「クラウドのバカ!サイテー!!」

 目に涙を一杯浮かべ、吐き捨てるようにそう言ったティファにクラウドの胸が激しく痛んだ。
 次いでに彼女に思いっきり引っ叩かれた左頬を中心に顔面が焼き鏝(ごて)を当てられたかのように熱く痛む。

「頼む、話を聞いてくれ!!」

 頬の痛みで目が霞みそうになりながら、背を向けたティファに手を伸ばすが、
「触らないで!汚らわしい!!」
 あっさりと振り払われた。

「ティファ!!」

 彼女からの返事は、蝶番(ちょうつがい)が弾け飛ぶのでは!?と思われるほどの勢いで閉ざされたドアのみだった。






移り香







 なんだってこんなことに…。

 クラウドは閉ざされたドアの外でガックリと肩を落とした。
 ドアの向こうからは彼女が泣いている気配がするが、ドアを叩いて開けてくれるよう懇願することも考えたが、今は深夜。
 今の騒ぎで子供たちは起きてこなかったのが奇跡に近いのに、ここでドアを叩いてティファに呼びかけたりしたら確実に起きてしまうだろう。
 幼い子供たちにはまだまだしっかりとした睡眠が必要だし、なによりも、余計な心配を与えてしまうことが分かっている現場を目撃させることもない。
 と言うよりも、こんな情けなさ過ぎる姿を見られたくない…。
 そんなこんなを考えてしまうと何一つ状況を打破するために行動出来ず、ただひたすら帰宅してから今までのやり取りを思い起こし、ため息をつくばかりだった…。


『サイテー!』


 たった今、吐き捨てられたティファの台詞が耳にこだまして胸がズキズキと痛む。
 確かに何度も約束を守れなかった自分が悪い…と反省しきりだ。
 反省…というよりも猛省と言った方がいい。
 悔いても悔いきれない…と表現すると大げさかもしれないが、それでもここ1ヵ月ほどの己を振り返ると頭を抱えてしまいたくなる。
 そして極め付けが…今日。

 度重なる『家族との約束』を破ってきたことがクラウドの中でいよいよ耐えられなくなっていた。
 いくら仕事とは言え、約束を何度も破らなくてはならない状態になってしまったことが申し訳なさ過ぎる。
 だが…。


『触らないで!汚らわしい!!』


「……それはないだろ…ティファ…」

 思わずこぼれた情けなさ過ぎる言葉が、シーン…と静まり返った廊下にコロリと落ちる。
 確かに約束を守れなかった自分が悪い。
 悪いのだが、何故に『触らないで!汚らわしい!!』とまで言われてしまったのだろう…?
『触らないで』だけならまだ分かる。
 約束破りの最低男に触れられるなど、腹立たしい以外の何者でもない…かもしれない。
 しかし、『汚らわしい』とは…一体なにごとだろうか…。

「…俺、そんなに臭いのか…?」

 いや、かなり汗臭いとは思う。
 何しろ、これ以上は無理!てなくらいに必死になってフェンリルを走らせたのだから。
 モンスターの大群を倒しながら追い抜き、泥にはまりかけて立て直し、エッジの入り口についてからはエンジンを切ってひたすら家まで愛車を押して走った。
 そう、走ったのだ、自分は。
 いつもなら重いフェンリルを押すのは歩いているのに、今夜は何が何でも日付が変わるまでに!と思ったものだから、疲れた身体に鞭を打って走った走った。
 息切れしすぎて呼吸困難になるくらい走った。

「……そりゃ…汗臭い…とは思うけど…」

 でもそれにしても、『汚らわしい』はないんじゃないだろうか…?
 ちょっと可哀相過ぎないか、俺……。

「いや……それでもやっぱり俺が悪いんだけど…」

 自分自身に同情しかけてフルフルと頭を振る。
 つくづく甘ちゃんだ…と思う。
 ティファが怒るのも無理はない。
 いつまでもこんな風に甘えていたら、いつかティファに愛想を尽かされる、とか思っていたくせに、結局こんなことになるまで自分を諌めることが出来なかった。
 本当に…サイテーだ、ティファの言うとおり…。

 クラウドはその場から動くことも出来ず、ドアにもたれるようにしてズルズルと床に座り込んだ。


 *


「イタッ!!」

 突然後頭部に激痛が走り、クラウドは一気に目を覚ました。
 後頭部を押さえ込んで呻いていると、
「ご、ごめんねクラウド!」
 慌てたティファの声が鼓膜を打った。
 急いで振り返ると、ドアでクラウドの後頭部を強襲したティファが至近距離で顔を覗き込んでいた。

「「 !! 」」

 あと数ミリずれていたら、間違いなく『モーニングキス』になっていたその距離に暫し固まる。
 先に我に返ったのは珍しくクラウドだった。
 後頭部に回していた手をさっと彼女に伸ばす。
 気づいて身体をそらせようとしたティファの肩に腕を回して思い切り抱きしめる。

「本当にごめんティファ、約束守れなくて…。反省してる」

 昨夜からずっと考えていた謝罪の言葉は全部吹っ飛んだ。
 拙すぎる言葉のみが口から出る。
 しかし、それを情けなく思う余裕などない。
 今、こうして掴まえられている一瞬だけかもしれないのだ、彼女への謝罪の時間は。
 対してティファは、クラウドの腕の中で身を硬くしていた。
 それが、自分への無言の怒りのように感じられて、クラウドは肝が芯の芯まで冷える心地だった。

「クラウド……昨夜シャワー浴びてないのね…」

 ようやっと口を開いてくれた彼女の台詞に、ドキッと心臓が跳ねる。
 しまった!と後悔するが遅い。
 床に座り込んでから何もする気力が湧いてこなかったクラウドは、そのままドアにもたれてウツラウツラしてしまったのだ。
 完全に眠りこけてしまったのは恐らく数十分前かとは思われるが、それまではずっと『あ〜でもない』『こ〜でもない』とグルグル反省と謝罪の台詞を考えていたため、シャワーを浴びて汗の臭いを流すことをしなかった。

 ガバッ!とティファの身体を引き剥がし、自身の汗臭さから遠のける。
 しかし、完全に彼女から手を離してはおらず、両肩はしっかりと掴んでいた。

「あの……ごめん……汗臭かった…よな……?」

 恐る恐る訊ねると、強張った顔をしていたティファの表情が微妙に変化した。
 まるで『なに言ってるの?』と言わんばかりだ。
 その顔にクラウドは益々焦る。

「ごめんティファ!その、昨夜はモンスターに襲われたり泥にはまり込みそうになったりして冷や汗かいてて、それだけじゃなくってエッジの入り口からここまでフェンリル押して走ったから汗だくになっててさ…。そりゃ、ティファもイヤだよな、汚いし…うん、ごめん、悪かった…でもな」

 言葉が途切れたらその瞬間にティファから三行半を叩きつけられるかもしれない、という言いようのない恐怖がガチガチにクラウドを締め付けていたため、必死に言葉をつなげる。
 しかし、言えば言うほどティファの顔が怪訝そうになり、薄茶色の目が眇められていく…。

「ティファ…?」

 あまりにもティファが怒りの表情よりも不審そうな顔をすることに何となく『チグハグ』なものを感じて言葉が止まってしまった。
 もしかして、ティファを泣かせてしまった理由や『汚らわしい発言』された理由は、自分が思っているものとは違うのかも?とありもしない可能性が脳裏を過ぎった。

「クラウド…本気で言ってるの?」
「え…?」

 唐突とも言える疑問の言葉に戸惑うと、ティファの顔にまた怒りが走った。

「だから!何度も約束を破ったこととか、汗臭いことを私が怒ってるって本気で言ってるの!?」
「え………………………………違うのか?」

 恐る恐る聞き返す。
 第三者からは『そんな聞き方あるか!』と突っ込まれそうだが、クラウドはそこまで冷静に考える余裕などなかった。
 当然のように、
「そんなわけないじゃない!」
 と即否定される。

「じゃあ……なんで怒ったんだ…?」

 クラウドは気づいていなかったが、心底情けない顔をして首を傾げたその様にティファは激しく動揺した。
 瞳を揺らめかせながらクラウドの表情を1つも見逃さないようにじっと見る。
 ウソや誤魔化しが彼にないと悟った瞬間、ティファの顔から怒りがゴッソリと抜け落ちた。
 代わりに途方に暮れたように、
「え……じゃあ…私の勘違い…?でも……」
 と、自分の中で消化不良の思いを持て余しているようだった。
 そんなティファを目の前に、クラウド自身も途方に暮れていた。
 なにがどうなってティファが激昂したのか分からないままだし、彼女の中で何が変化したのかさっぱり見当もつかないのだから。

「あ、クラウド〜!」
「クラウド、おかえり〜!!」

 そこへ割り込んだのは寝ぼけ眼(まなこ)で起きて来た子供たちだった。
 クラウドとティファが廊下にへたり込んでそれぞれ葛藤しているところへ満面の笑みで駆け寄った。
 半分寝ぼけていた頭はクラウドを見た瞬間にすっきりと覚醒している。

「クラウド〜、なんで昨日も遅かったんだよ〜!ティファ、すっごく楽しみに待ってたんだぞ?」
「そうだよ。私たちも楽しみにしてはいたけど、最近お仕事が急に入ってきちゃって予定が狂うのが当たり前になってきちゃってるでしょ?だからもしかしてまたそうなるかなぁ…とか思ってて、本当にそうなっただけだからあんまりショックじゃなかったけど、ティファはショックそうだったんだよ」

 子供たちに暴露され、みるみるうちに真っ赤になったティファは子供たちをアワアワしながら止めようとしたが、勢いづいている子供たちの前では無駄な抵抗だった。

 と…。

「あれ?」

 マリンがキョトン…と首を傾げた。
 クラウドからティファへ視線を移す。
 顔を寄せて「ふんふん…?」と鼻をひくつかせ、不思議そうに、
「あれ〜…?」
 と首を捻った。
 その仕草にティファはサッと顔を強張らせ、クラウドは眉根を寄せた。

「なんだよ、マリン」
「うん、なんかね、お花の匂い…に近い甘い匂いがするから、ティファかな?とか思ったんだけど違うから」

「花?」と、マリンに倣ってデンゼルも鼻をひくつかせる。
 ティファはいよいよ表情を硬くして唇をグッと引き結んだ。
 そんなティファの様子に子供たちは気づかなかったがクラウドは内心首を傾げた。

「「 あ!! 」」

 クリクリとした大きな子供たちの目が自分に集まったのを見てクラウドは少し身体を仰け反らせた。
 な、何だと言うのだろう…?

「「 クラウド、香水つけてるの!? 」」
「は…?」

 クラウドは自分の耳が睡眠不足と過労とストレスのために狂ったのだと本気で思った。


 *


「……………ティファ…」
「ごめんなさい…」

 目の前でうな垂れているティファに、クラウドは何と言って良いのか分からずただただオロオロとしていたが、海の底よりも激しく落ち込んでいるらしい彼女にかけるべき言葉が見つからないという己の不甲斐なさにほどなくしてティファと同じようにどん底の顔をして落ち込んだ。
 そんな親代わり2人を子供たちがしみじみと、
「ティファって意外とそそっかしいんだな」
「仕方ないよデンゼル。ここ最近ずっと予定が狂っちゃうくらい沢山お仕事入ってきちゃって、寂しかったんだよティファ」
 などと大人のような言葉を交わしている。
 しかしながら、当然のように本当の大人2人は子供たちに突っ込みを入れたり苦笑いをする余裕などない。
 ひたすら、
「ごめんなさい」
 と、
「いいんだ、俺の方こそ悪かったんだから」
 を繰り返している。

「でも、クラウドはちゃんと断ったんだよね?」

 可哀相なやり取りを繰り返す親代わりを哀れと思ったのだろうか?
 マリンが絶妙な助け舟を出した。
 当然!と言わんばかりに勢いよく顔を上げて頷いたクラウドに、デンゼルが肩から力を抜いて笑った。

「だってさ、ティファ。ならもう良いじゃん?きっとこれからはクラウドの予定がバカみたいに狂うこともないだろうし」
「そうだよね。うん、良かった〜。やっぱり家族揃った時間って大切だな〜、って思ってたんだ〜」

 ニコニコ笑うデンゼルとマリンにようやっとクラウドとティファは顔を上げ、気恥ずかしそうに頬を緩めた。
 ようやくホッと空気がほころぶ。

「それにしてもクラウドって意外だったよな」
「なにが?」
「子どもが好きってところが」
「あ〜、そうだね。なんか『興味ないね』って言いそうなのにね〜」

 おかしそうに笑うマリンとデンゼルに、クラウドは苦笑を浮かべた。


 ―『クラウドさんならきっと、素敵な父親になるでしょうね』―

 憂いをほんの少し湛えた美女がこのような台詞を口にした瞬間、クラウドの中で警鐘が鳴り、彼女の申し出の全てを断った。

 彼女は荷物の受取人だった。
 たまたま配達した時、ちょっと小柄な彼女が天井の電球を替えようと高い脚立に上っていた。
 その危なっかしすぎる光景に、クラウドは何の気なしに電球を交換してやった。
 彼女が喜んだのは言うまでもない。
 その日はたまたま後の仕事がなかったことと、外は雨が降り出していたこともあって雨宿りも兼ねて彼女が『お礼』として用意してくれたお茶をご馳走になった。
 そのお茶の席でまだ小さい子どもを抱えて離婚していた、と言う話しを聞いた。
 離婚した理由が夫との人生観の相違であることや、まだ小さい子どもから父親を奪ってしまったような形になって申し訳なく思っている等々の話を聞いた。
 しかし、その語り口調は決して女々しいものを感じさせず、むしろあの旅で失ってしまった大切な『彼女』を少しだけ思い起こさせるような明るい美人だったので、クラウドはイヤな気持ちを抱かなかったが、柔らかな物腰をしているくせにどこか殻のようなものを感じさせる彼女に少し壁を感じてもいた。

 何しろ、子持ちとは言え彼女は若くて美人。
 言い寄る男が結構いるらしい。
 ずっと子どもと2人で生きていく、とは思っていないそうだがそれでも今のところ彼女と幼い子どもを丸ごと預けられるような男性は現れていないらしく隙は見せられないと思っていた節がある。
 だから、彼女は常に隙を作らないように頑張っていた。
 頑張っていたが、それでも女1人では限界がある。
 重たいものを運ぶことも女の細腕では難しい…。

 ―『すいません、バザールで食器棚を買ったんですけど届けてもらってもいいですか?商品はまだ市場の方に置いてもらってるんです。私の名前を出したらすぐ分かっていただけますから』―

 それに、小さい子どもが熱を出したりした時は本当に大変だ。

 ―『クラウドさん、ごめんなさい。お薬を届けて欲しいんです。あの子が熱を出しちゃって…』―

 クラウドはそのSOSにもすぐ応えた。
 まだ小さい子どもが熱を出して苦しんでいる。
 しかもその子は幼い頃の自分と同じで父親がいない。
 人見知りがちな幼子がまるで小さい頃の自分を見ているようでほっておけない気持ちにもなっていた。
 彼女が求めていた薬を手に入れすぐ訪問すると、いたく感激してくれた。
 腰を90度近く折り曲げて礼を言う彼女に早く薬を飲ませてやるように言うとその日はとりあえず帰った。
 その翌日、彼女からお礼と子どもの熱が下がったという電話が入った。

 それから彼女の態度から硬い殻のようなものが消えた。
 彼女の態度がうんと軟化したことをきっかけとしたかのように、子どもが急速にクラウドに懐きはじめた。
 これまで奥の部屋に続くドアの影からジーッと見ているだけだった小さい小さい少年が、ニコニコ満面の笑みを向けて抱っこをせがんでくる。
 その変化を嬉しく思わないはずがない。
 マリンと初めて会ったときよりもまだ幼い少年を抱き上げると、なんとなく無性に愛しく感じられてしまっていた。
 だから、彼女からのSOSには割りと気軽にフットワークも軽く応じるようになってしまっていた…。
 SOSの内容も、別におかしなものではなかったことも理由として挙げられるのだが…。

 しかし…。

「この子に父親を与えてあげたいって思ってるんです」

 彼女が用意してくれた『お礼』と言う名の食事を前に、クラウドはポカン…とした。
 いつもの笑顔とは違って少し緊張気味の彼女にイヤな予感が急速に広がる。
 そして決定的な一言。

「クラウドさんならきっと、素敵な父親になるでしょうね」

 折角の食事も手をつけず、立ち上がると頭を下げた。
 これまで気を持たせるようなことをしてしまったかもしれないことも、彼女の気持ちに応えられないことも、そして、これから先、SOSには応じられないことも、全部全部を謝罪の言葉と共に告げた。

「ごめん、もう来ない」

 そう言って背を向けたクラウドの背に彼女はしがみついてきた。
 いつも身に纏うようにして付けている花のような香水の香りを振りまきながら…。


 *


「本当に本当にごめんなさい、とんでもない勘違いをしちゃって」
「いや、だから良いんだってばティファ。俺が悪かったんだから」

 クラウドはうな垂れて猛省しきりのティファを宥めつつ、心の底からホッとしていた。
 誤解が解けたこともホッとしたし、自分がここまで想われていたのだ、と分かってホッとした。
 ホッとするとどうしようもなく眠気が襲ってきた。
 恐縮しきりのティファとすっかりマイペースで朝食を頬張っている子供たちに休ませて欲しい、と断りを入れて席を立つ。

「あ〜、仕方ないよなぁ、クラウド、昨夜まともに寝てないみたいだし」
「そうだね〜。折角みんなで過ごせるなぁ…とか思ったけどクラウド、目の下にクマ出来てるし…。ゆっくり休んで」

 聞き分けの良い子どもたちに感謝を伝え、階段に向かう。

「ティファも寝てきたら?」

 マリンの言葉に足が止まった。
 ビックリした内心を押し隠すようにしてゆっくり振り返ると、真っ赤な顔をしてアタフタしているティファにデンゼルが大きく頷いていた。

「そうだよな、ティファも寝てないんだろ?どうせティファのことだから考えなくても良いことをグルグル考えててまともに寝てないんだろうし」
「うん、それじゃあ後片付けは私たちが勝手にしてるからティファも寝てきて?体調悪くなったらそっちの方が困るし」
「あ、俺たち今日も友達と公園で遊ぶ約束してるからさ。後片付け終わったら鍵かけて行ってくるよ」
「今夜はお店、お休みするんでしょ?だったら夕方から夕涼みに連れてって。それだけで私たちは満足満足」
「そうそう。じゃ、クラウド、ティファ、お休み〜」

 一言の反論も出来ないまま、まるで追い立てられるように2人は2階へ押しやられてしまった…。
 そうして…。

「なんか…2人の方が俺たちよりうんと大人な気がしてきた」
「うん…私も…」

 2人寄り添ってウツラウツラしている。
 朝からベッドでまどろむことが出来るなど、なんたる贅沢か。

「それにしても、『汚らわしい』にはびっくりした…マジで凹んだ…」
「う……………ごめんなさい」

 クスクス笑いながらそう言うクラウドにティファは小さくなってボソボソ謝った。
 その間もクラウドの腕が彼女の身体に巻きついて離れない。
 いや、良いんだ…と言って、クラウドはティファをキュッと抱きしめて頭頂部に顎を乗せた。

「こうしてたら……」
「うん?」

 クラウドの声がいよいよ、眠気をたっぷり含んでくる。
 応えるティファの声もウトウトと半分以上、夢に足を突っ込んでいるようだ。
 それでも2人は言葉を交わしている。
 まるで睦言のように…。

「こうして引っ付いてたら…、ティファの匂いしか移らないよな…」

 いつもなら真っ赤になるはずのティファは、夢うつつでまどろんでいるせいか薄っすら笑った。
 笑ってクラウドの胸に頬を摺り寄せた。

「なら……こうしてたら私にもクラウド以外の匂いは移らないね」
「……あぁ……そう……だな……」

 最後はまるで吐息のように空気に溶けると、2人はゆるゆると眠りに落ちた。
 お互いに大切な人へ自分の想い(かおり)を移すかのように寄り添い合って見る夢は、きっと幸せ一色。



 あとがき

 とあるお素敵な方から素敵過ぎるネタを頂戴しまして、いつか書きたい!と思っておりました!!(キャーッ、書いちゃったよ〜)

 はい、『そのネタ提供したのは私よ〜!』とか優越感に浸ってもらえたら嬉しいなぁ、とか思いつつ書いたのに、なんだよこのオチ…((((_ _|||))))

 寄り添って眠る。
 ACCの教会で2人仲良く失神するシーンに多少の不満を持つマナフィッシュですが、こんな感じでお互いにギューッてし合って眠りに落ちて(失神)欲しかったと今でも思います。