「何だよ、良いだろう!」
「駄目だ!」
「ったく、別にお前はマリンを女の子として好きなわけじゃなくて、家族として好きなんだろう?」
「………そうだけど…」
「なら良いじゃん!」
「でも、それとこれとは話が別だろ!」



我が家の兄妹




「何を言い争いしてるの…?」
「「うわっ!!」」
 先程から店の扉の前が騒がしい、と思ったら扉の前にはデンゼルと、以前マリンを賭けてデンゼルと駆けっこをして勝った男の子が、何やら言い争っていた。
 そして、その男の子は何と、今日もお洒落をしており、その手には小さな花束まで握られているではないか!

 ティファは、一目で男の子がマリンをデート(?)に誘いに来たのだとピンと来た。
 ティファに見つかってびっくり、ドッキリ、な二人に思わず苦笑する。

『まったく、最近の子供達ってこんなにおませさんばっかりなのかしら…』

 そう思いながらも、娘の可愛らしい容姿では、こんなに人気があっても仕方ない…などなど頭の中で親バカ振りを発揮していたりする。

 そんなティファの目の前で、デンゼルと男の子はカチンコチンに固まっていた。
 そして、男の子がデンゼルを肘で突きながら
「お前がごちゃごちゃ言うからだぞ!」
と、小声で文句を言っている。
 いくら小声でも、目の前で言われたら筒抜けなのだが、そんな事は小さい子供には分からないらしい…。
 大人ぶって花束を携え、デートに誘いに来るかと思えば、ひょっこり子供の顔を見せる子供達に、ティファは笑みを抑える事など出来なかった。

「それで、一体どうしたの?」
 聞かなくても分かっているがあえて聞いてみる。

 デンゼルは、何か言いたそうな不満げな顔をして隣の男の子を睨んでいるが、男の子はティファに顔を覗き込まれて焦っている為か、全く気付いていない様だ。
 グッと言葉に詰まると、そわそわとしていたが、やがて意を決した硬い表情で顔を上げ、
「マ、マリンちゃんを、遊びに、さ、誘いに来ました〜!」
と、変に上ずった声を出した。

 顔を真っ赤にさせながらもそう言った男の子に、ティファは微笑を漏らした。
 そして、隣で益々睨みつけているデンゼルに苦笑すると、男の子に向き直る。
「マリンを誘いに?マリンは知ってるの?」
「い、いいえ!今から誘うつもりだったんです!!」
 肩に力の入りまくっている男の子に、ティファはにっこり微笑むと「じゃ、呼んで来るからちょっと待っててね」と言い残して店に入ろうとした。
 そこへ、「あ!だ、駄目だよティファ!!」と、デンゼルが慌てて回り込んで立ちふさがった。

「デンゼル?」
「駄目だったら!」
「デンゼル!お前、邪魔するなよな!!」
 目を丸くするティファと、顔を真っ赤にさせて怒る友人の前では、デンゼルも負けず劣らず赤い顔をしている。
「絶対に駄目ったら駄目!」
「ん〜…、何で駄目なの?」
 いつもなら絶対に見せない頑固なデンゼルに、ティファは困惑して目線を合わせた。
 ティファの視線に、少々焦ってた様だったが、それでもどうしてもその先を譲る気は無いようで、しきりに「どうしても!」と言い張る。
 ティファは、いよいよ困惑して友人とデンゼルを交互に見やった。

「デンゼル…。デンゼルが駄目って言っても、もしかしたらマリンがこの子と一緒に遊びに行きたい…、って思うかもしれないでしょ?」
 仕方なく、そう言って諭そうとする。
 が、返ってきた返事は…。

「それはない!」

 という、変に自信のある一言だった。

「へ?」
「な!お、お前、そんな事マリンに聞いてみないと分からないだろ!?」
 びっくりして思わず変な声を出したティファと、益々顔を赤くして怒り心頭な友人の前で、デンゼルは頑として言い張った。
「マリンがお前と遊びに行きたいって言う分けない!そんなの、お前だって分かってるだろ!?」
「な、そんな事マリンに聞いてみないと分からないじゃないか!!」
「分かる!」
「だから、何で分かるんだよ!!」
「何でお前は分からないんだよ!いっつもイヤがられてるじゃないか!」
「そ、それはあれだ!照れてるだけなんだよ!!」
「何自分の都合の良い様に言ってんだ!明らかに嫌がってるじゃないか!」
「違う!照れ隠しだ!!」
「照れてない!本気でイヤがってる!!」
「照れ隠し!」
「イヤがってる!」
「ハイ!二人共そこまで!!」

 口喧嘩をし始めてしまった二人に気圧されて、暫く観戦するハメになっていたティファだったが、ここに来て漸くただの言い合いになった為、二人の間に立ち塞がった。

「もう、デンゼルも君も!マリンにちゃんと気持ちを確認してないんだから、それからまずちゃんとしない事には、先に進めないでしょ?デンゼル、それは分かってるよね?」
「う……そ、それはさ…そうだけど…」
「だったら、マリンを呼んで来て、きちんとこの子と話をさせてあげるのは当然よね?」
「で、でも、ティファ!」
「勿論、マリンを無理やり連れて行こうとしたら、その時は口出しさせてもらうけど、良いよね?」
「え?……ああっと、まあ…、はい」
 ティファが男の子にこう言うと、男の子は明らかに動揺しが、最後にはガックリとうな垂れた。
 その様子に、ティファは
『もしかして、無理やり連れて行くつもりだったのかしら…私とデンゼルの目の前で…?…まさかね』と、一瞬バカな事を考えてしまったが、すぐに思い直し、ムスッとしているデンゼルに苦笑しながら、マリンを呼びに子供部屋へ赴いた。


「マリン、ちょっと良い?」
「うん?何、ティファ。そう言えば何だか下が騒がしかったね、誰かお客様?」
「うん。実はね、この前マリンをアフタヌーンティーに誘った男の子が、またマリンとどこかに遊びに行きたいって今、誘いに来てるのよ」
 ティファは最後まで話しをしたものの、途中からデンゼルの言った事が正しかったと思わざるをえなかった。
 マリンは、ティファの話を聞き終えた頃には、不機嫌そのものの顔になっていたのだ。

「……えっと、それで、…どうする?待ってるけど〜…」
「…………」
 聞く前から返事は分かっていたが、聞かないわけにはいかない。
 苦笑しながら訊ねるティファに、マリンはムスッとした顔をして俯いた。

「…ティファ…、この前着て行ったワンピース、出してくれる…?」
「え!?」
 嫌々マリンが口にした言葉に、ティファは驚いて目を瞠った。
「い、行くの!?」
「………うん」
「どうして!?」
「…………」
「行きたいの?」
「行きたくない!!」
「じゃあ、どうして?」
「う……それは…」
「行きたくないのに行かなくちゃいけないって事だよね?どうして?」
 見事にティファの誘導尋問に引っかかったマリンは、困りきった顔をして俯いた。

「だって…」
「だって、何?」
「あの子、私が行かないと、きっとまた、酷い事言うんだもの…」
「何を!?」
 マリンの言葉に、ティファはサッと険しい顔をした。

 マリンを傷つけるような事を言うのであるなら、黙っているわけには到底いかない!
 ここはひとつ、きついお仕置きをするべきか…!
 男の子が知ったら、さぞかし震え上がるであろう事をティファが考えていると、マリンは観念したようにそっと顔を上げた。

「だってね、あの子ったら『私とデンゼルが将来結婚する』って皆に言いふらすのよ」

 マリンの言葉に、険しい顔をしていたティファは固まった…。

「………へ?」
「だから…、私とデンゼルが仲良いのが面白くないみたいで、『兄妹のくせに、いっつも一緒にいてへんなの!』とか『兄妹で結婚するなんて気色悪〜!』とか友達の前で言うの。そしたら、友達も面白がってからかってくるの…」
 だから、今日一緒に遊んでおかないと、また有る事無い事言って、嫌がらせすると思うの…。

 マリンの口から聞かされた衝撃の真実に、ティファはボーっとしてしまう。

 ……アフターヌーンティーに誘ったり、今またデートに誘ったり……。
 やる事は大人ぶっているものの、やはりまだまだ子供…。
 嫌がらせの何と幼稚な事か…!

 すっかり脱力したティファの目の前では、マリンが重い腰を上げてベッドから立ち上がった。

「ティファ…、この事、デンゼルには言わないでね?」
「え?」
「だって、デンゼル、私が冷やかされると、いつも物凄く怒ってくれるの。それに、あの子の事を私が嫌ってるのを知ってるから、いっつもあの子が遊びに来た時、傍にいて守ろうとしてくれるのよ。デンゼルだって、他の子と一緒に遊びたいだろうし、私の事でイヤな事を言われたくないハズなのに…いつも私を守ってくれるの。だから、デンゼルには内緒にしててね?」

 マリンの言葉に、ティファは先程のデンゼルの剣幕を思い出した。
 必死になって自分と男の子の前に立ち塞がったデンゼルの姿を…。
 一生懸命、マリンの『兄』とも『友人』とも、そして『好きな人』である顔をして、小さいのに必死になっている可愛い我が子の真剣な瞳を…。

 ティファは、熱いものが胸に込上げてくるのを感じた。
 
 どうして、こんなにも子供達は可愛いのだろう…!
 なんて素敵な子供達か!

 マリンを一生懸命守ろうとしているデンゼルも、そんなデンゼルの為に嫌な子と遊びに行こうとするマリンも!!
 本当にお互いを思い合い、支えあっている素晴らしい兄妹ではないだろうか!?
 こんなに素晴らしい子供達を『我が子』と呼べる事を、ティファは誇らしく思うと同時に、どうしようもなく幸福で、満ち足りた気持ちになった。

「マリン!」
「な、何?」
 急に大きな声を出したティファに、マリンは驚いて目を丸くした。
 そんなマリンをギューッと抱きしめると、ティファはにっこり微笑んだ。
「あのね、実はさっきの言い争いはデンゼルとその男の子なの。だから、デンゼルはもう知ってるのよ」
「え!?」
「フフ、だから、もう内緒に出来ないんだし、イヤならハッキリ断って良いと思うわ」
「で、でも…」
 困りきった顔をするマリンに、ティファは明るく笑って見せると、マリンの小さな手を引いて一階に下りていった。

 そこには、マリンを今か今かと待ちわびていた男の子と、憮然としたデンゼルが店の椅子にそれぞれ腰掛け、待っていた。

「あ!マリン!」
「………」
 マリンを見て、パッと顔を輝かせた男の子と違い、デンゼルは益々不機嫌な顔をして、笑いかけるティファからプイッと視線を逸らした。

『あら…拗ねてる』
 滅多にそんな顔を見せないデンゼルに、ティファは可笑しくなって、クスクスと肩を震わせた。
 そして、不安げなマリンに微笑みかけてから、期待で顔を輝かせている男の子に向き直った。

「ね。今日は勿論、マリンと二人だけで遊びたいのよね?」
「は、はい!」
 ティファの問いに、男の子は顔を真っ赤にさせながら大きく頷いた。
 デンゼルはそれを聞いて、益々眉間にシワを寄せ、マリンは憂鬱そうにそっと溜め息を吐く。
 デンゼルのむくれ様に、ティファは金髪・碧眼の彼を髣髴とさせ、可笑しくて仕方がなくなった。
 クスクス肩を震わせるティファを、男の子は少々不思議そうに見ていたが、それよりもティファの後ろにいるマリンの方が気になっている様で、しきりにマリンと目を合わせようとするが、マリンはあらぬほうを見て完全に無視をしている。
 そして、椅子にはふくれ顔のデンゼル……。
 子供の世界にも子供の世界なりに葛藤があるものだ…。
 そうティファは思うと同時に、自分と彼の子供時代と比べてみて、やはりこの子達は自分に正直な反面、子供らしからぬ大人ぶった所がある気がして、そのギャップが何とも言えず、面白く感じた。

「うん、そうだよね。マリンと二人で遊びたいのよね。でもね、マリンはデンゼルも一緒が良いみたいなの」
 ティファの言葉に、三人は同時にティファを見た。
 デンゼルはびっくり仰天、マリンは目をまん丸にして、そして男の子は明らかにショックを受けた顔をして、ティファを見る。
 三者三様の驚き方に、ティファは益々可笑しくなってきた。
 しかし、込上げる笑いをグッと堪え、ショックを受けている男の子に口を開く。

「どうする?デンゼルも一緒に三人で遊びに行く?それともやっぱり今日は止めにする?」
「え…、えっと…」
 実にさり気なく、しかしハッキリと、デンゼルを交えた三人で遊びに行くか、それとも止めにするかの二者択一を迫るティファに、男の子はオロオロした。
 ティファは更に言葉を続ける。

「それから、マリンとデンゼルは確かに私とクラウドの子供だけど、二人共血は繋がっていないの、ちゃんと知ってるよね?」
「う…、は、はい…」
「だから、デンゼルとマリンが仲良くても、ちっとも変じゃないし、それに例え血が繋がっていても仲が良い兄妹って、仲が悪い兄妹よりもうんと素敵だと思わない?」
「あ〜、その…、はい…」
「ね、そうでしょ?だから、デンゼルとマリンが仲が良いのって、本当に良い事だと思うの。君はどう思う?」
「ええっと、その…」

 間違えても、ここで「おかしいと思う」などと口に出来るはずもない。
 そう、例え大柄な大人の男でも、そんな命知らずな事を言えるわけがない。
 小さな男の子なら尚更だ。
 口ごもる男の子に、ティファはにっこりと微笑んで見せた。
「ね?良い事でしょ?」
「…あ〜、はい…」

 一体誰が、「いいえ!」等と言えようか!?
 男の子は今や、全身から汗を吹き出しつつ、ティファの笑みの前でガチガチに固まっている。
 そんな男の子にティファは止めを突き刺した。

「でしょう?だったら、これから先、デンゼルとマリンについて、色々言ったりしないわよね?だって、デンゼルとマリンが仲が良いのは、私もクラウドも本当に嬉しいんだもの」

 ね?

 そう言うティファの笑顔に、男の子は顔中汗を噴き出させながら必死に頷くしかなかった…。

 デンゼルとマリンは、その光景を目を丸くして見つめていたが、最後にはくすぐったそうに笑い合い、結局三人で遊びに行く事に決定した。

 夕方帰宅した子供達が、実に楽しそうに笑い合っているのを見て、ティファはそこにある確かな幸せを噛み締めた。



「…っていう事があったの」
「ふーん、そうなのか…」
 そして、現在店の営業も無事に終え、ティファは昼間の件をクラウドに話して聞かせている。
「それにしても、子供の世界って大変よね。だって、自分に正直だから、嫉妬すると見境無く色々言ったりするでしょ?大人だったら体面とか気にしてあんまり出来ないと思うのよね」
「そうだな」
「それにしても、今日のデンゼルは何だかクラウドを見てるみたいで可笑しかったわ」
「……俺を?」
 ティファの言葉が意外だったようで、クラウドは目を丸くした。
 そんなクラウドににっこり微笑みかけ、ティファはコーヒーの入ったカップを盆に乗せてカウンターから出ると、クラウドの隣に腰掛けた。
「うん。だって、一生懸命マリンを守ろうとして理由を言わずに頑張る姿が、口下手だけど一生懸命私達を守ってくれるクラウドにそっくりだったんだもの」
「………」
「フフ、子供って親に似るって本当ね。私達は血は繋がってないけど、心が繋がってるんだな〜、って思えて凄く嬉しかったわ」
「……そうか」

 口元を緩ませるクラウドに、ティファは嬉しそうに微笑んだ。

「それを言うなら、マリンもティファに似てるよな」
「え?」
「自分の周りが傷つくくらいなら、自分を抑えて我慢するとことか、一生懸命何でも頑張りすぎるとこ、それから…子供の頃から男の子にもてるとこ」
「……クラウド…」
「でも、そんなティファだから…」
「ん?」
「俺達家族は幸せなんだと思う…」
「…………」
「お、おい…泣くなよ」
「……嬉しいの…!」
「……そ、そうか…?」
「そうなの!」
「……そうか」

 子供達を通して、今の幸せを改めて実感する二人は、やがて微笑み合いながら、今日一日に別れを告げ、また新しい一日を頑張る為に寝室へと向かった。

 それは、幸福な家族の日常の一こま…。



あとがき

マナフィッシュは、デンゼルとマリンはとても想い合ってる!そう思ってます。
ですから、きっとこの関係は大人になっても続いてくれると考えてるのです。
いや、むしろ願望!?(笑)。そんな二人が大人になった時、「こういう事もあったよね〜」とか懐かしんでくれる話を書きたかったのです。(ああ、どうかしら、書けたかしら 汗)

お付き合い下さり、有難うございました!