エッジの記念碑前。 そこには記念碑を眺められるように、少々離れた場所にベンチが円を描くようにグルリと置かれている。 そうして。 そのベンチの一つに、若い男性が一人座っていた。 チラチラと記念碑の隣に立てられている時計と、道行く人達へ視線を彷徨わせ…。 少々イライラしながらスラリとした長い足を組み直し…。 フワフワとクセのある茶色の髪をかきあげる『彼』のその仕草に…。 街を歩く女性達が足を止め、うっとりと見惚れている。 その光景に不愉快で胸が一杯になった『彼女』は苦々しい息を吐き出した。 夢か現(うつつ)か幻か「あ……!」 人混みの中に、自分の待ち人の姿を見つけたその『彼』は、ムッとしながら立ち上がった。 そして、そのまま足早に『彼女』に近付くと、遅れて待ち合わせ場所にやって来たにも関わらず、何故か自分以上に不愉快な顔をしている『彼女』に眉を寄せた。 「なんだよ……そんな顔してさ……」 「…………別に」 プイッとそっぽを向いて頬を膨らませる『彼女』に、カチンときたのだろう。 寄せていた眉を鋭角に吊り上げると、 「なんだよ。なんで遅れてきたお前が怒ってるんだよ。普通、待たせてた俺に対して詫びの一言くらい言うべきなんじゃないのか!?ったく、それなのになんだってそんな態度を取られなくちゃ「分かってるわよ!悪かったわ、遅れてごめんなさい!!」 少々声を荒げて文句を口にすると、遮るように『彼女』に怒鳴り返された。 最後まで文句を言わせてもらえなかった事で、更に『彼』はムッとしたようだったが、それでも『彼女』が何故不機嫌なのかの方が気になったようだ。 「なんだよ……なんかあったのか……?」 少々困ったような…、心配そうな顔をして『彼女』の顔を覗き込む。 その途端。 プイッ。 綺麗に結ったお下げを揺らせて、『彼女』は『彼』から顔を逸らす。 再びムッと眉を寄せた『彼』は…。 ヒョイ。 プイッ。 クルリ。 プイッ。 ガバッ! プイッ! 『彼女』の正面に回りこもうとして、ことごとくそれをかわされた。 周りから見るとまるで漫才のような二人のその行動に、『彼』に見とれていた女性達を中心に、通行人達も足を止めて何事かと見物しだした。 しかし、完全に頭に血が上った『彼』と、『彼』に対して……というよりも『彼』に見とれていた女性達にヤキモチを妬いていた『彼女』には、自分達が衆人の関心を一身に集めているという事態に全く気付く気配が無い。 まぁ……いわゆる、『二人の世界』に入ってしまっているわけだ。 ………全く、これっぽっちも『甘い雰囲気』とはかけ離れているが…。 「なんだよ!もうほんっとうに分けわかんねぇ!!」 とうとう『彼』は癇癪を起こした。 自分よりも背の低い彼女を睨みつけながら、ワナワナと肩を震わせる。 相変わらず自分と顔を合わせようとせずに膨れっ面の彼女には、その姿は見えないだろう。 「分かった。そんなに俺の顔が見たくないなら好きにしろ!俺も今日一日は好きにするからな!!」 そう吐き捨てるように言い放つと、クルリと踵を返してスタスタとその場から足早に去ってしまった。 しかし。 「だぁ!!なにしてるんだお前は!!!」 立ち去ったと思われていた『彼』が、血相を変えて駆け戻って来た。 自分が立ち去ってからまだほんの数十秒しか経っていないというのに、『彼女』を取り巻いている若い男性陣に威嚇しつつ、自分の方へ『彼女』を引き寄せる。 そして、抗議の声を上げる男性陣達を完全に無視しつつ、『彼女』の肩を抱くようにして足早にその場から今度こそ立ち去った。 「ったく、何してるんだよ!」 「しょうがないじゃない!だって、家を出る直前におつかいメモ渡されて、それをチェックしてたんだもん!」 「そうじゃなくて!何であんなに男が群がってるのに大人しくしてたんだって聞いてんの!」 「大人しくしてたんじゃないわよ!呆気に取られてたの!!」 ギャーギャーと言い合いながら、街を足早に歩くその二人は、どう見ても恋人には見えない。 全く『甘い雰囲気』というものが感じられないからだ。 『痴話喧嘩』……と、言えなくも無いのだが……。 肩を抱き寄せたまま歩く『彼』に、『彼女』はパンパンに頬を膨らませてはいるものの、その腕を振り払う素振りを見せない。 身体を密着させたその状態で口喧嘩するのは、普通なら不自然だというのに、この二人の場合は何故かそうではないようだ。 むしろ自然体に見えるから……不思議で仕方ない。 通り過ぎる人々が、好奇の視線を向けるが、白熱した舌戦を繰り広げている二人には全く意に関しないようだ。 「大体な!なんだってあんな所でわざわざ待ち合わせしなくちゃならないんだよ!」 「いいじゃない、いっつも一緒に家出て出かけてるんだもん。たまにはどこかで待ち合わせして遊びに行きたかったの!」 「だからって、なんで遅れてきたお前にあんなに不機嫌な顔されなくちゃならないんだよ!三十分も待ったんだぞ!?」 「なによ、三十分くらい!女の子は準備に時間がかかるのよ!少しくらいの遅れでガタガタ言わないでよ!」 「あのなぁ、だったら準備にかかる時間くらいはちゃんと見積もって支度にかかれよな!」 「しょうがないでしょう!?私だって遅れようと思ったんじゃないんだもん!!」 まったくの平行線を辿る口喧嘩をしながら、二人の足取りは軽い。 喧嘩……というよりもむしろ『じゃれ合い』だ。 口調は激しく、表情も膨れっ面な二人なのに、纏っている空気が柔らかいのは何故だろう…? 見ていて微笑ましくすら感じられるカップルに、ティファは笑みを浮かべた。 『良いなぁ…。お互いを信じ合ってるっていうか……分かり合ってるっていうか…。そんな感じね…』 そう心の中で呟いて、目の前を歩くカップルを微笑ましく見つめる。 自分の隣に座っている金髪・碧眼の青年をチラリと見ると、彼も目の前の面白いカップルを興味深そうに見つめていた。 自分達の行く先と同じなのか、カップルは全く同じ方向を先行している。 そして、歩く速度もこれまた同じらしい。 距離は付かず離れず、まるでクラウドとティファがカップルの後を付けているかのような絶妙な距離感を保っていた。 「それにしても、なんでさっきは怒ってたんだよ」 フワフワした茶色い髪をかきあげつつ、隣を歩く『彼女』へ声を投げかける。 茶色の髪は、後部は短くカットされていたが、前と横髪は少々長めに伸ばされていて、そのヘアースタイルは彼に良く似合っていた。 「……別に……」 「なんだよ、その間が気になるだろう!?」 「もう、しつこいな!何でもないって言ってるじゃない!」 プイッと再び横を向いてしまった『彼女』に、『彼』はフワフワの髪をグシャグシャと掻き毟った。 「ああああ!もう、ほんっとうに分けわかんない奴だな!」 イライラと髪を掻き毟る彼の姿に、『彼女』は大きな目をチラリと向けて、小さく溜め息を吐いた。 それがまた、『彼』の気に障ったらしい。 「なんだよ、ほんっとうに何か言いたい事あるなら言えよな!」 「…………………」 「そんなに膨れた顔して隣歩かれてたら、気分悪いんだよ!」 『彼女』は、『彼』のその言葉でハッとした表情をすると、キッと彼を睨み上げた。 その表情が、今にも泣き出しそうなのに、『彼』がこれまたギクッとする。 「そうよね…。別にこうして『家以外』までも私と一緒にいる必要もないし…」 ピタリ…。 足を止めて少し俯いて…。 流石に、『彼』も言い過ぎたと思ったのだろう。 額にびっしりと汗を浮かべてオロオロとし始めた。 しかし、『彼女』は慌てて何か言おうとする『彼』にニッコリと微笑みかけると、 「ごめんね!私ももう少し気を使えば良かったのよね。うんうん。たまのお休みなんだから、好きな女の子と一緒に過ごしたいわよね。私ったら本当に気が回らないんだから!!」 そう言うと同時にクルリと踵を返して走り出した。 「ごめんね!頼まれた買い物済ませて先に帰る!!」 「な!ちょ、ちょっと待て!!」 言い捨てて走り去る『彼女』の後を、『彼』は慌てて追いかけた。 その為、クラウドとティファの視界からは見えなくなってしまったのだが、 「きっと……すぐに仲直りするんでしょうね」 「ああ……そうだろうな…」 そう言って微笑み合った。 「何か……羨ましいかな」 「え?」 ポツリと呟いたティファに、クラウドはキョトンとした。 そんなクラウドに視線を移す事無く、カップルが去って行った方を見ながら、ティファは、 「うん……羨ましい……」 もう一度、そう呟いた。 「ティファ?」 隣に居るクラウドが、不思議そうな顔をしているのは充分分かっている。 それでも、その自分の気持ちを正直に話してしまうには、少々憚られた。 たった今まで目の前にいたカップルは、喧嘩をしながらもどこかでしっかりと繋がっている。 だからこそ、口喧嘩をしていてもどこか微笑ましかったのだ。 そして、『彼女』が『彼』に対して膨れたような顔をしていたのは、自分の気持ちに正直になる事が出来ているから。 だからこそ。 街行く女性達が『彼』に羨望の眼差しを向けた事に対して、『嫉妬』と『独占欲』が胸に込上げ、どうしようもなくなってしまったのだろう。 そして、それを充分自覚しているからこそ、『彼』に告げられなかったのだ。 『彼』に恋をしているから。 『彼』に嫉妬深い自分を見られた事に対して、恥じているから。 『彼』に………これ以上呆れられたくないから…。 『彼女』には、自分に無い『素直さ』があった。 本当に……私にももう少し、『彼女』のような『素直』になる『勇気』があれば…。 綺麗に結ったおさげを振りながら駆け出してしまった彼女に、心から『羨ましい』と思ってしまう。 もしも、自分がもう少し『自分に正直』なら、隣に居る彼とも少しは……そう、ほんの少しは何らかの進展があるのかもしれない。 それでも、自分達にはこうして隣を歩くのだけでも精一杯。 鈍い彼と、正直でない自分。 一体、どちらのせいでこの曖昧な関係が続いているのか……? 恐らく……お互いのせい。 正直に『愛してる』と言えない自分と、『愛してる』と言ってくれない彼。 クラウドの気持ちは充分分かってる。 彼にも私の気持ちはちゃんと届いてる。 でも…。 それだけじゃあダメなんだろう。 きっと、いつかはきちんと……。 そう考えているティファの目の前に、人混みに紛れて例のカップルが仲良く買い物袋を抱えてこちらに歩いてくるのが見えた。 予想通り、仲直りしたらしい。 『彼女』は少々頬を染めながら、幸せそうに『彼』を見上げて微笑んでいる。 『彼』はと言うと…。 真っ赤になった顔を少々逸らせる様にして、それでも『彼女』の片手をしっかり握っていた。 『彼』が『彼女』を追いかけて、『言うべき事』をしっかりと言ったことが聞かなくても……、その場面を見ていなくても分かる。 ……羨ましい……な……。 微笑ましく思いながらも、その二人の姿に少々嫉妬めいたものを感じるティファに、 「あぁ、あの二人、仲直りしたんだな」 クラウドのどこかホッとした声が聞えてきた。 「やっぱり、あの二人には幸せになって欲しいし」 「え?」 クラウドの言葉に、少し驚いて彼を見上げると、クラウドはそんなティファに驚いたように目を軽く見開いている。 「ティファは……そうじゃないのか?」 「えっと……。そりゃ、幸せな人が増えるっていうのは……良い事だと思うけど…」 まさか、そこまでクラウドがあのカップルを心配しているとは思っていなかったティファは、素直に驚いていた。 あまり他人に対して関心を寄せない彼の心を引き寄せるカップル。 そのカップルにさえ、少し嫉妬してしまう『独占欲』の強い自分。 なんとも自分が滑稽な存在に思えてきて、情けなくなる。 そう自己嫌悪に陥っている間にも、カップルとの距離はズンズン縮まってきていた。 もう、すぐ…。 そこまで……二人がやって来る。 そうして。 そのままクラウドとティファの横を通り過ぎる…。 かと思っていたら……。 「ティファももっと自分に正直になったら良いのにね」 「そうだよな。いつまで俺達が子供の頃と同じ関係を続けてるんだか」 ― え!? ― 二人の会話が耳に飛び込んできて…。 ティファはびっくりして振り返った。 そこには。 柔らかな笑みを浮かべて自分を見つめている『彼』と『彼女』。 「ねぇ、ティファ。もうそろそろ……自分の本当の願いをクラウドに言っても良いんじゃない?」 「なぁ、ティファ。もう……充分じゃないのかな?これ以上時間が経っちゃうと、逆にチャンスを逃しちゃうぜ?」 そう言い残し…。 二人はそっと手を繋いで…。 人混みの中に消えていった。 その瞬間。 ティファは気付いた。 「デンゼル!マリン!!」 そこでティファは目が覚めた。 「本当に大丈夫か?」 「うん…ごめんね、心配かけて…」 目が覚めた時。 悲鳴のような声を上げたティファに、隣で熟睡していたクラウドは飛び起きた。 そして、呆然と空(くう)に手を伸ばすティファに、今まで数回しか見せた事のない取り乱しようになったのだった。 いくらティファが大丈夫だと言っても、まるで信じていないクラウドは、とうとう今日の配達の予定をキャンセルするとまで言い出した。 そんなクラウドに、ティファは申し訳なく思いつつも、それ以上に満ち足りた気持ちになった。 こんなに彼に想われている…。 ティファは未だにオロオロしている愛しい人に、ギュッと抱きついた。 途端。 クラウドの身体がビシッと強張る。 一緒にこうして過ごすようになったにも関わらず、自分達はまだまだ慣れるという事を知らない。 むしろ、相手に対して鼓動が早くなる事の方が多くなったと感じるのは、きっとティファだけではないだろう。 ―「ティファももっと自分に正直になったら良いのにね」 「そうだよな。いつまで俺達が子供の頃と同じ関係を続けてるんだか」― 夢で見た子供達の成長した姿が脳裏に甦る。 もしかしたら、あれは正夢なのかもしれない。 でも……それでも……。 「ティファ…!?」 突然抱きついた自分に真っ赤になる彼と共にこうしていられる事が、本当に嬉しい。 これ以上の幸せは……ちょっと思いつかない。 「フフ…。ごめんね、少しだけこうしてて」 クスクス笑いながらそう請うと…。 強張りながらも、愛しい人はそうっと……本当に優しく……優しく……。 あったかく包み込んでくれた。 涙が出る程の幸福感に包まれながら、ティファはクラウドの胸に頬を擦り寄せた。 ― 大丈夫。 だって……こんなに幸せなんだもん…。 形はどうあれ、私は……本当に幸せだよ… ― 胸の中で、夢に見た未来の可愛い我が子達にそう呟く。 「ティファ?」 「フフ…。デンゼルもマリンも、将来がとっても楽しみね」 「???」 わけが分からず首を捻る愛しい人に、口付けを一つ贈って…。 温かな幸福に包まれ目を閉じた。 瞼の裏に浮かぶのは、たった今、夢で見た我が子の成長した姿。 「デンゼルもマリンも…。この星一番素敵なカップルになるわね」 「は……?」 ますます混乱する愛しい人に。 ティファが『夢』の話しを語ったのは…。 もう少し後の話。 今はただ、この身を包む温もりに身をゆだねて……。 不器用な二人を、朝陽が照らしてくれるまであと少し…。 あとがき またまた『夢オチ』のお話しでごめんなさい……(汗)。 『夢オチ』のお話しはこれで三作目ですね…。 どうしても成長したデンマリが書きたくなって…。 でも、イマイチ自分の中で描ききれなかったので、ティファの夢〜…ということにしちゃいました(笑) きっと、デンゼルもマリンも、本当に素敵なカップルになると思います。(← むしろ願望) |