・・・・・。

               2008/2/1 雛1


 感想♪

 おおう………!!
 涙ものですよぉ!!!!
 甘々クラティ、イエ〜イ♪

 フリー配布……素晴らしいですぅo(≧∇≦o)(o≧∇≦)o
 ありがたく頂戴させて頂きましたo(*^▽^*)o
 雛様って本当に太っ腹♪

 雛様の素敵サイトはこちらです〜♪