―『彼らを採用するんですか?』― ―『…シュリは反対なんですか?』― ―『自分は採用されたばかりですから、人事に対して意見を言う権利はありませんよね』― ―『ん〜、まぁ確かに一般的に考えたらそうなんだろうけど…』― ―『…?』― ―『シュリ、キミを採用したこと自体が既に一般的ではないだろうから、言ってみてくれないか?』― ―『……』― ―『彼らの採用、キミはどう思う?』― ―『……自分は…』― ―『反対です』― Are you ready? 6「アイタタタ…」 ガラガラガラ。 山となった瓦礫をこぼしながら立ち上がったユフィは、周りの惨状に目を見開いた。 気を失っていたのは一瞬のはずなのに、一瞬前とは全く違う光景に様変わりしている庭園と邸宅にゾッとする。 すぐに周りを見渡して状況を確認し、少し離れたところでうめき声を上げている数人の人間を認め、駆け寄った。 彼らに駆け寄る僅かな合間、小山盛りになった瓦礫の下から巨漢の仲間が、 「う〜…イテテ、なんだってんだ…ったくよぉ…」 と、頭を振りながら立ち上がった。 そうしてユフィ同様、ギョッとして、 「なんじゃこりゃーー!!」 驚愕の叫びを上げる。 心の中で『やかましい!!』と叫びながらも、ユフィは地面に伏している彼らに駆け寄った。 しゃがみこんで傷の具合を確かめる。 ゴツゴツした男の手を持ち上げたり、頭部を見る。 特に大きな怪我はないようだ。 飛空挺が至近距離で爆発したには軽症で済んでいる。 『流石、ウータイの忍…ってか…』 そう皮肉をこぼしつつ、次々と負傷者を確認していった。 「ティファ、大丈夫か?」 「…う…ん……なんとか…アッ!…ウ…」 「よせ!無理するな」 そのやり取りに驚いて顔を上げると、大きな瓦礫の下敷きになっていたティファをクラウドが助け出していた。 ティファの足首は、ガッチリと飛空挺の残骸が食い込んでいて、見るも痛々しいことになっている。 「クラウド、ティファ!大丈夫!?」 とりあえず、無事そうな同胞達は放っておいてクラウドとティファを優先させることにした。 ティファは地面に突っ伏した状態で、なんとか痛みと闘っている。 「ユフィ、そっち頼む。バレット、お前も手伝ってくれ!」 「お、おうよ!大丈夫かティファ!?」 「うるさい、バレット!ティファ、すぐに助けるからね」 英雄3人がかりで飛空挺の残骸をティファの足から取り除ける。 彼女への負担がこれ以上かからないよう、慎重に…慎重に…。 ガラガラン…。 重々しい音とは別に上がった瓦礫の崩れる音と共に、 「うわっ!皆さん大丈夫ですか!?」 「げげっ!なんつうこった!!」 「あわわわわ、皆、どこ!?大丈夫!?」 「うぉっ!エライことなんだぞっと!?」 「…!?(ティファ!?!?)」 プライアデスとシド、ナナキにタークスコンビが現れた。 「おい、タークス。こっちを手伝え」 声をかけたのはヴィンセント。 こちらも瓦礫を身体中からこぼしつつ身を起こした。 その身体の下から現れたのは、人質となっていた親子とノーブル兄妹。 「兄さん!しっかり!!」 ラナの声に、レノは顔を引き締めて走り出したが、相棒が呆然と固まっていることに気づいて立ち止まった。 「おい、ルード…って……あ〜……な〜るほど…と」 視線を追った先にいた英雄2人の姿に、スキンヘッドのほろ苦い想いをおもんばかる。 だがまぁ、仕方ないではないか。 クラウドが傷ついたティファを優しく抱き上げていることも。 彼女が心から安らいだ顔をして彼に抱き上げられていることも。 ついでに言うと、クラウドとティファを邪魔しないよう、さっさとユフィとバレットが負傷者の救出に駆け出してしまったので、2人だけの世界が作り上げられていることも…。 本当にどうしようもない…、仕方ないことだ…。 「おらよっ!しっかりしろ、相棒!!」 バシンッ! 小気味の良い音を立てて相棒の頭をはたく。 レノの気遣いに感謝しているのか、はたまた本当に気づいていないのか…。 無表情のまま、「痛い…」と呟きながら、ルードはクラウドとティファから視線を引き剥がした。 レノとルードはヴィンセントに駆け寄ったが、近づくまでの間に状況を割りと把握することが出来た。 どうやら、自分達の勝利らしい。 と言うのも、誘拐犯達は一様に地面に転がっているが、それが『隙を窺っている』ための芝居ではなく、本当に大ダメージを喰らったと分かったからだ。 どの忍達も戦意を喪失しているばかりか、自身の失態に深く傷ついているのである。 苦痛に呻きながら、彼らの瞳が虚ろであるのが何よりの証拠…。 仲間の状況も分かった。 ティファは負傷しているが、その他のメンバーは大丈夫なようだ。 …1人を除いて。 ヴィンセントが守っていた隊員が出血のために青ざめている。 意識はないようで、ぐったりしているその様は、すぐにでも星に溶け込んでしまいそうな儚さを感じさせ、思わずゾッとする…。 「ほれ、これ使え」 ポケットから小さな箱を取り出し、中身をヴィンセントに渡す。 消毒薬に包帯、ガーゼに小さなハサミ。 ヴィンセントとレノは自然と協力してグリートの傷口を消毒し、止血をする作業を行った。 現タークスと元タークスがこのように手を取り合う日が来るとは、当人達にとって、驚きの出来事に違いない。 だが残念ながら、その驚きの事実に気づくだけの余裕は彼らに無かったのだが…。 怪我を負うことが多い両者にとって、消毒して止血をする作業は特に難しいことではなかった。 もっとも、グリートの負っていた怪我である『銃創』が、体内に弾を残していないものだったからに他ならない。 不幸中の幸いとはこのことだろう。 至近距離から発砲されたことと、動脈から外れていたことが幸いしたらしい。 出血もレノとヴィンセントの処置で止まりかけている。 ルードも自分の持っている携帯薬を取り出した。 ついでに反対のポケットから酒のビンと思しき小さなビンを取り出した。 「中身は水だ」 怪訝な顔をしたヴィンセントに向かってブスッと応える。 「兄さん、分かる?兄さん!」 「ラナ、これを飲ませてやれるか?」 ルードから渡されたビンと薬を見せると、ラナは決然とした顔で頷いた。 実の兄が真っ青な顔をして横たわっていると言う事実が、彼女にどれだけのダメージを与えているだろう…。 だが、取り乱し気味ではあるが、それでも何を優先させて、自分に出来ることを遂行する姿勢を持つ彼女は、間違いなくWROの隊員だった。 受け取ったそれらを兄の口に含ませる。 ややあって、口角から水を滴らせながらもグリートの喉がゴクリ、とそれらを飲み込んだ。 「これでなんとか大丈夫だろ」 「…先ほどの薬はなんだ?」 「おいおい、知らないで飲ませたのか?化膿止めと栄養剤だ。基礎体力がしっかりしてるから、すぐに良くなるとは思うが、念のために飲ませといた方がいいだろう〜?」 「ありがとうございました」 ヴィンセントとのやり取りに、ラナが遠慮がちに加わった。 丁寧にルードとレノに頭を下げる姿は、WROの隊員と言うよりは、良家のご令嬢と言ったほうがしっくりくる動作だった。 何となく、ご令嬢に礼を言われなれていないこともあり、レノとルードの耳がぽっ!と赤くなる。 ガシガシと髪を掻き毟ったり、サングラスをかけなおして動揺を紛らわせる姿がこんな状況であるのに微笑ましく見える。 その傍らで。 リリー親子が放心状態で座り込んでいた。 両親はとりあえず、自分達を襲っていた誘拐犯達が一網打尽状態にあることを理解したようで、張り詰めた表情からやや解れた表情になっている。 しかし、リリーは違った。 真っ青になって、自分の一番危険な時に飛び出して来てくれた青年をひた、と見つめていた。 身体がガタガタと震えているのは、決して寒いからではない。 「リリー、おじ様、おば様も本当にごめんなさい」 「なんでラナちゃんが謝るんだい」「そうだよ、悪いのは誘拐犯達でしょ?ラナちゃんが頭を下げる道理がどこにあるの?」 両親と親友の声がどこか遠くの世界でかわされているものにしか聞こえない。 何をのんびりとしているんだろう? 彼はまだ目を覚まさないのに! だが、戦々恐々としているリリーの周りでは、少しずつ状況が良い方向へと転がっている 「とりあえず、リトを運びましょう。すぐに飛空挺も着てくれますから」 「ライ…」 「うん、大丈夫。すぐそこまでシエラ号が来てくれてるから」 シエラ号。 その言葉に、リリーは少しだけ希望を見出した。 まだ目を覚まさないグリートを、ちゃんとした施設で診てもらえるのだから。 だが、もしも飛空挺の中で急変したら? ちゃんとそんな時のために対応出来るような設備はあるだろうか? あるに決まっている、なにしろWROの最高峰が太鼓判を押している飛空挺なのだから。 でも…、本当に大丈夫? 心配ない? グルグルと同じことが頭の中を旋回する。 そんなリリーの気持ちに気づいている人間は残念ながらいないようだ。 皆、なんとなく、全体的に先ほどまでの切羽詰った緊張感から解放されている。 それは、やはり飛空挺の爆発による被害が、誘拐犯達の方にこそ大きく、深かったからだ。 飛空挺に近づいこうとしていた誘拐犯と、リリー親子を守ろうとする英雄達の行動の小さな差がこんなにも大きな差を生む結果となった。 そんなこと、あの時誰が予想した? だから、誘拐犯達が…。 「くそ…、裏切りやがった…あの野郎共」 うめき声を上げながらゴロン、と寝返りを打ったことも…。 「あいつらを…信用した俺達が……バカ…だったってか…?」 戦意喪失しながらフラフラと立ちつつ、どこか自嘲気味ていることも…。 全てが『自然』な流れであると感じることが出来た。 自分達がとんでもないことを仕出かしたこと、もっと充分味わわせてやる!と言うのがユフィの素直な感情だったが、他のメンバーはとりあえず、最悪の事態は避けられたことと、思わぬ収穫があったこと、何よりリリー親子が擦り傷程度で元気なことを喜んだ。 まぁ、当分はカウンセラー等を派遣して、親子のメンタル面をサポートする必要があるだろうが…。 「さ、リリー」 ラナが親友を抱きしめるようにして震える身体を支えた。 しかし、リリーはガクガクと震えるだけで、親友の方を見ようともしない。 彼女の尋常ならざる様子に、両親は勿論、ラナもタークスコンビも心配げに顔を見合わせた。 「リリー…大丈夫だから…。もう心配ないから」 腕や背を摩りながらラナが繰り返す。 だが、彼女の目は親友を見ない。 ひたすら、青ざめて横たわっている青年を食い入るように見つめているだけ…。 どう接して良いのか分からない。 困惑しながら、ラナと両親は半ば抱きかかえるようにして強引に立ち上がらせた。 それでも彼女はフラフラと力なく、まるで人形のようだ…。 と…。 「大丈夫、リトは頑丈に出来てるから」 ヒョイ。 軽々と自分よりも大きな従兄弟を背負った紫紺の瞳の青年が、至近距離からリリーを見つめた。 ギョッとしたのはリリー本人よりも、彼女を支えていた両親とラナ。 2人の顔の距離はざっと5センチ程度。 「こ、こらこらこら!!」 慌てて間に割って入ろうとしたラナを、軽やかに流して青年隊員はリリーを凝視し続けた。 ユフィとヴィンセントまでもが彼の奇行にビックリして目を丸くしている。 ナナキなんぞは、瓦礫の下に埋まっている誘拐犯達を救出しようとしていたのに、折角咥えた瓦礫をガラン…と落っことしてしまった…。 再び瓦礫による打撃を受けた誘拐犯が、哀れな呻き声を残して失神する。 「大丈夫。ほら、リトにもう少し寄って」 どうやら、リリーに近づいたのはグリートに近づけるためだったらしい…と、その場の全員が何とか納得したものの、肝心のリリーは目を最大限に見開いて震えているだけ…。 「あの…ダメだってライ…」 震えている親友を気遣って、再度ラナが従兄弟とリリーの間に割り込もうとするが、サラリ、とそれをまたかわしてプライアデスはにじり寄った。 もうすぐ傍までシエラ号が着ているエンジン音が空から聞こえる。 すぐにでもグリートを運びこめそうな環境が整ったというのに、この紫紺の青年の態度は、柔らかな微笑みを湛えているくせ、頑として譲らない意志の強さを感じさせた。 リリーがとうとう、決意を表すように息を吸い込んで、ほんの数ミリ、顔をグリートに傾けた。 僅かな逡巡。 落っこちてしまいそうな丸く大きな瞳が数回瞬かれ、ゆっくり…ゆっくりとその双眸に白銀の雫が盛り上がり、重力の法則に従って幾筋もの痕を頬に残した。 それに伴い、彼女の震えていた唇はゆっくり、ゆっくりとその両端を持ち上げ、ついに彼女の暗雲を晴らしたことを証明した。 プライアデスはホッ、と肩から息を吐き出すと、 「はい。じゃ、行こうか?」 おどけたようにウィンクをして、彼女とその両親を既に着陸したシエラ号へと促した。 その仕草は、さながら彼の肩で気を失っている青年そのもの。 リリーだけではなく、ラナやジェノバ戦役の英雄達までもが、その仕草に笑いを引き出されたのだった…。 * やれやれ…。 と、WROの若き中佐はグルリ、と首を回した。 今回の一件は、本当に疲れた。 星との対話を行いつつ、部下達と共にウータイに急行して頑固なゴドーを敵の本拠地へ連れて行くのは骨が折れた…。 それでなくとも、ゴドーは掴みどころの無い傑物。 おまけにかつて、自分が反対した『人事』が関わってくるとは…。 気をもんだことこの上ない…。 ―『あら、でもその割にはスムーズだったと思うけど?』― よく言いますよ。 そんなわけないって分かってて言うんですから、アナタも人が悪い…。 ―『そんなことないって。まさにお前のために用意された事件だったじゃないか』― …人聞きが悪過ぎますよ。 誰もそんなもの、望んでいませんから。 ―『あら、でもいつかは向き合わないといけないことでしょう?』― ―『そうそう。お前がWROの科学班に採用するのを反対したあの瞬間から、いつかはけじめをつけないといけないことだったんだから』― ……。 ―『それにしても、本当に2年前、よく反対したわ!あのまま採用されてたら、もっととんでもない飛空挺が早い時期に完成してただろうし、もっと沢山の人達が死んでしまうことになったはずだもの』― ―『あぁ!その通り。あの姉弟は頭が良い分、同じくらい性格が歪んでるからな。自分達の幼馴染が死んだのをバッチリ見届けて、それに成りすましたんだから…』― ―『それに、私達を上手い具合に呼んでくれたから、爆発の威力も抑えられたしね。中々のファインプレーだったわ、シュリ。本当にエライエライ!』― ―『うん、良くやった。お父さんは嬉しいぞ』― ……どうも…。 ―『あらあら、拗ねちゃって』― ―『お母さん、この大きな子供、是非とも叱ってやって下さい』― ……。 ―『シュリ〜?』― ―『怒ったのか〜?こんなことくらいで怒ってたら女の子にモテないぞ?』― ―『あら…。そんなことないわ。シュリはモテるわ。誰かさんと違って誠実だから』― ―『お…おお…!?な、なんでそんなに突っかかるかな…。俺はいつでもどこでも、エアリス一筋だってば!』― ―『ふ〜ん、どうだかねぇ。ザックスはおモテになるから、私の知らない人と仲良くしてたんでしょう?』― …はいはい。 痴話喧嘩は他所でやって下さい。 ――『『あー!裏切り者ー!!』』―― はいはい。 では、そろそろ行きます。 ―『うん、またね』― ―『あんまり無理するなよ?』― はい…。 * 数日後。 「はぁい!皆さん、お待たせしました!!」 明るい声に続いて登場した『それ』に、皆が歓声を上げる。 大きな大きな長方形のケーキは、まるで『ウェディングケーキ』そのものの豪華さだった。 砂糖菓子で作られた一人一人のキャラクターは、子供達は勿論、怪我が治りかけて顔色の良くなったティファや、同郷の裏切りで凹んでいたユフィの目を輝かせた。 「うわ〜!凄いリリー!天才!!」 ユフィのはしゃいだ声に、ヴィンセントとナナキがそっと目配せをして安堵の表情を浮かべる。 シドはシエラ号を模った砂糖菓子を見て目を丸くし、 「これ、持って帰って良いか!?シエラに見せてやりたい!!」 直接交渉に乗り出した。 「早く食べたーい!」「もう俺、よだれが止まんない!!」 大はしゃぎの子供達にバレットが相好を崩して大笑いした。 クラウドとティファもそれぞれ嬉しそうに微笑みを交わしつつ、この大作を準備してくれたリリーとその両親に改めて頭を下げた。 両親は娘顔負けの愛想の良さでもって手を振り振り、 「良いんですよぉ!」「皆様のお陰ですもの!」 嬉しそうにはにかんでいる。 「それにしても、レノさんとルードさんは残念でしたね…」 切り分けたケーキの皿をちょん、と突きながらリリーがちょっぴり残念そうに笑った。 その皿には、ルードとレノを模した砂糖菓子が乗せられている。 心なしか、その砂糖菓子の2人も残念そうだ。 「仕方ないよ。あのおっちゃん達も仕事があるみたいだし」 モガモガ、と口いっぱいにケーキを頬張りながらデンゼルがしゃべってティファに怒られる。 それを見てプライアデスとラナがクスクスと笑い、ユフィがカラカラと笑いながらからかった。 「それで、今回の事件の親玉はどうなったんでい?」 シドが満足そうにシエラ号の砂糖菓子をガラスケースに入れながら、漆黒の髪を持つ青年に尋ねた。 彼は満面の笑みを浮かべている面々の中で、ただ1人、いつもと変わらない無愛想さのまま、ケーキの乗った皿を持っている。 シュリの砂糖菓子は、本人顔負けの無愛想さだ。 「あの姉弟は、とりあえず暫くは監獄の中ですね。今回の事件は、WROに取って代わる勢力を世に見せ付けて、同志を募ろうとしたものでしたから、迂闊に釈放するわけにはいきません。かと言って、処刑するには被害者全員を合わせても『軽症』しかしていませんから、無理ですしね」 「軽症…って…」 少し非難するような顔をしたリリーに、シュリは軽く肩を竦めた。 「本当のことですし」 ゆっくりと振り返った視線の先には、短髪・グレーの瞳を持つWROの若き中尉。 先ごろの事件で『重症』を負ったはずの青年。 グリートは悪戯っぽく笑みを浮かべると、 「はいはい、どうせ俺は『軽い奴』ですよ〜」 「リト…」 カラカラと笑った従兄弟にプライアデスが呆れた顔をする。 一同はそのなんでもないやり取りにまたも笑いを誘われた。 グリートの怪我は、本当に『重傷』だった。 だがまぁ、なんと言うか、彼は色々な意味で『ラッキー』だった。 レノが迅速に止血してくれたことも、ルードが栄養剤と化膿止めをくれたことも。 更には、銃弾が身体を貫通してくれたことも、すぐにシエラ号でWRO医療班に搬送されたことも。 全部がありえないくらいのラッキーさ。 ―『こんなラッキーな負傷者、初めてです』― 医療班の人間が、呆れたように目を丸くしたその姿は、リリーにとって特別な思い出として深く心に残っている。 そして。 その後、目を覚ましたグリートとのやり取りも。 グリートが目を覚ますまで、リリーは彼の傍にいた。 他の人間は、彼女を気遣って部屋の外にいたので、ここから先はグリートとリリーの2人だけしか知らない。 ―『グリートさん…!?大丈夫ですか?目、覚めたんですね!?』― ―『…あ〜…?なんで…ここは…って!大丈…!イテテテッ!!』― ―『ああぁああ、ダメですから!まだ起きたらダメです!』― ―『ウ〜…、イッテ〜……。クソッ、どうなったんだ?ここはどこだ!?』― ―『ここ…WROの医療施設で…、それで……、ヒック…』― ―『え!?なに、どうした、どっか痛いのか!?』― ―『違…、良かった…、グリートさん、目、覚ましてくれて…ほんと……よか……ック』― ―『ごめんな…。俺、もう少し強かったら…』― ―『何言ってるんですか!?グリートさんがあの時、助けてくれなかったら、私も両親も死んでました!!』― ―『あぁ…、ご両親も無事か…。良かった…』― ―『グリートさんのお陰です!シュリさんに聞きました。命令、無視してまで助けて下さったって…!』― ―『……中佐〜……なんで言うかなぁ…』― ―『本当に、本当にごめんなさい!』― ―『だから…良いんだって。リリーが無事ならそれで良い…』― ―『はい……って…!』― ―『ん?なに?』― ―『えっと……あの、今、私のこと…』― ―『ん…?あ…!?ご、ごごごごめん、つい』― ―『い、良いんです!謝らないで下さい』― ―『いやいや、女性を呼び捨てにするなんてどうかしてた…悪かった』― ―『良いんですよ、本当に!だって、グリートさんは私と両親の命の恩人なんですから!』― ―『……』― ―『あの、グリートさん…?』― ―『本当に、良いのか…?』― ―『はい、勿論です!』― ―『じゃあ…、……リト』― ―『へ…?』― ―『リリーのことを『リリー』って呼びたいから、リリーも俺のことは『グリートさん』じゃなくて『リト』って呼んで欲しい』― ―『 えぇ!? 』― ―『……ダメ?』― ―『う……』― ―『……(無言攻撃)』― ―『…あぁの……えっと…、じゃ、じゃあ……リト……さん』― ―『……』― ―『い、いきなり『リト』にするのは…ちょっと…無理ですぅ〜!』― ―『……ん、分かった。暫くはそれで我慢する』― ―『暫く…、我慢って…』― ―『これからよろしく、リリー』― ―『う!…。はい…、よろしくお願いします……リトさん』― ま、これから先、まだまだ時間はあるんだし、長期戦で頑張るさ。 そう思った青年がいたとかいなかったとか。 甘さを抑えたケーキを口に運びながら、グレーの瞳を細めてクルクルとカールをしている短髪の少女を見つめる。 彼女がその視線に気づいて真っ赤になるまで、あと5秒。 その5秒後を想像して、グリートは笑みを浮かべた。 さぁ、これから第2ラウンド開始。 今度の戦いも勝ってみせましょう? 何しろ、とんでもなく『ラッキーマン』らしいのだから。 * 数日後、ヒーリンにて。 「それにしても、本当に残念だったぞっと」(レノ) 「…そうだ。俺達の仕事が無い日にパーティーをしてもらいたかった…」(ルード) 「うわ〜!それにしても、この砂糖菓子、先輩たちそっくりですね!すごいです〜!」(イリーナ) 「わざわざヒーリン(ここ)までコレを届けてくれるとは…。クラウドも意外と義理難い…」(ツォン) 「ま、それは当然だなっと。あんだけ苦労したんだからよぉ」(レノ) 「……(無言で頷く)」(ルード) 「うへへ、それにしてもこれでクラウドには借りを作ってやったなぁ〜っと」(レノ) 「……?」(ルード) 「「 ……(また、よからぬことを…)」」(イリーナ&ツォン) 「これをネタにして、また暫くは楽しめそうだなぁっと〜♪」(レノ) 「……その時は、俺を巻き込まずに1人でやってくれ」(ルード) 「おいおい、俺達は同志!相棒だろう!?地獄の果てまで一緒だぞ〜っと」(レノ) 「迷惑だ!!」(ルード) 「「…(同感)」」(イリーナ&ツォン) 果たしてタークスのゴールデンコンビは解消するのか、はたまた、共に破滅の運命をたどるのか? それはまた、別の話。 あとがき とみぃ様! お待たせしてしまって本当にすいません。 素敵なリクエストはリクエスト一覧にて皆様ご覧下さいませ<(_ _)> 確かに、英雄とも知り合い、WRO隊員とも親しい、んでもって大財閥の子息や令嬢と親しいリリーは『鴨がねぎを背負って歩いている』どころか、『鴨が鍋セットを背負って歩いている』状態ですよね(笑) 本当に、とみぃ様、『鴨が鍋セット背負って歩いている』だなんて、ナイスネーミング(*^-゜)b これからもどうぞ面白いネタを提供してくださいませ〜(笑) |