英雄達のリーダー 1




「まったく……本当に困ったものです…」
 そう溜め息混じりに呟いて、WROの局長はティファの作ってくれたカクテルに口をつけた。
 酷く疲れてきっている仲間に、ティファは顔を曇らせた。
 賑やかな店内で、リーブの座っている二人掛けのテーブルだけ空気が澱んでいるようだ。

 営業時間中にWROの局長という忙しい地位にいる仲間がこうして突然訪れた事はなかった。
 それだけでもティファと子供達はびっくりしたのだが、彼の憔悴しきった様子に更に驚いた。

 子供達は気を利かせ、調理というティファしか出来ない作業以外は、率先して自分達が引き受け、なるべくリーブの傍にいられるよう配慮してくれている。
 ティファもリーブも改めて感謝の言葉を口にする事は無かったが、それでも胸のうちは子供達への感謝と賞賛で一杯だった。
 しかし…。
 残念ながら、今はとてもその言葉を口に出来るだけの余裕が無かった。

「リーブ……どうかしたの……?」
 料理を運んで来たついでを装ったティファが声を掛けたのをきっかけに、リーブはボソボソと悩みを打ち明けた。

「いえね…。平和になる……という事は精神的にも余裕が出来る…それは当たり前でよね……?」
「え……うん。まぁ、そりゃそうよね…」
「はぁ……」
「リーブ…?」

 リーブの言わんとしている事がイマイチ良く分からないが、ティファはとりあえず同意した。
 しかし、疲労感一杯の溜め息を吐いた仲間に眉を寄せる。
 リーブはティファの持ってきてくれた揚げ出し豆腐を一口食べると、「あぁ…美味しい…」とほんの少しホッとした様に呟き、再び本題に戻った。

「WROの隊員達もそうなんですよ。平和に慣れてきている。それ自体は自然な事ですし、まぁ目くじらを立てる必要は無いと思うのですが…」
「うん……」
「どうもこう……気持ちに余裕が出来ると、慢心する人間も増えるようで…」
「慢心……『驕る隊員』がいるっていうの?」
 ティファの脳裏に知り合いの隊員達の顔がフッとよぎる。
 彼らは非常に熱心で正義感が強く、そして他者に優しく自分に厳しい。
 中には何を考えているのかイマイチ分からない青年もいるが、それでもその彼ですら、己の職務に誇りを持って全身全霊を掛けて任務に就いている姿勢を痛いほど感じる。
 そんな彼ら…今は親友とも言える彼らと同じ立場にある隊員達が慢心している……というのはいささか聞き捨てならない話だ。
 リーブはティファの気持ちを正確に読み取ったのだろう。
 苦笑すると、「あぁ、バルト少佐やノーブル兄妹、それにシュリは良くやってくれていますよ。むしろ、彼らのような隊員ばかりだと私の心労も半分以下になるのですが……」と言った。
 リーブが親友達を評価してくれた事を誇らしく感じ、ティファはニッコリと笑った。
「そうでしょう?あの四人はWROにとって大きな財産だと思うわ」
「ええ、私も全く同感です。ですが……」
 言葉を切って、再び大きな溜め息を吐いた。
「その大きな財産を上回る程の欠点を持つ人間がいることも事実なんですよ…。それに、例の『二階級特進』についても不満の声がやはり出てきていますし…」
 ほとほと困りきった顔をして肩を落とす仲間に、ティファは顔を曇らせた。

 リーブは非常に我慢強く、人の欠点をあげつらう人間ではない。
 そのリーブがここまで頭を悩ませている隊員がいる。
 ティファは何とか力になりたいと思った。
 しかし、如何せん彼の仕事を手伝うには自分は圧倒的に力不足だ。
 戦闘に関する技術の指導なら出来るだろう。
 しかし、WRO隊員に求められているものはそれだけではない。
 多方面において知識と技術を求められる。
 そして、常に柔和な物腰。
 これは、世の人々に対して『神羅』のように驕った存在にならないよう、絶対条件として求められている。
 まあ、この一件に関しては同感だし、ティファや他の仲間達も恐らくそうなる危険性は低いだろう。
 だがしかし…。
 自分が持っている知識と言えば。
 アバランチの頃にジェシーから教わった簡単な爆弾の仕掛けと格闘術。
 それだけではWRO局長の力にはなれないだろう…。
 しかしそれでも…。

「リーブ……もしも私に出来る事があるなら言って頂戴。出来るだけ力になるわ」

 そう言わずにはいられない。
 リーブはティファの言葉に力なく……それでも優しい笑顔を浮かべて礼を言った。
 そして、ティファ特製の揚げ出し豆腐が冷めない内に…と、少し慌てて箸を動かすのだった…
 その姿がひどく小さく見える。
 ティファの胸は、それだけで締め付けられてしまうのだった。



 結局、リーブは具体的な話をする事無く『ご馳走様でした。ティファさんの顔を見て料理を食べたら元気が出ました』と笑顔を残して帰ってしまった。
 クラウドが帰宅するのを待っているようにも見られたが、店内の壁時計に視線を走らせ、断念したのだ。
 ティファは何度もポケットにある携帯に手を伸ばしかけたが、結局やめた。
 遅くまで頑張っているクラウドに、今すぐ帰って来い…という程の差し迫った問題でもないだろう。
 リーブには悪いが、リーブの抱えている問題はやはりリーブからSOSを出されない限り、あまり口を挟まない方が良いだろうし、何よりもこんな時間にクラウドへ電話をしたら彼がどれ程驚くかが目に見えていた。

『リーブの話は、クラウドが帰ってからでも出来るわよね』

 ティファは申し訳なく思いつつ、店の外までリーブを見送った。
 仲間の背中が宵闇の中、消えていく。
 その様があまりにも疲れ、小さく見えて…。
 ティファは心配で胸がモヤモヤしながら見送るしかなかったのだった。



 深夜。
 子供達が既に夢の中の住人となり、店の後片付けが終った頃。
 漸くクラウドが帰宅した。
 疲れた身体をのっそりと裏口から覗かせたクラウドに、ティファは一瞬リーブの件を話すべきかどうか迷った。
 しかし…。

「ただいま…ティファ」

 緩やかに笑みを湛えて自分をそっと抱き寄せてくれるクラウドに、ティファも腕を回し、彼の胸に頬を寄せながらリーブの話を打ち明ける事に決めたのだった。




「…というわけなの…」
 シャワーを浴びて金色に輝く髪を湿らせたまま、店内に下りてきたクラウドに夜食を出しながら、ティファはリーブの疲れ切った様子から語ってくれた悩みまで、全てをクラウドに話して聞かせた。
 クラウドは時折相槌を打ったり、眉を顰めたりしながらも話の腰を折る事無く最後まで静かに耳を傾けた。
 ティファの話しが終わり、深夜の店内に静寂が訪れる。
 クラウドは手の中のグラスに満たされている琥珀色のお酒を見つめながら、暫く何というべきか言葉を探しているようだった。

「リーブは…色々抱え込み過ぎるな…」

 ポツリと呟かれたその言葉があまりにも小さくて、独り言の様にすら感じられる。
 しかし、ティファは「そうよね」と返事を返し、自分用にもお酒を注いでクラウドの隣のスツールに腰掛けた。

「結局は局長としてリーブが何とかしないといけないんだとは思うの。でも、やっぱり私達にも何か手伝える事があるなら……やっぱり助けたいし…」
 手の平の中のグラスの氷が、カラン…と軽い音を立てる。
 クラウドはただ黙って小さく頷いた。
 彼自身が自分と同じ意見だと知って、ティファは少し気持ちが軽くなるのを感じた。
 それと同時に、やはり自分達に何か出来ないか…と真剣に思案し始める。
 彼自身が現在抱えている問題はそれこそ山のようにある。
 今日、店で愚痴をこぼした『慢心した隊員』というのは、問題の一つに過ぎない。
 だがしかし、その一つの問題だけでも解決出来たら、彼の負担が少しは軽くなるだろう…。

「でも……。『慢心した人間」をどうやって諌め(いさめ)たら良いのかしら…」

 ポツンと独り言のように呟いたその言葉に、
「ああ…それならその『慢心した隊員』を凹ませれば良いんだけじゃないのか?」
 意外にも応えが帰ってきた。
「『凹ませる』って……どうやって……?」
 独り言のはずが、こうしてしっかりと応えてくれた事に喜びを感じつつ、それを表に出さないように頬を引き締めながらティファは隣に座っている元リーダーへ視線を投げた。
 視線の先では、意外にも不思議そうな顔をして元リーダーが自分を見つめていた。
 まるで、『なんで分からないんだろう…?』と言っている様だ。
 ティファは何となくムッとして軽く眉根を寄せた。
 その彼女の表情にクラウドは紺碧の瞳を軽く見開き、次いで肩を揺すって笑い出した。

「もう!なによ〜!!」
「いや…ックック……なんでも……ック……」
「『ない』だなんて言わないでよ!『なんでもある』からそんなに笑ってるんでしょう!?」
 プックリと頬を膨らませてクラウドの言葉尻を捉まえたティファに、クラウドは笑いを引っ込めるどころかますます可笑しそうに笑い声を上げた。
「ほんっとうに…失礼しちゃうんだから!」
 頬を赤くし、照れ隠しに怒る彼女がスツールから立ち上がる。
 背をクルリと向けてその場を離れようとする一瞬早く、クラウドは彼女のウエストに腕を巻きつけるとあっという間に抱き寄せた。
 そして、びっくりして怒っている事も忘れ、硬直するティファの肩口に額を押し付ける。
「ホントに……ティファは面白いな」
「も、もう……なによぉ…!」
 突然の彼の行動に心臓がフル活動する。
 バクバクと激しく打ち付ける鼓動に、声が震えて上手く怒れない。
 クラウドはクスッと最後に笑うと、
「悪い意味じゃない。褒めてるんだ」
 そう優しく囁くように言うと、首筋まで真っ赤に染まったティファの身体をくるりと反転させ、正面から向き合った。
 至近距離で見つめ合う形になり、ティファは落ち着き無く視線を彷徨わせた。
 いつまで経っても慣れることが無い彼女の仕草に、クラウドはいつになく余裕を見せている。
 そんな彼を内心で悔しく感じながらも、やっぱり視線を合わせられない。

『もう……なんで今夜はこんなに余裕なのよぉ…!ずるいじゃない!!』
 いつもなら自分と同じくらい照れ屋なのに…。

 ティファの心の声が聞えたのか…。
 クラウドはニヤリと悪戯っぽく微笑むと、
「今夜のティファは余裕が無いから、俺に余裕が出来ただけだ」
 そう言って、ティファの額にキスを一つ贈った。
 たったそれだけの事で、激しく打ち付けていた鼓動が一瞬止まる。
 そして、クラリ…と視界がわずかに揺れた。

 クタッ…と力の抜けた彼女を、クラウドは少しびっくりしながらもどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、軽々自分の膝の上に横抱きにする。

「ク、クラウド〜〜……!!」
「ハハ…たまには良いな、こういうティファも」

 心底満足したように優しく頬を緩める金髪の青年に…。
 ティファは真っ赤な顔で睨もうとして…。
 無駄な努力をあっさりと放棄した。
 どう考えても、今の自分は完全に彼に負けているのだから…。

 それに。

「たまには……ね…」

 ティファ自身、たまには……本当にたまにはこうして彼に甘える事も悪くない……。
 というよりもむしろ、幸せだと感じてるのだから…。


「それで、その慢心した隊員を凹ませる方法だけどな…」
 ホンの少し、お互いのぬくもりに幸せを感じてから、クラウドは唐突に話を戻した。
 ティファはうっかり忘れていた本題に「あ、そうそう」と意識を引き戻す。
「その慢心した隊員をコテンパンに伸したら(のしたら)良いだけじゃないのか?」
「………誰が…?」
「ま、それは誰でも良いとは思うけど、やっぱりそれは局長であるリーブだろうな」
 クラウドの言葉に、ティファは「う〜〜……」と軽く唸った。
 首を捻って思案気な顔をする彼女に、クラウドは不思議そうに見やった。
「そんなに難しい事じゃないだろう?リーブだって格闘術…とまではいかなくても、それなりに武器は操れるし、なんならケットシーを使うというのも手だろうしな」
「うん……まぁ、そうだとは思うけど…」
 なんとなく煮え切らないティファの口調に、クラウドはますます不思議そうに見つめた。
「なにか問題があるのか?」
「う…ん……。問題って言うか……。そもそもどういった名目で『局長自ら』がコテンパンに慢心した隊員達と手合わせをするわけ?」
 難しい顔で見つめ返してくるティファに、クラウドは軽く肩を竦めた。
「そんなものは適当で良いと思うが…。例えば『訓練の一環』とか『実戦経験者からの伝授』とか…」
「そうね。……でも……」
「???」
「ほら。ライ君達が特例で二階級特進したでしょう?あの件でもわだかまりが出来てるみたいなの。それも一緒に解決出来たら一番良いと思うんだけど…」
 ティファが何に悩んでいるのか漸く理解したクラウドは、それでもやはり至極簡単だ……と言わんばかりの表情を崩さなかった。
「それなら、リーブがその『問題児』を相手にした後でライ達とも手合わせしたら良いだけじゃないのか?」
「…う……それって……かなりリーブに負担がかかるわよ…?」
「そうか…?」
「うん……多分…」
 ティファの控えめな発言に、クラウドは暫し考えた。

 確かに、二年半前の旅では彼本人が旅をしていたわけではない。
 遠いミッドガルからケットシーを操って参戦していたわけだ。
 勿論、彼自身も戦闘に関しては玄人であるし、並みの隊員達では太刀打ち出来ないだろう。
 しかし、二連戦……ともなれば厳しいかもしれない。
 もしも、部下の前で無様に負けるようなことになったら……目も当てられなし。
 それに、なまじ勝ったとしても…。

 ― 局長相手に本気なんか出せない ―
 ― 英雄なんだから負けたとしても恥ずかしくない ―

 等々思われてしまう可能性が高い。

 ティファの言わんとしている心配を察し、クラウドは唸った。


 確かに…。
 考えてみると中々厳しいかもしれない…。


「クラウド…」
 考え込んでいる時に、何かを決意したかのように声をかけてきたティファに、クラウドはピンと来るものを感じ取った。
 そして瞬時に「却下!」と断言する。
「まだ何も言ってないわよ!?」
「聞かなくても何を言おうとしているか何となく分かった…」
 唇を尖らせる愛しい人に向かって、溜め息混じりにそう言うと、案の定ティファは「う…」と言葉に詰まって俯いた。
「ティファ……」
 溜め息混じりに彼女の名を呼び、そっぽを向いて頬を赤く染めるティファを少し強く抱き寄せる。
「あのな…。ティファが『問題児』と『ライ達』を相手に模擬戦闘なんかしても、絶対に効果は無い。むしろ『女相手に手は出せない』とか『ジェノバ戦役の英雄相手だから負けても仕方ない』とか開き直られるのがオチだと思わないか?」
「でも!だったらこのままリーブが悩んでいるのを黙ってろって言うの?!
 キッと睨みつけるティファに、クラウドは苦笑した。
「いや…なにもそこまでは言ってないが…。リーブ自身からSOSが出たらすぐにでも駆けつける。でも、リーブからは何も言ってきてないんだろう?」
 クラウドの的を射た言葉に、ティファは黙り込んだ。
 そんなティファの髪に頬を寄せ、クラウドは更に言葉を続ける。
「リーブから何も言ってこないうちに俺達のほうから動いたら逆に良くないだろう。なにしろ、『局長』という地位にあるわけだからな。部下を統率する能力の無い『局長』だなんて、世の中は認めないさ」
「………うん…」
 正論を前にとうとうティファは何も言えなくなってしまった。
 しかし、何も言えなくなったからといって不満であるとか、恥ずかしいとか…そう言った気持ちに支配されているわけではない。
 むしろ、こうして冷静に物事を考えつつ、仲間を思いやる気持ちがいささかも失われていないかつての『リーダー』に嬉しさがこみ上げる。

「はぁ…結局リーブ自身から何か言ってくるまでは何もしてあげられない…ってことね」

 改めてガッカリしたように溜め息を吐き、自分を抱きしめてくれている人の肩に頭をコテンと乗せ、ティファは目を閉じた。
 クラウドの腕に少し力が入る。
 自分を包んでくれるあったかい時間。
 ティファは、暗く憔悴した仲間の顔を思い出しながらも、こんなに幸せな時を過ごしている事に僅かな罪悪感を覚えたのだった。

 …と。

 店内でリーブが時計を気にしていた様子がフッと脳裏をよぎった。
 クラウドの帰りを待っているように見えた仲間の姿。

「あのね、クラウド」
「ん?」

 身体をほんの少し離し、紺碧の瞳を見つめる。
 吸い込まれそうな瞳に思わず見とれそうになりながら、誘惑を振り払うよう口を開く。

「リーブ……、クラウドが帰ってくるのを待ってたみたいだったの」
「…俺を?」
「うん。かなり長い時間お店にいたから…。ごめんね、言うの忘れてたわ」
「そうか…。いや、別に謝られるほどの事じゃないさ」
 バツの悪そうな顔をするティファに頬を緩めつつ、首を捻る。
「俺に……なにか用事でもあるのか?」
「うん…。もしかしたら、さっき私が言おうとしてた事をクラウドにお願いするつもりなのかしら」
「……?」
 キョトンとする青年に、ジリジリしたものを感じつつ「だから、私が『問題児』と手合わせするっていう案のことよ!」と説明すると、
「ああ、その事か」
 軽く目を見開いたその表情に、本当に分かっていなかったのだ……と逆に驚いた。
 鋭いかと思えば意外と鈍い。

 そのギャップがまた………面白くて………愛おしい。

 だがまぁ…。
 そんな事を正直に伝えられるほど余裕はないし。
 なにより。

『なんとなく悔しいじゃない…。私ばっかりドキドキしてるみたいで…』

 そんなどこか子供っぽい理由から、ティファは決して今感じた事を口になんかしてやらない、と強く決めたのだった。

 当然、彼女の固い決意など知るはずも無いクラウドは、僅かに眉を寄せている。
「しかし…。俺が『問題児』と手合わせしたとしても、多分『元・英雄が相手なんだから負けても仕方ない』とか言って、結局は認めないんじゃないのか…?勿論、リーブが頼んできたら断るつもりはないが…」
 そう言った後で何やら思案顔になり、口の中でブツブツと一人言を呟く。
 何を考えているのか気になったが、結論が出たら真っ先に聞かせてくれることを疑っていないティファは、そっとクラウドの膝から下りようと身を捩った。

 今の今まで横抱きされていた事実に、何となく気恥ずかしくなってくる。

 ティファが膝の上から下りようとした事で、クラウドの意識が現実に引き戻された。
 そして、何となく面白くなさそうに軽く額にシワを寄せる。
 そんな青年に、ティファは頬を赤くさせながら「もうこんな時間なんだもの、後片付けしないと」と早口で告げ、さっさと立ち上がった。
 今度は引き止められる事無くカウンターの中にすんなり入る。
 クラウドの夜食が乗っていた皿とグラスを手際よく洗いながら、そっとスツールに座って再び思案顔になっているクラウドを盗み見る。

 片手で頬杖をつき、ジッと一点を見つめているその表情は、二年半前の旅によく目にした若きリーダーの姿。

 過酷な旅の最中でも、彼のその姿に仲間達が信頼を寄せ、安心出来ていた事を彼は知ってるだろうか……?
 懐かしく思いながら何かを一心に考えているクラウドを見つめる。

「ティファ」
「ん?」
 一点を見つめているその視線を外す事無く、呼びかけてきたリーダーにティファはちょこんと軽く首を捻る。
「そんなに見つめられてたら穴が開きそうだ…」
「なっ!」

 ボンッ!!

 一瞬で顔から火が出るように真っ赤になる。
 あわあわと口をパクパクさせる彼女は気付いていない。

 青年の頬が、ほんのり赤く染まっていた事に。

 そして、結局そのままクラウドが照れていることを知ることなく……。
「話は元に戻すけどな…」
 そうクラウドに主導権を握られてしまったティファは、真っ赤な顔のままでクラウドに流れを持っていかれた。
「え……、あ、うん」
 赤い顔でオロオロしている彼女に、再び余裕を持つことが出来たクラウドは、何事も無かったかのように話を続ける。

 内心……。
 かなりホッとした事は絶対に内緒だ…。

「ライ達が二階級特進したことに対して不平不満が出るのはリーブ自身も予想していたと思う。それなのに二階級特進した隊員達に不平不満が出てきて頭を悩ませてる…ってことは、リーブが予想していた事態を上塗りした状態……ってことだよな?」
「あ……うん。多分そうだと思う」
「…ってことはだ。『慢心した問題児』と『二階級特進した隊員達』を『模擬戦闘』で手合わせさせたら良いんじゃないのか?」
「あ…そっか」
 クラウドの発案に、ティファはポン…と手を叩いた。
「でも…」
「???」
 自分の提案なのに、即『否定形』の言葉を口にしたクラウドに、ティファは今夜何度目になるのか…。
 首を傾げる。
「今の案はリーブも当然考えただろう。でもそれをしない…ってことは『出来ない何か』があるって事だと思う」
「……あ〜……そっか…」
「まぁ、明日電話をしてみるさ。もしかしたら、何か相談してきてくれるかもしれないだろ?」
「うん……そうだね」

 あからさまにガッカリして肩を落としたティファに、クラウドは苦笑した。

 ここまで仲間の為に一喜一憂出来る彼女が本当に……愛おしい。
 ゆっくり立ち上がるとカウンターの中にいるティファを迎えるようにそっと片手を差し出す。
「………」
 差し出されたその手を見つめながら、ティファは頬を赤く染め……。
 次いで嬉しそうにゆるりと笑みを浮かべ、自分の手を重ねた。

 手から伝わるそのぬくもりに。
 絡まる視線に。

 心からの幸せを感じながら二人はそっと店内を後にした。


 照明の落とされたセブンスヘブンには、ほんのりとあったかい空気が残されていた。


 しかし。
 そのあったかい空気がぶち壊される出来事が起こったのは。
 翌日の夜。
 セブンスヘブンが開店してから間もなくの事だった。



 あとがき

 はい、大変お待たせしました。
 85000番キリリクのお話しです。
 しかも……『前編』です……(汗)。
 T・J・シン様、リクエスト通りの仕上がりにするべく頑張りますので、もう少々お待ち下さいませ〜(土下座)。