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「ティファさん、どうしてもダメなんですか…?」
「ええ…、本当にごめんなさい」
 セブンスヘブンの裏口で、ティファが若い男に頭を下げている。
 男は、両手を握り締め、必死に何かに耐えていたが、そのままクルリと踵を返して去って行った。
 その一部始終をデンゼルとマリンが物陰から見ていたのは…クラウドが戻って来る一ヶ月前の事だった。



唯一の人




「「いらっしゃいませ~!」」
 チリンチリン…とドアベルが可愛らしい音を立て、新たな客の来店を告げた。
 いつもと変わらないその音色に、カウンターにいたティファと接客中だったマリンが顔を向けた。
 そして…その笑顔を強張らせる。

 そこに立っていたのは、若い男性。
 黒い短髪に日に焼けた肌、均整の取れた体躯に爽やかな笑顔が実に似合いそうな好青年だ。
 しかし、今、彼に浮かんでいる表情は爽やかさとは無縁の暗い表情。

 女店主と看板娘が固まった事に、客達は新しい来客に興味を持ち、ドアを一瞥する。
 しかし、彼の表情と看板娘と女店主の様子に、これまでよくあった光景を思い出し、彼の用事が何なのかすぐに察しが付いてしまった。
 すぐに興味を失い、自分達の話しの続きや、食べかけの料理に戻ってしまう。

 本当に……これまで散々見てきた光景だった。
 それこそ、女店主の恋人が戻る前と、戻ってからの一ヶ月は凄かった。
 毎晩毎晩、沢山の男達が女店主に似たような台詞を口にすべく、足しげく通っていた。
 最初はそれこそ『リアルなドラマのワンシーン』を見物している様な気分がして、興味津々だった常連客達も、度重なる同じ結末にいい加減うんざりとしていた。

 おまけに、来る男共の台詞も似たり寄ったり…バリエーションが実に欠けている。

『ティファさん…本当に幸せなんですか!?』
『ティファさん、どうしてあんな男を許せるんですか?貴女と子供達を置いて勝手に出て行った奴ですよ!?』
『ティファさん、俺はどうしても貴女を諦められない!』
『ティファさん』
『ティファさん』
『ティファさん』

 いい加減……本当に飽き飽きだった。
 しかし、当事者であるティファやその子供達、そしてクラウドにとっては何とも胸の痛む話であり、頭の痛い状況には変わりない。
 もうそろそろ我慢の限界かも…と、四人がそう思った頃に、漸く女店主を諦めきれない哀れな男達の来訪が途絶えるようになってきた。
 それは、もう半年ほど前の事になる…。

 そのお陰で、漸くセブンスヘブンは本来の目的『エッジで頑張っている人達の憩いの場』としての役目を果たすことが出来るようになった。

 しかし…。
 それなのに、今夜、この若い男は半年前に終わったと思っていた『ドラマのワンシーン』をするべく、この店にやって来た。
 いや、もしかしたらそう見えるだけで実はただ単に飲みに来ただけなのかもしれないが…。
 そうではないだろう…。
 暗い表情に何かを決心したかのような意志を秘めた強い眼光。
 それだけで彼が何をしに来たのかがイヤでも予想で来てしまう。

「いらっしゃいませ。お席にご案内します」

 マリンが営業スマイルを浮かべて男をテーブルへと案内しようとする。
 そのマリンの案内に、男は少々躊躇いつつカウンターのティファへと視線を投げていたが、ティファは他にも作らなければならない注文の品が山のようにある為、その作業に戻ってしまっていた。
 仕方なく一つ溜め息を吐くと、男は自分を見上げてくる看板娘にぎこちなく笑って見せて案内を頼む事にした。

 マリンは、男が半年以上前…細かく言えば七ヶ月前にティファに告白して断られた人物だと知っていた為、なるべくカウンターから離れた席に案内したかった。
 しかし、運悪く他のテーブルはどこも一杯で、空いていたのはクラウドの為の予約プレートの掲げられたカウンターのスツールか、カウンターの出入り口に近い二人用のテーブル…。
 クラウドの席にこの男性を座らせる事などもってのほかだ。
 マリンは男にばれないように溜め息をこぼすと、「こちらにどうぞ」と笑顔でテーブルへと案内したのだった。

 その様子を店の奥から見ていた看板息子は、内心で『何やってんだよ、マリンのバカ!そんな奴、追い返せばいいじゃないか!!』と叫んでいた。
 本当なら、今すぐにでも出て行って店から追い出したい気分だ。
 しかし、自分の持ち場……つまり洗い場には恐ろしいくらいの洗い物が溜まっている。
 これを何とかしなければ、接客の手伝いなど到底出来ないし、下手をすればティファの作った料理を乗せる皿が無い状態だ。

『あ~!くっそ~~!!』

 イライラとしながらも、デンゼルは丁寧に皿やグラスを洗っていくのだった。
 怒りをぶつけながら皿やグラスを割ってみろ…。
 物資の乏しいこの世の中で、そんな勿体無い事など出来るはずが無い!!
 デンゼルは自分に与えられた仕事をしっかりとこなす事にプライドを持っていた。

 イライラしながらも丁寧な手つきで次々と洗い物を片付けていく看板息子は、セブンスヘブンの実に頼りになる戦力であった…。

 デンゼルが店の奥で、己のイライラする気持ちと一人、格闘している頃…。
 カウンターの中ではティファも己の気持ちと戦っていた。
 正直、これまでにも沢山この手の来訪者はいた。
 それこそ、両手両足の指を使っても足りないくらいだ。
 そんな自分に想いを寄せてくれる男性達に頭を下げるのは、決して気持ちの良いものではない。
 それどころか、彼らの想いに応える事が出来ないのが……とても辛い。
 出来れば、これまで断ってきた男性達が、素敵な女性と一緒にセブンスヘブンに遊びに来て欲しい…とすら思っている。
 残念ながら、そういう男性は今のところゼロだったりする…。


「お客様、ご注文はお決まりでしょうか?」

 少々時間をおいて、マリンがその男性の元へ足を運んだ。
 なるべくティファが行かずに済むように…ティファが彼と接する機会が極力減るように…とのマリンなりの配慮だった。
 ティファとデンゼルは、マリンのその心遣いに当然気付いており、それぞれ心の中で謝罪と賞賛の言葉を並べている。

「ああ…じゃ、今夜のオススメで…」
「お飲み物はどうなさいますか?」
「…お茶でいいよ」
「かしこまりました」

 淡々と交わされるやり取りの間も、彼の視線はカウンターの中のティファに釘付けだった。
 彼がいかに、ティファと接するチャンスを狙っているのかが良く分かる。

 マリンは気遣わしそうにティファをチラリと見るが、今のところ表面的には落ち着いているようだった。
 マリンは軽く頭を下げる、メニューを持ってカウンターの中に戻って行った。


『『『こんな時にクラウドがいてくれたらな……』』』


 三人が三人とも、この場にいないセブンスヘブンの住人を心に描く。

 きっと、クラウドが水色のエプロンを身に付けてお店を手伝っている姿を彼が目の当たりにしたならば、彼はここまで執拗な視線をティファに投げかけることは無かっただろう…。
 イヤ…もしかしたら、クラウドに食って掛かっているかもしれない…。

 半年前のピーク時にもあまりそういう男性はいなかったが、それでも数人の男性はクラウドに食って掛かっていた…。
 当然、その度に返り討ちにされていたわけだが…。
 今、カウンターに近い席に腰を下ろし、ジッとティファを見つめているこの男性も、クラウドに食って掛かるタイプに見える。


『『『やっぱり、クラウドはいない方が良かったのかも…』』』


 これまた三人はお互い知らないうちに同じ結論をはじき出し、溜め息を吐くのだった。



 やがて、時間はどんどん過ぎていき、客層も刻々と変化していった。

 早い時間に来る客達はセブンスヘブンが『一件目のお店』で、普通に食事をしたり、軽く酒を飲む為にやって来ている。
 しかし、遅い時間にやって来る客達は、『二件目・三件目のお店』になっている場合が多い。
 つまり、『はしご酒』と言うやつだ。
 こういう客達は、来店時から酒が入っている為、非常に陽気…つまり酔っ払っているのだが、性質の良い客ばかりではない……と言うよりも、性質の悪い客の方が多い日もある。
 まぁ、セブンスヘブンに来る『はしご酒』の客達は、店主がジェノバ戦役の英雄である事を知っているので、変に絡んでくることも無いのだが、それでも子供達に取って良い影響があるとは思えない。
 その為、その時刻が近付いてくると子供達はお手伝いを終えて子供部屋に引き上げる…。
 それがセブンスヘブンの決まりであった。
 そして、まさにその時刻となっている。

「それじゃ、二人共、今夜もありがとう。ゆっくり休んでね」

 いつものように笑顔でティファが子供達を子供部屋へ送り出そうとする。
 しかし、デンゼルとマリンは頑として首を縦に振らなかった。

「今夜はまだ一緒にいるよ。まだまだお客さん達も沢山いるし!」
「クラウドもまだ帰って来ないから、ティファ一人だと仕事が大変じゃないか!」

 子供達の心配している事はただ一つ。
 すっかり料理も食べ終わり、さっきからお茶ばかり飲んでいる黒い短髪の男。
 いつまで経っても腰を上げようとしないその男に、子供達は警戒心を隠そうともしないで半ば睨みつけている。
 そんな二人にティファは苦笑すると、「大丈夫よ…。私、腕は鈍ってないから、変な事されそうになったら返り討ちに出来るわよ」と、わざとおどけて二人に微笑んだ。
 しかし、子供達はキッとティファを睨むように見上げると、先を争って口を開いた。

「ティファが強いのは知ってるもん!」
「でも、ティファは真剣な態度で話をしてくる奴には手を出せないじゃないか!!」

 子供達の言葉に、カウンターの中でティファは絶句した。
 何と良く見ている事だろう…。

 子供達の言う通りだ。
 彼が、何かしら問題を起こしてくれた方が、実は対処しやすい。
 その時には遠慮なく叩き出す事が出来るのだから。
 しかし、何の問題も起こさず、真摯な態度を取られたらそれをかわす事が難しい。
 ティファとはそういう人間だった。
 どこまでも生真面目に相手に対して接していくその性格が、人を惹き付けるのだろうが、時には非情になっても良いのではないかとこれまで修羅場を見てきた常連客達は思っている。
 そして…。
 それは、密かにクラウド自身も思っている事だった。
 しかし、その事をティファに話した事は一度も無い。
 生真面目な性格…それが、彼女の愛すべき美点でもあるからだ。


 その分、ヤキモキさせられる場面が多々あるわけだが…。


 ティファは一瞬迷った。
 このまま子供達にいてもらった方が確かに気分も、仕事もらくである。
 しかし…。
「いいのよ…。だって、これから来るお客さんはそんなにいないでしょうし、子供は決まった時間にちゃんと寝ないと身体が大きくならないよ」
 やんわりと断りの言葉を口にする。

 これ以上、子供達に甘えるわけにはいかないし、何よりこれ以上働かせていたら、本当に子供達の体調が崩れてしまう。
 今ですら、手伝わせ過ぎなんじゃないかと心配するくらいなのに…。

 しかし、当然子供達はティファの言葉に猛然と反論した。
「良くないよ!だったら、ティファも一緒にこのままお仕事今夜はやめてくれよ!」
「そうだよ!たまにはゆっくりしないと、ティファの方こそ身体が壊れちゃうよ!」
「ティファはもっと自分を大切にするべきなんだ。いっつも俺やマリンやクラウドの心配ばっかりしてさ!」
「私達の心配してくれるのは勿論嬉しいけど、もっと自分の事も大切にして欲しいの。私達のその気持ち…本当に分からないの?

 マリンとデンゼルの真剣な眼差しに、ティファは素直に胸を打たれた。
 子供達の気持ちが嬉し過ぎて、視界が滲みそうになる。

 思わず、子供達に向けて両手を伸ばした時、
「お~い、俺のメシ、まだかよ!?」
 痺れを切らせた客の一人がイライラとした声を上げた。

「あ、すみません!!」

 ティファは慌ててその客に頭を下げると、再び子供達に向き直って笑顔を見せた。
「二人共、本当にありがとう。でも、今は大丈夫だから…ね?もしも、助けて欲しくなったら、その時はちゃんと言うから…」
 そう言い残し、まだ何か言おうとする子供達の背中をカウンターから押し出すと、大急ぎで料理を運びに行ってしまった。
 そして、その後も溜まっていた注文を仕上げたり、出来上がった料理を運んだりと忙しく働く彼女の姿に、子供達は渋々大人しく自室へ引き上げざるを得なかった。



 子供達が階段を上る足音を聞きながら、ティファはフッと微笑んだ。
 本当に、我が家の子供達はいつまで経っても自分を『過保護』に扱うのだから…。
 これだと、どちらが子供か分からないではないか…。
 しかし…。
 そんな子供達を家族に持つ事が出来た自分は…そしてクラウドは、本当に幸せ者だと思う。
 この世界に、どれだけ沢山の幸せな家庭があるのか想像出来ないが、それでも、我が家に勝る家庭は無い!
 そう心から感じるのだ。


 そんな事を考えながら、すっかり心が軽くなったティファは、それまで極力見ないようにしていた店の一角につい目をやってしまった。
 そこには、例の青年の姿。
 ジッと自分を見つめているその視線に、ティファの顔にうっすら浮かんでいた笑みが消える。
 青年の視線から目を逸らせない。
 それほど彼の目は、暗く、真剣だった。
 ティファは、その視線を真っ向から見てしまった事により、一瞬ここがどこで、自分が何をしようとしていたのか忘れていたようだ。

「お~い、ティファちゃんってば!大丈夫かよ!?」

 常連客の声で、ハッと我に帰る。
 慌てて運ぶ予定だった料理を手に、テーブルへと急いで向かうと、そのテーブルにいた客達が小声で囁いてきた。

「あの兄ちゃん…もしかして、また…例のやつか…?」
「え……ええ、多分……」

『例のやつ』とは、クラウドが家出をしている間…そして、クラウドが帰ってからもティファにしつこく言い寄って来ていた男達のことを指す。

「はぁ…ティファちゃんもいつまで経っても大変だな…。モテるのも良し悪しだなぁ…」
 気の毒そうにこぼす馴染みの客に、ティファは困ったように微笑んだ。
 そして、もう一度彼の方へと視線を移す。
 彼の瞳は、真っ直ぐ自分へと向けられていた。


『やっぱり…ちゃんと話をしないとダメ…だよね』


 本当は、このまま閉店まで粘って彼には帰ってもらおうと思っていたのだが…。
 どこまでも諦めない光を瞳に湛えているこの青年には、そんな手は通用しないだろう…。
 何より、ここまで必死になっている人を、これ以上無碍(むげ)に扱うのも人として…いかがなものかと思う。


 決断したティファの行動は早かった。
 まだ店内に客がいる状態で、店のドアに『閉店』の看板を出し、これ以上来客がないようにした。
 そして、店内にいる客達には「申し訳ないですけど、ラストオーダーにさせて頂きます」と、一つ一つのテーブルへ頭を下げて回った。
 いつもよりも早い閉店に、顰め面をする客もいたが、大半の客達は快く店を後にしてくれた。


 そして…。
 僅か三十分後には例の青年以外は誰も残っていなかった。



「それで…何かお話があるのでしょう?」

 あっという間に客のいなくなった店内に、青年は少々呆気に取られていたが、話を振られて我に返った。
 真っ直ぐにティファに向き直ると、重々しく口を開く。

「俺が、何を言いたいのか…本当は分かってるんでしょう?」
「……ハッキリとは分からないわ」
 青年の言葉に、ティファは正直に答えた。
 彼が、何を言いたいのか、ハッキリとは分からない。
 ただ漠然と…クラウドの事が認められない…という事と、自分に対して未練がある…という事が分かるだけだ。

 そんなティファに、青年はかみ締めるように一言一言を口にした。

「俺は…やっぱりあなたを諦められない。今夜も、あなたはこんなに大変な思いをしながら仕事をしていると言うのに、折角帰って来たという恋人は、こんな時間になっても帰って来ないじゃないですか。彼が配達の仕事で忙しいという事くらい、ちゃんと分かってますよ。でも…、それでも、こんな風にお酒の出るお店を子供達の手を借りてやりくりし、遅い時間になったら一人で切り盛りする…。こんな生活…俺なら絶対にさせたりしないのに…」

 段々と自分の言葉に興奮してきたのか、早口になってくる青年を、ティファは両手を上げて制した。

 そして、やっと口を閉じた青年に柔らかな笑みを向ける。

「あなたは私の事を不幸な人間だと…そう思ってるの?」

 ティファの笑みを湛えた問いに、青年は言葉を失った。
 本当は、『その通りだ』と答えたい。
 しかし、その答えが間違えている事を彼女の笑みによって察してしまったのだ。

 黙りこんだ青年に、ティファはフッと軽く息を吐いて、笑みを深くした。
「私ね、本当に幸せなの。あなたが私の事を好きだって言ってくれた頃なんかとじゃ、比べ物にならないくらい」
「……それは……クラウドさんが帰ったからか……?」

 上ずりそうになる声を必至に宥めながら、漸くそれだけを口にした青年に、ティファははっきりと頷いた。
 彼にとっては、残酷極まりない事だろう…。
 しかし、これだけは絶対にごまかしたり、言葉を濁してうやむやにしてはいけない事なのだ。
 彼の為にも…。

 ティファは、ハッキリと頷く事で青年の心が傷つけられた事を、その瞳を見る事で悟ったが、それでも止めなかった。

「私にとって、クラウドは唯一の人なの。他の誰でもダメ…。クラウドでないと…ダメなの…。
 誰にとっても、『誰かの代わり』なんてなり得ないけど、私にとってはクラウドはその中でも一番なの。
 クラウドがもしもまたいなくなったら……」

 言葉を切り、目を閉じる。
 暫し、無言の時が店内を支配した。
 聞えるのは、時計の針の音だけ…。

 やがて、その瞳を開いたティファを見て、青年は自分がどう足掻いても無駄なのだと思い知った。
 彼女の、凛としたその眼差しには、一変の迷いも無かったからだ。

「もしもクラウドがまたいなくなったら、その時は、絶対に彼を探しに行くわ…。
 あの頃のように、自分からもクラウドからも逃げないで、全力で彼の行方を探し出して、そして……」


「殴り飛ばすのか?」


 突然、第三者の声が割り込んできた。
 二人は驚いて声の方を振り向く。
 そこには、カウンター近くのドアにもたれるようにして立っている金髪・碧眼の青年の姿があった。

「クラウド!!」
「……いつの間に…」

 目を丸くするティファと、苦々しげに呟く青年に、クラウドはゆっくりと歩み寄った。
 そして、ティファをそっと抱きしめると「ただいま」とその耳元で優しく囁く。
 途端に、パッと顔を赤らめたティファは、それでも嬉しそうに微笑むと「おかえりなさい」と極上の笑みでもって応えた。

 その二人の姿に、青年はギリッと歯を食いしばるが、それも一瞬。
 大きく息を吐き出すと、全身から力を抜き、肩を竦めた。
 そして、椅子に置いていた自分の鞄を手に取ると、「じゃ、勘定はここに置くから」と多目のギルをテーブルに置き、そのまま店を後にしようとした。

「あ、あの…!お釣り!!」
 テーブルに置かれたギルを見て仰天したティファが、慌てて青年に声をかけたが、青年は振り返らず、前を向いたまま「釣りはいい…。今まで不快な思いをさせちまった…侘びだ…」と、言い残して去って行った。


 残されたのは、多すぎるギルと、困惑した表情のティファ、そして、どこか安心した表情のクラウドだけだった。



「ところで、いつ帰って来たの?」

 クラウドに夜食とお酒の準備をしながらティファが唇を尖らせる。
 本人には聞かれたくない『本音』を聞かれてしまったことに対する照れから、拗ねた振りをしているのだ。
 クラウドは、そんな彼女にクスッと笑みをこぼすと、「彼がティファに熱烈な愛の告白をしてる時から」とシラッとした顔で言ってのけた。

「な!?」

 つまり、肝心なところから全部聞かれていたのだ。
「そ、そそそ、それなら、助けてくれても良かったじゃない!!」
 恥ずかしさの余り大きな声を上げるティファを、クラウドは意地の悪い笑みを浮かべ、グラスを煽った。
「口を挟めるような雰囲気じゃなかった」
「………!!!!」
「それに……嬉しかったし…」
 ほんのりと顔を赤らめてポソッと呟いたクラウドに、ティファは真っ赤になった。

 そのまま暫くお互い何となく黙り込んでしまい、何とも落ち着かない気分になる。
 が…。
「俺も……ティファと同じだからな」
「え?」
「俺も…俺の唯一の人はティファだから…」

 普段なら絶対に照れて言わない彼の一言に、ティファはポカンと口を開けた。
 その顔に、クラウドは「何て顔してるんだよ…」と、益々顔を赤くしながら突っ込みを入れる。

 やがて…。
 呆けていたティファの目に、嬉し涙が滲み…。
 クラウドがやっぱり赤い顔のまま…。
 そっとお互いを優しく抱き寄せ合って…。
 二人はお互いの『唯一の人』と共にいる幸せを感じあった。



「良かったね!」
「うん!」
「クラウドも今回は中々良く言ってくれた方だしね!」
「そうだな!それでも、やっぱりもっとこう…ティファを安心させてやって欲しいよなぁ」
「まぁ、あれがクラウドの精一杯じゃない?」
「そうだな。それに、ティファもあれが精一杯だろうし…」
「似た者同士って事…かな?」
「だな」



 そんな二人を、子供達が嬉しそうに階段の壁に張り付いて、そっと窺っている事など知らない親代わりの二人は、世界で一番幸せそうに微笑んでいた…。



 唯一の人と巡りあえた奇跡に…。
 心からの感謝を!




 あとがき

 はい。
 ティファに想いを寄せる正統派ってあんまり書いた事ないんじゃないかなぁ…と思って出来上がった作品です。
 でも、書き終えてみると……。
 いつもの奴とあまり変わらないような…ゴホゴホ…。

 二人共、お互いを『大事に想ってる』って、あんまり口にしないんじゃないでしょうかね…?
 クラウドもティファもテレやさんですから…。
 という訳で、言わせてみたい台詞を言わせてやっちゃいました(笑)。

 ここまでお付き合い下さり、ありがとうございましたm(__)m