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 「いらっしゃいませ!」

 仕事に疲れた俺に、以前と変わらない愛くるしい笑顔で看板娘が出迎えてくれた。

夢と現実と2


「あ!今晩は、お久しぶりです!」
「よう!覚えててくれたのか?嬉しいじゃないか!」
「はい、勿論です!」

 看板娘の笑顔に、不覚にも視界が滲んでくるぜ…。
 くぅ~!世の中捨てたもんじゃない!そうだろう!?
 こんなにも優しい女の子がいるんだ!
 しかも、かなり将来が楽しみな可愛い女の子なんだぜ!?
 これが喜ばずにいられるか!?

 俺は、込上げてくる感動に言葉を詰まらせるが、看板娘に気付かれるわけにはいかない!
 グッと堪えて、笑顔を見せる。

 ……これが男って奴さ…!
 そうだろう…!?

「えっと、すみません。今、お席の方が一杯で、しばらくお待ちしていただく事になるんですけど…」
「おう、気にするな!気長に待つからさ!」
 申し訳なさそうに顔を曇らせる看板娘に、俺は快活に笑って見せた。
 看板娘…、確かマリー…だったかな?
 いや、待て。何だか響きが違う気がする…。
 …マリナ…、だったか?何だか響きは似ているが何となく違う気がする…。
 …マリア…?
 …マリカ…?
 …マリモ…?
 ……はて?看板娘の名前は~……?
 い、いや。名前はこの際置いといて…。
 
 看板娘は、俺の顔を見てホッとした様な、それでいて申し訳なさそうな顔で、店内の入り口付近に添えつけられている待合用の椅子を勧め、パタパタと仕事に戻って行った。

 本当に、可愛いよな…。

 しみじみそう感じながら、俺は一人、待合用の椅子に腰を下ろした。


 そもそも、俺がこの店に初めて来たのは、もう2ヶ月ほど前になる。

 俺は『元』ソルジャーだ。
 神羅が滅んだ今、『元』をつけなきゃならないのが、何とも物悲しい気分にさせてくれるんだが、まあ仕方ない。
 俺がソルジャーを目指したのは、あの忌まわしい惨劇を引き起こした張本人、かつて『英雄』として世界中に名を馳せた男に憧れたからだ。
 俺が子供頃は、大体の男の子が『英雄』に憧れ、ソルジャーを目指してミッドガルにやって来た。
 そして、その大多数の奴らが脱落していく中、才能のあった俺は見事にソルジャーになる事が出来たんだ!
 ふん、当然だ。
 何と言っても、俺は故郷では一目も二目も置かれた存在だったんだからな!

 そんな俺の夢は、ソルジャーになる事が終着点じゃなかった。
 ソルジャーになるのは、あくまで『夢』を叶えるまでの通過点に過ぎなかったんだ。
 そう!この俺様にこそ相応しい人生を歩む為の!!

 見事ソルジャーになれた俺様は、確実に『夢』へ向けて順調に滑り出した…ハズだった。

 しかし、その順調な『特典のついた美味しい人生』への滑り出しも、『おしゃか』になる出来事が起こった。
 それも複数同時にだ!!
 一つ目は、不運大半、不注意が少々重なり、意識不明の重傷を負ってしまった事だ。
 まあ、これは俺の並外れた体力と精神力で乗り越えた。
 二つ目は、憧れだった『英雄』が暴走した事だ。しかも、俺が生死の境を彷徨っている間に事を起こしてくれたんだぜ!?
 もし、俺がそんな事になっていなけりゃ、今現在、『ジェノバ戦役の英雄』として名を馳せているのは、確実に俺様のはずだ!
 ……まあ、良い。
 過ぎてしまった事だ。
 今更ウダウダ言ったって仕方ないさ…。
 …………。
 ……ハッ!
 何を哀愁漂わせてるんだ、俺様!!
 しっかりするんだ!俺の人生はまだまだこれから、バラ色、桃色、桜色に輝いているのさ!!
 三つ目は、これこそが最大の不運としか言いようがない。
『英雄』を倒した『ジェノバ戦役の英雄』を打つべく、このセブンスヘブンにやって来た俺様は、まさに運命の出会いをしてしまったのだ!!
 それは…。

「はい、お待ちどうさまでした!」

 俺の目の前で、料理を運ぶ一人の女性。
 輝く笑顔、澄んだ瞳、色っぽいが決していやらしくない唇、明るく張りのある声、そして、目を瞠るような抜群のプロポーション…!!
 そのどれもが俺を魅了してやまない、この店の女店主、ティファ・ロックハート!

 彼女こそが、俺の…、俺様にこそ相応しい女性だった。

 しかし、よもや倒しに来た相手に一目惚れしてしまうなど、一体誰が想像できる!?
 彼女が『ジェノバ戦役の英雄』達の中で、唯一素手で戦うという話は世界中に広まっている。
 だから俺は素直に、ティファ・ロックハートは『ゴリラ女』だと思い込んでいたのだ。
 それが、こんなにも美しい女性(ひと)だったとは…!
 おまけに『恋心』まで抱いてしまうとは、まさに『予定は未定』『一寸先は真っ暗闇』の世の中だ!

 彼女の姿を一目見た瞬間から、すっかり戦意を喪失してしまった俺は、目的を失ってしまい、とりあえず復興の進んでいるこのエッジに居座っている。
 これが、今の俺の状況だった。

 もちろん、ただこの街で腐ってたわけじゃない!
 今だって、仕事の帰りなのさ。
 仕事は、今のところ建設現場のただの日雇いだが、そのうち大きなビジネスを見つけるつもりだ。
 何と言っても、『元』ソルジャーとしての実力が俺にはあるんだから、大きなビジネスをするには何の支障もないはずだ!
 そう、今の俺はビッグビジネスをする為の休養中なのさ!!

 ビッグビジネス…。
 まさに、この俺様に相応しい響きを持つ言葉じゃないか!?

 …具体的には特にプランはないんだが…。

 ま、まあ、アレだな!
『元』ソルジャーとしての基礎体力、知識、経験から鑑みると、やはり『要人の警護』!!これだろう…!!

 実は、要人の警護…、つまりボディーガードの口を探し、少々動いた事があるんだ。

 しかし、相手は全く価値の分からん、凡庸な頭の持ち主で、折角この俺様が話しを持ちかけてやったというのに、門前払いを喰わせやがった!
 ケッ!こっちから願い下げだっつーの!!
『バルト家』なんざくそ喰らえだ!!
 何が『当家ではボディーガードは足りている』だ!
 全く、金持ちで名家はこれだから困る。
 これからの世の中、ボディーガードはいくらいても足りないんだよ!

 ……何だか、妙に空しい気分になってきちまった。

 ハッ!!
 また、哀愁を背負っちまったぜ!
 これじゃ駄目だ!
 確かに、哀愁漂う俺様も魅力的だろうが、今は哀愁を漂わせている人間が掃いて捨てるほどいる世の中だ!
 そんな凡人どもと一緒になってどうする、俺!!

 良し!
 何とか気力が湧いてきたぜ!
 流石は俺様!
 並みの精神力じゃないんだ!!

 おっと、そうそう、話がえらくズレたじゃねえか!

 とにかく!!
 俺様は、『打倒!ジェノバ戦役の英雄』という目標を失い、この街で復興に手を貸している。
 それで、今夜は久しぶりにセブンスヘブンにあの夜以来、初めてやって来たってわけさ。

 エッジは広いし、復興も着々と進んでいるから、結構美味い酒や美味い料理を出す店が増えている。
 しかし、その沢山の店の中でもやはり、このセブンスヘブンの出す料理には到底及ばないな。
 素朴な素材から、よくここまで美味い料理を作り出せるものだと感心するぜ。

 本当に、天女様は容姿端麗な上、料理上手でこうも俺の理想にピッタリな女性なんだろう…。
 ああ、本当に…!もしも『奴』さえいなかったら、確実に彼女の心は俺のものになっていたはずなのに…!

 俺が内心でそう歯噛みしていると、
「席が空いたのでこちらへ…、あ、あんたは…」
と、当の本人が目の前に現れた!!

「お、おう!ひ、久しぶり…」
「ああ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

 ツンツンとした黄金色に輝く髪、ほっそりとした輪郭の顔立ち、引き締まった身体、そして、この俺と同じ『魔晄』を浴びた者の証である紺碧の瞳。
 クラウド・ストライフ。
『ジェノバ戦役の英雄』の一人で、グループのリーダーだった男だ。

 そして、天女様の恋人の地位を獲得した、世界で一番の幸せ者だ…!!

 その世界一の幸せ者は、クールな顔をして水色のエプロンを身に着け、俺の目の前に立ちやがっている!!
 ったく、何なんだよ!その水色のエプロンは!!
 アレか!?もしかして天女様の手作りなんじゃないのか!?!?
 そうだ!
 絶対そうに決まっている!!
 看板娘と天女様が身に着けているエプロンと全く同じなんだから!!

 くっそ~、俺様の現状と比べると、何て美味しい人生を歩いてやがるんだ、この男は!!

「?何だ…?俺の顔に何かついてるか??」
「あ?い、いや…、別に何も……」
「?」
 首を傾げるこのチョコボ頭に、俺は慌てて咳払いをして見せた。

 お、落ち着け、俺!
 って言うか、何でこの男がこの時間から店にいるんだ?
 しかも、エプロンを身に着けてるって事は、店を手伝っているって事だよな!?

「あ、あんたさ。仕事は今日、どうしたんだ?」
 席に案内し、メニューを手渡してくるチョコボ頭に、何となしに聞いてみる。

「ああ、今日は配達の仕事はオフなんだ」
「オフの日に店で働いてるのか?」
「まあな。最近じゃ、配達の仕事が多くて滅多に手伝ってやれないけど…」
 そう言って、ちょっと目を細めてカウンターの中の天女様を見つめるこの男は、何て言うのか、本当に…。

 良い男…!!

 咄嗟に頭の中にこの言葉が浮かんできちまった…!!

 かーっ!!何だってこんなチョコボ頭に『良い男』だなんて感想を持たなきゃなんないんだ!?
 そもそも、この男率いる『ジェノバ戦役の英雄達』のお陰で、俺の輝かしい人生設計がおじゃんになったと言うのに!!

 それにだ!
 この男がいなかったら、俺様が天女様と…!!
 ……。何だか無性に空しくなってきちまった…。
 完全に『負け犬の遠吠え』……。
 い、いや!!
 人生、天女様だけが全てじゃない!!
 そうとも!このありとあらゆる能力に長けているこの俺様が、たった一人の女に人生を左右されるハズがない!
 彼女だけが女じゃない!
 そうとも!この広い世界にはきっと、彼女よりも容姿端麗で、性格も素晴らしく、更には知的で奥ゆかしく、抜群のプロポーションをした俺の為の女性がいるのさ!!
 そうに決まってる、間違いない!!

「……、大丈夫か?」
「え!?」
「いや、あんたさっきから一人で百面相してるから…」
 チョコボ頭が、何だか気味の悪いものでも見るかのような目つきで声をかける。
 その冷め切った眼差しに、一気に俺は素晴らしい想像の世界から、暗く澱んだ現実の世界に引きずり戻された。

 ったく、本当にこいつは人のナイーブな心を理解するって言う事を知らないのか!?

 そんな冷め切った目で、よく接客業が出来るよな!!

 しかし、俺様は良識人だから、そんな野暮で粗雑な意見を口にする愚か者ではない。
 グッと喉元から競りあがってくる言葉の数々を呑み下し、「あ~、たまにあるんだ。人からよく『何考えてるか分からん奴』と言われている」
 すると、今度は何故か哀れみに満ちた眼差しを向けられてしまった。
「そうか…、まあ頑張れよ」
 ………。
 何だか、最後の一言で一気に奈落のそこに転落しちまうよ…。

 とりあえず、俺は『本日のオススメ』と生ビールを中ジョッキ注文した。
 確か、前来た時もそうだったな。
 うん、そうだ。確か注文に来たのは看板娘だった。
 あまりに小さな子供が仕事をしているのに驚いた事を思い出すぜ。
 ん…?
 そう言えば、男の子もいたな…?
 今夜はまだ姿を見ていないが、店の奥で洗い物をしてるのかな?

 そうそう、思い出した。
 この前来た時は、その男の子が店の客に胸倉を掴まれて…。
 俺が助けに入ろうとして……。
 でも、天女様の動きの方が断然早くて……。
 天女様に叩き出された男は、店の扉を大破させながらも通りにまで吹っ飛ばされて……。
 そこで、運悪く帰宅したチョコボ頭のバイクに跳ねられたんだよな……。
 …………。
 まあ、その事考えると、俺は遥かにマシだな。うん!

 などと物思いにふけっていると、待ち焦がれていた天女様が、直接料理をお運び下さった。
「あら?あなたはこの前来て下った方ですよね?」
「おう!久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「ええ、ありがとう」
 笑顔で次々料理を並べてくれる。
 麻婆豆腐にチンジャオロースー、炒飯と、次々テーブルに並べ、
「それでは、ゆっくり召し上がって下さいね」
 輝く微笑を残して、天女様はカウンターの中にお戻りになられた。

 ああ、本当に何て素敵な女性なんだろう…。

 そうしみじみ感じつつ、料理を口に運ぶ。
 美味い!!流石は天女様!!本当に素晴らしい!!
 ああ、この感動をぜひとも彼女に伝えたい…!!

 しかし、俺は常識人だからここは黙って心の中だけで賞賛するに止めておく。
 きっと、俺が行動に出したら、その一瞬後にはチョコボ頭が何かしらの行動に出るだろう。
 そして、天女様がそんなチョコボ頭の軽挙により、お店の信用も無くし、幼い子供達を抱えて路頭に迷う羽目にもなりかねない!
 何より、天女様はそんなチョコボ頭の軽率さを悲しまれるだろう…!!
 そうさ。俺は、彼女の為にも己の気持ちを抑え、一人胸の中で慕っているのさ!!
 断じてチョコボ頭の制裁を恐れているのではないのだ!!
 そうとも!この俺様が本気になったら、例えチョコボ頭が『ジェノバ戦役の英雄』達のリーダーだった男でも、決して負けるはずが無い!


「……、大丈夫か?」
「うおっ!?」
「な、何だ!?」
 一人、胸の中で熱く語っていた俺の目の前に、いつの間にか当のチョコボ頭が困惑した顔で立ち竦んでいた。その手にはスープの乗ったお盆がある。
「び、びっくりした…」
「それはこちらの台詞だが…」

 どこと無く気まずい気分がするのは、きっと気のせいだ、そうに決まってる!
「あんた、さっきから何考えてるんだ?」
 と、スープを置きながらチョコボ頭は、どこか警戒するかのような目つきで俺を見やがる!

 ったく、何て失敬な奴だ!
 仮にも俺はお客様だぞ!!

「ニヤニヤしたかと思えば難しい顔するし、かと思えば何見てるか分からない目をしてぼんやりしてるし…」

 …それって俺のこと言ってるのか……?

「い、いつそんな顔をした…」
「さっきティファが料理を運んでからずっとだ」
「…………」
「…………」

 チョコボ頭の紺碧の瞳が、ほんのりと殺気立っているのは気のせいだ…多分。

「べ、別に何にもないさ!」
「……なら良いが…」

 チョコボ頭はそれだけ口にすると、さっさとカウンターに戻って行った。

 ……ちょっと、怖かったな…。
 あれだな。
 まさに『視線で殺す』ってやつの一歩手前だ。
 本当に、何だってあんな短気な奴を天女様は……。
 は~…。
 妙にしんみりしちまうじゃねえか…。


 その後、俺はチョコボ頭の視線を気にしながらも、天女様の働くお姿を眺めながら、素晴らしい夕食に舌鼓を打った。
 やがて…。


「それじゃ、お休みなさい!」
「ああ、お休み」
「皆さんもお休みなさい!」
「「「お疲れさ~ん!!」」」

 看板息子と看板娘が、揃って頭をぴょこんと下げて挨拶をする。
 それに、店の常連客と思しき面々が気軽に声を掛け、笑顔で子供達を労った。
 そして子供達は、チョコボ頭と天女様それぞれにお休みのキスを額に受けて、にっこりと微笑を浮かべ、カウンター奥の階段に姿を消した。

 それにしても、子供達にキスをした四人の光景は、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる、心温まる光景だった…。

 く~!
 俺もあの輪に入りたいぜ!!

 と、一人身をよじっていると「あ!いけない!」と、天女様が声をお出しになった。

「新しいシーツを出すのを忘れてたわ!」
 そう言うと、ちょっと窺うような視線をチョコボ頭に向ける。
 チョコボ頭は、
「大丈夫だ。少しの間なら俺一人で問題ない」
と、実に素っ気無く頷いて見せた。

 おい!
 天女様がこんなに愛くるしい『お願い』の眼差しで見つめているのに、貴様と言う奴はたったそれだけのリアクションなのか!!
 あれか!?
 クールな男を演じる計算なのか!?!?

 などと心の中で猛烈なブーイングをしている俺の目の前では、天女様が非常に嬉しそうな、それでいて申し訳なさそうな微笑を返し、階段を駆け上がって行かれてしまった…。

 何となく釈然としないぜ…。
 天女様は、何故に『愛想』という美徳をどっかに落っことしたかの様なこんな男に、あのような微笑を向けられるのか…。
 謎だし、理不尽だ!
 こんなチョコボ頭よりも俺様の方が断然イイ男のはずなのに!!
 
 などなど、やはり俺が一人で胸中で唸っていると、突然店の一角から、「ったく、どこがイイのかね~!?」と、野太く酒に酔った男の声が響いた。

 当然店内の客は、その声の方に視線を集中させる。
 俺ももちろんそっちへ目をやった。

 すると、そこには40歳前後といった男が、顔を赤く染めてチョコボ頭を睨みつけていた。
 その目は、酒の為か焦点が定まっておらず、ユラユラ危なげな色を浮かべて揺れている。
 一目で、関わったら厄介な人種だとすぐにわかっちまった。
 しかも、その男のテーブルには男と同様の人種の、やはり40代と思われるいずれもがっしりとした体格の男達が5人も腰掛け、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべてやがる。

 何か、マズイんじゃないのか!?
 きっと、チョコボ頭をボコボコにする気だ!
 酒が入ってるせいか、暴れだしたくてうずうずしてるのが、見て取れる。

 一方、そんな男達の出現で他の客達はざわざわとし始めた。
 中には、そっと自分達のテーブルから隣のテーブルへグラスを持って移動し、出来るだけ男達から離れる客達もいる。

 にも関わらず、チョコボ頭は、相変わらず無表情な顔で静かに男達を見ているだけだった。

 お前、ここはそんなに落ち着き払っている場面じゃないだろう!?
 思わず心の中で突っ込みを入れるが、もちろんチョコボ頭には聞こえない。

 じりじりとしながら、状況を見守る俺の前で、先に動いたのはやはり酔った男だった。

「本当によ~。こんな優男のどこがイイのかね、この店の店主はよ!」
 完全に絡み口調でチョコボ頭を挑発している。
 これに対しても、チョコボ頭は無言のままだった。
「全く、アンタがかの『ジェノバ戦役の英雄』だって?ハッ!笑わせるなよな!」
 あからさまな嘲笑に、同席の男達が下卑た笑い声を上げる。

 一気に店内に緊張が走った。
 だが、やはりこれにもチョコボ頭は涼しげな顔をし、男達から視線を外すと空いている皿やグラスを集めてお盆に乗せ始めた。
 その動作は、その場を取り繕う為にしているのではない!
 完全に、男達の存在をスルーしているのだ!!
 何て肝の据わった男だ……いや、もしかして、そこはかとなく鈍い男だったりするのか!?
 そして、そんな態度が男達を更に逆上させた事は、当然の帰結だな…。

「テメェ!すかしてんじゃねえよ!!」
「聞こえないとでも言うつもりか!?」
「はんっ!さては、すっかり平和ボケしちまって、足が振るえてんじゃないのか?」
「お~お~、かの英雄さんも、今じゃ女の尻に敷かれた、ただの腑抜けかよ!」
「腑抜けの英雄か?笑えるよな~。まあ、俺達全員を相手にするのは確かに出来ないだろうし、恥ずかしがる必要はないからよ~!」
「それにしても、この店の店主は最高に美人だがよ、アンタみたいな腑抜けに惚気てるだなんて、中身は見てくれほどじゃないって事だな~」
 ここで、僅かにチョコボ頭の瞳が揺らいだのに気付いたのは、恐らく俺だけだったろうな。
 他の客の連中は、男達と視線を合わせないよう、俯き加減でチラチラ盗み見るだけだったし、チョコボ頭を盗み見るだけの勇気が無かったんだろう…。
「ま、女としては最高の身体だから、アンタに消えてもらったら、その後は俺達がちゃ~んと面倒見てやるから、とっとと…」

 その続きを聞く事は誰にも出来なかった。
 何故なら、チョコボ頭がその男の喉を掴み、片手だけで高々と持ち上げたのだ。
 そして、苦しみ、足をばたつかせてもがく男を、呆気に取られている仲間の方へ軽い動作でポ~ン、と放り投げた。
 男達は、仲間を受け止めようとせず、身をよじって男を避けた。
 当然、放り投げられた男は、重力に忠実に従って床に頭から落下した。
 そう、頭から落下したのだ!!
 頭から落下する為には、床との距離がかなり必要になる。
 それを、片手のみで、軽い動作でやってのけたチョコボ頭に、店内にいた全員がポカンと口を開けてしまった。

『『『………ありえない……!!!』』』

 全員の心の声が聞こえるようだぜ。
 ついに俺も読心術を得とくしたのか…!!
 ま、まあ冗談はさておき、今驚いている全員は、男を放り投げたその腕力を驚いているのだろうが、俺は別の事で呆然としてるのさ。
 それは、店内の端のテーブルを片付けていたチョコボ頭が、一瞬後には対極に位置する男達のテーブルへ瞬間的に移動をしていたことだ。
 このスピード、そして、あの力!
 はっきり言って、同じソルジャーでもこう力に秀でた奴はいない!!

「アンタ達が俺の事をどうこう言うのは勝手だ、好きに言えばいい。だが…」
 ここで言葉を切り、今では青い顔をした男達に殺気を帯びた眼差しを向ける。
「彼女の事を口にするな」
 そう言ったチョコボ頭は、男の俺が言うのもなんだが、非常に、カッコ良かった。

『彼女の事を口にするな』そう言った時のチョコボ頭は凛とした眼差しで、怒りに震えていた。
 ああ、そうだよな!
 あの天女様の恋人何だから、少しくらいカッコ良いとこ見せないとな!

「それじゃ、今夜の勘定を置いてとっとと帰ってくれ。それから…」
 言葉を切り、冷たく光る紺碧の瞳でじっと見据える。
 そう!
 まさに『視線で射殺す』っやつだ…!!
「アンタ達は今後一切この店に足を踏み入れるな」
 そう言って、チョコボ頭は背を向けた。
 すると、何とその時を見計らっていたのだ!!
 男達が一斉に仕込みナイフをてに、襲い掛かってきた。

 マズイ、やられる!!
 俺は腰を浮かし、駆けつけようとするが、間に合わないの事は分かってた。
 ああ、畜生!!
 アンタが死んだら天女様がどれだけ悲しむと思ってんだ!!

 俺が声にならない叫びを上げたとき、俺は見た。

 チョコボ頭がテーブルの上にあったお盆を背に掲げ、自分の背に突き立てようとしているナイフを軽がる受け、それを捻るようにしてお盆ごとさらい、武器を失った男に回し蹴りをこめかみにたたき付ける。
 そして、その間に自分に詰め寄っていた新たな4人にも、どこか飄々とした表情で、対峙した。
 まず、左からの攻撃を身を反らせることによって空を切らせ、身をそらせた状態から何とそのまま宙返りをして男達との間合いを空け、次に身を床すれすれまで伏せると全員の足を強蹴し、足払いをかけた。
 あっという間に男達は、実に鮮やかな手並みの前に、呆気なく床をなめる事となった。
 しかも、決して広いといえない店内のテーブルを上手に避けて、男達は倒れているし、むろんチョコボ頭もテーブルに躓く事無く荒事をやってのけたのだ。
 どれだけ自分の周りの物を計算に入れて動く事が出来ているか、それに気付いたのはきっと俺だけだろうな…。

 全く、何て奴なんだ…!!

 全員が伸びているのを確認すると、チョコボ頭は困ったような顔をして店内をぐるりを見回した。
 そして、一言。
「すまない、誰かこいつらを外に出すのを手伝ってくれないか…。出来ればティファに心配かけたくないから、出来るだけ早く…」
 このチョコボ頭の一言に、店内の客達は、一斉に歓声を上げ、嬉しそうな顔をしつつ先を争って男達をたたき出しにかかった。

 皆の力って偉大だ。
 あっという間に事を終える。
 そして、丁度最後の男を道端に放り出し、店に戻った時に天女様が下りていらした。


「ねえ、クラウド?さっき何だか怒鳴り声がした気がしたんだけど、…それに床に物が落ちる音…何かあった?」
「ああ、まあ、あるにはあったが、大したことはない」
「え~、教えてくれないの?」
「……店が終わったらな…」
「え~、気になるじゃない!今教えてよ~」
「駄目だ、また寝る前にでも聞かせてやるから」

 この二人のこの会話、今まで張り詰めていたものがこう、へな~、と萎んでいくようだぜ……。
 まあ、いっか。
 他の常連達は素直にこの変化を喜んでいる。
 それにだ。今日は、チョコボ頭の事で良かったことが割りとあったからな!
 うん、そうだ!これでいいじゃないか!!万々歳さ!!

 そんな俺の目の前で、俺の気分を一気に奈落のそこへ突き落とす光景が…。

「ちょ、ちょっと、クラウド!?
 何と、チョコボ頭が天女様の両頬を挟み、その恥ずかしさの為に潤んだ瞳をじっと覗き込んでいるではないか!!
 
 貴様~!!TPOという言葉を知らんのか!!
 ホラ見ろ!他のお客さん達だって、呆れて……ない……。
 俺以外の連中は、固唾を飲んで見守っている。
 ………皆、でば亀なんだな……。

「俺、今度は逃げないから、ちゃんと一緒に戦うから」
 俺には全くわからないことを真剣な眼差しで見つめ、そうはっきりと言い切った。
 途端、天女様は、大きく目を見開くと、たちまちのうちにその大きな瞳に涙を溢れさせた。
 零れ落ちる涙を手の平で優しく拭うその二人の光景は、これ以上見るのは悪い気がする。

 店内の客達が祝福も込めた温かい眼差しで見守る中、俺はそっとテーブルに勘定を置いて店を後にした。
 何だか、二人が何か重いものを背負っていて、それを御互いを庇いつつ、一生懸命生きて行く姿の片鱗に触れた気がするぜ。
 
 これでこそ、この俺様のライバルだ!!
 正直、俺は未練がある!
 ああ、今日天女様に会って、その事をいやと言うほど自覚したのだから、
 だがしかし、恐らく彼女はチョコボ頭の事で心は一杯だろう。
 だから、俺に素敵な女性が現れるまで、それまで俺の心の恋人は天女様に決定!!
 それに、きっと、天女様も目を瞠るような絶世の美女が俺を待っている!
 そうだ、そうに決まってるさ!
 なあ、そうだろう!?

 ん?そう言えば、あの看板娘の名前、聞きそびれた………。
 何だったかな~。
 マリマ?
 マリリ?
 ま、まあいい。きっとそのうち思い出すさ!

 今夜も綺麗な満開の星空の元、空元気を友達に、頭の弱く、自信過剰な一人の『元』ソルジャーが陽気に歩いていった。
 彼が『美味しい特典のついた人生』を勝ち取る事が出来る日。
 その日が来るかどうか、それは……。

 神のみぞ知る……。

あとがき

『夢と現実と』第二弾です。
もうちょっと、捻りを効かせてみたかったのです、なかなか思うように
かけず、結局クラティの美味しい場面で終わっちゃいました(笑)

では、最後までお付き合い下さり、有難うございました。