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クラウドは思った。 何故、イヤな予感というものは外れてくれないのだろう……と。 「あ、ひっさしぶり~~!!おっかえっりなっさ~~い♪」 「 ……… 」 久しぶりの帰宅に浮き立っていた気持ちがあっというまに奈落の底に転落した……。 ワク自分は日頃の行いがよほど悪いのだろうか…? 仕事の疲れがドッと押し寄せる。 久方振りの帰宅。 今回は大陸から大陸に渡っての配達だった為、帰宅したのは実に二週間ぶり。 今夜の帰宅をティファは勿論、子供達も大はしゃぎで喜んでくれていた。 ― 今夜はお店、お休みするわ! ― 電話口で弾む声を上げたティファに、クラウドの頬が緩んだのは半日前。 帰ったら、家族揃って夕飯を食べよう。 その時に、子供達と愛しい彼女の為に買ったお土産を広げよう。 きっと三人とも喜んでくれる。 三人の喜ぶ顔を想像し、二週間と言う長期間の仕事の疲れが吹き飛ぶような心地だった。 それなのに…。 臨時休業のはずのセブンスヘブンが賑やかだった。 クラウドの胸に不吉な影が落ちる。 一瞬、ウータイ産のお元気娘の笑顔がちらつき、慌てて頭を振った。 『ハハ……大丈夫だ。ユフィの気配はない……』 自宅 兼 店のドアの前で中を窺い、不吉な気配がないことを確認する。 そう、ユフィの気配は無い。 だが、誰か他の気配がする。 家族以外の…誰か…。 すっごく会いたくない!と思ってしまう…誰か…。 クラウドは意を決してドアを開けた。 そうして、冒頭に戻る。 「なんでここにいる…」 「今日は~、休日だから~、のんびりと~、したかったんだが~……」 「 ……… 」 「すまないんだなぁ~…っと…」 「今すぐ帰れ」 眦を上げる気力すら沸かない英雄は、ガックリと肩を落とした。 魔晄に彩られた瞳に映るのは、愛しい家族だけではなく…。 「もう、そんな風に言われると本当に悲しいじゃないですか~!」 「イリーナ、お前はもう飲むな…」 「あー!ルード先輩、ダメです、それ私の~!!」 「グハッ!」 「ルード!?」「うわわわ!!」「よせ、イリーナ!」 金髪美女のタークス。 その美女に振り回されているようにしか見えない三人のタークス。 子供達は遠巻きに四人を見つめながら、そっとクラウドに寄り添った。 「なんかね…」 「あの姉ちゃん、すごいんだ…」 ポソリ。 子供達は『おかえり』という言葉すら忘れ、脱力するクラウドに話しかけた。 「あのグラスの中身、何だと思う?」 「……まさか、ウータイの地酒か…?」 「…大正解」 「 ……… 」 マリンの問題に見事正解したクラウドは、デンゼルの『大正解』という台詞に眩暈を感じた。 「…何杯目だ…?」 「三本目なんだなぁ~…っと」 コソッと子供達に尋ねたが、その質問に答えたのは深紅の髪を持つお調子者。 クラウドは目を見開いた。 「…今、なんて…?」 三杯目…と言って欲しかったのに…。 「「 三本目 」」 子供達が声を揃える。 三本!? 言葉をなくす英雄に、金髪美人のタークスはニッコリと微笑んだ。 「これ、本当に美味しいですよねぇ!」 掲げたグラスには無色透明の液体。 頭髪を綺麗に剃っている先輩タークスを一撃でノックダウンさせて取り戻したグラスを満足そうに見つめている。 カウンターのスツールからだらしなく落っこちている部下を抱きかかえるようにしているツォンは、 「…本当に申し訳ない…」 慌てて濡れタオルを用意したティファに頭を下げていた。 「おかえりなさい、クラウド…」 「…ただいま…」 本当なら感動にも似た心地で交わすはずの言葉。 それが、珍妙な四人組によってこんなにも空々しいものになってしまうとは夢にも思わなかった…。 「三本目……って言ってたけど…」 「うん、そうなの…」 「そんなに…飲んだのか……?」 「ええ…そうなの…」 「……そんなに飲めるような酒だったか…?」 「……普通は…無理よ…」 「…だよな…」 「えぇ…」 「「「「 ……… 」」」」 いつもは豪胆なストライフファミリー。 だが、今夜でその名前も返上だ。 紺色のスーツ姿はいつものことなのに、今夜はやけにそれが恐ろしいものに見える。 オタオタとしているタークス三人に囲まれ、金髪美女はご機嫌だ。 ルードから取り戻したグラスを景気良く空ける。 「ん~~、美味しい~!!」 たまらない!と言わんばかりにギューッと眼を瞑って満面の笑みを浮かべる。 そんな美女を前に、いつもは冷静沈着なツォンの顔が青ざめている。 及び腰に見えるのは…気のせいではないはずだ。 漫才コンビであるはずのルードとレノもいつもの姿ではない。 ルードはサングラスを割られて床にのびており、レノは引き攣った笑顔で後輩を見ているだけ…。 上機嫌でグラスに地酒を注ぎ、あっという間に空にしてしまう金髪美女を、四人は怯えたような視線で遠巻きに見つめるのだった…。 『なんでこんなことに…』 クラウドは泣きたくなった…。 「それでですねぇ~、あの時は本当にもうダメだと思ったんですよぉ」 「 ……… 」 「はぁ~。でも、本当にヴィンセントさんには感謝感謝です~!私とツォンさんが生きてるのも、彼のおかげですから~♪」 「 ……… 」 「まだお礼してないんですよねぇ。何が良いと思いますか?」 「 ……… 」 「あ!そうだ、このお酒!すっごく美味しいからこれを10本くらい贈りましょうかね!!」 「……それは多すぎると思うが…」 「ん?そうですか?だってすごく美味しいし、飲みやすいから10本くらい一日で飲んじゃいますよ」 「 ……… 」 とりあえずシャワーを浴びて汗と埃を流したクラウドは、やはり、というか当然と言うか。 金髪美人のタークスに捕まった。 彼女の腰掛けていたスツールが、クラウドの指定席の隣だったことも悪かったのだろう。 ティファの作ってくれた濃い目の酒と、彼女特製の夕飯を口に運びながら、曖昧な返事ばかりを繰り返している。 そのためか、折角のティファの手料理の味が分からない。 あんなに楽しみにしてたのに…。 彼女の作る料理に勝る料理はない!と、配達先の宿屋で思い知らされた日々。 どれほど今夜の夕飯を楽しみにしていたか。 それなのに…。 『味が……分からん……』 その事実にショックを受ける。 疲れ切った顔をして半ば機械的に箸を動かすクラウドに、子供達と男性タークス達、そしてティファが憐憫の眼差しを向ける。 だが、決して身代わりになろうとはしない。 何故なら…。 「ホラホラ、クラウドさんも飲んで飲んで!」 「…いや、俺はまだゆっくりと…」 「もう、男の人なのにもっとこう、景気良くガバーッと!」 「……いや、本当に…」 イリーナは自分のグラスを空けるペースと同じくらい、『獲物』にグラスを空けることを要求してくる。 うっかり『獲物』にでもなったら、とんでもないことになるのは火を見るよりも明らかだ。 既に、ツォンはクラウドが帰宅した時点で青ざめていた。 酒の弱いというこのタークス。 クラウドは、ツォンの顔色の悪さは部下の酒癖の悪さのせいだと思ったのだが、ソファで伸びているルードの傍で水をチビチビ飲んでいることから、実は悪酔いしているせいだったということが分かった。 気分が悪そうに額を押さえながら何度か深呼吸している姿が痛々しい…。 マリンとデンゼルが代わる代わる、冷たい濡れタオルをツォンに渡している。 レノはというと。 クラウドとは反対隣に腰掛けていた。 おしゃべりなこの男までもが、すっかり無口になって水を飲んでいる。 時折、胃の辺りをさすっている姿が、これまで彼がどれほどの被害に合っていたかを物語っている。 イリーナを連れて飲みに行くととんでもないことになる。 そう言えば…そんなことをこの男は言っていた。 それがまさか、こんな形で訪れるとは…。 体験したくなかったのに…。 うっかり溜め息をつきそうになり、クラウドはごまかすようにグラスを空けた。 出来上がっているイリーナの耳に溜め息などが聞えてみろ、大変なとばっちりを受けるはずだ。 そう思っての……半ば反射的な行動。 それが悪かった。 景気良くグラスを空けた…ように彼女には見えたらしい。 目を輝かせて、 「流石、ジェノバ戦役の英雄のリーダー!やっぱり良い飲みっぷりですね~!!」 ダバダバダバ。 クラウドの空になったグラスに自分の抱え込んでいた地酒を注いだ。 カウンターの中でティファが青ざめる。 うっかり注がれてしまったクラウドの顔が引き攣る。 ツォンに新しい水を持っていく途中だったデンゼルが固まる。 ルードの傍で風を送っていたマリンの手が止まる。 そうして…。 「ご愁傷様なんだぞっと…」 沈痛な面持ちで、レノがポソリと呟いた。 どうにも断れない雰囲気。 『なんで…今夜に限って…』 本当に、本当に! 今夜の帰宅を楽しみにしていたのだ! それが、かつての敵にダメにされるとは…。 『ハハハ………もう自棄だ…』 クラウドはグラスを呷った。 グルグルグルグル。 目を瞑っているのに、目が回る感覚。 胃の底から込上げてくる酸っぱいもの…。 気持ち悪いなんてもんじゃない。 喉はヒリヒリと焼け付くほど乾いているのに、例えただの水であろうとも、一口口にしたら途端に嘔吐してしまうだろう。 サイアクの事態。 翳む目を無理にこじ開け、クラウドは自分の現状を把握しようとした。 途端、眩しいほどの光に目が眩み、ガンガンと頭が痛む。 すっかり店内は明るくなっており、陽が高く上っているのが分かった。 「うぅ……」 思わず洩れた呻き声に、誰かが駆け寄ってくる気配を感じる。 「クラウド!」「クラウド、大丈夫!?」「クラウド~、良かった~!!」 愛しい家族の安堵の声。 それは、いつもなら心を温かくしてくれるはずなのに、二日酔いのクラウドにはきつ過ぎた。 ツキーーン!!! 言葉にならないほどの衝撃が頭部を襲う。 再び呻きながら寝返りを打つ。 と…。 身体が落下する感触。 『落ちる!』と、思う間などない。 冷たく、硬い床に叩きつけられそうになったのを救ったのは、温かで柔らかい感触を持つ愛しい人。 スライディングの要領でクラウドの下敷きになると、そのまま膝枕の格好になる。 「クラウド、大丈夫…?」 「………今…何時?」 目を薄っすらと開けると、心配そうな茶色の瞳が真っ直ぐ見つめている。 ガンガンと痛む頭をごまかすように額を強くこする。 ティファは眉尻を下げて困ったような…ホッとした様な顔をしつつクラウドの髪を優しく撫でた。 「10時半よ」 「 ……………………………え!? 」 ティファの言葉が頭に浸透するのに時間がかかる。 10時半!? 予想だにしなかったその時間に、クラウドは飛び起きた。 そして、ビックリする子供達とティファの前で、強い眩暈に襲われてティファの膝に逆戻りする。 「うぅ………気持ち悪い………」 「そりゃそうだよ」 「あんだけ飲んだら…」 「クラウド、急性アルコール中毒になるんじゃないかって心配したんだぞ…?」 右手で口元を、左手で目元を押さえながら呻くクラウドに、三人は弱りきった声を上げた。 「あんだけ……ってどんだけ飲んだんだ……俺……」 「覚えてないの…?」 マリンが不安そうな声を出す。 クラウドは込上げる吐き気と戦いながらゆっくりと記憶を辿ろうとした。 だが、どうにも酷い二日酔いに勝てそうに無い。 ここまで酷い二日酔いは人生初だ。 「クラウド、ウータイの地酒を丸々二本空けさせられちゃったんだ…」 「………本当に…!?」 弱々しく、だが驚きの声を上げるクラウドに、ティファは優しく髪を撫で続けた。 「レノもルードもツォンも…。皆、イリーナに付き合わされてノックダウンだったから、クラウドしか相手がいなかったの…。途中でクラウドと代わろうかとも思ったんだけど、お料理を作れるのが私だけだったから、私は除外されたみたい…」 「ごめんな、俺とマリンは23時まで頑張ったんだけど、どうにも眠くてさぁ…」 「クラウドが一人で頑張ってたのに私達、結局寝ちゃったの…」 申し訳なさそうに打ち明ける三人に、クラウドは浅く呼吸を繰り返しながらもホッとしていた。 「良かった…、ティファ達だけでも無事なら…それで良い…。あぁ…でも……配達が………」 そう。 今日は9時に配達の予約が入っていた。 もう既に一時間以上が経過しているので大遅刻だ。 まぁ、恐らくティファ達がキャンセルの電話をしてくれているとは思いつつも、仕事に影響を出すほど飲んでしまうとは、我ながら情けない…。 「あ、それは大丈夫」 「タークスのおっちゃん達がお詫びに…、って代わりに配達してくれてるから」 マリンとデンゼルの言葉に驚いた…、と言いたいが、正直二日酔いで頭の回らないクラウドにはそれが現実の事として到底受け入れられないでいた。 意味が分からない…。 それが正直な感想。 何故、タークスが自分の仕事の肩代わりを? って言うか、タークスの仕事は良いのか? それよりもなによりも、どこになにを届けて…という根本的な仕事が分かってるのか…? 「あのね、クラウドの部屋の伝票をチェックしてイリーナ達に渡したの。念の為、先方にも確認してるから大丈夫よ」 「………なんか…まだ夢見てるみたいだ…」 「ふふ…そうでしょうね。昨日は一晩中、うんうん唸ってたもの。良く眠れてないでしょう?今日は一日ゆっくりしてて…」 ゆっくりゆっくり、ティファの繊手が頭を撫でる。 その感触が心地良くて、ほんの少し、二日酔いが良くなったような気がする。 「それにしても、クラウドは地酒二本でこんだけ酷い二日酔いなのになぁ…」 「イリーナお姉ちゃん、本当にすごいよね…」 「そうだよなぁ。結局、六本軽く空けちゃったもんなぁ…」 ……。 ………六本!? クラウドは二日酔いとは別の眩暈に襲われた。 「あれが『ザル』ってやつだよね」 ある意味、感心したようにしみじみと言うマリンに、 「「 違う(よ) 」」 クラウドとティファが同時に否定した。 目を丸くする子供達に、クラウドは目元を覆っていた手をずらしてティファを見つめ…。 ティファはクラウドの髪を撫でていた手を止めた…。 「「 あれは『ワク』だ(よ) 」」 キョトンとする子供達を尻目に、クラウドとティファは同じ言葉を口にした愛しい人にクスリ、と微笑み合った。 『ザル』。 それは水を汲んでも汲んでも、残らないこと。 ダダ洩れになってしまうこと。 だが、それでも『ザル』の網目には僅かに水が残る。 しかし! 『ワク』は網目すらない状態。 まさにイリーナは『ワク』だ。 全くもって影響が無いだなんて、どんな『鉄の肝臓』を持っているんだか…。 その日一日、クラウドは自室のベッドの上で過ごす羽目になった。 子供達とティファが代わる代わる、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたので、焼けるような胸の悪さも『まぁ…、悪いことばかりじゃないな…』と思ったのは内緒だ。 そうして。 その日の晩に、今回の騒動の張本人が申し訳なさそうな顔をして訪れた。 背後にはサングラスのタークスと、赤い髪のタークスが控えている。 ツォンはいなかった。 ヒーリンにいるルーファウスに今回の失態について、弁明に向かっているのだそうだ。 「本当にすいません」 深々と頭を下げるイリーナに、クラウドは苦笑して手を降った。 ようやく…、本当にようやく晩御飯の頃にクラウドは体調を取り戻した。 いつもはお調子者のレノでさえ、申し訳なさそうに片手を上げて拝むポーズをしている。 「私の周りの人、皆お酒が弱いからつい、クラウドさんは強いんじゃないか…って思っちゃって…」 「 …… 」 「でも、本当にすいませんでした。これからはもっと気をつけますね」 「 ……いや 」 心底申し訳なさそうな顔をする金髪美女に、一言返事をするだけで精一杯。 何故なら、その言葉の裏にある意味をイヤでも感じ取ったからだ。 『これからはもっと気をつける』=『これからもよろしくね♪』 「あ~、それにしても本当に美味しかったです、あの地酒!なくなっちゃって残念でした~!」 「……え…?」 呆然とするクラウドに、イリーナはニコニコと笑った。 「あんまりお客さんが注文しないから…、ってそんなにストックが無かったんですって。だから、全部飲んじゃったみたいで」 テヘヘ。 ちょっと照れたような仕草で前髪を撫で付けるイリーナは可愛いのに。 可愛いはずなのに…! レノとルードの顔が引き攣っている。 視線をそっと下げると、子供達の笑顔までもが引き攣っていた。 「本当はね…。残ってたの。でも、あれ以上飲んだらやっぱりいくら『ワク』でもちょっと…ね」 コソッとあとでティファが種明かしをしてくれた。 いやいや、もう6本飲み干した時点でやばいから!! そう思ったクラウドだったが、口にしたのは、 「そうか…」 それだけ。 いやもう、それ以上なにを言って良いのやら…。 「ティファさん、また来ますから今度はもう少し発注しておいて下さいネ♪」 「…えっと……そうね、うん」 乾いた笑いを浮かべる女店主に、イリーナは本当に嬉しそうに笑った。 その笑顔には一点の曇りも無く、彼女が『二日酔い』とは無縁だったことを改めて思い知らされたのだった。 『ワク』。 それは、いくら飲んでも『二日酔い』とは無関係の人種。 そして、周りの人間に自分と同じ様なペースと量を飲むように要求する迷惑極まりない存在。 一番勤務歴の若い女性タークスに密かに付けられた、名誉の称号である。 あとがき はい、本当にもうすいません!! いやもう…なんか書けないんです!! アレですかね、スランプでしょうかね!?ヽ(□ ̄ヽ))...((ノ ̄□)ノ 無理して書いてみたんですが…どうにもこうにも……。 もう少し時間をおいたらまた別の形で書けたかもしれませんが…、本当にすいません!! こんな駄文でよろしければ、T・J・シン様に捧げます(土下座) |