喉の奥で熱した鉛を飲み込んだような圧迫感と熱を感じる。
 異変はそれだけではなく、瞬きするたびに視界が微かに歪むような違和感と軽い頭痛もしている。
 それは、体調が悪いことを身体が自分へ発する警告だとティファは分かっていた。

 無理してはいけない。
 無理は出来ない。
 無理しても、良い結果は生まれない。

 しかし、あえてその警告に気づかぬフリをして、まだ大丈夫だと己に暗示をかけるよう胸中で繰り返す。

 まだ大丈夫。
 まだまだ、大丈夫。
 だって、まだ目的地まで遠く、その道のりの先に待つ宿敵はこの程度の体調不良で音を上げているようでは到底果たせないほど強大で恐ろしい存在なのだから。
 だから、弱音は吐かない。
 弱っているところは見せない。
 このくらいでへこたれているようでは、”彼”の傍にはいられない。

 だって、彼は花のように微笑む”彼女”を愛していたから。
 彼女はただ美しいだけでなく、本当に強かったから。
 だから、彼の傍にいたいなら、彼女のように強くなくてはいけない。

 彼女を失ってしまってからますます口数の減ってしまった彼の傍にずっといて、支えて、包み込んであげたい。

 唯一の人になりたい。



 だから彼女は、自分を抑えて(殺して)ずっとずっと…。






弱さを見せられる強さを与えてくれた人だから







 目を閉じているのに感じる眩暈に重いまぶたをこじ開けると、天井の木目が掠れて見えた。
 ティファは暫くその天上の木目をどんよりとした気持ちで見るとはなしに見つめながら、どうしてここにいるのだろう?と欠落している記憶を重い頭の中から探した。

 ここは…セブンスヘブンの自分の部屋。
 今は…何時?

 視線を窓へ移すと、いつも起きる時間では見られないような明るい日差しが遮光カーテンの隙間から室内へ差し込んでいた。
 それを見て急速に思考が回りだす。

 今の今まで”現在(いま)”だと思っていたことは全部”夢”の出来事で、”過去”の話しだ。
 そして、自分は見事に寝坊をしでかした!

 慌てて跳ね起き、その衝撃で走った頭痛に顔をしかめて思わず額を抑えて呻く。
 ついでに額を押さえたことで自分が発熱していることに気づいてしまった。
 熱すぎる手の平が更に熱い体温をダイレクトに伝えてきて、ティファはげんなりとした。

 動くのがこんなに辛いと思ったのはいつぶりだろう?
 ベッドから抜け出すのにこれほど力を振り絞らなくてはならないとは、どれだけ酷い状態なのだろうか…。

 ティファは、ともすると枕へ逆戻りしそうになる頭を押さえ込むように頬をパチパチ叩き、気合を入れようとした。
 が、どうしたことか今朝はどうにもコントロールが上手くいかない。
 緩慢な動きでベッド脇のテーブルに置いている時計へ顔を向け、そのありえない時間にわが目を疑った。
 熱のせいで幻影が見えているのではないだろうか?と半ば本気でそう思う。

 這い出すようにベッドから降りると、靴を履いた。
 いつもは何にも感じないのに靴の冷たさに思わずゾクゾクッと悪寒が背筋を走り抜ける。
 次いで上がった咳に、頭の芯まで鈍痛が駆け巡った。
 頭痛と悪寒はまだまだ熱が上がることを警告していた。

「……もう……サイアク……」

 思わず漏れた悪態までもが掠れていて、情けなさに拍車がかかり、惨めさに変わる。
 だが、これ以上寝室でグズグズしているわけにはいかない。

 早く起きて、子供たちのために朝ごはんを作って、クラウドのためにお弁当を作って…。
 あぁ、でももしかしたら子供たちはもう起きているんじゃないだろうか?
 こんな時間なのだから起きてても不思議じゃない。
 ならもうそろそろ、すぐにでも起こしに来るのかも…。
 こんなフラフラした姿を子供たちに晒すわけにはいかない、しゃんとしなくては。
 でも…クラウドはどうしたんだろう、いつも起きるのは自分の方が早いのにもうベッドにいない…。
 今日…早朝からの配達だったっけ…?

 などなど、グルグル考えながら力が抜けそうな下肢を叱咤しながら一歩一歩、ドアに向かう。
 歩き慣れた部屋なのに何故か違う部屋、違う場所を歩いているような不可思議で心細く思ってしまう自分に戸惑いながら、ドアノブに手を伸ばした。


「ティファ!?」


 ノブを掴む寸前、勝手にドアが開いたと気づいた時には目の前にクラウドが立っていた。
 魔晄の瞳を目いっぱい見開き驚くその姿を前にしたティファは、その途端ぼんやりとしていた思考が急速に晴れていくのを感じた。

「クラウド」
「なに起きてるんだ、寝てろって言っただろ?」
 あ、もしかして喉が渇いたのか?それとも腹が減ったか?

 驚きから一転、心配そうに顔を覗き込むクラウドにティファは頭痛を無視して笑顔を作った。

「ごめんねクラウド。すぐにご飯作るから」
「は!?」

 ギョッとしたクラウドを見たくなくてティファはサッと視線を外す。
 いまさら朝食なぞ作ってどうする!?と言っているのだろうか…。

「ごめんね、遅くなっちゃって。ご飯、食べちゃった?」
「いや、まだだけど…ってなに言ってるんだ?」
「あ、そうなんだ、良かった。じゃあ、今からパパッと作っちゃうから」

 クラウドの『まだ食べていない』という返事にホッとする。
 まだ彼のために出来ることがあったと思ったのだ。
 しかし、そんなティファにクラウドは少し怒ったように眉を寄せた。

「バカなこと言うなティファ。熱あるんだぞ!?」

 熱がある…とバレていることにティファは焦った。
 これ以上、酷く調子が悪い、と思われないようにしなければ。

「あ、大したことないから平気平気」
 軽い口調でそう言って、ティファはクラウドの脇をすり抜けようとした。
 しかし、当然クラウドがそんなことを許すはずが無い。

「ちょっと待てティファって、アツッ!!」

 片手でティファの腰に腕を回して引き寄せたクラウドは、その身体の熱さに思わず声を上げた。
 ティファはクラウドに高熱を知られたくない一心で身をよじり距離を開けようとするが、無論、高熱で力が入らない身体でそんなことが出来るはずもない。

「やっ!大丈夫、大丈夫だからクラウド、離して」
「なにが大丈夫なんだ、冗談はやめてくれ!」
「本当に大丈夫なの、自分の身体は自分が分かってるんだから、だから離してってば!」
「ふざけるなって!」
「ふざけてないから!!」
「ティファ!!」

 強い口調でビシッと名を呼ばれ、ティファはその声に怒りが混ざっているのを感じてビクリと身を竦めた。
 息を呑んでクラウドを見上げる。
 不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、クラウドは抵抗を止めたティファを片腕だけで抱え上げると大股でベッドへ向かった。
 そうして、ティファをベッドに座らせるともう片方の手に持っていた盆をテーブルに置く。
 クラウドが水とお粥の土鍋を載せた盆を持っていたことにこのときティファは初めて気がついた。

「ティファ」

 目の前にしゃがみ込み、覗き込むようにして見つめてくるクラウドにティファは気を飲まれたように身じろぎ1つ出来なかった。
 視線をそらせることすら出来ない。
 薄く形の良い唇が、恐ろしい言葉を紡ぎそうで怖くて仕方ないのにそこから視線を外せない。
 引き攣った表情で強張ったままのティファに、クラウドはそっと片手を伸ばした。
 ビクッと震えたティファの額にそっと触れると怒ったような真剣な表情に翳りがさす。

「だいぶ熱が上がってるな。吐き気は無いか?頭痛は?」

 低い声音には真剣にティファを案じているクラウドの気持ちが溢れんばかりに込められていたが、熱で今の状況が全くと言っていいほど分かっていないティファには、クラウドが不甲斐ない自分に嫌気が差しているように感じられた。
 ティファの脳裏に2年前の旅の光景が唐突に甦る。

 ピンク色のワンピースと紺のソルジャー服が寄り添う様は本当に自然で、これ以上ないほどお似合いだった…。

 それは、あの頃胸を痛めながらただ見つめているしか出来なかったティファの心の奥底に燻っていた黒い想い。
 あんな風に共に居ることが自然な2人を前に、ティファが出来ることは何でもないフリをすることだけだった。
 旅が終わったら、きっと2人は共に居続けることを選ぶんだろう…と、思っていた。
 その時、自分は大好きな2人を笑って祝福しなくては、と毎日毎日、仲睦まじい姿を目にする度にそう言い聞かせて、胸に走る痛みを堪えた。
 突然の凶刃により、目の前で彼女を救えなかったことで壊れかけたクラウドを、誰よりもその傍にて守りたい、支えたい、出来れば彼女の代わりに傍に居ることが自然な”唯一の人”になりたい、そう願うようになって…。

「ティファ?大丈夫か?」

 目の前で手をヒラヒラ振られて現実に引き戻される。
 ビクッと身を竦め、クラウドを見てティファは条件反射で顔に笑顔を貼り付けた。

「大丈夫、ごめんね。今朝は少しゆっくりさせてもらっちゃったしもう治るよ」
「なに言ってるんだ、こんな少しのゆっくりくらいで治るような状態じゃない」
「ホントホント。ごめんね、心配かけて。寝坊もしちゃって」
「寝坊って…ティファ、俺が寝てろって言ったの、覚えてないのか?」

 ますます深刻な顔をするクラウドにティファは「え…?」と呟いた。
 全く覚えていない。
 ティファは焦った。
 クラウドにそんなことを言われていたという事実よりも、覚えていないということよりも、”覚えていないことをクラウドにバレないよう咄嗟の演技が出来なかった”ことにこそ、強い焦燥感に駆られた。

 あぁ…どうして私はこんな風に咄嗟のとき、役に立たないの!?

 己の不甲斐ない様に本気で泣きそうになる。
 こんなことではダメだ!と、熱に浮かされた頭でこの事態を乗り切る活路を見出そうとするが、なにも思い浮かばない。
 自然と上がってくる息に、クラウドがやや慌てたような顔をした。

「ごめん、今はそんなことを言ってる場合じゃないな。ほら、ちょっと横になれ」

 優しく宥めるような口調で語りかけてくれるのに、自分を卑下するばかりのティファにはその姿が真実(ほんとう)のものとして伝わらない。
 ただひたすら、この面倒な状態の自分を宥めているだけなのでは?と、バカバカしいことばかりが胸を占める。
 でも、卑屈になっても仕方ないではないか。
 自分はどこまでも”彼女”のようになれないのだから。
 こんな風に、彼に心配ばかりかけて、迷惑ばかりかけてしまってちっとも支えになれない自分とは比べることすら失礼に当たってしまう”彼女”の代わりになりたいだなんて、とんだお笑い種だ。

 一方で。
 クラウドは、頑なに自分の心配する想いや気遣いの言葉を受け入れないティファにほとほと困り果てていた。
 昔からティファは人に頼ったり甘えたりすることが本当にヘタだった。
 もっとも、彼女が甘えベタだと知ったのは2年前の旅での時間で…だったが。
 あの頃よりもうんと彼女の近くにいられる存在になれたと思ったのに、そうではなかったのだろうか?
 勿論、今の彼女が自分を頼りきってくれないのには、数ヶ月前にしでかしたバカな失敗(家出)も大きく原因となっているだろうが…。
 いやいや、今はそんなことをウジウジ悩んでいる場合ではない。
 早く横にさせてやらなくては…。
 しかし、熱のせいでいつも以上に頑なになっているティファをどうやって休ませるか…。

 そこでクラウドはティファの優しさを利用することにした。

「なぁ、ティファ。どうしてそんな強がるんだ?俺じゃ、そんなに頼りにならないか?」

 ティファは目を見開いた。
 視界がゆらゆら揺れるのは高熱のせいだけではない。
 今、クラウドが悲しそうに眉根を寄せているように見えるのは、幻影ではなくて現実なのだ、と額から頬に移った彼のひんやりとした手が教えてくれた。

 違う、と言いたいのに声が出ない。
 クラウドが頼りにならないなどと思ったことは無い、とキッパリ言いたいのに喉が引き攣れてしまって言葉を発せられない。
 だからティファはゆっくりと首を横に振る。
 クラウドは小さくため息を吐いた。

「ティファはずっとそうだよな。2年前の旅の時も、調子が悪くても絶対に自分からは言わなかった。それが、俺はすごく悔しかった。まるで、俺なんかじゃ全然ティファの力になれないって言われているみたいで」
「そんなこと…!」

 想像すらしなかったクラウドの告白に、ティファは思わず声を上げた。
 掠れて、弱弱しい悲鳴だった。
 クラウドはそっと目を伏せるとティファの靴をゆっくりとした手つきで脱がせ、熱と突然の告白で呆然としているティファの膝裏に腕を差し入れた。
 もう片方の腕を彼女の背中に回してゆっくりベッドへ横たわらせる。
 ティファは目を見開いたまま、ただクラウドのするままにされていた。
 クラウドはティファに毛布をかけると額に濡れタオルを乗せ、そのまま彼女の顔が良く見えるようにベッドに直接腰掛けた。
 そして、そっと腕を伸ばしてティファの額に触れると困ったように顔を曇らせた。

 やっぱり病院へ連れて行くか…。
 いや、それよりも医者を呼んで…。
 その前に、置き薬を飲ませた方が良いんだろうか?
 薬の前に何か食べた方が良いよな…、でも食べれるか?

「ティファ、どうする?病院に行けるか?それとも医者を呼ぼうか?」

 ぶつぶつ独り言を言ったかと思うと、唐突にすら思えるタイミングでティファに声をかける。
 しかしティファは、クラウドの告白による衝撃が抜けておらず、熱のために廻りの悪い思考で同じことばかりを繰り返していた。

 クラウドを悲しませた。
 クラウドを困らせた。
 クラウドを惨めにさせた、この私が。

 なんてこと、なんてこと。
 誰よりも傍にいて、誰よりも彼の支えになって、誰よりも彼を温かく包み込んであげて、そうして彼の唯一の人に、”彼女”の代わりになりたかったのに…。

「ティファ?」
「私…」
「ん?」
「私……ごめんなさい…違うの、そうじゃないの。クラウドを困らせようと思ったんじゃないの…情けない思いをさせていただなんて…全然気づかなかったの…!」
「ティファ、いや、ちょっと待ってくれ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいクラウド、ごめんなさい!」
「ティファ、ティファってば!おい、ちょっと待って、え?なに?そんな泣かなくてもってごめん、悪かった。本気で落ち込んでたってのはウソじゃないけど、ってそうじゃなくて、今はそんなに情けなく思ってるわけじゃないから!」
「ご…めんなさ……私、やっぱり私じゃあダメなんだ!」
「え、なにがダメ!?ティファ、本当に悪かった、ちょっと待ってくれ!」
「私じゃ、っ傍に…価値なんか…!」
「ティファ、おい、頼むから俺の話を聞いて」
「…っく…なんで……なんで私が……ぃき…て」
「 !! 」
「…ゎ…たしが…、死ねば良かったのに!!」

 どんどんパニック状態になるティファにクラウドはただオロオロするばかりだったが、最後の最後、とうとう堪えきれずに叫び、顔を覆って号泣する彼女を前に息を飲んだ。
 横っ面を殴られた以上のショックと心臓が止まるほどの痛みを受けて、一瞬頭が真っ白になる。

 2年前の旅でティファは具合が悪いくせにギリギリまで隠し、結果、倒れた彼女を前にクラウドが己の不甲斐なさを痛感したことは本当だ。
 だが、それはちゃんと過去のこととしてクラウドは昇華出来ている。
 しかし、ことさらに今、こうして話を持ち出したのはただ、ティファに『甘えてくれた方が嬉しい』と言いたかったから。
 あの頃、ティファが頼ってくれなかったのは、頼ることが迷惑になると思い込んでいたのだとクラウドはちゃんと理解していた。
 だから、そうではない、と言いたかったのだ、ただそれだけで責めるつもりなどサラサラない。
 それなのに、見事に失敗してしまった。

「ティファ!」

 顔を覆って泣きじゃくるティファを強く抱きしめる。
 ティファの頭を覆うようにして強く抱きしめ、その黒髪を強い力で何度も撫で、時には顔を覆うその手をどかしてこめかみや額、涙を流す目尻へ唇を落としながら何度も何度もティファの名を呼ぶ。

 ごめん、悪かった。
 言い過ぎた、すまない。
 お願いだから役立たずとか、情けないとか、そんな風に自分を責めるのは止めてくれ。
 人間なんだから弱ったって良いんだ。
 むしろそういうときは、傍で看病したり励ましたり、甘やかしたりしたいんだ、俺は。
 だから…。
 どうして自分がエアリスの代わりに死ななかったんだって言うのは止めてくれ。
 思うのも止めてくれ。
 俺はティファが生きててくれて本当に嬉しいと思ってる。
 ティファと一緒に生きていけることが、本当に本当に幸せだと思っている。
 ウソでも気休めでもなくて、本当にそう思ってる。
 エアリスやザックスや、他の誰が傍に居てくれたとしても、俺はティファと共にありたいと思ってる、いつもいつも。
 なぁ、聞いてるか…?
 …ティファ…。

 どれほど時間が経ったのか…。
 激しい嗚咽がいつしかすすり泣きに変わり、やがて力が抜けてティファはまどろみの淵へと落ちていった。
 わずかにしゃくりあげていた呼吸も、寝息のそれに変わる。
 クラウドはそうなってからようやっとティファを離した。
 身を起こし、彼女を抱擁から解放して尚、頬や髪に触れるのは止められない。

「……ごめん……」

 何度も口にした謝罪の言葉を再度口にする。

 ティファがエアリスに感じなくても良い負い目を抱いていたことは知っていた。
 しかし、家出から戻った頃くらいからだろうか、それはすっかり消えてしまったように感じていたのに…。
 身体が弱ったとき、心の奥底で眠っていた黒いものが顔を出すことは珍しくないとクラウドは自らの体験で知っている。
 今のティファがまさにそうなんだろう。
 それほどまでに彼女の身体は今、弱っているという証拠。
 もしかしたらティファ自身も知らない黒くてどうしようもない”闇”が、心の奥底から目を覚ますそのときをずっと待っていて、今、顔を出したのかもしれない…。
 そして、その”闇”そのものもティファ自身であることをクラウドは胸を痛めながら受け止めた。

 暗くてドロドロした感情は、人間なら誰でも持っている。
 今、ティファが見せた”卑下する心”も、ティファ自身。
 なら…。

「ティファ…」

 眠るティファへ口付けを贈る。

「俺も…、俺にとってのティファになれるように頑張るから、だから…少しずつで良い、溜め込まないで不安や不満を言って欲しい。ちゃんと聞くと約束する」

 弱いクセにその弱さを人に知られることを恐れ、精一杯の強がりで生きていた自分が、こうして弱くて情けない姿を晒せるようになった。
 そのことで、本当の意味で解放され、前を向いて生きられるようになった。
 それも全て、ありのままの自分を受け入れてくれる人がいると言うことを教えてくれた女性(ひと)が傍で笑ってくれているからこそ。
 その唯一の人へ、クラウドは改めて誓いを立てる。

 どんな貴女でも受け入れ、受け止める。
 だから、怖がらないで全部見せて。
 弱さを見せられる強さを俺に与えてくれた貴女だからこそ、その全てを見せて欲しい。

「だから、早く元気になって、沢山弱いところも我侭なところも見せてくれよな」

 その囁きが聞こえたかのようにティファの悲しそうな顔が少しだけ綻び、クラウドは目元を和らげた。
 ティファがクラウドに全てを委ねられるようになるまで、まだ時間は必要だ。
 しかし、いつかは…。


 その全てをたった1人の人に…。



 あとがき

 人間、弱ったときって普段自分でも気づかない”黒い感情”にパックリ飲み込まれますよね。
 ティファの場合は、やっぱりこれかな…と。

 ありがちネタ、しかも中途半端でごめんなさ〜い。