「ねぇねぇ、マリンちゃん?今日はクラウドさんいつごろ帰ってこられるの?」
私はうんざりしながらその質問をしてきた女の人達を見た。


私達の両親



 建設中のビルから落下した鉄骨の下敷きになる寸前で、クラウドが女の人を救出するという神業をしてから、私やデンゼルにこうやってクラウドの帰宅時間を尋ねる女の人が増えている。
 もちろん、この事はティファには内緒。
 きっと、青くなって取り乱しちゃうもん。
 それに、当然だけど本当の事を女の人達に答える事なんかしない。
 だって、この人達はクラウドの『見た目』だけでキャーキャー騒いでるんだもん。
 ハッキリ言って、ちょっと迷惑。
 それに何だか私達の生活にずかずか入り込んで来る感じがして、とてもイヤな感じ…。
 だから、この日も私の答えは、
「クラウドは今夜は帰って来ないって言ってましたよ」
だった。

 にっこり笑いながら返事をすると、決まって相手の女の人達は、不機嫌な顔をしたり、がっかりした顔をする。
「そう。じゃあ、明日なら帰ってくるかしら?」
「う〜ん、どうかなあ。ティファなら何か知ってるかも…」
「あ、いいのよ。今、無理に知りたいってわけじゃないから…!」

 これもお決まり。
 ティファの名前を出したら、途端にさっきまであった意気込みがあっという間にお星様の彼方に飛んで行ってしまうの。

 もちろん、そうなってしまう女の人達の気持ちは分かるけど…。

 ティファに敵う女の人なんか、絶対絶〜っ対!!
 いないんだから!!

 ティファは、血の繋がっていない私とデンゼルを、本当の子供以上に可愛がってくれている。
 もっと自分の為に時間を使って良いはずなのに、何より私とデンゼル、そしてクラウドの事を優先させてくれる。
 それに、いつでも元気の出る笑顔を見せてくれて、何事に対しても一生懸命頑張ってるの。
 いつでも、どんな時でも私とデンゼルの見方でいてくれるの。
 そんなティファが本当に大好きだし、出来る限り力になりたいって思ってる。
 もちろん、デンゼルも私と同じ考えだから、いつも女の人達から質問されても、曖昧にしか答えない。

 それでも、クラウド目当ての女の人達は諦めなくて、セブンスヘブンの営業中にも店にやって来ては、クラウドを探している。
 それも、ティファの目を盗んでコソコソと窺う様にして…。

 まあ、お客として来てくれているから、お店としてはとってもあり難いお得意様なんだけど…。

 でも、たまにしかないクラウドの仕事のオフの日は、そんな女の人達の存在がイヤになって仕方がないの。
 だって、クラウドばっかり指名して注文したり、話しかけたりするもんだから、見ていてとっても気分が悪くなる。
 クラウドももう少し上手く立ち回ってくれたら良いのに、不器用なのはミッドガルで初めて会った時から全然変わってない。
 女の人達に呼ばれたら、律儀にその呼びかけに応えている。

 もちろん、そんなにおしゃべりじゃないし、どっちかというと無愛想だから女の人達と楽しそうにしている様には全く見えないんだけどね。

 でも、そんな事が問題じゃないの。

 いっつもそんな時、ティファはご機嫌斜めになるの。
 そして、それを隠そうと頑張ってるのよ。
 でも、私とデンゼルにはバレバレなんだけどな…。
 もちろん、私はティファの気持ちが良く分かる。
 自分の大好きな人が、他の女の人にキャーキャー騒がれて、大した用事でもないのに長い間話掛けられたりしたら、気分悪いよね?
 それに、お客様相手のお仕事中に、不機嫌な顔なんか出来ないもん。
 だから、出来るだけ私やデンゼルが女の人達の注文を聞いたり、料理を運んだりしてティファのストレスにならないように気をつけてはいるのよ…。
 でも、中には「クラウドさんを呼んだのよ」って、ものすご〜く感じの悪い言い方されたり、睨まれたりされる事もある。

 そんな様子に敏感に気付くのは、やっぱりティファの方で、いっつも心配そうに見つめてきたり、場合によっては間に入ったりしてくれる。
 クラウドは、普段あまり出来ないお店の手伝いに未だに慣れない様で、注文を聞いたり、空いたお皿を下げたりするので頭が一杯みたい。

 だから、クラウドは未だに女の人達が自分目当てでお店に来ている事に全然気付いてないの。
 気付いたら、どういう態度で接するのか、ちょっと見てみたい気もするけど、きっとおどおどして困った顔するんだろうな。

『きっと、クラウドってさ、自分目当てで女の人達がお店に来てる事知ったら、二度とお店の手伝いしないと思うな』

 デンゼルがそう言ったけど、私もデンゼルと同じ意見かな。
 きっと、クラウドはお店の手伝いをせずに、カウンターのいつもの椅子に座ってるか、フェンリルの整備をするか、カウンター奥の階段のところからそっと店内を窺うか…。お店のお手伝いはしなくなるんじゃないかと思う…。

 だって、どうやってその人達と接したら良いのか分からないと思うのよね。

『店員とお客』って割り切って考えられたら良いんだろうけど、クラウドは本当に不器用なの。
 だから、きっと割り切って女の人達をあしらう事なんか出来ないんじゃないかな。
 でもだからって、不器用なクラウドがイヤな訳じゃないのよ。
 むしろ、不器用で無いクラウドなんか、絶対にイヤ!!
 器用に世渡り上手なクラウドなんか、絶対絶〜っ対、イヤなんだから!!

 クラウドは、不器用だからクラウドなの。
 不器用だからこそ、一生懸命頑張ってるのがクラウドなの。
 そんなクラウドだから、私もデンゼルも大好きなの!!

 あまり笑ったりおしゃべりするタイプじゃないけど、黙って私やデンゼルのおしゃべりを聞いてくれて、時々微笑んでくれて、そっと頭を撫でてくれて……。
『表情がない』ってよくお店の常連さんとかが言ってるけど、そんな事無いってちゃんと知ってるの。
 うん、私とデンゼル、それにティファはクラウドの色々な顔を知ってる。
 私は、他の人と比べてあまり表情を動かさないけど、それでも本当に温かい目でいつも見守ってくれるクラウドが大好き!
 だから、そんな事言う人が、可愛そうだって思っちゃうの。
 だって、クラウドのそんな顔を知らないからそう言うんでしょう?
 クラウドのそんな沢山の顔を知らないなんて、本当に勿体無いもん!
 本当に全部カッコイイんだから!
 出来れば皆に見せてあげたいな。
 でも、そう思いながらも、このまま家族だけの秘密にしたい気持ちもするの。

 だって、クラウドのそんな顔を見れるのは、家族だけ!
 それって、とっても素敵なことだと思わない!?
 私とデンゼル、そしてティファ!
 あ、そうそう。
 家族だけ、じゃなかったね。
 父ちゃん、ナナキ、ユフィお姉ちゃん、ヴィンセントさん、シドおじさん、リーブさん…、それとお花のお姉ちゃん…。
 この皆だけの秘密。
 何だか、そう考えると、とってもワクワクしちゃうの!
 自分達だけの秘密…。
 エヘヘ。
 とってもくすぐったいような、自慢したいような、何だかそんな感じで胸が一杯になる。

 そうそう!
 クラウドは不器用だから、隠し事がティファ以上に下手なの。
 きっと、本人はティファと一緒で隠してるつもりなんだろうけど、ティファの場合はお客さんとかにはバレない時があるけど、クラウドは全然駄目。
 もう、周りにバレバレなのよ。

 例えば、この前クラウドが配達の仕事から帰った時、丁度常連さんの一人が、冗談っぽくティファに「クラウドさんがいない時間は俺にくれない?」って言って、ティファの手を握り締めてたの。物凄くタイミング良く、その全部を見ちゃったクラウドは、いつもよりももっと無愛想になって、「ただいま」の挨拶もろくにしないでカウンターのいつもの席に着いちゃったの。
 いつもなら、ちゃんと「ただいま」って言って、仕事の汗とか埃をシャワーで流してからカウンターの席に座るのにね。
 その時の常連さんは、真っ青になって慌てて「じょ、冗談だから、な?」って言って飛んで帰っちゃった。それからそのお客さん、お店に来なくなっちゃったな…。
 あの後、ティファは「相変わらず面白い人ね」なんて言って笑ってたけど、他のお客さん達は顔では笑ってたけど、目が全然笑ってなかったんだよね。
 きっと、それに気付いてないのはクラウドとティファだけだったと思う。

『本当にさ、あの二人ってどうして自分達の事が絡むと、物凄く鈍くなるんだろうな』

 デンゼルがそう溜め息を吐いたけど、私もそう思うな。

 でも、それがクラウドで、それがティファの良い所でもあり、あんまり良くない所なんだろうなって思うの。

 う〜ん、でも、もしもティファが常連さん達の気持ちに気付いたらどうするんだろう…。

『う〜ん、そうだなあ。お店、しばらく休むかもなあ…』

 デンゼルがそう言ってたけど、私もティファならそうしちゃうと思うの。
 ティファもクラウドと同じで、どう接して良いのか分からなくなるんじゃないかな。
 もちろん、今までだって散々色々言われたりしたんだけど、ティファが自分できちっと対処してきたのって、大抵性質の悪いお客さん相手だった気がする…。
 その他の場合は、クラウドがティファにバレないように『視線で殺し』てたかな。

 クラウドの紺碧の瞳で睨まれて、それでもティファに色々言ってくる人って今のところいないのよね。
 ティファは、もちろんその事に全然気付いてないみたいだけど。
 もしも、その事に気付いたらどうするのかな…。

『もう、クラウド!お客様相手に何するの!!』
『クラウド!ただの冗談でしょ!?それなのになんて事するの!!』
『クラウド!もうお店の手伝い、してくれなくて良いわ!!』

 ………何だか、クラウドがとっても可哀想になることばっかり言っちゃいそう…。

 でも、きっとその後で、顔を真っ赤にさせながら謝ったりするんだろうな。
 ティファもクラウドと同じで鈍くて、不器用なんだもん。
 それで、結局仲直りするの。
 うん。きっとそうよね。

 結局、二人共『似たもの同士』って事なのよね。
 
『俺、このままの二人が良いな』

 デンゼルがそう言ってた。
 もちろん、私も今のままの二人で良い。
 今のままの二人が良い!

 不器用だけど、一生懸命頑張って生きてる二人が大好き!

 だから、私もデンゼルも幸せなの!

 大好きな二人に愛されてるから、本当に、本当に幸せなの!



 だから、私達は今日も『私達の両親』の手助けをするべくこう答えるの。

「「クラウドがいつ帰るか、ティファの方が良く知ってると思います」」




あとがき

何となく、クラティを見守るデンマリが書きたくなりました(笑)。
クラウドとティファは、自分達自身への好意に鈍感だとマナフィッシュは思ってます。
だって、あれだけの容姿なんですよ!?もしもその事に意識が高かったら、エライ事に
なると思うのですよ!そりゃもう、血の雨が降りそうです(苦笑)。

それにしても、相変わらず拙宅の子供達は大人ですね(汗)。
最後までお付き合い下さり、有難うございました。