「はい…!?」 「……すいませんが、もう1度言って下さい」 2人の反応はティファの予想を裏切らなかった。 Fairy tail of The World 〜 ワンステップ(後編) 〜その場の空気が凍りついたのはほんの一瞬だった。 「あ、あ、あの……」 ブルブルと怒りに震えなら地の底から這い出すようなおどろおどろしい空気を惜しみなく発散させるラナに、ティファとシュリは本能的にサッと椅子から飛びのいた。 「あんのバカ兄貴がーーーー!!!!」 ベキミシドゴッ!!! とてもじゃないが、大財閥のご令嬢とは思えない暴言&腕力ぶり。 ティファは店のテーブルが1つ破壊されてしまったことにはちっとも腹は立っていなかった。 だが頭の中は、 (どうやって明日までにテーブルを調達したら良いのかしら…) などと、しっかり経営者仕様となっている。 結婚しようが出産しようが、セブンスヘブンの店長はティファなのだから。 「それでグリート・ノーブル少佐は俺を恨んでるんですね」 素晴らしく機敏な動作で難を逃れたシュリは、何事も無かったかのように奇跡的にもテーブルの巻き添えにならなかった椅子に座り直した。 ティファもそれに釣られるようにして腰を下ろす。 ラナだけはまだ頭の中が怒りと混乱でごちゃごちゃになっているようだ。 しきりに「あのバカ兄貴…、どうしてくれよう…」とブツブツ呟いている。 はっきり言って、かなり不気味……いや、不気味を通り越しておぞましいものすら感じられる。 ……恐ろしい光景だ。 と、ここでティファは思った。 シュリはティファを見ている。 と言うか、ティファしか見ていない。 仮にも自分の想い人が傍で挙動不審状態になっているのに何もフォローをするとか、宥めるとか、そういうことを一切しない。 むしろ、そんなラナに全く関心が無いかのような振る舞い振り。 ティファの中で不安がむくむくと膨れ上がった。 「ねぇ…シュリ君」 「はい」 「あの……気にならないの?」 「気になったのでこうしてやって来たんですが?」 「いや、そうじゃなくて…」 「はい?」 「あの…」 「はい」 「………」 「…ティファさん、どうかしましたか?」 「………」 ティファは盛大に溜め息をついた。 そりゃ、シュリに一般的な反応を求めても無駄だと分かっている。 分かっているが、それにしてもこう…、もっと他に何かあるだろうに…。 本気でティファの言っていることが分からないのか、それとも分からないフリをしているのかそれこそティファには分からない。 分からないが、シュリがティファの求めている反応を示すことも、言葉をくれるであろう可能性もないことだけは分かった。 ティファは脱力したように椅子の背もたれに背を預けた。 そしてそのまま、自分をジッと見つめる青年から視線を外して、いまだに怒り冷めやらぬ女性を見る。 いつもは凛として美しいのに、今はすっかり様変わりしてしまっているラナ・ノーブル。 ティファは脱力しつつ彼女に声をかけた。 怒り心頭とは言え、恩人でもあり、憧れの人でもあるティファの呼びかけにラナは何とか般若の形相を引っ込めた。 そしてハッとしたかと思うと、ガバリッ!と頭を下げた。 「ほ、本当に申し訳ありません。兄ばかりでなく私までもご迷惑を!!」 無残にも破壊されたテーブルに理性が戻ったらしい。 ティファは思わず苦笑した。 ヒラヒラと手を振って気にしないように言いつつ、尚も頭を上げないラナに思い切った言葉をぶつけてみた。 「ねぇ、どうして今回、リト君はこんなことを言い出したと思うの?」 ビシリッ。 音を立て、頭を下げた状態でラナが固まった。 一方、シュリは無表情のまま平然と座ったままの姿勢を崩さない。 完璧な無表情の下で、彼が何を考えているのか推し量るのは至難のわざだ。 「シュリ君はどう思ってるの?」 「どう…ですか?」 「『別に』とかはなしよ」 「……」 先手を打って言葉をさえぎる。 シュリは、まさにティファに封じられた台詞を口にしようとしたのだろう、中途半端に口を開け、そのまま押し黙った。 そして、とっくりとティファを見た。 ティファの『ごまかしはなし!』という強い意志の宿った目を見た。 スッと黒曜石の瞳が細められる。 「そうですね、彼にとって俺は大事な妹をたぶらかそうとしている不届き者なんでしょうね、一部分では」 最後の『一部分では』と言う言葉がなければティファは猛然と反対した。 だが、シュリの巧妙な最後の一言で乗り出しかけた身体を椅子に戻した。 逆に、隣で固まっていたラナが勢い良く頭を上げ、ギョッとしたようにシュリを見た。 その顔には不安が色濃く浮かんでいる。 彼女にとって、シュリの今の一言は『拒絶』に聞こえたのかもしれない…。 シュリはラナを見なかった。 ティファを見たまま、無表情のまま言葉を続けた。 「『不届き者』『甲斐性なし』『何を考えているのか分からない男』『変人』『付き合いづらいが出世街道まっしぐら、将来エリート確実な働く冷たいマネキン』」 自分のことを言っているとは思えないほど、淡々と語る。 最後の『働く冷たいマネキン』で、ティファは吹き出した。 「自分のことをそこまで言う?」 「事実ですから」 「ふぅん、『甲斐性なし』とか自覚あるわけ?」 「……一応は…」 なにやら憮然とした口調で認めたシュリに、ティファはまた笑った。 ラナはまだわけが分からないのだろう、不安そうな顔は変わらない。 何か言いたそうに…、いや、聞きたそうな目でシュリを見つめ、口を開きかけては閉じている。 ティファは微笑んだ。 ラナの聞きたくて、聞けないことはもう分かっている。 まるで、一昔前の自分のようだ…。 そう思うと、ムクムクと悪戯心が沸いて来た。 にんまり笑うと、真っ直ぐ自分を見つめるばかりでラナを見ようとしないシュリに向かって……。 「ぶっちゃけどうなの、ラナさんのこと、アイシテルの?」 自称、働く冷たいマネキン、何を考えているのか分からない男、変人等々は、文字通りガチガチに固まった。 隣ではラナがティファのあまりの言葉に完全に真っ白になっている。 口から魂魄が半分はみだしているのが見えるのは……気のせいだろうか? 背後からドドドド……、と階段を滑り落ちる音がしたがティファは振り向かなかった。 デンゼル、マリン、シェルクが盗み聞きをしていたことにはとっくに気づいていたので、3人が自分の質問に対して驚愕のあまり、階段を踏み外しても不思議ではなかった。 完全に階段下まで転がり落ちた気配はしなかったので、恐らくシェルクが2人を上手く庇ってくれたのだろう…。 シュリも3人の盗み聞きには気づいていたはずだ。 気配を読むことに長けているのだから、気づかないはずが無い。 それでもティファとこうして会話を続けた。 それは、子供達に話を聞かれても大丈夫、と言うことに他ならない。 ラナは…、頭の中がいっぱいいっぱいだったので気づいてなかっただろう しかも、今、物音がしたというのに全くそちらに気づいている素振りがない。 ひたすら真っ白になって呆然としている。 ティファは大笑いしたいのを必死に堪えると、ますますニンマリと笑った。 2人の反応が可愛すぎる。 まさに、一昔前の自分とクラウドのようだ。 恋愛のことを仲間や他人に突っ込まれるたびに真っ赤になって頭の中が真っ白になった自分と、無表情のままガチガチに固まったクラウドと…。 そんな自分達が、色々なものを乗り越え、結ばれて子供を授かって、今、こうして幸福のうちに過ごしている。 それはなんと素晴らしい奇跡の数々がもたらせてくれた幸福な人生だろう。 そして間違いなく、その奇跡達の1つに、シュリも含まれている。 前世の記憶を持ち、ひたすらプライアデスとアイリを捜し、今度こそ人として幸せな人生を送れるよう、それだけを願ったシュリの存在。 今度は、自分達がシュリの幸せの後押しとならなくてどうする? 「シュリ君、アナタが恋愛をどうやって育てていったら良いのか分からない気持ち、よく分かるわ。でも、分からないなりにも実行していかないと、ラナさんはいつまでも今のままよ?」 ちょっとお姉さんぶってそう言ってみる。 シュリは眉をピクリ…と不快そうに動かした。 そして、ガチガチになっていた体から『緊張』とか『驚愕』とか、そう言ったものを全部吐き出すかのように深い深い溜め息を吐き出した。 文字通り、全身から吐き出すように上体を屈める。 そして…。 「……言われなくても分かってますよ……」 頭を上げたシュリの顔は、痛いところを突かれて不貞腐れてるその表情の下に、青年らしい照れ臭さがにじみ出ていた。 ティファはとうとう堪えきれずに大爆笑した。 * 「……見たかった…」 帰宅してティファから昼間の話を聞いたクラウドは、心底悔しそうに呟いた。 思い出し笑いを止められないティファを心底羨ましそうに見る。 「本当に見せてあげたかったわ。すごく可愛かったの、2人とも」 「ラナさんよりもシュリの方が可愛かったんじゃないのか?」 「そうね、シュリ君のあの顔は反則みたいなものだったから、そう言われればそうかも」 「……隠し撮り……はしてないな……」 ティファがもしかしたら隠し撮りをゲットしているかも、という淡い期待をクラウドは言いかけながらあっさり却下した。 そんな余裕がティファにあったとは思えないし、何より隠し撮りが得意な英雄はティファではなく、ウータイのお元気娘だ。 「それにしても…、奥手、奥手と思っていたが、まさか……『手を繋いだことが1回あるだけ』だとは思わなかった……」 はぁ…。 ティファの報告で一番驚いたのはシュリの青年らしい照れ隠しの表情。 そして一番呆れたのはシュリとラナの進展具合が全くなく、むしろこう着状態にあることだった。 レッシュとエアルのお披露目の日に2人して手を繋いでやって来た。 あの時は『はぐれたらいけないから…』とかそういうことを言いつつ、慌ててパッと離していたが、まさかあの時1回きりだったとは思いもしなかった。 いや…、心のどこかで『まさかなぁ…、そんなことはないよなぁ…』と一抹の不安がよぎったことがある。 しかし、シュリもラナもいい大人だ、そんな子供のような恋愛をしているはずがないと、バカバカしい不安を自身で笑い飛ばした。 だがその不安がまさか的中してくれるとは…。 「あれから1年くらい経ってるのにまだそんな状態だとは…」 「うん、私もビックリした」 その時のことを思い出して、ティファはまた吹き出した。 ―『えぇえ!?!?レッシュとエアルのお披露目の時に手を繋いだだけ!?本当にそれだけなの!?!?』― ティファのその大声に、ラナは真っ赤になって泣き出しそうな顔をした。 シュリはと言うと、ほんっとうに珍しく!彼にしてはありえないほどの狼狽振りで、 「あの、お願いですからそんな大声を…」 と腰を上げた。 そこへ飛び込んできたのは…。 「うそだろーー!?」「シュリお兄ちゃん、本当なのそれ!?!?」「…シュリ、それはあまりにも最低です、ヘタレにもほどがあります」 三者三様の表情と表現で驚愕を表しているデンゼル、マリン、シェルクだった。 もう既に盗み聞きする気はないらしい。 むしろ、不甲斐なさ過ぎる青年を詰るかのような、そんな雰囲気さえ醸し出していた。 いやいや、詰るというよりは…。 「「ラナ(お)姉ちゃんがかわいそう!!」」「ラナのこと、好きじゃないんですか?」 ラナを心の底から思う気持ちで溢れている。 シュリは狼狽しながらクセのある髪に片手を突っ込み、ティファ、子供達、そして最後にラナへと視線を走らせた。 そうしてラナが真っ赤になって、目に涙を溜めたまま俯いている姿にギョッとする。 何か言おうとして、手を伸ばして…。 ティファ達の食い入るような視線に気づいて手を引っ込めた。 床へ視線を落とし、何度か引っ込めた手を握ったり開いたりしている姿は、ティファには何かを必死に決意しようと足掻いているように見えた。 しかし、まだまだ人生経験の足りない子供達にはその姿は物足りなかったらしい。 「シュリ兄ちゃん、しっかりしろよ、男だろ!?」 「シュリお兄ちゃん、ラナお姉ちゃんが可哀相だよ!」 「……シュリ、今のままだとアイリが言ったように、そのうちどこかの馬の骨にラナを掻っ攫われますよ」 ダメ出しのようなシェルクの言葉。 その言葉が終わるか否か…、シュリは拳を握ってクッ…と顔を上げた。 真っ直ぐラナへと手を伸ばし、あっという間もなくその細い腰へと腕を回した。 「すいません、お騒がせしましたがこれで失礼します。壊してしまったテーブルは早急に別の物を送りますのでご容赦を」 勢い良く頭を下げ、ビックリして目を丸くしたままのラナを片腕で抱きかかえるようにして足早にセブンスヘブンを後にした…。 ティファはその時のことを思い出してまた笑った。 クラウドは不機嫌そうにスコッチのグラスを呷った。 まったくもって不公平だ…と思う。 グリートに鼻先まで迫られたのは自分なのに、ティファはあっさりと幸運を手にして貴重な場面を残らず堪能した。 …まったくもって不公平極まりない。 ティファにシュリ達の真相を確かめてもらえるようお願いはしたが、いざと言う時は一緒にその場に居合わせる心積もりだった。 その決心を固めるのに少々時間を食ったが、折角腹に力を入れて『よし!やってやる!』と意気込んだというのに…。 「肩透かしを食らった挙句、小バカにされた気分だ…」 不貞腐れてボソリ、と呟いた夫にティファはクスクスと笑い声を洩らした。 そっと手を伸ばして夫の頬に触れようとする。 しかし、本気で不貞腐れモードに入っていたクラウドは、妻の繊手をフイッと避けた。 子供っぽい不貞腐れかたをしたクラウドに目を丸くしたが、ティファはそれでもやっぱり微笑まずにはいられなかった。 避けた頬を追ってフニ…と頬をつまむ。 「……やめろ…」 「ふふ、いやよ」 「………」 「ふふ、クラウド可愛い」 「……嬉しくないね…」 「そう?」 「………」 「クラウド」 「………」 手を払いのける、ということまではしなかったが、それでも嫌そうな顔をしてだんまりを決め込んだクラウドにティファは胸をポカポカ、キュン、とさせた。 そのまま、幸せな気持ちを舌に乗せる。 「愛してるわ」 ぐ…。 黙ったままのクラウドが、グーの音も出ないような情けない顔をした。 そして、ゆっくりと視線だけを寄越す。 「……卑怯だぞ、ティファ」 「ふふ、本当のことだもん」 「……本当に卑怯だ…」 「クラウドは?」 頬をつまんでいた手を離し、逆に顔を寄せる。 悪戯っぽく微笑んで顔を覗き込むと、魔晄の瞳が深い色を湛え、躊躇い勝ちに見つめ返した。 「知ってるだろ…」 「ふふ、知ってるけど聞きたいの」 「………」 「ダメ?」 「……はぁ〜〜……」 盛大な溜め息。 紺碧の瞳が伏せられたのは一瞬。 再びその双眸がティファを見つめた時は、躊躇いの色はカケラもなかった。 「愛してる」 堪えきれなくなったと言わんばかりにクラウドの口角が笑みを模った。 そのまま2人して微笑みあって、自然と口付けを交わした。 甘い口付けに流されるようにそっと抱きしめあう。 互いの温もりと香りに至福を感じる。 と…。 「……結局、シュリ達はどうなったんだろうなぁ…」 「……そうね、少なくとも少しくらいは進展のきっかけになったんじゃないかしら…」 「……それにしても…」 「うん?」 「……絶対、今回のこと、リトの策略だよな…」 「……そう……かしら……」 「そう思わないか?」 「………思う…」 抱きしめあったままちょっと身体を離して揃ってガックリと肩を落とした。 でも結局、また可笑しくなって笑いあって…。 幸せを噛み締めるセブンスヘブンの夫婦を、夜の帳が優しく包み込んだ。 * 「あなた、誰からの電話だったの…?って言うか、どうしてそんな上機嫌なの?」 「ん?聞きたいかリリー」 「(聞いて欲しいのね)…うん、聞きたい」 「ふっふっふ。実は今日、ラナがシュリ大佐とデートをしたという報告があったんだ」 「え!?本当に!?!?」 「おう!」 「それはおめでたいわ!!すぐにお祝いしなくっちゃ!でも…誰からの報告なの?普通の探偵さんとかだったら、シュリさんに気づかれて終わりだと思うんだけど…」 「それは心配ない。だって、報告くれたの、ライだから」 「まぁ!じゃあ絶対に確実ね!!」 「そうなんだよぉ!もう嬉しくて嬉しくて!!もうず〜〜〜っとヤキモキしたからなぁ、あの2人。デートは皆無、恋人らしい空気は微塵も無い。いや、ラナは少しくらいはそういう甘いもんを醸し出してる時もあるんだけど、大佐の方はからっきしだったからなぁ。このままズルズル年重ねていくんじゃないかとめっちゃ焦っちまったよ」 「それにしても、どうして急に進展したのかしら…?」 「あ〜、それは俺がちょこっと芝居をしてみたんだよな。中々の演技だったと思うぜ?何しろ、ジェノバ戦役の英雄とWRO最年少の大佐を見事巻き込んだんだから」 「まぁ!あなた、本当に凄いわ!!」 「だろだろ?はっはっは、もっと褒めてくれて構わないぞ」 「ふふ、ほんとに良かった。このまま順調にいってくれたら良いわね」 「ワンステップ出来たんだから、きっと順調だって。ライも『奥手過ぎるけど、これでシュリも恋愛ごと云々に関心を持ってくれただろうから、大丈夫さ』って言ってたし」 「そう。でも、どういうデートだったのかしらね」 「オープンカフェでお茶して、ショッピングして、レストランでディナーして、帰りは女子寮まで送ってくれたらしい。しかもその間、ちゃんと手を握ってたっていうからな、たいした進歩だ!」 「ほ、本当に!?よ、よ…良かった……本当に良かった……」 「うぉう!泣くなリリー。その涙はあと数ヵ月後にとっておけ!」 「ヒック……どうして数ヶ月後…?」 「俺の予定では数ヶ月後に正式な申し込みがあって、年内に式を挙げるだから」 「ほ、本当に!?そ、そうなったら……そうなったら…!」 「というわけで、今からバッチリウェディングプランナーを探して、色々と準備をしておかなくては!!」 「わ、私も手伝う、頑張るわ!」 「おう!頼もしいな、流石俺の奥様だ!」 こ〜んなやり取りがノーブル家の長男の新居で行われているとは知らず、初々しくもようやっと恋人として一歩踏み出した2人。 それから数ヵ月後、本当にグリート・ノーブルの予言どおりになったのかどうかは…まだ未定。 ―『…裏切り者…』― ―『なに言ってるんだよ。ラナを大切にしてくれるかどうか、従兄弟として見極めただけじゃないか』― ―『だからと言って、やり方は他にもあったんじゃないのか?』― ―『シュリ、僕はシュリの味方でもあるけどラナのことも愛してるんだよ。だから、いつまで経っても進展のない2人に痺れが切れたんだ』― ―『だからって、尾行してそれをグリート・ノーブルに知らせる必要がどこにある!?』― ―『シュリ、ダメだよそんなことじゃ』― ―『なにが!?』― ―『今のうちからちゃんと『お義兄さん』って呼ぶ練習しとかないと』― ―『!?』― ―『それともキミ、ラナを他の男の花嫁にしても平気なわけ?』― ―『な、花嫁って…まだ俺達は』― ―『……シュリ、本気で『俺達にはまだ早い』とか言うつもりじゃないよね?そんな台詞、口にしてごらん、即刻エッジに舞い戻ってその舌、引っこ抜くよ?』― ―『……』― ―『ちゃんとラナを幸せにしてくれないと、サクッと後ろから刺しちゃうからね、冗談じゃなく本当に』― ―『試してみる?』― WROの男子寮の一室で、そんな恐ろしいやり取りが携帯という便利な通信機器を通じて行われていたことを知る者は誰もいない。 そしてその翌日から、WRO一の出世頭が1人の女性隊員に何やら必死になって話しかけようとする姿がちらほら見られるようになったとかなんとか…。 |