a lost child 4




 異様に元気な二人と、何だか一気にトーンダウンした四人(内、一頭)は、現在、取り合えず『バトル闘技場』へと急いでいた。
 早く行かないと、試合が始まってしまう時間になってしまう。
 クラウドにおぶわれたデンゼルが、同じくティファにおぶわれたマリンに声をかけた。
「なぁなぁ、他には占ってもらわなかったのか?」
「うん。だって、気になる事って他にないもん」
 キッパリ・ハッキリ言い切ったマリンに、デンゼルは『ウッ』と言葉につまり、子供達を背負っている親代わり二人とその足元を懸命に走っているナナキも、共に言い知れない不安を感じた。
 そう…。
 マリンの将来について…。
 もしも…。
 もしも、このまま何の夢もない子供のまま大きくなったら……!?
 女の子なのだから、お洒落に興味を持ってもらいたいし、勿論、素敵な恋もそのうちして欲しい。
 しかし!!
 このままえらく『現実を見つめすぎた』大人になったら……!?!?

 自分達を背負っている親代わり二人が、俯きかげんになって思い悩んでいるのを敏感に察知したデンゼルが、慌ててマリンに、
「で、でもさ!ほら、例えば『将来素敵な恋愛が出来ますか?』とかさ〜、色々あるじゃん?ジェイミー達もしょっちゅう話してるだろ?素敵な男の子と沢山恋愛して、将来『良い女』になるんだ〜…とかってさ!」
 と、水を向けてみる。
 ところが、兄の心妹知らず。
 マリンは『ジェイミー』の名前を耳にした途端、プンッ!と頬を膨らませた。
「もう…ジェイミー達の話す事って本当にくだらない事ばっかり!そう私が思ってるって、デンゼルも知ってるでしょう!?」
「あ……そ、そうだっけ……」


 デンゼル。
 あえなく撃沈。


「そうだそうだ!マリンは心配しなくても、将来絶対に『良い女』になって『良い恋愛』が出来る!そんな分かりきった事、わざわざ占ってもらうのは時間の無駄だぜ!」

 息を切らせながら、バレットがティファにおぶわれたマリンの頭をガシガシと撫でた。
 嬉しそうにそれを受けるマリンに…そのマリンを背負っているティファがバランスを崩しそうになる。
「ちょっと!バレット、止めてよね!こけそうになるじゃない!!」
「おっと!悪い、悪い!!」
 ちっとも悪びれないバレットに、ティファもクラウドも、そしてナナキもデンゼルも言葉に出来ない疲れを感じて、それ以後黙って闘技場へと向かうのだった。



 闘技場に着いてみると、既にスタンド席は満席との事で中に入れない状態だった。
 デンゼルは悔しがったが、外の大型スクリーンで生中継するとのスタッフの説明に、渋々それで我慢する事にした。
 駄々をこねても中に入れないのだし、それに大型スクリーンの方が中のスタンド席より観戦しやすい。
 ただ、スタンドの中でこそ味わえる高揚感が味わえないのが何とも残念ではあるが…。

「まぁ、仕方ないよな」
 中に入れなかったお詫びに…と、クラウドが買ってくれたジュースを飲みながら、デンゼルがぼやく。
 そのフワフワの頭を、苦笑しながらクラウドは優しく撫でた。
「クラウド、このジュースありがとな!でもさ、クラウドが『お詫び』する事じゃないのにさ…」
 幾分か申し訳なさそうに見上げてくる息子に、
「先に『占いの館』を回ろうって決めたのは俺だからな」
 と、軽く笑って見せた。
 そのクラウドが見せてくれた笑みと優しさに、デンゼルはスタンドに入れなかったという残念な気持ちが払拭されるのを感じずにはいられなかった。


『俺も、絶対にいつかクラウドみたいになるんだ!』


 父親代わりに、益々憧れを強める少年の姿に、ティファは口許を綻ばせるのだった…。
 そして、そのティファに手を繋がれたマリンの手にも、クラウドからのジュースが勿論しっかりと握られていた。



 そんな温かな家族達の周りで、スクリーンに注目していた他の観客達が歓声を上げた。
 いよいよ挑戦者とモンスターの一騎打ちが開始されるゴングが鳴ったのだ。

 最初の試合は、見るからに猛者らしき大男VS……『トンベリ』……。


「「「「…………」」」」


 その組み合わせを見た途端、ジェノバ戦役の英雄達は唖然として目の前のスクリーンの光景を疑った。
 そう…。
 これは何かの間違いだ。
 初戦でいきなり『トンベリ』はないだろう……!?!?


 周りの観客達とその対戦者、そしてデンゼルとマリンは『トンベリ』の強さを知らないらしく、誰一人として自分達のような間抜けな顔はしていない。
 それどころか挑戦者の男は、相手のモンスターが小さく、しかも何だか弱そうな外見をしている為、完全に舐めてかかっている。
 顔には憎たらしいほどの余裕の笑みを浮かべ、『トンベリ』がそろそろと近付いてくる間、全く何もしようとしないでスタンドの観客達に手を振っているではないか。


「「「「…………」」」」


 そろそろと『トンベリ』が近付いてくる。
 英勇達は生唾をごくりと飲み込み、ハッと我に返った。
 自分達の足元では、周りの観客達と一緒になって笑顔で応援している子供達…。
 しかも、子供達は、
「あのモンスターが初戦の相手だなんて、あの挑戦者ってラッキーだよな」
「そうだよね。ここの闘技場って挑戦者の人に優しいんだね」
 などと何とも平和な会話を交わしているではないか!!


『トンベリ』がとうとう挑戦者の間合いに入ってきた。
 その瞬間、挑戦者が手にしていた大斧を振りかざして『トンベリ』に一撃を叩き込もうとする。
 その刹那、クラウドとナナキはデンゼルを、ティファとバレットはマリンの目を片目ずつ覆い隠した。


「え!?」
「な、なになに!?!?」


 突然の大人達の行動に、子供達がびっくりしてジタジタと暴れている間に、決着はついた。
 自分達の目を覆っていた手がのけられた時に、子供達の視界に飛び込んできたもの…。
 それは、仰向けになってダウンしている挑戦者の姿だった…。

「え!?」
「なんで、あんな小さなモンスターに負けちゃったの!?」

 目を丸くして驚く子供達は、明後日の方を見る大人達を恨めしそうに見上げ、その時に飛び込んできた周りの観客達の唖然とした……それでいて蒼白な顔を見て、なんとなく親代わりの二人と義父、そして赤い獣に感謝すべきなのだと悟ったのだった…。


 二回戦は、スラッとした体躯の若い男。
 ティファと同じで体術を得意とするらしく、何も武器は持っていなかった。

「ティファと同じで、格闘術が得意な人かな?」
 マリンがそう言ってティファを見上げる。
 ティファは「さぁ。そうかもしれないわね」とニッコリ笑って見せると、顔をスクリーンに戻した。
 その顔は、クラウド、ナナキ、バレット同様……。
 妙な緊張感の為、強張っている。


『『『『これ以上、変なモンスターを登場させたりしないだろうな(わよね)……』』』』


 四人が四人とも、その心配で頭が一杯だ。
 本当なら、子供達を連れて即他のアトラクションへ行きたいくらいだ。
 しかし、デンゼルの希望でもあるわけだし、しかもたった今、初戦をワザと見逃させてしまったのだから、せめて一試合くらいまともに観戦させてやりたい。


 四人は祈るような思いで、対戦するモンスターの登場ゲートを見つめていた。
 そして、ゆっくりとそのゲートから現れたのは……。


『『『『ボムかよ(なの)!?』』』』


 真っ赤な火の玉がフワフワと意地の悪い笑みを浮かべて現れたのだ。
 対戦者は、一応グローブらしきものを装着してはいるが……。
 体術を駆使する人間相手に、『火の塊』とは…。

「だ、大丈夫だよ…。三回の攻撃でやっつければ良いんだから…」
「そ、そうよね。大丈夫よね。」
「あ、ああ。きっと大丈夫だ。ホラ見ろ、あの挑戦者、何だか余裕そうだしな!」
「………そう…だな」

 四人が必死になって自分達の不安を拭い去ろうと声を掛け合う。
 その大人達の姿に、子供達はそっと顔を見合わせると自分達の周りにいる他の観戦者達を盗み見た。
 どの観戦者達も、自分達の親代わり達の様に心配そうな顔はしていない。
 それどころか、先程の試合が実に呆気なく終わった為、今度こそ!!と期待に満ちた顔でスクリーンへ熱狂的に声援を送っている。
 デンゼルとマリンは、再び親代わり達へ視線を戻し、互いに顔を見合わせゴクリと唾を飲み込んだ。
 親代わり達の不安が伝染したようだ…。


 そんな不安な眼差しをスクリーンに向ける極々一部の観戦者の目の前で、試合開始のゴングが鳴った。

 ゴングが鳴ると同時に、果敢にも挑戦者が『ボム』に向かって突っ込んでいく。
 先手必勝!
 まさにそんな感じの攻撃だった。
 最初に回し蹴りを『ボム』の横っ面に叩き込む。
 が、すぐにその足を抱えて、遠ざかる。
『ボム』から出ている『火』が服に引火したらしい…。


「「「「…………」」」」


 スタンドの観客席とスクリーンで観戦していた人達から失笑が漏れる。
 しかし、そんな余裕など挑戦者にはない。
『ボム』はムクムクムク…と一回り大きくなると攻撃をしかける。
 挑戦者はそれを紙一重で避けると、今度はグローブを装着している手での攻撃に移る。
 しかし、挑戦者は最初の攻撃で怯んでいるのか、最初の勢いに比べて明らかに殴りつけた第二撃は弱かった。

『ボム』はまたムクムクムク…と一回り大きくなってしまった。
 これで挑戦者に残された攻撃はあと一回…。


「「「「…………」」」」


 英雄達は再びゴクリと唾を飲み込み、いつでも子供達の視界を『惨状』から守れるように身構える。
 デンゼルとマリンも、大人達のその気配を敏感に感じ取って、何となくスクリーンから視界を逸らし気味になった。

『ボム』の攻撃が先程よりも威力を増し、挑戦者はその攻撃をかわしきれずに右肩に受けてしまう。
 ゴロゴロとリングの上を転がりながら、服に引火した火を消し、ジリジリと『ボム』から間合いを取る挑戦者を、観客達が熱狂的に応援する。

 その観客の応援に応えるかのように、挑戦者は敢然と立ち上がった。
 そして、最後の攻撃!と言わんばかりに気合を入れた声を上げると、思い切りジャンプしてボムの頭上から踵落としを喰らわせた。

「「「「おお〜!!」」」」

 この攻撃に、流石の英雄達も安堵の溜め息を漏らす。
 これで、子供達の視界を死守しなくても済む!

 周りの歓声が『挑戦者への賞賛』に対し、漏らしたのが『安堵の溜め息』という時点で、どうも根本的にズレているクラウド達なのだが、そんな事はどうでも良い。
 子供達が安心して観られる試合をしてくれればそれで良いのだ…!

 ところが……!!


『ボム』は大きく体勢を空中で崩したのみで、そのまま更に巨大化し始めてしまった。
 そうして結局…。



「また負けたんだね」
「今度はどうやって負けたの…?」

 再び大人達に視界を遮られた子供達は、恐る恐るそう尋ねながら、自分達の周りの観客達の蒼白な顔を見て、
「「あ、やっぱり良いよ、言わなくて…」」
 声を揃えて前言撤回するのだった。


 本当に、気遣いの細やかな子供達だ…。


「それにしてもさ。挑戦する人達が弱いの?それともモンスターが強いの?」
 最後まで観戦出来ていないデンゼルが、少々不満げにクラウドを見上げる。
「あ〜、なんて言うか……。最初の『トンベリ』はモンスターの方が反則並みに強いけど……」
「次の『ボム』は素手で闘うにはちょっと不向きよね……」
 クラウドとティファの言葉に、デンゼルは「ふ〜ん…」とつまらなそうに鼻を鳴らした。


 そして、三回戦目。
 対戦者はごくごくありふれた剣を装備した壮年の男性。
 顔にはこれまで戦いの中に身を置いてきた証でもある二本のモンスターの爪痕が頬に走っている。
 今度こそ戦いに慣れた本当の猛者だろう。
 対するモンスターは、『ブルードラゴン』。


『『『『何でドラゴン!?!?』』』』


『トンベリ』並みに『ドラゴン』は反則じゃないだろうか!?
 そう思う英雄達の心の叫びは、試合開始のゴングの前に掻き消される。

 挑戦者はこれまでの挑戦者二名とは違っていた。
 明らかに目の前の『ブルードラゴン』に全神経を集中しており、決して舐めてかかっていない。
 ……まぁ、『ドラゴン系』のモンスターに舐めてかかれる人間がいるはずないのだが…。

 子供達も交え、英雄達は手に汗握ってその試合を観戦した。
 途中、何度も子供達の視線を遮りたくなるシーンがあったが、それでも最後の最後まで始めて子供達はその試合を観戦する事が出来た。
 つまり…。


 周りが歓声に溢れる。
 挑戦者が勝利したのだ。
 挑戦者の初勝利に、スタンドは勿論、スクリーンで観戦していた人達も大いに沸いた。

 しかし、その試合で挑戦者は無傷で済む筈もなく、次の試合は棄権となってしまった。


「じゃ、試合も見たことだし、他の所に行くか…」
「そうね。そうしましょう」
「おいら、何だかお腹が減ったなぁ」
「おう、俺も何だか腹減ったな。よし、何か美味いもんでも軽くつまみに行くか」
 そそくさと『バトル闘技場』を後にしようとする大人達に、
「え〜!?俺、まともに見たのって、この試合だけじゃないか〜!」
 と、デンゼルが抗議をしたのだが、否応なくクラウドに肩車をされてしまい、そのまま『バトル闘技場』を後にする事となった…。



『『『『もう、絶対ここには来ない!!』』』』



 子供達を肩に担ぎながら…あるいは子供達を宥めながら、固く決意した英雄達なのだった。



 あとがき

 あれれ〜?
 またまた悪い癖が出ましたね…。
 ダラダラ話が続いてますね……(汗)。
 次くらいで一話目の冒頭シーンが出ると……良いなぁ(希望かい!!)
 それにしても、闘技場!
 ゲーム中、何度もお世話になりました。
『モルボル』が出てきた時は本当に泣きそうになった記憶があります…(苦笑)。
 ですからクラウドの最終リミット技を手に入れた時の喜びは大きかったです(笑)