彼女はいつも、大事な作戦の前に夢を見る。
 それは、幼い頃の夢。
 現在(いま)とは違い、暖かな時を穏やかに送っていた、とても幸せに満ちていたあの頃を。

 夢はいつも同じ。
 彼女は父親の目を盗んで隣家に住む少年の待つ場所へ肌寒い星空の下を駆けていく。
 金髪・碧眼のとても整った顔立ちの少年に、彼女は淡い恋心を抱いていた。
 彼女の故郷には、金髪・碧眼の人間は少年と少年の母親以外いなかった。
 だから、宵闇の中でも輝くその金糸の髪を持つ彼を間違うことは絶対になかった。

『ごめんね、お待たせ』
『いや、そんなに待ってないから…でも、大丈夫か?父さんにバレてない?』
『へへ。大丈夫!!ちゃんと誤魔化せたよ』

 得意げに笑うと、少年は微かに頬を緩めて彼女のために場所を譲る。
 狭い給水塔に2人、身体を寄せ合って星空を見上げる。
 ドキドキと心臓が高鳴り、幼い恋心をイヤでも意識させた。
 先ほどまで肌寒かったというのに、あっという間に全身がポッ…と温かくなる…。

『寒くないか?』
『ううん、平気』

 そう応えると、少年は『そっか…』と呟いてまた目を空へ向ける。
 少年に倣い、彼女も少年の横顔から視線を引き剥がして空へと放った。
 そうして、彼女はその次に続く場面を少しでも遅らせたい…と切に願う。
 結末を知ってるからこそ、甘酸っぱくて大切な思い出の中をもう少しだけ、たゆたっていたいと思うのだ。
 しかし、いつもその願いは叶えられることなく、少年は記憶の通り、同じタイミングで星空を見上げたまま口を開く。

『俺、春になったらミッドガルに行く』

 彼女はズキリと痛む胸を知らず押さえ、震える声で『男の子はみんなそうやって都会に行っちゃうのよね』と、恨みがましい声で詰る。
 すると、少年は少し焦ったように彼女へ振り返るのだ。

『違う!俺は…!』

 夜気に少年の声が響き、彼は自分の声の大きさにビクッ!と身を竦ませる。
 そうして、誰も窓から顔を覗かせないことを確認してから声を抑え、真剣な顔で彼女を見つめるのだ。

『俺…英雄になって絶対に帰って来る』

 そうして、自らの左手をそっと持ち上げながら彼女の左手を空いた方の手で同じ高さへ優しく持ち上げる。
 少年の左手、薬指に巻かれている四つ葉のクローバーに、彼女はドキッ!と心臓が大きく脈打つ音を聞いた。
 そうして、鼓動は全速力で走り出す。
 少年はと言うと、ハッ!と彼女の左手を見つめ、深い息を吐いた。
 その息が少し震えているように聞こえるのは気のせいだろうか?
 視線を左手から彼女の顔へ戻した彼の顔には、自信のようなものが宿っていた。
 真摯な瞳を彼女に向ける。

『昔…、約束しただろ?』

 少年の言う『約束』に、彼女は自らの左手、薬指をチラリ、と見る。
 そこには少年と同じく、四葉のクローバーが巻かれていた。
 先ほど、父親の目を盗んで家を出るときに急いで巻いたものだ。
 幼い頃、よく少年と一緒に四葉のクローバーを探しては、戯れにこうして誓いの指輪のように巻き、結婚式の真似事をした。

 いつしかその遊びもしなくなり、少年が声をかけてくれることも減った。
 それなのに、申し合わせたように2人して同じことをしてくるとは…!
 嬉しさと感動とで彼女の胸は否が応でも高鳴った。
 少年も、自分と同じことをして会いに来た彼女に感動しているようだった。

 そうして、頬を染める彼女に少年は夜目でも分かるほど真っ赤になりながら、一生懸命言葉を紡ぐ。


『俺…絶対に約束守るから!『あんなこと』がもしまた起きても、ティファを守れるくらいに!』

『だから…』

『そしたら…その時は…』



 少年が赤い顔で真剣な眼差しをヒタ…と向ける。
 彼女…ティファもまた、うっとりと少年のみを見つめる。
 それはまさに甘美な夢の最高潮。
 しかし。
 その先を思い出すことなく身体が乗り物のブレーキを感じ取り、ティファは目を開けた。

 目的地へと到着したのだ。





Fantastic story of fantasy 1






 目を開けたティファは、それまで浅い眠りを味わっていたとは思えないほど、凛とした眼差しを前方へ注ぎながら立ち上がった。
 動きに一切、無駄はない。
 本当に浅い眠りをたゆたっていたのか疑わしいほどの身のこなしだ。

 宵闇が辺りを包む時刻であるにも関わらず、目的地は煌々と明かりを受け、その巨大なビルを漆黒の闇をキャンパスとして浮かび上がっている。

 ティファの脳裏に、たった今、見ていた夢の残滓がふと浮かぶ。
 美しい満天の星空、村にたった一つしかない給水塔、そして…甘やかな雰囲気と幼馴染の少年の夜目にも浮かぶ赤い顔。
 いずれもティファの周りにはない。
 あるのは寂寞とした感情、この場にいる仲間たちの緊張した雰囲気、あるいは殺気だった息遣い…。
 湿気を多く含んだ夜気は身体に纏わりつくようで緊張を不快感に変え、煽る。

「ティファ、おめぇ車の中で寝てるように見えたんだけど、実は寝てるんじゃなくて精神統一してたのか?」

 背後から急に声をかけられたティファは、だが全く動じることなく前を向いたまま肩を竦めた。

「昨夜は緊張してあんまり寝てなかったからついウトウトしちゃった」
「…豪胆なことだなぁ…」

 感心しているのか呆れているのか。
 ざんばらにカットした短い髪を持ち、額にゴーグルを装着している男はそう言うと、くわえタバコを指でつまみ、フゥ〜ッ…と煙を吐き出した。

「ティファが緊張して眠れない…なぁんてことがあるわけ?」

 ニッシッシ。
 そういう表現が一番似合う笑い方をしながら、男の向こう側からまだ少女と言って良い女がひょっこり顔を出した。
 短い黒髪をサラリと夜気に乗せ、額当てを装着している。
 片手には巨大手裏剣。
 一見、華奢な体躯には到底似つかわしくない武器だ。
 それを軽々まわしながら女はティファへ軽やかに歩み寄った。

「なぁなぁ、ティファ。これが終わったらお腹一杯、ティファの料理が食べたい!」
「バッカだなユフィ。そんなもん、いちいち言わなくったって決定事項に決まってんだろうが」

 へへっ、と笑いながらゴーグルの男は手にしていた槍を一振りした。
 ユフィと呼ばれた女は一瞬、ムッ、としたが、すぐに「ま、シドの言う通りだよねぇ」と後頭部で手を組んで鼻歌でも歌いだしそうな声音で頷いた。

「これが終わったら、もうこの星に脅威となる組織はなくなるわけだし、エアリスも狙われずに済むし、アタシもティファも故郷の仇討ちが出来るわけだし、イイこと尽くめってね〜。そりゃお祝いしないと!!」

 ユフィの言葉にティファの片眉がピクリ…と動く。
 しかし、誰もそれに気づかない。
 気づかないまま、シドとユフィは盛り上がる。

「こう、やっぱりなんと言ってもティファ特製のジャンボハンバーグだよね〜」
「なに言ってやがる。おめぇはやっぱりお子様だな。ぴちぴちの魚をさばいて、刺身にして、煮付ける!んでもって肉は塩焼き、タレ焼き、鍋に炭火焼だろう?野菜もちっとは食わねぇとだが、そこはおめえ、ティファに任せておけば」
「なにそのメニュー、おっさん臭い」
「なにおう?」

「おい、いい加減にしろよ、てめぇら!」

 ヒートアップしそうな2人の会話をティファが苦笑しつつどうしようかと思っていると、とうとうたまりかねたリーダーである男が声を荒げた。
 野太い男の怒鳴り声が宵闇の空気に響き渡り、その場の面々がギョッとして目をむいた。
 大声を出した当の本人もビクッと肩を竦めると、思いもしなかった自分の大声に暫し固まる。

「バレット、うっさいんだよ!」
「バレット…てめぇ、見つかったらどうすんだ!?」

 小声のユフィ、シドに凄まれ、バレットと呼ばれた浅黒い肌の巨漢の男は、バツが悪そうに数回咳払いをした後、
「お、おら、もうそろそろ行くぜ」
 シラッとした眼差しを向ける仲間たちにそそくさと背を向け、先頭に立って歩き出した。

 その背中に、赤いマントを風に軽くたなびかせた長身の男が、
「おい、そっちじゃない、こっちだ」
 と、無愛想とも言える口調で呼びかけ、バレットがあまりの格好悪さに固まっているのを尻目にさっさと正しいルートへ足を踏み出し、進み始めた。

 ユフィとシド、その他、黙ってその場にいた面々はめいめい溜め息をついたり、緊張した面持ちでむっつり黙り込んだまま長身の男の後に続く。
 バレットは「ぐぎぎ…」と、なんとも形容しがたい歯軋りの音を立てると、
「ちょ、ちょっと待て、ヴィンセント!」
 恥ずかしさからだろうか、必要以上にドスドス足を鳴らしながら後を追った。

 ティファもまた、それらを見届けるような形になりながら大きく深呼吸すると、仲間たちの後へ続いた。
 緊張感のカケラもないやり取りの直後だが、一瞬にして張り詰めた緊張感が戻ってきた。
 しかし、ユフィとシドのお陰で肩から余分な力が抜けたことをティファは感じている。
 シドもユフィもバカではない。
 むしろ有能だ。
 仲間たちの凝り固まった身体から余分な力を抜けさせることに見事成功している。
 きっと、この程よい緊張感を保てていければ、作戦は成功するはずだ。


 誘拐された仲間を助け出し、巨大組織『神羅』のトップの暗殺。


 それが、今回の目的だった。
 巨大組織のトップをこの手にかける。
 命からがら、たった1人で燃えさかる故郷から逃げ落ちたあの日から、ティファは復讐心を糧に生きていた。
 故郷を…、家族を…、同郷の民を失ったのは15歳だった。
 そして、この『反・神羅組織:アバランチ』へ身を投じて早5年。
 幼い頃に師事したザンガン流格闘術を完璧にマスターしていなければ、恐らく5年前、ティファは家族と共に故郷で灰になっていただろうし、『反・神羅組織:アバランチ』へ身を投じ、今日まで生きながらえることは不可能だったはずだ。
 まさに激動と苦難の道のりとなった5年の歳月はティファを強く、美しく成長させた。
 しかし、ティファは今の自分を悲観していない。
 自分よりも酷い目にあった者は沢山いる。
 志半ばで斃れた仲間も多い。
 目の前で、復讐を遂げられなかった無念の涙を流しながら悶絶しつつ、死んでいった者を幾人も見送った。
 遠い遠い過去、輝かしい未来を信じていたあの幼い頃と今のこのギャップを悲嘆するなど、全くもって時間の無駄。
 人生の浪費だ。
 そんな暇があるなら、少しでも強く、少しでも仇の首に手が届くように己を鍛え、同じ使命に燃えている仲間たちのために出来ることをするべきだ…と、ティファは無意識に己を戒めていた。

 ふと視線を上げる。
 煌々と輝く神羅ビルに、怒りとも憎しみとも言えるドス黒い感情が胸を圧迫した。
 しかし、さらにその後方でもある宵空へ目を向ける。
 厚い雲に覆われているためか…それともビルを照らす明かりのためなのか、いや、その両方だろう…。
 星は全く見えなかった。

(星……見たかったな…)

 郷愁にも似た感情がツ…と胸を刺す。
 それをティファは微かな苦笑と共に打ち消した。
 もしかしたら今夜が人生の終わりのときかもしれない。
 その可能性にふと気づいたせいで、そんなくだらない感傷に見舞われたのだろう。

「ティファ、なにぼんやりしてるのさ」

 視線を戻す。
 ユフィ・キサラギが訝しげな顔で左隣を歩いていた。
 妹のようなユフィにティファは微笑んで見せると「なんでもない」と軽く首を振った。
 ユフィは胡散臭げな顔をしてまるで信じていない。

「やっぱさぁ、ティファもエアリスと一緒に残ってた方が良かったんじゃない?なんか、ちょっと体の調子悪そうだし」
「冗談言わないで。ようやっとこの5年の想いが叶えられるっていうのに」

 ユフィへしかめっ面を見せる。
 少女は「ん〜…そりゃまぁ、そうなんだけどさぁ…」と、口の中でなにやらモゴモゴ呟きながら、心配そうな色を目に浮かべた。

「もぉ、しつこいわよユフィ。ここまで来たのに帰れるわけないでしょ?」
「ん〜…そうだけど…」
「あんまりそんなわけの分からないこと言うなら、ユフィこそ帰らせるわよ?ユフィはエアリスと同じで家族が生きてるんだから」

 歩みを止めず、少し強めの口調でそう言うと、少女は困ったように眉尻を下げた。

「うちのオヤジはアタシが神羅を討つその引き換えになんかあったって困ったりしないって。その点はエアリスのとこのママさんとは違うの。でもさぁ、そうじゃなくて、そんなん関係ないじゃん、家族がいるとかいないとかさぁ?アタシは誰も犠牲になってほしくないんだけなんだ」
「はいはい。私も誰も犠牲になんかなって欲しくないし、自分が犠牲になるつもりもないの。そこのところ、間違えないでねユフィ」

 困ったような顔をしながらも、真っ直ぐ目を向ける少女にティファはわざとおどけて肩を竦めた。
 そうして、
「遅いと置いてくわよ〜?」
 そう言い残し、足を速めて他の仲間の背を追った。
 これ以上、少女にかまっていると本当に調子がいまいちなことがバレてしまう危険を感じたからだ。

(ここまできて…絶対に諦められるもんですか…)

 ティファは気だるさを吹き飛ばすように己を鼓舞した。
 幸い、ティファの不調に気づいたのはユフィだけのようだ。
 もしも、バレットに勘付かれたらティファは強制的にアジトへ送り返されていただろう。

 一行はひたすら巨大なビル目指して宵闇の中を進んだ。
 先頭には赤いマントを羽織ったヴィンセント。
 続いて巨漢のバレットにシド。
 その後をアバランチ創設後からのメンバーが3名、重苦しい緊張を抱えて進んでいる。
 ユフィは気がつけばバレットのすぐ後ろ、またある時はティファの後方へと立ち位置を入れ替え立ち代りつつ、辺りを警戒していた。
 巨大なビルの周りにある背の低いビルや店舗の壁の陰に隠れながら、一行は慎重、且つ迅速に行動した。

「へへ、今夜は新月…とは言え、おあつらえ向きに雲が星を覆い隠してくれてるからやりやすいぜ」

 満足そうなバレットの呟きが夜風に乗ってティファの耳に届く。
 巨大な敵の本拠地に近づくにつれ、ビルが光っているのではなく、ビルの周りに設置されている巨大な照明がビルを照らしているのだと分かった。
 無論、その程度のことは前もって調べ済みだが、改めてこうして目にするのとはまた違う。
 敵の巨大さを思わずにはいられない。

 ティファはグッ…と拳を握ると、萎えそうになる気持ちを奮い立たせた。

「ここからはむき出しの状態になる」

 ヴィンセントが建物の陰に隠れたまま、メンバーを振り返った。
 彼の言う通り、ここまではなんとかまばらとは言え建物が立っていたお陰で、隠れながら進むことが出来た。
 しかし、その建物も今、ティファたちが隠れているものを最後にだだっ広い空間が広がっている。
 ヘリポートも兼ねているのだろう。
 余分な建物は一切ない。
 サーチライトが広大なグラウンドを行き交うのがイヤでも目に付いた。
 すぐに発見されてしまうのがオチだ。

「あそこに裏口がある。我々はあそこから侵入する。今から丁度3分後から30分間、裏口の階段の監視カメラが作動しなくなる」

 ヴィンセントが指差す方を見る。
 目標地点までゆうに100メートルはあるだろうか。
 神羅ビルの表玄関の丁度真後ろに当たる部分に、小さな点のような入り口が見えた。
 バレットが呻く。

「おいおい、こんなに広いのかよ!?」
「説明したはずだが?」
「いや、そりゃそうだけどよ、あんなところまでどうやって行くっつうんだ?」
「走るに決まっているだろう?他にどうしろと?」
「げげっ」

 顔を引き攣らせたバレットに、ヴィンセントは全くの無表情で淡々と言った。

「では、全員、今から…2分半後に備えて心の準備をしておくことだ」
「…お前、本当にその…マジで信用して良いんだろうな?!」
「私のことをか?」
「違うっつうの!お前が元・タークスで、神羅を憎んで離脱したことはもう信じてる!そうじゃなく、今も神羅の幹部でいながらでお前と通じているっていう、内通者のことだ!」
「勿論だ」
「なら、そいつの名前を教えてくれてもいいだろうが!?」
「何度も言っている。下手に情報を知っている状態で捕虜になったら、酷い拷問を受けた挙句、待っているのはアバランチという組織に連なる者の全ての抹殺と拷問死だけだ」
「ご、拷問くらいで口を割るような腰抜けは1人もいやしねぇ!」
「では、例えばバレット、お前はマリンを人質に取られてもシラを切り通す自信があるのか?」
「う……」

 情けなさそうにうな垂れかけたバレットにヴィンセントはこれまた淡々と言葉を紡ぐ。

「ないだろう?『ある』と言い切られても私的(わたしてき)には困る。そんな非道な人間が神羅組織を潰してくれたとしても、今度はその人間が神羅に取って代わって星の脅威になるに決まっているからな」
「………」

 どことなく救われたような…ホッとした顔でバレットはヴィンセントを見たが、男は腕時計に目を落とした。

「と、こんなことを言っている間に残り1分だ」
「う…でもよぉ。やっぱり神羅の隊服かなんかを事前に入手してた方が良くなかったか?」

 今となっては手遅れの悪あがきを口にするバレットに、ユフィが思わず眦を吊り上げて口を開いた。
 が、それを制するようなタイミングでヴィンセントが呆れたように「やれやれ」と首を振った。

「自分のサイズを良く考えろ。神羅の隊服が手に入ったとしても、お前に合うサイズはない」
「うぐっ」
「仮に、神羅の隊服に似せて作ったとしても、お前のような巨漢の神羅兵は存在しない。不自然すぎてあっという間に見つかるのがオチだ」
「うぐぐっ」
「心配するな。外を警戒しているサーチライトも今からきっかり…そうだな、30秒後からは表玄関にしか向かないようになっている」
「ほ、本当かよ、その情報!?」
「ならお前はやめておくか?言っておくが、こんな無駄話をしているだけで時間は…あと10、9、8…」
「う、うがっ!行く、行くって、行ってやるぜ!」

 効果的に腕時計を見ながら話を進めるヴィンセントにまんまと乗せられたバレットは、とうとう秒読みを始めた赤いマントの仲間に慌てふためきつつ一同を振り返った。


「てめぇら、行くぜ!!」


 そうして、掛け声も勇ましく、いの一番にむき出しの危険地帯へと身を躍らせた。
 その後をヴィンセント、ユフィ、シド、そしてアバランチのメンバーが続く。
 ティファも鋭い眼差しを前方へ投げながら駆け出した。
 黒い髪を夜風になびかせ、ティファは疾走する。
 ドクドクと心臓が熱い血潮を全身へ送る。
 まるで耳元で脈打つかのような己の鼓動音にティファは暗い興奮を滾らせた。


(絶対に……絶対に今夜!終わらせて見せる!!)


 ティファの決意を後押しするように、一陣の風が背後から吹き抜けた…。


 そうして…。


 ティファたちは全員、ヴィンセントの言った通り、サーチライトや監視カメラに見つかることなく神羅ビルの階段を上り終えた。
 実に67階もの階段を上ったわけだ、たった30分で。

 流石に体力に自信のあるティファも肩で息を繰り返す。
 バレットにいたっては全身で荒い息を繰り返しつつなんとか倒れずに済んでいる状態だ。

「さ、さすがに……ちょっと効いたね〜、こりゃ」

 膝に両手を突っ張りながらユフィが苦笑する。
 息が上がっていながら、軽口を口にする辺り、彼女らしい。

「本当に〜…。あぁ、もうこんなことなら…普段から、もっと身体を鍛えておくんだったわ〜。機械がお友達な私にとっては…ちょっと…う・か・つ」

 ポニーテールに髪を結い上げている女性が苦笑しつつユフィの隣で額の汗を拭う。
 アバランチの女性メンバー、ジェシーという。
 女性でありながら、機械のスペシャリストだ。

「にしても…独房がある階って、本当にここでいいのか、ヴィンセントの旦那」
「ビッグス…、ま〜だ疑ってるっすか?」
「…うるせ〜よウェッジ、もう疑ってねぇ…が…、ちと…疲れたから、もう階段は…暫くご免したいだけだ…」

 ビッグスと呼ばれた男は中肉中背、顎に少しヒゲを生やしたアバランチメンバーである。
 対して、ウェッジと呼ばれた男はアバランチとして活動するには少々不向きな体系と言えるかもしれない突き出た腹を持っていた。
 しかし、67階まで30分で上がることができたのだから、体力はあるようだ。

 ヴィンセントは軽く息を整えた後は涼やかな顔だ。
 辺りを警戒しながら仲間たちが息を整えるのを待っていた。


「ここからが正念場だ」

 ようやっとバレットがしゃべれるまで回復すると、ヴィンセントは一同を見渡した。
 銃をホルスターから引き抜き、辺りを警戒したまま口を開く。

「ここから先、ナナキの捕まっている独房までは警戒網が非常に濃い。恐らく、『死神』が放たれているはずだ」

 ヴィンセント『死神』という言葉に緊張が走った。

 死神。

 神羅組織が独自に有している”ソルジャー”という兵士の中でも格段にレベルの高い兵士。
 その中でもトップを争うのが”死神”と称される黒いソルジャーだ。

 そのものの姿を目にしたら最後、生きて逃れることは絶対に出来ないという…。

 アバランチのみならず、世界に名を連ねていた『反・神羅組織』はことごとく、この”死神”と称されるソルジャーによって葬られたという…。


「へ!もしもその”死神”とやらと遭遇したら、そいつらも今日で最後よ。この俺様の相棒でぶっ飛ばしてやるぜ」

 バレットは義手を叩きながら息巻いたが、ヴィンセントの冷ややかな眼差しを前に音を立てるように小さくなった。

「わ〜ってるって…無茶はしねぇ」
「当然だ」

 極めて冷たい声音でヴィンセントはそう返すと、一同を振り返った。

「では、行くぞ」

 全員、無言のまま頷いた。
 ティファも強い眼差しでヴィンセントへ頷き返す。
 バレットと同じように、もしも”死神”と呼ばれるソルジャーと遭遇することになれば、絶対に逃がしはしない、と心に固く誓いながら…。






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