いや…分かってたんだ。
 このままじゃいけないって事くらい…。
 でも…。
 周りの人から強いと思われている彼女が、本当はとても繊細な心の持ち主だって事が分かってるから…さ。
 だから、なるべく不安にさせないようにしてやりたかったんだ…。
 それなのに……。



an afferctionate letter(後編)




 何だってこう…タイミングの悪い……!!

 クラウドはとっぷりと日の暮れた荒野をただひたすら愛車に跨り駆けていた。
 その背後から、執拗に追って来る無数の光る眼…。

 間の悪い事に、モンスターの群集地に突入してしまったらしい…。
 急いで帰宅するべく、近道を……そう思っていつもと違う針路を取ったのがいけなかった……。

『急がば回れ』とは良く言ったもんだな……。
 イライラと追って来るモンスター達をサイドミラーで確認しつつ、溜め息をこぼす。

 昼間の子供達との会話が脳裏に甦る。

「何が『開店と同時に帰宅する』…だ……」
 自嘲気味に吐き捨てた言葉は、フェンリルのエンジン音と巻き起こる風の中、誰に聞かれる事もなく空しく飛んで転がった。

 電話を貰ったあの後すぐ、マリンの提案通りキャンセル可能な荷物はキャンセルさせてもらった。
 その電話のやり取りも全て、フェンリルを走らせながら伝票を見つつ行った…。
 一歩間違えれば大事故に繋がるそんな危険を冒してまで、クラウドは必死になって早く帰宅出来るように調整したのだ。
 そして、思いのほかその作業は上手くいった。
 ほとんどの依頼人達が、快く明日・明後日でも構わないと承諾してくれたのだ。
 お陰で、明日・明後日の配達にしわ寄せが出来てしまったが、そんな事はどうでも良い。
 いざとなったら休憩時間など取らず、一日中走り続ければ良いのだから…。
 勿論、そんな事をしたら心配性な彼女の事だから、眉根を寄せてお説教を始めるだろう。
 それでも、不安な気持ちを抱えているであろう彼女の元へ帰る事が、今日一番の最優先事項なのだ。

 だというのに……。

 何故か、そういう時に限って想像もしないようなトラブルに見舞われるのが、セブンスヘブンの住人達に課せられた運命らしい…。

 最後の配達を終え、意気揚々と帰路に着いた……いや、着こうとしたクラウドの目の前で、実にタイミング良くトラブルが発生した。
 あろうことか……。
 最後の配達先の自宅に……。
 今時『どうよ、ソレ!?』と叫びたくなるような出来事が起こったのだ……。


「トレミー!!」
 突然現れた若い男。
 クラウドと同年代と思われる少し男前な若者の登場に、トレミーと呼ばれた依頼人の女性が強張った。
 クラウドがまだそこにいると言うのに、部外者の目の前と言う事も全くその男にとっては関係なかったらしい…。
「トレミー、お前、人妻だったんだってな!!」

『………はい!?』

 クラウドは今しがた男の発した言葉に思わず目を見張った。
 視線の先には、配達の受取人である女性・トレミー嬢が、彼女の………愛人?彼氏?的な位置にると思われる男ににじり寄られてた。
 男の表情は怒気一色、今にも掴みかかりそうな程目の前の女性に激昂していた。
 女性はと言うと(まぁまぁ平均よりも美人に分類される女性ではあるのだが)、青くなって震えている。
 そして、勢い良く縋る眼差しをクラウドに向けた。

『いや……そんな目で見られても……』

 あまりの展開に呆気に取られているクラウドに、男は何を勘違いしたのか女性の視線の先にいるクラウドが、依頼人の女性・トレミーの夫だと思ったらしい…。
 怒りの矛先をクラウドへ転じたその切り替えの速さは、実に素晴らしかった…。

「お前が…お前がトレミーの…!!」
「いや……俺は……」
 説明しようとするクラウドの言葉など、最初から聞く耳を持っていない男は、非常に単純な行動に出た。
 まぁ…要するに実力行使だ。
 目の前の展開これっぽっちもついていけないクラウドに、鼻息も荒く殴りかかってきた。

 条件反射。

 この時ほど、己の身に染み付いてきた殺気に対する防衛反応に嫌気が差したことは無い。
 男の繰り出された拳を軽々かわすと、戦闘時のクセでついつい『手』が出てしまった。
 クラウドの拳が見事に男の鳩尾にジャストミートしてしまう。

「あ………」

 気づいた時には、男は白目を剥いて仰向けに倒れこんでしまった……。



「まぁ、今回はこちらのご婦人の証言もありましたから正当防衛という事で処理させて頂きますが、今後はもう少し手加減してあげて下さいね」
「………申し訳ない……」
 男を一発KOさせた後、慌てて通報したクラウドにその町の警察官が苦笑しながら念押しし、バツの悪い面持ちでクラウドは頭を下げた。

 一応、ジェノバ戦役後の世界では大事件でも無い限り、それまでの警察機関がそれまで通り働いていた。
 その為、クラウドは警察に通報して自ら事情聴取なるものに協力したのだが…。
 解放されるまでにやはり時間がかかってしまった。
 何しろ、当の加害者であるはずの男はクラウドの一撃のお陰でまだ意識を取り戻していなかったし、被害者になりかけた女性は、うっとりとその当時の話を語るだけでその他の事……要するにその男との関係に関して頑として口を割らなかったのだ。

『まぁ……良い所の奥様みたいだし、旦那にバレたらえらいことだからな……』

 クラウドはそう思いつつも、既にとっぷりと日の暮れた空を見上げて泣きたい気分になるのだった……。

 だがしかし。
 クラウドには落ち込んでいる時間などないのだ。
 早く帰路に着かなくては!!

 昼間の子供達からの衝撃の事実から、心は既に家に飛んでいるものの、心だけ飛ばしても意味は無い…。
 携帯から話を……とも考えないでもなかったが、直接顔を合わせて話をするべきだという事も分かっていた為、あえて今夜は『帰るコール』をしないように決めていた。
『帰るコール』をした時、誤解を招くような発言をしてしまう可能性が十分に考えられたからだ。

『俺もティファも器用じゃないからなぁ……』

 こと恋愛に関したら途端に不器用になってしまう自分と彼女を思い、クラウドは溜め息をこぼしつつ愛車に跨った。
 しかし……。
「ちょっと、申し訳ないが…!!」
 そのクラウドを引き止めたのは、帰宅する時間を大幅に遅らせた原因である女性の夫だった…。

 剣呑なその声音。
 思い切り寄せられた眉。
 全身から溢れ出る『不機嫌』&『怒り』のオーラ。

 クラウドは本日何度目かの溜め息を吐いた…。

 もう…なりふり構わず逃げ出したい!
 家に帰って彼女の不安を拭い去りたい!
 何より、自分の心に平安が欲しい!!!

 その様々な誘惑を振り切ってクラウドは「何か?」と女性の夫に向き直った。
 愛車からは降りていない。
 話が済んだらサッサと走り去る為だ…。

 しかし、そのクラウドの態度が夫の神経を逆撫でする結果を招いてしまった。

「貴方が……妻の『浮気相手』ですね!?」
「は!?」

 突拍子も無い夫の発言に、思わず間抜けな声を上げたクラウドに、夫は指を突きつけてヒステリックに喚きたてた。
「見ていた近所の方の証言で、『常識がない男』だったと聞いてるんです。現にこうして話しかけてるのにバイクから降りようともしないでめんどくさそうに対応する貴方!!貴方以外に『常識が無い男』がこの町にいるとは思えません!!」
「…………」

 キッパリ言い切られて言葉をなくしたクラウドに、夫は勘違いをした。
 即ち『この目の前の色男が妻の浮気相手』だという甚だ間違った結論をはじき出したのだ。

「ゆ、許せない…。いくら私が出張が多いからといって私の留守中に……!!絶対に許せない!!訴えてやる!!!!」
「え!?!?」

 クラウドに一言の弁解もさせないまま、夫は一方的にクラウドを『妻の浮気相手』として認識してしまい、挙句の果てには訴えるとまでのたもうた……。
 流石にここまで言われて、クラウドも頭が目の前の展開に追いついた。
「いや、俺は彼女の…アンタの奥さんの浮気相手じゃなくて、ただの…」
「そんな言い訳、今更信じるとでも!?絶対に許しませんよ!社会的制裁を与えてやる!!」
「いや、だから…」
「この地上のどこにもいられなくしてやりますからね!!ええ、私にはそれだけの人脈があるんですから!!」
「だから……」
「今更、侘びを入れようとしても手遅れですよ!明日の朝には、貴方は新聞の一面を飾ってるでしょう!!」
「いや…。って言うか…」
「さぁ、もういいです。今すぐこの町から、私の目の前から消えて下さい!!!」

「いい加減にしろーーー!!!!」

 夫の一方的な言い分にとうとうキレたクラウドの怒声が、警察署のドまん前で響き渡った……。


 その後。
 完全に自分の勘違いだと漸く気付くと同時に、クラウドがかの『ジェノバ戦役の英雄』だと知った夫の謝罪は物凄かった。
 鬼気迫るような彼の謝罪の言葉の数々に、クラウドは再び大幅に時間を削られ、何とかそれらの妨害の数々を乗りこなしてその町を後にしたのは、子供達が休む時間まであと小一時間にまで迫っていた……。

『な、何でこんな目に……』

 げっそりとやつれた顔で警察署を後にしようとしたクラウドに、警察官が心から同情を寄せ、
「気をつけて帰って下さい」
 一言かけてくれた。
 その一言が、今日一日の中で一番温かかった…としみじみ思うクラウドを乗せたフェンリルは、主(あるじ)の期待通り、風のように荒野を駆け抜けた。
 しかし……。
 エッジまであと少し…という所で、冒頭の状況に戻るのである……。


「ったく…今日は何て日だ!!」
 イライラもピークをとっくに過ぎ、追いついて来る僅かなモンスターに一片の同情もなく、クラウドは抜き放ったバスターソードを喰らわせた。
 何頭かを斃したとき、不意に胸元のポケットがフェンリル以外の振動を伝えてきた。
 すぐさま武器を収納して携帯に手を伸ばす。

「もしもし?」
『あ!クラウド、今どの辺?』

 聞えてきた可愛い娘の声に、クラウドは一瞬頬を緩めた。
「ああ、もうすぐでエッジに着くと思う」
『そう!?良かった〜。あのね、何でか分からないんだけど、今夜、クラウドが早く帰って来るって情報が流れたみたいで、女の人のお客さんがまだ沢山残ってるの』
「え!?」
『それでね、本当は私もデンゼルもまだお店を手伝いたかったんだけど、ティファにどうしても許してもらえなくて…』
 携帯から届けられた衝撃の事実に、クラウドは本日何度目かの眩暈に襲われた…。

 帰宅して、ティファとゆっくり話し合う…。
 そして、お互いに抱えていたものを吐き出して…。
 明日から何も秘密の無い関係に……。

 そう思っていたクラウドにとって、マリンの言葉は何とも非情な現実を突きつけるものだった…。

『だから、一刻も早く帰って来て欲しいの。でないと、ティファ一人であの女の人達を相手にしないといけないでしょう?』
「………そんなに多いのか…?」
『うん…。今でも十人以上残ってるよ』

 ガックリと肩を落としたクラウドに、いつのまにか追いついてきていたモンスターが体当たりをしてきた。
 それを間一髪で蹴り飛ばすと、クラウドはサイドミラーに視線をやった。
 幸いな事に、今のモンスターで最後だったらしい。
 暗闇に光る目はもう見えない。

 ホッと一息吐いた気配が伝わったのだろう…。
『クラウド?』
 怪訝そうなマリンの声が耳に痛い。

「分かった。もうこっちも片がついたから順調に帰れると思う」
『…何かあったの?』
「ああ、明日にでも話すよ。もうエッジの灯りが見えてきたからな、もうすぐだ」
『良かった…』
「ところで、デンゼルは?」
『ああ、デンゼルは階段のところでお店の様子を見てる。もしもティファがイヤな目に合ったらすぐに飛んでいけるようにって』

 子供達のティファと自分への心遣いに、クラウドは胸が温かくなった。
 自然に口許に優しい笑みが浮かぶ。

「そうか……。本当にすまない」
『良いよ、大丈夫。じゃ、気をつけて帰ってきてね?』
「ああ。デンゼルにも『ありがとう』って伝えておいてくれ。それから、もうエッジの入り口に着いたから、寝ても大丈夫だからな。本当にすまなかった」
『本当!?良かった〜。じゃあ、私達寝るね。お休み、クラウド。また明日!』
「ああ、お休み」

 愛しい思いを胸一杯に溢れさせ、クラウドはエッジの入り口を猛スピードで潜り抜けた…。



「すいませ〜ん」
「あ、は〜い。すぐ行きますね」

 カウンターで常連客達と談笑しつつ、洗い物をしていたティファに、甘ったるい声が投げかけられた。
 普段、この時間には絶対にいないはずの女性客達。
 彼女達が来店してからかれこれ四時間が経過している。
 勿論、時間制限があるわけではないので、注文さえ途切れなければ開店から閉店までいてもらっても全く構わないのだが、それにしても……。
 こうも身に突き刺さる『負』の視線に、ティファほとほと困っていた。
 彼女達の狙いが『誰』にあるのか、鈍いティファでもイヤでも分かる。
 その『彼』はまだ帰って来ない。

 子供達を部屋に引き上げさせて小一時間が経過しようとしている。

「梅茶漬けを二つお願いします」
「あ、あと、卵サンドも!」
「それからおにぎりを二人前」

 女性客の新たなオーダーに、ティファは笑顔を失わないで伝票に書きとめた。

『やっと帰ってくれるみたいね…』

 注文が『ご飯物』であった為、お酒の後の口直し…そう判断して心の中でホッと安堵の溜め息を吐く。
 正直、子供達が部屋に引き上げてからの時間は苦痛だった…。
 女性客から突き刺さる嫉妬と羨望の眼差し、そして値踏みする視線は精神的に非常にきつい。
 その苦痛もあと少し…。
 そう思うと、自然と心が軽くなる。

「畏まりました。少々お待ち下さいネ」

 注文を取り終え、カウンターへ戻ろうとしたティファに、女性客の一人が何気ない風を装って声を掛けた。
「それにしても、クラウドさん遅いですね。今夜はもっと早く帰る予定じゃなかったんですか?」

 その質問に、ティファは目を丸くして振り返った。
 視線の先には、そんなティファに怪訝そうな顔をする幾人もの女性達…。
「えっと……。クラウドは今夜はかなり遅くなる予定ですけど……」
 躊躇いがちにそう答えると、かなり酔いが回った女性客が赤い顔を更に赤らめて勢い良く立ち上がった。
「ウソ!!だって私、聞いたんだから!!」

 その甲高い声に、店内に残っていた客達全員が振り返る。
 他のテーブルに着いていた女性客達も、何事かと目を丸くしていた。
 そんな注目の的になっている女性は、全くその状況に気付いていないのか、詰め寄るようにフラフラとティファに近寄った。
「だって、今日のお昼過ぎ、デンゼル君とマリンちゃんが街角でクラウドさんに電話してるの聞いたんだから!『今夜は開店と同時くらいに帰って来る』って!!」
「え!?」
 そんな話は初耳であるティファには、一体何のことやらさっぱり分からない。
 しかし、ティファのその態度が酔っ払っている女性には癪に障ったようだ。

「なによ〜…、ちょっと自分がスタイル良くて…、顔が良くて…、男の人にモテて…、人気があるからって〜〜……」

 完全に目が据わり、呂律が怪しい。
 ついでに、言っている事も何だか褒めてるんだか、妬んでるんだか良く分からない……。
 そんな女性ににじり寄られてティファは後ずさった。

「そんな何でも揃った貴女がいるから、私達があぶれるんでしょう!?」
「え……いや、何の事だか……私にはさっぱり……」
「しらばっくれないで!!」

 女性の甲高い声に、店内が静まり返る。
 ティファも完全に気圧されている為、目をパチクリさせて固まってしまっていた。

 いまや、セブンスヘブンは一種の喜劇のワンシーン。
 イヤ…悲劇か……?
 それはまぁ、どちらでも良いのだが、とにかく店内にいる客の全員が、この店の店長と酔っ払っている女性の対決(?)に注目していた。

「本当はもう帰ってるんでしょう!?」
「え……誰がデスカ……?」
「クラウドさんに決まってるじゃない!!!」

 キーーーン…………。

 超音波のような女性の怒鳴り声に、店内にいる全員が一斉に顔を顰めて耳を塞ぐ。
 ティファも耳を塞いで顔を顰めたものの、それでも頭の中は疑問符で一杯だった為、理不尽な事を言ってくる女性に対して怒りは湧いてこなかった。


 イヤイヤ…本当に何の事を言っておられるのやらさっぱりなんですが……?
 そもそも、どうしてデンゼルとマリンが携帯で話をしている事をアナタが知ってて私が知らないんでしょう??
 って言うよりも、どうしてこんな目に合わなくてはならないのかさっぱり分からないのですが……???
 イエイエ、むしろ、もしかしなくてもこんな時間にこんなにも沢山の女性が残ってらっしゃるのは…、そのお話を皆さんが知ってらっしゃるからですか!?!?


 頭の中でグルグル回る疑問の数々に、誰もその回答を与えてくれそうに無い。
 むしろ、ここまであからさまにこの女店長に食って掛かる女性を初めて見る常連客達は、興味津々で傍観している。

『薄情者〜……』

 ティファの心の嘆きを知ってか否か、女性は益々ヒートアップしていった。
「そうなんでしょう!?もう既に帰ってて、二階におられるんでしょう!?」
 そう言うなり、足音も荒く二階の居住区へ続く階段目指す。
 流石に呆けていたティファも、ギョッとして女性の腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと、困ります。ここから先はプライベート区域なんですから!」
「そんな事、私には関係ないのよ!」
「そんな事って言われても、子供達ももう寝てますから、本当に止めて下さい!」
「どこまでクラウドさんを独占したら気が済むの!?クラウドさーーん!!!降りて来て下さーーい!!!!」

 引きとめるティファの手を振り払おうともがきつつ、暴走する酔っ払いは二階に向けて大声を張り上げた。

 女性相手に手を上げるのは、ティファとしても本意ではない。
 しかし、このままだと子供達の安眠を妨害するこの『超音波女』を黙って見過ごす事も出来ない。

 ティファは目を吊り上げると、女性の腕を掴んでいた手に力を込めた。
 その直後…。


「痛ーい!!」
 という女性の悲鳴と、
「ただいま!!」
 汗だくになり、泥まみれになったクラウドが店内に駆け込み、肩で息をしながら目の前の光景に呆気に取られたのが重なった。



 その後…。
 それまでクラウドの帰宅を待っていた女性達が黄色い歓声を上げる中、呆然と女性の腕を掴んでいるティファにクラウドが真っ直ぐ歩み寄り、その掴んでいた手をそっと離させた。
 そして、
「クラウドさ〜ん、もう酷いんですよ、ティファさんったら!私、何にもして無いのに思い切り掴んできて〜。あ〜、ほら、真っ赤になってる〜〜」
 異常なまでに媚びた声で自分に話しかけてくる女性に、これ以上ない程冷たい視線を突き刺すと、声をなくしたその女性を完全に無視して呆けているティファの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
 心配そうに声を掛けたその表情は、一瞬前に見せた殺気の篭った眼差しとは正反対の愛情に溢れたもので……。
 それまでクラウドを待っていた女性達の頭を冷やすには十分な威力を持っていた。
 そして、それは酔っ払って散々甲高い声を上げて重大な被害をもたらしていた原因の女性にも当てはまり…。


 クラウドが帰宅してすぐ、セブンスヘブンから客の姿が消えてしまったのは言うまでも無い…。
 ただ、いつも来てくれている常連客達だけが、帰り際に、
「いや〜、良い物見せてもらったよ!」
「やっぱり『愛』だねぇ、『愛』!!」
「うんうん、やっぱりティファちゃんにはクラウドさんだよなぁ」
「クラウドさんにはティファちゃんだよなぁ」
 そう言って、温かな笑みを二人に残してくれた。



「今夜は本当にすまなかった」
 二人一緒に片付けをし、漸く一段落ついた店内で、改めてクラウドはティファに謝罪の言葉を口にした。
 ティファは、クラウドの為に夕食を温めなおし、彼の好きなお酒を用意しながら、ゆっくりと首を振った。
「良いのよ。それに、凄くタイミング良く帰って来てくれて助かっちゃった。あのままだったら、私、初めて女のお客さんをお店から叩き出す所だったもん。危なかった〜」
 そう言って、少々おどけて見せるティファに、クラウドは眉尻を下げて心底申し訳なさそうな顔をした。
「本当に…もう少し早く帰れる予定だったんだけど、色々あってさ…」
「色々って?」
 クラウドの前に夕食とお酒を出しながら、ティファは首を傾げた。

 クラウドは、今日あったハプニングの数々をボソボソ話し、ティファはその度に目を丸くしたり笑ったり、心配したりコロコロ表情を変えながら聞き入った。
 そして、穏やかな空気が二人を包んだ時。
 クラウドは本日最も重要な課題をクリアすべく、意を決して再び口を開いた。

「デンゼルとマリンから聞いたんだけど…」
「え……、あ、ああ……うん」
「その…黙ってて悪かった…」
「ううん、良いよ。だって…気を使ってくれてたんでしょう?」
「いや…まぁ、そうなんだけどさ。やっぱり黙ってたのは……良くなかったカナって思って」
「……ううん」
「…………」
「…………」

 そのまま沈黙に包まれる。
 クラウドはジッとグラスに視線を落とし、次に何と言おうか思案を巡らせていた。
 一方、ティファはどうしても聞きたい事があったのだが、それを口にして良いものか悩んでいた。
 しかし、結局このままだと辺にしこりが残ると判断し、ティファは思い切って俯けていた顔を上げた。
「ねぇ、クラウド?」
「うん?」
 魔晄色に染まった穏やかな眼差しが向けられる。
 その優しい瞳に、思わず「なんでもない」と言いそうになるのをグッと堪え、ティファは口を開いた。
「貰った…その…ラブレターは……、どうしてるの?」
「え?」
「あ、いや…だから…。ゴミ箱にあるの…一度も見た事ないから……もしかして、ずっと保管してるのかなぁ……て思っちゃって…」
 ティファの言葉に、クラウドは「ああ!」と妙に納得した顔をすると、フワリと微笑んだ。
「ティファと一緒」
「へ?」
「ティファは手動のシュレッダーで自分で処分してただろ?俺も、一応目は通してから自分の手で処分してた」
「……知ってたの?」
「ああ、子供達から聞いてた」
「え…そうなの!?」
「ああ。配達に出た時にまとめて街の外で燃やしてた」

 意外な返答に、ティファは何とも複雑な顔をした。
 自分がどうやって処分していたかクラウドは知っていたのに、自分はクラウドがラブレターを貰っている事自体知らなかったのだ。
 何となく釈然としない。
 だが…。
 それもやはり彼の『優しさ』だとすぐに気付く。

 自分が本当は弱いという事を知っててくれている彼の事だ。
 本当は、今まで黙って処分する事も…子供達に頼んでラブレターが目につかないように頼んでいた事も……。
 多分、きっと、『後ろめたかった』に違いない。

「ごめんね、気を遣わせちゃって」
 ポツリとこぼしたティファに、目を丸くし、次いでその言葉に含まれている意味を察して頭を掻いた。
「いや、本当はもっと早くに打ち明けるべきだったんだろうけど…、どう言えば良いのかわからなくてさ…」
 俺こそ、ごめん。

 優しい彼の最後の呟きに、ティファは頬を緩めた。
 そして、そのまま二人して微笑み合うと、どこか清々しい気持ちが込上げ来た。
「あ〜、何か肩の荷が降りた気分だ」
「私も」
「これからは、俺の分もティファにシュレッダーかけてもらおうかな」
「え〜、でもそれは貰った人に失礼じゃないかなぁ…」
「まぁ、それは分からないでも無いけど…でもなぁ。結構大変なんだよな。燃え尽きるのを見届けるのって」
「?最後まで見届けてるの?」
「ああ。一度、油断した時に半焼けの状態で封筒が風に飛ばされてさ。もしかしたら誰かに拾われる可能性があるだろ?まぁ、その可能性は低いんだけど、やっぱりほっとけないから、慌ててフェンリルで追いかけた…」
 あの時は、配達が大幅に遅れて大変だったんだ…。

 ボソッと呟いたクラウドに、ティファは吹き出した。
 ひとしきり笑った後、
「じゃあ、クラウドもこれからシュレッダー使ったら?もう私に隠さなくても良いんだし」
「あ、そうか…。うん、それが良いな」
 そうして二人して再び微笑み合って。
 ゆっくりと身を寄せ合った。


 大事な人に隠し事しなくて済む…。
 大事な人に隠し事されなくて済む…。


 その喜びで、今日一日の苦労がスーッと消える二人だった。



 その後…。
 セブンスヘブンの朝では、子供達の親代わりが一通り目を通した手紙を手動のシュレッダーにかけるべく、一生懸命ハンドルを回す姿が見られるようになったという…。



 自分の大切な人に自分以外から届けられたラブレター。
 自分が大切に想っている人以外から差し出されたラブレター。
 それは、どれも本当に心が込もっているものだと……精一杯の言葉が綴られているのだと……ちゃんと分かっているその手紙達。



 あなたなら……どうしますか?





 あとがき

 終わったーー!!
 何でこんなに長く……!?(← それは計画性が無いから スパッ!)
 本当にここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
 う〜ん、書いた本人が言うのもなんですが、実際問題、どうなんでしょう?
 恋人以外からのラブレターって、目を通さずに捨てるのが良いんでしょうかね?
 それとも、やっぱり『心の込められたもの』だとして、一度は目を通すのが人情なんでしょうかね…。
 拙宅の二人は、『心が込められたものだから』という理由で一応は目を通し、そして責任を持って処分するという手段を選んでます。
 む〜、でも実際はどうなのかしらん……。
 ACのクラティはどうするのかなぁ…。
 差出先が書いてたら、返却するのかな?
 ん〜〜…。
 でも、二人共長真面目なので、律儀に対応してると信じてます!!

 本当にここまでお付き合い下さってありがとうございましたm(__)m