an affectionate letter(中編)




『は…!?』
「だから〜、バレちゃったの!!」
『……マジで…?』
「大マジだよ〜〜!!!」

 何とか昼食を食べ終えた子供達は、再び遊びに行ってくるとティファに告げ、そのまま友達がいるであろう公園とは正反対の街角でクラウドに電話をしていた。

 携帯から伝わるクラウドの動揺振りに、マリンがイライラしながら声を荒げる。
『それで……何か言ってたか……?』
 恐る恐る訊ねるクラウドに、
「ううん、口では何も言わなかった…」
 と一言告げる。
『そ、そうか……』
 どことなく安心したような……それでいてなんとなく気落ちしたような父親代わりに、マリンは溜め息を吐いた。
 そんなマリンの隣では、デンゼルがマリンの持っている携帯に耳を押し当て、会話を聞き取ろうとしている。
「あのね、クラウド。私は『口では何も言わなかった』って言ったんだよ?意味分かってる?」
『…え……?』
 何とも間の抜けた声に、マリンが声を荒げようと口を開くが、それより一瞬早くデンゼルが携帯を取り上げた。
「ティファ、滅茶苦茶気にしてるんだ。今日の昼ご飯だってびっくりするくらい辛くってさ〜。あんなに破壊的な味のした料理、俺、生まれてから一回も食べた事ないよ」
『………ティファがそんな料理作ったのか!?』
 半信半疑な声音が携帯から聞える。
「そうだってば!もう、アレだよ。完全に『心ここにあらず』って状態で作ったんだぜ。でなきゃ、料理上手なティファがあんな火の噴くようなチャーハン作るはず無い!!」
『…………』

 黙り込んだ電話の相手に、デンゼルが更に言葉を続けようとするが、マリンがサッと携帯を奪い返してしまう。
 ムッとするデンゼルを余所に、マリンは腰に手を当てて口を開いた。
「と言うわけだから、何が何でも今日は早く帰ってきてね?でないと、絶対にろくな事になら無いから!!」
『……そうしたいのは山々だが……』
 何とも歯切れの悪いクラウドに、マリンの目が釣り上がる。
「もう!!クラウド、しっかりしてよ!!配達のお仕事も勿論大事だって分かってるけど、キャンセル出来る荷物だってあるんじゃないの?何とかキャンセル可能なやつは明日か明後日にしてもらって、今日は絶対に早く帰ってきて!!」
 自分の言いたい事を言い切ったのか、勢い良くデンゼルに携帯を差し出す。
「ってわけだから、頼むよ、クラウド。ホラ、優先順位ってあるだろう?仕事も大事だろうけど、今はクラウドとティファの危機なんだぜ?仕事ばっかり優先させてたら、ティファに毎日届いてる『ラブレター』の差出人達の誰かに気持ちが傾いちゃうかもしれないだろう!?」
『……!?』

 携帯の向こうで、クラウドが息を飲む気配が伝った。
 デンゼルの一言はかなり効果的だったらしい…。

 やがて、
『分かった…。なるべく早く帰るから、それまでティファを頼む…』
 切迫したクラウドの返答に、デンゼルは満足そうに頷くと、
「オッケー!任せといて!」
 隣で様子を窺っていたマリンにニッと笑って見せた。
「じゃ、今夜は多分、意地でもセブンスヘブンを開店させると思うから、閉店までには絶対に帰って来いよ?」
『ああ、分かった。開店同時に帰れるように頑張るよ』
「上等!!!」


 ピッ。


 携帯を切ると、子供達はやれやれ…と溜め息を吐いて顔を見合わせた。
「本当に手のかかる『両親』だよなぁ…」
「本当にね…」
「まぁ、でも、アレがクラウドとティファの良い所なんだけどさ〜」
「うん、でも……もう少し自分に自信を持っていいと思うんだけどなぁ、二人共…」
「あ〜、そうだよなぁ。あそこまでいったら『謙虚』じゃないよな」
「うんうん。もう『自信のない人』だよね……」
「何であんなに自分の良い所とかに対して二人共無自覚なんだろう…」
「さぁ……」
「でもさ…。自分に対して『自信のある二人』ってどんな感じだろうな…?」
「え……ん〜〜〜…」


 二人して腕組みをして想像してみる。


 男性達に言い寄られる度、ニッコリと作り笑いで実に上手にいなし、時にはそれらの男性達に対して鼻で笑って見せるティファ…。
 ラブレターの一通一通を満足げに眺めて保管しているクラウド……。
 はたまた、道行く女性達に見せびらかすようにクラウドと腕を組み、羨望の眼差しを一身に浴びる事を喜びとするティファと…。
 通り過ぎる男性達に対して見下したような顔をし、見せ付けるようにティファの肩を抱いて歩くクラウド……。


 ありえない!!
 気色悪すぎる!!!
 虫唾が走るし、吐き気がする!!!
 なによりもそんな『庇い甲斐』のない…『フォローし甲斐』のない二人だなんて!!!!!
 自分達の存在意義そのものが亡くなると言っても、決して過言では無い!!!!!


 オゾマシイ想像にブルッと身体を震わせ、プルプル頭を振ったデンゼルとマリンは、引き攣った笑いを浮かべ、
「やっぱり今のままの二人が良いよな」
「うん、やっぱり『世慣れてる』二人は……気持ち悪すぎるよね」
 と言い合い、どこか晴れ晴れとした顔をした。
 そして、二人して友達のいるであろう公園へ向けて駆け出して行ったのだった……。



 そんな子供達の気苦労を知る筈も無いティファは、ただひたすら落ち込んでいた。

『あ、あんなご飯作っちゃうなんて……』

 カウンターに突っ伏してイジイジと指先で木目を引っ掻く。
 店を持つようになってから既に四年は経とうとしている(勿論、それは二年前の旅の前を加えてだが)……。
 その間、あんなにひどい料理は作った事が無い…。

 たかが、クラウドへのラブレターを見てしまったというだけで……。
 自分でも信じ難い大失態を犯してしまった……。

 いや、クラウドへのラブレターだからこそだ…。
 これがユフィやヴィンセントやナナキやシドや……バレットなら……(ありえないが… 失礼)冷やかしながらもその中で良い人がいないか一緒になって捜していただろう…。
 そう、それこそ目を輝かせて積極的に!

 それなのに!!!
 クラウド宛…というだけでこの体たらく……。


『ああ…、本当にもう…恥ずかしいんだから……』


 ティファはこれ以上無いくらい落ち込んでいた。
 子供達に胸の内がバレないように慌てて間に合わせた昼食が……!!
 まさかあんなにマズイとは!!!!
 ありえない……。
 今までの自分からは考えられない失態だ…。
 恐らく、子供達はこんな自分を心配して心を痛めているだろう…。
 もしかしたら、強硬手段に出ても、今夜は店を休業させるかもしれない……。

 本当は、もう休んでしまいたかった……。
 このままだと、お客様達にもとんでもない創作料理を披露する事になる可能性がある……。
 しかし!!
 だからと言って休む事など断じて出来ない!!
 むしろ、身体を動かしていないと余計な事まで考えてしまいそうだ。

 大体、クラウドにラブレターが数十通届いたからどうだというのだ。
 子供達の証言からも、クラウド宛のラブレターが届けられるようになって数ヶ月が立っているというではないか…。
 そう…。
 数ヶ月……。

 その間、自分は全く知らなかった…。
 今更、他の女性の元へクラウドが行ってしまうとは考えたくも無いが…、それでも全く自分は気づかなかった……。
 という事は、クラウドは自分へ気を使ってくれていたと言う事ではないのだろうか……?
 イヤイヤ…もしもそうではなく、子供達の事を考えての結果であったとしても、これまでクラウドが『浮気』をした形跡は見付からない。
 それに、子供達もクラウド宛のラブレターを隠蔽する手助けをしていた…。
 もしも、クラウドが『浮気』をしてたのなら、そんな手助けはしないだろう……多分……。


「そうよね。うん、クラウドも『浮気』なんかは絶対にしないだろうし」
「『浮気』なんて器用な事、出来る人じゃないし」
「子供達もクラウドの『浮気』を手伝ったりなんかしないだろうし」


 指折り数えるティファの独り言が、広い店内に空しく響く。
 しかし、それにも気付かずティファは自分が安心出来るように声を出すことを止めず、やがて、
「良し!」
 気合を入れて立ち上がった。
 時刻はいつの間にかもう夕方。
 そろそろ子供達も帰ってくる時間だ……。

『ハハハ…何時間悩んでたの……』

 一人苦笑いを浮かべると、ティファは開店準備に取り掛かった…。



 やがて…。
 いつもよりも少し早く、子供達が元気に帰って来た。
 エプロン姿のティファを見て、ホッとしながらも『やっぱりねぇ』と顔を見合わせている。
「ティファ、やっぱりお店開けるんだ?」
「当然よ、だって休む理由が無いんだもの」
 自分のエプロンを身につけながら声を掛けてきたデンゼルに、キッパリと言い切る。
「…まぁ、そうだけど…」
 こちらも自分のエプロンを着けながら、苦笑するマリンにティファはちょっぴり落ち着かない気分になった。

 昼間の破壊的なチャーハンを思い出す……。

「大丈夫よ!お昼の時みたいな失敗はしないから!」
 うっすらと赤くなって恥ずかしそうに言うティファに、子供達は「はいはい」「分かってるよ〜」と軽口を叩き、さっさと開店準備に取り掛かった。
「もう、二人共〜〜!」
 ティファの拗ねたような声音に、子供達の笑い声が店内に響いた。




 そして、開店時間がやって来た。
 クラウドはまだ帰宅していない。
「まぁ、閉店時間までに帰れたら良しとしたもんだよな」
「そうよね。今日の配達の予定、凄かったもん」
 ヒソヒソと囁きながら、まだ帰らぬ大黒柱の帰宅を待つ。
「でもさ…」
「なに?」
「…何で今夜に限ってこんなに女の人…多いわけ……?」
「………さぁ……」
 開店と同時に押しかけるようにしてやって来た女性客達に、子供達は心の底から後悔していた…。


 何が何でも今日は閉店するように説得すれば良かった……と。


 気遣わしげにカウンターの中で忙しく働いている女店長を見やる。
 今の所、彼女はいつもと変わらない様子で、客達に笑顔を見せ、料理を作り、そして酒を出す。
 宣言通り、昼間のような失敗作は作っていない。
 どの客達もティファの手料理を満足そうに平らげている。
 時には、お決まりの褒め言葉&甘い言葉でティファを誘惑しようと頑張る若い男性客もいる。(勿論、ことごとく無駄な努力になって終了するお決まりのパターンなのだが……。)

 しかし……。
 その客達の客層が開店と同時にいつもと違う事に、ティファが本当に平常心を保てているのか、甚だ疑問だ。
 今の所はなにも失敗してはいない…のだが…。


 子供達は忙しく働きながらも、店内の半分以上を締めている女性客に、頭を抱えたい気分だった…。
 女性客が何を狙っているのか……そんな事はもう分かり切っているのだから…。
 女性客達の陣取っているテーブルから、突き刺さってくる視線が段々と熱く、鋭くなってきている……と、二人が感じているのは決して気のせいでは無いだろう…。


『来るか…?』
『もうそろそろ……来るかしら…?』

 ドキドキドキドキ……。

『も、もうそろそろ……』
『ああ…何か視線がありえないほど痛い……』

 ドキドキドキドキドキドキドキドキ……。


「すいませ〜ん」

『『きたーーーー!!!!!』』
 ギックーーーーーン!!!!!


 女性客が陣取っているテーブルの一つから声がかかった。
 子供達は反射的に身体を引き攣らせると、次の瞬間猛然とそのテーブルへ駆け出した。
 勿論、女店長が注文を取りに行かずに済むように…。

 デンゼルは下げようとしていた空いた皿を乱暴にテーブルに置き戻し、マリンは勘定を途中で放棄して……。

 ポカンと取り残された客達が見守る中、デンゼルとマリンは息を切らせつつ、
「「はい!ご注文ですか!?」」
 二人同時に鬼気迫る勢いで女性客の接客を始めた。
 当然、そんな子供達にティファは目を丸くし、声を掛けた女性はギョッとして身体を逸らせた。

「あ〜、えっと…」
 何とか言葉を搾り出し、子供達に引き攣った笑みを浮かべた一人の女性客&同席の女性達。
「「ご注文ですよね!?」
 それ以上の言葉は断じて許すもんか!!と言わんばかりの子供達に、女性客とその女性客と同じテーブルに座っていた他の女性達までもが完全に気圧された。
「あ、うん、勿論よ」
「「では、ご注文をどうぞ!」」
 完璧に声を揃えた子供達の気迫に、女性はオタオタとメニューに目を走らせ、友人達と一緒に大慌てで料理を決め始めた。
 その女性達の行動に、
『『やっぱり…』』
 子供達は自分達の勘が外れていなかった事を悟った。


 そう。
 彼女達の目的は『料理の注文』ではなく『クラウドの帰宅時間』にあったのだ。


『『絶対に教えるもんか……って言うか、知らないし…』』


 心の中で溜め息を吐きながらも、デンゼルとマリンはその眼光を和らげる事無く女性達が注文するのを急かすように見つめていた。

「ティファちゃん…あの二人…どうしたんだい?」
「さぁ……なんでしょう……」

 カウンターから小さく聞えた会話に、デンゼルとマリンはドッと疲れが圧し掛かってきたのを感じるのだった…。



 結局、その後も女性陣達の質問攻撃に対して次々先手を打って出た子供達が勝利を収め、ティファの耳に不快な質問が届く事はなかったものの、子供達が店の手伝いを終える時間になってもクラウドは帰って来なかった…。

『もう!クラウドのバカ!!』
『クラウド〜〜…男と男の約束なのに……!!』(←『男と男の約束』とは言っていない)

 ジリジリとしながら、視線は時計とドアを何度も往復する。
 しかし、一向に帰ってくる気配が無い。

「二人共、本当にありがとう。今夜はもう良いから、ゆっくり休んでね」
 いつものように笑顔で女店長がお手伝いに対して感謝の言葉を口にし、母親代わりとして愛情の言葉をかけてきた。
 しかしながら当然、デンゼルとマリンは部屋へ行く気などサラサラ無い。
 だが、この『超』が付くほど肝心な事には鈍い母親は、眉根を寄せて困った顔をしている……。

「だから…二人共どうして今夜はそんなに頑固なの?」
「「ティファが頑固だからじゃない(か)!!」」
 何度目かの問答の末、子供達の声が見事に揃い、活気溢れる店内に響いた。
 一瞬、その声に店内がシンと静まり返り、客達が何事かと顔を向けてくる。
 ティファは作り笑いを浮かべて客達に「すいません」と軽く頭を下げると、先程よりうんと声を落として子供達の目線に合わせ、しゃがみこんだ。
「あのね…。毎日この時間からは私一人でやってて問題ないでしょう?それに、子供のうちはきちんと睡眠をとっておかないと脳が発達しないんだよ…?」
 ほとほと困り果てた顔をする母親代わりに、子供達は『自分が悪いのでは!?』という罪悪感が込上げてきた。
 しかし……!!
 店内を見渡して、フルフルと頭を振り、胸に込上げてくる罪悪感を振り払う。


『『こんなに沢山女の人達が残ってるのに、ティファを一人になんかさせられないよ!!』』


 いつもなら絶対にいないだろうその女性客の多さと執拗な視線、更には時折ティファに向けられる嫉妬めいた眼差しに、子供達の心臓は今夜、フル活動しっぱなしだ。
 いつ、女性客達から『爆弾』が投下されるか分かったものじゃない。
 もしかしたら……この女性客の中に、クラウドへラブレターを出した人がいるかもしれないのだから……。
 いや…『いる』と考えた方が良いだろう……。


『『恐るべし、女の嫉妬&執念!!』』


「今夜は眠れそうに無いんだもん。だったら、お手伝いしてた方が良いでしょう?」
「そうだよ。どうせ寝れないんだったら横になってようが、手伝いしようが結果は同じじゃんか!」

 頑としてエプロンを脱ごうとしない子供達に、ティファは諦めの溜め息を吐いた。
 そして、ふと何か考える仕草をすると、徐に口を開いた。


「ねぇ……もしかして、二人共、今朝の『手紙』の事で気を遣ってくれてるの?」


「「え!?」」


 まさか……!
 まさか、今の今まで鈍い鈍いと思っていた母親代わりから直球ストレートな言葉が聞けるとは!!
 聡い子供達だったが、このあまりにストレートな発言に、思わず目を白黒させて言葉を詰まらせた。
 そんな子供達を、女店長はフゥ〜ッ…と溜め息を吐くと、困ったような、それでいて温かな笑みを浮かべた。
「本当にデンゼルもマリンも苦労性よねぇ…」

『『イヤ、それはティファの方だし!!』』
 心の中で即ツッコミを入れた二人だったが、反論する前にティファにキュッと抱きしめられた。
 そして、すぐに身体を離されると、それぞれの額に恒例の『おやすみ』のキスが落とされた。
「大丈夫。だって、こう見えても一応打たれ強いんだから!」
 そう言って、ニッコリ微笑んだ後、コソッと「昼間はちょっと失敗しちゃったけどね」と悪戯っぽく囁いてみせたティファに、デンゼルとマリンは顔を見合わせた。
 そして……。

「じゃあ…」
「私達……寝るね……?」

 とうとう子供達は白旗を揚げた。
 ティファはニッコリと微笑みを浮かべ、子供達の頭をそれぞれ優しく撫でると、そのまま小さな背を階段の方へ優しく押しやった。

 後ろ髪を惹かれる思いで、何度も階段の途中で振り返る子供達の姿がようやく消えたのを確認すると、ティファは腰に手を当てて苦笑した。

『全く……クラウドも子供達も私の事を甘やかせ過ぎるんだから』

「ティファちゃん、もうそろそろ注文頼んでも良いかな?」
 客の一人が笑いを堪えながら声を掛けた。
「あ、は〜い。ごめんなさいね、おまたせしました」
「いや、良いんだよ。それにしても、本当にティファちゃんは愛されてるよなぁ」
 心底羨ましそうに言う常連客に、ティファは満面の笑みで頷いた。


『本当に、私って幸せ者よね』


 さぁ、ここからが正念場!
 ティファは背中に突き刺さる女性客達の眼差しに、気合を入れなおしてカウンターへと向かったのだった。




 あとがき

 はい……またまた、三部構成になっちゃいました……(汗)。
 おっかしいなぁ…、何で二部構成予定の話が三部構成……??(← 予定は未定 笑)。
 次回で完結ですので、もう少々お待ち下さいm(__)m