知ってる…。
 ちゃ〜んと分かってる。
『彼』がとっても素敵な男性(ひと)で、世の女の人達の憧れだって事くらい……。



an affectionate letter(前編)




「何してるの、二人共…」
「ヒェ!!」
「ティファ!?」



 朝食を終えて新聞を取りに行くのは子供達の役だった。
 いつの頃から…?って聞かれたら正直困るんだけど、いつからかそうなってたのよね。
 それで、朝食の後片付けをしている私に、朝刊を届けてくれるの。
 最近は何故か街の外でモンスターが激しい動きを見せている…とか、どこそこの財閥が勢力を伸ばそうと躍起になってるとか…、はたまた売り出し中のモデルが実は整形美人だったとか……。
 とにかく、新しいニュースは本当に毎日めまぐるしい。
 もっとも、私が感心があるのは『街の外を闊歩するモンスター』と『最新のニュース』なんだけどね。
 やっぱり、彼の仕事が仕事なだけに配達中に何かあるか分から無いし…。
 それに。
 接客業を営む身としては、最新ニュースは手放せない。
 お客様達とのコミュニケーションの一環として、どうしても外せない事だもの。

 だから、毎日新聞を読むことは欠かせない。
 それは、クラウドにも言える事で…。
 クラウドの場合は、仕事前に新聞の配達がなければ、深夜に帰宅してからザッと目を通す。
 勿論、朝刊・夕刊一緒に。
 対する私は、特に時間制限がある生活をしているわけではないので、朝刊は朝食の後片付けの後に読む事を日課としていた。

 そして、今日…。
 いつものように朝食の後片付けを簡単に済ませてしまうと、朝刊を取りに行ったきり中々帰って来ないデンゼルとマリンに首を捻った。
 だって、いつも朝刊を取りに行ってくれたらすぐに私のところに持ってきてくれるのに、今日は持ってきてくれなかったんだもん。
 いつもよりも早く片付けが終わったから、何気なく子供達を見に玄関をそっと開けたら…。
 何だか妙に慌てて、郵便受けの前でごそごそしてる。
 声をかけちゃうのは極々自然よね…?

 それで、二人に声を掛けた訳だけど、二人共、何かの『作業』の真っ最中だったせいか、全然私に気付いてなかったみたいで、飛び上がって驚いた。
 その拍子に……。


 バサバサバサ……。


 子供達の足元に落ちたのは朝刊と…。
 沢山の手紙…。
 しかも、その手紙は可愛いピンク色や水色、黄緑色などの封筒が目立っていて、その封筒には『クラウドさんへ』って書かれてた。
 その色とりどりの手紙達の中には何故か、愛想も欠片も無い茶封筒で『ティファさんへ』って私宛の物もあったんだけど……。
 まぁ……その時の私にはそんな事はどうでも良くて、慌てて拾おうとする子供達よりも先に、屈みこんで何通か手紙を拾い上げた。

 子供達が息を飲んで私を見上げる気配がする。
 私は、冷静さを装ってその封筒の裏と表を眺めてみた。
 大体が差出人の名前だけで住所は不明。
 一方的なラブレターの数々に、軽く溜め息を吐く。

「あの…ティファ…」
「俺達さ…別にその……」

 デンゼルとマリンがしどろもどろ気を使って何か言おうとしてくれる。
 そんな優しい子供達の目線に合わせる様に屈みこむと、
「大丈夫。ありがとう、気を使ってくれて」
 そう言って笑いかけた。

 二人はホッとしてニッコリ笑ってくれたんだけど、本当は全然『大丈夫』なんかじゃなかった。



 後で聞いた話なんだけど、ここ最近、クラウドへのラブレターが急増してるんだって。
 きっと、数ヶ月前に起きた『ビルの鉄骨落下事件』がきっかけなんだろうなぁ…。
 あれから女性客が増えたし…。
 それに、どうやって知ったのか、クラウドがお店を手伝ってくれる日はきまって、女性客が急増するのよね。


 ……クラウドの仕事…不定期だからお休みとか絶対に分からないはずなのに…。
 女性の執念って凄い……。


 まぁそれで、デンゼルとマリンは私とクラウドに気を利かせてくれて、朝刊を取りに行く時に郵便受けをバッチリチェックして、クラウド宛のラブレターをこっそりクラウドの事務所に運んでたんだって打ち明けてくれた。
 ……私に見つからないように…って。


「本当は捨てようかとも思ったんだけどさ…」
「やっぱり『気持ち』がこもった物だから勝手に捨てるのはダメかな…って」
 ちょっと項垂れながらそう言った二人。
「それで良いのよ?それに『クラウド』への物なんだから、勝手に捨てたらダメよ。どうするかはクラウドに任せなくちゃね」
 本当に優しい子供達…。
 込上げてくる熱いものを隠すように、私は二人の頭を撫でた…。

 でも…。
 やっぱりちょっと複雑。
 いつからこんなにクラウドへのラブレターが届けられるようになったのかしら…。
 私の場合、一応目を通してから、申し訳ないけど処分させてもらってる。
 朝刊と一緒にそれらを私に届けてくる子供達のうんざり顔の奥に、心配そうな気持ちが見え隠れしていたのは、随分前の話し。
 今は、『また来たよ』『懲りないよね、皆』と、実に淡々と渡して来てくれる。

 でも、クラウド宛の手紙を私に気付かれないようにそっと運んでいただなんて……ね。

 本当に、気持ちの優しい子供達で嬉しい。
 こんなにも気を使わせちゃって申し訳なく思うから、せめて子供達の前では平気な振りをしたい。
 正直、クラウドが他の女性(ひと)と一緒になってセブンスヘブンを出て行くなんて思ってない。
 これからどんな女性が現れても、きっとクラウドは私と子供達を選んでくれる。
 そう信じてる。

 これは、自惚れじゃなくて……。
 彼への『信頼』。
 だから、別にクラウドに沢山のラブレターが届けられようが、クラウド目当てで女性客が増えようが気にする必要なんか無いんだろうけど……。
 でも、やっぱり気になっちゃうんだもん。
 それは仕方ないよね?
 一応、これでも私だって『女の子』なんだし…?
 気になっちゃったっておかしくないよね?



「じゃ、遊びに行ってきま〜す!」
「昼ご飯はチャーハンが食べたい!!」
「はいはい、了解」

 掃除と洗濯物を手伝ってくれた子供達が、いつもの様に笑顔で遊びに出かけた。
 元気良く駆け出した子供達を見送って、一つ溜め息を吐く。
 明るく、元気なその小さい後姿が街角を曲がって消えるのを確認して、私は一人、店内に戻った。
 いつもなら……。
 この一日の内の『貴重な一人の時間』に、自分の為に珈琲を煎れたり、雑誌をめくったり、ほんの少し散歩に出かけたするんだけど、とてもじゃないけどそんな気分にはなれない。
 ソファーに深く腰を掛けて背もたれにもたれ、天井を見上げる。
 天井のファンがゆっくりと回ってる…。

 何となく……寂しいような、面白くないような…、良く分からない不愉快でいて悲しい気持ち。
 それでもってイライラする心をもてあましつつ、そのままソファーにコロンと転がった。
 何か……な〜んにも考えたくない気分。
 な〜んにもしたくない気分。

「いっそ…今夜はお店、休んじゃおうかな…」

 ポツリと呟いた言葉が、コロリとこぼれる。
 はぁ…。
 やだなぁ、これくらいでこんなに弱くなっちゃう自分が…。
 私だって、『ラブレター』もらってるくせに、クラウドまでそうだった…て知った途端、これだもの…。
 子供達が心配して、私にばれないようにクラウドの事務所に届けていた…って言うのもまた、私の気持ちを落ち込ませる。
 はぁ…。
 子供達の心配通りじゃないの…。

 そう。
 私は弱い。
 どうしようもなく、心が弱い。
 普段、お店のお客さん達からは『腕っ節だけじゃなくて心も強いよね!』って言われるけど、そう見えるだけなんだよね
 実際の私のこんなにも脆い。

「もう……何よ〜、あの『ラブレター』の数は〜〜…」

 ソファーから落ちないようにゴロゴロする。
 眼を瞑っても瞼の裏に甦る色とりどりの便箋の数々…。
 丸っこくて女の子らしい可愛い文字…。
 その封筒の『クラウドさんへv』って甘ったるい文字が脳裏から離れない。

「もう…何よ〜〜…」

 ゴロゴロゴロゴロ……。
 イライラしながら、何度もソファーで寝返りを打つ。
 そのうち落ちちゃうかも…。
 あ〜、でも今はそんな事どうでも良いの。
 イライラして落ち着かないんだから、仕方ないじゃない。

 そこでフッとある事に気がついてピタリと寝返りを止めた。


『クラウドは……ラブレターをどうしてるんだろう……?』


 彼の事務所を毎日掃除するけど、ゴミ箱に捨てられてたのを見た事ない…。
 それに、勿論勝手に机の引き出しを開けた事も……。
 まぁ、だからこそ今までクラウドに『ラブレター』が届けられてた事を知らなかったんだけど…。

 もしかして…。
 私と違って…。
 一通一通、取ってあるんじゃ……!?

 ………。
 …………。
 ま、まぁ…仮にそうだとしても、それがクラウドの『彼女達への思いやり』なのかもしれないし……?
 私とは考え方が違って当然だとも思うし…?
 だ、だから…。
 それが本当でも……、ちっとも気にする必要は…ない…んだから……、うん……多分……。

 等々、ウジウジ考えていたら、気付いたらあっという間にお昼の時間になっていた。
 店の時計が十二時を知らせる。

「ウソ!!もうこんな時間!?!?」
 一体何時間ソファーで悩んでたわけ!?
 あああ…、早くしないと子供達が帰ってきちゃうじゃない!!!

 大慌てでエプロンを身に付け、デンゼルご希望のチャーハン作りを始める。
 もう、これ以上手際よく料理出来た事ないんじゃない?って自分で感心する勢いで、チャーハンとスープ、それにサラダを作り終えた頃…。

「「ただいま〜〜!!!」」

 子供達が帰って来た。
 ホッ…。
 間一髪…危なかったわ…。

「お帰り、二人共。丁度ご飯出来たところよ」
 何でもない振りを装いつつ、笑顔を向ける。

「わ〜、美味しそう!」
「俺、腹減った〜!!」
 チャーハンとスープの匂いに、顔を綻ばせる子供達を洗面所に促し、手を洗っている間にテーブルへ昼食を運ぶ。

 それにしても、本当に危なかった…。
 だって、いつも子供達が帰る頃にはご飯の準備が出来てるんだもん。
 これで、もしもご飯が出来てなかったら、勘の良い子供達のことだから、私が落ち込んでるって気付いちゃう。
 はぁ……本当に危なかったわ……。
 うん、良く頑張ったわよ、私!
 人間やれば出来るもんなのね。

「ティファ、早く食べようよ!」
 いつの間にか降りてきた子供達がちゃっかり椅子に座り、待ちきれないって顔で私を見てる。
「あ、ごめんごめん。じゃあ…」
「「「いただきま〜す!」」」

 手を合わせて声を揃え、三人同時にチャーハンを口に運んだ。
 そして…。


 ブハッ!!!!


 同時にチャーハンを揃って噴き出してしまった……。


「み、水!!」
「か、辛い!!」
「な、ななな…!!!」


 あまりの衝撃に、言葉が出ない。
 無防備だった口の中を思い切りチャーハンが暴れまわり、火を吹きそう。
 なんてこと…完全に塩とコショーの加減を間違えてる…。


「ご、ごめんね、二人共。すぐに作り直すから……」
 焦って水をがぶ飲みしている子供達の前からチャーハンを取り上げ、大慌てでそれを残飯入れに投入。
 ああ……なんて勿体無い事を……。

「ティファ…何も捨てなくても…」
「そうだよ。そりゃ、ちょこっと辛かったけどさ、それを使ってご飯とお湯足して雑炊にしたら良かったのに……」
 もう…身体全体から『心配』ってオーラを出した子供達が、恐る恐る声を掛けてくる。

「あ……そっか……そうよね……あはは、全然そこまで頭が回らなかったわ…ハハハ……」
「「ティファ…」」

 子供達の哀れみに満ちた視線が痛い。
 うう…折角二人が帰ってくるまでにお昼ご飯作れて『良しっ!』って思ってたのに……。
 全然ダメじゃない……。

「ご、ごめんね、二人共。お腹空いてると思うけど、すぐに別の物を作るから」
「あ、大丈夫だよ、そんなに慌てなくても」
「そうそう、私達、そんなにお腹空いて無いし」
「うんうん!ほら、それにさ、スープとサラダがあるし、これだけでも十分だって」
「そうよ。別に一食くらい食べなかったからって死んだりしないって」
 そう言いながら、デンゼルとマリンは引き攣った笑顔を顔に貼り付け、スープを口に運んだ。


 ブホッ!!!


 ヒィーーーー!!!!!
 も、もしかして!!!!!

「ティファ……」
「辛い…」
 デンゼルとマリンが、涙目になってる。
 大慌てでテーブルに戻り、自分の分のスープを飲もうとした私を、子供達が凄い形相で必死に止めた。
「ティファ、そのまま飲んじゃダメ!!」
「お湯!お湯足して!!!」
 子供達の必死の説得の元、私はスープを全て鍋に戻し、水とダシを足して煮詰めなおす事にした…。

 ああ……そう言えば…。
 全然、味見してなかったな……。

 数々の失敗をしでかして、すっかり落ち込んだしまった私は、もう平気な振りをする事なんか出来なかった…。
 盛大な溜め息をこぼしつつ、冷蔵庫の中を覗く。
 幸いにも、パンが三人分ほど残っていたから、それを砂糖入りの牛乳と溶かし卵を混ぜた物に浸して、フレンチトーストを作る事に決定した…。
 うう……情けない…。

「ティファ、気にしないでよ」
「そうだよ。人間誰もが完璧じゃないんだしさ!」
「うんうん。ティファは頑張りすぎなのよ。たまには息抜きもしないと!!」
「そうそう。疲れが溜まってたんだって。疲れすぎると味覚がおかしくなるしさ」

 マリンとデンゼルが必死に慰めの言葉を掛けてくれる。
 本当に…なんて良い子達なのかしら。
 それに引き換え、大人の私がこんな体たらくだなんて……。
 もう、本当に情けない…。
 ああ、穴が合ったら飛び込みたい……。


 それからほどなくして、無事に今度はフレンチトーストを失敗せずに作り上げ、スープもちゃんと味見をして合格だと判断。
 まぁ…スープはチャーハンに合わせて作った奴だから、フレンチトーストには合わないんだけど、それでも、
「大丈夫!!」
「食べる食べる!!」
 子供達が必死になってそう言ってくれたから、食卓には何ともアンバランスな昼食が並ぶ事になった。
 時間は当然、いつもなら食べ終わっている頃になってしまっている。

「本当にごめんね、二人共…」
「もう、全然良いってば!」
「そうだよ。俺達別に、昼から予定無いんだしさ〜。ちょっと食べるのが遅くなったくらい、どうって事ないって!」
 そう言って笑ってくれるデンゼルとマリンは、顔は笑ってるのに、目が必死…。
 はぁ……。
 もう、なんでこんなにウジウジ虫に寄生されてしまってるの……。
 ダメダメ!!!
 こんなんじゃダメ!
 こんなにも優しくて健気な子供達に、これ以上心配は掛けられない!!

 気合を入れなおして、今、自分に出来る精一杯の笑顔を顔に貼り付ける。
「うん。本当にごめんね!これからは気をつけるわ!」
 そう言って、
「じゃあ、改めて……」
「「「いただきま〜す!」」」
 再び声を揃えて手を合わせる。
 今度の食事は上手くいった事を確認済みだから、子供達にも安心して出せたわけで、
「美味しい!!」
「うん、ティファって本当に料理上手だよな!!」
 満面の笑みでそう言ってくれた子供達にホッと安堵の溜め息をこぼした。



 あとがき

 あれれ〜…?
 何故か終わらなかったのですが……何で…!?
 すいません、後編に続くようです…(汗)